堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

21 / 62
第一攻撃群の栄光

作戦は轟音とともに始まった。

珊瑚海からソロモン海を通りビスマルク諸島に進路をとり始めていた敵部隊に水雷戦隊が攻撃を開始した。

上位個体であればある程度罠を警戒したりする習性がある。一方で人間と同じく慢心もする。

敵からは少数でおおいそぎで逃げていくこちらの部隊は獲物にしか見えなかったのだろう。

すぐに敵は食いついてきた。ただ、裸の状態でもそれなりの速力を持つ艦娘にさらなる高速化処置をしているのだ。

接近を許さないどころかある程度速力をセーブしないと敵がこちらを見失う可能性すらあった。

 

「よし。そのままマキラ島とガダルカナル島の間に誘導しろ。AWACS爆撃用意を頼む。爆撃エリアは計画通りA1。艦砲射撃、全自動に設定、同時着弾を狙い順次発射せよ。」

 

そう命令してからしばらくすると

 

「誘導完了まで残り3分。」

 

と、指揮官がコールする。そろそろ艦砲の射撃が開始されることだろう。

 

「一発目は大きくいくぞ。艦砲は5発連続発射してくれ。機雷、遠隔爆破の用意。」

 

第一陣の機雷だけ遠隔爆破機能を持つ化学機雷であり、かなりの効果が得られるだろう。この際海洋汚染など無視だ。

 

「第一ライン艦砲射撃を開始しました。」

 

CICでは複数の報告が飛び交い、そのタイミングに合わせた艦娘の誘導が行われる。

弾着のタイミングと艦娘の動きををうまくコントロールする。

一日余分な時間が出来て測量にかなりの時間を割けたこともありかなり正確なタイミングで攻撃できそうだ。

 

「爆撃隊戦術爆撃を開始!」

 

「第二ライン艦砲射撃開始しました。」

 

「誘導終了まで残り30秒。」

 

「全弾同時着弾時間は36秒後。」

 

誤差は六秒。第二次攻撃は不要かもしれない。

そして村上が腕時計で時間を計ると大体3分後にやっと轟音が聞こえてきた。

それなりに距離が離れているのだから当然と言えば当然だが。

 

「アイラーヴァタから報告。目標は壊滅、第二次攻撃の要は認められない。敵損害5.7万。こちらの損害はなしです。」

 

化学機雷が効いたのだろう。

 

「よし。作戦の第一段階を終了する。全部隊、作戦を第二段階に移行する。速やかに敵のヘイトを分散、各個撃破せよ。」

 

第一段階はまだ楽だった。一つに集中すればいいからだ。しかしここからがかなり厳しい戦いになる。

相手は警戒するし、攻撃すべき目標は複数になる。イージスシステムの高速処理能力と艦娘に正確な誘導をさせることが成功のカギになる。

 

 

「それで?」

 

「そこから南下して反転。敵を引き付けながら500m進んだ後最速で離脱。30秒もすれば大量の爆弾が降ってくる。」

 

霧島は味方の爆弾に殺されるリスクが最も高い奇妙な戦場にいた。

自分たちの速度を持って敵と対峙すれば、基本的に敵は有効射程圏内に自分たちを捉えることすらできない。

こちらも攻撃できないのは同じだが、自分たちが攻撃するよりはるかに高い火力を持った航空支援がある。こちらから攻撃する必要はない。

その為味方の誤爆が最も危険だった。

空母による長距離攻撃もあるにはあるが、空母は発見されたが最後、ガダルカナル島の自走砲陣地から化学弾の雨が降り注ぎ、せっかく飛ばした艦載機も分間4000発のCIWSに無残に撃墜されていた。

砲撃陣地を発見して攻撃を開始しようとする頃には、自分たちを焼き払うための爆撃機が戦時国際法にくそくらえとでもいうように大量のクラスター爆弾を投下してくる。

 

「了解。」

 

霧島は36.5cm砲を引き打ちしながら隷下の艦娘と共に指示された場所まで下がる。

当然こちらも射程圏外だが気にする必要はない。

下がり終われば最大船速で可能な限り爆撃地点から距離を取る。

後方を見れば大量の爆弾と艦砲が降り注いでおり深海棲艦の絶叫が聞こえる。

ナパーム弾を廃止したと言っていた米軍がナパームに似た何かで深海棲艦を焼いていた。

 

「第二次攻撃の要あり。」

 

だが霧島はその深海棲艦達の姿を見てそういった。憎しみはない。ただ、彼らをやらねば殺されるのはこっちだ。

 

