急いで移動を開始した一行だったがそれでも遅かった。
強力な電磁波はすぐに検出され場所も簡単に特定されていた。軽歩兵数十人が駆け付けた。
竹野は区画を分ける低木の陰に隠れながら応戦する。
「飛龍、カバーしてくれ。」
そう言うと飛龍は敵から見える位置に飛び出し、機銃掃射を受け止める。
小口径の機銃で傷がつくほど艦娘はもろくない。
マズルフラッシュで敵の位置を正確に把握し、一発で仕留める。
しかし、銃撃戦をしていれば、いくら銃声が鳴り続けている基地内であっても増援がやってくる。
その増援とまた銃撃戦をする。それではいつか対応ができなくなるのが目に見えている。
「ラッコエ!何とかならないか?」
低姿勢でライフルを構えながらゆっくりとラッコエは後退している。
「このまま後退してデータセンターに入る。あそこなら頑丈だしコードを知っている人間じゃなければ入れない。」
竹野がラッコエの後方を見るとバンカーのようなものがあった。
「了解。カバーするから開錠は頼む。飛龍!開錠中のラッコエの前に立って彼女を守れ!」
「了解。」
駆逐の主砲で建物ごと敵を吹き飛ばしながら彼女は答える。
負けじと竹野、アリーも攻撃を続ける。
しかし、主砲を撃ったのがまずかったのか戦車の音が近づいてくる。
「ラッコエ早くした方がいい。」
そう声をかけると
「ならカバーして!」
彼女は叫びながらバンカーの前の物陰から射撃を続ける。
攻撃の激しさが増している。状況の打開策がないと、このまま押されるだけだ。
「飛龍!信管をセットして適当な方向に砲弾を投擲しろ!」
射撃音がならなければ遠くからの攻撃だと錯覚する。それで警戒が分散してくれれば一瞬だが、時間稼ぎにはなるだろう。
「よくわからないけど了解。」
飛龍は砲弾を適当に数発投げる。遠くから聞こえてきていた戦車の音が一時的に止み歩兵による攻撃も若干薄くなる。
その間に竹野とアリーはグレネードを投げる。基地内の道路が破壊され土がむき出しになる。
ここ数日パリがどんな天気だったのかは知らないが幸いにも土は乾燥していた。
その土を射撃して砂埃を舞わせる。意図を把握した飛龍はラッコエを物陰から引っ張り出しバンカーの扉に導く。
そして彼女に覆いかぶさるかのようにバンカーの壁に手をつき盾となった。
砂埃が徐々に晴れ混乱も収拾して再び射撃が再開される。だがそこにはもう誰もいなかった。
「センター。こちらオスカーチーム。目標を喪失。敵は三人と一匹だ。練度は高い。部隊の半分がやられたこっちに人を送ってくれ。」
「オスカー。こちらセンター。増派の要求を受諾した。それと今後の指示を出しておく。」
「まて。部下の無線をすべて回収していない。周波数変更を要求する。」
「了解変更する。AllStation 周波数をグループ4Bに変更せよ。」
バンカーの中で聞き耳を立てていた三人と一匹は残念そうにする。
「まあいいさ。これはカルトの暴走じゃないことの証拠になる。」
ラッコエはアリーの方を見る。
アリーは手に持っていいたボイスレコーダーを振りにやりと笑う。
「それで。これからどうする?」
竹野は首を右、左、とかしげて見せる。
「これからすることは簡単だ。二サエル司令長官が連れてきた謎の部隊で基地を奪還。その後ヨーロッパ全域のカルト制圧を命令するだけだ。」
その命令だけで提督たちがAaronMankindに抵抗してくれるとはどうにも思えない。だがそれを信じる以外にほか方法はない。
「君は二サエル司令長官を知っているのか?」
ラッコエはそう聞いてくる。
「何度かあったことがある程度です。」
「そうか。なら聞くが、味方に裏切り者がいるとわかった上でいかにも怪しげな研修を実施するほど無能なのか?」
「どういうことです?」
確かに突然、研修だと言われてヨーロッパに呼び出されこのざまだ。当然二サエルが何かしら仕組んだことは間違いない。だが裏切り者とはどういうことだ?
