堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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詐欺師の信奉者達

「提督も壊れてたんですね。」

 

吹雪はそうつぶやく。

 

「そうかもしれんな。」

 

竹野、いや村上はそうつぶやく。彼はどこか吹っ切れたような顔をしていた。

彼の弱みであり、ここまでの散々な扱いを耐え続ける原動力であり、呪いでもある彼の過去。

彼自身過去に執着し、過去に呪われ、過去の自分と部下をどこか崇拝し、理想化していた。

話が事実なら彼の非は、ほとんどない。彼にどうにかできた問題ではない。けれど、それすら跳ね返せると錯覚するほど昔の彼は強く、そしてもろかった。

狂気の戦場で狂ったのは私達だけではない。

 

「満足か?」

 

「一つ聞いていいか?」

 

「なんだ?」

 

村上は長門の方を見る。

 

「私たちはあなたのことを村上と呼べばいいのか竹野と言えばいいのかどちらだ?」

 

「他の提督が来た時には竹野と呼んでくれ。私は戦犯だからあまり印象が良くない。」

 

国連から分離独立した防衛連合軍内でも村上の印象は非常に悪い。

戦略部のプロパガンダの影響でもあるのだが、中越はまだしも村上は自分の名前で活動できるほど彼の名誉は回復されていない。

 

「わかった。」

 

村上は頷くと立ち上がり食堂を出ていく。

誰も声をかけることはしない。どうすることが正解なのかわからない。

彼に気にするなと、言う事が正解であるとは思えない。艦娘たちからしてみればあまりにも村上の過去が予想外なものだった。

 

 

村上は気が付けば寝ていた。

食堂から戻り、再び事務作業を再開しようとしたときどっと疲れが溢れ、視界がゆがみその場に倒れ込んだことまでは覚えている。

目を開けると、床の冷たさが直に顔に触れ一気に眠気が飛ぶ。

立ち上がり服を整え腕時計を見る。時刻は深夜3時だった。

流石にこの時間から仕事をする気にはならなかった。村上が床に放置されていたことから見て特に急用もなかったのだろう。

部屋の隅にかかっている、外套を着て外に出る。

 

 やっぱり。この島の夜は静かで落ち着くな。

 

波打ち際まで歩き履いていた靴を脱ぎズボンを折り海に足をつける。

自然な海に足をつけたのはいつぶりだろうか?安全な海であっても化学弾による汚染などがあり国連軍と防衛連合軍が唯一共通の声明として海に立ち入るな、と指示を出している。

だが実際は嘘だ。人間ごときがどれだけ頑張っても海に浸かっただけで人体に影響を与える汚染は作れない。

ただ単純に危険だからだ。そうやって言っておけば海に入る人間などいない。

 

 いつぶりかな。海に入ったのは。

 

それを思い出すと泣けてくる。

まだ、第一攻撃群の発足当初関係を深めるためにいろんなことをした覚えがある。

艦娘の登場により人類側は急速に勢いづき各地から優秀な艦娘を大量に引き抜いてもまだ攻勢に余裕があったころ。グアムに部隊を移動させ熱帯での訓練と銘打ち予算をつけさせ、好き勝手にやりたいことをやらせた。その時、水泳大会が一人の艦娘の発案で実施され全力で泳いだにも関わらず潜水艦たちに完敗した。

仕方ないと言えばそうなのだが満足いかず、何度も戦いを挑み持久戦で最後には勝った。向こうがただ折れただけなのかもしれないが。

グアムでの滞在で艦娘への印象は大きく変わったと思う。

空母も、戦艦も精神的には幼く、その容姿から大人になることをようようされてしまったという節がある。

こちらが見ていないときはそれは楽しそうに遊んでいたのを思い出す。

子供らしさを感じほほえましく思う一方で彼らが戦場に出なければいけないということに大きな疑問がわいた。

けれどあの頃はまだよかった。

今はこれだ。艦娘たちは戦場を生き抜く中で子供のような部分は消え去り、自分は、深夜の海で誰かいるわけでもないのに水に一人で浸かり水平線を見ている。

月は一週間まえに見たものより少し大きく、明るくなっていた。

ふと、島の方に目線を移すと人影が見えた。容姿だけを見るなら飛龍に見えるがそれにしてはまとっている雰囲気がただ者じゃない。

 

