堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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グアム先制防御作戦 後段

作戦に開始と共に水雷戦隊と後退支援部隊は速やかに南下、主力部隊は九十九里浜の加賀や護衛空母が対潜哨戒を続けながら交易航路を使い交戦を避けながら南下していた。

 

「sd全隊へまもなくそちらは情報部の試算した敵の哨戒圏内に入る。警戒レベルを最大限に引き上げ侵入せよ。sdlsは偵察機を飛ばしたうえで圏外にて待機せよ。」

 

じきに敵と接敵する。今までの傾向から敵はこちらの主力をいかに沈めるかを考えている。敵の堪忍袋の尾が切れて水雷戦隊への攻撃が本格化するまでにどれだけ護衛の船を沈めれるかにかかっている。

 

「sdlsフラッグより。僚艦が敵部隊を発見。距離はsd3の南南東5キロ。」

 

「sd3へこちらマフダ。交戦準備。敵部隊の編成は同じく水雷戦隊だ主力じゃない速やかに潰せ。連絡すらさせるな。」

 

なかなか恐ろしい女だ。

 

「デ・ロイテル Wilco」

 

竹野はすべての部隊を観察しながら兵装の残数をざっと計算しておく。そのうえでsdls所属の軽空母に偵察機を大量に載せることで戦場のより詳細な目として全体を監視する。

偵察機が展開し終わるまでは完璧な監視体制とは言えないがスピードが命の第一段階ではそれを待つわけにはいかない。

第二段階ではこの偵察機の情報をもとに超長射程の艦娘と空母が視認外から攻撃する。それまでに展開できれば御の字だ。

 

「sd1の南に約60キロの海上に敵の主力にらしき軍団が見える。衛星の情報とも一致する。この一団を敵主力と断定する。」

 

流石に距離がありすぎるため敵が偵察機を飛ばしているかどうかはわからない。ただ敵はこちらの攻撃を予測していない。今まで機能していなかった南鳥島から大部隊が攻撃してくるなど予想できない。はずだ。そうであると楽なのだが。

 

「sd3。敵水雷戦隊と接敵。敵を全滅させましたがこちらも中破が14小破が37出ました。」

 

「sdls司令からsd3へsdlsが即座に対応可能な範囲外だ。そのまま作戦を続行せよ。」

 

そろそろsdlsも作戦海域へ突入した方がいい頃合いだろう。

 

「sdlsフラッグへ作戦の海域に突入。敵主力がいる方向に向かえ。」

 

「任せろ!」

 

摩耶の気前のいい返事が聞こえる。

 

「sd2は敵の他部隊がいる可能性を考慮してタイミングをずらして敵に肉薄する。それでも問題ないか?」

 

「ワーグナーWilco」

 

現時点での損害や兵装の残数、位置関係などから考えるに恐らくsd2が最後まで攻撃を続けることになる。必然的に撤退支援の中心はsd2になる。つまり竹野の鎮守府の部隊だ。

 

偵察を続けながら水雷戦隊は全速力で敵部隊に接近している一方で、sd3は哨戒部隊との複数にわたる戦闘で、すでに大破艦を複数出していた。

 

「予想以上に敵哨戒部隊が本気だ。sd3は敵主力と接敵するころには攻撃能力が半減している恐れがある。」

 

ロイテルの悲痛な叫びが聞こえる。しかし敵の総数は変わっていない。哨戒部隊が増員されているのなら当然主力を守る盾は少なくなっている。

最悪の場合、sd3の主力への攻撃は中止する判断も必要だ。

 

「了解。sd3は継続的に損害を報告せよ。兵装残量と損耗をみて主力への攻撃実行について司令部で判断する。」

 

マフダはただ冷静に部隊にそう告げる。まだ若いのに、内藤もマフダもかなり場数を踏んでいるのだろうか?ワーグナーについては特に心配することはない。逆に彼が困っているときはそれすなわち竹野にとってもあまりよろしくない状況となっているのだからこちらも手が回らないだろう。

 

「sd1!敵を視認できるか?」

 

ワーグナーの問いに神通は答える

 

「sd1フラッグ。敵を視認射程圏内に入ります。左砲戦開始します。」

 

「sd1コマンダーから、sd1全隊に次ぐ、展開して各自戦闘に移れ。攻撃開始せよ。」

 

いよいよ第一波攻撃が開始された。この時点で敵主力による本格的な攻撃が行われる可能性は低い。敵の補給線は伸びきっており、深海棲艦お得意の圧倒的物量による攻撃は最近の太平洋戦線では見られない。少なくとも主力は水雷戦隊の事を自分が発砲するに値しない部隊と判断するだろう。

