堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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芽吹き

南鳥島に再上陸した竹野だったが、彼はそれからしばらくの間訓練の組み見直しと出撃の指揮に追われ鎮守府の変化に目をつむっていた。

その間にも艦娘たちは竹野との間に壁を作り離れていった。理由はすぐに分かった。天龍が週刊誌の記事のコピーを持ってきたのだ。

恐らく青葉が内地で買ったものだろう。あまりに脇が甘すぎた。未だに自分を信用していない艦娘がいることは知っていた。青葉が何をするのか知らないまま送り出したのが迂闊だった。彼女のプライベートに介入するのをためらってしまったことが問題だった。

 

「否定した方がいいんじゃねえのか?」

 

天龍はそう聞いてくるが否定するも何も記事を見れば事実を多少誇張し大げさにものを言っているだけで否定することは何もなかった。

 

「付き合いは短いけどよ、さすがに艦娘10万もおいて逃げだすような指揮官じゃないだろ。」

 

竹野は何も答えない。

 

「何だよ。どうしたんだよ。」

 

「なら聞くが。私が仮にそれは事実じゃないと否定したところで君たちは信じるのか?散々人間の醜い部分ばかりを見てきた君たちが。」

 

竹野が本当の過去を語っても彼は当事者でありそれは事実ではなく彼の言い分にしかならないのだ。

 

「それでも何も言わないよりはいいだろ?」

 

天龍はまだ純粋だともいえる。この鎮守府にいる艦娘の中で最もダメージがすくない。だから竹野が過去を語ればそれを信じてくれるだろう。

だがほかの艦娘はそうではない。心を開かせることが出来たのは今まで竹野がひたすらに自分の過去を隠し、よい面だけを見せ続けた結果ともいえる。

だが彼が艦娘を見殺しにした男だとしれれば評価は逆転する。竹野が詐欺師にしか見えないくなるのだ。

 

「言おうが言わまいが結果は同じだ。」

 

「なら作戦はどうするんだ?」

 

天龍はそう聞くが、竹野は特に慌てる様子もなかった。ひとまず目先の作戦に影響があるとは思えなかったからだ。

 

「それは問題ないだろう。敵を放っておけばここに攻め込んでくる。結局君たちは戦うしかない。」

 

「でも味方を見殺しにした指揮官と思われてるのに指示を聞いてくれると思うのか?」

 

「天龍。君が思うより君たちは強かで、君が思っているほど純粋じゃない。」

 

ここにいる艦娘たちは自分に危害を与える可能性のある人間をどうすればいいのか知っている。

牙を隠し従順さを演じ自らの存在を消す。何を捨てれば自分たちが生き残れるのか知っている。

誇りも、純潔も、彼女らは捨ててきた。今更竹野の過去がどうであると知ったところで彼女らは怒りも、竹野に対する期待も捨てて一時的に竹野の命令を聞くことを甘んじて受け入れるだろう。

そういう意味ではこちらに明確な敵意を向けてくる飛龍などはここにきても純粋さを保っている稀有な艦娘だと言える。

 

「そんな風に思ってたのか?」

 

天龍は作業の手を止めてこちらを見る。

 

「申し訳ないがそうだ。」

 

天龍は泣きそうな顔になっていた。彼女は下を向き顔を隠して駆け足で執務室を出ていく。竹野はため息をつき再び資料に目線を戻す。

 

 

「やっぱりここにまともな司令官が来るはずがなかったのよ。不幸だわ」

 

山城さんが嘆いている。でもどうしてでしょう。その目は安堵しているようにも見えます。

青葉さんが本土から戻りすぐにこの記事は鎮守府中に配布されました。

けれど、この大スクープに誰も喜びはしませんでした。青葉さん自身もそうでした。作り笑顔で提督の悪口を流布する姿は狂気の混じった恐ろしい姿でした。

加賀さんの話を聞いて私たちのほとんどは迷っていました。

どうやら敵が迫ってきているらしいのです。加賀さんが言うには私たちが提督に協力しなければ各個撃破されて壊滅するらしいです。

食堂に艦娘たちは集まってつまらない噂話に花を咲かせていると、天龍さんが涙目で走ってきました。

 

