DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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第十話 魔法使いマリス

 カンダタを完全に治療したいろは一行は、彼らから熱烈な歓迎を受け、その夜は宴会となった。マリスやカンタダ、そして子分たちにとってこんなに美味い酒は久しぶりだった。

 

 この時、カンダタはブルーオーブの事とは別に、いろはに礼をしたいから何でも言ってくれと要望した。すると、いろはは一つだけカンダタに要求した。

「義賊と言っても盗みであることは変わりません。貧しい者が一時のゴールドを得て幸せになる事もございましょうが、盗まれた側には損害の大小に関わらず不幸となった人がいるでしょう。ですから一つだけお願いします。もう他人の物を盗むことはやめてください。あなたほどの人物なら盗みなどしなくても道はあるはずです」

 一瞬、カンダタは戸惑ったが、彼はそれを快諾した。

 

 そして、いろは一行はイシスのピラミッドに向かうことを決めた。オーブがあるかどうかは不明だが、盗賊間の中でピラミッドの中に膨大な宝が眠っていると云う話は有名だからだ。もしかするとその中にオーブがあるかも、と云うことをカンダタに聞いたからだ。

 

 

 翌日、一行はカンダタの部屋に行きイシスに旅立つことを告げた。その時、彼の部屋にはカンダタとマリスしかおらず、子分たちの姿が無かった。不審に思ったアレルが訊ねた。

「カンダタ、アンタの子分は?」

「連中には暇を出した。今日、この日を持ってカンダタ一家は解散したんだ」

「え?」

「なあに、俺の元子分と言えばロマリアでいくらでも仕事先は見つかる。元々は俺とマリスしかいなかった盗賊団だからな」

「それでは貴方たちはこれから…?」

「おいおい、そりゃあないだろう? アンタが盗賊をやめろと言ったんだぜ。俺と妹が新たに踏み出す道は、もう決まっているんだ」

 

 カンダタとマリスは互いを見て頷き、そしてアレルたち一行に真剣な眼差しで見つめた。ひざまずいた。

「アレル、いろは、ステラ、ホンフゥ、お前たちの冒険に俺たち兄妹も加えてほしい。恩義には恩義で応えるのが盗賊。まして魔王バラモスを倒すという大望、これで熱くならない方がおかしい。一緒に戦わせてくれ」

「あたいはテドンの生まれ、故郷はバラモスに滅ぼされた。ろくな思い出は無いけれど、それでも故郷は故郷。バラモスを倒したいと云う気持ちは一緒だ。あたいも仲間に入れてほしい」

 

 昨日の宴会を始める前、マリスはアレルの旅の目的をカンダタに話した。そして兄カンダタに言ったのだ。カンダタはアレル一行に『バラモスにケンカでも売るのか』と訊ねたが、まさにその通りであること。マリスは『彼らと一緒に行きたい』に兄に願った。

 

 それを聞いたカンダタも魔王と戦うことを決意した。自分の命の恩人が、それだけの大望を持っている。義侠心に富んだ彼が助力したいと考えても不思議ではない。彼自身の大望になることに時間は要さなかった。

 そして子分たちに一家の解散を告げたのだ。戸惑う子分たちに、カンダタは宝物庫にある財宝全てを与え、以後は盗賊から足を洗い、まっとうに生きていくことを命じたのだ。

 いろはたち一行を歓迎する宴会は、そのまま一家の解散式ともなった。

 

 

 いろはたちは一瞬驚いたが、その次の瞬間に歓喜した。彼らはカンダタの戦い振りを見て『仲間になったらどれだけ戦力になるだろう』と密かに思っていたのである。アレルはマリスの手を、いろははカンダタの手を取り、新しい仲間を歓迎した。カンダタ二十三歳、マリス十五歳の時であった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 マリスの出生についても、後年の歴史家たちの努力によってかなり判明している。後にカンダタの子分ゴメスが執筆し、ロマリアで発行され大ベストセラーとなったカンダタを主人公に書いた物語『義賊カンダタ伝』に彼女は五歳の時に登場する。彼女が歴史に初めて姿を現した時であった。

 しかし、それ以前の彼女のルーツは謎であった。

 

 マリスはテドンの生まれではなく、ランシールの生まれであった。漁業を営む夫婦の間に生まれたそうである。その夫婦がまだ乳飲み子であるマリスを漁船に同乗したまま漁に出た時、だいおうイカに襲われ船は大破。両親は死亡し、奇跡的にマリスはテドン南側の海岸に流れ着いた。

 

 それをテドンの老夫婦に拾われた。子のできなかった夫婦は天の授かり者と大事に育てたが、それは長続きしなかった。老夫婦は、その日の食事にも事欠く赤貧ぶりだったのだ。哀れにも老夫婦はマリスをテドン一の大金持ちに借金のかたに取られてしまった。下働きを課し、長じてその金持ちの妾となるためにマリスは借金の棒引きとお情け程度の小麦粉一袋で金持ちに接収されてしまった。

