DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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いよいよ、ヤマタのオロチ戦です。


第十一話 僧侶いろは(前編)

 アレルたち一行はジパングに到着した。この時の季節は冬間近、都ムサシノの空気は乾燥し、風には土埃が含まれ、思わず咳き込んでしまう気候である。

 

「いろは、あの山は何? 綺麗な山ね…。アリアハンにも他の国にもあれだけ美しい山は無かったわ」

 澄んだ青い空の向こう、白い頂の美しい山が見えた。ステラは思わずその美しさに見とれ、立ち止まった。

「あれはジパング一高く美しい山、霊峰フジ。しかしオロチのいる洞窟もあの麓にあるのです」

「ふうん…。ゴホゴホッ、何だか埃っぽい空気だな」

 アレルが咽こんだ。いろはは苦笑した。

 

「この季節のジパング、いえ都ムサシノの空気はこんな感じなのです。だから火事も多くて困っています」

「しかし、俺は何か気に入ったな。この枯葉が舞い散る風景なんか何とも乙じゃないか」

 ホンフゥが言うといろはも頷いた。

「ええ、私もこの風景が好きです。春ならば桜をみんなにお見せできたのに、残念です」

「「サクラ?」」

「とても美しい花です。ジパングでは、その桜の樹の下で仲間とお酒を飲んで歌うことが春の慣わし。バラモスを倒して平和になった時、みんなとそのお酒を楽しみたいです」

「楽しみだ」

 カンダタが答えた。

「その楽しい酒を飲むためにも、オロチをとっちめねえとな」

 ホンフゥは拳を握り、ポキポキとは鳴らした。

 

 

 やがて、都ムサシノが見えてきた。アレルは道具袋から真新しい『みかわしの服』を取り出し、いろはに渡した。

「いろは、とりあえず女王ヒミコには、俺がみなを代表して話す。言葉が通じないかもしれないが、とにかく身振り手振りでやってみる。いきなりヤツが本性を現し、俺たちを襲うとは思えないが、とにかくオーブのことを聞いてみる。ヒミコといろはは面識があるのだろうから、この『みかわしの服』のフードで顔を隠し、女王の前では気配を消しているんだ。いいな」

「分かりました」

 いろはは十字架が象られている青い法衣と帽子を脱ぎ、みかわしの服を装備し、フードで首から上を包み隠した。

「他のみんなは万一に備え、いつでもヒミコに飛びかかれるようにしていてくれ」

「分かった」「OK」「合点だ!」

 

 アレル一行はムサシノに入った。なるほど他国ではまずお目にかかれない人々の装束であった。

「あー、外人だー」

「異国ではあんな派手な服を着ているのか。情けないのう~」

 

 人々が自分たちを指して何か言っているが、アレルたちはかまわず神殿の方角へと進んだ。

 その時だ。老婆が木陰で悲しそうに泣いていた。アレルはそれも黙って通過しようと思ったが、いろはがその老婆に近づいた。

「お、おい、いろ…」

 カンダタとステラが手を伸ばしてアレルの口を塞いだ。カンダタが

「バカヤロ! ここでいろ…もといっ!彼女の名前を言って、兵士なんぞに聞かれたらどうするんだよ!!」

 アレルは目で『ゴメン、ゴメン』と謝った。

「大丈夫、あのお婆さん、もう目が見えないはずだから…」

 かつてジパングにいた時に見知っていた老婆らしい。いろはは老婆の肩に触れた。

「うーむ、さすがは俺の惚れた女だ。泣いている老婆を放ってはおけないのだろう」

 ホンフゥは顎を撫でながら、いろはの後ろ姿をうっとりと見つめていた。

「「はいはい…」」

 アレル、ステラ、カンダタは同時にそれを言った。

 

「おばあさん…。何をそんなに悲しんでいるのですか?」

「聞いてくれるかのう…。孫娘のヤヨイが…ヤヨイがオロチの生贄に…」

「生贄…」

 

 アレルたちが近づいてきたので、いろはは事情を話した。

「ひでえ話だな、領民から若い娘を選んでオロチに差し出すなんてよ」

 カンダタは吐き出すように言った。

「仕方ないのですじゃ…。こうしなければオロチはムサシノだけではなく、ジパングそのものを焼き払うと…。でも、でも、孫のヤヨイがあまりにもかわいそうで…」

「ふん、今まで生贄を甘受して女王に何の反対もしなかったのに、いざ自分の孫娘を差し出すのは嫌だなんて虫が良い話なんじゃないかしら」

 ステラの言葉は老婆には通じないが、老婆には何となく分かったのだろう。悲しそうに項垂れてステラに答える。

「そうじゃの…。勝手なものじゃよ…」

 アレルはいろはに通訳を頼んだ。

「事情を知った以上、放ってはおけない。何とかするから安心しろと言ってくれ」

 いろはを通して、アレルの言葉を聞いた老婆は一瞬喜んだものの、すぐにまた沈んだ。

「ありがとう。その気持ちで十分じゃよ。だがヒミコ様には逆らえぬ…。アンタたちもすぐにムサシノを出てったほうがええ…」

 アレルは老婆にいろはを通じて訊ねた。

「紫色の宝玉を女王が持っているはずだが、そのことは知らないか?」

「さあ…不思議な宝石を持っているとは聞いてはいるが…」

 アレルたち一同は(それだ)と悟り、うなずいた。老婆はその場を去った。いろはが周知していたとおり老婆の目は老齢で、すでに光を失っていため、いろはの正体は気取られずに済んだ。

