堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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必然の一致

「そこまで不本意なことじゃあありませんよ。」

 

ニサエルを問い詰めても反応は薄かった。

彼はインスタントのコーヒーを入れながらめんどくさそうにしている。

 

「ムーン。君はそんなにめんどくさい人間でしたか?」

 

いつもなら二サエルが何をしようと自分を出すことはない。あくまで彼の駒に殉ずる。

しかしいくら何でも今回はそうはいかない。今回はすでに死者が出ている。それもヨーロッパ方面軍の幹部が相当数死んだ。

さらに通信網が破壊され情報が錯綜しているが、カルトによる防衛連合軍施設への攻撃が世界各地で起こっている。

にもかかわらずこの状況でも黙ってついて来いと言うのか?

 

「らしくない。君は薄情で冷徹でできれば個人的な関わりを避けたいタイプの人間だ。それでも制御不可の状況で高を括るような人間ではなかったはずだ。」

 

「制御不能?制御不能な事態であるのなら私が打つ手はどちらにせよありませんよ。」

 

いまだに制御下にあるということなのか?

それが強がりだとは思わないが、いま彼女の頭では二サエルが何を考えているのかわからなかった。

 

 

同時刻 フランス パリ

「了解しました。非常電源の扉の前で合流しましょう。」

 

ラッコエは素早く指示を出し、部隊の移動を開始する。

 

「アリー!憲兵第1中隊はどこにいる?」

 

「ノルウェーで提督殺しが発生してその対処に向かいました。」

 

ヘリボーン可能な特殊訓練を施した治安維持のための艦娘部隊。海岸にしかない鎮守府からではとても間に合わない事案に対処する即応部隊だが短距離の無線機ではとても呼びつけれそうにない。

 

「ならどこにならまともな部隊がいる?」

 

ラッコエは大規模暴動に対処できない防衛連合軍の体制を問題だとして上官に訴えたこともある。彼女は防衛連合軍が発生した事態に対処できないことがわかっていた。

恐らく攻撃されているのはここだけではない。ヨーロッパで自分たちを支持する人間などごく少数だ。

 

「竹野提督!合流は何分後ですか?」

 

「二分以内に合流ポイントに到着します。」

 

「アリー。合流次第この基地を出る。」

 

アリーはラッコエの言葉に驚いたようで、

 

「いや、しかし。私たちがここから撤退すればわが軍の威信にかかわります。」

 

「どこに威信がある?いいか、ここで私たちが時間を稼いでもわたしたちには抵抗する能力などない。」

 

「ここには艦娘がおらず、戦力がありませんが鎮守府なら別です。旧式の戦車数十台なら簡単に破壊できるでしょう。」

 

アリーは状況を理解していない。

 

「交戦規定を忘れたか?」

 

防衛連合軍には「いかなる場合でもヒトに危害を与える攻撃、あるいはそれに準ずる行動を禁止する。」そんな記述がある。

この規定を破棄する権限を持つ司令官はついさっき死んだ。通信網は破壊され、各鎮守府の責任者がこの攻撃に対応する必要があるが、恐らく誰も交戦規定を無視してまでも攻撃を実施しない。

AaronMankindは元防衛連合軍士官であっても自らに服従すればそれを受け入れる。

服従した彼らに、反人類主義者たちに騙された哀れな子羊として証言を行わせ、自らの正当性をより強固なものとする。それがAaronMankindのやり方だ。

それを多くの士官が知っている。責任問題となる同族殺しなど指示せず、彼らに屈服すればいい。

それを許さずに、抵抗しようとする勇敢な人間はこんな組織などとっくに見限っている。

 

「しかし。」

 

アリーはそれでも反論しようとするが

 

「ラッコエ中隊長ですか?」

 

それを遮り竹野がラッコエに話しかける。

 

「そうだ。竹野提督だな。まずこの基地に侵入してきたカルトどもを追い払う。」

 

「具体的にはどうやって?」

 

正攻法で勝てる量の敵ではない。飛龍にすべてやらせるとしても無理がある。

 

「恐らく敵はただの素人の集まりじゃない。通信網破壊に旧式ではあるが戦車を運用する能力すら持ってる。的確に第一射を司令部棟に打ち込んだ上に何の迷いもなく抵抗した憲兵を射殺した。元軍人あるいは、傭兵か何かだろう。」

 

可能性の話をするなら国連軍が匿名の志願兵を集めて人員を貸した。なんてことも十分あり得る。

 

「相手がプロならなおさらどうしようもないのでは?」

 

「たとえプロだとしてもこの基地内に地雷は配置されていないしこんな都市部で化学弾使用などさすがにあり得ない。」

 

「ならどうします?」

 

「まず、憲兵隊事務局に向かう。そこからヘリボーン可能な特殊部隊を要請する。」

 

通信網は破壊されているはずだが?

