堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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第一攻撃群の落日

終わりは突然だった。

通信室から重い足取りで発令所に向かう。

ただ、村上は静かに怒りを抑え、取るべき行動を指示する。

 

「艦長。全タンク注水!急速潜航!」

 

村上がそう言うと艦長は何も言わずに手ばやに指示を出す。

今この状況で何を回避するために潜航するのか。艦長には言われなくても分かっていた。

通常の爆弾で被害が及ばない深度で待機するこの潜水艦がさらに深度を下げなければ破壊されてしまうような攻撃が来る。そんなもの一つしかない。

 

「聞いたか!とっととしろ!死にたいのか?」

 

艦長の怒号が飛び艦はどんどん潜航する。

 

「何とは言わんが、到達と同時に全タンクブローする。海底にたたきつけられるのはごめんだ。用意しとけ。」

 

事態を把握したCICは“それ”の着弾時刻を表示する。

村上は無線を取りアイラーヴァタを呼び出す

 

「マーク!早く海域を出ろ。」

 

「なに言ってる。俺らがいるのは浅瀬だ。最期の冗談にしちゃ切れが悪いぞ村上。」

 

アシュベータは回避行動をとったが、浅瀬にいたアイラーヴァタには無理だった。

自分が冷静さを欠いていたことに気が付き一度深呼吸する。

 

「マーク。どんな気分だ。」

 

無線を再び取り村上はマークに話しかける。

 

「意外と冷静でいられるな。四肢が吹き飛んで痛みと共に死ぬわけじゃないからな。何がどう転んでも死ぬ。」

 

「まあ現実的じゃないからな。」

 

「予想外もいいとこだよ。まさか味方に殺されるとはな。」

 

マークは自嘲めいて笑う。

 

「こっちは中途半端に生き残る可能性がある分ひどい気分だよ。」

 

アシュベータも回避行動をとっているが実際のところ生き残れるのかは五分五分だった。

この後の面倒な処理や、軍法裁判をするぐらいならここでとっとと死んで面倒ごとを全部中越に投げつけてやろうかと思ったりもした。

その考えも結局のところただの強がりでしかなかったが。

 

「それなら俺の昨日と変わらないな。生き残るか、死ぬか。二択だ。」

 

「確率論を学んだほうがいいな。」

 

24時間の中で死に至る可能性が毎日一定であるわけがない。

 

「最後の会話だぞ。しょうもない乳繰り合いで時間を潰すのか?」

 

とマークが言うが、出会った時から意味のない言い合いしかしたことがない。今更こっぱずかしいことでも言えと言うのか?

 

「まあ、先に地獄で待ってろ。」

 

「地獄か?俺は天国に行けると思ってたんだが。」

 

「いけるわけがない。ちょっとは自分の行動を見直してみろ。」

 

とぼけるマークにそう言う。

 

「それもそうか....」

 

マークは黙り込む。しばらくして突然口を開き

 

「ムラカミ、司令部の奴らを殴るのはお前に任せる。こんな愚策しか取れなかった司令部のために俺はここに残る。司令船がすべてここから逃げれば艦娘たちもここから撤退するだろう。だから私はここにとどまる。後のことは任せる。中越にもよろしく伝えてくれ。」

 

ここに残ることを選択したわけではない。彼はそうするしかなかっただけだ。

だが、ここは花を持たせてやろう。指揮官として部下と運命を共にする。

無意味で非合理的だが、それでいいのだろう。

 

 

その数秒後、司令長官の承認を得た"戦略課"が発射した"戦術核"が鉄底海峡に着弾した

 

 

村上はさっぱりと別れたつもりだったが気づけばうわ言のように

 

「マーク、俺も連れていけ。一緒に地獄へ連れていけ。」

 

と、すでに受け取り手が死んだ周波数で呼びかけた。

 

村上の目の焦点ようやく合うようになったころには船体のあちこちに亀裂が走ったアシュベータは何とかして放射線の影響から離れようとしていた。

村上は冷静になろうとしたが無理だった。

静かに発令所を後にして自室に戻る。

 

 

あの光には見覚えがある。

いや、本来はないはずなのだが。

どうしてだろうか。何か運命めいたものを感じる。

全く同意した覚えのない理不尽さ。運命の赤い糸と、運命の白い光。実に詩的だ。白と光。どちらもそれ単体では死をイメージさせることはない。でも白い光。それには死ぬものにとっては一種の安らかなものがある。

