DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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第三十四話 暗い部屋の中のいろは

「ここが聖なるほこらか…」

 アレル一行は予定より半日ほど早く『聖なるほこら』に到着した。

 なるほど、ほこらの随所には『魔除けの鈴』が備えられているし、どうやら扉にも何らかの聖なるエネルギーが働いているのか、モンスターを含め、邪な者には開けられそうにもない。

『ルビスに選ばれし者』であるアレルはその扉を容易に開けた。中から湿って、ややカビ臭い空気が流れてきた。たまらずマリスはむせた。

「ゲホゲホッ、何この陰湿な空気!」

「まあ、湿地帯にあるほこらだからな。仕方ないよ」

 アレルはこの時もう左手に『太陽の石』。右手に『雨雲の杖』を持っていた。

 カンダタが松明を持ち、仲間を先導している。外壁を見るとカビや汚れがへばりつき、あまり見栄えのいいものではない。

「聖なるほこらか…。完全に名前負けしているぜ」

 三分も歩くと祭壇が見えてきた。その手前に二つの台座がある。おそらく、あの二つの祭壇に神器を置けば、『虹のしずく』が誕生するのだろう。

 マルセラの情報に間違いは無かった。アレルは左の台座に『太陽の石』。右の台座に『雨雲の杖』を置いた。そしてルビス救出の際、アレルがルビスより授かった『聖なる守り』。それを両手で握り、祭壇に祈りを捧げた。

「精霊神ルビスよ… 虹のしずくを我に与えたまえ!!」

 後ろに控える三人も横一列に並び、アレルと共に祭壇に祈った。

「俺たちに魔の島への道を!」

 カンダタが神仏に祈りごとをしたのは、生涯この一度だけではないであろうか。彼の左右にいるステラ、マリスも同じ気持ちで祈っていた。

 やがて左右の台座の上に置かれる神器が光りだした。するとどうだろうか、あれほどに汚かった、ほこらのカビや汚れだらけの壁が、瞬時に王宮の壁のようにきれいになった。

 そして二つの神器の光は中央の祭壇に集中しだした。光は金色から七色に変わり、しばらくすると、スゥと光は消えていった。

 アレルは急ぎ、祭壇まで駆けた。それに仲間たちも続く。そして見た。七色に輝く宝石を。

「や、やった! これが『虹のしずく』!」

 あまりの美しさにステラとマリスは『虹のしずく』に魅入ってしまう。

「ねぇん、アレルゥ。『虹のしずく』の役目が終わったら私にちょうだい」

 猫なで声でマリスはアレルにせがむ。

「アレル! 仲間の中で一番付き合いの長いの私よね!」

 ステラは遠まわしであるが、自分にちょうだいと言っている。アレルは虹のしずくを持ったまま、どっちにもいい返事ができずに困っている。

「アホ、島と島に橋を架けてしまうと云われる『虹のしずく』だぞ。女の装飾品には過ぎたものだ。それにこの手の道具は使った後に消えちまうのが常ってもんだ。残念だがあきらめるんだな。ははは」

 カンダタが助け舟を出した。あり得る話なので、ステラとマリスはしぶしぶあきらめた。

 

「コホン、では帰ろう。ほこらを出てすぐにルーラだ。いろはとホンフゥも待っているだろう」

 アレルは大事に袋の中の貴重品入れに『虹のしずく』をしまい込んだ。その時にカンダタが気づいた。祭壇の下、床との間のわずかな隙間に、まるでアレルたちに自分を発見してくれるように光を放つひとつの石があった。それは四角錐の青い宝玉が黄金の柄に取り付けられたものであった。カンダタがそれを取り出してみた。

「なんだこりゃ…」

 アレルも見つめた。

「不思議な感じのする石だな。いろはなら分かるんじゃないか?」

「そうだな…。見たところ祝福が込められている石のようだが…」

 カンダタは自分の道具袋にその石をしまった。パーティーが外に出ると、扉は再び聖なる力で封印されたのか、バタンと自然に閉じた。仲間四人、そして馬も揃っているのを確認し、アレルはルーラを唱えた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あー、着いた着いた! リムルダール!」

 マリスがリムルダールの町の入り口で伸びをする。

「ふう着いたか」

 カンダタは胸を撫で下ろした。アレルの手には『虹のしずく』がある。四人は目的を達成、道なき道を進み、ようやく『聖なるほこら』に到着し、『太陽の石』と『雨雲の杖』を融合させ『虹のしずく』を入手した。

 四人だけの冒険、かつ遭遇するモンスターも手ごわい者ばかりだったので無事に着けてパーティーの分割を提案したカンダタはホッとした。

「さてっと、いろはとホンフゥはどーなったかな? 急接近しているかもよ!」

 マリスはそればかり言っていた。

「さあ、どーかな。いろはは堅い女だから」

 厩舎に馬を入れながら、アレルは笑って答えた。

「なーによ、じゃあ私は軽い女ってこと?」

「そんなこと言ってないだろぉ?」

「いーや、そう聞こえる!」

「なに夫婦漫才やってんの、行くわよ」

 ステラが厩舎の厩員にゴールド渡すと、四人はいろは、ホンフゥがいる宿屋へと行った。

 

