堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

20 / 62
鉄底海峡

「というわけで、君たちには爆撃機が大量に飛び交い後ろを振り返ればすべてが吹き飛ぶという状況の中で戦場で走り回ってもらうことになる。」

 

村上の作戦説明を艦娘たちは何も言わず聞いている。

かなり突拍子もない作戦だが彼女らも司令部の無茶苦茶な命令をどうにかして完遂しようとして村上たちが出してくる無茶苦茶な作戦で何度も難局を乗り越えてきた。

 

「また突拍子もない作戦だな。まあいい。任せておけ。」

 

と木曽が頼もしいことを言う。

作戦はいかにしてタイミングを合わせるかにかかっている。艦娘たちが爆撃地点を脱したうえで敵が全て攻撃範囲内にいる僅かなタイミングを計り爆弾を投下し艦砲を射撃しなければいけない。

流石に新しい爆撃機にも垂直飛行性能はなく爆撃機が攻撃をできるタイミングも限られており同時着弾を行うのは困難を極める。

ただ、空母と戦艦による艦娘の第二波攻撃も行えるため最悪少数の敵が残っても速やかに殲滅できる。

そのため、ある程度大雑把な攻撃でも問題ないのが唯一の救いだ。

 

「それと、おとり役の高速戦艦、重巡、軽巡、駆逐はグアムの工廠で一部武装を改良型のタービンにでも換装しておくように。グアム鎮守府に話は通してある。」

 

なるべく高速化して、被害を最小限に抑えなければいけない。

司令部がどう思うっているのか知らないが、もとより高練度の艦娘しかいない第一攻撃群は艦娘が一人沈む代償に敵を2万程度沈めないと、わりに合わないと村上は個人的には思っていた。

言ってみれば、普通の艦隊が歩兵だとすれば、第一攻撃群は精鋭の機甲旅団のようなものだった。

最新装備と大量の実弾による訓練、数多くの実戦経験と、経験豊富な将校団により組織されている。

例え村上が指揮官でなかったとしても数多くの華々しい戦果を挙げることは容易だっただろう。

 

「了解しました。私たちの高速化は不要だということですね。」

 

「そうだ。敵が艦載機を上げる前に沈める。空母の高速化も、低速戦艦の高速化も不要だ。戦艦はひたすらに火力を優先しろ。空母も火力を優先してくれ。ただ、最低限の艦戦は積んでおけ。今回の作戦は艦娘の艦隊の支援は期待できない。ただ、ソロモン諸島の一部に米軍が対空陣地を形成してる。恐らくこちら側の爆撃で使用不能になることが予想できるが初期の防空はあまり気にしなくてもいいかもしれん。」

 

CIWSは依然として深海棲艦の艦載機には有効だ。

よく動くドローンが異様に高い火力を持っているに過ぎないというのが米軍の評価だ。そのため敵が空母だけなら人間でも無力化が可能だとする意見もある。

もちろん敵がそんな編成で攻撃しないうえに深海棲艦本体に対する有効な攻撃手段を持っていない人類は本当に無力化までしかできないのだが。

 

「わかりました。」

 

「長期戦になる。爆弾も砲弾も計算上は十分すぎる量が準備されている。後はお前たちが誘導を続けられるかに、かかってる。気張っていけ。」

 

無線を切りアシュベータは最終調整に入っていた。AWACSとの優先通信チャンネルを開き、大量の駆逐艦の攻撃システム同期させアシュベータのイージスシステムベース12に接続してできる限り正確な爆撃を試みる。

ただ一つ問題があり、イージスシステムを完全な形で機能させるにはアシュベータが戦闘海域で待機する必要がある。潜行して小型のブイを上げれば水上にいる必要はないため安全ではあるのだがソロモン海は浅瀬も多く安全性を確保できるのか疑問だ。

流石の米軍も短期間でイージスシステムをソロモン諸島に配備するのは不可能だった。

ある程度の危険を伴うが実行しなければグアムが落ちてアシュベータを損失するよりもはるかに被害は大きい。

最悪この潜水艦が沈没しても問題ない。浅瀬であるなら十分脱出も可能だ。

 

「艦長。こいつはもしかしたらここでお別れになるかもしれんな。」

 

「群団長。さすがにそれは司令部から締められますよ。」

 

艦長は苦笑いしている。この潜水艦がいくらするのか考えたくもない。

 

とにかく今は米軍と迎撃に一番だと考えられる海域を探すべきだと作業を再開したところに米軍からの連絡が入る。

こともあろうに米軍が指定してきたのはガダルカナル島とフロリダ諸島の間だった。

比較的水深が浅く爆弾が直撃せずともそれなりの効果が見込めること、間にはサボ島があり対空陣地の形成がしやすいこと島の間隔が他より小さく機雷敷設による海域の封鎖が比較的容易であること。

理由は様々だが....。

 

「艦長。グアム出港後進路をガダルカナルに向けてくれ。」

 

「何と言いますか....やはり米軍は合理主義者の集まりですね。」

 

過去や伝統に縛られず、最適であると考えられる場所で戦う。

それがたとえ昔日本とアメリカが散々殺しあった鉄底海峡。アイアンボトム・サウンドであってもだ。

 

「まあいいさ。彼らがそこだというなら俺たちには決定権はない。」

 

米軍の協力なしでこの作戦は成功し得ない。彼らにとっても今回の作戦はアメリカ軍の威信にかけて成功させなければならないのだ。半端な気持ちであの場所を選んだわけではないだろう。

ならばすべきことはただ一つだ。

 

 

 

