堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

1 / 62
※本作品は政治や宗教など原作には一切存在しない独自設定や独自の解釈を多分に含んでいます。


プロローグ

晴天のもと海は重油にまみれそこら中に破壊された装備が浮かび海底には深海棲艦や艦娘の残骸が横たわっていた。

村上はそんな場所で第一攻撃群旗艦である原子力潜水艦に搭乗し退避命令の出た海域にとどまっていた。もはや逃げようがなかったといったほうが適切ではあったが。

 

「マーク!早く海域を出ろ。」

 

村上が何度も呼びかけていたのはマークと言う司令官であった。彼はこの人類と化け物の戦争が始まったその日から戦友として戦ってきた仲間だった。彼もまた別の潜水艦に搭乗して海域にとどまっていた。

 

「ムラカミ、司令部の奴らを殴るのはお前に任せる。こんな愚策しか取れなかった司令部のために俺はここに残る。司令船がすべてここから逃げれば艦娘たちもここから撤退するだろう。だから私はここにとどまる。後のことは任せる。中越にもよろしく伝えてくれ。」

 

そう言ってマークは撤退を拒否した。そこでマークと大勢の艦娘が死んだ。

 

「マーク、俺も連れていけ。一緒に地獄へ連れていけ。」

 

そう言って手を伸ばすがその手は何もつかむことはなかく村上は後頭部に強い衝撃を受け村上は目を覚ました。

 

「またあの夢か...。」

 

ベットの上の枕を壁に投げつけ寝付くために、昨晩飲んだウォッカの残りを流し込み起き上がる。日本にいたころは医者が睡眠導入剤を処方したが効果はなく、モンゴルに来て酒を浴びるほど飲み、やっとまともな睡眠がとれるようになった。まとも。とはいっても悪夢はほぼ毎日彼の脳内で反復され一向に収まる気配はない。

 

だが幸いなことにモンゴルでは泣き叫んでも大暴れしてもそれを止める人間はいない。ただ大地が静かに風をそよめかせ彼の頭を冷却するだけだ。

人が周りに住んでいないから迷惑をかける対象もいない。わざわざ遊牧民は、ほかのゲルの近くに移動してこない。

少し落ち着いてから村上は食糧庫を見るがもう合成スナックの残りは少ない。

三年前に日本で大量に買ってからずっとここにいた村上はパスポートはおろか財布をどこに置いたかも忘れてた。

ウォッカを買うときには何かしらの手伝いだとかをすれば気前よく住人は酒を分けてくれた。

モンゴルの人々は彼のことを変わった外国人として可愛がっていた。

だが、さすがに食料となると話は別だ。当然頻繁に彼らのもとに訪れなければならない。村上もそこまで厚かましいことせずに日本から大量の合成スナックを持ち込んでいた。

 

「はあ。」

 

そう大きなため息をつき日本に向かう支度をし、世話になったモンゴル人に別れの挨拶をしてモンゴルを後にした。

日本で数年分の食糧を買いすぐにペルーに向けて出発しようと彼は考えていた。ペルーの山岳地帯なら内陸国のモンゴルと同様に攻撃の心配もなく静かに過ごせると考えたのだ。

正直日本には一秒たりとも滞在したくはなかったが次の生活のための試練だと言い聞かせ心を平穏に保った。

 

モンゴルを出ていくらばかりたっただろうか。

何にせよ村上にとっては日本に向かう飛行機と言うだけで気の遠くなるような長さだった。

ようやく日本にたどり着いた村上だが、気力を失い彼はそのまま空港近くのホテルに泊まった。

空港のすぐ前にもかかわらず人は少なく閑散としている。何故かとホテルマンに聞くと

 

「わかっているでしょう。」

 

とにこやかに対応されたが明らかにいらだっているのはわかった。

ここのところずっとこんな調子なのだろう。外界との情報を完全に立っていた村上が知り得ない何かが起きたのだろう。

部屋に入ると対して動いたわけでもないのにすぐに寝てしまった。

 

「ムラカミ、目を覚ませ。グダグダしてると死ぬぞ!」

 

またこの夢か.... そんなことを思っていた時だった。

 

「村上様!早く避難をお願いします。突き当りを左に行くと非常階段があります。」

 

村上は現状を全く把握できていなかったが声の主が過去の記憶と一致しなかったので現実で何かが起きていることを何となく悟り、スーツケースから鞄を取り出すとすぐに非常階段を駆け下りた。

地上につくと遠くから爆発音や機銃の音が聞こえてきた。村上は鞄から携帯電話を取り出して起動した。もう何年も起動していなかったため起動できるのか不安であったが何の問題もなく起動し、ディスプレーにはこちらの許可なく見たくもない不吉なニュースが映し出された。

