ゾーマの城。パーティーはとうとうこの城に攻め込んだ。アリアハンをバラモス打倒のために旅立ち、早や数年。ヤマタのオロチ、ボストロール、そしてバラモスの屍を越えて、いよいよ最終決戦の場にいろはは立ったのである。
カツーンカツーン…
魔の島での激闘が嘘のように静かであった。カンダタがよく言っていた。こういう静かな雰囲気の敵城は、敵がいないのではなく、こちらの様子をじっくり見ているためだと。それは理性の無い戦うことだけが本能のモンスターだけでなく、敵に知恵者がいることを物語っており、絶対に勝てる計算を成り立たせた後に容赦なく襲い掛かってくる。絶対に油断してはならない。何故なら敵が自分たちに対して油断をしていないからだと、カンダタは言っていた。
だから彼の役割はパーティーの最後尾のしんがりであった。先頭のアレルと同等の危険性を含むしんがりを彼はいつも率先してやっていた。敵は自分たちの前から攻撃してくるとは限らないからである。
文字もあまり知らず、算術もドンブリ勘定のカンダタであったが洞窟や塔、敵城の攻略ではいろは以上の智謀を発揮してくれ、パーティーの危機を何度も救っていたカンダタ。
こうしてゾーマの城に乗り込んでみると、どれだけ彼に自分たちが頼っていたか、アレルやいろはは背中の寒さで感じ取っていた。
初めて『戦う仲間』を亡くし、心の痛みは想像を超えるものであった。士気も激減している。モンスターが出てこないことは幸いでもある。
ステラは辛うじて隊列にいる。声を殺して泣きながら歩いている。アレルもいろはも、そしておそらくはホンフゥやマリスも撤退したほうが良いと内心考えているのかもしれない。
しかし、リムルダールにまで戻り、体勢を整え出直したとしても、魔の島にモンスターの大群が再び配備されていたらカンダタは何のために命を捨ててまで活路を開いたか分からない。カンダタの死を無駄にしてはいけない。歯を食いしばり、仲間の屍を越えてでも進まなければならない。ステラを除くパーティー全員がそれを理解していた。
だが、やがてステラは悲しみに堪えきれず、座り込んで泣き出してしまった。
「ステラ…」
「いろは…みんな…ごめんなさい…。私…戦えない…」
大女のステラが小柄なマリスより小さく見えてしまう。それほど彼女は悲しみの底にあった。最愛のカンダタが死んで間もないのである。戦士といえども彼女も一人の女性。最愛の人を亡くした悲しみを容易に乗り越える気力など鍛えようはずもない。
「ゾーマを倒して太陽を取り戻したとしても…もう私には希望がないの…」
普段は強気にステラに物事を言っているアレルやホンフゥも何も言えなかった。アレルは苦渋の決断を下した。
「…撤退しよう。今のままじゃ戦えない…」
アレルはマリスに目で合図を送った。マリスはうなずき、リレミトの詠唱を始めた。
「おいおい、待てよ」
「「…………!!」」
「ひでぇなぁ、勝手に殺すなよ」
泣いていたステラが立ち上がった。まさか、そんなことが。
「カンダタ!」
海水に濡れたカンダタの胸に飛び込んでいくステラ。
「生きていたのか!」
それに続くアレル。
「何とかな。足の傷、治してくれるか、いろは」
「はい、今すぐに!」
同じく歩んできた妹マリスの頭も撫でるカンダタ。まさかの生還だった。
「お前、どうやって?」
と、ホンフゥ。
