DQ3 いろは伝奇   作:越路遼介

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第四十二話 夜明け

 アレル、ステラの渾身の合体攻撃『魔神斬りクロス』の直撃を受け、ゾーマは片ひざをつき、青い血を流している。

「グックク…」

 ゾーマの計算は『闇の衣』を剥ぎ取られた時、すでに狂っていた。闇の衣があればこそ、ゾーマは魔界を一人で制覇すること事もできた。何せ、どんな呪文や斬撃も効かないのだから。いろはたちが竜の女王から『光の玉』を授かっていなければ、一方的な殺戮でこの戦いは終えていただろう。

 しかし、『闇の衣』が無ければ、勇者の電撃の威力がそのまま自分を破壊する。彼らの斬撃は自分を直接切り裂く。ゾーマは戦いを楽しみたかったのではない。人間の希望であるいろは、アレルのパーティーを虫ケラのように踏み潰すと云う殺戮をやりたかったのだ。だが結果はゾーマの望む形にならなかった。

 深いダメージを負ったゾーマは、さすがにすぐに反撃できる力もなく、禍々しい眼をいろはたちに向けているだけだ。

 

 そしてパーティーはすぐに次の行動を起こしていた。アレルを中心にいろはたち五人は半円の隊形でアレルを囲み、両手を天に掲げた。パーティーはさきほどの一斉攻撃で息も絶え絶えであるが、いろはのベホマラーで何とか地に立っている。肩で息を切らせながら仲間たちは魔法力を高める。

 ホンフゥとステラの闘気はレンドルから与えられた『闘気の腕輪』を経て魔力と変わり、どんどんアレルに送られている。

 アレルは右の人差し指に全神経を集中している。ダメージを受けているゾーマも何とか、これから発動される大呪文を止めるため、『凍える吹雪』を吐こうとしている。しかしその技に入ると同時に斬られたXの裂傷から血が噴出す。

「グ…」

 

 アレルの両眼がカッと開き、ゾーマを見据える。

「これで最後だ! ゾーマ!!」

 

 アレフガルドの上空にすさまじい雷雲が発生した。リムルダールで魔の島の方角に向けて、いろは一行の無事を祈っているマルセラと神父エベンス。

「神父様…あの雷雲…」

「うむ…いよいよだ…」

 雷雲により豪雨が降り、リムルダールの湖面に水しぶきが上がる。マルセラとエベンスは全身を雨に濡らしながら、雷雲を見つめていた。

 そしてマイラではサスケとアンナが雷雲を見ていた。まるで雲の中にいくつものドラゴンがいるかのように、その黒い雲は雷鳴を轟かせる。彼らも全身雨に濡れながら雷雲を見ていた。感じていた。彼らの…いろはとアレルと、その仲間たちが最後の攻撃に討って出ることを。

「アンタ…」

 愛妻の肩を抱き、サスケは雷雲を見る。

「いろは様…アレル殿…」

 ドムドーラではオレスト町長、ラダトームにいるガライとラルス一世、重臣たち。それらすべてがその雷雲を見守っていた。誰もが思った。

 

「勇者の雷…」

 

 脂汗がとめどなく流れる六名。アレルの発動する大呪文に全身の力が吸い取られていくようだった。だが止めようとする者は誰もいない。六人一人一人が魔法力と云う光を放ち、やがてそれは一つの輝きの閃光となった。

「集合電撃大呪文!!」

 六人は一斉に呪文の名前を叫んだ。

 

「「「ミ・ナ・デ・イーン!!」」」

 

 ドドドドドオオオオオッッッ!!!

 

「ギャアアアアアアッッ!!」

 

 天地をゆるがす勇者の大いなる雷がゾーマに落ちた!