 

「近海警備群の被害甚大。東京侵攻までの秒読みか?」

 

トップに出てきたニュースに彼は驚愕した。

近海警備群は第一攻撃群ともに海軍でトップを張る軍の最高戦力だ。その部隊が敗北し東京に侵攻を許したことが村上には信じられなかった。だが、もう彼には関係のない話だ。村上も軍を捨てたし軍もまた村上を捨てたのだ。東京から逃げればほかにも空港はある。わざわざ侵攻の始まった危険地域にとどまる理由も義理も彼にはなかった。彼が求めていたのは静かな暮らしだけだった。

爆発の光と爆発音から察するにまだ数キロは離れている。十分逃げられる距離だった。

その時ディスプレイから音声が流れた。

 

「攻撃を検知。最寄りのシェルターは近海警備群最高司令部に付随する第1号シェルターです。この情報は緊急時の特例として開示されています。みだりにこの情報が開示されるような事態が発生した場合処罰される恐れがあります。」

 

「ルート変更。東京から最短で脱出したい。」

 

村上はそう答えた。

 

「その行動は非常に危険です。三十秒以内に指示に従わない場合、都知事の権限によって憲兵隊を派遣します。」

 

村上には選択の余地がなかった。東京の道は複雑になり三年ぶりに訪れた村上が何のガイドもなしに東京を脱出することなど不可能に近かった。

 

「わかったルートを示してくれ。」

 

 

近海警備群最高司令部 指令室

 

「司令、各鎮守府から支援が派遣されましたがどれも間に合いません。この基地を放棄するほかにはありません。」

 

司令官は沈黙を続けていた。マークなら、村上ならどうしただろうかと考えていた。こうなることは何となくわかっていた。司令部の発案した作戦に近海警備群の兵力が使用されることが決定した時中越は反発した。あの時もう少し強くいうべきだったのかもしれない。

 

「中越司令!」

 

「黙れ若造。」

 

低く腹の奥から響くような声に皆が背筋を凍らせた。マークや村上のことを思い出しつつも中越は至って冷静だった。あらかじめ予想していた攻撃だからだ。

 

「うちの所属の兵員はどんだけ残ってる。」

 

中越の問いにオペレータは素早くこたえる。

 

「駆逐型146名、戦艦型2、空母、正規8、軽は24です。」

 

「潜水艦はどんだけいる。消耗の状況も合わせて教えろ」

 

「はい。潜水艦は39名で兵装の残数は83です。現在補足している敵は1072で圧倒的に兵装が不足しています。」

 

そして想定していた軍の損耗状態。防衛網に穴が開いていることは知っている。そこを抜けることが出来るのは中規模の部隊だけであることも。

 

「わかった。数人が地下30階の旧世代の兵器のコントロールルームにいけ。陽動程度なら使えるはずだ。無線も携帯しろ移動中に作戦を伝える。」

 

そういうと中越は椅子に深く腰掛けて30秒ほど目をつぶり再び立ち上がった。

 

「作戦を伝える。敵は恐らく高度な知能を持つものが多い。つまりヒト型が多い。連携が取れているが彼らの連携はあくまで人間を模倣したもの過ぎない。無駄に経験を積んでいる私たちよりも圧倒的に未熟だ。そこを叩く。

まず潜水艦と駆逐艦を東京湾から太平洋に移動させろ、そしてかつて東京に配備された防衛システムを起動して援軍の本体が来たように見せかける。狙うのは戦艦ではなく駆逐艦クラスのものや空母などの被害が大きくなるものに絞れ。そうすれば被害報告が一気に増え敵の指揮官を一時的に混乱させられる。相手は未熟だ経験は積んでも数年では人間の指揮官を超えられない。さて、作戦準備は整ったかね。」

 

中越はにやりと笑いオペレータにそう聞いた。

 

 

村上がホテルを出てかシェルターに着くまではほんの一分ほどしかからなかった。シェルターの階段は人であふれかえり、なかなか奥には進まない。こんな惨状を生み出したのは誰なのか疑問に思い

 

「今の警備群の指揮官は誰なんだ?」

 

そう携帯に搭載されたAIに聞いてみる。だが村上の問いにAIではなくシェルターにいた女性が答えた。

 

「中越というこの戦争が防衛戦争になる原因の戦いを指揮した無能司令官の一人です。」

 