 

「通信網は破壊されてるはずですが?」

 

「私たちは憲兵隊だ。ヨーロッパ方面軍が司令部の命令を無視したとしても対応可能なように特殊回線を準備してある。違法な高出力通信機でヨーロッパなら大体どこにでも届く。」

 

味方こそ敵であるという憲兵隊らしい準備の良さだ。

 

「それでその後は?」

 

「基地制圧後、非常用回線でヨーロッパ全域に抵抗を命令する。」

 

権限がないのは百も承知だが仕方ない。そうでもしなければどれだけの艦娘が殺されるかわからない。

 

「先導は私が。」

 

アリーが先導を申し出て四人は進み始める。相手がプロであるため進軍はかなり慎重で未だに基地全体は敵の支配下に置かれてはいなかった。

しばらく進むと、後方支援隊が装甲車で区画を封鎖していた。

こちらに気が付いた部隊は装甲車の機関銃をこちらに向ける。

 

「憲兵第十三中隊のラッコエだ。」

 

ラッコエはそう叫び銃を上に掲げながらゆっくり物陰から出て前に進む。

 

「確認しました。」

 

装甲車の傍にいた士官の一人がそう叫ぶ。

それを確認して三人もゆっくりと物陰を出る。そのまま装甲車の傍に駆け寄ると

 

「状況は?」

 

そう士官が聞いてくる。

 

「メインゲートの憲兵は私たち以外全滅だ。ほかの部隊とも連絡が取れない。壊滅したか戦闘中かどちらかだろう。」

 

「わかりました。私たちも今は封鎖を続けますが敵に戦車がいます。シェルターからの引き上げが終わり次第シャルルドゴール空港から輸送機でローマの地中海支部に飛ぶ予定です。」

 

ラッコエは目を細め

 

「ローマは安全なのか?」

 

そう聞く。士官は答えて

 

「少なくともここよりか、うまくやっているはずです。」

 

比較的イタリアは防衛連合軍への怒りが小さい。自国の損益にそこまで関わっていないこともあるが地中海司令はかなりの穏健派でありヨーロッパでは数少ない有能な士官だ。

確かにここよりはましだろう。

 

「そちらはどうします?輸送機にはまだ空きがあるはずですが?」

 

「私は残る。ここを制圧してヨーロッパ全域に交戦規定の破棄を命令する。」

 

「司令部棟はすでに崩壊してますが?」

 

「問題ない。衛星通信車が北2番倉庫にある。そこを取り返す。」

 

「了解しました。しかし、通信設備はローマにもありますが?」

 

そう疑問を示す士官に対して

 

「権限が違う。司令部の権限を示すコードを送信できるのは司令部棟と倉庫の通信車じゃないとだめだ。」

 

と竹野も疑問に思っていたことを答える。

 

「わかりましたご武運を。」

 

そう言って士官は部下に合図を送りライフルを四丁もってこさせる。

 

「私にできるのはこれぐらいです。後は頼みます。」

 

「感謝するよ。」

 

ラッコエは手早く別れの挨拶をしてライフルを構え憲兵隊事務局へ向かう。しかし、すでに事務局のある総務棟は制圧されている様子で頭の後ろで手を組んだ事務員や士官がぞろぞろと連行されているのが見えた。

 

「竹野提督。狙撃できますか?」

 

ラッコエはそんなことを言い出す。アサルトライフルの一般的な射程は400メーター。銃の性能の話をするなら狙撃はできる距離だが中距離の狙撃にはそれなりの技能がいる。

 

「自信はありませんが。」

 

「なら私がやる。」

 

そう飛龍が言い出す。

 

「できるのか?」

 

何の違和感もなく英語で返すが、英語喋れたのか?

今までの会話を普通に聞いていたのか?意外だがこの際どうでもいい。

 

「なら頼む。」

 

飛龍の射撃の腕前は対空砲の命中率と言う参考にならない数値しか竹野はもっていないが彼女が大丈夫というなら任せよう。

飛龍は両足を開きべったりと地面に固定して射撃の姿勢に入る。

ラッコエは双眼鏡を除き射撃の機会をうかがう。

そこら中に銃声が響いており銃声だけでこちらの位置がばれたりすることはなさそうだ。

 

「右前方、黒の帽子の軽歩兵。距離は70。こちらのタイミングで射撃してください。」

 

竹野もその目標を見る。目的もなくふらついている様子だ。恐らく見張りだろう。近くに車両がいるが動きからしてもうじきどこかに行きそうだ。

 

「よし。撃て。」

 

車両が離れ、ラッコエが射撃の指示を出す。飛龍の撃った弾丸は軽歩兵の頭を撃ちぬく。

軽歩兵はその場に倒れるがそのそばに駆け寄る敵はいない。

 

「やっぱりな。敵には占領状態を維持できるだけの数はない。ここにきてるのは寄せ集めのカルトじゃなくて訓練された少数の精鋭部隊だ。」

 

