DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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第四十話 再会、そして別れ

 ゾーマの城地下深く、パーティーは進んでいく。彼らの士気は天を突かんばかりに高かった。一度は六人が三人にもなってしまったパーティーが再び全員揃ったのである。その喜びが彼らの士気をどんどん上げていった。

 

 ゾーマ城一階奥、玉座の間があったが無人のうえ袋小路だった。

 しかし、玉座の後ろに隠し階段があることをカンダタがあっさり見破り、パーティーは地下へと進んだ。カンダタがいなければ見つけられなかっただろう。仲間たちは彼の生還を改めて喜ぶのであった。

 

 だが、さすがに大魔王の居城である。パーティーの道を阻むモンスターたちもツワモノばかりであった。マントゴーア、バルログ、トロルキング、ドラゴン、ソードイトが次々と現れるがパーティーは力を合わせ進んでいった。

 

 

 そして階が下に行くにつれ、モンスターの出現率は下がってきた。今、彼らが歩いている階層に至っては足を踏み入れてから、一体のモンスターも出ていない。

「この静かさが不気味ね…」

 その静けさを表すかのように、ステラの言葉がフロアに響く。

「ん? 何だ、この音?」

 先頭のアレルが歩みを止めた。

「これは水の流れる音だな…」

 そういうと同時にアレルは視線の先に階段を見つけた。

「あの下から聞こえてくるな。下水道か?」

 階段を下りながらカンダタが鼻を利かせた。

「いや、それにしては異臭がしない。水路か何かじゃないのか」

 

 階下のフロアに出ると、幅が八メートルほどの水路があった。澄んだ水が静かに流れている。

「見ろ、水路だ。この音だったん…」

 

 アレルが言葉を言い終わるのを待たず、パーティーはその時に聞いた。剣と魔法がぶつかる音を。

「見て! 水路の橋の上! だ、誰かいます!」

 いろはが指す方向、そこには一人の男がいた。そしてその男の対峙しているモンスターを見てパーティーはさらに驚愕した。アレルが

「ば、馬鹿な! あれはオロチ!?」

「…あれは巨竜族最強と云われるキングヒドラ…。と、とにかく一人では分が悪すぎます。我らも加勢いたしましょう!」

 いろはたちは橋の上まで一目散に駆けた。だが間に合わなかった。キングヒドラの剛爪が剣士を切り裂いた。

 

「グアアア!!」

「フッフフフ…」

 爪に付着した剣士の血を満足そうに舐めるキングヒドラ。

「このやろう! 今度は俺たちが相手だ!」

 ホンフゥが黄金の爪を持ち、構えた。カンダタもマリスも、そしていろはも戦闘態勢に入った。しかしアレルとステラは固まったように動かなかった。

「? 何をしているのです、ステラ、アレル! 敵の眼前です!」

 いろはの声はアレルに届かなかった。

 

「親父…」

「え?」

「お、親父ィィッッ!!」

「フッフフフ…ほう、貴様オルテガの倅か…フッフフフ…」

「オルテガだと!?」

 思わずカンダタは倒れる剣士を見つめた。

「まさか…彼がアレルの親父だというのか?」

「ステラ…」

「ええ…間違いないわ、いろは…。あれが勇者オルテガよ…」

「そ、そんな…なんでこんな結末が…」

 

 アレルが急ぎ、血みどろで倒れるオルテガに走り寄り、手を取り、父の傷を見た。肩から袈裟懸けに深い斬撃を受けている。即死でなかったことは奇跡に近い。

「ベホ…」

「だめ! アレル!!」

 ベホマを唱えようとするアレルの左腕をいろはは押さえた。

「何するんだ、いろは!」

「だめです! こんな深手に回復魔法を唱えたら逆にとどめとなってしまいます!」

 いろはの言葉で我に返るアレル。回復魔法を使って良い状態か、だめな状態か、いつもなら判断できたことなのに、この場では頭に血が上り分からなかった。

「じゃあどうすれば…!」

「とりあえず、傷を洗い縫わないと!」

 そう言いながら、いろははステラを見た。ステラはうなずいた。

「オルテガ様の治療時間を作る。私たち四人だけでキングヒドラを倒す」

「それしかないようね。兄貴、戦闘の指示を」

 

