ヨーロッパ方面軍の基地に入り、すぐにこれではまともに戦えないということが分かった。
士気があまりに低すぎる。
艦娘の士気だけではない。士官の士気も低く、まともに指示を出そうという気概が見られない。
ヨーロッパでは防衛連合軍の居場所などなかった。
海岸を守り、守護神として君臨しているのはレオパルド3A2というドイツ製の戦車だ。
モジュール式装甲により高い生存性と整備のしやすさ、それに物量を出すことにも成功して、質と量、ともに高い水準にある戦車だ。化学弾運用能力が高く、初速を調整することで特殊な弾頭が破損することを防ぐこともできる、はなから戦時国際法を守る気などない戦車だ。
そもそも敵がハーグ陸戦条約などの戦時国際法に批准しているわけではないから問題ないということなのだろうか?
そんなことはどうでもいいが、そんな存在がいるせいで相対的にヨーロッパでの艦娘に対する評価はひどい。
イースターマンデー作戦で国連軍はベルファストに橋頭保を確保したが、一方の防衛連合軍は敵の補給線に対する攻撃を止められず、上陸した部隊の充足状況はみるみる悪化した。
結果、上陸から半月もたたずに燃料切れで戦車は停止、戦車数百両を放置し国連軍は後退を開始した。それでも十分な補給は行えず、アイルランド国防軍もIRAもダブリンを放棄したことを受け、もはやアイルランドでの勝敗は決したとして国連軍は速やかに撤退を開始した。
しかし、防衛連合軍へ撤退が通達されることはなく連合軍は意味もなくアイリッシュ海での戦闘を続け消耗した。
事実かどうかは知らないが、国連軍内で防衛連合軍への反感が強く意図的に撤退を通達しなかったのではと言われている。
そんなこともあり、防衛連合軍は国連軍の小間使いに成り下がっている。
戦果も挙げずに足を引っ張る。ヨーロッパでは防衛連合軍はただのお荷物だ。
「それではこちらへ。」
研修にきた新人提督たちが集まり、教官補佐が案内を開始する。
「ヨーロッパでは我々がすることは決まっています。上陸後の敵を効率的にたたくことです。」
一度上陸してしまえば深海棲艦だろうが艦娘だろうが機動性は大きく下がる。
人間の方は地雷を埋めて鉄条網で海岸をかため、野戦砲や迫撃砲をあらかじめ用意しておけばいいだけだ。
陸上で戦うなら勝機はあるが、敵が海上で生活をしている以上、勝利するにはいつまでも引きこもっていてはいつまでたってもこの戦争は終わりはしない。
そうやって説明したところで、あんなカルトが流行っているヨーロッパで防衛連合軍が勢いを取り戻すことは難しいだろう。
「我々は国連軍と共に、人類と艦娘の連携によって強力な防衛陣地を形成することに成功しています。」
聞こえはいいが実際は違うだろう。
連携などではなく、依存というべきかもしれない。
守るべき対象者が自らを中傷する。中傷はどんどん具体的なものになり、士官たちは目立つことを極度に恐れるようになった。
そこからは悪循環だ。目立つことを避ける士官のせいで、戦果は挙がらない。戦果が挙がらなければ、いつまでたっても評価は改善しない。
「私たちがとらえているビジョンは、より先進的でリベラルなものです。人間であるか艦娘であるかの区別はない。」
そう言い張る。言いたいことは山ほどある。
第一、国連軍は命を削って戦っていることをアピールするが、難民の命を燃料や弾薬に変えているに過ぎない。
先進的でもリベラルでもない。植民地軍を激戦地で戦わせた昔の列強と変わりない。
「さて次は司令部です。」
教官補佐がそう言って司令部への案内を開始したとき、基地敷地内にサイレンが鳴り響いた。
「どうやら敵襲の様です。皆さんはやくシェルターに向かいましょう。」
言われるがままにシェルターに向かおうとしたとき、純粋な目で教官補佐を見る新人提督が言う。
「私たちは軍人であり研修のためにここに来たのです。差し支えなければ指揮の様子を見させていただきたいのですが。」
教官補佐は微妙な顔をするが、その提督に同調するようにほかの提督たちも口々にお願いをする。
竹野にはどうせ学べることなどないとしか思えなかったが、行くだけなら行ってみてもいい。それに海岸を持たないパリにすぐに攻撃が来ることなどあり得ない。
一体どうしてシェルターに誘導したのかさえ不思議に思えてくる。
「私も賛成です。」
竹野は一人だけ明らかに異質だった。新人と呼ぶにはあまりに歳を取りすぎている。
若く見られることの多い彼でもさすがに二十代だと言い張るのは少し難しい。そんな特殊な新人も賛成を表明したこともあり教官補佐はもはやあんなせざるを得ない状況に陥った。
「わかりました。」
しぶしぶ、教官補佐は承諾した。
「ル・アブールでは国連軍の展開完了の報を受けました。」
司令室に入ると竹野たちの相手をする暇がないと言った様子で報告や指示が飛び交っていた。
「問題なのはシェルブールの方だな。」
「ええ。前の戦闘で国連軍がコタンタン半島南岸の砂浜に移動して、到着までには時間がかかりそうです。」
ただでさえ平野が多く、アメリカの様に国土の広さに物言わせて戦えるわけでもないヨーロッパは必死なのだろう。しかし、少し思っていたものとは違う印象を受けた。
国連軍の物量が思ったよりも少ない。アメリカが国連軍から離脱しているということもあるが、それにしても少ない。
今回上陸してきた敵の目的は沿岸地域の破壊程度が目的の部隊で、橋頭保を確保するにしては貧弱な部隊だ。
その程度の部隊なら港に十数台の戦車を配置すればかなり侵攻を遅滞できると思うのだが、国連軍は機動的に部隊を運用しすぎている。
「国連軍到着まで3時間です。」
「市民の避難は?」
「避難誘導を実施できていません。それに今避難させるほうが危険です。」
そもそもの疑問だが、どうして衛星監視システムや無人高高度偵察機をもってしても敵の進行が開始されてからしか対策できないのか?