たかがカルト。そうは言えなくなってきた。各地で鎮守府に攻撃を仕掛けているのはカルトの信者だろうが、このカルトには別の顔があるのだろう。

 

「よし前進するぞ。」

 

軽歩兵の脈を確認した後基地内の道路を横断して総務棟に向かう。総務棟の入り口が見える草むらに入り再度索敵をする。

 

「建物内にいる敵は分かりませんが入り口の二名以外には敵は見えません。」

 

「この距離で撃てば中にも敵がいたらさすがにばれるんじゃない?」

 

飛龍がそう言うがまさにその通りだ。

 

「事務局は何階ですか?」

 

ラッコエに聞くと難しい顔をして

 

「一階だが中央の左寄りの部屋にある。」

 

ヨーロッパ支部には平べったい建物が多く、いくら一階であっても中央の部屋であるならそれなりにリスクが高い。

 

「飛龍。いざというときは撃て。ラッコエ中隊長、来てくれますか。」

 

そういいながら竹野はライフルを置き拳銃のチェンバーを確認する。

 

「了解した。」

 

ラッコエも意図が分かったようでライフルを置き軽装になる。

そのままハンドサインで建物に近づき窓を開ける。総務棟は重要度の低い施設であるため一階の窓に鉄格子がついていたりはしなかった。

竹野はペーパーナイフを握り建物内に入る。小部屋に入り耳を澄ませると足音が二、三聞こえる。

足音から距離を計りペーパーナイフに相手の目に光が当たらないように注意しながら相手の影を反射させより正確な動きを探る。

一階には廊下が三つありしばらく待機が続いたがようやく敵が現れた。

こちらを向いていないことを確認してからみると、軽装歩兵がそこにいた。

装備の質に合わないほど落ち着き慣れた様子で廊下を歩いている。

竹野は背後から近づき脇に手を入れ締め上げる。持っていたハンカチを敵の口に押し込み黙らせてそのまま締め落とす。音を立てないように引きずり、空き部屋に放りこんでおく。

ラッコエはその隙に無線を取りに行ったようで

ハンドサインで撤退を示す。

その指示に従い建物を出る。出た後もラッコエは静かに位置を変えようやく口を開く。

 

「いってなかったがかなり強力な電波が出る。もしかしたら敵に検出されるかもしれない。」

 

と今さらなことをいう。

 

「1000wでもあるんですか?」

 

冗談めかしてそういってみるがラッコエの持っている無線をみて竹野は絶句した。

現代では考えられないぐらい巨大なバッテリー付きのごつい無線だったからだ。

 

「いや、1500wだ。」

 

そこまでワット数があるとなると大概の電子機器に不具合が出るだろうし携帯型の電子戦装備と思われても仕方ない。

 

「今さらですよ。手早く通信を終わらせましょう。」

 

ラッコエは頷いて電源を入れる微かに感じ取れる程度の高音が聞こえ無線は起動する。

アリーが周波数を合わせると

 

「all station this is siteQ2 over」

 

siteQ2そんな呼称は初めて聞いたがHQの略だろうか。ヨーロッパに2が割り当てられているのも不思議な感じだ。

 

「siteQ2? OK. This is Zule14 この回線は秘匿回線だぞ。それにsiteQ2は陥落したとの報を受けている。」

 

そんな叫びが聞こえてくる。どうして秘匿回線など知っているのか?この女何者だ?

 

「Zule14、私は憲兵第十三中隊中隊長のオーマー・ラッコエです。力を借りたいんです。」

 

「きみ出身はどこだ?」

 

最初は迷惑そうな声だった男の声色が変わる。

 

「ブルガリアのバルナですが?」

 

「確認した。暗号化されていないから詳細は話せないが今そっちに向かってる到着は四十三分後だ。」

 

どういうことだ?

 

「待ってくれ何者だ?」

 

「マーズですあの会議ぶりですね。村上さん。説明不要でしょう。そういうことです。」

 

無線越しにもいたずらっぽくしゃべり不快感を与えるのは一種の才能だ。

やっぱりそうだ。二サエルが手を回している。

 

「ラッコエ、権限コードは受け取りましたか?」

 

「ええ昨日。」

 

権限コード?

二サエルは司令部が混乱状態に陥ることも各鎮守府が自発的に行動しないのも織り込み済みなのか?

であるならばどうしてあらかじめこの混乱を防がないのか?

謎が山ほどある。

 

「「聞きたいこととが山のようにあります。」」

 

必然といえば必然だが面白いほどラッコエと竹野の声は重なっていた。

 

「真実の探求よりも今はここからとっとと立ち去ることを考えてください。」

 

アリーと飛龍は大急ぎで無線をしまい移動を開始していた。

竹野とのラッコエも急いでその場を後にする。




お久しぶりです。次の投稿は五月五日予定です。ゴールデンウイーク中は毎日投稿したかったけど無理でした。
最近は落ち着いて大して忙しいわけでもないんですけどね。だらけてちゃ駄目だね。
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