「提督。あいつやっぱだめだよ。ふふ。」

 

何とか明るく振舞おうとしていた様子でしたがだめだったみたいです。龍田さんが駆け寄ると彼女の胸に顔をうずめ静かに泣いていました。

 

「それでどうします。」

 

加賀さんがみんなの意見をまとめ始める。

 

「私はひとまず今回の作戦の指揮だけは取らせるべきだと思います。」

 

霧島さんは冷静でした。私たちの中で指揮を執る人を決めたところで恐らくあの提督には遠く及ばないからです。

 

「それには私も賛成だ。恥ずかしげもなく私に説教をしたあの男に腹が立つがそれとこれとは別問題だ。」

 

長門さんが同意を示したことでおおむね戦艦組の意見は決したようだ。

 

「私は反対です。加賀さんから聞いた提督の立てた作戦はそこまで難しい作戦ではありませんでした。時間さえあれば私達でも考え付きそうな作戦でしたから。」

 

赤城さんは提督に指揮をさせたくないらしい。

 

「ならどうするんだ?」

 

長門さんが赤城さんに聞く。

 

「今回は合同で作戦が行われるそうです。ですからほかの鎮守府のまともな司令官に代わってもらうのはどうでしょう。簡単な作戦なら指揮する部隊が増えても問題はないでしょうから。少なくとも私たちを見捨てはしないでしょう。」

 

赤城さんの意見ももっともに思える。

 

「駆逐艦から何か意見はないのかしら?吹雪?」

 

加賀さんからの指名が入る。

 

「え。あ、はい。私は赤城さんの意見に賛成です。司令官が激務で私達への指揮が杜撰になることもあると思いますけど、少なくとも敵ではない司令官のもとで作戦を実行したいです。」

 

加賀さんはしきりに何度か頷き

 

「なら駆逐の皆さんは今すぐにでも指揮官を変えたいと言う事でいいかしら?」

 

「私は反対です。」

 

朝潮ちゃんが手を挙げてそういう。聞いた話彼女は提督に飼いならされてしまったらしい。

 

「どうして?」

 

加賀さんが聞くと朝潮ちゃんは再びしゃべり始める。

 

「まずは事の真相を究明するのが先だと思うからです。週刊詩に書かれていたとしても本人がそれを否定するなら提督の言い分も聞くべきです。天龍さん提督は否定していましたか。」

 

「朝潮!聞くまでもないでしょ。天龍さんが泣きながらここに来たんだから。大体あんたねぇちょっと優しくされたからってコロッと向こう側に落ちてるんじゃないわよ。」

 

満潮さんが天龍さんに近づこうとする朝潮ちゃんを止める。

 

「落ちた訳でも優しくされたから恩を感じているわけでもありません。」

 

朝潮ちゃんはそう言うけれど私から見ても最近の朝潮ちゃんは妙に司令官寄りに見えます。

 

「他に意見は?夕張さん?」

 

「え、私?え~。何だろ。私提督のことあんまり知らないんですけど。でも味方を見捨てるような指揮官の下で作戦するのは嫌ですよ。」

 

「まあ、当然ね。」

 

どうにもまとまる気配がありません。

提督が艦娘を見捨てた証拠がないと言ってまだ提督を信じようとする素直な娘に記事を読んですぐに提督を見限った先輩たち、今回の作戦だけは仕方なしに指揮をさせようとする戦艦の方々。

いろんな意見があってなかなか難しい展開になってきました。

みんなが黙り込んでしまいしばらくの間食堂は静かでした。

静かになった食堂で天龍さんが

 

「あいつは....否定しなかった。」

 

そう言います。

 

「それは、あの記事について?」

 

「そうだ。でも、肯定もしてなかった。自分が否定しても俺たちは信じないだろうって。」

 