 

「sd2へ通達しておく。sd1が交戦状態に入った。sd1が兵装の半分を使いきった時点で我々も突入する。」

 

「sd2天龍。了解だ!」

 

「sdlsに司令だ。sd3の損傷艦の撤退を支援しろ。」

 

竹野は損耗状態からこのままsd3が戦域に突入すれば轟沈を免れないと判断した。マフダもそれをわかっているようで。

 

「sd3の損傷艦へすぐに残弾を戦闘可能な艦に引き渡せ。sdlsが撤退を援護してくれる。」

 

マフダの指示により大破していた78隻の撤退がすぐに決定される。竹野はsdlsの中でさらに部隊を分ける。現段階で敵の哨戒圏内の大部分はこちらのリアルタイム監視下に入りさらには、敵水雷戦隊の壊滅を確認していた。そのため練度に若干の不安を抱えている重巡を本隊から引き抜き撤退と曳航を任せることにした。手負いの艦と未熟な艦だけの艦隊になるが100%の安全など戦場ではあり得ない。

 

「sdls支隊へ以後呼称をsdls2に変更sd3の損傷艦もsdls2の隷下に入るように。またsdls本隊はこれまで通りsdlsを使用せよ。」

 

呼称の変更を素早く告げて速やかに撤退を開始させる。

 

「sd3へ戦域侵入のタイミングはsd2と同時だ。ただしsd2の戦闘が終了する前に兵装を使い切りsdlsの支援を受けずに撤退する。」

 

sdlsによる支援もさすがに2000隻近いsd全部隊を支援することなどできない。sdlsは400隻ほど編成されており五倍の損傷艦を援護しながら撤退することは不可能だ。

 

「MSGの長門より。敵の哨戒圏内侵入間近だ。指示を。」

 

「MSGへ。敵兵力の損耗により敵の索敵圏は縮小している。敵主力までおよそ30キロの地点まで移動せよ。」

 

敵の空母の攻撃圏内に入ることになるが、敵の通信能力から考えるに、敵は自分たちの水雷戦隊が壊滅していることに気が付いていない。そのため空母は偵察機を自分の近くにしか飛ばしていなかった。

 

「sd1より。もうじき兵装の約半数を使い切る。敵の損害は駆逐630、軽巡380、重巡250と空母2、戦艦4程度は沈めたがまだ駆逐が700隻近く行動してる。それに重巡からの攻撃が攻撃開始から時間が経つほど本格化してる。sd2もsd3も警戒して侵入せよ。」

 

敵の主力が動き始めるのも時間の問題だった。

 

「MSGへ。艦戦を高高度に飛ばしておいてくれ。くれぐれも見つかるなよ。」

 

「MSG了解した。」

 

念のためのお守りを飛ばしておく。

 

「sd1攻撃終了。撤退開始する。」

 

「sdls支援砲撃準備完了しています。要望があればどうぞ。」

 

ワーグナーはなめるなよと言った顔をして

 

「弾を取っとけ。」

 

と頼もしいことを言う。

 

「了解。sd1フラッグ。確認している損害を報告せよ。」

 

「sd1神通。損害は大破262、中破145、小破446です。被弾していない艦が63隻です。」

 

「了解。撤退支援は不要と判断する。」

 

sd1は兵装を使い切っているため反撃はできないだろうが小破程度の艦が複数いることから撤退には苦労しないだろう。

 

「竹野すまない。sd3も撤退を開始する。」

 

sd3の撤退も開始される。

 

「sd2天龍だ。敵戦艦が攻撃を開始したぞ。どうするんだ。」

 

大量のノイズが混じった通信が入る。

 

「sd2へ。撤退を開始せよ。」

 

「だめだ。敵の護衛がまだ削り足りない。」

 

内藤の指示を竹野は拒否した。彼は戦場の目として全体を見ていたが主にsd3が水雷戦隊と通常の戦闘をして試算より多くの弾薬を消費してしまった結果多少の余裕があった計画が狂っていた。ただ竹野は冷静で充分な策を用意していた。

 

「MSGの長門だ。こちらはいつでも攻撃可能。」

 

竹野には今主力が攻撃を開始したところでどうなるのか見えていた。

兵力を温存していた敵の熟練の主力たちにとってほぼ同数のこちらの主力を壊滅させることなど造作もないことだ。

練度はあげたつもりだがあまりにも戦力が違った。情報部は敵の編成をあってもヲ級のフラッグシップが主力程度だととらえていたようだが、ふたを開ければヲ級改フラッグシップを中心にして姫型が40隻近くいるとんでもない艦隊だった。