「なに、虹の橋にロープを投げて、それに掴まっていた。辛うじて荒波に飲み込まれなかったってところだ。お前たちが必死に探してくれていたのは分かったけれど、こちらも返答する余裕はなくてな。すまなかった」
「どうでもいい…。貴方が生きていてくれたのなら、何もいらない」
「ありがとうな…。こんなに簡単に引っかかってくれて…」
「……なっ」
無防備なステラの腹部をカンダタの腕が貫き、背中から手が突き出した。
「ぐはっ…」
崩れ落ちていくステラを見下ろすカンダタ、嘲笑を浮かべている。
「カ、カンダ……タ…?」
「…!兄貴、何を……ぐあああっ!」
同じく無防備なマリス、至近距離でメラゾーマを食らってしまった。難燃性のマリスの装備だが、それさえも燃やすメラゾーマ。大火傷を負い意識を失ったマリス。
「カンダタがメラゾーマだと!?」
「何たる不覚!アレル、このカンダタは魔物が化けた偽物です!」
オロチが実姉ひみこに化けたのを見ているはずなのに、全く疑いを持たなかった我が身を呪ういろは。
「そ、それよりマリスに早くベホマを!死んでしまう!」
「もちろんです。ベホマ!」
最大の回復呪文だが
「かき消された!?」
「このエリアは、もう私の結界の中だ。そんな気の利いた呪文は使えぬよ」
いつかカンダタの言っていた『絶対に勝てる計算を成り立たせた後に容赦なく襲い掛かってくる』が最悪の形で的中することになった。
カンダタの姿を解いていくモンスター。
「私は大魔道ジャドガ、死までの間、覚えておいてもらおうか」
先ほどのアークマージとは比較にならない。状況は最悪だ。呪文が封じ込められた以上は肉弾戦しかない。そしてステラとマリス、このままでは二人とも死んでしまう。
急ぎ倒して結界を消し、二人にベホマをかけなければ。その焦りからアレル、ホンフゥ、いろはの連携も上手くいかない。
またジャドガは呪文だけじゃなく杖術も達人だった。ホンフゥとアレルの攻撃をはじき返し、イオナズン、ベギラゴンと強力な呪文を放つ。
「「はぁ…はぁ…」」
相手は自在に強力な呪文を撃てる状態なのに、自分たちは肉弾戦のみ。
いろはは何とかマリスの持つ『賢者の石』は彼女の道具袋から取り出そうとしたが、大魔道は何か察したか、それをさせなかった。
ホンフゥとアレルの攻撃で、わずかなダメージしか与えられないのだ。いろはのクシナダの長刀では太刀打ちできなかった。
やがて三人はジャドガの攻撃の前に膝をついた。
「ヒトの身でよくやったと褒めてやる。だが、ここまでだ。魔の島で身投げした仲間の元へ送ってやる」
「ここまでなのか…」
ついにアレルが弱音を吐いた。カンダタを失い、ステラとマリスの命も風前の灯火だ。ホンフゥも疲労困憊、いろはもクシナダの長刀を杖に何とか立っている状態。あと一つでも大魔道から強力な呪文を食らったら終わりだ。
一方、ステラは混濁した意識の中にいた。辛うじてまだ絶命はしておらず、深い意識の暗闇に落ちていった。だがその時、脳裏に不思議な光景が見えてきた。
(何…人…? 誰…見たこともない人…)
意識の暗闇の中、ステラの心の中に一人の女性が立っている。見たこともない女性だった。
(誰…?)
(私はイナホ…。貴方の使う剣に宿りし魂なり…)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(イ、イナホ…? あなたが?)
