DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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第二十八話 大地の精霊ルビス

 いろはのホイミでようやく、アレルは目を覚ました。

「あいたたた。ヒデェことすんなあ、ステラ」

「そりゃお互い様でしょ。さあ、上に行きましょう」

「…ところでお前。どうやってここに?」

「え? ああラダトーム城に着いて王様に会って…て、まあ後で話すよ。今はルビスと云う女神様を助ける事が先でしょ」

「そうだな」

 ヨイショ、とアレルは立ち上がった。

「陣列を変える。先頭は俺。次にホンフゥ。いろは、中堅にステラ、そしてマリス。しんがりはカンダタで行くぞ」

 久しぶりのいろはのパーティー本来の陣列であった。

 

 パーティーは最上階へと上がった。フロアの中心には女神像がある。

「これか…」

 アレルは女神像を見つめた。

「なるほど。いい女だな。なんつーか、美しさのレベルが違うというか…」

 指で顎を擦り、しみじみとカンダタは女神像を見た。

「バチ当たるよアニキ」

「さてと。確かネリーという精霊の話では、ここで笛を吹くんだったよな、いろは」

「はい」

 いろはは自分の道具袋から『妖精の笛』を取り出した。

「これで封印が解ければ良いのですが…」

 

「アレル。あの笛は?」

 笛の事情を知らないステラがアレルに訊ねた。

「ああ、あれは『妖精の笛』と云ってな。ルビスに仕えているネリーと云う精霊からいただいたものだ。何でもあれでルビスの封印が解けるんだと」

「へええ。だったら笛の名手のアレルが吹いたら?」

「俺が?」

「そうですね。『ルビスに選ばれし者』はアレルです。その方が良いかも」

「ん…じゃあやってみるよ。何事も起こらなくても怒るなよ」

 アレルは笛に唇をつけて、深呼吸をした。

「……」

 

「…何やってんのアレル?」

 笛にフーハーと顔を真っ赤にして息を吹き入れているアレルを見て、マリスは呆れるように言った。

「な、何だこれ? ウンともスンとも音が出ないぞ?」

 中身が詰まっているのかとアレルは確認するが、妖精の笛は端から端、見通しが良かった。

「おかしいぞこれ…」

「待てよ。確か精霊ネリーはいろはに笛を渡したよな。だったら笛はいろはが吹けるんじゃないのか?」

 ホンフゥが言った。

「じゃあ、ちょっと吹いてみます」

「ちょっと待て!」

 笛をアレルから渡され吹こうとしたいろはをホンフゥが止めた。

「何です?」

「そのまま吹いたら『間接キス』ではないか。ちゃんと消毒したほうがいいぞ」

「ホンフゥ! てめえ『消毒』たあ何だよ!!」

『毒』扱いされてしまったアレル。ステラとマリスは腹を抱えて爆笑している。

「そ、そんなこと言っても、ここには熱湯もないし…」

「吹き口にザキかければ良いんじゃねえのか? バイ菌もそれで死ぬだろう」

「おう! そりゃいい考えだぞカンダタ!!」

 カンダタとホンフゥにアレルは言いたい放題であった。

「…ばい菌と来たかよ」

 面白くなさそうに、アレルは拗ねていた。

「もう、二人ともアレルに悪いですよ」

 と、言いつつもいろははちゃんと清潔な布巾で吹き口を拭いていた。

「悪く思わないでくださいね、アレル。医療的にも人の吹いた笛は一度清潔にしなければなりませんから」

「さいですか…」

 すねるアレルを横に、いろはは吹き口に唇をつけて吹いた。すると『妖精の笛』は透き通るような音色を出す。まるで山の清流のようなメロディーであった。

 いろはは笛を吹きながら女神像を見る。笛の音色に惹きこまれるかのように、女神像は白い輝きを放った。

 

 ブロンズ色だったルビスの肌が、人と同じ色となっていく。鮮やかな金髪が流れ、ゆっくりとまぶたを開ける。そして光に包まれながら、ルビスはいろはたちの前に降り立った。

「私の名は…ルビス…」

 まさに神託だった。神の領域の美しい容貌と声。六人はルビスを呆然として見つめた。

「子供たちよ…あなたが私を助けてくれたのですね…」

「いや、あの、その…」

 アレルはとっさに答えられない。ホンフゥもカンダタもこの世のものとは思えないルビスの美しさに言葉が出ない。

 