 老夫婦の家を訪れた金持ちは、マリスを裸にして、それは卑猥な視線で品定めをしたと云う。当時は幼いマリスであったが、この時の恥ずかしさと悔しさは克明に覚えており、また生涯忘れなかったと伝えられている。

 

 その金持ちの家に、他の貧しい家から買われた少女たちと共に向かっている時である。魔王バラモスの配下であるモンスター軍団がテドンを襲った。

 幸運にしてマリスはこの襲撃から身を隠すことが出来て、九死に一生を得た。しかし他の村人は全滅した。金持ちも老夫婦も一緒に買われた少女たちも全員が死んだ。マリスの目には涙は無かった。

 

 しかし、彼女が老夫婦に拾われ、金持ちに買われるまでの間は貧しいながらも幸せだった。ゆえに彼女は後に、テドンを滅ぼしたバラモスに対し怒りを覚え、勇者と行動を共にするようになるのであろう。

 一面、焼け野原となったテドンを呆然と立ち尽くすマリスは、村人たちの墓を作ることにした。その時、火事場泥棒をしに村にやってきたカンダタと出会うのである。

 

 話は元に戻り…ピラミッドには残念ながらオーブは無かった。だがホンフゥにとっては感涙むせぶ宝物があった。『黄金の爪』である。カンダタがそれを発見した。手に入れてから爪を守るモンスターから、しつような追撃は受けたものの、ホンフゥのパワーアップは目を見張るものがあり、何とか追撃を振り切り、ピラミッドを後にした。

 

 その後、カンダタとマリスはオーブの情報を入手すべく、一旦パーティーから外れた。そして彼らは掴んだのである。『パープルオーブ』が東の果ての島国『ジパング』にあると云うことを。

 

 いろはたちも遊んではいなかった。自分たちも情報収集するかたわら、はるか西方に位置するポルトガの国王が『黒胡椒』を持ってきた者には望みの褒美を出すと聞き、もしかするとオーブを所持しているかもしれないと考えたいろはたちは、その黒胡椒を入手し献上した。残念ながら国王はオーブを持ってはいなかったが、代わりに船をくれたのだ。

 

 バハラタの町でカンダタたちと再会した一行は、宿屋の食堂で今後の冒険ルートを検討している時、カンダタからジパングにオーブがあると聞いたいろはは愕然とした。

 

「オーブがジパングに?」

「ああ、女王の所持している宝物の中に紫色の宝玉があるそうだ。現当主ヒミコは貪欲に他国の村に兵を派遣し、略奪の限りをつくしているとか…。まったく人間同士が争っている場合じゃねえだろうによ」

 カンダタは忌々しそうに酒を飲み干した。いろはは両の拳を強く握り、肩を震えていた。アレルがそのいろはに訊ねた。

「そういえば、いろははジパング出身だけど…そのヒミコと云う女王は知っているのか?」

「…姉です」

 カンダタは飲んでいた酒を思わず吹き出した。他の者も唖然として彼女を見た。いろはは仲間たちを見つめて静かに言った。

「次の目的地がジパングとなった以上…みなに聞いてもらわなければなりません。何故、私がジパングを去り、アリアハンを目指したか…」

 

「あ、待って。その前にあたいの話を聞いて欲しいのだけど」

 マリスがいろはの話の腰を折った。

「何だいマリス?」

 ステラやホンフゥはいろはの話の腰を折ったマリスを渋い顔で見つめたが、アレルは優しい言葉でマリスの話の続きをうながした。

「実はさ…あたい、転職しようと思って…」

「「転職?」」

「うん、盗賊が二人いてもしょうがないと前々から思っていたの。で、考えたのだけど魔法使いはどうかなあ~と」

「魔法使い?」

「そう、六人ものパーティーなのに、呪文使えるのはアレルといろはだけでしょ? 魔力そのものは兄貴にもあるけれど索敵や罠の解除で使うものだし、現状魔法による攻撃がバギしかないわけじゃない。これからの戦いでは剣の攻撃だけじゃ勝てないモンスターも必ず出てくると思う。だからあたい、しばらくみんなから離れてダーマ神殿に行って修行したいの」

「マリスの言葉は正しいかと。私は賛成だけど、みんなはどうでしょう?」

 いろはは賛成した。他の者にも異存は無いようだ。確かに魔法使いがパーティーにいれば十分に戦力になる。直情的な少女と思っていたマリスが想像とは違い、この冒険の遠くを見つめていたことに仲間たちは舌を巻いた。

