DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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バラモス戦、決着です。


第十九話 生か死か

 バラモスとの戦闘が始まり、どのくらい経ったであろうか。全員が肩で息をしていた。彼らを辛うじて立たせているのは『負けるものか』の気迫だけである。

 

 バラモスは武器こそは所持していないが、その豪腕から繰り出される一撃は言語に絶する威力で、辛うじて避けても無限に出されると思えるメラゾーマと激しい炎がパーティーを襲った。

「ハッハハハハ!! 最初の勢いはどうした! 余の首を取るのではなかったのか!!」

「アレル! 本当にバラモスは『闇の衣』をまとっていないの? どうして私の呪文も兄貴やホンフゥの攻撃が効かないの!? 光の玉を使ってみて! 今からでも間に合う!」

 叫ぶようにマリスがアレルに訴える。いろはが代わりに答えた。

「実は…もうやってみたのです。使ってみたのです。しかし『光の玉』に何の反応はありません。バラモスは『闇の衣』をまとってはいません。ただ私たちの攻撃が彼を打倒するに足りないだけなのです」

「そんな…これ以上どうしろと云うの…」

 

 いろはたちをあざ笑い、そしてバラモスは両手に怪しい光を放つ分子を集めだした。

「やばい! イオナズンだぞ! 散れ!」

 アレルの指示に仲間たちの反応は鈍い。

「ハーハハハハハッッ! 遅いわ!! 食らえ! イオナズーン!!」

 

 ドオオオオオン!!

 

 六人は避ける間もなく、直撃を受けた。累々と倒れる六人。アレルだけか何とか立ち上がろうとした、その瞬間だった。

「クックククク…メダパニ」

 バラモスはアレルにメダパニを唱えた。

「あ、あ、ああ…」

「アレル?」

 顔をあげたステラにアレルは飛び掛っていった。倒れているステラを強引に起こし、片手で投げ飛ばした。

「あぐッ!」

 ダメージを負い、疲労しきっているステラにはたまらない一撃だった。カンダタは驚き

「な、何をしているアレル! ステラが分からないのか!?」

「混乱呪文メダパニです! 気をつけて! バラモスは私たちを同士討ちさせるつもりです!」

 そう叫ぶいろはも息も絶え絶えであった。崩れ落ちそうになるいろはをホンフゥは抱きとめた。

「この後におよんで同士討ちをさせるとは馬鹿にしやがって…。ちきしょう」

 そのホンフゥの言葉をあざ笑うかのように、バラモスは言った。

 

「さあ、その娘を渡せ。余のコレクションとする前にたっぷり可愛がってやらなければな。その美しい体を飴玉のように舐めつくしてくれる。自決しようが、蘇生させていたぶってくれるわ。まあ、たとえどんなに余を嫌おうと、呪文でそんなものは無くなる。余を愛してやまない女となっていくのだ。ハッハハハハハ!!」

 バラモスの言葉に悪寒が収まらないいろは。敗北し、捕らえられた場合、自分には死に勝る恥辱の日々が待っているのだ。

「もし私がバラモスの手に落ちそうになったら、ホンフゥ…あなたの拳で私を…五体バラバラにして下さい…! バラモスにこの身を汚されるくらいなら…!」

 

 パアンッ!

 

 ホンフゥがいろはを叩いた。日頃からいろはを慕う言葉を吐き、いつも彼女に見惚れているホンフゥが何のためらいもなく、いろはを叩いた。頬を押さえて唖然としているいろはにホンフゥは

「あの野郎が言った『負け戦で小便を漏らした小娘』に戻りたいのか!」

「……!」

「実の姉があんな辱めを受けて!一矢も報わずに敗れたら殺せだ?それがジパングのヤマト魂か、笑わせるな!」

「…ホンフゥ」

「立て、顔を上げろ。これからだ」

「言われなくたって…!」

 情けない、あんなバラモスの言葉で心が折れそうになるなんて。

「お前があきらめないかぎり、俺が絶対に守ってやる。だから自分の仕事をしろ」

「わかった。ありがとう、ホンフゥ」

 バラモスはホンフゥといろはのやり取りをあざ笑い、さらに攻撃を加える。バラモスにとっては蚊を払う程度の軽い攻撃であるが、ホンフゥにとっては焼けた巨大な鉄棒で殴打されている以上の衝撃である。何度も何度もその攻撃を受ける。だがホンフゥは叫び声もあげず、いろはを守った。

 

 いろはは何度もホンフゥにベホマを唱えたが、回復した分だけ、またダメージを受けた。ホンフゥは無意味なベホマはやめろと訴えるように顔を左右に振った。しかし回復魔法を止めたらホンフゥは死んでしまう。加えて急激な回復と激烈なダメージを交互に受けたら、ホンフゥの肉体は内側から崩れかねない。それを知るいろははベホマをこれ以上唱えることが出来なかった。ホンフゥの後ろで、彼の無事を祈りながら耐えるしかなかった。そのいろはの気持ちを察したかホンフゥは笑った。