村上は露骨なプロパガンダが行われたことにすぐに気づいたがもはや怒りよりも呆れが先行した。正しい戦果を報告すべきでないことには同意できる。

だがやっている事と言っていることが完全に矛盾している。中越司令が優秀だから近海警備群に配属したにも関わらずその司令官を責め立てるような記事を書かせる。意味が分からない。

 

「そうですか。それは心配ですね。」

 

「そうですよ。あの男が司令じゃなければ私の夫が死ぬことはなかったんです。」

 

そう言って泣き崩れてしまった。

女性をなだめながら数時間待機するとようやく警報が解除された。

結果的に敵は中越の策に完全にひっかった。

深海棲艦の単純すぎる指揮系統は中越の攻撃により混乱、部隊は分断された。散り散りになりパニックに陥る深海棲艦を各個撃破。東京湾から侵入してきた部隊は、ほかの鎮守府からの応援の到着により包囲され殲滅された。

村上が外に出ても特に変わった様子はなかった。

攻撃を受けたのは防衛連合海軍施設や国連軍施設、港湾設備のみであった。村上はほっとして携帯でペルーまでの旅券を買い合成スナックを購入するため近くのスーパーまで歩き始めた。

 

 

防衛連合軍 最高司令部 司令長官室

 

「村上傑。元防衛省官僚、そして元国連軍第一艦隊第一攻撃群初代司令官。戦争中の戦果は...これはかなりのものですね。」

 

報告を聞き国連軍から分裂して組織された防衛連合軍の最高司令官である二サエルが

 

「連行できるか?」

 

とたった一人のために東京の憲兵に総動員をかけようとしていた。

 

「経歴は素晴らしい。ですが彼は逃げたんです!いまわざわざあなたが直接指示を出して引き戻すべき男なんでしょうか?」

 

報告をした部下はそう苦言を呈すが

 

「彼は私と似ている。マークはあの海で死んだがこの男はあの戦いの直後から戦果を挙げ続けていた。彼は信念が折れて逃げた訳でもないだろう。どちらかと言えば彼は私たちを見捨てた。そういった方がいいでしょう。」

 

二サエルは大まじめにそういったのだ。個人が軍を捨てる?そんなばかばかしい話があるか。とは思ったが

 

「わかりました。」

 

とだけ言って長官室を後にする。

 

 

東京中の憲兵が動いた結果村上はあっさりと拘束された。大量のスナックを抱えていた村上が憲兵隊に囲まれて拘束されるのは当然と言えば当然なのだが。

彼は拘束されたのちに目隠しをされ、防衛連合海軍の施設に連行された。

抵抗しようかとも考えたが明らかに分が悪いことはわかりきっていた。ここはあえて従順にふるまう方が得策だと考え何も抵抗せずにおとなしく彼は拘束された。

 

 

「おはよう。」

 

村上の目隠しが外れたのは全面がコンクリートで覆われ机といすが二つ置かれた何とも殺風景な部屋だった。平たく言えば取調室のそれである。

ただ、この場所が人間だけを尋問する場所でないのは強化された扉から見ても分かった。

 

「一体どんな権限があって一般人を不当に拘束できるんでしょう?」

 

村上は冷たくそう言い放つ。そんな村上を完全に無視して

 

「私は二サエル。防衛連合軍の実質的な最高指揮官だ。」

 

「それで?」

 

村上はこの男が何を言って来るのか何となく見当がついていたが聞いてみた。

 

「短刀直入に言えば君に軍務に戻ってほしい。と、言っても君はどうせ聞かないだろう。」

 

二サエルがお前の考えはわかっていると言った顔をしてこちらを見る。

 

「その通りです。私は軍も艦娘も捨てた訳です。この日本列島にすら足を踏み入れまいと覚悟しましたがそれは現実的ではなかった。仕方なしにここに戻ったらこのざまですよ。」

 

「君は信念が折れて女々しい理由で軍を去った。そうだろ?」

 

「私は軍人です。私の心が折れたからと言って軍務を放棄するなんてことはあり得ない。信念をもって敵と対峙していました。少なくとも軍が軍としての形ではなくなるまでは。」

 

村上が軍をやめた理由は複雑だが大きく二つに分けると、司令部との不仲、軍内部に広がった堕落である。

堕落が広がり士気が明らかに低下したのはマークが死んだ頃だった。

それから一年、防衛連合軍は敗退を重ねる一方で深海棲艦達に大規模な揚陸能力がないと判明し人々は沿岸部を放棄。防衛連合軍への予算は削減。

彼らの母体であった国連軍が大規模に拡張され人類の主戦場である地上での戦闘を強化する方針が取られた。

海軍は存在意義を失い、将校の士気が低下。そこからは恐ろしい速度で軍全体が堕落したのだ。

村上はこのままではまずいと、上官に掛け合ったりしたが司令部の作戦指揮のミスを押し付けられ戦犯としての扱いを受けていた村上に発言力はなかった。

村上はその後も司令長官の予算着服などを匿名で告発、しかし軍の堕落は止まらず村上は軍を去った。

 