「教官補佐。失礼ですが、ヨーロッパ方面軍は戦闘前の情報戦で優勢を確保できていると思えません。」
教官補佐は不愉快そうな顔をして言う。
「厳しい質問ですね。原因は、そうですね。しいて言うなら、敵の上陸地点を絞り切れないと言ったところでしょうか?」
「それは、つまり。敵の上陸の目標が不鮮明だからということですか?」
「逆に、誘導してやればいいという話も出たのですが....」
深海棲艦は人間と違い、陸上で生活する必要はない。出所不明の敵であるが少なくとも陸上に何か施設を持っていなければ生きていけないわけでもない。
彼らには領土が必要ない。ならばなぜ上陸するのか?
ヒトを減らすためか?恐怖を与えるためか?
最終的に深海棲艦がどこにたどり着きたいのか不透明なのだから、上陸して何がしたいのかわからない。
だからある時は港に上陸してくるが、またある時は砂浜に上陸してくる。それに対応するには沿岸全てに部隊を配置する必要があるから無理だということなのだろう。
確かに国連軍だけでは厳しいだろう。しかし、深海棲艦はどこに上陸するかわからないということはある意味彼らはどこに上陸してもいいということなのだろう。上陸するということに意味がある。
ならば、艦娘たちを使って誘導してやればいい。敵が上陸までなるべく接敵を避けるなら追い回して誘導してやればいいし、敵がこちらの艦隊を殲滅することを望むなら海岸にそって国連軍の攻撃可能範囲におびき出せばいい。
やってみたけれどうまくいかないのではなく、変わったことはしたくないからやっていない。今の状況から見るにそういう意図があるのだろう。
「これ以上戦犯にならないためですか?」
「ええ。」
批判を恐れる軍隊はもはや終わりだ。それは敗者の軍隊によくみられる。
逆境こそ軍隊が力を発揮せねばならないときだが、そこから逃走するような軍人ばかりではいつまでたっても改善しない。文句は山ほど出てくるが、自分もそこから逃走した一人ではあるのだ。
そんなことを考えていると、
「暴動が....」
モニターを見ている指揮官の一人がそうつぶやく。暴動?一体何のことだ。
「全員シェルターに!」
どういうことだ?まさかこれが起きるからシェルターに案内しようとしていたのか?
