堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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少しの平穏

天龍が提督の捜索を始めてしばらくして海岸で飛龍と竹野という殴り合いが起きそうな二人を発見したが、二人はただ海を眺めているだけで静かだった。

 

「提督?何してんだ?」

 

「お?天龍か?どうした?」

 

そう聞くと

 

「どうしたも何も宴会が終わって提督がいなかったから探しに来たんだよ。」

 

「どうせつぶれてる奴がいるだろ。その処理をすましといてくれ。」

 

と天龍に指示を出して立ち上がる。今度は飛龍は竹野の動きに合わせて立ち上がることはなくただうつろな目で何の変化もない水平線を眺めている。

 

「夜風に当たりすぎるなよ。」

 

とだけ言って竹野はその場を去る。

ワーグナーはジョッキを一気していたにも関わらず顔は少しも紅潮させることもなく執務室にいた。

 

「酒。強いんですね。」

 

と竹野が言うとワーグナーは

 

「アルコールは入ってない。指揮官が酔いつぶれてどうするんだ。」

 

と不思議そうな顔で言う。言われてみれば指揮官として当然の行いなのだがワーグナーのあの飲みっぷりからまさかノンアルコールの麦ジュースを飲んでいるようには見えなかった。

 

「作戦前に部隊を鼓舞することも大切だが、日常の中で彼女らをどれだけ過ごしやすくするかも大切なことだろ。」

 

「それもそうですね。」

 

竹野は机に積まれた報告書の束を確認しながらワーグナーにそう返す。

しかし、ワーグナーの方に振り返るとアルコールは入っていないようだが彼はソファーに深く腰掛け少し苦しそうにしている。

 

「指揮に問題はなさそうですが、少しは自制しないと腹を下しますよ。」

 

ワーグナーは少し不機嫌そうな顔で

 

「一方の君は栄養失調で倒れないか心配だよ。」

 

と真面目に心配しているそぶりを見せる。どこまでもアメリカンな男だ。

 

「そういえば内藤提督とマフダ提督は?」

 

聞くと、

 

「ああ。彼らは食事が終わった後すぐに島を離れたよ。彼らは俺の鎮守府と違って島嶼防衛のための鎮守府の提督だから不要な滞在は避けるように厳命されていたそうだ。司令部に宴会に参加してた事チクるなよ。」

 

と言って来る。命令は大切だ。だが、今の海軍の堕落の原因であるこれ以上の士気低下につながるような機械的な命令にいちいち従っていては何も改善しない。

 

「今回の攻撃で父島への攻撃の可能性も硫黄島への攻撃の可能性も低下したのにどうしてお役所仕事しかできないんでしょうね。」

 

ワーグナーも頭を振り

 

「さあな?」

 

と嘆く。

 

「それであなたの艦隊はいつ戻るんですか?」

 

「明日の昼にここを出る予定だ。何か要望があれば聞くが?」

 

特に要望はない。明日はこの鎮守府も最低限の哨戒と練度維持のための最低限の訓練しか実施しない予定であるしとくに問題はない。

 

「問題なしです。それまでゆっくりしていってください。入渠艦もそれまでに修復を終わらせれるようにしておきます。」

 

「大破艦だけでいいぞ。中破と小破の艦は宴会で酔いつぶれるほど元気だった。」

 

修理もせずに宴会に参加していたことが驚きだがこの鎮守府の入渠設備でもさすがに3000隻近い損傷艦を一晩で修復する能力はないから仕方ないのだろう。

 

「了解です。そのように指示を出しておきます。」

 

ドックに電話を掛けると、明石ではなく夕張が出た。彼女もドックにそれなりに出入りしているらしい。

 

「はーい。夕張です!」

 

「竹野だ。九十九里浜鎮守府所属の大破艦を最優先で修理してくれ、うちの艦娘はのんびりでもいい。」

 

「了解しましたー。」

 

受話器を戻し再び報告書の束に目を戻し机の上に置かれた万年筆を握り確認のサインを記入していく。

 

「お前も休めよ。」

 

ワーグナーはそう言うと立ち上がり執務室を出ていく。

 

「本当にお疲れ様でした。」

 

とだけ声をかけると竹野はまた報告書に目を戻す。しかし、竹野は報告書の確認作業を続ける気にはならず万年筆を置く。椅子の背もたれに首をのせ天井を見上げ、目を閉じる。

 

 

「マーク、俺も連れていけ。一緒に地獄へ連れていけ。」

 

受け取り手のいない周波数で飛ばされた自分の言葉を思い出す。

自分がそう叫んだとき、マークは生きていたのだろうか?

何を思っていたのか。自分の乗艦していた潜水艦でも警報が鳴り響きダメージコントロールが行われていた。

竹野は潜水艦の専門家ではない。後の処理は艦長に任せ自室に戻る。

そのまま沈めばよかった。そんなことも思いながら机の上に置かれた作戦に関する資料を引き裂き床にぶちまける。床に固定された机を何度も殴り、血が出るのも構わずに殴り続けた。

 

 

「おい。提督?」

 

天龍が執務室に戻ると提督が椅子の上で寝ていた。

 

「おい。寝てんのか?」

 

見れば分かるが一応声をかけてみる。

胸のあたりが動いているから死んでいいるわけではないだろう。

酔いつぶれた艦娘の対処を終了したと言う報告だけだったので別に執務室に来る必要はなかったと言えばないのだが、何となくさっき飛龍と何を話していたのか気になったので聞いてみようと思ったのだがどうもだめそうだ。

