堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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鎮魂

「散開!降下速度を保て。先遣隊はsiteQ2着地ののちに威力偵察を実行。終了後、ランディングエリアを確保しろ。」

 

「了解。ランディングエリアは予定通りで変更なし。」

 

風きり音がしばらく聞こえた後、銃声聞こえてくる。

 

「先遣隊より本隊へ。敵戦力の脅威度は低。敵の戦車の撃破も容易。」

 

彼らの声には恐ろしい程抑揚がなかった。特殊部隊と言っても戦闘時には興奮した声になる。威力偵察をしている艦娘らしき声も、空を飛ぶという本来人間に与えられなかった力を行使している人間の隊員の声にも抑揚がない。

冷静であろうとするよりも何か決定的に感情が損なわれているようにも見える。

改めて二サエルと自分では住む世界が違うことを意識させられる。

 

「了解した。速やかに敵の脅威を排除しろ。こちらは作戦の第二段階を実行する。」

 

まただ。またこの違和感だ。

竹野では影響を及ぼすことが出来ない何かが進行している。

それはもはや疑いようのないことだ。昔の様に彼は純粋で味方に見える何かがいつも味方であるとは思っていない。

同時に自分の無力さについてもいやというほど知っていたが。

 

「copy 速やかに増援含めて排除する。」

 

そろそろ頃合いだろう。

 

「こちらも動きましょう。」

 

竹野はそう言ってライフルを構えなおす。飛龍を先頭にバンカーの外に出る。

敵は降下してきた部隊と、激しい銃撃戦を行っているようで捜索部隊はすでに付近にはいなかった。

 

「こちらはラッコエ。そちらの部隊の場所は。」

 

「降下地点は総務棟から東に五十メーターの地点だ。」

 

すぐ近くだ。銃声もすぐ近くから聞こえてきていたからそんな予感はしていたが。

物陰を移動してしばらくすると先遣隊と合流した。

傭兵とは明らかに異なる恰好をしていた竹野たちを見た先遣隊たちは竹野たちに何か声をかけることもせずに傭兵たちの方に向き直り攻撃を再開する。

竹野たちも重く邪魔な無線を置き、攻撃を開始する。

傭兵たちは異常な耐久力を持つ艦娘にダメージを与える手段を持っていなかった。一方で艦娘からしてみれば旧式で純粋な通常弾しか打てない戦車など今日ですらなかった。彼女らは戦車砲の数倍はある口径の弾丸を十分に耐えることが出来るのだ。ただの遅い目標でしかない。

先遣隊は慣れた手つきでライフルと大口径の砲を持ち換え戦車を撃破する。積みあがった戦車の台数はラッコエが確認できている戦車の半数をすでに超えていた。

 

「排除完了。敵増援に警戒しながら速やかに着地を。」

 

その数秒後。腰に巻かれたジェットを噴射しながら数十名の女と数名の男が降りてくる。

女の方のほとんどが艦娘だろう。体形意外に彼らを識別する方法はなく、マスクの中に隠された艦娘たちの顔を予想するしかなかった。降下してきた数十名円形に展開して警戒を始める。その中で数名は警戒することなくこちらに近づきながらしゃべりかけてくる。

 

「オーマー・ラッコエだな。私は情報部強制捜査班のエージェントフォボスだ。通信車までエスコートする。」

 

そう言うとフォボスはハンドシグナルで手早く指示を出す。

その指示がどのような結果を生むのか竹野にはわかっていた。

 

「飛龍。制圧は彼らに任せて私とラッコエ中隊長の支援に回ってくれ。」

 

だから彼らから飛龍を引き離す必要があった。

 

「わかった。」

 

素直に飛龍の声には疑念はなかった。

それでいいのだろう。知る必要のない世界。竹野には知りたくもなかった世界の住人と同じことをする必要などない。

 

 

私は何なのだろうか。

そんな疑問に意味がないことなど理解している。だがどうして私の前にいるのは深海棲艦と言う分かりやすく、思考を放棄して対峙することができる敵ではないのだろうか?

なぜ話し合える敵を無言で撃ち殺す任務についているのだろうか。

いや、違う。なぜ、許しを乞うことしかできない子ウサギを一方的に撃ち殺しているのだろうか?