教官補佐を追いかけ司令部棟を出ると、大合唱が聞こえてきた。
「裏切り者に制裁を!残虐性こそ我らの武器!裏切りものに制裁を。残虐性こそ我らの武器!」
AaronMankind。敵が現れ司令部が混乱状態にある時を狙ってやってきたのだろう。
「いつもあるんですか?」
目の前で立ち尽くしていた教官補佐にそう聞く。彼は頷いたがどうも様子がおかしい。
「いつもは制裁どうのは言いません。艦娘を差し出せ。そんなことを言うんです。もしかしたら。」
嫌な予感は的中するようで、衝撃波と大きな爆発音があたりに響き渡った。
ヨーロッパ支部庁舎の二階部分が吹き飛んだのだ。
それを皮切りに一斉カルトによる攻撃が開始された。メインゲートを警備していた憲兵が殺されるとすぐに防衛連合軍は瓦解した。当然、ここにいる艦娘は研修に同行していた飛龍やほかの艦娘のみでロケット弾や機関銃で武装したカルトに対抗できる武装はない。
「武器庫はどこです?」
教官補佐にそう聞くが明らかにうろたえて、目の焦点が合っていない。
「移動するぞ!」
そう、研修生たちに声をかける。一部の研修生たちはすでに移動したようでそこにはいなかったが、教官補佐を引っ張り、装備開発棟に入る。試作の装備があるかもしれない。
「飛龍。とんでもないことになったが、人間を撃てるか?」
竹野からしてみれば別勢力に攻撃を受けている中、同族殺しなどしたくないのだが、秩序を破壊するカルトに慈悲を与える必要などない。
「多分大丈夫だけど。どうなってるの?」
飛龍はかなり冷静であるようで助かる。
「私にもわからん。」
竹野は電話を取り、二サエルに電話をかける。しかし、すでに通信網の破壊まで実行されたようでつながらない。
カルトの起こした暴動にしては手際が良すぎる。
装備開発棟の一階でしばらく息をひそめていると、教官補佐が正気を取り戻したようで
「ここの地下にシェルターがあります。そちらに移動を。」
そう教えてくれた。
「聞いたな。移動しろ。」
竹野はそう言うが、彼自身はシェルターには向かわずに飛龍と共に別行動を開始した。
どうにもシェルターにこもっているだけは解決するように思えない。
「何か使えそうな装備を探すんだ。」
一階には大量の工作機械や試作段階の装備が大量に並んでいた。
人間に扱える代物ではないが、飛龍なら行けるだろう。
「これなら頑張れば使えるかも。」
そう言って彼女は中口径の主砲を取る。
村上もおかれていた装備の中から使えそうな物を選び、護身用に誰かが隠していた拳銃も見つけ出した。
「よし、移動するぞ。」
二人は装備開発棟から静かに抜け出す。
基地敷地内はそれなりに広く、まだカルトがここまで到達してはいなかった。遠くでは通信設備が炎上しており、ヨーロッパ方面軍の指揮系統が完全に崩壊したことをありありと見せつけてくる。
竹野たちがさっきまでいた司令部棟にはロケット弾が大量に撃ち込まれ、半壊していた。
銃声が鳴りやむことはなく、戦車砲の音まで聞こえてくる。
本当にとんでもない事態に巻き込まれた。
ラッコエは難しい顔で部下と部屋の隅で隠れていた。
自分が何を間違えてしまったのか?司令長官に電話をしたことだろうか?
もしかしたら司令長官が何かミスを犯したのかもしれない。そんなことを考える暇があるなら現状を打破する方法を考えるべきなのかもしれないが。
「中隊長。司令部棟が半壊しています。通信網破壊もあり指揮系統が崩壊したものだと思われます。」
「わかった。無線のチャンネルをクーデター対応用のものに切り替えろ。」
そのチャンネルでは同じく憲兵隊でチャンネルの存在を知っている人間としか話せないが敵に場所がばれるよりはいいだろう。
「切り替えました。呼びかけますか?」
「当然だ。」
「こちら憲兵第十三中隊、over All Station over」
応答はない。この基地に駐屯している憲兵は30人程度だがその半数以上がメインゲートで射殺された。もしかした今も撃ち合っているのかもしれない。
「呼びかけを続けろ。」
部下にそう指示を出し、携帯用ドローンで偵察を開始する。憲兵隊の標準装備ではないが持っていてよかった。
偵察を行うと大抵は知らなければよかったと言いたくなるような情報が得られる。
今回も例外ではなかった。
敵は旧式の戦車20数台、重装備の歩兵60人、ゲリラのような軽歩兵が数百から千人程度だ。化学弾は少なくとも使ってきていないが、艦娘がいないのだから脅威は同じだ。
「中隊長!応答が!」
部下がどうやら呼び出しに成功したようだ。
「所属を聞け。」
「所属を名乗れ。」
「どうやら研修に参加していた一人らしいです。」
研修にきた新人提督、あるいは情報部員か?
「変われ。」
ラッコエは無線を受け取る。
「私は第十三憲兵中隊中隊長のオーマー・ラッコエだ。情報部員か?」
「情報部?いや違います。」
ならいったい何者だ。
「貴様何者だ?」
「南鳥島鎮守府の竹野です。新人提督は嘘ですが情報部とは関係ないです。」
南鳥島?新人でないとしてもなぜこの周波数を知っているのか?
「なぜこの周波数を?」
「危機管理意識が低いからです。国連軍の時と非常時のコードが変わっていない。昔はそれなりの役職にいましたから知っているんです。」
怪しいには怪しいが、少なくとも敵ではなさそうだ。
「わかった無線はこのままで待機してくれ。」
「copy」
怪しかろうが味方は多い方がいい。
艦これ今日で九周年。おめでとうございます。
今日で....九周年....です。
投降ペースを上げようとは頑張っているんですが、気に食わなくて全削除が最近おおくて、時間がないのも手伝って週二ペースが標準になりつつあって申し訳ないです。