DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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第二十九話 告白

 アンナの宿は店じまいとし、いろは一行の貸切としてしまった。サスケは工房に腰をすえて、アレル、ステラの剣を鍛えだした。二本の剣が完成するまで、およそ三日間とサスケは言った。

 上の世界にいた時と違い、夜の感覚が麻痺しているとはいえ、マイラの村ではある程度の時間になったら鍛冶の仕事はできない。ハンマーの音が他の温泉宿にも響いてしまうからだ。

 しかし、いろはとアレルにそれほど時間のゆとりがないことはサスケも知っている。彼は許された時間の中、ほとんど食事も取らずにハンマーを振った。

 

 そして、パーティーはその三日間を有効に使った。まず、リムルダールと聖なるほこらまでのルートの選定。馬車と馬具、各々の武具の手入れ。

 保存食、飲料水の確保。厩舎で繋ぎっぱなしでは馬も体がなまってしまうので、村の空き地で放牧し、子供達が乗りたいと言えば、ステラやホンフゥは自分の前に座らせて走らせた。二人はすっかり村の子供の人気者であった。

 

 また、ガライはここでパーティーを外れた。伝書鳩ではラダトームへの報告も詳細を欠くので国王ラルスが改めてガライとアレル、いろはを召し出したのだ。しかし、アレル、いろははマイラを離れるわけにもいかない。ガライはいろはの書状を預かり、王都へと帰っていった。護衛にはカンダタがついた。

『銀の竪琴』があるので、心配はいらないとガライはカンダタの申し出を断ったが、半ば強引にカンダタはガライに同行した。マイラから王都ラダトームまでは馬を飛ばせば一日で往復できるほどの行程だった。

 

 マイラを出て、四度目のガライの竪琴を聴いた。魔物たちは猫撫で声をあげて去っていく。

「ふう」

「何度見ても見事なものだなあ」

「まあ、非力な私の唯一の武器ですから」

「な、一度だけ俺に弾かせてくれ。本当に変な旋律だとモンスターが寄ってくるのか見てみたい」

「ん~。この辺のモンスターはカンダタさんのレベルなら大丈夫でしょうし、いいですよ」

「やったぜ。ガライ、一応離れておいてくれ」

「大丈夫です。私がすぐに弾き直せばモンスターは離れていくので」

「あ、なるほど。では…」

 カンダタは銀の竪琴を弾いた。すると

 

 ドドドド…

 モンスターが大挙して寄せてきた。しかも闘志満々の状態で。

「グギャアアアア!」

「ブオオオオ!」

 

「うおおおっ、本当に来た!」

「カンダタさん、私に竪琴を」

「おっ、おお、頼むよ」

「モンスターども、棲家に帰るがよい~」

 改めてガライが竪琴を奏でると、途端に大人しくなり去っていった。

「いやぁ、すごいな」

「もう貸しませんよ」

「わかっているよ。すまなかった。さあ、行こうか」

 

 結局、ガライがラダトームに到着するまでカンダタの出番はなかった。

「ホントに出番がなかったな」

 カンダタは頭を掻きながら笑った。

「でも、カンダタさんがそばにいたから、私も安心して竪琴を弾けたのですよ」

「フォローあんがとよ。ところで、ガライ、あれは何だ?」

「え?」

 ガライはカンダタの指す方向を見た。しかし何もない。だがカンダタはこの時、一つの仕事をした。

「何も…ありませんが?」

「すまん、気のせいだったようだな。アハハ」

「?」

『ヒヒィィン』とカンダタの馬がいななきを上げる。カンダタが馬の手綱を引いたのだ。

「じゃあな、ガライ。次に会うのはゾーマの野郎をとっちめた後だ。元気でな!」

「え、ええ。カンダタさんもお元気で」

 カンダタはラダトームに到着しても馬を降りず、そのままマイラへと戻っていった。

「すまねえな。ガライ…」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして三日目が夜を向かえた。サスケの話では翌日の昼に二本とも完成と言う。サスケはよほど疲れたのか、そのことをいろはに告げると夕食と温泉を済ませると寝てしまった。

