ヒポクリス   作:LLE

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第三話(後半部)

 

 

「それでは、続いての挑戦者はおりませぬかな?居なければ、クラミー・ツェルが次期国王と相成る。異議のある者は申し立てよ。」

 

所代わり、戴冠式場にて。

たった今、最後の挑戦者を倒した少女、クラミー・ツェル。

一体これまで何連勝したかも分からないほど、彼女は勝利を重ねてきた。

その実力は誰が見ても確かで、もはや挑戦者に名乗りを上げるものなどいなかった。

……『』以外には。

 

「はーい、異議あーり!ありありでーす!」

 

ふざけた声色とともに大きな音をたて、開かれた大扉。

4人の乱入者に一瞬クラミーは眉を顰めるも、しかしその内にステファニーを見つけ、一転。

馬鹿にするように、4人を見下す。

 

「あら、ステファニー・ドーラ。負けたのが悔しくて、今度は大所帯で挑む気なのかしら?」

「っ……。」

 

ここで挑発に乗っても、相手の思う壺。

平静を装い、ステファニーはじっとクラミーを見つめ返した。

 

「えー……つまり、挑戦されるという事でよろしいですかな?」

「そうでーす。だってさぁ……」

 

―――森精種と結託している奴を王にしたら、この国終わりだろ?

 

空の言葉に、一気に観客が騒がしくなる。

対して、クラミーの表情が一瞬崩れたのを空は見逃さなかった。

 

「白。空の言っている事は本当なんですか?」

「……本当。この写真の人……会場に居る。」

 

いつ写真をとったのか、白の見せたスマホにはローブを深く被った人物の写真が表示されていた。

続いて紫恩が会場を見回してみると、確かに同じような人が一人いる。

 

「……ステファニー。」

「分かっていますわ、お兄様。」

 

混乱に乗じ、対象に近づいていったステフを確認した紫恩は空へ目配せする。

 

 

「……一体何のこと?」

「おや、とぼけられるので?……ステフ、頼む。」

 

空の合図を受け、ステファニーが対象のローブを下げる。

すると、白い肌をした少女の長い耳が外気に露出した。

誰が見ても分かる森精種の特徴に、会場はさらに騒がしくなる。

 

「フン、適当な森精種と結託して私を人類種の敵に仕立て上げようっての?考えたわね、使用人さん。」

「……なるほど。良い弁解だ。」

 

一触即発の二人の雰囲気に、司祭が静かに口を挟む。

 

「そ、それでは挑戦という事で……よろしいですかな?」

「あぁ。これまでと同様ならポーカーなのかな?でもその前に、協力者にはご退場願わないとなぁ。……お友達、助けなくていいのか?」

 

更に挑発を重ねる空。

しかしクラミーは森精種の少女に対し何か行動を起こす事もなく、無表情に空を見つめていた。

緊迫した空気に、会場の誰もが息を呑む。

 

 

「いいわ、私にもプライドがある。そこまで言われるのなら、イカサマの介入する余地のない、王を決定するに相応しいゲームで勝負しましょう。」

「構わないよ。盟約その五、ゲーム内容は挑まれたほうが決定権を有する……敢えてポーカーを避けた理由は問わないけれど。」

 

ニヤニヤと、空は告げる。

陰湿に敵を追い詰めていくその姿を、紫恩は背筋が凍る思いをしながら眺めていた。

10年前まで……およそ16年の間、この世界で暮らした記憶の中で彼のような人間は居なかった。

絶対的な自信から来る、他者への圧倒的なまでの威圧感。

憮然とした態度をとるクラミーに、一瞬眩い光が照射される。

 

「うーん……写り悪いねぇ。もう少し笑ったほうがいいよ?」

「……。」

 

空に、異世界の秘密兵器スマホをこれみよがしに見せられ、クラミーの視線に苛立ちの色が籠る。

 

「……舞台が必要ね。準備が整ったら連絡するわ。」

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

その後、空はクラミーの連絡を待つ為、王城の中庭へと戻った。

 

