DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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第十七話 悲しい再会

 バラモス城、来るものを拒む迷宮であった。パーティーに立ちはだかる魔物たちも今までとは実力が違った。地獄の騎士、動く石像、ライオンヘッドが怒涛のごとく六人を襲った。六人は力を合わせ、ただ突き進んだ。

 カンダタの迷宮突破能力はここでも発揮された。先頭を歩くアレルに適格な道を教え、仕掛けられたトラップも全部とまでは行かないものの、看破していった。そして選んだ道、行く道に手ごわい敵が待っていた。すなわち進む道が間違っていないことを示している。

 

 また、カンダタはここで、思わぬものを見つけた。

「おい、こりゃあ…」

 傍らにいたステラに、それを取り出して見せた。

「すごい斧ね…」

 ふと見つけた宝箱には凄まじいほどのパワーを感じさせる斧が入っていた。見た目にもかなり重そうである。いろはやマリスでは持ち上げることもできそうに無い。カンダタはひょいと持ち上げ、ステラに差し出した。

「ステラ、お前使えるのじゃないか?」

「たぶんね。でも私には誘惑の剣もあるし、なによりイナホの剣もあるからね。カンダタ、アンタは?」

「は? 盗賊にこんなもの扱えねえよ」

「大丈夫よ。アンタ私より力持ちじゃない。そんな盗賊、世界じゃアンタだけだよ」

「…まあ、バラモス戦で威嚇程度にはなるか。よし、とりあえず俺のものとしようか」

 ステラの見た通り、カンダタは軽々と斧を振り回した。

「気に入ったぜ。銘は『魔神の斧』なんてどうだ?」

 

 さらに深くバラモス城に進入して行くアレルたち。もうどのくらい経つだろうか。突入した時は、まだ陽が出ていたのに、もう夜だ。

「まずいな…。夜じゃモンスターも活発になる…。反面俺たちは疲労している…」

 いろはとマリスも疲れが出ていた。アレルは懸念を抱く。こんな状態でバラモスと戦って良いものか。あの竜の女王が言っていた。『完全な状態でも倒すは困難』と。

 

 それに、モンスターの出現率も下がってきていた。それが余計に不安だった。カンダタも同じ懸念を持っていた。

「いろは…みんな…このまま進むのは得策と言えない。今日のところはバラモス城内をある程度把握できただけで十分だ。撤退しよう。この疲労状況じゃバラモスには勝てない」

「アレル…」

 退くのも勇気。いろはもそれは知っている。現に自分とマリスの魔法力はもう残りわずかなのである。あれほどに持ってきた薬草も底をつき、頼みの綱の『いのりのゆびわ』もつい先刻、音も無く崩れた。

「魔法力も尽きかけています。アレルの言うとおり、このまま進むのは私も危険と思います。みんなはどうですが?」

「俺もアレルの意見に賛成だ。というよりもはや選択肢は無い。一度撤退だ」

 カンダタは強く退く事を薦めた。

「でも兄貴、ここまで来て…」

「そうだよ、カンダタ、装備も竜の女王の祝福を受けてパワーアップしたんだ。きっと勝てるよ」

 マリスとステラは退く事を良しとしなかった。またホンフゥは少しでも体力を回復しようと呼吸を整えていた。すでに気持ちはバラモスとの戦いに行ってしまっている。

「ステラ、昔から武器の性能に頼って勝てた戦いなんて無い。バラモス以外のモンスターとの戦いで予想以上に体力魔力を消費してしまった。今はつまらない意地をはらずに撤退するんだ。そして体力を整え、今日に通ったルートを図面にして、バラモス以外の敵と遭遇しないように道を選定する。完全な状態でバラモスに向かい合う事。それが大前提だ。今バラモスと戦ったら全員犬死だぞ!」

 マリスとステラは黙った。ホンフゥも呼吸法を止めた。カンダタの言うことは正論である。

「アレル、幸いにしてここからは空が見える。ルーラで退こう」

「ああ、じゃあみんな俺の元に」

 カンダタはホッと胸を撫で下ろした。今、モンスターの出現率が下がっているということは、これから遭遇する敵はバラモスの信任も厚い側近たちかもしれないからだ。最初は渋る声もあったが、全員が引くことを決めたことに彼は安堵のため息を出した。そして彼もアレルの元に歩くと…

 

「そうはいかぬ…」

 