 寝相の悪さで崩れてしまった掛け布団をアンナが直す。気持ち良さそうに眠る夫の寝顔をアンナは満足げに見つめ、夫を起こさないように、静かに寝室のドアを閉めた。

 

「奥さん」

「あら、どうしたの、いろはさん」

 寝室の外ではいろはが立っていた。

「すみません…。ご迷惑をおかけして…」

「迷惑なんて思っていませんよ。亭主も望んでやっていることですし」

 いろははカバンから袋をとりだした。中にゴールドが入っている。

「奥さん、サスケは無償で二振りもの剣を造ってくれています。しかし私たちも冒険者。優れた武具をただで得るわけにはいきません。これを受け取って下さい。アレルや私、そしてみんなの総意です。しかしサスケはたぶん受け取りません。ですから奥さんにお渡しします」

「いろはさん…」

「あまり無くて申し訳ないのですが」

「いいえ、そのお気持ち。とても嬉しいです」

 アンナは深々と頭を下げ、いろはからゴールドを受け取った。

 

「ところで…いろはさん…」

「はい」

「一つだけ教えて下さい。もし夫サスケがゾーマを討つ旅に同行したいと言ったら…連れて行きますか?」

 いろはもそれは気にしていたことであった。確かにサスケはダーマやルイーダの酒場に登録してある『職』には就いていない。

 しかし、その武勇はジパングにいた時と同様にまったく衰えてはいない。言ってみれば『戦士』と『武闘家』の力を兼備している猛者である。たとえステラ、アレル、カンダタ、ホンフゥに及ばずとも、戦力の大幅な向上となるのは疑いない。

 だが、いろははサスケにそれを頼むことはできなかった。

 

 愛妻アンナと小さな宿と武器屋を営み、幸せに暮らしているサスケ。今は彼の生活がある。もはやジパング宰相とその家来と云う間柄ではないのだ。ただ戦力になると云う理由で連れて行って良いものではない。そしてアンナは暗にいろはに『夫が申し出ても断って欲しい』と言っている。

 

「…断るつもりです」

「本当ですか!?」

「はい、確かにサスケ、いえ、ご主人が我々の仲間になって下されれば頼もしい限りですが、しかし、それでも連れてはいけません」

「いろはさん…」

「今にして思うと、オルテガ様の気持ちが分かります。ご自分が武運つたなくゾーマに倒され、その仲間にご主人がいた場合、次にゾーマへ挑戦する者たちの武器を誰が作れましょう。このアレフガルドで、ゾーマを斬れる剣を作れるのはご主人しかおりません。オルテガ様が言われたとおり、一流の戦士はいても、一流の鍛冶職人はいないのですから」

「ありがとうございます…。しかし夫はそれで同行をあきらめてくれましょうか。最近、夫は鍛冶のかたわら、剣の修練もしているようで…もう着いていくことを決めているみたいなのです。大切なご主君が危険な戦いに身を投じようとしているのですから夫がそう思うのも無理はありません。でも…私にはもうあの人しか…」

 アンナの目に涙が浮かんだ。

「奥さん…」

 

 一方そのころ、カンダタはステラの部屋へと向かっていた。

「えーと『ようステラ一発やりに、じゃない、一杯やりに行かないか』。うん、無理のない誘いだな」

 女部屋には、ちょうど今マリスといろはは部屋から出ていて、ステラしかいないのはリサーチ済みであった。部屋に近づくにつれ、カンダタの胸はドキドキしてくる。

「よくよく思えば…俺は素人女と付き合ったことないんだよな…。妓館の女ばかりで、恋だの愛だのと女を口説いたこともない。金さえ出せば寝る女しか抱いたことがないんだよな。それでいいと思っていたし、これからもその気だったが…」

 女部屋のドアの前にカンダタは到着した。だが中々ノックができない。

「ふう。まるで初心な子供のようだな」

 意を決し、カンダタはノックをした。

 

 コンコン

 