「こんにちは~」

「いらっしゃ…」

 宿屋の主人はアレル一行を見て顔を曇らせた。

「? 何か?」

「い、いえ…四名様で百二十ゴールドになります…」

 階段で二階の部屋に向かう一行。

「アレル…何か変じゃなかった? 宿の主人…」

 と、マリス。

「そうだな、何か…ああ、マルセラさん」

 階段を上がるとマルセラが立っていた。ステラが駆け寄る。

「ここ数日間、ありがとうございます。で、いろはの容態は?」

 マルセラはステラの問いに泣き崩れながら平伏した。

「も、申し訳ありません!」

「…え?」

「いろはさんは…いろはさんは…!」

 四人の顔が青ざめた。

 

「こっちだ」

 ホンフゥがアレルたちに声をかけた。四人は絶句した。ホンフゥの目には包帯が巻かれていたからだ。

「ど、どうしたんだホンフゥ!? 何があった!」

 アレルは血相を変えてホンフゥに詰め寄った。

「あとで話すよ。さ、こっちだ…」

 ホンフゥは杖を持ち、不自然に歩く。本当に目が見えない。四人がそれを認識するのに時間はかからなかった。

「ここだ…。ただし部屋に入るな」

 ドアノブを回そうとしていたステラの手をホンフゥは掴んだ。

「ど、どうして?」

 

「ステラ…」

「いろはね? 良かった! 病気治ったんだね。ところでどうしたの? ドアを開けてよ!」

「ごめんなさい…。私…もうみんなと行けない…」

 耳を疑うような言葉が聞こえた。

「い、今、なんて言ったいろは?」

 アレルが恐る恐る聞いた。

「アレル…ごめんなさい…。私…もう戦えない…」

「な…」

「これから私は…このアレフガルドのどこかの山奥でホンフゥと二人で暮らします…。私、一生ホンフゥの目となります…。もう決めたのです…」

 思わず顔に包帯を巻くホンフゥを見るアレル。

「そんな必要はない。すぐホンフゥの目を治してやる」

 そのアレルの襟首をホンフゥはつかんだ。さきほどにステラの腕を掴んだ事といい、目は見えなくても、やはり気配で仲間たちのいる場所は分かるのだろう。

「余計なことをするな」

「ホンフゥ…」

 襟首を静かに放した。

「すまん…。食堂に行こう。何があったのか話す。カンダタ手を貸してくれ」

 

 

 宿屋の食堂に行き、テーブルに五人が座ったころ、マルセラとエバンスも現れ同席した。

「紹介します。このリムルダールの神父エバンスです」

 マルセラがエバンスを紹介した。

「はじめまして」

 四人はエバンスに軽く挨拶をした。それよりもどうしていろはがあんな選択をしたか知りたかった。ホンフゥが切り出した。

「あれは四日前の夕刻だった。いろはの容態が一向に良くならず、カンダタ、お前の言うとおり教会に助けを求めた。そして来てくれたのがエバンス神父というわけだ。それで…」

 ホンフゥは語った。ヤマタのオロチの配下であったヌエと云う凶獣がオロチ討伐からずっといろはに憑いていたこと。それを払うことで高熱は下がった。そしてその後、自分がヌエと戦い、何とか倒したものの、ヌエは最後の力を振り絞って再びいろはに呪いをかけたと。

「『呪い』? どんな?」

 ステラが詰め寄る。ホンフゥは答えにくそうだった。

「ホンフゥ、教えて! 私たちにも大事なことよ!」

「私が答えます。ヌエの呪いは自分の命と引き換えに、いろはさんを醜女に変えることです。痘痕なんて生易しいものではありません。私がチラと見たかぎりでは、大小のコブが顔中、そしておびただしいほどのケロイドが…」

 マルセラも最後は涙声になった。

 

 アレル、カンダタは驚きのあまり声が出なかった。マリスはワッと泣き出し、ステラは呆然としていた。

「そ、そんな…」

 ステラは憤然として立ち上がった。

「ホンフゥ! あなたがついていながらどうして!」

「すまん…」

「よせ、ステラ! ホンフゥを責める資格など誰にも無いぞ!」

「分かっている…分かっているよ…カンダタ…。でも…でも…」

 テーブルに顔を伏せ、ステラは泣き出した。

「どうして…どうしてこんなことに…。あんなに世界を平和にするためがんばってきたいろはが…どうして…神も仏もあるもんか…」

 食堂の中に静寂が流れる。

 

 

「ホンフゥ。その目はどうしたんだ? ヌエってヤツにやられたのか?」

 アレルが訊ねた。

「……」

 マルセラが再び答えた。

「…違います。ホンフゥさんは…醜くなってしまった顔を見て絶叫するいろはさんを見て、ご自分で目を切り裂いたのです…。いろはさんのために…」

「な…!?」

 いろはがホンフゥの目になると言った意味を一行は理解した。いろはのために自らの目をつぶしたホンフゥ。バカなことを、と誰も思わなかった。アレルとカンダタ、俺はできるかと思わず自問した。マリスがそうなったら…ステラがそうなったら…俺はできるか? 答えは出なかった。