「あの頃と状態はあまり変わっていない。そして君は、あの頃とは変わってしまった...。」

 

村上には痛い言葉だった。彼は軍を去り酒におぼれて、彼自身も堕落していたのだから。

 

「私が戻ったところで軍は変わりません。それに今の私には軍に戻る資格も、人の上に立つ資格もない。」

 

「もっとだと思う。今の君では恒常的に部下に暴力を振るうほかの提督と何ら変わりはしない。」

 

村上には二サエルが一体何のために自分を引き留めているのかわからなくなってきた。

 

「あなたは私を引き入れたいのかどうしたいのかさっぱりわかりません。」

 

「資料を読んで君を引き入れたいと思い、ここで面会してこいつではだめそうだと思った。私は今まで資料だけで人を選び直観など信じなかった。私は今回どうすべきなんだと思う?」

 

「恐らく最後の要素は私の意思でしょう。」

 

「それがわかっているなら何故君はそこで静かにしているんだ?」

 

自分が望むことであれば実力を発揮できるということは十分わかっていた。だがここで軍に戻ることがはたして自分が望むことなのか一向にわからなかった。

 

「まあいい。そうだ。君の昔の部下を連れてきた。懐かしい話でもしたらどうだ。」

 

重厚な扉が開き二サエルが部屋を出るそれと入れ替わるように部屋に入ってきたのは冷たい目をした女だった。だがその冷たい目はただ彼女の癖で決してこちらを軽蔑している目ではないことを村上はすぐに分かった。

 

「久しぶりだな。加賀。」

 

「ええ。随分とお久しぶりですね提督。」

 

「すまなかったな。」

 

加賀は首を傾げ

 

「今更謝罪?」

 

とふふっと笑い

 

「別に誰もあなたのことを責めてませんよ。随分と弱腰になりましたね。」

 

村上が加賀の顔を直視できていないのも相まって加賀が何を思ってしゃべっているのか村上には皆目見当がつかなかった。

 

「私だって人間だ。それにあのときほど自信過剰でもない。」

 

「自信過剰?そう。」

 

二人の間には空気が音を立てて凍り付くほどの沈黙が流れたかと思うと

 

「そうね。」

 

と加賀が悲しそうにつぶやく。

 

「あなたはもう昔の提督ではないんですね...。そうだ、あなたが不在の間に大和さんと最上さん、夕立さん、そのほかにもあなたが教育した一級品の練度を持った娘たちが大勢死んだわ。ほかの提督があなたと違い無茶な指揮を可能にする技量も持たず艦娘に無理を強いたせいでね。」

 

村上はその事実に激しく動揺した。自分が教育した艦娘がそう簡単に死ぬとは思っていなかった。少なくとも彼らが命を落としてでも攻略せねばいけない作戦など彼が軍を去ってから行われていないはずなのだ。だが

 

「そうか。」

 

としか彼には言えなかった。沈黙する彼を今度ははっきりと軽蔑の意思を持った目で加賀は見つめる。その視線は村上が嫌がってもはっきりと自覚できるほどだった。それでも

 

「またどこかで会いましょう。」

 

加賀は決して声を荒げることはなく静かにそして冷たく言い放った。村上は頭を抱え座り心地の悪い椅子に深く座りそのまま沈黙を破ることはなかった。

 

 

村上はしばらくして解放され空港に向かっていた。羽田は先日の戦闘で被害を受け復旧作業中であるため成田に向かうことになった。とはいっても飛行機のほとんどが欠航となりかなり時間があるため村上は横須賀の慰霊碑に向かった。

 

慰霊碑は小さいものと大きいものが並びあたりは静かだった。大きいものが人間のためのもの。こちら側には多くの花束が供えられていたが隣にある艦娘たちのものは明らかに小さく花も片手で数えられるほどしか供えられていなかった。親も家族もいない艦娘のための慰霊碑に花を手向ける人はそれほど多くない。村上はその二つに手を合わせた。

 

「すまなかった。」

 

ぼそりと空に向けてはなった言葉は思ったよりも近くの何かにぶつかった。

 

「村上司令?」

 

振り返るとそこには笑顔を浮かべる男がいた。

 

「やっぱりそうじゃないですか。私ですよ、あなたの秘書官を務めた山本です。」

 