「はい」

 いつもは何も気にせずに聞いているステラの声が胸に響く。

「落ち着け。落ち着け俺」

「誰?」

「俺だよ。ステラ」

 ドアが開いた。

「ど、どうしたの?」

 何故かステラは化粧していた。

「な、何だ化粧なんかして。どっか行くのか?」

「い、いえ…別に…」

 実はステラもカンダタのいる部屋に行こうとしていたのであった。恋愛ごとに奥手なのはステラも同じ。しかし、勇気を出してカンダタを食事に誘おうとしていた。そのために化粧をしていたのだが、誘うつもりであった当人のカンダタがステラの部屋にきた。

 

「えっと。コホン…ステラ、飯でも食べに行かないか」

「い、いいけど…」

「そうか! じゃ早速行こう!」

「ちょ、ちょっと待ってよ。女には準備があるんだから」

 ステラは一旦ドアを閉めて、着替えだした。カンダタはドアの外で胸をときめかせながら待っている。

「あー、なんかドキドキすんなあ。初めての感覚だ」

「びっくりしたあ…。私から行こうと思っていたのにアイツから誘ってくるなんて」

 一通り自分の衣装を見繕うが、旅先でそんな気の利いた服などあろうはずもない。

「しょうがない。これでいいか」

『みかわしの服』にステラは着替えた。緑一色の服がステラの赤い髪を映えらせ、中々に似合っていた。『イナホの剣』はサスケに預けていたため、皮袋にドラゴンキラーを入れ肩にぶら下げた。

「お待たせ。行こうか」

「お、おお。行こう」

 

 マイラの村の南端にて営業している酒場に二人は行った。ラダトームの酒場と違い、温泉街の酒場ゆえ活気のある酒場だった。筋骨隆々のカンダタと大女であるステラが入ってくると、やはり目立つ。

「えー、俺はシチューを。飲み物はコーヒーで」

「カンダタ、アンタお酒は?」

「いや、今日はいいんだ」

「?」

 初めてカンダタは女性を口説こうというのである。酒の勢いは借りたくなかった。

「じゃあ私もお酒はいいか。私もシチューと紅茶で」

 

 

 給仕がカンダタたちのメニューを確認し、彼らの席を後にすると、二人には会話が無かった。お互いに何を話してよいか分からなかった。まるで初対面の男女のお見合いのようだった。とてもあのシャンパーニの塔で死闘を演じた二人に見えない。

 あの日から、共にモンスター相手に激闘を繰り返し、今では目だけで戦闘中にお互いが何を考えているのかは分かるほどである。でも今は戦闘中ではない。

 女には言葉で表さなければ、気持ちは通じない。カンダタもそれは知っている。しかし本題に入る前の前口上が全く頭に浮かんでこないのだ。前口上が浮かばないなら、ストレートに行くしかない。カンダタは腹を決めた。

 

 ステラもまた、言葉が浮かばなかった。置いてけぼりを食った自分が、アレフガルドにまで仲間たちを追いかけてきた理由。それはいろはとアレルを一発殴りたい、そして仲間たちを助けたい気持ちもあったが、大前提となったのはカンダタに会いたかったからだった。いつのまにか、自分はカンダタを好きになっていた。

 自分の夫となるものは自分より強い男と、ステラは昔から決めていた。しかし、そんな男はいなかった。

 

 アレルやホンフゥと実際に戦えば、自分は勝てないかもしれない。だが『実戦』と云う形で立ち会って、自分を圧倒したのは、この世でカンダタだけである。しかも、彼はその時重傷を負っていたにも関わらずである。

 仲間と認め、頼りにしていくうちに、自分の中にカンダタを思慕する気持ちが出てきた。女から気持ちを打ち明けてもいいじゃないか。そう思いアレフガルドまで追いかけてきた。そして今日、いよいよ決断して告白しようと思えば、その相手のカンダタがステラを誘ってきた。

 さあ、どうしよう。せっかく誘ってくれたのだから千載一遇の好機である。いつも口やかましいホンフゥもマリスもいない。言葉を模索しているうちに、カンダタが切り出した。

 

「なあ、ステラ」

「な、なに?」

「こ、この旅が終わったらさ…」

「お、終わったら?」

 始めから核心に迫るカンダタ。ステラも不安と期待を胸にカンダタの言葉を待つ。だが、その時であった。

 

 ガシャーン!