「ホンフゥ…あなた…」

 ステラも声を出して泣き出した。

 

「エバンス神父。何とか方法はないですか? ホンフゥの目はベホマで何とかなる。しかし、いろはの顔を元に戻す方法。何か、何か無いですか?」

 ステラとマリスの泣き声が響く中、すがるようにアレルはエバンスに訊ねた。

「精霊法術でも…シャナクもベホマも効きませぬ…。いろは殿も自ら治療してみたようじゃが…このアレフガルドではもう打つ手は…」

「クッ…」

「すまんみんな…。俺といろはの旅はここで終わりだ…。しばらくしたら俺はいろはを連れて、どこかの山奥に引っ込み二人で暮らしていくよ」

 ゾーマはどうする、と誰も言えなかった。しかし、四人だけでゾーマに勝てるとは思えない。ゾーマ打倒をあきらめる? それとも玉砕覚悟で行くか? アレルは決断を迫られた。その時だった。

 

 

「…アレル、上の世界、戻れると思うか?」

 カンダタが言った。

「な、なんだよ。ルーラで試しただろ。行けなかったじゃないか」

 カンダタは何か考えがありそうだった。

「エバンス神父、マルセラ。マイラで聞いたがキメラにはただのキメラ、メイジキメラ、スターキメラといるそうですね」

「ええ…しかし、スターキメラの力は強大と言いますが…」

「そうか!」

 エバンスが膝を叩いた。

「スターキメラの翼にはキメラとは比較にならない移動系魔法力が込められていると聞く! その翼を用いればあるいは!」

「上の世界に戻れるの!?」

 マリスはベソをかきつつも聞く。だがステラはテーブルを叩いた。

「ちょっと! 今は上に帰れる帰れないを話す時じゃないでしょ!」

「分かっている。いろはを救う方法、ひとつだけあるかもしれん」

「なに?」

 無言で会話を聞いていたホンフゥがカンダタの言葉に反応した。カンダタは自分の道具袋から小さな瓶を出した。アレルも見覚えのある瓶だった。

「カンダタ、確かそれ…ピラミッドで見つけたものじゃ…」

「そうだ、俺たちには役に立たないものと思っていたが、捨てずに取っておいて良かった」

「カンダタ、中に入っているのは薬か?」

「ちがう『時の砂』だ」

「時の砂?」

 

 エバンスはその瓶に見入った。

「それが『時の砂』!?」

「ええ、振りまくとその者にだけ時間が戻ると云うアイテムです」

「時間!?」

 ホンフゥは立った。

「それじゃあヌエに呪われる前にいろはの体の時間を戻せば!!」

「そうだ。元に戻る」

 ステラとマリスはカンダタに抱きついた。

「やったあ! さっすが兄貴!」

「すごい! さすがは私の旦那になる男だよ!」

 

「まあ待て、続きがある。この『時の砂』は賢者の詠唱でなければ反応しない」

「「ええ!?」」

 ステラとマリスは揃って落胆の声を出す。

「マルセラ、このアレフガルドに賢者は?」

「いえ…残念ながら…」

「やはりな。上に行くしかないな」

「賢者といえば…レンドル様!」

 ステラとアレルは顔を見合わせうなずいた。

「よし、カンダタ、話を整理してくれ」

「ああ、まずスターキメラを倒し、一匹から一枚しか取れないと云うキメラの翼を取る。レンドル殿の帰りを合わせれば三枚必要だ。その後、ステラに『アレルブルク』の町をイメージしてもらい移動。そしてレンドル殿を連れ、リムルダールに戻る。そして時の砂を使ってもらい、いろはを助ける。その後、ついでにホンフゥの目を治す。以上だ!」

 仲間たちは一斉に席を立った。

「ところでマルセラ。スターキメラの生息位置、および特徴は?」

「生息位置はメルキドの町南側の森林です。容貌そのものはキメラと変わりません。しかし体の色は炎のように赤く、体が表すかのように紅蓮の炎も吐くと云います。力も強くダメージを与えればベホイミも唱え、油断ならざるモンスターです」

「それだけ聞ければ十分だ。アレル!」

 行くぞと云うカンダタの気持ちがアレルに伝わった。

「あまり時を置きたくない。いろはの心の傷が深すぎる。スターキメラの群れと遭遇したらミナデイン一発でしとめる。フルパワーでやるぞ!」

「OK!」

 アレルの言葉に仲間たちは答える。

「ホンフゥ、お前は残ってくれ。そして今俺たちが決めたことはいろはに言わないでくれ。話は全て成ってからでもいい。いろはを頼む!」

「ああ、分かった。アレルも気をつけてな」

 仲間たちは宿屋を飛び出した。

「ついではねえだろ…ったく」

 少し頬を膨らますホンフゥにマルセラは苦笑した。久しぶりに笑った。




次話に再び賢者レンドル登場です。僧侶の女の子が主人公である以上、賢者はメインパーティー内に入れられないと思い、すでに一線を引いた老爺として登場させました。私も好きなキャラクターです。
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