「蒼龍....。だな?」

 

疑問形で飛ばした言葉がこちらに帰ってくることはなく、その影は動き距離を詰めてくる。

腕にかけていた上着を投げ視線を遮断し回避する。だが、

 

「殺そうってわけじゃありません。」

 

蒼龍は悲しそうに肩を落とし海岸に座り込む。

海水を吸って重くなった上着を海から引き揚げ絞った後村上も陸に上がる。

足首あたりまでしか水には入っていなかったから、靴を持ち片足立ちで水を払って海岸を歩く。

 

「なら何の目的で深夜に私のもとへ来たんだ?」

 

そう言いながら蒼龍の横に同じように水平線に眺めるように座る。

 

「私は確かに二サエル司令長官、いえ二サエル情報官のもとで働いていました。でもここに来たのはほかの艦娘たちと同じです。使いものにならなくなったからです。あなたのことを監視するわけでもなければ、あなたを殺すためでもありません。」

 

村上は首を傾げ

 

「君がいた部署では使い物にならなくなった機密情報の塊をこんな場所に送ることはしないだろう。処分するのが妥当だと思うが?」

 

「その通りです。だから私の最後のターゲットの目を見た時、絶望しました。」

 

殺せるターゲットを殺さない特殊要員。特殊要員には人間性も心も必要ない。ただ人を殺し、命令を聞き、極限状態に置かれても情報を漏らさずに必要なら自分の命すら迷いなく捨て去る。それが出来ればいいのだ。そのために最大の障壁となる感情を思い出してしまった特殊要員は用済みだ。

 

「なら、どうして黙り込んでいたんだ?」

 

「あなたが私を怪しんでいたのと同じ理由です。あなたはほかの艦娘が特殊な事情を抱えていないとすぐに知り得る立場にいましたが、私は違います。私以外の艦娘が全て特命を受けて私に何かしようとしているように見えました。」

 

特殊作戦には数年かけて実行するものもある。だから彼女はずっと気を許すことが出来なかった。自分の前に作られたすべてが作戦を実行するストーリに見えたのだろう。

しかし、それなら村上が来てたった数か月で村上を信用するのもおかしな話だ。

 

「どうして私にそれを話す?まさかこの数か月で私を信用したとでも?」

 

「違います。もっと昔からあなたを知っていましたから。」

 

「昔?」

 

「ええ。私が、特殊要因として汚れ仕事を請け負うことになったのはあなたのせいでもありますから。」

 

蒼龍は村上を責めるようなことを言いながらも、村上に恨みを向けることもなく遠くを見ている。

 

「あ~あ。何で私こんなのになっちゃったんだでしょうね?」

 

「私に非がある....わけじゃなさそうだな。」

 

蒼龍の方を見るとやけにすがすがしい顔で頭の後ろで手を組んでいた。

 

「あなたが私に高い評価を出しすぎたのがいけないんです。」

 

村上はハッとした。第一攻撃群に引き入れようとしたが結局いろいろな事情で迎えることが出来なかった艦娘もいる。

そのすべてを覚えているわけではないが蒼龍の一人に最高評価を付けて何とか引き入れようとしたが無理だった艦娘がいた。

最高評価を出した艦娘はほかにも居たが、ただ一人最高評価を出したが仲間として迎えることが出来なかった艦娘が蒼龍だった。

 

「私は君に最高評価を出してしまっていたわけだ。」

 

「そうですよ。私も誇らしくてすぐに引き受けるつもりでした。というよりも、引き受けたんですけどね。でもあなたのもとで訓練をすることはなく、艤装も奪われて渡されたのは対人用の拳銃や毒物でした。」

 

高い能力を持つと判断してしまった結果、ほかの部署にも目を付けられ裏で手を回されてしまった。

当然、村上はそんなことを知らない。当時の彼の頭は今から教育する五万の艦娘の事でいっぱいだった。

 

「昔の私はまさか味方が自分をだますなんて想像すらしていなかった。最初からだったんだな。私が起こしたミスは結局どれも最初と同じだ。正義のためには無条件でみんな協力してくれる。目標が同じだから足並みもそろえられる。青すぎて、馬鹿らしい考えだ。」

 

