しかし、本作のガライはゲーム上の遊び人をモデルとしています。道化師のような風体で小太り、でも実は頭がいいという設定です。だって賢者に転職できるわけだし。
翌日、いろは、アレル一行はガライの案内の元、ラダトーム城に到着し、国王ラルス一世に謁見した。朝起きてもまだ夜というのは、予想以上に気持ちが沈むものである。地上では当然のように朝を向かえていたいろはたちには戸惑うばかりで、時間の感覚は早くも麻痺しはじめていた。
そしてラダトーム城に到着した一行は、城下町の領民たちの暗い顔を見た。全ての領民に精気が感じられない。国王であるラルス一世も同様に思えた。
ガライは吟遊詩人のかたわら、各地を回り、その様子を国王に報告する情報員的な役割も担っていた。元々彼はラルス一世に仕える宮廷道化師だった。王の機嫌を取り、時には王の言葉にツッコミを入れるのが仕事であるが、ラルスは道化師のガライが智者であることも知っていた。
彼はとにかく人を笑わせるのが上手く、政務においても時にラルスが舌を巻くほどの知恵を出してもくれたからだ。しかし、これは平和なアレフガルドでの彼の立場であった。ゾーマの侵攻以来、乱世となった今、彼は自分の趣味で道化師の姿はしていても、密偵、情報官として重用されていたのだ。
国王の信頼も厚い彼と同行していたいろはたちにとって、国王との謁見はさほどの困難ではなかった。そしてガライが言った。
「精霊神ルビス様がこのアレフガルドを創造する前に、その身を置かれていた世界。彼らはその世界から来た勇者たちです」
国王ラルス一世は驚きのあまりに一瞬は声が出なかった。周りの大臣たちも唖然とガライを見つめる。
しかし、ガライが虚偽の報告をすることは考えられず、また後ろに控える五人の若者たちの口車に乗せられるような愚者でもない。何より、ガライの後ろにいる若者たちは光を無くしたラダトームの民が失ってしまった覇気が全身からみなぎるように見て取れた。
彼らの渉外担当者なのだろうか、見慣れない装束の女僧侶がガライと同じ位置まで歩み、国王に今までの冒険の経緯をすべて述べた。理路整然と弁舌を冴え渡らせ、国王も大臣たちも身を乗り出し女僧侶いろはの語りに耳を傾けた。そして納得した。
「…以上が、私たちがこの地に来た理由でございます」
「なんと…ルビス様がこのアレフガルドを作る前にいた別の世界から来たと…。それにしても、そなたたちの世界でもゾーマの手は伸びていたのか…」
そういうとラルスは側近に何かを持ってくるように命じた。玉座の間に沈黙が走り、マリスはアクビをかみ殺していた。しばらくして、側近の者が小さな宝箱を持ってきた。ラルスは宝箱を開け、古ぼけた玉石を持ち玉座を離れ、アレルの元に歩いてきた。
「アレルとやら、この石を持ってみよ」
「……?」
何がなにやら分からないが、とにかくアレルは言うとおりにした。ラルスからアレルの手にその石が渡った、その瞬間。その古ぼけた玉石はまぶしいくらいの輝きを放ったのだ。
「ま、まぶしい! な、なんだこりゃあ!」
いろはも、カンダタ、ホンフゥ、マリスも唖然とした。何の価値もないと思えた玉石が突然に神々しい光を放ったのであるのだから。朝が来ないアレフガルドに小さな日輪が降臨したようであった。ガライも驚き、アレルの手にある玉石を見た。
「お、おお! これはルビス様のお告げどおり!」
国王ラルスはこの光景を見て、そう叫ぶやいなや、アレルに平伏した。他の大臣たちも一斉に平伏した。
「あなたはルビス様に選ばれし者!」
ガライもまるでアレルを神とでも思ったのか平伏した。ルビスを絶対神と崇めるアレフガルドの民にとって、アレルがガライの言うとおり『ルビスに選ばれし者』であるのならば、それは『神』も同様なのだろう。しかし、当のアレルは戸惑うばかりであった。
「な、何だよ、選ばれし者って。ガライ説明しろよ!」
ガライは説明した。たった今アレルがラルス一世から手渡された玉石は『太陽の石』。古代、この地にアレフガルドを創造した精霊神ルビスがラルスの先祖に与えたものである。
伝承によると『アレフガルドに暗黒の世が訪れた時、空より勇者が降臨する。そのものにこの太陽の石を持たせよ。そのとき、この石は名のとおり日輪の輝きを見せるであろう。その者こそ、我の選んだ勇者なり』とあり、代々ラルス家がその伝承と共に大事に保管していたのである。不思議なほどに今のアレルと状況が似ていた。
