堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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おかしな噂

二サエルはため息をつく。

またも認めたくない事態が発生した。ある程度予想していたが二サエル直属の工作部隊は別の任務に従事しており妨害工作を実施できていなかった。

 

「タイタン。それでどの程度の破壊されましたか?」

 

「フランス陸軍の計画では一キロ分崩壊させる予定だったようですが崩壊が連鎖して2.5キロほど崩落したようです。」

 

「これで英国が本土を放棄すると言ってももう安全に避難できないということですね。引き続き英国王室にもフランス大統領側近にも探りを入れておいてください。」

 

英仏海峡トンネルが爆破されるという話は少し前から上がっていた。

今のフランスは移民が全人口の三割を占めており、雇用喪失に治安は悪化。フランス政府は状況を鑑みてEUを脱退したがそれでも国境を警備する分の軍隊は海岸線に配備せざるを得なかったため結局状況は改善せず、またも混沌としたフランスの政治は革命の前兆すらある。そんな状態で今ブリテン島にいる2000万人がフランスに逃げてきた暁にはフランス政府は崩壊しかねない。MI5もMI6も表立って妨害に出なかったということはイギリス王室もある程度事情は了解しているということなのだろう。

 

「まあ、とにかく今は英仏開戦だとか、フランス革命は避けてくださいね。以上です。」

 

タイタンは無言で頷いてテレビ会議を終了した。

しかし、普通に考えてイギリス国民がフランスに保護されることを良しとするはずがない。英連邦加盟国に移住を強要すれば移住先など簡単に見つかる。オーストラリアの大部分は保持されているし、カナダにも南アフリカにも逃げれる。結びつきは弱いがインドもある程度は受け入れるだろう。

難民受け入れを拒否しているアメリカも大量の造船所や軍需工場を支えてきた工員とその家族に関しては受け入れの準備が出来ているらしい。

今まで開発を行わなかった内陸部の開発を一気に進め、五大湖の湖畔には大量の造船所を建造している。

造船能力の低さから防衛連合軍支部の移転を延期されたことを受けた対応だろう。しかし、造船所が失われてしまったために技術を持った人々は日本やその他の国に移住してしまった。それにより生まれた人材不足を補う狙いもあるのだろう。

フランスの取った行動にフランス国民は絶賛するだろうが愚策だとしか言えない。けれど実行しなければフランスという国がバラバラになるのも目に見えていた。

 

「長官。お電話です。」

 

頭を悩ませていると山本が声をかけてくる。

 

「何番です?」

 

「5番です。」

 

受話器を取り5番を押すと女が慌てたような声でしゃべり始める。

 

「長官。突然のお電話申し訳ありません。ヨーロッパ方面軍憲兵第13中隊指揮官のオーマー・ラッコエです。」

 

「ご存じかとは思いますが君の行動は処罰されますよ。」

 

憲兵中隊の指揮官レベルが勝手に司令長官に直接電話をかける行為など当然許されない。もちろんそれをわかった上でこちらに電話してきたのだとは思うのだが。

 

「はい。私が軍法会議にかけられることは分かっています。それでもお伝えしなければならないことがあります。」

 

「なら聞きましょう。」

 

二サエルは落ち着いた声で返事をして相手の会話のペースを抑制する。

 

「はい。反艦娘のカルト集団、AaronMankindはご存じですか?」

 

AaronMankind。悪いうわさしか聞かない。深海棲艦の公開処刑や艦娘を兵器であり人間の所有物であると言い張り艦娘に焼きごてを押し付け印を刻むなどの行為を行っているらしい。

アロン。モーセの兄の名だ。彼は帰らぬモーセに不安になった民たちのため偶像として金の仔牛を作り神の怒りを買った。間違った方法でも民のために自らを犠牲にしたアロン。

彼らは自らの残虐な行為を必要悪だとして自らの悪を認めた。だからこそ彼らの思想は広がった。

必要悪で艦娘を虐待することを正当化し、人間の残虐性こそが地球の覇者である根拠だと説いている。

 

「思想は結構だが、結局はただのカルト。合理性も理性ある人間としての側面も否定し、ヒトとしての側面だけを見ているかわいそうな人たちですね。」

 

「概ねその通りです。」

 

「それで?」

 

「ヨーロッパ方面軍司令部の幹部、アーサー・マクドネルがAaronMankindに籍を置いている可能性が浮上しました。正式な調査を行おうにも私の権限では握りつぶされるのがおちです。」

 

二サエルは少し驚いた。ヨーロッパ方面軍がカルトをおとなしくさせるために金を握らせ、一部の艦娘を生贄として差し出しているという話は聞いていたがまさか幹部があちら側の人間だとは思っていなかった。

 

「そうですか。」

 

情報部の人間を送れば簡単に解決しそうな話だがそれではつまらない。ヨーロッパの惨状を現場の司令官たちに見せてやろう。

 

「わかりました。研修と称して調査を指示した士官数名をそちらに送ります。あなたの処分は本件の処理が完了してから下します。何か見つかる自信がないのなら今のうちですよ。」

 

「いえ。問題ありません。内部を監査する人間の一人として軍規の尊さをよく知っているつもりです。覚悟は受話器を握った時からできています。」

 

頼もしい限りだ。

 

「了解しました。」

 

二サエルは受話器を今度は情報部に内線をかける。

 

「はい情報部。」

 

機械的な冷たい声で返事が聞こえてくる。

 

「新人士官だと言っても差し支えなさそうな奴を数人よこしてくれ。」

 

二サエルは返事も待たずに受話器を置く。

身分を偽った情報部員と本当の新人士官を送り、研修を実施してしまえば、まずばれることはない。実際は、ばれようがなんだろうがどうでもいいのだが。

 

「ついでに彼も送りましょうか。」

 

村上も四年前の写真と比べれば目つきも顔も変わっている。よほど親しくしていた人間ではなければわからないだろう。最初から嘘をついているものとして村上を見ていた南鳥島の艦娘たちには何となく似ているというだけでばれたようだがあれは特殊な例だ。

意外と人間は気が付かない。トップの人間が承認した研修生にまさか戦犯が混じりこんでいるとは思わないのだろう。

 

「少しは面白くなってきましたね。」

 

二サエルはほくそ笑んで怪しげな新人士官候補の到着を待つのだった。




失踪はしていないというアピール為に短いですが久々の投稿。
日曜日には少し長めの話を投稿できるように頑張ります。

ついでに不定期になってしまったのでしおりとかお気に入りしてくれると嬉しいな。
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