「分かった。マリスは後陣で待機、俺たち三人にバイキルトを唱え、その後は氷系呪文で攻撃。そして賢者の石で俺たちの体力回復を。竜族なら火炎を口から放つことも想定できる。前衛は左右に俺とステラ、真ん中にホンフゥ。火炎に注意しながらホンフゥに正拳突きのチャンスを作る。その繰り返しで行くぞ」

「OK」

「よっしゃ!」

 四人は一斉にキングヒドラの前に陣を敷いた。倒したとはいえ相手は勇者オルテガ。キングヒドラもダメージを負っている。倒すなら今しかない。

 

 

 いろはがアレルと自分の水筒から水を出し、オルテガの傷を洗った。魔物の爪は汚れており、そのまま傷を塞ぐことは出来ない。傷を洗った後、消毒の酒を傷に注いだ。その痛みからオルテガが意識を取り戻した。

「う…うう…誰かいる…のか…」

 蚊の鳴くような声でオルテガは話し出した。

「親父! 親父! 俺だ。アレルだ!」

「ん…んん…」

「親父!」

「ま、まさか、こんなところで人の声が聞こえるとは…な…」

「俺だよ! アレルだよ親父!!」

「しゃべらせてはだめ、アレル!」

「…いや…私はもう助からぬ…。最期を看取られるのも何かの縁…私の頼みを聞いてほしい…」

 

 いろはは見た。出血も激しく、臓器の損傷いちじるしいオルテガの深手。助からない、いろはは思った。だが治療を続けた。奇跡を信じて。今まで孤独な戦いを続けてきたオルテガ。それが何の称賛もされず敵城で死んでいくなんてあっていいわけがない。汗だくになってオルテガを治療し続けた。

「…アリアハン…に妻と息子がいる…。二人に会って…伝えてくれ…。平和な世にすることが出来なかった夫を…父を…ゆ…ゆる…せ…と…」

「アレルはここにいるよ! 親父! 親父ィッ!!」

「ル…ルシ…ア…」

 最後に妻ルシアの名を呼び、静かにオルテガは目を閉じた。

「親父! 親父!!」

「…ごめんなさい…。助けられなかった…」

 いろはの瞳から涙が落ちる。

 

「フッハハハハ! その男も馬鹿なヤツよ。この魔の島まで泳いで渡るとはな。そのおかげで体力は消耗し、みじめな最期を迎え寄ったわ! クッハハハハ!!」

 ステラ、カンダタ、ホンフゥ、マリスの攻撃など歯牙にもかけていないように、キングヒドラは余裕の嘲笑を浮かべ、オルテガを侮辱した。

 悔し涙をうかべていろははキングヒドラを睨む。その時だった。アレルはフラリと立ち上がった。

 

 

「うああああ!!」

 と、叫ぶやいなや、オルテガの持っていたバスタードソードを握り、キングヒドラに突進した。五人が止める間もなく、アレルは一人で突進し、キングヒドラの間合いで跳躍し上段に構えた。

「あれは!?」

 アレルの一撃にステラは目を凝らす。

 

「オルテガ流奥義! 魔神斬り!!」

 

 ズバアアアッ!!

 

「グアアアアッッ!!」

 

 ピキンッと静かな音を立てて、バスタードソードは折れた。

「魔神斬り…。私はおろか、父のロイスさえ習得できなかった必殺剣…。なんて威力なの…」

「怒りによって馬力が上乗せされたとはいえ、すげえ威力だ」

 アレルの背中を見てカンダタがつぶやいた。

 

「ハァハァ…」

「お…おのれ…」

 キングヒドラの胴体は二人に裂かれ、首も一つを残しぶらぶらと下がっているだけである。

「これがお前の馬鹿にした…父オルテガの技だ!」

「フン…。た、たとえ我を倒せても…ゾーマ様を倒せるものか。お前たちも結局…オルテガの後を追うことになる。フッハハハ…グフッ…」

 キングヒドラはそのまま崩れ落ちた。

 

 

