DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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この小説を書いたのは、もう19年も前になります。
読み返してみると『ん?』と云う箇所もありましたが、そんなに大幅な変更はせず、ホームページに掲載していた当時のものを投稿します。誤字脱字などは直しておきました。全部で43~44話くらいです。早いペースで投稿していきます。まずは第一話からどうぞ!


第一話 ジパングの姉妹

 ズシン、ズシン…。

 

 地底洞窟のさらに奥深くから響く巨大な歩みの音を少女は大きな酒つぼの中で息を潜めていた。だがその目には恐怖は無い。闘志がみなぎる意志の強い瞳である。徐々に足音は震動となり、酒つぼが揺れ始める。

 

 赤い兜に真っ白な羽を左右につけ、中心の宝玉が薄暗い光をも反射させてキラリと光る。女性ながら身長は六尺を越え、筋骨隆々な体躯をした戦士の女。その女が仲間と共に酒つぼを物陰から見守り、隣にいる若者に小声で話す。

「斬り込みましょう」

「まだだ」

 

 真っ黒な長い髪を後ろで束ね、道着の胸元は大胸筋では膨れ上がり、腕は年輪を刻んだ大木のように太く逞しい。武闘家の男は戦士の女に同意して若者に突撃を促す。

「そろそろ行かねえとヤバいぜ」

「まだまだ」

 若者は短く答える。

 

 精悍な顔つき、髪は黒く緑色のバンダナを巻き、体躯は俊敏さとチカラ強さが同居しているのを思わせる盗賊の男。物陰から足音と震動の主を見上げ苦笑した。

「なるほど…。聞きしに勝る化け物だ…」

 そして彼の足は若者の合図に備え、瞬時に飛び出せるよう跳躍に備えていた。

 

 若者は冷静に『化け物』と酒つぼを見つめていた。頭には歴戦を潜り抜けてきたと思われるサークレットをかぶり、その中心には青い宝玉が光る。瞳は勇者である父親譲りの強い意思が宿り、水色のマントが熱風でそよぐ。

 若者の左にいた戦士の女は、ついに焦れて剣を抜くが、若者は女の肩を押さえた。

「もう限界よ! 斬り込むわよ!!」

「待て…そろそろ彼女が動く…」

「見ろ! 酒つぼが!」

 武闘家の男が酒つぼを指した。

 

 化け物が酒つぼの間近に来たその瞬間、酒つぼにヒビが入り始めた。そして中からは彼女特有の気合の声が聞こえる。

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!」

 

 バアアアンッ! 酒つぼが爆発したかのように弾け飛ぶ!

 

「うなれ真空! バギマ!!」

 

 ザザザザザザッッ!!

 

 ボトリ、ボトリ、ボトリ! 化け物の首は八本。その首のうち、三本が地へ落ちた。化け物の激痛に悶える叫びが洞窟にこだまする。

 

「行くぞ!!」

 物陰に待機していた彼女の仲間たちが一斉に飛び出した。それと同時に酒つぼの中にいた少女は名乗りを挙げた。

 

「我こそは僧侶いろは! ジパング女王、ひみこの妹なり! 我が姉を害し、我が姉に化け名を汚すモノノケよ。我らが天に代わりそなたを討つ! ヤマタのオロチ! 覚悟なさい!!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ジパング。東の果ての島国と称され、そこに住んでいる者たちも他国から見て風変わりである。

 礼儀を重んじ先祖から伝われる技術や文化は独特であり、中でも刀鍛冶の技術は世界に並ぶものがなかったと云われている。後年、あの勇者ロトの剣『王者の剣』を作ったのがジパング出身の鍛冶職人であることが、それを雄弁に語っている。

 

 そして何より、ジパングは平和であった。ジパングの州の東方に位置するムサシノに都を構え平和に治世を行っていた。

 魔王バラモスが世界の覇権をもくろみ、それを討伐せんと南国のアリアハンから勇者オルテガが旅立ったと云う話は伝え聞いてはいたものの、彼らにとっては遠い世界の話だった。人々は国王の慈愛あふれる統治の元に平和に、幸せに暮らしていた。

 

 その勇者オルテガが旅立つ二年ほど前、ジパングの神殿にて双子の女の子が誕生した。

 姉の名は『ひみこ』妹の名は『いろは』と名づけられ、両親と家来たち、領民の愛情を一身に受けスクスクと育っていった。

 