みんなは何もしゃべりません。ほかの艦娘がどう感じるかは知りませんが少なくとも私は提督の言い分がどれほど正しそうに見えても信じたりしないでしょう。

提督が何を言っても私達にはもう刺さりません。彼は過去を隠して私たちをだましていたのですから。

 

「私から提案があります。」

 

「吹雪?どんな提案?」

 

「はい。今の提督におとなしくしたがっておけばいいと思います。」

 

私がそう述べると加賀さんは

 

「さっきと全く違う意見になったけれどそれはどうして?」

 

「今の提督は私たちに暴力を振るうわけでもなければ大破したまま放置するような提督でもありません。ただ私たちを裏切るだけです。だから私たちが彼の事を仲間だとも指揮官だとも思わなければいいんです。彼を変に追い出して次の提督が来た方が面倒になると思いませんか?」

 

私の意見にほとんどの艦娘は賛同してくれました。

でも一人、一番あり得ないだろうと思っていた艦娘が反論してきました。

 

「それでいいの?」

 

飛龍さんだった。彼女が一番提督の事を嫌っているだろうし追い出したいと思っているはずなのに。

 

「どうしてあなたが?」

 

加賀さんも不思議そうな顔をしている。

 

「どうしても何も。こんな陰気臭い集会が気に食わないからよ。」

 

飛龍さんはまっすぐな人だ。提督を殴ることすらためらわない。だから私たちのやり方が気に食わないのだと思う。

 

「飛龍。今の提督を飛ばしたところで司令長官がこの鎮守府に意図的に問題のある司令官を送りつけている限りいつまでたってもまともな提督が着任することはないんだ。ここらで妥協できないのか?」

 

長門さんがそうなだめると、飛龍さんはさらにあり得ないことを言い始めました。

 

「私はそんなこと言ってない。今の提督をどこかに飛ばさないと気が済まない。どうせ私をそんな単細胞だと思ってるんでしょ。10万の艦娘。」

 

長門さんは首をかしげる。

 

「それがどうした。」

 

「十万の艦娘を捨てて、のこのこ逃げ帰る奴に見えるの?あの無駄に肝が据わった提督が?」

 

飛龍さんはこの記事の内容とそれをただ受け入れたわたしたちが気に食わなかったみたいです。

 

「でもそんなことが出来る人じゃなければ私たちを懐柔することなんてできない。そうよね。」

 

山城さんが同意を求める。数名の艦娘がうなずくと飛龍さんは頭を抱えて

 

「っ....もうめんどくさい。不幸自慢に被害妄想。うんざり。あいつが本当に私たちの仲間を見捨てたんだったら殴ればいい。ぶっ飛ばせばいい。そしたらまた新しい提督が来る。そいつもだめならそいつもぶっ飛ばせばいい。」

 

飛龍さんの言い分は無茶苦茶だ。

 

「そんなことすれば解体されてしまいます。」

 

扶桑さんが飛龍さんを止めるが

 

「私は解体されたことないわよ。」

 

飛龍さんはそう腕を叩いて見せる。

 

「納得いかないのよ。私の提案を無視して仲間を沈めた昔の提督と全然違う目をしてるここの提督が、あいつと一緒だったら、私の目が間違ってたってこと?冗談じゃない。せめてあいつの口からはっきり言わす。私に勝手に希望を与えた無責任な今の提督に。みんなムカつかないの?偉そうにご抗弁を垂れたくせに、いざ蓋を開ければ最低な指揮官でした。ふっざけんな!」

 

ムカつく。司令官に向けていい感情なのでしょうか?

