堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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崩壊の兆し

竹野が食堂に着くと大勢の艦娘がすでに集まっていた。

 

「それで、何から話す?」

 

長門に案内され食堂のひときわ目立つ席に案内される。昔、士官学校の入学式で前に立ち候補生たちに向けて演説したのを思い出す。

あの時と決定的に違うのは、自分のしゃべりが不幸を招くことがわかっているかどうかだ。

 

「何から喋ってくれても構わない。」

 

長門はそういうが話はそう単純じゃない。

 

「ほんとに聞くのか?」

 

「くどいぞ。」

 

竹野の最終確認は長門にバッサリと切られる。

 

「わかった....。みんなはすでに知っているかもしれないが竹野と言う名前は偽名だ。私の本当に名前は村上傑だ。」

 

竹野は決心したようにしゃべり始める。

 

 

 

四年前 横須賀旧米海軍病院

 

「新しい作戦だとよ。」

 

村上は病院のベットに横になっているマークに封筒を投げつける。

 

「けが人には気を使え!」

 

マークがわめいているがそんなことは知ったこっちゃない。

艦娘のすぐそばで指導していたところ、不注意で51センチ砲の衝撃波で吹き飛ばされた男に何故こちらが気を使わねばらないいのか?

 

「まだ前線には復帰できないぞ。」

 

「主治医に確認を取った。作戦は2週間後だ。リハビリもどうせ受けないだろ?」

 

「君の目には一体わたしがどう映ってるんだ。」

 

どう映っているかと言われれば艦娘並みの回復能力を持つ化け物。だろうか?

何にせよ今回の作戦に必要だから呼びに来たのだ。

 

「準備しとけ。数日後にだれか迎えによこす。」

 

マークの目に恐怖が浮かび

 

「霞だけはやめてくれよ。」

 

と言う。一体何をされたのか。

迎えにはマークの秘書官であるライミスを行かせようとしていたがやはり霞にした方がよさそうだ。

 

「覚えてれば。」

 

と返すと、とてもけが人とは思えない程わめくマークを病室に置いたまま病院を出る。

エレベータのボタンを押し待っていると、会いたくもない男に出会う。

 

「戦う事しか脳がないから病院のお世話にならなけりゃいけないんですよ。」

 

そう話しかけてくる。

 

「そちらさんが数字だけ見て適当に部隊を配置してくださるおかげで現場では暇な時間がありませんよ。やりがいのある仕事をどうもありがとう。」

 

男には適当に皮肉を混ぜて返す。

男は広域戦略課でなぜか村上や実際の戦闘を行っている艦娘や指揮官たちを嫌悪している。

戦略課の人間は大体そうだと言ってしまえばおしまいなのだが、それでもこの男は嫌いな人間にわざわざ話しかけてくるという点でほかの追随を許さない面倒な男だ。

 

「それはどういたしまして。能力の低い現場の馬鹿では処理しきれないようですね。木を見て森を見ずとでも言いましょうか。現場らしい安直な意見をどうもありがとう。」

 

その後はエレベータを降りるまで二人は言葉を交わさなかった。

用事もないのに話しかけこちらの気分だけを不快にすると言う全く無意味な行動をとる人間のどこが優秀なのか。

 

「また、顔がゆがんでるぞ。」

 

病院の外に出るとすでに部下が車を回していた。中には中越が乗っておりそう言って来る。

 

「いつもの奴です。」

 

「そうか。」

 

村上が車に乗り込むまで待ってから

 

「出してくれ。」

 

中越は車のドアを閉め車を出すように言う。

車が走りだすと横に座っていた中越が話しかけてくる。

 

「君はニュージーランド海軍の話を聞いたか?」

 

恐らくは二日前のニュージーランド北島撤退戦で事実上壊滅したニュージーランド海軍の事だろう。

その件について何か話があるからここまで来たのだろう。

 

「ええ。壊滅したそうで。警告はしたんでしょう?」

 

中越は頷く。

 

「当然警告はした。船を使えば殺されると。でもあの国は島国だ。北島の空港で艦砲射撃を受けなかったのは内陸部のロトルア空港だけ。そこから避難する人数には限界があった。だから海軍を動員したらしいが今頃は難民と共に海の底だ。」

 

「支援は?」

 

「オーストラリアから広域駐屯隊の2700名が支援に向かったが敵兵力が30万以上確認されたため撤退した。」

 

つまりニュージーランド南島と北島は孤立。脱出に動員できる兵力もいない。という事だ。

 

「取り残されたのは?」

 

「両島合わせて370万人。半数以上が逃げ遅れてる。」

 

国連軍の権限は日に日に強化されているもののアメリカと言う巨大な後ろ盾を失っているためその権限に果たして効力があるのかは不透明だ。

国連軍は特殊な兵力として艦娘の管理を任されているが多くの軍艦は未だにその国の思惑のために使用されていた。国連軍は避難に向いている部隊ではないはずだ。

 

「オーストラリアには中国系の人間が多いことを使って何とか中国海軍を引っ張り出せませんか?」

 

と聞いてみるが中越は首を縦に振らない。

 

「あの国は今それどころじゃない。民主化のクーデタに一人っ子政策のあおりを受けて超々高齢化社会に悩まされてる。そんな余裕はないだろう。」

 