 

 食器やグラスが割れる音が店内に響いた。給仕の少女が酔っ払いに絡まれ始めたのだ。

「や、やめてください!」

「いいじゃねえかよ。こっち来て酌しろや」

 酔っ払いのテーブルは六人くらいの大男が我が物顔で座っている。店の主人らしき者も、報復を恐れてか、見て見ぬふりをしている。

 誰も止めに入らないことで、酔っ払いは調子づき、少女の胸や尻も卑猥な手つきで撫で回した。少女は泣き出した。

「だ、誰か助けて下さい!」

「助けてくれはねえだろ~」

 大きな手で少女の顎を押さえつけ、無理やり頬にチューしようとしていた酔っ払いの頭にグラスが当たり砕け散った。投げたのはカンダタだった。

 

「いいかげんにしやがれ! こっちは大切な話をしているんだ!」

 隣のテーブルにいた客は小声でつぶやいた。

「あーあ、気の毒に…アイツら山賊だぜ…関わるだけ損なだけだ」

 酔っ払いと同じテーブルにいた大男たちがカンダタに絡み始めた。向かいに座るステラにも興味を示しだした。

「ほう、いい女連れているじゃねえか。女の前で良いカッコしようってか」

「ゲスが…」

 ステラが侮蔑を込めて言った。カンダタの言葉を待っていたのに、それを邪魔され、機嫌は最悪である。

「なんだと?」

 酔っ払いたちは顔を真っ赤にするほど怒りだした。

「俺たち山賊ウルフ一家に喧嘩を売るとは良い度胸だな。表に出ろ!」

 

 ステラはドラゴンキラーを持っているし、カンダタはホンフゥに及ばずとも素手による戦いも達人級である。多勢でも人間相手なら瞬殺できる。

 しかしカンダタは表に出るとステラに言った。

 

「お前は手を出すな」

「そりゃあアンタ一人でも片付けられるでしょうけど、私だって頭に来ているのだから、やらせてよ」

「違う。ここで連中を倒すのはたやすいが、そんな真似をすればこの村で生活しているサスケ殿やアンナ殿に迷惑がかかる。下手に逆恨みされて、我々が村を出たと同時に、あの宿屋を襲うかもしれない」

 カンダタの危惧は杞憂とは言えない。ステラも不安になってきた。こんな暗闇の中で生活をしている者たち。ストレスも並大抵のものではないだろう。下手に、この山賊を倒して余計な恨みを買ってしまい仕返しの標的が自分たちならまだしも、サスケ夫婦に標的を移されたら申し訳ないでは済まされない。

「すまん。短慮だったかもしれんが、連中の横暴を黙っていることはできなかった」

「分かっている。でも、どうするの。悔しいけど逃げる?」

「そうもいかないだろう。まあ、何とかするさ」

 

「どうした。逃げ出す算段でもしているのか? まあ男は逃げてもいいぞ。その威勢のいい姉ちゃんだけ置いていけば」

 山賊たちは六人と云う数を頼りに勝つことを確信している。カンダタは腰に差していた『アサシンダガー』を地に放った。

「俺は手を出さねえから、気が済むまで殴ったら消えろ」

 山賊はカンダタの言葉を聞くと吹き出した。だがカンダタの目は威圧感にあふれている。山賊たちから笑いが消えた。カンダタが格好つけている見たのか、悔し紛れにツバをカンダタの顔に吐きかけた男もいた。だがカンダタは顔色一つ変えなかった。

 

「ふ、ふん。いいだろう。いつまで耐えられるかな。おい、武器を使うなよ。じっくり殴り続けてやろうぜ」

 カンダタの狙いは的中した。武器を捨てて、無抵抗に殴られようとしている男に対して、さすがに武器は使えない。そんなことをすればアウトローの世界でも外道の烙印が押されてしまう。たとえ小さな村で起きた小競り合いでも、こういう情報は瞬く間にアレフガルドに駆け巡る。世界は違っても、そういうルールは共通であった。

 