 姉のひみこはおてんば気質で、剣術や舞踊を得意とし、また仙術(他国では魔法と呼ばれている)にも長けていた。一方、妹のいろはは剣術も舞踊も仙術も苦手だった。

 舞踊と仙術はジパングの女性の嗜みであり、学問所では悪童から『姉と似ているのは顔だけだ』と陰口を叩かれ泣いた事もあった。

 しかしそのたびに、ひみこはその悪童に仕返しをした。妹を苛めるものをひみこは許さなかった。

 だが、いろはは成長するにつれ、他人が及ばないものを身に付けていった。知識である。他国の言葉も理解し、算術や医術、薬草、鍼灸術も習得した。

 

 

 時は流れ、ひみこ、いろはが十五歳になったとき、ひみこは病に倒れた父親より王位を受け女王となった。いろはは宰相となった。女王ひみこの右腕となり、国の内政を取り仕切るのが仕事である。

 いろはは女王の右腕と云う仕事に生きがいを見出し、生涯を姉に捧げることを誓った。

 

 ある春の日、いろはは馬に乗り、領民たちの水田を見て回っていた。この地域は川まで遠く荒地であったが、いろはが治水工事によって、川の支流を増やし開墾して水田地域にしたのである。

 そしてそれを惜しげもなく貧しい領民に与えた。そのせいか、彼女はこの地域では絶大な人気者であった。稲を植えていた老若男女、一時作業を止めて、いろはへ頭を下げていた。

 

「私にかまわずに続けて下さい」

 いろはは領民たちに手を振りながら応える。

「いや~、いろは様は相変わらずの人気ですな。このサスケめのことなんて眼中にないみたいですよ」.

 いろはの馬の手綱を取っている従者サスケは苦笑いをしている。サスケは年の頃は三十代前半でジパング随一の刀鍛冶職人であるが、平和のために頼まれる仕事も農耕具や荷台の車輪ばかりで、刀を造る機会に恵まれないために今は一時休業をして、いろはに仕えているのである。

 

「見てください。いろは様。あの木陰でいびきをかいているじいさんを。百姓が木陰でいびきをかいて眠れると云う事は政治が上手く云っている証拠ですよ」

 サスケの指す光景を見ていろはは微笑んだ。

「そうですね。姉上の、いえ女王の仁成のたまものです。いつまでもこの平和が続けば良いのですが…」

「続きますとも」

 

 いびきをかいているじいさんの前を通過してしばらくすると、いろは主従を呼ぶ声がした。

「いろは様―! ウチこれから昼食なのですが、ご一緒しませんか。握り飯で良ければ、たらふくご馳走しますよ!」

 いろはとサスケは目を合わせ、そして微笑んだ。

「ええ、喜んでご馳走になります」

 馬を下りると、呼びに来た男が手綱を取り、馬に飼葉と水を与えた。そして、いろはとサスケは弁当を囲む家族の輪の中に入り、握り飯とお茶をいただいた。農民たちも気さくに いろはと話す。

 これも荒れ地を水田地域に仕上げた彼女の人徳であろう。サスケはそんな若き主人を誇りと言わんばかりに見つめ、握り飯の具である梅干の酸っぱさに悶えた。サスケは梅干が苦手なのだ。

 

 

「おや、いろは、どうしたのです? ほっぺにお弁当がついていますよ」

「は?」

 いろはの頬にはさきほど食べたお握りの粒がついていた。しかも二粒。いろはの後ろに控えて、ひみこに礼を執っているサスケは笑いをこらえていた。

「もう! 教えてくれないなんてサスケの意地悪!」

 二人は水田地域の視察結果をひみこに報告するために神殿の女王の間に来ていた。いろはは米粒を取り口の中に入れた。ひみこは袖で口を隠してクスクスと笑っている。

「報告を受けずとも、その頬に付いたお弁当で分かります。水田の実りは期待して良さそうですね」

「はい、今年も豊作と相成りましょう」

「それは朗報、しかし悪い知らせも入ってきています」

「悪い知らせ…?」

 

 ひみこはいろはの前に数通の報告書を出した。いずれも海に面した地域からの報告である。

 いろはは書を手に取り読んだ。だがいずれも同様な文面であった。

「漁船が四隻も…しかも一日で?」

「ええ、昨日一日で四隻もの漁船が海に沈んでしまったのです。生き残ったものは二十二人中、わずか五名。救出され今は介護所で休んでいるそうですが、恐怖にうなされ気になる寝言を共通して言っているそうです」

「気になる寝言?」

「八つの首の竜…」




改めて小説文を改定したところ、結構誤字脱字ありました。
当時の読者さんたちは、それをスルーして読んでくれたんだなと思うと、何やら胸が温かくなります。
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