彼らの持つ豆鉄砲では特注の戦闘服を貫通させるにも不十分だ。

一方でこちらの携行している対戦車弾の前には旧式の戦車の装甲など無意味だった。

搭乗員は即死し、貫通した破片が洗車の裏に隠れている兵士をも殺害する。

彼らには勝機などない。たとえ彼らが今の戦力では不十分だと気がついて化学弾でこちらを攻撃しようとしてももう遅いのだ。

今回の現場ではどれだけ死体を積み上げればいいのだろうか。

 

 

飛龍は目を見開き驚愕していた。どうして竹野が自分を彼らから遠ざけたのかようやく理解したようだ。

彼らの銃口の先にいたのはもはや屈強な兵士たちではなかった。

少なくともつい数十分までは彼らは自分たちにとっても脅威であった。

人間である竹野やラッコエは当然だが、艦娘である飛龍にとっても接近を許せば拘束される危険が十分にある脅威であるはずだった。

しかし、彼らの士気は目に見えて下がっていた。一瞬で撃破される戦車に、銃弾では一切ひるまない艦娘。それだけなら、彼らは抵抗を続けただろう。

しかし、その艦娘は自分たちの知っていた存在ではなかった。一切の躊躇なく人間に向けて発砲しゆっくりと距離をつけてくる彼女らに、彼らは震え上がった。

さっきまで軽口を言っていた兵士の首から上がなくなっているのだ。戦場はそんなものだ。彼らは当然戦争を知っていた。

だが決定的に戦場と違う事があった。こちらがいくら自分を鼓舞して味方のかたきを打とうと抵抗しても最終的な結果は同じだった。

戦闘というのは致命的に能力後異なる二者の間には発生しない。そこに発生するのは虐殺か、あるいは...押し付けられた平和だけだ。

 

「哀れな人間だ。」

 

降下してきたフォボスがそう言う。

 

「あなたが指示を出さなければこの事態は避けれたのでは?」

 

竹野は当然反論した。それが無意味なことだとわかっていたが。

 

「彼らは情勢を読み間違えた迷える子羊だ。軍に見捨てられ、各地で発生した内戦に加担して腹を満たし、そのせいで必要もない死者を出した。亡霊だよ。彼らは戦争と紛争から逃げられない。二度と表舞台に立つことはない。」

 

艦娘の出現により急速に進められていた軍拡は停止。配備予定で訓練中だった人員はおろか大規模なリストラまで実施された。人類は深海棲艦の勢力拡大停止を引き換えに大量の失業者生み出した。

失業率はEU内での失業率は21%と言うとんでもない数値に達した。

そこで、どうしようもなくなった先進国はまたもアフリカを踏み台にした。内戦に傭兵を送り付け自国民の雇用をいびつな形で確保したのだ。

アフリカへの侵攻が開始されてからも内戦は続き国連軍は複数の勢力から攻撃を受けた。

沿岸部を失ってもなお内戦は続いている。

 

「あきれるほど自分勝手な奴らですが、もとと言えば深海棲艦と闘おうとして軍に志願した前途ある人々でしょうが。」

 

フォボスのマスクの中の表情がどう変化しているのかわからない。少なくとも同意を示しているようには見えなかったが。

 

「選択を間違えた弱者を救うほど今の世界には余裕などありはしない。」

 

冷たい言葉だがそれは事実だった。彼らがここで生き残っても未来などなかった。カルトは使い捨ての駒のために危険を犯しはずがないし、国連軍にとっては国籍を持たず情報の上では死をなかったことにできる移民と言う資源のほうが有用だった。

彼らを守るべき政府は社会福祉などとうの昔に捨て去っている。

間違いを許容できない世界で彼らは間違えてしまったのだ。

 

「彼らの遺体はどうなるんです?」

 

「さあ。私たちは遺骸に興味などない。埋葬したいならそうすればいい。」

 

フォボスはそう言うと竹野から離れて部下からの報告を受ける。

戻ってくると彼は

 

「道ができた。護衛するからついてきてくれ。」

 

竹野はうなずいて彼に続く。

その”道”の境界を示すのが血でなければ優雅なパリの道なりだったのかもしれない。

恐らく人だったのだろう肉塊があたりには積みあがっていた。破壊された炎上する戦車からは人間を焼いたときに出る強烈な刺激臭が漂っている。

強烈な匂いに頭がくらくらしてくる。

鼻にも目にも悪い”道”を抜け倉庫の前にたどり着く。

そこでようやく気がついたが遠くにも煙が上がっているのが見える。ヨーロッパの秩序は破壊されていた。

 

「とんでもない方向にことが進んでいるようですが?これも司令長官の想定通りだとでも?」

 

フォボスはただ

 

「われらはパーツであって、彼の友人ではない。指示を忠実に守ることだけがわれらの誇りだ。」

 

そう言う。不気味な忠誠心を示した男はただ静かに重厚な倉庫の扉をマスクの奥の瞳で見ていた。




ウクライナ侵攻のせいであまり過激な描写ができないのがつらいところです。
一刻も早く両者の和解が成立することを祈っております。

失業率を41%から21%に変更しました。いくら何でもEU圏の数億人が失業者だともはや無政府状態と似たようなことになってしまうことに気が付きました。
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