「………!!」

「バラモスか!」

 アレルが叫ぶ。

「いかにも…。余が魔王バラモスなり…」

 しかし、声しか聞こえない。

「ここまで来た以上…進むも退くもできぬ…クッククク…」

 アレルは剣の柄を握った。

「行くぞ、みんな」

 だが士気は落ちていた。一度撤退を決めたパーティーが前進していた時の士気を取り戻すのは至難の業である。だがバラモスは容赦ない手段に出た。

「余はまだ、うぬらより少し遠目の場所におる…。だから飛びきりの刺客をプレゼントさせてもらうとしよう。最近、我が配下となったモンスターである。気に入っていただくと良いのだが…クックククク…」

 禍々しい声は止まった。その時、上空からすさまじい羽風がパーティーを襲った。

 

 バサッバサッバサッ

 

 それは巨大なドラゴンであった。六人は目を疑った。愕然としたホンフゥは大事にしている黄金の爪を思わず地に落とした。

「ば、馬鹿な!?」

 アレルに買ってもらった大事な帽子が風で飛んでしまってもマリスは気づかない。

「そんな、そんなことって!!」

 カンダタ、ステラも上空の光景を信じられず、唖然としていた。

「な…なんてこった…」

 魔神の斧がカンダタの手から落ちた。それほどの衝撃の光景が目の前に。

 

 グオアアアアア!!!

 

 激しい咆哮をドラゴンは叫んだ。

 

 ドシン!

 

 ドラゴンはバラモス城に降り立った。アレルは震えた。恐怖ではない。怒りである。

「バラモス…! なんてことを…なんてことをしやがる!!」

 拳を握り、涙さえ浮かべているいろは。怒りのあまり頭がどうにかなってしまいそうだった。

「竜の…竜の女王!!」

 竜の女王の肉体はすでに死し、腐っていた。腐敗した肉の臭いが六人に襲う。たまらずマリスは嘔吐した。すさまじい腐臭は激烈な頭痛となってパーティーを襲う。竜の女王はドラゴンゾンビとして再びアレルたちの前に現れた。

「カハ~カハ~」

 気道、所々に穴が空いているのか、呼吸を繰り返し、漏れ出た空気が笛のように聞こえる。六人には彼女の泣き声に聞こえた。

 

「フッハハハハ! 気に入っていただけたかね? 余の贈り物は」

 声の方向はどこなのか。それも分からないことだが、いろはは叫んだ。

「バラモス!」

 許せなかった。死者を冒涜するバラモス。自分たちと竜の女王との出会いを土足で踏みにじるバラモス。怒りに血が沸騰する思いである。だが竜の女王は、ドラゴンゾンビとなってしまった彼女は、いろはたちの気持ちも知らず、容赦なく業火を吐き出した。

 

 ゴオオオオオッッ!!

 

「散れ! 一箇所に固まるな!」

 アレルの指示で六人は二人一組みで散った。辛うじて業火を避け、三方から女王を囲んだ。アレルとステラ、ホンフゥといろは、カンダタとマリスが女王と対峙する。こんな辛い戦いは初めてだった。

「やむを得ない。彼女を倒す」

 アレルは草薙の剣を鞘に収め、ドラゴンキラーを手にすっぽりとはめて構えた。ステラもまた、ドラゴンキラーを装備した。

「女王…! かならず仕返しをします…! 許せないバラモス!」

 

 グオアアアアアッッ!!

 

 ドラゴンゾンビは冷気を吐き出した。いろはは呪文を唱える。

「冷熱防御呪文! フバーハ!!」

 パーティーに炎と氷の攻撃から飛躍的に防御力をあげる呪文がいろはによって唱えられた。戦うしかない。全員がそう思っていた。またこんな形で生かされている女王を救うには死をもってしかない。

「行くぞみんな! 女王を救うには死をもってしかない。全力で行くぞ!」

「おお!」

「マリス! イオラだ!!」

「よっしゃあ!」

 マリスがイオラを唱えはじめると、アレルも同じく唱えだした。

「同時に行くぞ!」

「ラジャー!」

「「イオラ!!」」

 

 ドオオオン!!