「私は一週間前、司令長官に電話をかけました。AaronMankindと通じている幹部がいると。名前はアーサー・マクドネル。かなりの権限を持つヨーロッパ方面軍トップ5には入る男です。」
「どうして裏切り者だと?」
「まず問題となったのは定期の精神鑑定でした。彼の考え方に少し危うさが見えました。私はすぐに彼を調べましたが、彼は幹部で私はただの憲兵でしかない。当然のように憲兵隊は彼の異常な行動を黙認しました。」
「それで何がわかったんです?」
「証拠はありませんでした。彼の行動記録は改ざんされていた。けれど彼はすべての下士官にまで影響を与えていたわけじゃない。それにかかわる人間が多くなればそれだけ秘密が露呈する可能性は高まる。だから下士官への尋問で何回かの不審な外出を確認できた。その外出の日と、情報屋から入手したAaronMankindの集会のあった日が完全に一致した。さらに、情報屋に調べさせるとAaronMankindにはKingと言う名を持つやけに防衛連合軍の内部事情に詳しい信徒が確認された。」
アーサー王からとったのだろう。
「でも顔を確認すれば簡単なのでは?」
「一般的な集会とは別の暴力の実行者たちの集会がある。そこでは思考以外の情報を排除して人間の精神のみで対話するために顔はマスクで隠す。彼が所属していたのはそこだ。そう簡単な話じゃない。」
暴力の実行者達。汚れ仕事を請け負う真の意味でのヒトとでも言いたいのか?
「それで、そのアーサー・マクドネルは今日はどこにいたんだ?」
「居場所が確認できていない。」
まさかこの基地に来ていないのか?そうであるならば、ほぼ確実に裏切り者だ。あまりに偶然が多すぎるだろう。
「それで君から見て二サエルはどんな人間に見えていた?」
「彼を裏切りや謀略で出し抜くのは相当困難です。彼は元情報部で恐らく戦争前からどこかの国の情報機関で働いていた。彼は意図的に捜査が行われていることをほのめかしたという事でしょう。」
「なら司令長官も裏切り者だと?」
「その可能性は低いでしょう。仮に裏切り者だったなら貴方を適当な理由で除隊させればいいだけだ。」
「私が吹けば飛ぶような人間だと?否定はできませんね。」
けれど二サエルらしくないというのが、率直な感想だ。
彼は基本的に目立つことを嫌う。何もかも闇の中で済ませるタイプの人間だ。裏切り者を泳がせ逆にAaronMankindに損害を与えることも容易いだろう。
「彼ならもっとうまくやる方法を持っている。」
「にもかかわらず、強硬手段を取ったということは時間がなかったからか?」
「あるいは彼にとっては強硬手段ではなかった。」
「いやどう見ても強硬手段だろ。慌てて蜂起したカルトを特殊部隊で攻撃しようとしているんだぞ?」
「いや。私たちとは目指す地点が異なるなら強硬手段でない場合もあり得ます。」
「司令長官は単純に裏切り者を排除しようとしているのではなくカルトの壊滅を狙っていると?」
「つまりそう言う事です。」
傭兵すら持っている自称宗教を壊滅させるのに特殊部隊を用いるのはそこまで無茶苦茶なことではない。
しかし、たたけば叩くほど宗教というものは勢いを増す。本当に彼が宗教の壊滅を狙っているならそれはそれで別の方法を取るのが自然で二サエルらしい。
「連絡から四十二分が経過。部隊がそろそろ到着しているかと。」
アリーそう声をかける。ひとまず余計な考えを捨ててて再び銃を構える。短距離の無線の周波数を合わせると騒がしい会話が聞こえてきた。
迷走する竹野の思考。
困惑する作者の頭。
なぜか作者より頭がいい二サエル。
どういうことなの.....?
でも、結末は決まっているので、困惑してても作品があらぬ方向に飛んでいくことはありません。安心してください