「了解。近くの第23攻撃隊に連絡を入れた。次の目標の誘導を開始せよ。」

 

深海棲艦が絶叫し、動物が焼ける嫌な臭いがそこら中に充満していた。

爆撃地点と機雷のあるエリアを避け鉄底海峡の外で索敵をしている敵の部隊を誘導する。

完璧な情報有利を確立している国連軍は敵との交戦も、接触も全て意のままだった。

望まない部隊が鉄底海峡に侵入しようとすれば、どことなく誘導部隊が出現し鉄底海峡から離れた場所までおびき寄せたかと思うと今度はその足で追跡を完全に振り切りまた別の部隊を鉄底海峡から引き離す。

130万もいた敵兵力はバラバラになり200近い部隊に分裂していた。

相次ぐ損害の報告に慌てて敵は索敵機を飛ばすがその索敵機はAWACSからしてみれば単純な目標だった。

すぐにF35‐Xが対ドローン兵器で攻撃を開始して状況の把握すら許さなかった。

混乱する敵部隊は損害をすでに30万以上出していた。一方の国連側もさすがに無傷では済まなかった。

艦娘の一部が大破し戦線を離脱し、第二ラインで砲撃を担当していた艦が3隻轟沈した。

ガダルカナルの対空陣地や無人の自走砲陣地は味方の爆撃と敵の砲撃により一部が損傷していた。

 

「霧島です。このまま一度鉄底海峡を離脱して誘導を行います。」

 

「了解。爆撃が必要になれば連絡を。」

 

指揮所も爆撃指示でそろそろ手一杯になり始めており敵の損害を完全に把握できていなかった。

その為霧島たちが鉄底海峡を出るとかなり面倒な部隊と鉢合わせることになってしまった。

 

 派手な武装に、大量の随伴艦。攻撃部隊か?

 

霧島が目撃したのは大量の姫型を擁する大部隊。15万近い随伴艦を抱えている、敵の打撃部隊であった。

対する霧島たちは1000にも満たない部隊でありかなり分が悪い。

対空陣地の損壊により防空網は最初のころと比べれば脆弱なものになっており姫型が大量の艦載機を飛ばしてくると少し困ったことになる。

ただ、打撃部隊発見の報告をしたことで指揮が村上に引き継がれた。もちろんほかの士官も経験豊富で信頼できる。

村上の方はこちらに作戦の意図を説明することなく突拍子もない行動を要求してくる。そのため信頼はできない。

こちらがどれだけ彼と言う人間を信用しているかによって成功するか否かが決まる。

 

「霧島。変わった。村上だ。三式弾は積んでないな?」

 

「ええ。積んでません。」

 

「よし。なら敵が艦載機を飛ばして来たらB5の機雷原の上空を敵機が通過するようにして待機しろ。高速戦艦は機雷を狙え、ほかの船は対空戦闘用意。爆撃機だけを落とせ。」

 

どう言う目的なのかわからない。だが、それが彼の考える最適な案だ。

最善でも最悪でもない。

 

予想していた通り敵の艦載機が襲来する。すでに手負いの様子だったが高度を下げて攻撃態勢に入ってくる。

 

「攻撃開始。」

 

村上の号令で射撃が開始される。村上が何をしたかったのかすぐに分かった。

機雷が爆発したとき大量の鉄破片が周囲にばらまかれ次々に敵の雷撃機は落ちた。

本来船を沈めるための機雷にそのような処理が施されることはない。戦争の最初期、深海棲艦に有効なのではと開発されたが当然その程度で深海棲艦は沈まず、抱えていた在庫も散布したという事だろう。万が一艦娘が踏んでも問題ない。使い勝手は悪いが三式弾の代わりのようなものにはなると思ったのだろう。

 

「よし。大破艦は離脱。誘導を続行する。」

 

そうして誘導は再開されたが敵の攻撃隊の警戒心が強く、爆撃地点に接近してこなかった。レーザー誘導で爆撃ルートから少し外れた場所に爆撃を行う。

爆撃機の火力は期待できなかったが艦砲の集中運用で敵部隊を半壊させる。怒った敵をそのまま爆撃地点に誘導。殲滅した。

 

同じようなことが繰り返され、深海棲艦はただ、ひたすらに死体を積み上げていった。

損害は70万を超え。すでにグアム攻略の能力を失っていた。

一方で国連側も大破艦が全体の一割近くに上り第二ラインで砲撃をしていた艦の半数が轟沈や大破によって機能を停止していた。

対空陣地は未だに完全には破壊されていないものの弾切れで動作を停止していた。

 