 

 二つのイオラがドラゴンゾンビに炸裂した。

 

 一瞬の隙が生じた。ステラのドラゴンキラー、カンダタの魔神の斧、ホンフゥの黄金の爪がうなりをあげる。皮肉なことに彼女の祝福を受けた武器が彼女を引き裂いていた。しかし、まだ倒すには至らない。ゾンビ化して痛感神経が麻痺しているのか、先ほどのイオラの直撃など無かったかのようにドラゴンゾンビはアレルたちに立ちはだかる。

 フバーハが唱えられているのを見越し、ドラゴンゾンビは炎と氷の攻撃をしてはこなかった。だが双方の腕と、尻尾による打撃は強烈だった。骨の露出した尻尾が左右に周り、時には弧を描き、アレルたちの足元から根こそぎ倒される。倒れた瞬間に大きな足が踏みつけんばかりにパーティーに繰り出され、立ち上がったと思えば、鉄腕とも思える横なぎの一撃が出される。

 

 病の為か、彼女の肉体の腐敗は早かった。それともわざとバラモスがこのように蘇生させたのか、腐臭は強烈だった。その死臭にマリスは耐えられなかった。嘔吐を繰り返し胃液も出ない。めまいを起こし、倒れてしまった。吐き気を覚えない者は誰もいなかった。ついにステラも嘔吐した。

「うげっ…うぐっ」

 血の混じった嘔吐物をステラは吐き出す。その自分の嘔吐物にそのまま倒れた。いろはは防御力をあげるスクルトを唱えるが焼け石に水であった。激しい吐き気と強烈な打撃。パーティーの命は風前の灯火である。

「みんな…」

 いろははパーティーを見渡す。アレルもカンダタもホンフゥも立っているのがやっとである。絶体絶命の危機、この時こそ、と感じ、いろはは八尺瓊の勾玉をかざす。しかし勾玉は何の反応も無い。

「…まだ…そのときではないと言うの? でもこのままじゃみんな死んじゃう…」

 激しい吐き気とドラゴンゾンビの攻撃に、いろはもまたフラフラであった。

「ステラ…マリス…美しいあなたたちがそんな惨め死に方をしていいわけない…! そして女王…あなたも…! こうなれば…メガ…」

 だがドラゴンゾンビは容赦ない。弧を描いた強烈な尻尾の一撃がいろはを襲う!

「いろは!」

 アレルの叫びも届かない。

 

 ドォン!

 

 いろはの前にホンフゥが立ち、尻尾を受け止めた。

 

ボキッ、ボキッ

 

 ホンフゥのアバラ骨が次々と折れていく。

「グッ…」

 意識も朦朧ないろははホンフゥの後姿を見て、パッと目覚めた。そしてある情景を重ねる。

「サ、サスケ…」

「まだサスケ殿のところに行くのは早いぞ! いろは!!」

 ホンフゥは笑っていろはに叫んだ。だが次の瞬間、ホンフゥは弾き飛ばされ、次の一撃が襲ってきた。そして今度はアレル、カンダタがいろはの壁となり、吹っ飛んでいった。

「ホンフゥ! アレル! カンダタ…!」

 

 肩を脱臼したのか、カンダタは左肩を押さえていた。腕はブラリとぶら下がっている状態だ。

「すまねえな…アレル…いろは…。もうちょっと早く『撤退しろ』と言うべきだった…。俺が一番の年長なのに…頼りにならねえ仲間ですまねえ…」

「何言ってんだ! それなら俺とて同じだ! 猪みたいに、ただ前だけ向かって突っ走ってしまった。リーダー失格だ…! でもな、でもな、俺はまだあきらめねえぞ! 竜の女王も救い、仲間も救い、そして出直してバラモスの首を取る! リーダーとして失格でも俺は勇者なんだ!」

 アレルは自分の頬を叩いた。

「次に尻尾を凌いだら、みんなすぐに耳を貸せ」

 ドラゴンゾンビの尻尾がまるでムチのようにパーティーを襲う。アレルたちはステラとマリスの身体を抱きかかえ、辛うじて凌いだ。そしてアレルの口元に急ぎ耳を出した。アレルがこの状況で考え付いた作戦を全員に説明した。

 

「最後の賭けですね」

「そうだ。とにかく女王の顔に近づけられなければダメだ。いいか…。当てる必要はない。女王の足元にバギマを叩きつけろ。そしてそうすれば一瞬だが目くらましになる。それと同じに俺、カンダタ、ホンフゥが縦一列で突進する。俺たちが女王の足元近くに行ったらマヌーサだ。効くかどうかは分からんが、少しでも時間がほしい。縦一列で突進する理由は…」

 

 アレルはこのギリギリの緊張感の中で、仲間たちに簡潔に作戦を説明した。だが時間を女王は与えない。すぐさま次の攻撃がやってくる。

「いいか、みんな。ここが正念場だぞ。バラモスに対峙もせず、ここで死ぬわけにはいかない」

 アレルの言葉をいろははかみ締めていた。横ではカンダタ、ホンフゥ、アレルが突進の準備で構えていた。尻尾の攻撃を凌いだアレルたちに女王は踏み潰さんとばかりに足を大きく出した。

「よし撃て! いろは!!」

 

「飛び出せ真空! バギマ!!」

 ドラゴンゾンビの足元めがけバギマが飛ぶ。いろはは殺傷能力に富む真空渦はさほどに作らず、強風が逆巻くようバギマを放った。カンダタ、ホンフゥ、アレルが縦一列で突進する!!