何とか砲戦に持ち込めたとしても敵にはとんでもない奴がいたル級改フラッグシップを中心にした本気の殴り合い部隊が存在していた。肝心の敵の編成を情報部の高高度偵察機では補足できていなかった。竹野が気が付いたのは偵察機の展開が終了したころ。つまりsd1による攻撃が本格化したタイミングだった。

ただ勝ち筋がなければすぐに竹野も撤退を決定する。

敵の護衛艦を全て飛ばし丸裸になった敵を偵察機からの情報による一方的な攻撃を展開するつもりだった。

sdlsの軽空母には偵察機以外では積めるだけ艦戦を積んでいたし制空権は確保できる。だが結局護衛を削れなければ精度もタイミングも合わせにくい遠距離からの砲撃では敵を黙らせることはできない。

敵の護衛は残り300程度。敵の防衛手段を封じれていないため最悪の場合敵の見かけの耐久は二倍以上になる可能性がある。

なら護衛だけを狙ってのんびり処理すればいいと言うかもしれないがそんなことをしている間に敵の高速戦艦群が長門はじめとした低速戦艦を補足するだろう。

 

「sd2には攻撃を続行させてください。このままでは目標を達成できない。」

 

内藤は困り果てていた。このまま攻撃を続ければ絶対に轟沈が出る。彼にとっては轟沈などとても看過できなかった。

 

「しかし。」

 

「sd2私の隷下に入れ作戦続行。命令だ。一歩も引くな。攻撃続行。」

 

竹野は困っていた内藤から無線を取り上げる。

 

「主砲による攻撃は中止!雷撃戦のみに集中せよ。いいな。」

 

戦艦と主砲で撃ちあうなど無意味だ。そのために使う能力を全て攻撃回避に使うように指示をする。

何とか轟沈を出さずにこの戦局を乗り越えるためにはある程度の攻撃能力を捨てなければならない。

竹野は偵察機の情報も注意深く見て撤退のタイミングをうかがう。

敵との激しい撃ち合いの末に敵の肉壁はほぼ壊滅したと言ってもいい状態になった。

 

「sd2撤退開始。sdls支援砲撃!」

 

sd2は速やかに撤退を開始するが被害はとんでもなく、部隊の6割以上が大破しており機関にダメージを受けている艦も少なくなかった。

状況を速やかに打開する必要がある。

タイミングを計り竹野は予定にはない行動を要求した。

 

「MSG!速やかに攻撃を開始。」

 

竹野の指揮のもと主力による総攻撃が開始される。

しかし、sd2に対する執拗な砲撃は止まない。手負いの水雷戦隊に攻撃が集中するのは深海棲艦がすでに冷静な判断を失い感情的に攻撃していることが見て取れたが残念なことにこちらは敵が冷静さを失っていてもそれをうまく利用してカウンターを当てる能力をすでに喪失していた。sdlsと何とか合流したsd2だが、たかだか重巡と軽空母の艦隊で敵の主力に打ち勝つことなどできはしない。

 

「冷静に。そして冷徹に....。」

 

犠牲は何か。何を捨てれば被害を抑えられるか。

竹野は偵察機の映像を見る。

 

「ワーグナー!MSGを敵主力に突撃させろ。」

 

「どういうつもりだ?」

 

「攻撃は最大の防御だ。典型的な手を使う。」

 

相手がこちらを沈めようとするならそれより早く相手を焼く。実に簡単な方法で竹野は状況の打開を図る。

 

「sd2、sdls、MSGもてる兵力全てで敵を攻撃せよ。」

 

MSGが突撃を開始したためさすがに敵の主力は優先目標を変更する。

敵はようやく艦載機を発艦させ空母による攻撃を開始しようとするがそれは大失敗に終わる。

空母戦力を温存して主力攻撃に固執していたのがあだとなった。主力が見えた瞬間艦載機を上げることなど竹野にとっては織り込み済みの行動だった。

 

竹野の指示で高高度に待機していた艦戦は急降下で加速して高い機動性得た。一方、発艦直後で速度が出ておらず旋回すらままならない敵機では練度だけではどうしようもない圧倒的な差があった。

飛来した戦闘機部隊は五倍近い航空戦力を瞬く間に撃墜した。

出鼻をくじかれた空母は艦戦を出して抵抗を試みるがすでに制空権は完全に奪われており発艦と同時に艦載機は海に落ちていった。そのうえこちらの空母から発艦した攻撃機が飛来。しかし対空に集中すれば今度は重巡からの魚雷がぶっ刺さる。