 また、素手での攻撃なら、モンスターとの戦いの場数を踏んでいる彼にとっては、さしたるダメージは受けない。

「さあ、俺の鉄拳を馳走してやるぜ!」

 六人がかりの拳と蹴りがカンダタを襲う。しかし、カンダタは黙って受け続け、姿勢さえ崩さなかった。

「カンダタ!」

 ステラは肩にぶら下げている袋の中に入っているドラゴンキラーに触れた。

「よせ!」

「カッコつけんじゃねえ!」

 カンダタにグラスを投げつけられた酔っ払いが渾身のチカラを込めて、カンダタの横っ面にパンチを入れた。

 

 ゴキッ

 

 その男の指が折れた。しかしカンダタは口元に血を垂らすだけでほとんどダメージはない。男の仲間が聞いた。

「どうした?」

「何でもねえ! やっちまえ!!」

 六人の山賊はカンダタを殴り続ける。ステラの堪忍袋も限界であった。しかし、カンダタの言うとおり自分たちが彼らを倒した場合、このマイラで生活するサスケ夫婦に災いが及ぶかもしれない。カンダタはそれを懸念し、彼らに無抵抗で殴打を受けている。今、自分が怒りに任せて六人を倒したら、我慢しているカンダタの気持ちが無駄になる。ドラゴンキラーを握り、そして離すをステラは繰り返していた。

 だから、せめてステラは殴られ続けているカンダタから目を逸らさなかった。山賊に『やめてくれ』とも言わなかった。連れの女が許しを請うような真似を見せたら男の恥になると思ったからである。ただ、だまって見ていた。

 

 前後から、左右から、上下から、カンダタは殴打され続けた。しかし彼は倒れなかった。やがて六人の山賊は殴りつかれたのか、肩でゼイゼイと息をしている。汗もかき、酒も体から抜けていき、少し冷静にもなれてきた。何より彼らのうち四人は指を折っていたのである。彼らは手の甲がプックリと腫れ上がっていた。カンダタは最初に立っていた場所から寸分も動いてはいない。

 これ以上やってもカンダタが根を上げないことは彼らも分かった。そして強烈なほどに理解した。この男は俺たちを倒そうと思えば簡単に倒せるのだということを。

「ヘッ この辺で許してやるぜ。二度とマイラでデカい顔すんなよ!」

 

 威勢のいい捨て台詞を吐いて、六人の山賊は去っていった。カンダタの視界から彼らが消えると、ようやくカンダタは腰を下ろした。

「ふう。けっこうしんどかったな」

「カンダタ!」

 ステラは『みかわしの服』のフードの部分を破り、ハンカチにしてカンダタの顔を拭いた。

「ああ、サンキュー」

「こんなに腫れて…」

「なに、あの宿の温泉に入れば、すぐに治るさ。アイテテテ」

「…こんな時、回復魔法が使えたらな、て思うよ。いろはなら、こんな傷すぐに治せちゃうんだよね…。ちょっと悔しいな」

 自分の顔を拭くステラの手をカンダタは掴んだ。

「カンダタ?」

「回復魔法だけが、人の傷を癒すわけじゃないさ…」

「うん…アリガト」

 ステラの手を掴んだままカンダタは言った。

「さっきの続きだけど…ステラ、この旅が終わったら…」

「…終わったら…」

「…俺と一緒になってくれないか」

 カンダタが一生懸命に考えた求婚の言葉であった。顔を真っ赤にしてカンダタはステラの目を見つめて言った。

「…うん、いいよ」

 ステラも顔を真っ赤にして、それに答えた。

「ホ、ホントか!」

「ただし…」

「ただし…なんだ?」

「妓館に行くのは、もうダメだからね」

「も、もちろんだとも!」

 カンダタはステラを思い切り抱きしめた。

「嬉しい、カンダタ…あなたも私のこと好きでいてくれたなんて…」

「さあ、もう一度改めて酒場に入ろう! やっぱり今日は飲む! 祝杯だ!」

「そうね!」

 酒場に入り、二人は改めて祝杯をあげた。二人にとっては格別の美酒であった。

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