深く暗い意識の中、優しい微笑を浮かべてステラの脳裏に現れた女性。いろはと同じような雰囲気を持つ女だった。賢者レンドルとバラモスを倒す旅に出るも志半ばで倒れた男装の女戦士イナホ。ステラの持つ『イナホの剣』はレンドルの手を経て、イナホから受け継いだ剣である。
(戦士ステラ…私はずっと冥府からあなたを見ていました。そして私の父と母を殺したバラモス。その仇を私の愛刀で果たしてくれた礼…。それをずっと言いたかった…)
(暗い…。どんどん意識が遠のきます…。これが死なのですね…。もうすぐカンダタやイナホさんのいるところへ私も行くのですね…)
(ステラさん、まだ私のところに来てはいけません。私がただ一人、剣を預ける主人は世界で貴方だけです。今こそお役に立たせてもらいます)
(イナホさん…)
ステラの右手に握られている『イナホの剣』。元は普通の武器屋で買った『はがねのつるぎ』であるが、イナホによって柄に少し細工が施されている。レンドルと共に冒険のための世界地図を作る旅をしていた時に立ち寄ったポルトガ国。
この城下の露店でイナホはガラス玉を買った。水晶や宝石を買う金など二人には無かったからである。二つの同じ色のガラス玉。現在もレンドルは首にネックチェーンをつけてぶら下げているが、イナホは自分の愛刀の柄に取り付けた。
そのことはステラもレンドルから聞いている。ゆえに彼女は冒険中に特殊な力を込めた宝石を手に入れても決してガラス玉を外して装着しようとはしなかったのである。
コジロウ、サスケの鍛冶技術の集大成と云っても良い『イナホの剣』であるが、ここまでステラを助けてきたのは、このガラス玉の中に宿っていたイナホの魂なのかもしれない。
レンドルがこの剣を握るに相応しいと思ったように、イナホもまた自分の魂の宿る剣の主に相応しいと感じたのだろう。そしてそのイナホの魂は若き剣の主のために力を放つ。
ステラの持つ『イナホの剣』の柄に埋め込まれているガラス玉が光を放ち始めたことに、いろはも気づいた。
「『イナホの剣』の柄の玉が…」
やがて光は剣を包み、そしてステラの体をも覆い始めた。
「この『気』…まさか…『気孔』?」
『イナホの剣』より放たれた光の波動。それは雪深い未開の原野に住むジパングのエッゾの人々が先祖より伝えてきた『気孔』と呼ばれるものである。
しかし、いろはの世代のころには使いこなす者もいなくなり、幻と呼ばれている技であるがジパングの開祖スサノオのいた時代では外科的な負傷の治癒に絶大な効力を発揮した。習得は難しく現在のエッゾでは廃れてしまった技である。
戦士イナホはエッゾの生まれではあるが、存命中にこの技を使えたかと云うのは残念ながらレンドルの回顧録等にも記されてはいない。
しかし、先祖伝来の北方の血と自分の意思を継ぎバラモスを倒してくれた主を助けたいと願うイナホの気持ちがこの奇跡を起こしたのかもしれない。
暗闇の中、ステラの前に立つイナホは手を合わせ、精神を集中させている。
(レンドルの目は正しかった…。よくぞ私の剣を貴方に託してくれました。だから私も全力で貴方とレンドルに応えます。さあお立ちなさい。そして仲間たちと共に進むのです)
(だめ…だめなんです。私の最愛の人が目の前で死んでいきました。戦って勝利したとしても私には希望がないのです…)
(それなら心配はいりません…)
(え?)
(私には見えました…。六つの小さな光があの若者を包むのを…)
(六つの光…)
ステラにはイナホの言葉が分からなかった。そして意識がもうろうの中、耳に飛び込んできた言葉があった。
「ステラ――ッ!!」
(……え!?)
(やはり戦士の女が惚れる男はみんな同じなのでしょうか…。あの若者の瞳、私が大好きなレンドルの瞳と似ています。意思を宿した男らしい瞳…)
(イナホさん…)
(私がステラさんを助けられるのはこれが最初で最後…。私も帰るべきところへ帰ります。しかし私の意志は剣の命となり、貴方と常に共にあります…)
(はい…!)
(さあ、行くのです。ステラさん! 彼の瞳の意思に応えるために!)