運命の素晴らしさと狂気をひしひしと感じる。

あの無茶苦茶な指揮官と巡り合ったこと。そしてここで死ぬこと。不本意で美しい死に場所だ。

結局またも戦いの中で死ぬことはできなかった。でも、今回は飾りではなかった。撃ち合い、傷つき、そして散々敵を殺してきた。兵器として私は活躍できた。

 

「陸奥。満足か?」

 

「もちろん。とは言い難いわね。なんで、このタイミングであんなもの撃つのかしら。あの人にしてはきれいじゃない勝ち方ね。」

 

会話している間にもその光は大きくなり近づいてくる。光は私を包み込む。

火球の中にいれば生物は蒸発する。爆発の騒音がたどり着く前に私は死ぬ。その衝撃波には似つかわしくない静かな終わりだ。

 

さらば。少将。さらば戦友たちよ。

 

長門はそう心の中でつぶやき目を閉じた

 

 

 

 

東京国連軍アジア支部

 

「全く理解できません。一体何の権限があってこちらの承認どころか話一つ通さずに勝手な攻撃を行ったんです?」

 

中越がそう聞くと戦略課の広域戦略部長は自信に満ち溢れた様子で答える

 

「130万の兵力との絶望的戦闘を速やかに終わらせ、ヨーロッパ方面に後顧の憂いなく派兵が可能になりました。それのどこが問題なのでしょうか?」

 

奴らは本当に事態を把握していない。深海棲艦がどうやって兵力を増やしているのか知らないし知りたくもないが敵の物量はとんでもない。

戦略課は本気で戦場を数字で見ている。

数字で見るなら抵抗など無駄な程の戦力差があるにもかかわらず。

 

「それは素晴らしい。一年後どうなってるかわかるか?お前たちが意味もなく殺した兵士たちがいなければ大変なことになる。」

 

130万ではなくすでに60万しかいなかったことも指摘しようと思ったがどうせ無駄だろう。

彼らからすれば六対一で勝利したと言うことなのだから。

こちらが十万の損害を出しても問題がないと本気で思っている奴らに何を話しても無駄だ。

 

「いいですか?私たちの攻撃で太平洋戦線のしばらくの安全は保証されました。その間に失った戦力を回復できないのはそちらの問題でしょう?わたしたちに責任を押しつけるのはやめていただきたいですねぇ。」

 

挑発的な笑みを浮かべそう言うが、こいつは本気でバカだ。第一攻撃群は全艦隊から優秀な艦娘を集めて4年の訓練と5年以上の実戦経験を積み上げようやく完成した部隊だ。今までの戦闘データを有効に活用して最適化した訓練をしても再建には四年以上はかかるだろう。

 

「それを本気で言っていらっしゃるのであればもはや私たちが戦略課の指示を聞く必要はないでしょう。その元からスカスカの脳みその軍団で一生懸命考えて、船頭多くして船山にすら上れず途中で滑落して全員死亡という失態を犯す人間もどきの猿の指示を受ける必要性を簡潔に説明してくださるか?」

 

中越のひどい言葉遣いに戦略課の人間は立ち上がり激しく抗議する一方で司令長官は自分がしたことに青ざめていた。

過去の現場からの報告で第一艦隊の能力を把握していた。特に第一第二攻撃群のとんでもない練度はよく知っていた。

しかし、自分の故郷の危機に冷静さを失っていた。冷静に繕っていた彼は戦略課の人間に簡単に言いくるめられてしまった。

 

「中越艦隊長。一年での再建は無理でも、何とか今の戦線を維持して膠着に持ち込むことはできませんか?」

 

そう聞く。

中越は大急ぎで資料を見て守備隊の配置や即応部隊としてどれだけ用意できるか全体を見る。

それは本来戦略課の仕事だが将棋ですべての駒を"歩"としてしか見ていない彼らには将棋くずしがお似合いだ。

しかも第一攻撃群などの異常な戦果も合わせて平均をとった戦力で"歩"の強さを算出しており実戦経験ゼロの艦娘までもが将棋でいうところの"銀"程度の戦力があるとして計算しているのだ。

その平均を狂わせていた部隊を失えばリカバリーなどできない。

 

