堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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グアム先制防御作戦 前段

 想像よりも整備された鎮守府。

 

ワーグナーが上陸した最初の感想だ。少なくとも彼の知っていた隔離施設とは違った。

ワーグナーがこの鎮守府に来たのは初めてではない。ボロボロになったここの提督をひっ捕らえに来たことがある。

正直な話二サエルの考えは読めないが竹野がそこまでの危険人物には見えなかった。

しかし、ここの鎮守府の今の様子を見るに、とてもただの新米が頑張った結果と言うには無理がある。

目標にしている精度は新米らしい無茶な数字が設定されている一方、それを実現させるに十分な指導が行われていた。

とても新米提督だとは思えない。会議の時もそうだったが、どうやっても新米の思い付きだと割り切ることが出来ないことを彼はやってのけている。

ワーグナーにしてみれば今更二サエルに何かを仕組まれることいちいち相手にすることはないがやはり不快だ。

そうはいっても彼にとって二サエルが何をしようが自分のすることは変わらない。正義を信じて正しい行いをする。いかにもアメリカの軍人らしい考えの持ち主であった。

彼のその自由で深く考えすぎない性格のおかげで、深海棲艦との初戦で大破し大炎上する原子力空母ユージーン・B・フラッキーから飛び降り、唯一の生存者となれたのだろう。

 

「数日ぶりですね、竹野提督。」

 

「今回はよろしくお願いします。食事はまずい鎮守府ですが我慢してください。」

 

竹野は偵察情報を眺めながらそういう。

 

「ただのジョークだということを祈るよ。」

 

ワーグナーは苦笑いをしながら竹野に近づき航空写真をのぞき込む。

 

「情報部の予想通り敵の勢力拡大はひとまず止まっているようです。」

 

「なら計画通り、水雷戦隊を第一波で突入させる。その後に主力部隊を侵入させる。第二次世界大戦当時の戦術にも見えなくないな。」

 

その通りだ。編成だけを見れば確かに二次大戦のものに酷似している。ただ水雷戦隊を白昼堂々バカみたいな質量の殴り合いに参加させるのだ。敵がこちらの意図に気が付く前に削り切る。あるいは最善のタイミングで撤退をさせなければ間違いなく轟沈が出る。

 

「水雷戦隊の撤収のタイミングは?」

 

ワーグナーも同じようなことを考えていたようだ。

 

「こちらとしては轟沈はゼロに抑えたいです。ただ安全策を取りすぎれば敵の熟練の主力をまた取り逃がすことになります。」

 

こちらが勝利と言えるのは敵の熟練主力を壊滅させることが出来たときだ。壊滅させることが出来なければ深海棲艦の圧倒的物量で駆逐などの護衛が再補充されて再び攻撃を仕掛けてくることが目に見えている。

 

「この前も言っていた通りだな。」

 

「そうですね。タイミングはこの資料だけでは予想できません。作戦を開始してから私のタイミングで退いてもらえますか?」

 

ワーグナーは頷いて

 

「わかった。自称新米の力を見せてもらおう。」

 

竹野は微妙な顔をして、

 

「初めての作戦ですから迷惑をかけないようにしないと。」

 

と返す。ワーグナーは笑い。

 

「まあ、何を隠したいのか知らんが期待してるぞ。新米。」

 

そうして二人は作戦ボードを眺めて語り始めた。

 

 

「竹野提督。そろそろ具体的な編成を考えないか?」

 

それから数時間にわたって竹野とワーグナーは作戦の細かい部分を詰めていきようやく編成にまでこぎ着けた。かなり関係ない話もしていたような気がするが。

 

「そうですね。ですが時間も時間ですから飯でもどうですか。」

 

時間は正午を回っておりワーグナーもそう言われると途端におなかがすいてきた。

 

「そうだな。味にはあまり期待しないでおこう。」

 

流石の竹野も食堂の味にはまでは自信がない。この前揚陸した食材を適当に煮込んだ、みたこともない料理が並ぶのがここ最近の日常だった。

 