「……私は、空がひきこもりである要因の片鱗を垣間見れた気がします。」

「今更だろ。」

 

呆れた様子の紫恩は適当にあしらい、設置されていたベンチに座る空と白。

ステファニーはステファニーで、本当に森精種とクラミーが結託していた事に驚きを隠せなかったようで。

 

「本当にエルフが居たなんて……それじゃ、私は魔法を使われてゲームに負けたんですの!?」

「あぁそうだよ。魔法ってすげぇんだな、伏せ札書き換え、認識誤認……なんでもありのイカサマされちゃあ必敗だ。勝ち目なんてありゃしない。」

「魔法は人類種には感知できない……何でもされ放題ですからね。」

 

故に、人類種は不利なのである。

ならどうしようもないのではないかと悲観するステファニーに、白は続ける。

 

「……だから……それを避けた。」

「え……?」

「今、あいつらは俺達が魔法を感知できると錯覚している。だから露骨な魔法は使えない。よって、提案してくるゲームは、少なくとも原理的には勝てるゲームだろうさ。」

「スマホ、こんな時に活躍するなんて……空も考えましたね。」

 

見たこともない道具。

機械を、電子機器を知らぬこの世界の人間なら、薄い板に写る自分の姿を見て、こう思うだろう。

あれは魔法か、と。

発達しすぎた科学は魔法と同義であるとは誰の弁か……いずれにせよ、今この世界にとって、空達の知る科学はまさに魔法に違いない。

 

「そ、それでは、これでクラミーとイカサマ無しの純粋な勝負に持ち込めるという事ですわね……!!」

「……ステファニー、それは違うよ。」

 

あくまでも、露骨な魔法は使えないだけ。

しかし一目見て判断できないような、証拠が残りにくい魔法は使ってくるだろう。

クラミー達が準備しているというのが、何よりの証拠である。

一つ一つ丁寧に説明する紫恩。

そしてその後ろには、可哀そうな人でも見たかのような目の空。

 

「ほんとステフは馬鹿だな。」

「ば……!?お兄様、空になんとか言ってやってくださいな!」

「……ステファニー、もうちょっと頑張ろうか。」

「お兄様まで……!!」

 

項垂れる国王選定戦敗者。

確か彼女は頭が良い筈なのだが、それより真面目さと素直さが勝ってしまったようだ。

苦笑する紫恩だったが、先ほどまで本を読んでいた白の視線が自分へ向けられている事に気付き、腰を下ろして一回り以上小さな少女に目線を合わせる。

 

「どうしました、白?」

「……私達が王様になっても……紫恩は紫恩で、居てくれる…?」

 

 

家は失ってしまったが、しかしそれでも紫恩がシオドリク・アスターである事に変わりはない。

全ては誤解から始まってしまった事。

これから誤解を解き、アスター家の再興を図る道も紫恩にはある。

事実、紫恩はその道も想定していた。

それが父上と母上への手向けになると、自分の出来る唯一の親孝行であるからと考えて。

 

……だが白は、紫恩には紫恩のままで居てほしかった。

シオドリク・アスターではなく、自分達の親代わりである紫恩として。

紫恩に親不孝の道を歩ませてしまうと理解していながらも、白は願ってしまった。

無表情な、しかしどこか寂しげにも見える白に、紫恩は優しく笑う。

 

「君達は強い。この世界では、むしろ守られるのは私の方かもしれません。」

「……紫恩…!!」

「でも、私……言いましたよね。」

 

―――世界が変わっても、君達の保護者である事に変わりはない。

折れそうな心は隠して、強者の仮面を被り二人の"本物の強者"の前に紫恩は立った。

それはすぐに暴かれてしまったけれど、それでも。

 

「空、白。私からもお願いします。これからも、君達の保護者でいさせてくれますか?」

 

家の再興と、二人の保護者。

どちらか一方しか選べないという道理もない。

膝をつき、頭を下げる紫恩。

 