 

「ごめん、いろは…。アンタが生贄になった時には何もしなかったくせに、自分の孫娘が生贄になることを悲観していた婆さんに少し腹が立ってさ」

 いろはは笑って首を振った。

「ありがとう、ステラ。でもオロチはやっぱり倒さなくてはならない物の怪と改めて思いました。ヤヨイとか云う女の子を二度と出さないために戦わなくては」

 

 

 一行は神殿へと向かった。そして見た。いろはと瓜二つ、いや、もはや同一人物としか思えない顔立ちをしている女王を。だが眼光の鋭さ、人を見下す態度はいろはと違う。異国の旅人と言うことで謁見は許され、アレルたちは女王に跪いた。

 

「私はアリアハンのアレル、女王様に拝謁が許され、恐悦至極に存じます」

「わらわがこの国の女王ヒミコじゃ。異国の旅人よ。何用じゃ」

 驚いたことにヒミコはアレルの言葉を理解し、そして自らも何の違和感もなく話した。竜族は卓越した頭脳を持つと聞いてはいたものの、アレルはそら恐ろしさも感じた。

「ヒミコ様がお持ちになられている紫色の宝玉を拝見したく参上しました。女王様がお持ちと聞きましたが」

「紫色の宝玉か。わらわの宝にそんなものがあったような、なかったような、ホーホホホホ!!」

「く…いろはの顔であんな嫌味な笑いをされると頭に来るわね!」

「シー! ここは黙っていようぜ」

 ステラの気持ちはカンダタも分かった。ホンフゥはヒミコの顔を幸せそうに見つめていた。

(バッカじゃないの…)

 ステラは怒りを通り越して呆れていた。

「ところで、その赤い鎧を着た女子」

「は?」

「そなた、中々の美形じゃのう。そなたを生贄に差し出せばしばらくオロチもおとなしくなるじゃろう。どうじゃ?」

「…丁重にお断りいたします」

 冗談じゃない、ステラは怒りで肩が震えてきた。アレルは続けた。

 

「では、そのオロチを成敗したら、ヒミコ様は宝玉の事を思い出していただけますか? 私たちは魔王バラモスを討伐すべく旅をする者。今の我々の力から、十分に勝機はございます。倒してあげましょう」

「な、なに、バラモス様を、いや、バラモスを!?」

 アレルは心の中でニヤリと笑った。いろはの言うとおりであった。やはり間違いない。女王はオロチと確信した。

「決まりですね。オロチの首、切り落として献上いたします」

「な、ならぬ! ヤマタのオロチは外敵からこの国を守る守護神でもあるのじゃ。お主ら兵法者はすぐに倒す、退治するじゃ。我らジパングの民は共存する道を選んだのじゃ。ええい、わらわは外人が好かぬ。とっとと去ねい!!」

「アレル…」

 目の前にいる女王と同じ顔をしていても、菩薩を思わせるほどに優しい顔をしているいろはがアレルを呼んだ。

「言うだけ無駄です。私に考えがあります。ここは引きましょう」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 アレル一行は神殿を後にした。神殿から、だいぶ離れた場所で立ち止まり