 

その後、作戦が第三段階に入ったころ

 

「少将。司令部から少将クラスの権限を要求するメッセージが届きました。どうしましょうか?」

 

通信員はそう話しかけてくる。しかし村上にも余裕がなかった。

敵の本隊がようやく事態を把握して60万の兵力に総攻撃命令を出したのだ。

作戦の第三段階。戦力差を練度の差で押し、強引に敵の自由を奪う。

その間再度機雷敷設で海域を封鎖する。

 

「今は無理だ。今更司令部が支援をしてきたところでどうにもならん。」

 

と返す。

そして迫ってくる敵を見る。

敷設した機雷の9割以上が使用され艦娘の攻撃部隊と深海棲艦との間での砲戦が開始されており、誤爆防止のため米軍による航空支援はF-35Xからの精密爆撃のみになっていた。

 

「赤城、戦闘機を太陽の方向から向かわせ、攻撃機を直上から飛ばせ。戦闘機に向かって無駄弾を撃たせろ。」

 

練度も経験もある上位個体ばかりが残っており太陽をバックに攻撃するという方法はある程度予測されてしまっている。

博打ではあるが、あえてその裏をかき爆弾も積んでいない高機動の戦闘機に攻撃させひとまず爆撃機で敵から発艦能力を奪う。素早く無力化して見かけではなく実質的な数の有利をなくす。

高速で海上を走り回る駆逐に雷撃を行わせ、予測不能な攻撃で敵に攻撃する余裕を与えさせない。

60万での総攻撃は瞬間火力を出せる代わりにこの狭く限られた海域で多すぎる戦力は機動性を失い、魚雷のいい的になり始めていた。

 

「大和、武蔵!踏ん張れ敵を押し固めろ。そうすれば魚雷で敵は沈む。」

 

近接化した戦闘で双方の被害は急速に拡大していたものの、明石と工兵がガダルカナルで整備を行い、順次大破艦を戦線に復帰させていたため、今ここで踏ん張り、米軍による二度目の機雷敷設による海域封鎖を行い、長期戦に持ち込めば支援も到着するし、兵站においても有利なこちらの完全勝利が見えてくる。

 

「任せておけ相棒。」

 

武蔵がそう言うと鬼のような全問斉射による超火力で敵を抑えつける。

長門や陸奥も後に続き敵の士気も統率も失われ始めている。

そこに無慈悲な全方角からの雷撃が行われさらに敵の抵抗は弱くなる。

大和も武蔵も弾受けを続けた結果すでに大破しているが一切引く意思を見せない。

村上はあえて何か言う事もなく、彼女らを信じ、撤退を指示しなかった。

姫級の最後の抵抗を受け当たらなければどうということはないと言う顔をしていた駆逐がかなり被弾した。

だが、彼女らがそれで攻撃をやめることはなく、日が落ち夜戦が始まる頃には駆逐達の報復を受けかなりの数の姫級が沈黙した。

それでも攻勢をやめることはなく敵の抵抗の意思を完全に破壊するまで砲撃を続け一部の戦艦は弾切れを起こしてもなお、白兵戦に移行し装甲として脆弱な深海棲艦の咥内に砲身をねじ込み力で貫いた。

さながら地獄だった。すでに海は重油と化学弾による汚染でひどいにおいと色だった。そんな海上で撃ち合い、殴り合い、海上で転倒したものは体についた重油が砲弾で引火し様々な燃料が混ざり消える見込みのない炎に包まれた。

村上は無表情にその画面を見て米軍の報告を待つ。

 

ようやく米軍から機雷敷設完了の報告が入り村上は大和や武蔵に修理を命令した

 

「よし。もういい。敵はここから逃げられない。大破艦は修理に入れ。そのほかの艦は敵の監視を続行。戦意を失うまで攻撃を続けろ。効果がなくても構わない。戦力で言えば未だこちらの不利はひっくり返っていない。悟られるな。」

 

そのまま、これからの行動について指示を出そうとした村上を通信員が止める。

 

「少将。艦隊長から、最優先通信です。」

 

村上の記憶が正しければ、中越が最優先通信をよこしたのは初めてだ。

 

「わかった。すぐ行く。大佐、後は頼んだ。」

 

とだけ言って村上は通信室に向かう。

そこでとんでもない報告を受けるとも知らずに。




少将と群団長ですが同じくどちらも村上の事を指しています。
士官たちは少将と言い、潜水艦の船員は群団長と呼んでいる場合が多いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。