奇跡であった。カンダタが化けたジャドガの一撃。腹部の穴が完全に治り、傷跡すら残っていない。意識を取り戻したステラは見た。魔神の斧を振り上げて
「こんな姑息な結界が俺たちに通用するか!」
魔神の斧の一閃でジャドガの結界は衝撃音と共に砕け散った。
「いろは!マリスに治療を!」
「はっ、はい!」
呪文が使える。マリスの火傷は見る見るうちに癒えていき、美しい肌を取り戻した。アレルは自分自身とホンフゥにベホマを使った。魔力は著しく失ったものの体力は完全に元に戻ったのだ。
マリスも意識を取り戻した。魔神の斧の主は名乗りをあげた。
「大盗賊カンダタ、地獄から舞い戻ってきたぜ!」
結界を破壊したカンダタの勢いは止まらない。アレルたちに大呪文を撃とうとしたジャドガに迫り、パーティーの武器の中で最重量を誇る魔神の斧を小枝のように振り、ジャドガに呪文を撃つ余裕を与えない。アレルが
「カンダタのフォローに入るぞ。いろは、ピオリム!マリス、バイキルト!俺、ホンフゥとステラはカンダタに続け!」
「「おおおおおおおおっ!」」
「おのれぇぇぇ!」
呪文を撃つが
「トロい!トロい!不意打ちでなきゃ敵に攻撃できない腰抜けが!」
マリスがマホカンタを使う。ジャドガは自分のイオナズンをまとも食らってしまい、そして激闘のすえジャドガの首が宙を舞った。ステラがイナホの剣でジャドガの首を刎ねたのだ。
一時は観念せざるを得ない状況だったが、何とか大魔道ジャドガを打ち倒すことが出来たパーティー。
「いや、みんな遅れてすまない。色々とあって…。何だよ、その疑いの目は?」
「それはだな…」
ホンフゥが説明した。
「なるほど、さっきのジャドガというモンスターが俺に化けてステラとマリスを騙し討ちしたと。本物だと証明する術はあるかな…」
「では、マリス。兄妹の貴女たちしか知らないことを質問してみれば?」
と、いろはが提案。マリスは
「そうだね…。兄貴、私の初めての獲物は?」
「ロマリアの脱税大臣の隠し金庫、丸ごとかっぱらった」
「うん正解、じゃ私がトチッて兄貴にしこたま怒られたのは?」
「ロマリアの借金取りのアコギナ商会に潜った時だ。お前が見つかって結局何も盗まずに引き上げたこと」
「それも正解、本物だね。これは私と兄貴しか知らないし」
続けてステラが
「次は私、カンダタ、私とアンタしか知らないことは?」
「ステラと俺しか知らないこと…。うーん、そうだな…」
ハッとひらめき、カンダタは右の拳で左手を叩いた。
「そうそう、ステラのあそこの毛は…」
顔を真っ赤にしたステラのビンタが炸裂する音がゾーマ城一階に響いた。
「バカ!バカバカバカ!そんなエッチィのじゃなく、もっと気の利いたことが言えないの!バカ!」
「いや、印象深かったし…。でも、すまなかったな…」
「なにがよ」
「先の岬では短慮だった。本当は『銀の竪琴』を奏でたあと、ロープを虹の橋に飛ばして助かるつもりだったのだが、そんなゆとりも無かったよ」
「…本気で死ぬ気だったと?」
「そうだ。全員死ぬよりはいいかと思った」
「それは違うよ兄貴!残される者の気持ちにもなってよ…。死ぬなら、みんな一緒じゃなきゃ」
「私もマリスに同感です。カンダタ」
「いろは…。あんがとよ」
「さ、ステラ…。ちゃんと言ってあげないと」
「うん…」
ステラはカンダタの胸に飛び込み
「おかえりなさい…。そしてもう…どこにも行かないで」
「ああ、ただいま。もうステラから離れないよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゾーマの城一階、アレルたちパーティーは再び歩を進めた。しんがりはカンダタが立つ。前を歩くマリスが
「ところで兄貴、足どうして治っているの」
「ああ、それはな…。あ、ステラ、このバンダナ、見覚えないか?」
カンダタは自分の頭に巻いている赤いバンダナを指してステラに訊ねた。今まで彼が頭に巻いていたバンダナとは異なる色だ。
「そのバンダナ…?」
「ほれ、あのマイラの村で俺とステラに絡んできた山賊ウルフ一家の…」
「ああ! 思い出した。確か頭目の男が…。でも彼のバンダナをどうして…」
