長耳転生 異世界行ったらシたい事全部する   作:瑠韋

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救出作戦(後編②)

ここへ辿りついたのは四階層に着いてから大体一ヶ月がたった頃だ。

第六階層はイートデビルがやたらと多かった。

アーマードウォリアーは姿を消して、イートデビルのみとなったのだ。

アレクも同じ魔物ばかり倒して飽きたのか途中から俺に魔法で一気に片付けて欲しいとお願いしてきた。強者から頼られるのは嫌ではないので俺は進路方向に巨大な風魔術を使ってイートデビルを殲滅させた。

最奥付近の部屋に入ると黒く、粘液にまみれた横長の卵が至る所にあった。

これが第六階層でイートデビルが多い原因だ。最奥の部屋の手前で巣を作っていたのだ。

帰る際にイートデビルが孵化して戦うのも面倒なので、使役していたイートデビルに卵の除去を頼んだ。

頼んだ自分が言うのもあれだが、イートデビルがイートデビルの卵を潰しているのはなんとも言えない気持ちになる。迷宮内の魔物達はきっと生きていくのに必死なのだろう。突然わけも分からない冒険者達に蹂躙されることになるなんて思ってもないだろう。

そう思うと涙が出て来た。

そんなわけはなく、イートデビルの卵は黒くて素早いあいつの卵にそっくりで、見ていると寒気がする。

Gはどうしても受け付けないのだ。

 

 

 

 

──────

 

 

 

最奥の部屋に着いた。

そこは、広い部屋であった。

石造りの部屋。

正方形で、入り口に面していない壁の付近にそれぞれ一つずつ魔法陣がある。

しかし、その異様さは入った瞬間から感じ取れた。

 

ここには、魔法陣以外、何も存在しなかった。

この部屋の直前には、大量のイートデビルが存在した。

100を超えるのではないかと思えるイートデビルと、その卵があった。

というのに、ここには、魔法陣だけなのだ。

まるで聖域でもあるかのように守られていたのだ。

 

「守護者《ガーディアン》前ですね」

 

アレクが笑みを浮かべながら言った。

今にも目の前にある三つの魔法陣のどれかに飛び込みそうな雰囲気だ。

ただ、ここまで来れば後は知識でいける。

やはり印象的な場面は覚えているものだ。

俺は部屋の中央付近にきてポチを召喚した。

 

「この辺りで空洞部分を探せ」

 

コウモリのような魔物を持っていればそいつを使っていたのだが、もっていないのでここはポチに探してもらう。

数分後、ポチは少し進んだところで止まった。

俺は地面に向かって岩砲弾をぶっぱなした。

威力を込めすぎたせいで放った岩砲弾が下の地面に刺さっていたが、下に降りるには問題ないだろう。

 

「入口がどこにあるか分かっていたんですね」

 

「えぇ、下に行く道だけは知っていたもので」

 

俺たちはそのまま下に降りるとそこには赤い魔法陣があった。今まではずっと青白い色を放っていた転移魔法陣が、赤色だった。

触れるなキケンだ。

 

「この先にいますね」

 

アレクの声はさっきよりも声高だった。

 

「この先に第二次人魔大戦で絶滅されたとされているマナタイトヒュドラがいます。魔術が効かないので俺は防衛に徹することが多くなります。アレクにはヒュドラの首を刈り取って欲しいです。」

 

転移魔法陣に入る前に作戦会議をする。

俺は淡々と大事な情報を伝え、アレクはしっかりと話を聞いていた。

分からない箇所は質問してきたので分かる範囲で答えた。

 

「では、行きましょう」

 

 

 

─────

 

 

魔法陣を抜けた先は、凄まじく広い空間だった。

一言で言えば、荘厳、だろうか。

 

長方形にかたちどられた、野球場ぐらいの広さを持つ宮殿の広間。

部屋の隅には何本もの太い柱が立っている。

天井は見上げるほどに高い。

地面はタイルのようになっており、一つ一つに複雑な文様をしたレリーフが刻まれている。

こういうファンタジーの空間にきたのは初めてなので少したじろぐ。

 