アレルは自分の手の中で、なおも光を放っている太陽の石を手のひらで転がせた。
「本当か? ガライ、何やら出来すぎているぞ」
「冗談などではありません! ラダトームより古より伝わる確かな伝承なのです!」
「わ、分かったよ、悪かった。信じるよ」
いきなり、その国の神様の『選ばれし者』になってしまったアレルは困り果てていた。そこにいろはが助け舟を出した。
「ガライ殿、不測の事態が起きて戸惑われるのは分かりますが、本題の方に移っていただけないでしょうか」
いろはやアレルたちにしてみれば、ただの『不測の事態』であるが、ラルスや大臣たち、ガライにとっては人生最大級の出来事だ。そのせいかガライは、その『本題』を忘れてしまった。
「え、あの、何でしたっけ?」
「…ゾーマの居場所を教えていただくこと。アレフガルド全土の地図を譲ってくれることをお願いすることです」
ラルスはすぐにアレフガルド全域の地図を用意し、いろはたちの前に掲示させた。そしてガライが説明を始めた。
「ゾーマの居城は、このラダトームの南、『魔の島』にございます」
細い竹棒でガライは地図上にある『魔の島』を指した。いろはは一瞬言葉を呑んだ。ラダトームのほぼ隣と言って良い島だったからだ。
「こっ、こんなに近いのですか?」
「地図上では確かにそうです。しかし、この島の四面は言語に絶する荒海。海の魔物さえ近づかない場所にございます」
ラルスが付け加える。
「元は静かな海じゃった。海水浴もできれば、海の幸も豊富で…それが今では一秒も静かな時を見せない狂った海になってしまった。それもこれもゾーマがあの島に居城を作ってからじゃ…」
さらに地図を見ると、魔の島はアレフガルドと地面がつながっていない。カンダタがガライに聞いた。
「よおガライ、では魔の島に行く方法は?」
「その太陽の石と雨雲の杖があれば魔の島にいけると云う伝承があります。しかし、雨雲の杖はルビス様ご本人が所持とのことですし、また、その二つを入手した後はどうすれば良いか、ラダトーム王家にも伝わってはいないのです」
「ねえ、そのルビスって女はどこにいんの?」
つまらない話ばかり聞かされて、マリスは退屈だった。
「こ、言葉を慎まれよ! こともあろうに『ルビスって女は?』とは何と無礼な!」
ラルスのすぐ側に控えていた重臣ケインズは怒鳴った。
「だって、その人が何とかって杖を持っているのなら、二つを手に入れた後どうしたらいいか知っているでしょう。直に聞いたほうが早いよ」
道理だが、向こうはこの大地を創造した精霊神、そう簡単に会えるわけも無い。しかし異世界の住民のいろはたちにとっては、まんざらマリスの言うことも誤りではないと思えた。アレルがケインズに訊ねた。
「そのルビス様、ご本人に会う方法はないのですか?」
ラルスより許しを得て、ケインズは重臣の列から一歩出て発言した。
「ゾーマがこのアレフガルドを侵攻して、最初に行ったのが、ルビス様の封印と言われています。ルビス様はアレフガルドの自然を司る方。その方が大魔王により封印されました。それを証明されるかのように、アレフガルドには天変地異が続発いたしました。地震、竜巻。そして農作物を根こそぎ食らうイナゴも大発生。飢饉も訪れ、その上にゾーマ配下のモンスターが各地に出現いたしました。そして朝が二度と来なくなったのです」
上の世界は朝が来るだけ、まだマシなのかもとアレルは思った。しかし、それでは領民や王にも元気が無いのは当たり前の話であった。ケインズは続ける。
「それで、どうやればルビス様とお会いできるか…ですが、ここからはるか南方、メルキド近くにルビス様の神殿があります。現時点ではそこから探索を開始するしかないと考えます。私もそこにいますガライも、その地に行き、ルビス像に祈りを捧げましたが何の反応もありませんでした。しかし、ルビス様に選ばれたアレル殿なら、あるいは…」
どうやら、最初の目的地は決まった。ラダトームより南方、メルキド方面である。
「よし、とにかくそのルビス神殿と云うところに行ってみよう。俺が行っても何も起こらないかもしれないが、とにかく動かねえとな」