日本とフィリピンと言う防波堤を持つ中国にとって深海棲艦の脅威はそこまで差し迫ったものではないのだろう。

そんなことより内戦寸前の国内を安定化させることにリソースを割きたいというのがあの国の本音だろう。

 

「それなら英国海軍はあてになりませんか?同君連合でしょう?」

 

英国のやり方に今さら期待などしていないが聞いてみる。

 

「女王陛下からの激励はあったがさすがに地球を半周回るのは厳しいらしい。」

 

英国海軍は半年前に横須賀を出港して以来アジア太平洋地域には展開されていない。

 

「一方でドイツ海軍は積極的に支援を申し出てるがドイツ海軍でどうにかなるほど避難民は少なくない。」

 

姿勢は評価すべきだがドイツの海軍では不十分だろう。

 

「気が滅入りそうですでね。仮に避難用の船が用意できたとしても避難の護衛には誰がつくんです。」

 

村上は面倒ごとが自分の同意がない場所で進行している予感がした。

 

「もしや....。」

 

「察しがよくて助かるよ。ただ、私の第一艦隊を使って船団護衛をするなんて弱腰なことはさせない。」

 

「ならば敵殲滅が目標ですか?」

 

殲滅と言っても現時点で30万近い兵力叩き潰す必要がある。それに北島の陥落により防衛線は後退しておりさらなる兵力の増強が容易に予想できる。

 

「出撃するとしても正攻法の殴り合いでは勝てませんよ。」

 

「言われなくても分かってる。航空支援も支援砲撃も実行させる。そのうえであとは君たちに任せる。なんとかしてくれ。」

 

無理難題は慣れている。2倍程度の兵力差で戦わされたこともある。

今さら驚きもしない。

 

「それは了解しましたが、それなら二週間後の第4次シアトル奪還作戦には我々は参加しないということですか?」

 

米陸軍との合同作戦が予定されていたがそれはどうするのか?

 

「連邦政府もワシントン州政府も今回で終わらせたいらしい。作戦に私たちは参加しないが第三艦隊第12支援群が参加する予定だ。」

 

敵のシアトル駐屯部隊の殲滅は諦めて目標であるシアトル奪還を優先するという事だろう。

長期的な目で見れば得策とは言えないだろうが政府の威厳と陸軍の準備などもある。そう簡単に中止するわけにはいかないのだろう。

 

「それで出撃はいつです。」

 

車は国連海軍横須賀基地の敷地に入り速度を下げ始めた。

 

「可及的速やかにお願いしたい。」

 

いつでもいいということなのだろう。

 

「わかりました。第一、第二攻撃群は二週間以内にシドニーに入港します。」

 

中越は頷いて

 

「了解だ。第三、第四、第五打撃群にも移動を命令しておく。二週間後シドニーで会おう。」

 

そう言うと中越は目で運転手に合図してドアを開けさせる。

 

「それでは。」

 

村上は車を降りて第一艦隊宿舎に入る。

 

「お疲れ様です。送迎付とはいい御身分ですね。」

 

かなりとげのある言い方で霧島が話しかけてくる。

 

「俺の送迎じゃなくて、艦隊長様のお車であらせられる。」

 

「それ使い方間違ってますよ。それはいいとして作戦中止とはいったいどういうつもりですか?」

 

かなり伝達が速いものだ。村上もついさっき聞いた話がすでに伝達されているということは中越はそれなりの長時間車で待たされていたのかもしれない。

 

「ついでに言うと二週間以内にシドニーに入港しなければいけなくなった。まあ、シアトルに行くよりは楽だろ。」

 

極寒のアラスカを経由しなくていいのだから随分ましになっただろう。

 

「はあ。わかりました。伝達....ですよね。」

 

「よろしく頼むぞ。」

 

霧島に伝達を頼み、村上は第一攻撃群旗艦アシュベータに向かう。

桟橋から伸びる板を渡りアシュベータの上に立ち梯子を駆け下りる。

 

「艦長!シドニーまでの航行計画を作成してくれ。今日、第四次シアトル奪還作戦に我々が参加するのが中止されたのは知っているだろう。代わりにニュージーランド北島からの避難を安全に行うため敵の部隊を殲滅する。」

 

それを通達すると潜水艦の水兵たちはせわしなく動き始め、指揮官たちは何も言わず会議室に集まる。

 

「それで少将。具体的な敵兵力はどの程度でしょうか?」

 

部下がそう聞いてくるが村上にしても今持っている情報は限られており具体的な戦力はこっちも教えてほしいぐらいだった。

 

「最低30万。だがそれより確実に多い。とだけしかわからない。」

 

「いつも通り火力の集中運用でとっとと戦力差を埋めるのが得策でしょうね。」

 

部下の一人がそう言う。確かにそれがこの戦争がはじまり艦娘が登場した後のもっとも典型的な戦い方だ。

だが今回はそううまくいかない気がしていた。情報が錯綜していることもあり信頼できる情報では30万の兵力だがニュージーランド空軍は敵兵力は130万と主張している。

それが事実であるなら第一艦隊25万の兵力で戦うのはなかなか厳しい。

 

「なるべく早く出港準備だけ整えるように。移動の間に作戦は練る。」

 

と指示して村上は無線を取り第二攻撃群にも同様の指示を出しておく。主治医の話では一週間もすれば退院できると言っていたが作戦の話を聞けばどうせ明日にでもあの男は退院するだろう。

村上は艦隊の準備を整えマークを待つことにした。

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