目の前には九本の首を持つ巨大なドラゴン。

そして、ヒュドラの奥。

ヒュドラが守っている部屋の最奥。

 

その中に1つ大きな緑色の魔力結晶があった。

人らしき人物が魔力結晶内にいる。

きっとゼニスなのだろう。

こんな迷宮の魔力結晶の中に転移されるなんて運が悪いとしか言いようがない。

もしくはこういう運命なのかもしれない。

 

「これは…ベヒーモスの何倍もワクワクしますね…」

 

隣にいたアレクが震えていた。

武者震いっていうやつか。

この四ヶ月間ほとんど寝食を共にしてきたから分かる。

アレクの目が今一番輝いている。

 

「覚悟おおおおぉぉ!!」

 

アレクが目にも止まらぬ速さでヒュドラに突っ込んでいった。ヒュドラは首を蛇のように動かし、アレクを迎え撃つ。

 

「せいっっ!!」

 

ヒュドラの首が届かない高さまで高く飛び上がり、アレクを追って伸ばした三本の首をアレクは落下しながら切り刻んでいき、あっという間に三本の首を刈り取った。

 

「ロイ君!!」

 

あまりにも鮮やかな景色で映画のワンシーンかと思い、見とれてしまった。

だが、その遅れのせいで気づけば刈り取った三本の首が既に再生しきっていた。

遠くから首の根本を狙ったが、ヒィィィィン!というガラスを引っかくような耳障りな音が響いた。

あれこそが吸魔石によるものだろう。遠くから魔法を撃っても防がれるので、接近して魔術を放つしかないだろう。

 

「すみません!もう一度お願いします!」

 

二度目のミスは許されないだろう。

そう自分に言い聞かせて、目の前の敵に集中した。

俺はもうただの傍観者じゃない。

読んでいた世界が今の現実だ。

 

「シャアアァァァ!」

 

アレクが地面に着地すると四方八方からヒュドラの首が伸びてきてアレクを囲む。

 

「とうっ!!」

 

しかし、アレクはバク宙をしながらヒュドラの攻撃を躱す。

アレクのアクロバティックな動きには常々驚かされる。

アレクがヒュドラの攻撃範囲から出るとドラゴンが体を直立させ、大きく息を吸い込んだ。

 

「…っ!アレク!ブレスが来ます!俺のところに来て下さい!」

 

アレクは普通に走るのと同じスピードぐらいでバックステップをし、俺の方へ近ずいた。

 

アレクがこちらへ来たことを確認してから俺は水の壁を創り出した。

とびきり分厚いのを。

ほぼ同時に、ヒュドラが吐いた。

三つの首から、凄まじい量の火炎ブレスが降り注ぎ、水壁にぶち当たる。

凄まじい湯気が発生し、室内の温度がぐんと上昇した。

(ルーデウスチート過ぎるだろ…)

俺はこの世界の知識があるからこそ、ここまで対策が出来ているが、あいつは初見でここまでやってきて同じことをこなしている。

如何にルーデウスがぶっ壊れなのかが分かる。

ブレスを吐き終わるとクールタイムのようなものなのか、少しヒュドラの攻撃がおさまった。

ここを好機と感じ取った俺たちはすぐさまヒュドラに向かっていった。

 

「ロイ君いきますよっ!!」

 

アレクはカジャクトの力を使いながら縦横無尽に駆け回る。

あっという間に四本の首を切り取った。

俺は先刻と同じ失敗をしないようアレクの後ろについていきながら首を焼いていった。

三本目の首を焼き終わった頃、ヒュドラはこれまで攻撃先がアレクだったのを俺の方へ変えてきた。面倒な方から倒したいのは魔物でも同じか。

一本の首が俺の方目掛けて飛んでくる。

 

「『流』!」

 