「それでいい…。この攻撃をしのいだら…ベホマを頼む…」

 

 いつも豪快に笑っているホンフゥが蚊の鳴くような小さい声でいろはに言った。たまらずいろはの目には涙が浮かんだ。また心が折れてしまう。

「…もう…やめて…やめて下さいホンフゥ…。死んでしまいます」

 いろはの言葉に答える気力も無いホンフゥはただ、笑っていた。

「…この戦い…私がアレルと共に旅立ったのがすべての発端…。だから私が責任を取ります…メガンテでバラモスと刺し違えて…」

「馬鹿なこと言わないで! 誰もいろはとアレルのせいなんて思っていない! 私たちはいろはとアレルに惚れて、自分の意思でここまでやってきたんだ!」

 傷だらけの顔でいろはを一喝するマリス。そして瞳で「その通りだ」と訴えるホンフゥの目。

「…メガンテは使うな…頼むからそれは使うな…」

「ホンフゥ…」

 

 カンダタはマリスに急ぎ、薬草を食べさせた。

「私はいい。兄貴食べてよ…」

「バカヤロウ。手前の食い扶持を減らしても妹を食わせていくのが兄貴だろうが。さっさと食え。食わないなら捨てちまうぞ」

 薬草を食べて、辛うじて立ち上がる力を得たが、まだ体力がほとんど万全に近いバラモスに対して有効な呪文があるわけでもない。マリスの士気は上がらない。

「兄貴、私よりアレルとステラを。私はいろはとホンフゥを助ける」

「よし、頼むぞ」

 カンダタは重い体にムチ打って、やや離れた場所で戦っているアレルとステラの元に駆けていった。

 

 カンダタに言ったものの、マリスにはいろはたちを助ける算段が無い。魔法は効かない。そして自分の非力では、どんな名刀を持っても、バラモスを斬る事は出来ない。しかし、なぶり殺しにされかけているホンフゥを見殺しにはできない。

 彼女の武器は、殺傷能力に乏しいものばかりであったが、残る武器で唯一、一発逆転を狙えるものがあった。『どくばり』である。しかし魔王級のモンスターに効くとは考えられない。だがマリスはこの『どくばり』に賭けるしか術は無い。祈るように『どくばり』を握り、バラモスに向かって行く!

「バラモス! 二人から離れろ!」

「フン」

 

 バシッ!!

 

「あうッ!!」

 思いは空しく、マリスは軽くバラモスの手に叩きつけられ吹っ飛ばされた。しかし吹っ飛ばされる際、マリスはバラモスのその手に『どくばり』を突き刺した。

「な、なんだ手が、手が痺れよる!? 小娘、何をしよった!!」

「ヘ、ヘヘヘ…」

 動くこともできず倒れ、激痛に全身を苛まれる中、マリスはホンフゥといろはに向け、親指をピッと上げてガッツポーズを見せた。

 そしてホンフゥは急ぎ、バラモスの一瞬の隙を逃さずに、いろはと共に間合いから離れた。ようやく、いろははホンフゥに回復呪文を唱えることができたのである。

「助かったぜ…。今度は俺たちがマリスを助けないと。いろは、立てるか?」

「ハイ…ありがとう…守ってくれて…」

「たいしたことはしてねえさ。でもメガンテは禁句だ。アレルが言ったろう。残される身にもなれ」

「はい…ごめんなさい」

 ホンフゥは笑っていろはの髪に優しく触れた。

 

 

 アレルはステラに襲い掛かっていた。辛うじて剣を出して、それを受け止めているステラだが、そろそろ限界だった。

「くそ! アレル目を覚まして! アンタに斬られて死ぬなんて私は嫌だ!」

 そんな言葉が聞こえないように、アレルはステラにつば迫り合いを仕掛ける。普段ならアレルに遅れを取らないステラだが、あまりにもダメージを追いすぎていた。互いの剣のつばが軋みをあげた。

 

「……ステラ」

「!?」

「このままの状態で聞くんだ…」

「アレル? アンタ最初からメダパニに?」

「ああ、かかってはいない」

「だったら何で!」

「静かにしろ。いいから黙って聞くんだ」

 アレルとステラは激しくつば迫り合いをしているように見えた。だが二人は小声で話していた。カンダタはつば迫り合い止めに入ったが、そのまま二人の密談に仲裁に入る真似をしながら聞いた。

 