空と白はきょとんとした顔で見合わせ、笑った。

 

「頭を下げるほどのことか?ま、でもよろしくな。紫恩。」

「……紫恩……これからも、よろしく。」

 

そこには、世界の壁すらも乗り越えた、親子の姿があった。

 

「お兄様、変わりましたわね。」

「そうですか?」

「はい。あの頃とは違って……活き活きしていらっしゃいますわ。」

 

立場との格闘の日々だったあの頃と比べれば、確かに今は天国そのものだろう。

 

「ですが、ステファニー。これは貴女のおかげでもあるのですよ。」

 

あの日、あの時、ステファニーが紫恩の仮面を打ち砕いた。

それは痛みを伴い、決して良い結果ばかりを生み出したわけではないけれども。

その痛みによって紫恩は弱い自分と向き合い、結果、逃避を選択するという最悪の行為に走ったけれども。

それが果ては空と白との出会いに繋がり、そして再び弱者の自分と向き合う勇気を得たのだと。

 

「ステファニー、ありがとうございました。だいぶ遅れてしまいましたが、あの日、君を傷つけてしまって……そして約束を破ってしまって、申し訳ありませんでした。」

「……本当に、遅い謝罪ですわ。」

 

そんな言葉とは裏腹に、ステフの顔には笑みが宿る。

そして頃合いを図っていたかのように、4人に掛けられる声。

 

「準備が整ったわよ。」

 

対戦相手、クラミーの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

国王決定戦の舞台へ向かう、馬車の中。

クラミーは、対戦相手の空と向かい合って座るなり、口を開いた。

 

「……正直に言うわ。私が森精種と結託しているというのは、事実よ。」

 

―――うーわ。

 

「……うーわ。」

「妹よ、思っても言葉に出すんじゃない。」

 

対戦相手に自ら情報をバラすクラミーに、湿った視線を向ける空と白。

紫恩はそんな彼らの様子を、少し離れた席から肘をつきつつ眺めていた。

 

「良い?私達人類種は、もう森精種みたいな大国の庇護下でしか生きていけないの。森精種の力を借りて、ある程度の領土を取り戻した後は鎖国する……これしか滅亡を逃れる道は無いわ。」

 

人類種には特別な力が無い。

超能力も、魔法も無い人類種が生きる道。

それは他国の力を借り、ある程度自分達だけで生きられるくらいの領土資源を得た後、外交を遮断するしかない。

クラミーはそう考えていた。

 

「全てが終わったら、森精種とは縁を切るわ。貴方達も、森精種相手に勝てる筈が無いんだから、ここは手を引いて。」

「……ふむ。」

 

悪くない考えだと、紫恩は考えていた。

どうやってクラミーが森精種の力を取り付けたかは知らないが、事実協力者は居た。

大国である森精種の力を借り、国力を取り戻した後はすべての他国からの挑戦を放棄し守りに徹するのも悪くは無い。

恐らく紫恩であれば、承諾していただろう。

 

が……果たしてそのような事を、空が承服するだろうか。

 

「悪くない考えだ……が、嫌だね。」

「な、なんで!」

「なんでって、そんなの……分かってるだろ?」

 

怪しく笑う空。

敢えて言及を避け、しかし察しろとばかりな態度の空の様子に、紫恩はその意図を理解した。

―――確かに、私達が他国の間者であった場合、そんな話乗るはずもない。

 

未知の薄板を使い魔法を暴き、そして人類種の未来を考えての提案すら跳ね除ける挑戦者。

こいつらは救いようのない売国奴だとでも言わんばかりに、クラミーは深く溜息を吐いた。

 

「……分かったわ。なら、お望み通り徹底的に叩き潰してあげる。」

 

馬車が止まり、扉が開かれる。

先に降りたクラミーに続き、空達も馬車を降りる。

 

 

国王を決めるゲームが今、始まろうとしていた。

 

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