 しかし、カンダタは少し面白くない顔をしている。

「大丈夫だよ兄貴。盗賊として兄貴に仕込まれた特技とかを忘れちまうわけじゃないんだ。盗賊の技を持ったまんまの魔法使いが誕生するんだ。めでたしじゃんか」

「まあ…十六にもなったお前の決めたことに俺はとやかく言う気はねえが…大丈夫なのか? 魔法使いともなりゃ魔法に関する勉強も山ほどしなきゃならねえし、ついていけるのか?」

「努力するさ。嫌いな勉強だからやらない、なんて云える状況じゃないのだから」

「よし、じゃ行って来い」

「うん」

 カンダタはマリスの頭を撫でた。年頃の妹にやることではないが、マリスはこれが好きだった。

「じゃ、あたいの…。いやいや、打倒バラモスを誓うパーティーのメンバーがこんな田舎臭い呼び方ダメだよね。コホン、私の話はお終い。ごめんねいろは。話の腰を折っちゃって」

『あたい』もいいと思うが…と、アレルが小声で言っていた。いろははニコリと笑い、改めて話を続けた。

 

「ジパングの女王ヒミコ…でもこれはヤマタのオロチと云う強大な物の怪が化けている女。本物の私の姉である女王ひみこは亡くなっています。オロチの手によって…」

 

 仲間たちは固唾を飲んでいろはの話に耳を傾けた。いろはは語った。自分がひみこの双子の妹であること。本当のひみこの治世だったころには宰相をしていたこと。オロチの襲来のこと。思い出したくもない敗戦。ひみこの討ち死に。自分が罪人として裁かれオロチの生贄になったこと。そして忠臣サスケの死。すべて語った。

 

「辛い思いをしたんだな…グスッ」

 ホンフゥとステラ、マリスはいろはの話を聞いて涙ぐんだ。アレルとカンダタは目を閉じて押し黙っていた。アレルはこの時に改めていろはの決心を知った思いだった。いろはがアリアハンを目指した理由を。

「でも、今こうして心強い仲間たちを得ることができました。アリアハンに行こうと言ってくれたサスケの言葉は間違ってはいなかったと確信しています。私は堂々と帰るつもりです。そして魔王の手先のオロチを倒し、オーブを奪取します。みなさん、私に協力して下さいますか?」

 

 仲間たちは強く頷いた。

「当たり前でしょ。今さら水くさいわよ」

 ステラはいろはの肩に触れた。

「いろは、ひとつ聞かせてほしい」

 アレルが真剣な面持ちでいろはに訊ねた。

「何です?」

「俺たちがヤマタのオロチを倒したら、領民の呪縛は解けて元通りになるだろう。しかし、そうなった時、領民がいろはを新たな女王と願う事は確実だ。そうなったらいろははジパングに留まるつもりかい?」

 

 アレルはいろはさえ考えていなかったオロチを倒したあとのことも考えていた。

 いろはは一瞬、答えに詰まった。アレルの言うとおり、まず間違いなく女王と望まれるだろう。少し考え、いろはは答えた。

「いいえ…留まりません。確かにアレルの言うとおり、私は新女王として望まれるでしょう。しかし私たちはオロチではなく、バラモスを倒すことが目標です。女王として即位するとしても、すべてはそれから考えます」

 アレルは微笑んだ。ホンフゥもホッとしていた。

「では明日、早速ジパングに向けて出航しよう。海戦中心となるだろうからみんな十分睡眠を取ってくれ。マリスもダーマまでの長旅があるのだから早く寝ろよ」

「ああ、分かったよ」

 

 パーティーの女性陣が食堂を後にすると、カンダタは宿の女将に酒と料理を注文した。早く寝ろと女たちに言ったものの、こうしてアレル、ホンフゥ、カンダタは男同士で酒を酌み交わす時間が好きだった。

 

「まさか、一国の宰相様だったなんてなあ。アレル、お前は知っていたのか?」

 と、ホンフゥ。

「いや、今日初めて知ったよ。今まで立ち入った事はいろはに聞いていないんだ。あんな小船でアリアハンを目指したのだから、よほどの事情があるのだろうとは思っていたけど…」

 アレルの言葉を聞きながら、カンダタはホンフゥとアレルのグラスに酒を注ぎ、その酒瓶をアレルが取り、カンダタのグラスに注ぐ。改めて三人は乾杯した。カンダタは一気に飲み干す。そして言った。

「勝たせてやりてえな、いろはを。いや、勝たなきゃいけねえんだな…」

 アレル、ホンフゥはうなずいた。

 

 翌日、バハラタの港でアレル一行はマリスと別れた。マリスは一路、ダーマを目指した。後年『魔姫』と称されるマリスであるが、この時はまだ一つの呪文も知らない十六歳の乙女。彼女が火炎、爆発、冷気の魔法を体得してアレルたちと合流するには、まだ時が必要であった。

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