堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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狂った前提

村上が再度軍に志願したと聞き、二サエルは微笑んだ。

 

 あくまで予想通り。

 

彼は優秀な駒になってくれるだろう。二サエルは元と言えば軍人ではない。

彼は軍人をうまく使い謀略を企てる側の人間。もっと直球に言えば諜報機関の職員だった。

村上の戦歴は多くが修正を加えられているがプロパガンダのプロである二サエルをだますことなどできはしなかった。

二サエルが司令長官の座に上り詰めたのは偶然の産物であり、お飾りであるはずの彼は就任から一か月もたたずに裏から自分を操ろうとしていた元帥を更迭し権力を奪ったのだが、彼にとって名誉ある地位は邪魔でしかなかった。

どちらかと言えば彼がなりたかったのは更迭した元帥の立場だ。好き勝手出来る上に自分が攻め立てられることもない。

だから持ち駒を強化する必要がある。

 

「彼はこちらに干渉するなと言っていましたが?」

 

「私は彼の能力を買っているんだよ。干渉するなと言われるならしないさ。けれど私には提督の人事権がある。」

 

山本は嫌な予感がした。二サエルはとんでもないところに村上を送りつけようとしているのではないかと。

 

「彼が死ぬようなところに送ってしまったらどうするんです?駒がなくなって困るのはあなたですよ?」

 

二サエルは不思議そうな顔をして、

 

「別に困りはしないさ。君には盤面が読めていないようだがじきに分かる。彼の能力もこの戦争の終着点も。」

 

不気味だった。ただただ不気味だった。この三年間彼についてきたがここまで楽しそうな顔を見たの初めてだったからだ。

 

 

村上は南鳥島への配属と聞いて内心ほっとしていた。

自分がいた頃は前線への補給基地として練度の高い艦娘が多く配置され高い拡張性を誇る多種多様な艦娘が配置される大型の鎮守府であったからだ。

だがどうも自分が乗せられた輸送機のパイロットが気の毒そうな顔をしてこちらを見ているのが気になる。

たとえ状況が悪くとも自分がすべきことはわかっている。そう固く誓い竹野と言う偽名で南鳥島に向かうのだった。

 

 

また新しい提督が来るそうだ。

今度はどれだけ続くのかわからないが俺達には関係のない話だ。この島にいる艦娘のほとんどが何かしらの理由でここに隔離されている。司令官を殴っただとか気を病んで兵器として使えなくなったりだとか理由は様々だ。

だが共通として人間の司令官に敵意を持っている。憲兵隊に艦娘を鎮圧し拘束する特殊部隊が編成されていなければ上官を殺して逃げだすことも出来たのだが、今はもうそんなことはできない。

仮に逃げることが出来たとして俺たち艦娘は社会の中で生きていくことなど不可能だ。

 

「新しい提督はどんな人なのかしらね?」

 

龍田がそういう。どうせ興味もないくせに。

 

「どんなのがいいんだよ。」

 

「そうね。なんでも言う事を聞くおもちゃみたいな提督なら文句はないんだけれどね。」

 

そういう龍田の顔は全く笑っていない。提督が善人だろうがクズであろうがそんなこと関係ない。はなから指示を聞くきなんぞ全くないのだから。

 

「それもそうだな。」

 

そんな話をしていると数年前の戦闘から全く補修のされていない滑走路に中型の輸送機が侵入してくる。

だが途中で滑走路の惨状を見て着陸を中止して再度上昇していく。しばらく旋回をしながら垂直離着陸モードでの着陸を試み始めた。

久しぶりに聞くジェットエンジンの音に奇異の目をしてぞろぞろと艦娘が出てくる。

何も起こらないこの島では随分久しぶりの光景だ。ジェットエンジンは滑走路に散乱しているチリを巻き上げながら降下して滑走路の少し左寄りのあたりに着陸した。

輸送機はエンジンを止めることなく身をかがめながら機体を離れる一人の男を置いたまま再び離陸してそのまま飛び去ってしまった。

飛行機を見送った私たちは恐らく新たに着任したであろう提督に近づくことはなくそこに存在しないかのような扱いで無視した。

とはいっても俺は提督の人となりは少し気になる。俺はここにいるほかの艦娘よりは弱い理由でここに飛ばされた。あまり指示を聞かない俺はどうやら提督には問題児扱いされていたらしく異動の際にそう書かれてしまった。