 

 ゾーマの全身は黒く焼け焦げていた。ブスブスと煙も出ている。床に座りこんだまま動かなかった。

 

「ハアハアハア…」

 ミナデインの媒体となったアレルもまた、激しい眩暈を起こして倒れかけた。それをマリスが支えた。

「だ、大丈夫? アレル…」

「な、なんとか…な…」

 ステラは体力全てがミナデインに持っていかれたようだった。座りこんだまま動けなかった。

「ハアハア…カンダタ…ゾーマのヤツは…」

「…わからん…。だがあんな電撃を受けて生きていられるとは思えんが…」

 

「いろは、大丈夫か?」

「ホンフゥ…あなたこそ…」

 二人は笑顔で見つめた。ゾーマは倒した。だが勝どきをあげる力が六人には残っていなかった。

 六人はゾーマの間で座ったままであった。ミナデインを放って二分ほど経ったころだろうか、いろははすさまじい殺気を感じ取った。

「……! みんな! ゾーマはまだ死んでいません!」

 

 六人は一斉に焼け焦げているゾーマを見た。そして見た。ゾーマの額の眼がまだ動いているのを。

「ば、馬鹿な、あの電撃を受けてどうして!」

 アレルは剣を握る。だが力すべてをミナデインに持っていかれ、剣そのものがやたら重く感じる。怪力のカンダタが自分の武器を持てないほどであった。全員それほどに消耗している。

「ここで、あの吹雪なんて食らったら終わりだ…。くそ…」

 

「グギヤァァァァッッ!!」

 ゾーマは立ち上がった。だが重度の火傷と深い大裂傷でもはや助かる見込みは無い。だが最後の力を振り絞って立ち上がった。

 だがゾーマは何を思ったか、玉座の間のカベや柱に拳を叩きつける。目は焦点が定まっておらず、よだれも垂れ流しである。ホンフゥはそれを見て

「アイツ…発狂してやがる!」

 だが動けなくなったアレルたちにはゾーマの砕くカベと柱の破片すら脅威である。やみくもに腕を振り回しているが、当たれば命は無い。またここは地下深い場所である。これ以上ゾーマを暴れさせれば玉座の間は崩落してしまう。

 六人は動かない体を叱咤して、何とか岩の破片の雨を避ける。ただ本能のまま暴れているように見えるが、額の巨眼だけはパーティーをしっかりと睨んでいた。アレルといろはもそれには気づいていた。

「みんな、動けるか?」

「何とかね…」

 脂汗を垂らしながらステラが答えた。息も絶え絶えに立っている仲間たちだった。アレル本人も立っているのがやっとだ。

 このままゾーマを放置すれば、きっと自分の城の崩壊に巻き込まれ死ぬだろう。しかし、それは『だろう』であって、確実なものではない。ゾーマが息絶えるまで、このゾーマの間から逃げるわけにはいかないのだ。

 

「何か…何かないか…。ヤツを攻撃する手段…」

 狂った魔獣のように暴れるゾーマをアレルは忌々しそうに見つめた。手段は無かった。剣で戦うにも彼らは疲労しきっている。魔法力もない。そう思案する間にも柱は崩れ、カベの岩が飛んでくる。もはやそれを避けるのに彼らは手一杯であった。

 

 やがてゾーマの額の巨眼がキラリと光った。魔の剛拳がパーティーめがけて飛んできた。

 だがゾーマのダメージも深く、素早さに欠けていた。カンダタはステラを、ホンフゥはいろはを、アレルはマリスを抱きかかえて、必死にその拳から身を避けた。

「ハアハア…マリス…魔法力の残存は!?」

 アレルが聞いた。

「メラ一発分くらいしかないよ…」

 アレルもそうだった。

「私はバギ一度分しかありません…」

 

 いろはが答えた。とてもメラ二発とバギ一発で仕留められる相手ではない。ミナデインを使ったことは間違ってはいない。最上の戦略である。しかしゾーマは死ななかった。

 全身に重度の火傷と大裂傷、このまま放っておいてもゾーマは死ぬ。しかし『このまま』ではダメなのだ。

 相手は大魔王、確実に目の前で仕留めない限り、何らかの手段で回復や蘇生をするか分かったものではない。六人全員がそれを分かっていた。だからゾーマの間を出ようと口にするものはいなかった。