「無理です。戦略課の素晴らしい活躍によって太平洋戦線におけるほんの一瞬の優位は獲得できましたが今までの通り敵が毎月数十万の兵力を追加してくるのであれば攻勢能力の低い部隊では敵の処理が間に合わずじりじりと撤退することになります。全ての前線で陸戦のように艦娘を並べるほど兵力が余っているのなら話は別ですが。余っているんですか?」

 

中越は戦略課の一団の方を睨み付ける。

 

「数的不利は国連軍が慢性的に抱えている問題です。そこで我々は艦娘に頼らない新しい戦略を考えついたのです。」

 

彼らは待っていたとばかりに資料を配り始める。そうして彼らが提示したのは村上が今回の作戦で使用したものと何ら変わらない作戦だった。

というよりも完全にパクったとしか思えないものだった。ただ、艦娘と言う要素だけが排除されていた。

 

「人類が効率的に爆撃を実施。ドローンによる終末誘導により安全に敵を始末します。艦娘など必要ありません。我々人類の戦いに敵勢力と同じような奴らは必要ない。」

 

彼らは知らない。現場が同じようなことを実施しようとして挫折したことを。

広い海の上で敵に正確な誘導を行い敵を沈没にまで追い込むほど火力を集中させることなど不可能に近かった。

村上が今回それをやり遂げたのは彼があらゆる可能性を考慮する中で一度は枯れた戦術が限定的に有効だと判断したからだ。

高い練度をもつ艦娘と士官、最新の技術のすべてを完璧にコントロールできる環境を作り上げることができたからだ。

限られた海域を何度も測量して数秒のずれだけで誘導できるようにしていたからだ。島も何もない開けた大海で同じことなどできるはずがない。

中越は確信した。戦略課は村上が挙げた戦果を知らず、手違いで攻撃したのではない。

これ以上第一艦隊にも艦娘にも戦果をあげさせないためだ。

最後の望みをかけて彼は口を開く。

 

「司令長官。あなたの間違いを今は許す気にはなれません。ですがまだやり直せる。第一艦隊の残存兵力でニュージーランドの駐屯部隊をたたきニュージーランドを要塞化、一度ハワイを放棄して防衛圏を大幅に縮小してください。そうすれば我々は反攻の戦力を温存できる。」

 

司令長官の良心と軍人としての責任感にかけるしかなかった。さっきは口をついて戦略課の意見を聞かないといったが、中越は一軍人でしかない。

組織がそうすべきだと判断すればそれに付き従うしかない。

 

「なるほど。ハワイ放棄は看過できない。それに戦略課の戦術にも期待できる。ここは戦略課の要望を飲もう。すぐに駐屯部隊以外の部隊はヨーロッパ遠征の用意をするように。それと、戦術研究所と装備開発局に戦略課の方から連絡を入れるように。以上だ。本作戦の損害は全て第一第二群団長の責任だ。今後の戦略をスムーズに取るため、壊滅した艦娘の艦隊の尻拭いとして新戦術が用いられ130万の敵を撃破した。これを事実として公表しろ。いいな。」

 

だが、司令長官は軍人としてすべき事を放棄して保身に走った。もう中越にできることはない。殴り掛かってやろうかと思ったがそれもやめた。残された士官を守り、この現状を何とかするためにはみっともなく今の役職にしがみつくしかない。

 

その場に立ち尽くしていた中越を置いて、戦略課の人間と司令長官が会議室を出ていく。

 

「艦隊長。大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だと思うか?」

 

山本が分かり切った質問をしてくる。

 

「それよりも君の直属の上司が左遷だぞ。」

 

山本は分かっていると言った顔で

 

「知ってます。どうせあの人はこんな理不尽なことをされても自分の責任だと思い込みますよ。「俺が戦略課の不審な動きを察知できてれば。」とでも言うんでしょう。彼は自分を神だとでも思っているんですかね。」

 

山本にはわからないだろう。司令官と言うのは部下を失えば客観的には何も悪くなくても自分が悪いと本気で思い込むことがある。

最悪なのは彼は部下たちとあまりに長くいすぎたことだ。彼は部下と上司以上に全員を戦友だと思っていたに違いない。何を言っても彼は自分を責めることをやめないし、生き残ったことを後悔する。

 

「部下の命と共にあらねばならないと思い込む。それが他人の命を好き勝手にできる権利の代償だよ。」

 

「そうですか。」

 

山本は納得していないようだがそれ以上彼から言って来ることはなかった。

中越は机に広げた資料を鞄に詰めなおしながら

 