グアムに入港した第一、第二攻撃群は装備換装を開始、比較的早く換装を完了した低速戦艦及び空母はいびつな警戒陣を形成しアシュベータを守るようにして出発した。

その後しばらくして、換装を終えた高速のおとり部隊が第二攻撃群旗艦アイラーヴァタとともに出港。

49ノットの快足を生かして20時間以上早く出発していた低速戦艦と合流。

しかし、迎撃準備を支援するため、アイラーヴァタとおとり部隊はアシュベータのもとを離れて先行してソロモン海に侵入した。

偵察情報によれば敵のグアム攻撃はほぼ間違いないとみられており、ソロモン海に敵を誘導するまでもなく敵が侵入してくると報告を受けた。

敵部隊は高高度偵察機7機と軍事衛星2基に追跡されており情報における完全な優勢を確保していた。

 

「群団長。アイラーヴァタ艦長から入電です。」

 

「読み上げろ。」

 

村上は一度作業中断して通信員の言葉に耳を傾ける。

 

「アイラーヴァタはレーダーブイを展開しフロリダ諸島北岸の浅瀬にて待機中。アシュベータは安全区域で予備のレーダーとして待機されたし。」

 

フロリダ諸島北岸は爆撃区域に含まれていないが安全かと言われれば少し疑問が残る。

浅瀬で待機しているということは恐らく至近弾でもそれなりに損害を被るかもしれない。

 

「了解した。艦長に適当な潜伏ポイントを見繕うように言ってそこで待機すると連絡を入れておいてくれ。」

 

ただどちらか片方がやらねば作戦は実行できない。

 

「それと艦長に居住区の空きがどれぐらいあるか調べるように言ってくれ。もしかしたらアイラーヴァタの士官をこっちに移すかもしれない。」

 

最悪潜水艦はくれてやるが経験豊富な指揮官を失うのはさすがに看過できない。

 

「了解しました。」

 

通信員は駆け足で村上の部屋を出ていく。

あと12時間でアシュベータも戦闘海域に到着する。

敵が珊瑚海を抜けてくるまではあと二日。決戦の時は刻一刻と迫ってきている。

慢心はしない。というかそんなことをしていられるような戦力差ではない。

あらゆる可能性を頭の中でシュミレーションしながら村上は床につく。

しかし....村上の知り得ない脅威が存在していた。情報のない彼がそれを予想することは不可能に近かったのだが。

 

 

アシュベータと到着した戦艦および空母は詳しい測量と実地での訓練を開始した。

装備の換装はむつかしいが米軍が設置した補給ハブのおかげでかなり補給状況がよかった。戦闘が始まれば撤退するらしいが多数の強襲揚陸艦や護衛艦が測量や対空陣地の設置を行っております早ければ明日一日をすべて訓練に回せる可能性すら出ていた。村上とマークは一時下船してガダルカナル島の日米豪合同陣地に向かった。

その間アシュベータとアイラーヴァタは再度潜伏ポイントを探し始めた。

 

「第三護衛隊群の軒下です。今回はよろしく頼みます。」

 

「アメリカ空軍第32爆撃隊のポール・スチュアートだ。今回はよろしく。」

 

「オーストラリア海軍元帥のワッカートニーです。ニュージーランド空軍残党も参加しています。彼らの士気は非常に高い。きたいしてください。」

 

アメリカ海軍関係者と航空自衛隊関係者がしゃべりたそうにしているが一国で代表一人であきらめてもらう。

挨拶もそこそこに機雷の配置や爆撃ポイントなどが確認する。

座標を指定すればどこにでもある程度は誘導可能らしいが爆撃機の飛行ルートなどからそれすぎるとかなり雑な爆撃になってしまう。

艦娘の各隊旗艦にレーザー誘導装置を持たせ、指揮官はなるべくあらかじめ決められた爆撃ポイントに誘導するように指示を出す。そうすればある程度爆弾の浪費を防げるだろう。

 

「それで、対空陣地の放棄はどのタイミングですか?」

 

村上が聞くと米陸軍の制服を着た女性が答える。

 

「機能を停止したタイミングで放棄します。作戦開始前に同士討ちが起きないように地上の人員は退避します。ですから球を打ち切るか、何かの攻撃で破壊されるまでは機能します。ですので詳しいタイミングは予想できません。」

 

「わかりました。」

 

敵をどれだけバラバラに誘導できるかにもよるがAWACSも展開している。それなりに防空網は信用できそうだ。

 

「よし。また作戦について疑問点があれば質問してくれ。部隊の呼称についてだがこっちの士官がイージスに攻撃目標を指定させる。そこに攻撃してくれ。ぶっちゃけ人間が整理できる部隊数を明らかに上回る部隊が展開されることになる。機械頼みでよろしく頼む。」

 

マークが話をまとめる。艦娘だけで10万、爆撃部隊の数は400は固いだろう。参加している艦艇は68隻。これを人力で射撃管制するのは無理だ。

艦娘の部隊数は誘導部隊が24部隊、火力を調整するために攻撃部隊はさらに細分化され62部隊にまで膨れ上がっていた。

一方で米軍が敷設した機雷は4万個で二千平方キロメートルと言う限られた海域に敷設された量としては異常と言えるだろう。

安全なエリアを知らない敵はうかつに行動できないだろう。

 

「ひとまず作戦会議?は終了しますがまた何かあったら無線でお願いします。」

 

マークと村上はそれぞれの水上機に乗りそれぞれの船に戻る。

いよいよ作戦が開始される。




当初の予定では竹野の過去をここまで丁寧に書くつもりはなかったのですがだいぶ長くなってしまいました。
あと二回目で現在に戻ると思います。
そいえば今日は四月馬鹿ですね。
今年の運営はどんなうそをつくのかな。
瑞雲....うっ頭が
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。