「そうですね。確かに青すぎる考えです。私が配属された部署の人間は必要であれば殺しをして、最終的には軍が掲げる目標にたどり着くプランを立てていました。あなたの描くビジョンにたどり着くために私たちがしたことはあなたがやっていたことの何倍も汚い方法でした。」

 

「だが、取り返しのつかない残虐で単純な方法であらゆる内部の問題を解決することはできない。」

 

「その通りです。破壊が根本的な解決になるはずなんかないんですよ。でも、私はそれが最善策だと信じて悪魔に魂を売りました。」

 

悪魔。二サエルのことだろうか?彼も悪魔だが殺しが最終手段であり悪手だということを彼は知っている。最初から殺しのための部隊を彼が作るとは考えにくい。

 

「君をその道に引き入れたのは誰だ?」

 

聞くと蒼龍は困った顔で

 

「私は自分を教育した人間をよく知りません。意図的に記憶が消されているというか認識ができないというか。教えられた技術は完全に覚えているけれど記憶をどう辿ってもその顔はぼやけて、思い出せません。」

 

そう答える。

 

「ならニサエルとはいつ会ったんだ?」

 

「防衛連合軍が発足した時、私は国連情報局から防衛連合軍情報部への異動の指示が出てそこで彼には出会いました。最後までよくわからない人でした。私たちをその名の通り駒として扱い、前に一歩進めとだけ言うように作戦の目標は言ってもどうしてその作戦をする必要があるのか。どうしてその作戦を実行しなければならないのか、絶対に言わない人でした。だから私が駒としての仕事を全う出来なかったときすぐに殺されると思いました。でも彼は満足そうに笑ってこの鎮守府に何も言わずに飛ばしました。私を叱責することもなく励ますこともなく。」

 

村上は笑って

 

「同じだな。あいつのすることは意味が分からないことが多い。味方なのかもしれないし敵なのかもしれない。全てを欺いているように見える。でもどうしてだかあいつの目的はもしかしたら自分が思い描く未来につながるかもしれないと錯覚させてくる。」

 

二サエルは今まで村上が関わったあらゆる人間と異なる。熱い闘志を持っているわけでも信念のためには死ぬ覚悟があるようにも見えない。彼の計画に必要なら家族、友人ですら簡単に切り捨てるだろう男だ。

 

「どうしてなんでしょうね。」

 

「さあな。私たちが知ろうとしたところでそれが簡単にわかるなら苦労はない。昔は単純に敵を倒せばよかったが今は違う。蒼龍、君には深海棲艦が殺せるか?別の地獄に戻る覚悟は?」

 

蒼龍はただ微笑んで同意を示す。

 

「そう言えば、君は私がここに来た時から私が誰だか分かったのか?」

 

そう聞くと蒼龍は首を振り

 

「私があなたとあったのは十三、四年前ですよ?それに散々地獄を見て顔つきも変わってます。あなたが最初に指揮を執ったとき強烈な違和感がありました。驚きもない平凡な指揮。でも、それは新人士官ができることじゃない。だから最近は頻繁に外をうろついていたわけです。気がついてないかもしれませんけど。」

 

十四年。そんなに経ったのか。そろそろ終わらせなければいけない。

終わらせることができるのか知らないが。

 

「早速明日出撃してもらおうか。」

 

「艦載機を使うのは何時ぶりかなぁ。」

 

蒼龍は星空を見上げながらそうぼやく。人間は考えをまとめるとき、視覚から得る情報を減らすために映像に雑音が少ない空を見ることがある。ただ蒼龍が空を見上げたのはそれだけが目的でないことを彼女の瞳が不規則に光を反射していることが証明していた。




ご報告
新たな年度となり、作者の生活環境が少し変化したことに伴い現在のような、ほぼ毎日投稿することが困難になってしまいました。誠に身勝手な理由ですが投稿頻度を減らさせていただきます。急いで書き上げた、自分ですら納得のいかない駄文を投稿するわけにはいかないと判断いたしました。また、これからは投稿時間を正午で統一いたしますのでその点もよろしくお願いします。
そして、この場を借りて感想やお気に入り登録、評価などをしてくださった方に改めて感謝いたします。
何話になるか分かりませんがこれからもぼちぼちとお付き合いいただけたらと思います。
Yasoshima kakeru
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