天龍は竹野を起こさないように報告書の束を傍にある秘書艦の机に移し確認作業を進める。

天龍がサインをしてもその報告書が有効であると認められることはないが何となくそばにいたほうがいい気がしたのだ。天龍もまた飛龍と同じく竹野の様子が変だと気が付いていた。

 

 

早朝、竹野は目を覚まし急いでシャワーを浴び、着替えをすませる。

机に突っ伏して寝ている天龍の前に積み上げられた報告書の束を処理し、執務室に備蓄していたインスタントの食品が切れていたため食堂の倉庫に向かう。

食堂の前までつくといつもと雰囲気が違うことに気が付く。中からもの音が聞こえ、どこか日本人として懐かしいにおいがする。

 

「あ。提督。」

 

厨房には竹野が予想していた通り鳳翔と間宮がいた。こちらに気が付いた鳳翔が急いでこちらに駆け寄ってくる。

 

「すみません。出過ぎた真似でしょうか?」

 

と、こちらの様子をうかがうように聞く。

 

「こちらからも食堂の厨房を任せようと思っていたところだ。助かるよ。」

 

竹野の言葉を聞くと鳳翔は安堵した様子で

 

「ありがとうございます。それで何かご用でしょうか?」

 

と聞いてくる。

 

「適当に食事でもとろうと思ってきたんだが....出来上がるのは何時頃だ?」

 

せっかく作ってくれたのだ。お前の分などない。と、言われはしないかと少し心配になったがそう聞いてみる。

 

「0630頃に出来上がります。」

 

と、鳳翔が言う。どうやら杞憂に終わったようでよかった。

 

「それなら今日から総員起こしでもかけるか。私は一度執務室に戻る。頼んだぞ。」

 

と竹野は言い残し再び執務室に戻る。

その前に放送設備を確かめに地下の機械室に向かう。さすがにここは鎮守府のあらゆる設備の大本でもあるためきれいに整備されており特に放送機器に問題はなさそうだった。

自動アナウンスのスイッチを入れ直し機械室を出て今度こそ執務室に戻る。

 

竹野が執務室に戻るとすぐに0600をまわり自動アナウンスによって総員起こしがかかる。最初からこれにしておけば秘書艦どうこうの問題もなかったと、そんなことを思いながら寝ぼけなまこの天龍を横目にコーヒーを淹れる。

 

「なんで、こんなの流れてるんだ?」

 

と天龍が不思議そうにしている。一方で九十九里浜鎮守府の艦娘たちはアナウンスに素早く反応したようで活発に動き出す。

いずれはこうなってほしいものだと思いつつ積みあがった報告書の束を封筒に一つずつ放り込んでいく。封筒と印刷用紙の在庫だけは無駄にある。

そうこうしているうちに二十分ほどが経ちそろそろ食堂に向かった方がいい時間が近づいてきた。

アナウンスは食堂の方から間宮がかけていたので特に竹野がすることはなかった。

朝食はみそ汁に、白米、それに魚の塩焼きと戦争が始まる前にはよく見かけた日本の食卓が再現されていた。鎮守府ではさして珍しいものでもない魚も漁場が危険であるため漁船を装甲できる特殊な会社しか漁業を営めていないため戦争前よりもよく油の乗ったいい魚が取れるようになっているらしい。

切り身になった魚の種類を判断することはできないが少なくとも、さばではない魚にさば以上の脂がのっていることは竹野にもわかった。

向かいに座っているワーグナーも箸を器用に使って朝食を食べていた。

 

満足感のある朝食を食べると九十九里浜鎮守府が器材の引き上げを始めたのでそれを手伝い、報告書の入った封筒の束を引き渡して彼らを見送る。中型の軍艦を取り囲むようにして陣形をくみ彼らは去っていた。

竹野は帽子を回して彼らを見送りまた通常の業務に戻る。

 

 

それから一週間がたっても竹野は自分の過去を話そうとはしなかった。

当然、そんなことをすればこの鎮守府では誰かが乗り込んでくるわけで我慢の限界が来た艦娘たちが乗り込んできた。

 

「提督。あなたが約束を破ろうとしているとは思っていないが、私達にもそろそろ話してくれないか?」

 

長門がそう言って来る。

 

「そろそろ誰かは来るだろうと思っていた。飛龍あたりが来ると思ってたんだが。」

 

「飛龍がまだ来てないのか?」

 

長門は少し驚いた様子だった。あの夜のことを考えればおかしい話ではないのだがそれを知っているのは飛龍と竹野だけだ。

 

「わかった。何が起きたのか話そう。だがいいんだな。これを聞けば軍にも、私と言う指揮官にも落胆するかもしれないぞ。」

 

「少なくとも、私たちはあなたの指揮を一度見ている。よほどのことがない限り落胆はしない。」

 

長門は自信満々に言うがそのよほどのことが起きないとあの悲劇は起こりえなかったのだが。

 

「なら、今日の夜全員を食堂に集めてくれ。」

 

「任せておけ。」

 

いよいよ、目をつぶってきた過去の傷を抉り出し膿を出さねばならない時が来た。

嫌でもフラッシュバックしてくる悪夢の日を自分の意志でより鮮明に思い出すことは彼にとって多大な苦痛だがそれをやらねばならない。




かなり内容が薄い話になってしまいました。
どうでもいいけど今年は鮭が高いらしいですね。
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