二人が執務室を出るとワーグナーの方には彼の鎮守府の艦娘が駆け寄っていく。一方の竹野の方には誰も駆け寄ってくることはない。

先日のことがあってもなお駆け寄って来たのなら、それはそれで怖いのだが。

 

「えらく惨めに見えるな。」

 

適当に艦娘たちをあやしたワーグナーがこちらをみてそう言って来る。

 

「あなたのような鬼教官になぜそこまで艦娘がなつくのか理解しかねますね。」

 

「そうへそを曲げるなよ。」

 

事情はどうあれ、何となく指揮官として負けた気がして嫌だった。

 

「苦労してるのか?」

 

「それはもうとんでもなく。」

 

ワーグナーは何か知っているのだろうか?

 

「あなたはここの鎮守府とどういった関わりが?」

 

「ここで暴れたどうしようもないクズを本土に連れ帰ったことが何度かある。それだけだ。」

 

そんな奴らのことは書類では知っている。

 

「あなたから見てその提督たちはどう見えましたか?」

 

「思い出したくもない記憶だが、君にはそれが必要だな。まずはここの前任だな。何をしたかは知ってるか?」

 

「強制性向に必要性のない暴力行為。それに戦果の水増しと資金の横領。反省してやり直す機会をくれと泣きついたにもかかわらずこれですよ。全く意味不明だ。」

 

「全く君の言う通りの人物だったよ。全ての行動が支離滅裂。発言と行動はおろか、目的と行動すらちぐはぐだった。」

 

「ろくな教育も受けさせずに権力だけ与えれば一部がそうなることは分かり切ったことです。彼はもちろん悪いがそれを止められなかったこの海軍と言う組織に問題の根本はある。私はそう思います。」

 

「そうだな。だが、食事前これ以上嫌な話はしたくない。ここに最初に来た時の状況を思い出しただけで反吐が出る。また後で話そう。」

 

相変わらず記憶に残らない味の飯を流し込み食堂を出る。

 

「さて。飯も食ったし仕事をしようか。」

 

ワーグナーと向かったのは執務室ではなく地下にある作戦司令部だ。

 

「設備はそれなりに使えるようにしています。骨董品ですがね。」

 

深海棲艦相手に暗号通信まで使うは必要なくなるべく安く調達できる無線で指揮を執っていた。

衛星も使わしてくれないため大きなアンテナが鎮守府には設置されていた。

 

「最近はどこもこんなだよ。暗号通信だとか、情報戦だとか。そんな時代が懐かしい。」

 

「NCWは全然聞かなくなりましたけどC4Iシステムはいまだに有効だと思いますけどね。」

 

「だとしても、残念ながらそれを運用できるほど今元気な軍隊はいない。」

 

戦略、作戦、戦術、戦闘を効率的に統制するシステムが使えたらどれほど楽だっただろうか。

ないものを嘆いても仕方ないのだが。

 

「さあ現実をみましょうか。」

 

内藤とマフダも合流していよいよ作戦の細かい部分が決定していく。

主力はまとめて運用する一方で損耗の激しくなる水雷戦隊と兵装を使い切った駆逐や軽巡の撤退を援護する部隊は分割して指揮することが決定した。水雷戦隊の指揮はワーグナーと内藤とマフダが執り後退援護の部隊は竹野が指揮することになった。

主力の指揮は攻撃を終了した水雷戦隊の指揮官が執ったとしても十分間に合う。

 

「後退支援には軽空母と重巡を使います。心もとないといえばそうですが敵の主力を叩くのが今回の目的です。そのうえで被害を最小限にする。いや被害など出さない。」

 

「特に文句もない。強いて言うならあまり気を張りすぎるな。新米じゃないことはわかってるがそれでも久しぶりの指揮なんだろ。気楽に行けってわけじゃない。冷静に。そして冷徹に。わかってると思うがな。」

 

「私はただの新米ですって。」

 

ワーグナーの言葉が心に響く。冷静に。そして、冷徹に....。

 

 

久しぶりに大規模な作戦が発令されほかの鎮守府から大量の艦娘たちが上陸してきて、鎮守府はかなり活気にあふれていた。補給の一大拠点として設計されたこの鎮守府はその大量の艦娘を支えるのに十分だった。