何とか状況を打開しようとした空母たちの頭上には軽空母が射出した艦戦が到着し制空権はより盤石なものとなった。

空母が無力化され、攻撃力が大きく下がる中で、次第に敵の攻撃はあちこちに分散し効率的に主力を叩くという戦術は完全に崩壊していった。

またsdlsは隙を見て徐々に離脱を開始しており追跡しようとする敵にはsd2の駆逐が残っている魚雷すべてを投射し進路をふさぐ。鈍重な戦艦には至近距離から放たれる魚雷に対処する能力など当然なく撃沈された。

ただ、こちらも至近距離からの戦艦の攻撃を防ぐすべはない。

そのため竹野は重巡に被害を引き受け弾受けをするように指示した。

あとは重巡が時間を稼いでいる間に何とかして敵を焼かねばならなかったがそこは心配する必要がなかった。指揮統制が上手くいかず射撃管制のままならない相手は手当たり次第に攻撃するがそれで沈むほど艦娘たちもやわじゃない。敵はただ小破の艦を増やし続けたがこちらは攻撃を集中して速やかに敵を排除した。敗走する敵は空母の餌食になり最後の抵抗で突撃してくる敵は長門型と大和型の集中砲火を食らいあえなく撃沈された。

 

「情報部から作戦司令部へ。現在当該海域に敵戦力を発見できない。」

 

「了解。MSGへ。空母は哨戒を実施せよ。sd全隊、状況終了。帰投せよ。sdlsもsd2を護衛しながら帰投せよ。sdls2は?」

 

「sdls2です。すでに帰投済みです。」

 

「了解した。」

 

竹野は無線を置き指揮所の椅子に深々と座りこむ。

ようやく終わった。だが竹野としては満足のいかない作戦だった。情報部の甘い見積もりを鵜呑みにしたこともそうだがもっと早い段階で部隊を引き上げ戦略を再構成することが出来たはずだ。

今回は運で助かった部分も大きい。あらゆる状況に対応できるようにする前に、情報での圧倒的な優位が必要だと今回の作戦で思い知らされた。敵の艦種を判断するために精鋭の偵察機中隊を育て上げ敵にばれないで敵の艦種まで調べ上げる必要がある。

 

「竹野。」

 

ワーグナーが近づいてくる。

 

「いまMSGから報告が入ったが戦艦たちもありったけの弾丸打ち込んで弾切れ寸前だそうだ。」

 

竹野としては分かっていたことだった。正直なところ敵に姫型がいたことで竹野の頭の中の試算では敵を撃ちこぼすと思っていた。艦娘たちは竹野の期待以上の働きを見せてくれていた。

 

「それは大変でしたね。」

 

「他人事のように言うがお前が気づいてなければ今ごろ敵を撃ち漏らし、手痛いしっぺ返しを食らてたかもしれんぞ。お前にはどこまで見えてたんだ?」

 

評価されることは素直にうれしい。ただ姫型があまりに多すぎることや情報部の情報があまりにも杜撰すぎること、戦略部の脅威に対する対処があまりに遅すぎること。など怪しい部分が多いのだ。

昔の組織とは全く別物だということはわかっている。だが、戦略部は竹野にとっては悪い思い出しかない。

 

「正直ここまで大規模な艦隊が敵になるのは予想外でした。」

 

多少、情報が間違っていることや主力との会敵前に被害が出たことそこまでは竹野の予想通りだった。ただ、あまりにも間違え方が致命的すぎる。

 

「陰謀めいた何かを感じますよ。」

 

そう竹野は嘆くが

 

「轟沈なしで予想より強力な艦隊を撃破した。それでいいじゃねえか。」

 

ワーグナーは笑い飛ばしている。軍人とは本来そうであるべきなのだろうか?

 

「そうですね。」

 

竹野は苦い笑いを浮かべる。

 

「よし。うちの給量艦に何か作らせよう。今日は宴会だ!」

 

ワーグナーは立ち上がり指揮室から出ていく。

作戦が終わっても気持ちが晴れないのは、今から自分が過去を語らなければいけないことか?はたまた全く別のことが原因なのか。

実体のない何かにイラつき怯えるのもめんどくさくなってくる。

 

「私たちも行きますか?」

 

内藤とマフダに声をかける。三人は指揮室を出て食堂に向かう。

日はすでに落ちていたが帰還してくる艦娘がいまだに多くいるため港湾は明るく照らされていた。

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