「よし! 飛べ!!」

 カンダタが飛び、ホンフウがカンダタの肩を台にさらに高く飛ぶ。アレルは二人の肩を階段のように使い飛んだ。その跳躍はドラゴンゾンビの顔へと近づいた。

「お願い効いて! これが最後の魔法力! 幻影呪文マヌーサ!!」

 いろはの祈りが届いたか、ドラゴンゾンビは視界を見失った。

「これが最後のチャンス!」

「けっぱれ! アレル!」

 カンダタ、ホンフゥは祈るように上空のアレルを見つめる。アレルはトンボを切り、遠心力を剣に乗せた。ただドラゴンゾンビの眉間を睨んだ。

「親父! サイモン殿! 俺に力を!!」

 アレルが握るのにはドラゴンキラー。彼の背中にあるのは草薙の剣、いろはは草薙の剣の造り主に祈る。

「サスケ! あなたの剛力をアレルに!!」

 アレルの気合に呼応されるがごとく、ドラゴンキラーはうなりをあげる。

「うおおおおお!!」

 

 ズバアアアアッッ!!

 

「ギイヤアアアアア!!」

 ドラゴンゾンビは上半身がほぼ縦から真っ二つになった。アレルも自分の放った一撃の威力に吹っ飛んだ。ホンフゥがそれを受け止めた。

「大丈夫かアレル!?」

「ああ、でもやったぞ。ついに女王から会心の一撃をうばった。ゾンビであろうが、頭を二つに割られては生きてはいない」

 ドラゴンゾンビは動かない。やがて崩れるように倒れていった。

 

「女王…やすらかに…」

 いろはが祈りを捧げた。アレルは自分の道具袋をひっくり返す。

「あったぞ、キメラの翼! 感傷にひたるのは後だ。すぐに撤退する。カンダタ、ホンフゥ! ステラとマリスを! いろは、早く俺の元に!」

 祈りを解き、いろははアレルに走り寄る。カンダタはステラを、ホンフゥはマリスを抱きかかえ、アレルに寄った。

 

「…良い」

「「………!?」」

「い、今の声!?」

「勇者よ、いろはよ。そして仲間たち…ようわらわを倒してくれた…礼を申すぞ…」

 ドラゴンゾンビは倒れている。口も動いてはいない。思念をいろはたちに飛ばしているのか、彼らには竜の女王の言葉がハッキリと聞こえた。

「そして…そなたたちに襲い掛かってしまったことを心より詫びさせてほしい…。わらわの力ではバラモスの呪縛から自力で逃れられなかった…」

「女王様、正気になられたのですね!?」

「…だが、わらわは再び死ぬ…。そ、その前にやっておかねばなら…ぬ…」

 ドラゴンゾンビの右腕の指がかすかに動き、光った。すると、いろは、アレルたちの体の傷が瞬時に癒え、体力も完全な状態となった。いろは、アレル、カンダタ、マリスの魔力量も最大値まで回復したのだ。

「こ…これは…」

 いろはは自分の手のひらを見つめた。

「すげえ! まるで最初からバイキルトとスクルトをかけられているようだぜ!」

 両のこぶしをホンフゥはギュッと握った。今のドラゴンゾンビとの戦いを経た彼らにはさらに強い力が宿ったようだった。ステラとマリスも何事も無かったかのように立ち上がった。

「バラモスは奥の神殿におる…。行くがよい」

 竜の女王は最後の力を振り絞り、バラモスがいる神殿を指した。

 

 その時、大きな火の玉が空から降ってきた。アレルが

「いかん! みんな下がれ!!」

 いろはたちはドラゴンゾンビの傍らから急いで離れた。

 

 ドオオオン!!

 

 火の玉はドラゴンゾンビ、竜の女王へと落ち、その身を焼き尽くした。

 

「バラモス!」

 いろはは女王が指した神殿を睨んだ。

「クックククククククク…。とんだ茶番だったな…。お涙頂戴の場面に横槍を入れてすまなかった。その詫びに、余、自らお相手いたそう…。さあ来るがいい…ゴミども…」

 いろはは叫ぶ。

「ゴミは貴方です! 覚悟しなさい! バラモス!!」




次回、いよいよバラモス戦です。
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