 

「轟沈ゼロ。本当に守ってくれると思う?」

 

「あたしは守らないに賭けるね。」

 

摩耶はきっぱり言い切る。

 

「俺たちは大丈夫かもしれねえけど、軽巡と駆逐はこんな作戦じゃ消耗品同然さ。」

 

作戦計画を聞いた時は正直駆逐と軽巡のリスクがあまりに重すぎると私も思った。消耗品と言っても差し支えがないように見える。

 

「やっぱりそう見えるわよね。」

 

けれど、司令官は一定の速度と装甲、火力を持つ私達重巡に水雷戦隊の撤退援護を指示してきた。

限界まで兵装を使い切り足の速さだけが残された駆逐と軽巡を援護しながら後退し敵の護衛艦を減らすように命令してきたのだ。

消耗品前提にするための駆逐と軽巡の撤退を援助するためにわざわざ部隊を作るのか疑問だ。

 

 

「司令部より各隊へ。交信状況の最終確認を実施する。」

 

夜が明けていよいよ作戦が始まろうとしていた。

 

「よし。司令部こちら主力打撃部隊旗艦長門だ。出撃の準備ができた。」

 

「copy」

 

「九十九里浜水雷戦隊旗艦神通行動可能です。」

 

「チェック。loud&clear。」

 

「南鳥島水雷戦隊 radio check実施せよ。」

 

「感明良好。準備完了だ!」

 

「こちら後退支援部隊だ。」

 

「copy loud&clear」

 

「最後だ。父島、硫黄島合同水雷戦隊。」

 

「デ・ロイテル。こちら感度良好。」

 

「確認した。続いて作戦中の呼称を確認する。九十九里浜水雷戦隊、以降呼称はsd1。」

 

「sd1神通了解しました。」

 

「南鳥島水雷戦隊。呼称はsd2。」

 

「sd2天龍了解!」

 

竹野は若干の後悔をすでに覚えていた。天龍は武装も練度も普通であるが本人たっての希望で旗艦に任命したがおとなしく阿武隈にでもやらせておけばよかったかもしれない。

 

「sd2フラッグ。張り切りすぎるな。」

 

「わかってる。」

 

「父島、および硫黄島合同水雷戦隊。呼称はsd3。」

 

「sd3デ・ロイテル了解。」

 

「続いて主力打撃部隊。呼称はMSGだ。」

 

「MSG旗艦長門だ。いつでも行動可能だ!。」

 

「了解。sd後退支援隊に通達。呼称はsdls。sdと大量の通信が予想されるためフラッグ以外が司令部の無線へ直接入力することを規制する。確認しろ。」

 

「sdlsフラッグ摩耶。了解だ。」

 

「sd1からsd3、sdlsおよびMSGとの通信状態は良好。特記事項なし。全部隊、作戦開始の発令を待機せよ。」

 

いよいよ始まる。竹野は冷静に深呼吸をする。

 

「どうした新米?」

 

「なんでもありません。何せ久々なもので。」

 

ワーグナーがにやりと笑うのが見える。

 

「新米じゃなかったのか?」

 

「ただの言葉遊びですよ。初めての作戦で緊張してしまって。」

 

無線に音声が入らないようにしながら初めてを強調して言う。ワーグナーは失笑して

 

「とっとと始めるぞ。」

 

竹野はワーグナーに頷いて見せて無線を取る。

 

「All Station。こちら司令部。作戦開始を発令する。繰り返す。作戦行動を開始せよ。」

 




今回はかなり見たことない言葉が多いと思います。でも安心してください糞にわか軍事知識でしか書いてませんので少し調べれば出てくる言葉ばかりです。気になる方は調べてみてください。

補足
sdは水雷戦隊の略称ですが今は使われていませんでした。そもそも現代では肉薄して魚雷を打ちまくる水雷戦隊など存在しないそうです。

MSGは完全に造語です。空母打撃軍がCSGと表記されておりキャリアー(carrier)をメイン(main)に変更しただけです。

sdlsも造語です。後方支援(Logistics support)をLSに略してsdにくっつけただけです。
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