 また『賢者の石』は戦闘中であれば、無限に仲間たちの回復をしてくれるものだが、使用するにしても魔法力は消費しないが石に呪文の詠唱をしなければならない。それを所持しているマリスにもうその気力がなかった。他の者も同様である。

 

 ゾーマの攻撃をしのぎつつ、いろはの頭に浮かんだことがあった。

「メラ二つ…バギ一つ…。ならば…やったことないけど…!」

 いろははクシナダの薙刀を床に置いた。

「アレル! マリス! 魔力を私に下さい!」

「え?」

 アレル、マリスの言葉を待つこともなく、いろはは術の詠唱をはじめた。するとアレル、マリスの体から魔法力が消えていった。

「な、何これ!? 何をしたのよいろは!」

「魔法力が…いろはに集まっている…」

 アレルは驚いた。アレルのミナデインの作用とも違った。見たこともない術だった。この呪文は勇者、僧侶、魔法使い、賢者の呪文でもなかった。これは彼女の故郷ジパングの『仙術』であった。

 上級者となると、モンスターからの魔力接収も可能だという。しかしいろははこの仙術を使うのは初めてで、姉のひみこが使ったのを見たことがあるだけである。仲間たちから魔力を吸収するので精一杯であった。いろはの技を見てステラとホンフゥも残り少ない闘気を魔法力に変えていろはに与えた。

 

 そしてわずかだが、パーティー全員の魔法力がいろはに集まった。

「いろはに呪文の詠唱時間を作れ!」

 アレルの指示で五人はいろはを囲んだ。その次の瞬間だった。ゾーマも最後の力を振り絞り『こごえる吹雪』を吐いた。それを見た五人はいろは一人を後衛に残し、前衛に五人横一列に並んだ。

 そしてさらに三人、アレル、カンダタ、ホンフゥがステラとマリスをかばうように吹雪の前に立った。

「あんたら…!」

 ステラの声にカンダタは笑って振り向いた。

「俺たちが吹っ飛ばされたら、お前たち、いろはをしっかりと守ってくれ。まず一番先に盾になるのは男と相場が決まってるんだ!」

「ちげえねえ」

 ホンフゥ、そしてアレルもニコリと笑う。

 

 三人はいろはの壁になった。その後ろでステラとマリスは前衛の三人の隙間から流れてくる吹雪からいろはを守るべく備えた。後ろからはいろはの呪文の詠唱が届く。全員がいろはの呪文に命を賭けた。

 

 ドオオオン!

 

「ぐああああッ!」

 すさまじい冷気の直撃。ミナデインで疲労しきった体にはひとたまりもなかった。だが誰も倒れなかった。

 そして呪文の詠唱も終わりに差し掛かった。いろはの呪文の発射体勢が整った。その安堵からか五人は倒れた。

 そして見た。いろはの後ろに不思議な物が見えた。凍傷に陥った彼らの幻だったのか。彼らにはいろはが二人いるように見えたのだ。

 

(いろは…)

(姉上…)

 五人が見たのは幻であったのか、それは誰にも分からない。だがいろはには確かに聞こえた。姉ひみこの声が。

 

(さあいろは…私もここにいます。一緒に大魔王を倒しましょう…)

(はい…姉上)

 

「いろはが二人…いや、あれが本物のひみこ…」

 意識もうろうの中、アレルは見た。いろはの後ろに立つ、いろはと同じ顔をした美少女を。

 

(今まで…ずっと私を見ていてくださったのですね…。姉上…さきほど、私が皆から魔力を集められたのも姉上が手を貸して下されたのですね…)

(いいえ、あれはあなたの仙術…。さすがは私の妹です。あなたは私の誇りです…)

 

 ひみこはいろはは瞑目し、同じ詠唱の構えを取った。そして、いろは特有の気合いの言葉がゾーマの間に轟いた。幻のひみこもそれに続いた。

 

「「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!!」」

 

 姉妹の両眼が同時に開いた!