別に提督が嫌いだったわけでもないし間違いと勘違いの連続でここに飛ばされてしまっただけだ。

それにここの艦娘たちと話していては息が詰まる。いつも人間の悪口ばかり。そんなことを言っても何の意味もないのに。俺は提督の後を遠くから追いかけてみることにした。

 

「どこ行くの天龍ちゃん。」

 

「ちょっとあいつのことを観察してみようと思ってな。」

 

「あらそう。どれだけムカついても暴力はだめよ。状況が悪くなるだけだから。心のナイフを使うのよ。」

 

龍田はまた冷たい目をしてそういう。そんな龍田を置いて提督の後をつけてみる。

 

 

「予想していたよりも荒れてますね。」

 

パイロットがそういう。

 

「予想してたとは?」

 

「知らないんですか?」

 

パイロットは驚いた顔をする。

 

「かわいそうに。ここの鎮守府は問題児の隔離先として使われているんです。だから誰もここに来たがらない。前の提督が大けがを負ってこの島を離れて以来4か月は提督不在の鎮守府ですよ。」

 

まさか支援は要らんと言って、こんな場所に飛ばされるとは思っていなかった。二サエルは、なかなか意地の悪い野郎だ。

 

「それで、着陸できそうですか?」

 

「着陸するんですか?」

 

心配そうな顔をしてパイロットがこちらを見る

 

「私を降ろしたらすぐに島を離れてもらっていいですから。」

 

「あなたこそ大丈夫ですか?この無線持っててください。何かあっても大丈夫なようにしばらく島の上で待機してますから。」

 

そう言ってパイロットは無線機をこちらに差し出してくる。その無線機を受け取るとパイロットは再び目の前にあるHUDを降ろし飛行モードを切り替える。少し機体が揺れたかと思うとヘリ特有の浮遊感が体を包み機体が徐々に降りていく。

村上改め竹野はコックピットを出て貨物スペースに入る。荷物は少なく竹野の私物と仕事道具などを詰めた鞄が一つだけだった。

 

「着陸できそうです。ただ建物からは遠い場所です。すみません。」

 

パイロットがコックピットでそう叫ぶ

 

「わかりました。ありがとう。」

 

こちらもそう叫び着陸を待つ。接地する音が聞こえ扉のロックが解除される。ハンドルを回し扉を押し開け外に出る。

艦娘たちが大勢見えるが興味を示しているのは輸送機の方。エンジンの物凄い風に飛ばされそうになりながら身をかがめ機体を離れる。

パイロットが扉の奥で敬礼し扉を閉め機体はまた空に向かっていった。

 

たどり着いた鎮守府はどうやらパイロットの言っていた状況で間違いないようだ。誰も話しかけてこないし、誰もが自分の存在を無視しようとしていた。この状況を打開するのは簡単ではないように見える。

周りを見回してみると敵意を向けているもの、怯えているものなど様々だったが皆こちらとは絶対に目を合わせようとしない。

竹野はコンタクトを取ることを諦め、地味に重たい荷物を運ぶため滑走路を歩き鎮守府の建物に向かい始めた。

 

 

きょろきょろと周りを見回したかと思うと重そうな鞄を持ち上げ歩き始めた。

今自分が近づけばあのかばんをあの男はこちらに押し付けてくるのだろうか。そんなことを考える。

少なくとも今は権力で暴れまわったりするように見えない。当の天龍もここに来てからそんな輩を見かけたりしたがここにいる特殊な艦娘たちはそれに全く驚きもせずに従っていた。

だからおかしな言い方だが天然のクズを見かけたことはないのだ。自分はほかの艦娘と比べてクズに対処する能力もクズを見分ける能力も低いことは自負していた。

そう簡単には信じないとそんな気持ちで竹野の事を追いかけてみるが、この男は普通だった。

自分がここに来る前の鎮守府の提督と同じでただ黙々と執務室に入り書類仕事を始めたのだ。しばらくすると何かの資料を抱え外に出てきた。遠くからそれを見ていた天龍も彼の後を追いかけて建物出る。彼が向かっているのがどこかはすぐに分かった。