私にはそれがわかりません。提督に敵意を向けたことも憎しみを覚えたこともあります。でも私は司令官に改善を求めたことはなかったのかもしれません。

それが許されないことだと思っていたのかもしれません。

 

「私は。少し、頭にきました。」

 

加賀さんは相変わらず無表情に言う。

 

「私はさっきも言ったが腹が立つ。偉そうなことを言うだけの男なのか見ることもなく逃げていくのならもっと腹が立つ。でもそれとこれとは違うだろう?」

 

長門さんも同意を示します。

 

「何が違うの?長門、一瞬でも信じたから腹が立つんでしょ。私たちを騙していたのならあいつがどうしてそんなことをしようとしたのか気にならないの?」

 

疑問。探求心。そんなものとっくに忘れました。

でも食堂はざわついてきました。私は何か取り戻せないものを失ったのでしょうか?

 

「俺は。悲しかった。俺たちがこういうことを話すってあいつは分かってた。俺たちの傷が癒えてないってあいつは知ってた。どれもこれもあいつにとって予想通りなんだと思う。でもあいつは俺たちが霧島が言ってたように利用すると思ってる。吹雪の言ったように関係を浅いまま続けようとすると思ってる。だから俺を蹴り飛ばしたんだと思う。俺を引きはがそうとしたんだと思う。馬鹿だよな。俺って素直すぎるよな。あいつの策に引っかかって、こんなだせえ顔になっちまった。」

 

天龍さんは顔を上げます。目元は赤くなって目はうるんでいました。龍田さんが怒るのではと思いましたが彼女はただ優しく天龍さんを慰めていました。

 

「そろそろ決めましょう。」

 

加賀さんがいよいよと言った顔でみんなの方を見ます。

 

「提督の話を聞かずにこのまま追い出したいと思う人はいますか?」

 

当然誰も手を上げません。

私もほかのみんなも少なからずこの数か月は楽しかったし期待もしていました。みんなすぐに諦めたと言った顔をして食堂に集まっていましたが、誰一人として今の提督が私たちに押し付けてきた安い希望を捨てられなかったんでしょう。

 

「なら彼をつるし上げてでも聞きましょうか。」

 

加賀さんは恐ろしいことを言います。みんなが笑っています。

 

「何ですか。本気ですよ。」

 

加賀さんがそう言うとまたみんなが笑います。こんな光景初めて見たかもしれません。

 

 

その後飛龍さんを先頭に執務室に殴り込みに行きました。

しかし提督は少しもおどろかずに言った。

 

「何か期待してるのかもしれないが私が10万の艦娘が死んだ海戦から生きて帰ったのは事実だぞ。」

 

竹野はそういうが

 

「それが事実だとしても何か理由があるでしょ。責任を背負いたいのか知らないけど私たちは今、あなたの部下なの知る権利があると思わない。」

 

と飛龍に反論される。

 

「それでも君たちを失望させることになるのは間違いない。」

 

「なら、次の作戦で誰一人沈めずに作戦を成功させてよ。その後に聞けば私たちは失望なんかしない。」

 

飛龍は引くつもりがないらしい。次の作戦ではもともと轟沈しやすい駆逐や軽巡が危険にさらされる場面が多くなる。

それでも竹野には一人も沈ませない自信はあった。ここは彼女たちが沈むべき海ではない。

 

「わかった。長い話になる。今は時間を無駄にできない。作戦を一人もかけることなく成功させることが出来れば私の過去について話そう。それでいいか。」

 

飛龍は頷いて。

 

「一人でも沈んだら命がないと思いなさい。」

 

そうとだけ言い残して執務室を去っていく。静かになった執務室には天龍が取り残されていた。

 

「すまなかった。言い過ぎだった。」

 

「いや。俺もよく考えずに本心だと思っちまった。結局一番信用してなかったのは俺の方だ。」

 

実際のところ年端もいかない子供をだました竹野が悪いのだが今回は天龍が謝っているしそう言う事にしておこう。

ひとまず事態は解決した。竹野が思っていたよりもよい状況で。

過去を思い出すのも億劫だが今は気にしないことにする。

まず、すべきは轟沈なしで作戦を終わらせることだ。




誤字報告感謝します。いよいよ序盤の山場到来です。
何回かに分けての投稿になると思いますが、全て完成してからの投稿しますので投稿が止まったらご容赦ください。
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