 

「「切り裂け! 真空の大刀! バギクロス!!」」

 

 ひみこの力も加わったのか、バギクロスは金色の十字の軌跡となって、正確にゾーマに刻まれたアレルとステラの魔神斬りクロスの斬撃へと向かっていく。

 

ゴオオオオッ!!

 

「うおおおおおおッッ!!」

 

 ズバアアアアアッッ!!!

 

「ギヤアアアアアッッッ!!!」

 

 金色の十字はゾーマを貫通した。ゾーマの体は切り裂かれた。青い血を吐き、やがて倒れた。

 

 ドスンッ

 

 全ての力を使い果たし、いろはもまた、崩れるように倒れた。だが…

「ホンフゥ…」

 息も絶え絶えで彼自身立つ事もままならなかったが、ホンフゥは倒れかけた伴侶を抱いた。

「お疲れさん…」

「はい…」

 

「グ…ググ…」

 ゾーマの声が低く響いた。

「!」

「こいつ…まだ…」

 剣を杖代わりにし、フラフラの状態でアレルは立ち上がった。

「…僧侶の娘…。そして勇者と仲間たちよ…よくぞ余を倒した…」

 ゾーマは正気に戻っていた。うつぶせに倒れ、自分の血の海に沈み、最後の言葉を吐いた。

「だが…光あれば闇もまたある…。余には見える…。再びこの世界が暗黒に染まるのを…。だが…その時にそなたらはすでに年老い…生きてはおるまい…」

「だからなんだ!」

 ホンフゥが一歩出た。

「たとえ、どんな悪党が世に出ても、俺たちの子孫がブッ飛ばしてやる!」

 

「フ…」

 ゾーマは静かに目を閉じ始めた。

「さあ…行くがいい…。この城は崩れる…グフッ」

 大魔王ゾーマは死んだ。それと同時にゾーマの間に轟音が響いた。すさまじい地響きだった。

「やばい! 城が崩れる!!」

 だが六人に走って城を駆け抜けることほどの体力は残っていなかった。だが最後の力を振り絞り、ゾーマの間の出口に駆けた。

 

 ドカァ!!

 

 ゾーマの間の床に巨大な亀裂が走った。パーティーはなす術も無く、その地割れに落ちていった。

 

「「うわあああああ!!」」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 数刻後…。どことも知れない暗闇の空間に彼らはいた。

 

 ポチョン…ポチョン…水滴がいろはの頬に落ちた。

「んん…」

「気がついたか? いろは…」

「ホンフゥ…ここは…?」

「わからない…。ずいぶん深く落ちた気がするが何故か何の怪我もない…。ルビス様のご加護というヤツかな」

 当たりを見回すと、そこは迷宮の中だった。だが魔物の気配は一切感じなかった。

「みんなは?」

「無事さ…」

 アレル、ステラ、マリスが疲労困憊の顔で微笑んでいろはを見ていた。

 

「いろは…俺たちはゾーマを倒したんだ…」

 アレルが満足そうな顔で笑った。いろはもそれに微笑んで答える。そしてその場にカンダタが来た。

「おい、空気が流れている場所を見つけた。出口は近いぜ!」

 カンダタの見つけた場所からほどなくして出口はあった。

 

「外だ…。でもまだ暗いな…」

 太陽の上がっているのを期待していたアレルは肩を落としつぶやいた。しかしステラが東を指して言った。

「み、みんな見て!」

「どこを見ろと言うの…こんな暗闇の…」

 同じく暗闇のアレフガルドに肩を落としていたマリスがステラの指す方向を見た時、彼女も見た。東の山の谷間から一筋の光が差していたるのを。

「あ、朝だ!」

 六人は何も言わずに抱き合った。感激の涙を流し、そしていろはが心の底から叫んだ。

「アレフガルドに朝が来たのです!!」




次回、最終回です。
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