「精霊神ルビス様ですね」

「はい」

「私はいろは、僧侶いろはです。結論から申し上げます。雨雲の杖を譲ってほしいのです」

「いろは? その名はジパングの名前ですね。貴方たちは上の世界から?」

「その通りです。神話でルビス様が乗っていたと言われる不死鳥ラーミアに乗り、バラモスを倒し、そしてこの世界にゾーマを打倒せんと降り立ちました」

 

 ルビスを前にしても、いろはは堂々と言上を述べる。

「さすがよねえ。ウチの男どもは鼻の下伸ばして役立たずだけど、その点いろはは違うよね」

 マリスはいろはを褒めた。

「そうね。しかし、何? アンタの兄貴の間抜け顔。私のほうがいい女だと思うけどな。そう思わないマリス」

「…………」

 ステラの質問にマリスは答えなかった。ノド元まで出た(てんで勝負になってないよステラ)と云う言葉を飲み込んでいた。

 

 いろははルビスに語った。六つのオーブのこと、ラーミアのこと、竜の女王のこと、バラモスとの戦い、仲間である勇者アレルが『選ばれた者』であること。そしてゾーマのこと。

 ルビスはいろはの目を見つめ、真剣に耳を傾ける。ようやくアレルも落ち着きを取り戻し、いろはに添えた。

「魔の島に渡るには、私の持つ『太陽の石』とルビス様の持つ『雨雲の杖』がどうしても必要と聞き、それを信じ、ここまでやってきました。雨雲の杖はルビス様が所持とネリー様からも伺っています。なにとぞお譲り願いたい」

 

 静かにルビスはアレルを見つめ、そしてニコリと笑った。

「良い目をしておられますね。私が神になる前に愛した人も、今のあなたと同じ目をしておりました。その想いが、あなたを『選ばれし者』としたのでしょう」

 そういうとルビスは、左手を高々と上げた。そして手の平が輝く。その輝きはやがて棒状になり、一本の杖となった。

 

「さあ、お持ちなさい」

『雨雲の杖』はゆっくりといろはの元へ降りた。大事そうにいろははそれを握る。

「ルビス様、この後の私たちの旅の指針をお告げ下さいませ」

「この塔より、はるか南方、リムルダールと云う町があります。そして、さらにそこから南に下ると『聖なるほこら』にたどり着くでしょう。そのほこらの祭壇に勇者の持つ『太陽の石』と、たった今私がいろは殿に渡した『雨雲の杖』を捧げなさい。それと…これを与えましょう」

 

 それはラーミアの紋章が描かれている丸い金色のプレートだった。

「それは『聖なる守り』。聖なるほこらにおいて、それをにぎりながら祈るのです。さすれば魔の島に渡るために必要な『虹のしずく』が生まれましょう」

「あ、ありがとうございます!」

 いろはは深々と頭を下げた。ついにゾーマまでの道が一本に繋がったのである。

「礼を言うのは私のほうです。精霊の神と呼ばれながら、ゾーマの術中にかかり、石像にされてしまった私を助けて下されたのですから…」

 ルビスはアレルを見つめる。

「ああ、本当に似ているわ…。神でない、ただの娘だったころの私が愛した…唯一の方に…」

 アレルは困った顔を見せ、照れ隠しに思わず冗談を返した。

「そうですか。ならば、その方は…さぞやいい男だったでしょうね」

「おいおい…」

 女神に向かってそれを言うか? とホンフゥは笑った。

「ええ、素敵な方でした」

 笑顔でそう答えるとルビスの姿が徐々に薄らいできた。

「ルビス様?」

「勇者殿…私はまだ神として未熟で、ゾーマを倒すための力添えはかないません。ですが、後の世で貴方の子孫が危機に陥った時、私は必ずこのご恩に報いましょう。その日まで…」

 ルビスの姿が消えた。塔の中に静けさが戻る。女神に会えた。その感動の余韻が心地よく残った。

 

「ルビス様…」

 アレルが感慨深く、そう名前を呼ぶと

 

 ドン!