この旅の間、密かに練習してきた水神流の基本にして最強の技。

『流』だけならもしかしたら水聖ぐらいの実力があるかもしれない。

身体に染み込ませた型で綺麗に攻撃を躱す。

躱しきった首は無防備でパウロの剣で一閃。

首を一本刈り取った。

そして、すぐさま火魔術で焼く。

さっきアレクが斬ったが、焼き損ねた一本の首は既に再生されており、今ヒュドラには五つの頭が残っている。

俺は少し体力を消耗したが、アレクはまだピンピンだ。

アレクならきっと五本ぐらい一気に斬れると思うが、俺の焼く作業と頭が再生する速度が間に合っていない。

地道だが、2本ずつ丁寧に対処していこう。

 

「アレク!二本ずつ確実に殺しましょう!」

 

俺がそう言うと、アレクは頷き、またヒュドラへ向かっていった。

一本斬っては焼き、もう一本斬っては焼く。

残り三本となった時、ヒュドラは焼かれた傷跡部分を自分で喰いちぎった。

喰いちぎった部分から生々しい首の断面が出てきたと思えば、そこから新しい頭が生えてきた。

これで元気百倍になったらたまったもんじゃない

。俺とアレクはすぐさま再生した首をもう一度斬って焼いた。

 

「少しだけ荒っぽいことしますが、ロイ君の仕事はそのままで大丈夫ですよ」

 

そう言うとアレクは空中を駆け上がり、ある程度上がったところで立ち止まり、剣を両手に構えた。当然ヒュドラはそれを追いかける。その間、アレクは大きく息を吸い込んだ。

三本の首から生える頭がアレクを噛み砕こうとした。

 

「はああぁぁっっ!!」

 

アレクは襲ってきたヒュドラの頭の一つに着地し、三本のヒュドラの頭は空気を噛むことになる。

アレクはその間に三本の頭を刈り取った。

だが、今回はそれだけでは無い。

そのまま剣を下に振り下ろしていき、頭が残っている二本の首側と、首の残っていない七本の首側でヒュドラの胴体を真っ二つに分けたのだ。

俺はすぐさま首の残っていない側のまだ焼いていない首の部分を焼くことに徹した。

(胴体を真っ二つになんてありえない…)

最後の首を焼き終えた頃、ヒュドラの攻撃パターンが突然変わった。

頭がない側の首を全て使い、バラ鞭のように振り回した。

あまりにも動きが大きく、対応するのがやや遅れて、右の肘から下が吹っ飛んだ。

後少しでも回避するのが遅かったら、上半身と下半身はしっかりくっついていないだろう。戦闘中のアドレナリンのおかげか、今はまだ痛みをあまり感じていなく冷静である。

そして、左利きだから魔術も不自由なく使える。

 

「アレク!残りの頭も頼む!!」

 

「もちろん!」

 

アレクも体や顔の至る所に切り傷がついており、この戦いが余裕では無いのが伺える。

アレクは自身の身体をふわりと浮かせ、残る二つの頭に突っ込んでいった。

俺もアレクの後ろに続く。

二つの頭は浮いたアレクを追うのに、右へ左へ動かす。

そして、ヒュドラの首が右往左往して出来た隙にヒュドラの頭を一つ打ち落とす。

俺はすかさず頭の失った首を火魔術で焼き尽くす。

残すは後一つ。

 

「我が名は『北神』アレクサンダー・カールマン・ライバック!お前を倒して英雄になる男だ!」

 

唯一頭の残っているヒュドラと同じ目線にいるアレクが声高らかに言った。

 

ヒュドラは目の前にいるアレクを噛もうと首を伸ばすが、アレクは急降下し、ヒュドラはガチンッという牙同士の噛む音しか鳴らない。アレクは地面に着地した反動で急上昇し首を切り落とした。

 

「ロイ君!任せましたよ!」

 

「『火炎放射《フレイムスロワー》』!」

俺は今までで一番魔力を込めた火魔術をぶつけた。

 

最後の首は、黒焦げになって落ちた。

ヒュドラの巨体が轟音をたてて、崩れるようにして倒れる。

土煙を上げて、首の無い死体が、ビクビクと痙攣しながら、地面に横たわった。

その体から生命が消失していくのを感じられる。

再生はない。

最後の首は不死身ではなかったのだ。

こうして前人未到の転移迷宮クリアをたった二人で成し遂げたのだった。




更新頻度少し落ちるかもです。
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