アレルの意見にいろはもパーティーもうなずいた。
「ガライ、アレル殿たちの道案内を務めよ。それとケインズ、装備の資金と路銀の用意じゃ」
「ハッ」
ようやく、光を放つことを落ち着かせた『太陽の石』をアレルはラルスに返そうとしたが、ラルスはそのまま太陽の石をそのままアレルに授けた。アレルは太陽の石を荷物袋に入れ、掲示していた地図を受け取り、それをいろはに渡した。
ラルスはラダトームの兵士数名を同行させることを提案したが、それは断った。少数のほうが動きやすいというのが理由だったが、兵士たちもまた覇気がまったく感じられない。士気の無い仲間は戦力にならないどころか、こちらの士気の低下につながり、足手まといとなる。いろはとアレルはラルスの申し出を丁重に断った。だが馬を人数分与えられた。地上での移動はすべて徒歩だったが、これでだいぶ旅が楽になる。
城下町に出て、ガライと一行は酒場で食事をとった。いろはが自分の懐中時計で時間を確認すると、地上ではそろそろ正午を迎えるころだった。旅立つ時間としては適当であるが、やはり夜だと少し戸惑う。そもそも彼らは夜間の行軍は避けていた。夜間はモンスターも水を得た魚のように活発になる。だから絶対に無理はせず、キャンプを作るか、宿に泊まった。
その慎重かつ、用心深さだからこそ、大きな目標も果たせたが、今度はそんな慎重論は通らない。
ガライはいろはたちより先に食事を終わらせ、たいまつを束で買ってきた。
「これだけあれば、メルキドまで持つでしょう。ただ、一般に獣やモンスターは炎を恐れると言いますが、アレフガルドのモンスターに至っては…」
「そのくらい承知しているよ」
ホンフゥが笑って答える。
「ガライはモンスターが出たら、すぐに俺かカンダタの後ろに来るんだ。道案内に死なれては困るからな」
「ブルルル! ホンフゥさん怖いこと言わないで下さいよ!」
「あ、そういえばさ。私たちの世界では『遊び人』は戦闘中にワザとコケたり、仲間の女の尻触ったりするんだってね。前はいいけど、後の方はやんないほうがいいよ。いろはにザキくらいたくないだろう?」
「ザ、ザキ!? じょ、冗談じゃありませんよマリスさん! お尻など撫でませんよ!」
テーブルは笑いに包まれた。他の客の注目が集まった。自分の笑い声さえ忘れた者たちにとって、笑いながら食事をしている光景はここ数年では珍しかったのだ。
「大丈夫ですよガライさん。そんなことされても、いくらなんでもザキなんてかけませんから。せいぜい投げ落とすくらいですよ」
いろはもめずらしく、仲間の冗談に乗った。
「それと俺の鉄拳制裁だな。ははは」
「それ、いいすぎ!」
ホンフゥの言葉の後、ガライはひときわ大きい声で言い返した。一瞬キョトンとしたいろはたちだが、次の瞬間、酒場から拍手と笑い声が上がった。
「はっはっはっ! 久しぶりに聞いたぜ! その名言!!」
「やっぱり、その言葉はガライが言わなきゃダメよねえ! ハハハ!」
ラダトームの人々は、よっぽどガライの今の言葉が気に入っているのか、大爆笑していた。あんなに暗かった雰囲気をたった一言で笑いの渦にしてしまったガライをいろはたちは呆然として見つめた。彼はVサインをして酒場の客達に応えていた。
結局、酒場は久しぶりの笑いで盛り上がり、ガライといろはたちが解放されたのは二時間後であった。
城を発つ前だったので酒好きのカンダタ、ホンフゥも飲まなかったものの、この国に来てはじめて笑いのある食事だったので、十分に満足はしていた。だがガライは少し申し分けなさそうだった。
「すみません。あの『それ、いいすぎ!』はラダトームがまだ平和なころ、王様が過度に家臣を褒めたりした時によく使っていたツッコミでして、民もよく知っている言葉なんですよ。それで盛り上がって、あんな足止め食ってしまって」
「いいのですよ。でもガライさんすごいです。みんな陰気にお酒を飲んでいたのに、あの一言だけで笑いの渦にしてしまうなんて」
マリスがいろはに続けて言った。
「本当。びっくりしちゃった。アレルのギャグなんて寒いのばかりだもんね」
たいまつの先端にボロ布を巻きつけているアレルはマリスに言われてしまい、少し面白くない。
「悪かったな。俺のギャグは高尚すぎてマリスには…」