 

 アレルの尻に蹴りが入った。

「イタッ! 何をするんだよマリス!!」

「なによなによ! だらしなく鼻の下デレーと伸ばして!」

「そ、そんなことしてないだろ!」

「やれやれ、喧嘩するほど仲が良いってな。ところで、『ルビスに選ばれし者』はアレルなのに、どうしてアイツには笛が吹けなかったんだろうな」

 カンダタの疑問にホンフゥが答えた。

「ルビス様に選ばれたのはアレルかもしれんが、ネリー様に選ばれたのはいろはだった。そんなとこじゃないのか。あの女神様はルビス様に仕えているんだろ」

「うん、私は見ていないけれど、それが正解と思う。珍しく冴えているねホンフゥ」

 と、ステラ。

「おいおい、俺は元々頭の切れる武闘家だぞ。よく言うだろ『能ある鷹はヘソかくす』てさ」

「…脳みそメダパニ…」

 

「さて、いろはそろそろ行くか」

 カンダタはルビスのいた場所に祈りを捧げているいろはを呼んだ。

「そうですね。ルビス様を解放した今、この塔にはもう用はありません。引き上げましょう。マリス、リレミトをお願いします」

 思わぬ助け舟にアレルはホッとした。

「もう、今日の宿でお仕置きだからね!」

 マリスは頬をプクリと膨らませたあと、静かに呪文の詠唱を始めた。

「リレミト!」

 

 塔の外に瞬時に彼らは脱出した。

「うーん」

 ステラは伸びをする。

「あ~あ、これで空が晴れていたら言う事無いのに…」

「みなさーん!」

 ガライがパーティーに走り寄ってきた。

「どうでしたか?」

 いろはは『雨雲の杖』をガライに見せた。

「このとおり、私たちはルビス様と拝謁し、この杖をいただきました」

「そうですか! ああ~ 私もルビス様のご尊顔を見たかったな~」

 ステラがガライに歩み寄った。

「そうか、アンタがガライだね」

「ええ、そうですが…」

「礼を言わなくちゃならないね。貴方がアレルたちの行動の様子をラダトームに伝書鳩で逐一に報告してくれていたおかげで、私、合流できたよ」

「ああ、それではアナタがカンダタさんの言っていたステラさんですか」

 馬に乗りかけていたカンダタは思わぬ秘密を暴露されて、落馬してしまった。

「お、おい! ガライ!!」

「へえ~、ガライさん、アイツ何て私のことを言っていたの?」

「え?」

 ふとガライはカンダタを見ると彼はすごい形相でガライを睨んでいた。

「え、いやいや、頼もしい仲間だと伺っていましたけど! アハハハハ!!」

 

 やがて、彼らはマイラの村へと向かった。サスケの宿に近づくにつれ、サスケがハンマーを振るっている音が聞こえてきた。

「それにしても、話に聞いていたサスケ殿が生きていたなんてねえ…。いろは嬉しかったでしょ」

「もちろんです。今では綺麗な奥さんもいて幸せそうで…本当に嬉しかったです」

 その後ろを歩くガライの肩をマリスがポンポンと叩く。

「ねえねえガライ、アニキはステラのこと何ていったのう?」

「こらマリス! 余計なこと聞くな!ったく…」

 プンプンとしながらも、カンダタはステラの後姿を嬉しそうに眺めていた。

(相変わらず、いい女だぜ)

 

 

 宿の暖簾をアレルがくぐった。

「ただいま、女将さん」

「あ、お帰りなさい! あら? お仲間が増えているわね」

「ステラです。よろしくお願いします」

 宿の入り口での会話はサスケの工房にも聞こえたのか、サスケはパーティーを出迎えるように、入り口へとやってきた。

「いろは様、みなさん、お疲れ様でした」

「あなたがサスケさんですか。いろはから話は伺っています。私はアリアハンの戦士ステラ。今後ともよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ…」

 サスケはステラが帯刀していた剣を見て、表情を変えた。

「どうなさいました?」

「ス、ステラさん。その剣…よく見せてもらえませんか?」

「ええ、かまいませんが…」

 ステラは『イナホの剣』をサスケに渡した。サスケは柄を見つめ、そして剣を鞘から抜いた。

「見事な仕事だ…」

「それはただの『はがねのつるぎ』ですが、ジパングの刀鍛冶の方に打ち直してもらったのです。お名前は…」

「コジロウでございましょう」

「そうです! ご存知なのですか?」

「コジロウは鍛冶のみならず、武術でも同門だった男です。そうですか。彼が…」

「預けた翌日にはジパングを発たなくてはならず、急がせてしまったのですが、彼は嫌な顔一つせずに、その『イナホの剣』を打ち直してくれました。感謝しています」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 あれはアレルといろは一行がヤマタのオロチを倒し、前もってムサシノから避難していた民たちがオロチの死を知りムサシノに戻り、平和の到来の立役者であり、かつて自分たちの主君であったいろはを喜びのあまり、取り巻いていた時だった。