「サマンオサの宝物にあった勇者サイモンの兵法書、覚えているか?」

「もちろん。お互い全部暗記するほど読んだじゃない」

「よし、なら話は早い。親父とサイモンが『九尾の妖狐』を倒した時の技、思い出せ」

「…二人同時の一閃『クロス斬り』…。でもあんな大技、私たちやったことが…」

「ステラ、アレルが言うのならば成功の確信があるのだろう。試せる技があるなら試すべきだ」

 カンダタの言葉に少し考えつつ、ステラはうなずいた。

「よし、カンダタを前にしてステラは俺から逃れるようにバラモスに向けて走ってくれ。俺はまだ混乱しているフリをして二人を追走する。言うまでも無いがステラ、闘気を上げながら走るんだぞ。カンダタは俺たち二人を隠すようにバラモスに向けて走るんだ。ヤツの間合いに入ったら中腰になってくれ。俺とステラがそれを台に同時にジャンプする」

「分かった」

 

 三人は一斉にバラモスに向けて走り出した。ステラはことさらアレルに斬られるのを逃れるかのように背走した。アレルもまた混乱を装い、ステラを追いかける。バラモスはそれを愉快そうに見つめた。

「アッハハハハハ! 何とも惨めな光景ではないか! 仲間相手に尻尾を巻いて逃げているわ!」

 カンダタは途中からバラモスの真正面に向けて走り出す。ステラとアレルもそれに続いた。そしてほぼ、バラモスの眼前に来たと同時にカンダタは中腰となった。

 その後ろからステラ、アレルが突進してきてカンダタの背中をジャンプ台にして飛び跳ねた!

 

「「おおおおおおおおお!!」」

 アレルとステラの気合の咆哮が神殿に轟いた!

「な、なに?」

「「クロス斬り!!」」

 

 ズバアアアア!!

 

「ぐあああああッ!!」

 アレル、ステラの闘気を叩き込んだ気合の一閃がバラモスの腹部から肩にかけてXの文字を象って切り刻まれた!

「やったぜ!」

 ホンフゥは思わず指をならした。いろはの顔がパァと明るくなった。

「見ろよ! いろは! あいつらヤッタぜ!」

「ええ! 敵を欺くにはまず味方から。アレルの策、見事です!」

 勢いあまった二人は、そのまま壁に衝突した。しかし、ついにバラモスに会心の一撃を入れたのである。

 

「お、おのれ…」

 腹部からダラダラと青い血を垂らすバラモス。

「貴様らは…こいつらを片付けた後、ゆっくり料理してやる…」

バラモスは再びイオナズンを唱える体制に入った。マリスへの回復呪文は終わっていて、全員は動けるが、今回はバラモスも必死であり油断も無い。魔法を唱えるのがケタ外れに早く、イオナズンの射程から逃げるのは不可能であった。

 いろはがベホマラーを唱えたが、あまりに深いダメージのため、三人は全回復しない。これではイオナズンの直撃を受けたら全員、死は確実である。カンダタが急いで駆け寄るが遅かった。

 

「喰らうがよい! イオナズン!!」

 もはや絶体絶命、その時だった。いろはが首飾りにしていた八尺瓊の勾玉が光った。

「な、何? 八尺瓊の勾玉が!」

 そして、その光はイオナズンを受け止めた。それだけではない。八尺瓊の勾玉はイオナズンの威力を倍にしてバラモスにはね返した! 熟練した賢者のみが使えると云われる『バイバーハ』。受けた攻撃呪文を倍にしてはね返す最大防御呪文を竜の女王はいろはの持つ『八尺瓊の勾玉』に封じたのである。

 

 ドオオオオン!!

 

「ウギイヤアアアアッッ!!」

 重度の熱傷とクロス斬りの裂傷、バラモスは倒れかけた。

「今だああ!」

 アレルの号令と共にステラ、カンダタ、そしてホンフゥが渾身の一撃を叩き込む。さらにアレルがライデイン、マリスがXの裂傷の中心にメラゾーマをぶつけた。

 

「ぐう…よもや人間などに…」

 バラモスの表情が悔しさにゆがむ。

「はぁ…はぁ…。あ、あなたの敗因は、その人間をなめたがゆえです」

 うらめしそうに、いろはを見つめるバラモス。

「さあ、とどめです」

 いろはは呪文を唱えた。仲間たちの回復用に取っておいたMPすべてを放出する呪文である。

「逆巻け、真空の大刀…バギクロス!!」

 真空の大刀はバラモスが受けたクロス斬りの裂傷に寸分たがわずに叩き込まれた。

 

 ズバアアアア!!

 

「ウギヤアアアア!!!」

 

 ドシン!

 

 バラモスは崩れ落ちた。

 

「やった…やったぞ! バラモスを倒したぞお!」

 アレルの勝どきに仲間たちが集まり、肩を抱き寄せ泣いた。いろはは八尺瓊の勾玉を握りホンフゥの胸で泣いた。いろは、このとき十九歳。自分を命がけで守ってくれた男の胸で思う存分、歓喜の涙を流した。

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