 もはや動かなくなったオルテガの体の傷をいろはは縫い合わせ、衣服を整えて両手をつなぎ、彼の胸に置いた。

「オルテガ様…我々は忘れません…。貴方と云う先駆者がいたればこそ、我らはここに辿り着くことができたのです。語り続けます…。オルテガと云う勇者がいたことを…」

「ありがとう…いろは…」

 ようやく落ち着きを取り戻したアレルはいろはとオルテガの元に歩み寄った。そしてアレルがオルテガの鎧に触れた瞬間。鎧はまばゆい光を放った。

「な、なんだ!」

「見、見て! アレル! オルテガ様の鎧の胸!」

「ラ、ラーミアの紋章だ…」

 サスケがオルテガに頼まれて作ったドラゴンメイルはアレルが触れた途端にブルーメタルの鎧に変化し、胸部にラーミアの紋章を浮かばせた。

 そして同時に、六人が金色の光に包まれた。かつて勇者サイモンがアレル、いろは、そして娘のカトレアの前に幻として姿を表わした現象と似ている。勇者と呼ばれた者が死ぬときに神が与えた一つの贈り物なのだろうか。

 

『アレル…我が息子よ…』

「親父…」

 さきほどの重傷はない。筋骨隆々のたくましい父のオルテガの姿がそこにあった。

『強くなったな。『魔神斬り』しかと見届けた…。お前は父の私を越える勇者となってくれた…。父としてこれほど嬉しいことはないぞ…』

「お…親父…」

 父が褒めてくれた。アレルの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

『私がお前に与えてやれるのは…もはやその鎧だけだ…。私の魂が宿る、その『ひかりのよろい』を身に着けるが良い。そしてゾーマを討て。このアレフガルドに光をもたらす勇者となれ。愛する息子よ…』

 

 オルテガは息子アレルの仲間たちを見つめた。

『ステラ…美人さんになったな…。エレナの若い頃にそっくりだ…』

「オルテガ様…!」

 オルテガはアレルたちに両手を向けて呪文を唱えた。

 なんと全員の体力と魔力が全回復したのだ。少なからず負っていた手傷も癒えている。

「これは…メガザル…!」

 自分の生命と引き換えに仲間たちの蘇生、および体力と魔力を全回復させる僧侶最大の呪文だ。いろははまだ習得していない。

『お仲間のみなさん、息子を頼みます…』

 

 やがて光の中のオルテガは消えていった。その幻と同じくして、オルテガの亡骸は光に包まれ、消えていった。後には青い光沢をまぶしいばかりに放つ『ひかりのよろい』があるだけであった。

「お、親父の亡骸は?」

「アレル、あの光は私たちがネクロゴンドからレイアムランドに移動したときに包まれた光と同じ物です…。きっとオルテガ様の働きを天上の神が認め…召されたのです…」

「そうか…」

 すかさずアレルは『ひかりのよろい』を装備した。マリスは思わず拍手した。

「ひょう! カッコイイよアレル! ナントカにも衣装ってヤツね!」

「ははは、何だかよく分からないけど、褒めているんだなマリス。ありがとう」

 力がみなぎってくるのをアレルは感じた。胸のラーミアの紋章に手を置き、アレルは言った。

「見ていてくれよ親父…」

 そして仲間たちに笑顔で振り向いた。

「さあ行くぞ! みんな!!」

「「おお!!」」

 キングヒドラの亡骸を尻目に、アレル、いろはたちは走り出した。めざすはゾーマただ一人。

 

 

「ほう…シャドガ、そしてキングヒドラを倒しよったか…。クッククク…残る将は貴様のみか…」

「ハッ…しかしご心配には及びません。あの六人がゾーマ様の元に辿り着くのは不可能でございます…」

 主の見つめる水晶玉を、彼もまた見つめた。そこには疾走するいろはたちの姿があった。耳元まで裂けた口を妖しくゆがめ、笑いをうかべる怪物。

「余を失望させるな…。何のために余がそなたを冥府から復活させたのか…。分かっていよう…バラモス…」

「ハッ…すべてはゾーマ様のため…」

 バラモスは玉座の間出口へ歩き出した。

(そして…我の復讐のため。いろはよ…。今度こそお前を…クッククク…)

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 所は変わって、ここはアレルブルク。

 レンドルは相棒イナホの墓の前にいた。毎日欠かさない墓参。レンドルは祈りを捧げていると…

「ん…」

 そしてそれは幻聴なのか、確かに聞こえた声だった。

(ただいま…レンドル…)

「…イナホ?」

 聞こえたのはその一言だけだった。

「…イナホ…」

 レンドルは空を見つめて、微笑んだ。

「そうか…そうなのか…」

 昨日、レンドルは妻のカトレアが妊娠したことを教えられた。老いてから授かった子宝であり、彼の喜びようは大変なものであった。そして今、聞こえた相棒の言葉は『ただいま』だった。

「おかえり…イナホ…」

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