この時ステラは思い出した。意識の中のイナホが言った『若者を包む六つの光』。六つと言う数から自分たちのことだと思っていたステラだが、よく思い出せば、あの時カンダタと自分に絡んできた山賊も六名だった。
「まさか…彼らに?」
「そうだ…。俺は彼らに助けられた…」
カンダタは語りだした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「う…うう…」
「…旦那、しっかりしなせえ…」
「…ハッ!」
カンダタが意識を戻した場所。そこはリムルダールの北西端で虹の橋のたもとであった。
「こ、ここは…」
「気がつきましたかい…」
カンダタの目の前、そこには息も絶え絶えの男が座っていた。マイラの酒場で少女にからんでいるところをカンダタにグラスを投げられた男であった。
「お前…確か山賊ウルフ一家の…」
「覚えていてくれやしたかい…ありがてえ…」
男はそういいながら倒れた。
「おい! どうした! まさかお前が俺を助けてくれたのか!?」
カンダタは男を腕に抱いた。
「褒めてやってくれませんか…。あっしの仲間たちを…」
「仲間たち…? おい…他の五人はどうした?」
男は首を振った。
「ま、まさか…五人とも俺を助けるために…? な、なぜだ? どうして俺を助けてくれたんだ!?」
「あっしら…旦那に惚れちまったんですよ…。ぜひ子分にしてもらいてえと思い、リムルダールまで追いかけてきやした。そしてようやく見つけた旦那はこの場に立ち、お仲間と虹の橋を魔の島に架けていた。その時分かった。旦那はゾーマを倒そうとしていると…」
首を縦に降ろすカンダタ。男は続けた。
「これは加勢をと思いつつも、魔の島にいるモンスターはあっしらごときじゃ歯が立たねえ。情けなくも虹の橋の上で震えていたんですが、あっしらは見ちまった。旦那がモンスターと心中するかのように、あの荒波に飛び込むのを…」
「それを…お前たちが助けてくれたのか…?」
カンダタの瞳から涙がポロポロと落ち、男の顔を落ちていく。そしてカンダタは気づいた。自分の足の負傷がすっかり癒えているのを。
「あっしは僧侶崩れでしてね…。ホイミくらいなら何とか…」
命を削る思いでカンダタを助け五人の仲間の命を失ってしまった男は、おそらく最後の力を振り絞ってホイミをかけ続けたのだろう。もはや指を動かすこともできない。
「俺は…どうお前に…」
(報いてやったらいい?)が涙声でカンダタは口から出せなかった。
「こ…あっしらを…こ…ぶんに…」
「ああ! ああ! 喜んで子分にしてやるとも! お前もそしてあの五人も!」
「へ…へへ…さすがあっしらが惚れた…親分…」
「お、お前の名前は!?」
「ダ…ダンク…」
「ダンク死ぬな! 俺は親分らしいこと何もしていないぞ! この恩を返させてくれ。死ぬな! 死ぬ…」
ダンクはすでに眠りについていた。満ち足りた顔をして彼は今、カンダタの子分になれたということを喜び、死んでいった。ダンクを抱きしめながらカンダタは泣いた。
「ダンク…生涯お前の名前は忘れない…友よ!」
その時、空から何かが飛んできて、カンダタの近くの地に刺さった。
「魔神の斧…」
魔神の斧に彫られた竜の彫刻。その竜の目がうすく光った。
「弔ってやろうと云うのか。お前にも分かるのだな…」
カンダタは穴を掘り、ダンクを埋めた。その際、ダンクが頭に巻いていた赤いバンダナを取った。
「俺の戦いを見ていてくれ。お前たちの故郷であるアレフガルドに必ず太陽を昇らせてやる。お前たちの親分として相応しい男として、ゾーマに臆することなく立ち向かっていく。お前たちがあの世で俺はあの男の子分だと胸張れるようにな!」
ダンクのバンダナを大事に懐にしまい、魔神の斧の柄を力強く握った。そしてカンダタはゾーマの城へと駆けていった。
後日談になるが、このダンクと仲間たちの最期はロト伝説にも記され『侠客の鑑』と後世から讃えられる。
そしてラルス二世の手により、このリムルダール北西端には彼らの廟も建立され、アレフガルドの人々はロト伝説に記された六人の名もなき勇士を愛し、誇りと思い続けるのである。春夏秋冬、彼らの廟に花が絶えることはない。