「うーむ、同じ顔をしていても中身は別物。女は怖いな」

 ホンフゥはしみじみと振り返った。のんきなホンフゥにステラが怒鳴った。

「なに言ってんのアンタ! 間抜け面してあのいけ好かない女王の顔を惚けて見ていたじゃない! 全く呆れて物も言えないわよ!!」

「十分、物事言っているじゃねえか」

「そういう意味じゃなくてね!!」

「しかし、ステラを生贄にしたいとはなあ…。筋肉ばっかりで固くて食べられないと思うがなあ。ハハハ」

「ぶっ殺す!!」

 ステラは剣を抜く姿勢に入ったが、カンダタが止めに入った。

「そんなくだらねえ事で言い争っている場合じゃねえだろ? で、いろは。お前の考えって何だよ。聞かせてくれ」

「はい、先ほどの老婆の話、覚えておりますか。孫娘を生贄として差し出だすと云う話」

 ホンフゥ以外の三人は、その後いろはが何を言い出すか読めた。

「ダ、ダメだ、いろは。あまりにも危険すぎる」

 アレルが止める。しかし、いろはは首を振った。

「これしかありません。オロチに生贄を差し出す洞窟の場所は分かっています。あとは老婆に指定された日を聞くだけです」

「し、しかし…」

 ステラも心配そうにいろはを見る。

「生贄の入れられる酒つぼに私が入れば、油断しているオロチに真空呪文で先制攻撃も見舞えます。あとは全員で一斉攻撃を仕掛ければ十分に勝機は」

「あまりにも危険だ! 俺が生贄になる!」

 やっと話を理解したホンフゥがいろはを止めた。ステラはまた呆れて言った。

「…アンタ、今ごろ話を飲み込んだわけ? 竜族は嗅覚も効くと云うわ。酒つぼに入っているのが汗臭い筋肉男と気取られれば、つぼごと踏み潰されるわよ」

 カンダタが付け加えた。

「勝利を確実にするためには、最初に強力な呪文で先制攻撃を加えられるに越したことはない。いろはのバギマなら効果十分な威力が期待できる。いろはの策は俺も賛成だ」

「よし、いろはの策で行こう。俺たちは洞窟でオロチに気取られないように身をひそめ、いろはのバギマ発動と共に討って出る!!」

 アレルが作戦の決定を告げた。仲間たちは強くうなずいた。

 

 

 老婆から指定された日時を聞いたアレル一行はフジの洞穴へと向かった。生贄は明朝、洞穴の奥深くに酒つぼに入れて差し出される。

 老婆は孫娘の代わりとなって生贄となろうとしているいろはに言葉では言い尽くせないほどの感謝をした。

 しかし、その感謝そのものがステラには気に入らなかった。魔に心が操られていても、所詮は魔王の力はその人間の持つ悪の心を増幅させているだけなのである。老婆の涙は、感動する物語を読んで流す涙と変わらない。

 

 アリアハンの領民が、まだ魔の力で操作されていないから彼女はそう思ってしまうのかもしれないが、ステラはこんな自分勝手な領民がいる国をいろはが君主となる必要は無いと感じていた。

 野宿用のテントの天井を見ながら、ステラはそう考えていた。横に眠るいろはの寝息がステラの耳に聞こえてくる。

「あんな領民のために命懸けで戦うなんて、アンタは本当にお人よしだよ…。だからこそ、私はアンタを死なせるわけにはいかない」

 ステラはいろはの少しめくれた掛け布団を整え、自分も横になった。もう一方のテントからはホンフゥのいびきが聞こえる。カンダタ、アレルはあの状況でよく眠れるものだとステラは苦笑した。

 

 

 いよいよ、作戦決行の時が来た。酒つぼにいろはを入れて、カンダタ、ホンフゥがジパングの男の装束を着て、それを担いだ。そして彼らより少し遅れてアレル、ステラが洞穴へと入った。

「すごい溶岩だな…」

「どうやらフジヤマは休火山のようね」

 やがて一行は洞穴の最下層に辿り着いた。広い空洞である。その中央には酒つぼを置く台座のようなものがあり、カンダタとホンフゥはそこにいろはが入ったつぼを置いた。カンダタがいろはに言う。

「いろは、俺たちはここで一旦離れるが、しっかり見守っているからな」

「ええ、アレルの合図を待って一斉に掛かってください」

「いろは、俺がおまえを死なせはしない。一緒にバラモスを倒すんだものな」

「ありがとう、ホンフゥ。あなたも怪我をしないで下さいね」

「うんうん、いろはのその言葉を聞けば元気が出てくる。任せておけ」

 

 カンダタ、ホンフゥはアレル、ステラが潜む岩陰へと行った。

「おそらく…単体でこれほどのモンスターと対峙するのは初めてだろう。みんな、気合入れてくれ。ここで後れを取るようじゃバラモス打倒なんて夢のまた夢だ」

「わかっている」

「腕が鳴るぜ」

「いろはのためにいっちょキバるぜ」

 

 ズシン、ズシン、ズシン

 

「お出ましだ…」

「この足音、かなりの巨体ね…」

 アレル、ステラはすでに抜刀している。

「体がでかけりゃ良いってもんじゃないぜ…」

 カンダタははがねのムチを左手に、右手にアサシンダガーを持った。ベルトにはまだ数本ナイフが装着されている。

「いろはにカッコいいトコみせなくちゃな。頼むぜ相棒!」

 黄金の爪にホンフゥは口づけをした。

 

 やがて足音は震動となる。つぼも揺れる。いろはは不思議なほどに冷静であった。怯えも無く、強い意思が宿る瞳。そしてつぼの間近にオロチの足が来た。

 物陰に隠れた仲間たちはつぼを食い入るように見つめる。そしてつぼの中からいろは特有の気合の声が聞こえてきた。

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!!」

 

 いろはの瞳がカッと開く!!

 

「うなれ真空! バギマ!!」

 

 ボオオオオオンッッ!!

 

 つぼは爆発でもしたかのように欠片も残さず弾け飛んだ。いろはのバギマはオロチ八本の首のうち、瞬時に三本を斬り落とした。オロチの激痛に悶える声が洞窟に響き渡る。

「行くぞお!!」

 アレルの号令で四人の仲間たちが一斉にオロチに飛び掛った。いろははオロチに名乗りを上げた!

 

「我こそは僧侶いろは! ジパング真の女王ひみこの妹なり! 我が姉を害し、我が姉に化け名を汚す物の怪よ! 我らが天に代わりてそなたを討つ! ヤマタのオロチ! 覚悟なさい!!」

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