 その時にステラはその輪の外に立ち、自分の剣を見つめていた。たったいま『誘惑の剣』を入手したものの、あくまで自分が一番頼りにし、誇りとするのは『イナホの剣』なのである。

 いかに自分の膂力があろうと、ヤマタのオロチとの戦いでステラはイナホの剣の攻撃力に限界を感じていた。しかし、そう簡単に鞍替えすることはステラの誇りが許さなかった。この剣のままパワーアップできないものだろうか。そう思い鞘の中の刀身を見つめるステラに声をかけた男がいた。

 

「女戦士さんよ」

 オロチ亡き後ムサシノに帰ってきた人々の中に、一人だけ筋骨たくましい男がいた。彼以外の者はいろはの快挙に感涙し彼女を取り巻いているのに、その男だけはステラの持つ剣を見ていた。

「意外ね、あなたみたいな若い人も避難していたの? 集落は女と子供、年寄りのみと今聞いたけれど」

「俺はひみこ様に、避難する人々を護衛するよう命令されていたんだよ」

「それにしてもアリアハン語上手いわね」

「海の外の技術を得るために必要だったからな」

 男はステラと顔を合わせず剣だけ見ていた。

「そう、で、何か用?」

「だいぶ剣に無理をさせているな。そろそろ折れるぞ」

「……」

 たった今、自分が思っていたことを指摘され、思わずステラは眉をしかめた。

「勘違いするな、アンタの腕が悪いと言っているのじゃない。だが、その剣ではこれからの戦いは無理なんじゃないのか?」

「……」

「違うのか?」

「その通りよ…」

「ついてきな。俺の工房はオロチの魔手から逃れているんでな」

 

 ステラはその男の工房に行った。男は隠し床から三振りの剣を出した。

「『ダイデンタ』『キクイチモンジ』『サダムネ』だ。持っていきな」

「そんなゴールド持っていないよ!」

「いらねえよ。いろは様の同志から受け取れない」

 ステラは一本一本、剣を抜いた。さきほどジパング神殿の宝物殿で見た剣と同じ様式の片刃の剣であった。しかし切れ味は察しられた。自分が使ったら、どれだけ攻撃力を発揮してくれるか想像もつかない三振りである。だがステラは三振りを鞘に収め、男に返した。

「俺の造った剣が気に入らねえのかい?」

「違うの、私、この剣を裏切れないから。確かに予備として何本かの剣は持っているわ。しかし、それはモンスターの特性に合わせて使い分けているだけ。私が主として使うのはこれしかない。バラモスはこの剣で斬らなければ意味がないのよ」

「……」

「ありがとう、この『はがねのつるぎ』、折れないように丁寧に使う」

 ステラはアリアハン式の敬礼を取り、男の家を出ようとした。

 

「待ってくれ」

 玄関口でステラは立ち止まった。

「よければ聞かせてくれないか。どうしてそこまで…その剣にこだわるか」

 

 ステラは聞かせた。このジパングのエッゾにかつていた偉大な女戦士イナホの話を。男は黙って聞いていた。そして話が終わるころ男は埃をかぶっていた炉に火を入れた。

「なにを…?」

「その剣よこしな、鍛えなおす。いや、さらに強くしてやる」

「で、でも明日にはジパングを発つし…」

「朝まで終わらせてやる」

 男が肩を震わせているのが分かった。このジパングに、それだけの女傑がいたこと。その最期、そして彼女の魂を尊重し、戦局にすでに適さない剣をひたすらに愛する異国の女戦士の気概に感動したのだ。

 男は涙を隠すように背をステラに見せたまま、火力を上げていく。鼻をすする音がしばらくはやまなかった。

「俺の名前はコジロウ。アンタは?」

「アリアハンの戦士ステラ」

「ありがとうよ。鍛冶屋にとって、アンタは最高の仕事をくれたよ」

 ステラはぶっきらぼうだが、男の誠意を見た。そして安心して自分の愛刀をコジロウに託した。

 

 翌日、コジロウは時間を守り『イナホの剣』を鍛え上げた。しかも柄をステラの手のサイズにまで合わせてあったのだ。作業に入る前にステラはコジロウに手を見せろと言われたが、その意図が分からなかった。説明がコジロウにとって面倒だったらしい。そして今まで以上に手になじむ『イナホの剣』をステラは抜いた。それはジパングの朝焼けに映えて、まばゆいばかりの光を放った。