資源倉庫だ。前の提督の杜撰な管理で資源は大変なことになっているのは今の提督は知りもしないだろう。

 

「やっぱり。」

 

天龍はぼそっとつぶやく。竹野が資料を何度も見直しながら倉庫から出てきたのだ。彼は困惑していた。怒りだとかそういうものではなくなぜこうなるのか理解できないと言った表情だった。

それがどうにもおかしかった。誰かをしかりつけるとかではなく、彼は前任の提督の行動にドン引きと言った表情をしてまた執務室に戻っていく。

天龍は彼の事をそれ以上付け回すことはせずに龍田のもとに向かった。

 

「あら天龍ちゃん。どうだったの?」

 

「悪い奴じゃあなさそうだった。」

 

龍田は微笑みながら

 

「じゃあ今度の提督は狡猾なクズね。でも天龍ちゃんの目はどこについてるかわからないぐらいぼけてるからちょっと頭を使えるぐらいのクズかしら?」

 

一体何をされたら提督と言われて条件反射でクズが出てくるのか。ここまで好き勝手言われるのもなんだか癪になってきた。

 

「じゃあ今日の夜あいつのとこに行ってみる。襲われたら殴って逃げればいいし。」

 

「全く。狡猾なクズは信用を得てから落とすのよ。信用しちゃだめよ。」

 

信用を得てから襲う。それはもはやこちらの同意のあるそういった行為なのでは?そう天龍は思うのだが違うらしい。

 

 

その夜

天龍は龍田に見送られ必要以上に扇情的な服装をして宿舎を出た。

こんな格好をするのは本意ではないのだがクズを見分けるにはこれがいいと龍田やほかの軽巡からも勧められた。

クズでなくともこちらが挑発したら襲われても文句は言えないと思うのだが天龍はそのことに気がつかなかった。

龍田は天龍にヒトの恐怖を刷り込ませるためにそんな恰好をさせて送り出した。

もし何かあればすぐに突入して息の根を止めてやる。

 

提督以外に誰もいない鎮守府の本館の階段を登り二階の中央にある提督執務室に向かう。静かに提督執務室の前につきノックをしようとすると。

 

「誰だ?そこにいるのは?」

 

向こうからそう話しかけてきた。物音を立てた覚えはないのだが提督はこちらの気配を感じ取っていた。

一瞬体が硬直するが気がつかれてしまっては仕方がない。

 

「天龍だ。」

 

「入れ。」

 

提督は短く入室を許可する。

 

「これは?」

 

執務室の中には所狭しと段ボールが並んでおり提督が物凄い勢いで電卓をたたいていた。

 

「昔の職場でよく装備品の調達の計算をやらされたことを思い出す。それで用件は?」

 

偽名を使っているが自分の鎮守府の艦娘には経歴がばれてもいいと思っていた。面倒な因縁をつけられたくないだけで、こんな僻地を調べ上げて、小言をいう熱心な人間はさすがにないだろう。もちろんその艦娘にもばれたくない過去もあるのだが。

 

「長くなる話なら隣の部屋にするが?」

 

天龍は扉の前で固まったまま黙り込む。

執務室はのソファーは完全に使い物にならなくなっており座れる場所はなかった。

この言葉は提督が隣の部屋がどんな場所なのか知っているかで大きく意味が変わる。提督執務室の隣は提督の自室。

だがここではそれ以上の意味を持ち提督の夜伽の番となってしまった艦娘が向かう部屋だった。

竹野は電卓を乱暴にたたくのをやめて天龍の方に目線を向ける。

天龍は硬直してこちらを凝視していた。

その天龍を見た竹野も呆気に取られて動きを止める。

 

「隣の部屋で待っていてくれ。それと、もう少し常識的な恰好をしてくれ。」

 

竹野が一時的に完全停止した思考回路を再起動して出た言葉はそれだった。

 