「ああ、その先端に火を着ければいいのね」
「…聞けよ。人の話」
への字口をしているアレルをよそに、マリスは一本一本のたいまつに魔法で火を着けた。さすがに六本も着けると明るかった。与えられた馬も、さすがにたいまつを伴う人馬に慣れているのか、炎を見ても顔色一つ変えなかった。
「ガライさん。そのメルキドまで道中どのくらいですか?」
「ガライで良いですよ、いろはさん。道中はだいたい四日くらいとなるでしょう。途中ドムドーラの町に泊まり、あとはキャンプですね」
「そうですか。アレル、アリアハンの時刻では、今はだいたい十五時です。今日のところは四時間程度の行軍にしておきましょう」
「そうしよう。みんな準備はいいか」
仲間たちはたいまつを上げ、アレルに応えた。
「よし、ガライ先導を頼む。モンスターの気配を感じたら、すぐに知らせるから俺かカンダタかホンフゥの護衛を受けてくれ。では行くぞ!」
アレルは手綱を引いた。馬は小さな嘶きをあげ、歩みだした。遊び人ガライを加えたパーティーは一路、メルキド方向、ルビス神殿を目指した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここは地上、ネクロゴンド。四面が海。そして毒の沼で覆われた孤島にステラはやってきた。
「ここから異世界に…」
バラモスの魔力がなくなったせいか、孤島の周りの海は静かだった。ゆえに風もなく気球で降り立つことができた。ステラと一緒にはカトレア、レンドル、ネルソン、そして気球を作った科学者ハイゼンが来ていた。乗ってきた最新の気球『テラマル号』がハイゼンの気球であったからだ。それに加え、気球の運転に慣れたネルソンのウデのおかげで五人が乗っても『テラマル号』はネクロゴンドを越えた。
「なんだか変な話よね。あれだけ苦労してオーブを集めたのは、ここにラーミアで飛んでくるためだってのに今はこうして気球で来られちゃうなんて。でもオーブを探すのに苦労したからこそ…私たちはバラモスを倒すことができた…」
「ステラ殿…」
レンドルの目には涙が浮かんでいた。ステラの姿にかつての相棒イナホを見ているのかもしれない。
「レンドル様…今まで私に色々教えて下さり、本当にありがとうございました。元気で…いっぱい長生きしてくださいね。そしてカトレアと共にアレルブルクに繁栄を」
うん、うん、とレンドルはステラの手を握り、うなずいていた。
「ネルソンさん。私の我儘で危険なネクロゴンドまで…本当にありがとうございます」
「いえ、お役に立てて嬉しいです。ご武運をお祈りしております」
「それから…ハイゼンさん」
「は…」
「ありがとうございます。あなたが気球を発明してくれなければ、私は仲間たちの後を追えませんでした。感謝いたします」
会ったばかりの女戦士は強者の雰囲気を持つ女丈夫と感じたが、話をしてみると礼儀を重んじる一流の騎士に思えた。ハイゼンは母国エジンベアの騎士たちにこの女性の爪の垢でも飲ましてやりたいくらいだった。
「世界は丸い、と言う貴方の説、教養の無い私には分かりませんでしたけど、いつか世の中の人に受け入れられる事を異世界から祈っております」
「ありがとうございます。ステラさんもお元気で。そして大願を果たされる事を私も祈っております」
「はい」
「ステラ…」
「思えば、カトレアとは最初喧嘩だったな。イエローオーブを五万ゴールドで売る! なんて言われた時は何て嫌な女だと思ったけど…不思議だよ。出会い方が最悪でも私たち友達になれたんだから」
「馬鹿…泣かせるようなこと言うなよ…」
「じゃあ私、行くよ」
籠の戸口を開けて、ステラは出る。
「ステラ、ちょっと待て」
カトレアは自分の荷物袋から小箱を出した。
「餞別だ。持っていきな。『豪傑の腕輪』さ。きっと役に立つよ」
『豪傑の腕輪』。攻撃力が飛躍的に上がるアイテムである。戦士のステラにとっては喉から手が出るほどに欲しい品物だ。
「あ、ありがとう…」
友の計らいに、ステラの目にも涙が浮かんだ。そして早速腕輪を装備し、一緒にここまで来てくれた四人を見た。
「じゃあ行ってくる! 皆さんのこと忘れない! ありがとう!!」
そしてステラはギアガの大穴に向けて走り出した。仲間たちと合流するために。
「いま行くよ、みんな!」