「すごい…」

「さ、そろそろ出発の時間だろう。行きな」

 疲れきってはいるが、コジロウの顔は充実感にあふれていた。

「あ、ありがとう、コジロウさん!」

「なに、礼には及ばんよ」

 そして剣を腰に帯びたステラを見て言った。

「ステラ殿、いろは様をお頼み申し上げる」

「お任せください。彼女は貴方が鍛えた我が剣の主ですから」

 

 家からステラが出て行くと、コジロウは床にそのまま大の字で寝た。

「サスケ…いろは様、生きておられたぞ。ご立派になられた。良い仲間もいる。さすがはお前のご主君だな」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 かつての同僚の仕事を見て、サスケは懐かしそうだった。そして剣を収めステラに返した。

「『イナホの剣』。それがこの剣の銘ですか。良い名前ですね」

 そんなステラとサスケのやりとりの中、ホンフゥ、ガライ、カンダタ、マリスは温泉の更衣室の方に歩いていった。話が長くなりそうな予感がしたからである。

 

「でもステラ…その剣ではそろそろ限界なのじゃないでしょうか…」

 剣を腰に戻すステラにいろはは言った。

「え?」

「いかにコジロウ殿の鍛冶の腕を持っても、元は『はがねのつるぎ』。あなたがイナホさんに義理を果たすのは分かるけど…そろそろ新しい武器を」

「そんなわけにはいかないよ。この剣にはイナホさんやレンドル様の魂が込められている。簡単に鞍替えなんてできないよ」

「レンドル!?」

 サスケは息を飲んだ。

「あの聖賢者レンドルのことですか?」

「そうです」

「で、ではいろは様はエッゾでは神と崇められている彼と会ったのですか?」

「はい。アリアハンの城下で…」

 サスケは一層、興味深く『イナホの剣』を見た。

 

「まあまあ、立ち話もなんですから、食堂に。お茶も用意しますので」

 アンナに促され、一行は食堂に行き、そしていろはは語った。レンドルとイナホの話を。イナホの最期にはアンナも涙を浮かべた。

「なるほど…正直ゾーマに挑もうと云う戦士が『はがねのつるぎ』を装備しているのは妙と思いましたが、そういう事情がおありでしたか…。コジロウにはその話を…」

 ステラは黙って首を縦に降ろした。

「最初、コジロウさんは『はがねのつるぎ』より強力な剣を私に用意してくださいましたが、事情を聞き、黙ってそれを鍛えて下さいました。バラモスを斬れたのも、その剣があったればこそ、なのです」

「剣には、彼の鍛冶魂も宿っているようです。はがねのつるぎをここまで鍛え上げるとは、はたして今の私でもできるかどうか…」

 サスケは刀身を感慨深く見つめた。

「しかし、この剣ではアレフガルドに巣食うモンスター相手では厳しいのが現状でございましょう。いろは様の言われるとおり、母体は『はがねのつるぎ』なのですから」

「おっしゃる通りです。でも私は…」

 サスケはステラの言葉を制した。

「分かっております」

 剣をサヤに収めつつ、サスケは言った。

「私が再度、鍛えましょう」

「ほ、本当ですか!?」

 ステラは思わず立ち上がった。

「はい、幸いに柄の部分はすでにステラ殿に十分に合わされていますし、さほどはかかりません。コジロウの鍛冶魂、レンドル殿、イナホ殿の思いが託されている、この剣。鍛冶屋としてやらずにいられましょうか」

「ありがとうサスケ。アレルの剣だけではなく、ステラの剣まで…何とお礼を言ったら良いか…」

 着座していたいろはは改めて立ち上がり、深々とサスケに頭を下げた。

「何のいろは様。世の中には山のようにゴールドを積まれてもやりたくない仕事もあれば、親の死に目に会えなくてもやらなければならない仕事もある。そんな仕事にめぐり合わせて下された事、私はとても感謝しているのです」

「それじゃサスケさん。俺の剣は後でいいから、ステラの剣を先に仕上げてくれ。俺にはまだ、草薙の剣があるからさ」

「ありがとうアレルさん」

 

「かっこいいよ! アンタ! んもう惚れ直しちゃったよ!」

 アンナは夫サスケに思わず抱きついた。

「お、おい。みなさんの前で…」

「かまうもんですか」

 サスケの頬にアンナはチューをしている。アレルは苦笑した。

「アレフガルドの女性は積極的だな」

「そのようですね」

 いろはも微笑を浮かべた。

「私も負けてられないかな」

「は? 何の話、ステラ?」

「え!? いや、こっちの話よ。アハハハハ!!」

 

「ヘックショイ!」

 温泉につかっているカンダタは大きなクシャミをした。

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