そう言うと男はきれいな敬礼をする。言われてみれば確かに見覚えのある顔だ。

 

「そうだったかな?」

 

「そうですよ。戻ったんですか?」

 

「いや放浪の旅で立ち寄っただけさ。」

 

山本は少し残念そうな顔をして

 

「私も下手をすれば職を失うかもしれません。やっぱり男よりもかわいい女の子がそばにいたほうがいいんでしょうか。そうなった時は私も放浪のたびに連れていってください。」

 

冗談めかしく彼はそういうが秘書官の職を完全にとって代わられてしまった彼は一体何をしているのだろうか。

 

「私が軍に戻った時君に秘書官でも頼もうかな。」

 

軍に戻る気など毛頭ないにもかかわらずそう答える。すると山本は嬉しそうに

 

「ぜひお願いします!」

 

そう答える。罪悪感にかられるが仕方ないのだ。

 

「仕方ないのか?」

 

「どうしたんです?」

 

村上のつぶやきに山本は反応する。

 

「山本秘書官。私が軍を去ったのは仕方ないと思うか?」

 

「それは...。」

 

山本は突然の質問に戸惑いながらも

 

「あの当時のあなたの階級ではもはやどうすることも出来なかった。私はそう思います。」

 

階級があれば変わったことだろうか?

もっと根本的な問題があったはずなのだ。彼にはどうすることもできないそんな何かが。

 

「何かがつかめなかった。だからどうすることも出来なかった。あの時俺が言っていた愚痴を覚えているか?」

 

山本は天を仰ぎ少し考えると

 

「そうですね。司令部が意見を聞かないだとか、部下の士官が命令すら適当に済まそうとするだとか嘆いていましたね。」

 

だが村上が求めているのは当然そんなありきたりの愚痴ではない。あの時気づけなかった何かがあると村上は直観していた。

 

「他にないか?」

 

「うーん。他ですか?」

 

山本は困った顔をしてこちらを見る。かなり前のことを覚えているだけでもすごいのだ。だが村上の欲しい言葉は出てきそうもない。

 

「戻ればいいじゃないですか。」

 

山本は突然そんなことを言い出した。

 

「あなたは軍を捨てた。でも現状の軍を見てやはり心を痛めている。軍を去った手前何か理由だとか目的だとかそんなものがないと戻ってはいけないと思っているんでしょう?昔からあなたはいちいち面倒な人でしたよ。」

 

芯があり信念を持った男。そんな評価が自分の行動を縛り上げ居心地が悪くなっていたのは事実だろう。

もとはと言えばただの官僚に過ぎなかった。軍をやめた時は信念があった。だが、いざ軍務を離れてみれば自分には何も残らなかった。自分がほしかったのは軽蔑の目線でもなければ激しい勧誘でもない。

 

「居場所はあるんだろうか?」

 

「私は歓迎しますよ。」

 

居場所なんてないだろう。勝手な理由で軍をやめ三年間も引きこもり突然帰ってきて復帰したいなどと言う。あまりにも身勝手すぎる。村上にもそれはわかっていた。腐りはてたプライドを守るべきなのか、それとも自分の過去の経験を生かすべきなのか。どちらがいいのかそんなものわかっている。

 

「俺はどうしたいんだろうな。」

 

「めんどくさい人ですね。やっぱり戻ります。それを言うのがそんなに難しいですか?」

 

山本は呆れたように言う。

 

「俺には戻る場所などない。でも、俺の経験が必要な場所はきっとあるだろう。山本。新しい身分を用意してくれるか?それと二サエルには期待するなと、言っておいてくれ。」

 

「二サエル司令長官がなぜ突然出てくるんでしょうか?」

 

山本はとぼけてみるが

 

「どうせ二サエルに説得するようにでも頼まれたんだろ。」

 

「正確には加賀さんにあそこまで言わしておいてあなたが変わらなかったらそのままどこへでも行かせてやれとは言われていましたよ。それと、加賀さんの言っていた轟沈ですがあれは避けられなかったことです。戦争に死者はつきものです。」

 

「少なくとも私のもとで戦っていたのなら彼女らは死ななかったはずだ。」

 

山本は苦い笑いを浮かべ

 

「傲慢ですね。」

 

そういう。確かに傲慢だ。だが少なくとも彼も二サエルもそれがただの強がりではないことを知っていた。

彼が艦娘の未来を照らす光になるかは誰にもわからない。だが少なくとも二サエルは無能な中越に防衛を任せ、戦犯の村上に賭けるだけのものがあると、そう判断していた。




艦これ?知らない子ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。