「わかった....。」

 

天龍は静かに部屋を出て隣の部屋に入る。大量の拘束具などが設置されていたこの部屋も憲兵隊が標準の部屋に改築しておりおかしな場所などなかった。

だが艦娘たちにとってそこが最悪な場所であることに変わりはなかった。天龍が怯えながら身にまとっていたやけに露出の多い服を脱ぐ。

 

竹野はいまだに困惑をしていた。ただ次第に理解したくもないことを理解できた。

彼女たちが気をやんだ理由は何もPTSDだけではなかった。

性的暴行や心理、身体的虐待。心や人格を破壊する方法はいくらでもある。

竹野は渋々立ち上がり積み上げられた段ボールを倒さないように慎重に歩き部屋を出る。

隣の部屋に入ると電気が消えたままだった。

帰ってしまったのかとも考えたが確かに近くに気配がある。

 

「電気もつけずに何をしているんだ?」

 

竹野は電気をつけて天龍の姿を見てまた絶句した。天龍は裸だったのだ。

 

「なにしてるんだ?」

 

「もういいんだ。ここに来ちまった時点でいつかそうなるってわかってた。だから自分の意志で....。」

 

竹野はやはり困惑した顔をしていた。天龍は竹野に抱き着きその豊かな胸を押し当てる。

竹野は顔に笑みを浮かべて、胸を揉みしだくき押し倒す。はずがなかった。

天龍の力は強力でやんわり押し返すことはできない。

竹野の頭は存外冷静に回り、結論を導き出す。

そこからの動きは早かった。

竹野は抱き着いてきた天龍の腕の下に手を通し腕を上に払いのけもう一方の手で素早く払いのけた手をつかみ上に引っ張り上げる。そのまま足をかけ床に押し倒し拘束する。自由だったもう一方の手もすぐにつかまり体に力が入らなくなった。

 

「全くどういう教育方針を取ってるのかわからん。何が目的でこう言った行為に走った?」

 

竹野は少しだけイラついていた。少しだけ口調が強すぎたことに気がついた時、すでに天龍は泣いていた。

必要以上に傷をつけるつもりはなかったがこんな状況で冷静に対応するほうが無理な話だ。

天龍は涙を流しながら整理のつかない感情に振り回されていた。怖いのか、痛いのか、悲しいのか、はたまた嬉しいのか。なぜ自分が泣いたのかわからない。

 

「武術の心得を見てやろうと思って。」

 

出た言葉は意味の分からない言い訳だった。

 

「なら、なぜ裸になる必要がある?ここは古代のオリンピアじゃないぞ。それと昼間俺のことを付け回してたのはお前だな?」

 

天龍には頷くことしかできなかった。竹野は天龍の拘束を解き

 

「服を着てから執務室に来い。いいな!」

 

そのまま部屋を出ていく。

 

「どうなってるんだ。」

 

竹野は憤慨して執務室に入る。そして電話を取り二サエルに電話を掛ける。

 

「司令長官。」

 

「どうしました?支援は要らないと聞いていますが。」

 

「私は変に干渉してほしくないという意味で言ったつもりですが、いくら何でも鎮守府の形をした更生施設に飛ばされたら話は別です。」

 

「つまり事情が変わったからやっぱり支援が欲しいと?」

 

「不本意ですが私の力だけでどうこうなるレベルの荒れ方ではないことわかって飛ばしたんでしょう。ここに飛ばされた艦娘の元上官のリストとその上官の行動報告書を送ってくれますか。」

 

「自分で調べろと言いたいところですが、山本君が君に慈悲をかけてくれるそうです。少し時間がかかりますが必ず送らせましょう。」

 

「感謝します。」

 

「気にする必要はありません。復帰祝いだと思って受け取ってください。」

 

どうにもいけ好かない男だが能力だけは本物なのだろう。受話器を戻し天龍を待つ。積んである段ボールを何とかしてどけ部屋の中央にある小さなテーブルと椅子を掘り起こす。

ちょうどタイミングよくノックがあり入室を許可すると龍田が明らかに殺意をむき出しにしてこちらに襲い掛かるのが見えた。

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