「君は彼についていくのか?」

 

そう聞く。

 

「どうせ、今の第一攻撃群の人間の居場所なんて本部からはなくなりますよ。戦略課と現場の人間どっちが多いか知ってます?」

 

水兵や駐屯部隊指揮官を合わせるなら別だが彼らはあくまで各国軍隊から借りていたり、ナンバリング艦隊から切り離された指示系統を持っていたりするため、純粋な国連軍本部の職員の数は戦略課のほうが圧倒的に多い。

 

「それもそうか。彼が自殺を図ることはないだろうが、辞め時だと思えばやめさせてやれ。」

 

とアドバイスをして会議室を出る。

そこがターニングポイントだった。

そのあとに行われた、司令部の処理が最終的にすべてを終わらせてしまったと言っていい。

殉職した第二攻撃群士官には勲章も階級特進もなかった。遺族に届いたのは死亡通知書だけ骨も遺品もなかった。

第一攻撃群の士官は全員更迭の上、島嶼に左遷された。

さらに、司令部はこの決定に抗議した現場の士官を全員更迭するという暴挙に出る。そのうえ各報道発表から現場の人間を締め出し、弁明の機会すら奪った。

当然だが、士官を大勢左遷し主力を失った国連軍と再び勢力を取り戻した深海棲艦で勝負になるはずもなく、前線は一気に崩壊した。

当然守れるはずのないハワイでは100万人以上の民間人が死亡した一方、プロパガンダだけは得意な戦略課に踊らされ日本列島や大陸本土に敵が襲来しても艦娘排斥運動はとどまることを知らず激化していく。

そして、言うまでもないが戦略課による新戦術は大失敗した。

 

 

米国CIA本部

 

「二サエル上級分析官。今回は愉快な情報をお持ちしましたよ。」

 

「そうか。そういえば君たちの仕組んでる新組織の名前は決まったのかい?」

 

二サエルがそう言うとエージェントS12はめんどくさそうに口をすぼめる。

 

「一体どこでそれを?」

 

どこでそれをと聞くが、CIAが政権転覆や企業の破綻工作などをするときその予兆が絶対に現れる。内部にいる人間であれば少し頑張れば容易に知ることができる。

二サエルは本気でそう思っているがもちろんそれは彼の能力あってのことだ。

 

「この前の会議でそれを決めたのでは?頑張って世界中から海軍幹部集めて。」

 

「隠しても無駄かしら?どういう組織かもうご存じで?」

 

海軍関係者を大量に集めていろいろしているのだから一つしかないだろう。

 

「国連軍の後継でしょうねぇ。」

 

エージェントS12は短くため息を吐き出し

 

「ほっんと、最悪。頼むから黙っててくださいね。」

 

と二サエルを睨む。

 

「睨んでも意味ないですよ。教えてくれないなら探りを入れるだけですから。」

 

そう言って目の前の電話に手をかけるようとするとエージェントS12は彼を制止して

 

「防衛連合軍。」

 

と素直に名前を教えてくれた。

 

「連合ですか。我が国らしい。はなから連合にする気もないのにユナイテッドステイツと名乗り、ユナイテッドネイションを作り。面白い。アメリカ式グローバル万歳ですね。」

 

「まあ。言い返せないわね。連合と名乗ってるけど入れるのはCIAとMI6が中心となってヘッドハンティングした人間だけ。保身と尊大な自尊心だけの国連軍は望み通り旧式兵器と人間だけで化け物と戦ってもらいましょう。」

 

その美しい顔に思わずこちらも微笑んでしまいそうになる笑顔浮かべる。

二サエルも微笑み返す。

 

「それで報告とはなんでした?」

 

そう言うとエージェントは途端に顔を元に戻す。

 

「変わり身の早い女だ。」

 

とつぶやいた二サエルに再び微笑んだ後

 

「DAY3が終わった。」

 

とだけ言って二サエルの方を見る

 

「わかりました。引き続き頼みます。と君に行っても無駄でしたね。工作員たちに伝えておいてください。」

 

エージェントS12は若干かわいそうな位置で雑用扱いされている。能力は高いのだが若干使い勝手が悪い。

そんな彼女を憐れみつつパソコンの画面に目を移すころには彼女は音もなく消えていた。




超胸糞回でした。月曜からすみません。
次はようやくすべてが一段落するので平和になるといいですね(白目)
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