堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

3 / 62
単純な関係

扉からとびかかってくる龍田を捉えた竹野はすぐに回避行動に移る。久しぶりに体を動かすため不安はあったが、龍田の第一撃を何とか竹野は受け流す。しかし艦娘が本気でかかってくるとさすがに命に関わる。さらにこの狭い執務室内に逃げ場はない。幸いにも龍田の戦い方は力任せの素人のそれだった。

龍田の攻撃を読みうまく蹴り飛ばして窓から外に放り出す。

たとえ艦娘と言えども二階の窓にジャンプして登ることなどできない。少し外で頭を冷やしてもらおう。

考えるに戻ってこない天龍を探しに来たら裸で泣いていた。状況だけ見れば勘違いが生まれるのも無理はない。

そして俺の息の根を止めに来たそんなところだろうと、考えているとまた龍田が部屋に飛び込んでくる。

うまく拘束して話ができるようにしたいがこの狭い部屋で暴れられると避けるしかない竹野の分が悪い。そこで竹野は窓から飛び降りて外に出る。そんな竹野を見た龍田は

 

「ふふ。いい度胸じゃないの。流石に着任したその日に手を出すだけのことはあるわ。」

 

そう言う。口では穏やかに言っても口以外のあらゆる部位から殺意がにじみ出ている。

 

「誤解だと言っても止まる気はないか?」

 

「当たり前でしょう♪」

 

龍田は全く声を荒げない。怒りを押し殺し冷静にふるまおうとしているように見えないこともないが、ただ怒りの表現が普通と違うだけだと頭が無慈悲に告げてくる。

天龍が誤解を説いてくれるとありがたいのだがあの様子ではまともに声がある出るまでにかなり時間がかかるだろう。

全く予想していなかった天龍を拘束するのと戦闘態勢の龍田を相手にするのではわけが違う。

龍田は微笑みながら窓枠を越えて飛び降りる。そして真っ直ぐこちらに突撃してきた。

竹野は攻撃を何とか躱すが当然艦娘と人間ではあまりに基礎身体能力が違い相手にならなくなるのも時間の問題だった。

ただでさえ劣勢であるにもかかわらず龍田はどこからともなく槍のようなものを取り出す。

龍田が飛び槍を振り下ろす。竹野は横に跳び回避する。すると振り下ろされた槍は横に水平移動して竹野の足を狙う。竹野は振られた槍を踏みつけ動きを止める。

槍を引き抜こうとする龍田の動きに合わせて足を離す。バランスを崩した一瞬の隙をつき一気に距離をつめるが龍田は槍を捨て後ろに飛びのく。

竹野は槍を持ち上げるがあまりに重すぎてとても人間に扱える代物ではない。

 

「やはり話し合う気はないか?」

 

「話し合う?そう言って天龍ちゃんをあの部屋に?天龍ちゃんはおバカだからそれでよかったかもしれないけれど私はそんな甘くないわよ。うふふ。」

 

彼女が私を見るとき、大前提としてのこちらがクズだとして話が始まる。

そこにあの状況を見られたのだ。何を言っても聞きはしないだろう。怖い笑顔を浮かべた龍田が動く。

艦娘の異常な身体能力で竹野との距離を詰めてくる。

龍田に腕をつかまれないように注意しつつ龍田を受け流す。軽巡だったからよかったもののこれが戦艦だったら受け流すことなどできず攻撃が当たった時点で終わりだろう。しばらく攻撃をかわし受け流し続けていると若干龍田から焦りを感じる打撃がやってくる。

竹野がその数少ない状況の打開手段を見逃すはずがなかった。

訓練されているわけでもなかった龍田の攻撃は元々隙が大きくその上に焦った龍田は大きく振りかぶり勢いよく打撃を放った。竹野は龍田の打撃を逆に自分向けに引き寄せる。

完全にバランスを崩し左足を前に出して体制を保とうとするがその足を竹野は蹴り上げそのまま地面に押さえつける。龍田を窓からけりだし彼女が戻ってくるまでに掘り出しておいた憲兵用の手錠で彼女を拘束する。いくら馬力があるとはいえしっかりとした拘束具があれば軽巡程度であれば一人でも拘束ができる。

 

「話を聞いてくれれば、こうはならなかったんだぞ。」

 

竹野は拘束した龍田を執務室まで運ぶ。執務室に来ることには龍田も抵抗を諦めて静かになっていた。

扉を開けると天龍が大人しく座っていた。目元は腫れまたすぐに泣きそうな顔をしている。

この頃には竹野は疲れ切っており話し合う気にもならなかった。

 

「私はひとまず今日は寝る。龍田も私の言うことなんか信用しないだろうから二人で話し合ってくれ。おやすみ。」

 

可愛そうだが龍田は拘束したままにしておく。天龍も龍田も喋りはしなかった。龍田も自分が拘束された後何もしてこなかった竹野を見て本当に誤解であったということを何となくわかっていた。

だがどうして天龍が泣いていたのかを、教えるように催促するのは酷なことだと思ったのだ。静かに夜は更け龍田は縛られたまま夜を明かした。

 

 

酒の力を借りることなく熟睡できた朝。爽快な気分で竹野の着任二日目が始まった。

そんな気分も執務室に入るなり縛られた少女と泣きつかれて寝た少女がいたせいで吹き飛んだが。

竹野は二人に適当な毛布を掛け書類仕事に戻る。

結局二人が起きたのは昼を過ぎてからだった。先に起きた龍田は自分の衣服の乱れ具合や股の様子などをしきりに気にしながらこちらを警戒していたがしばらくすると拘束を解けと目で言ってきた。

 

「暴れるなよ。」

 

そう言うと龍田は素直に頷いた。手錠を外すと天龍を担ぎ槍をまたどこかに仕舞い部屋を出ていく。

その日の提督執務室への来客はそれが最後だった。

静かに業務をこなせるのはいいのだがあまりに活気がなさすぎて少し悲しくもなってくる。改めてとんでもない鎮守府に飛ばされてしまったものだと嘆く。

そうしてまた二日ほど経ったがついに艦娘の協力なしではどうしようもない事態が発生した。

不足した資材を司令部に要請したのだが護衛はそちらで出せといってきたのだ。出撃する資材がないから補給を頼んだのにおかしな話だ。

だがそういわれては仕方ない。竹野は軽巡の宿舎に向かい天龍を探した。現時点では一番協力してくれそうだからだ。

阿武隈や由良にごみを見るような目を向けられたが当の天龍は先日の出来事がなかったかのように出てきた。

 

「おうなんだ?」

 

「司令部が補給船の護衛をこちらで出せと言ってきた数人見繕って来てくれないか?」

 

「自分でやれよな。」

 

そんなことをいつつも流石に悪いことをしたという意識はあるようで渋々受け入れてくれた。

 

 

天龍は今の提督と少しずつなじめそうだ。私も人間を信じたくないわけではない。けれど、今まで出会った人間が悪すぎて基準がおかしくなってしまった。

今の提督はよく分からない。単純で明快な艦娘と提督の関係。提督に求められれば体を貸し命令されれば戦場で死ぬ。

何故か?提督が命令しなければ私は生まれることすらなかった。単純なはずだった。少なくともいまの状況よりは。

人間も艦娘も生物であり私たちは人間のメスに類似している。だから慰安婦も兼ねるのだ。当然のことだと思っていた。

でも今の提督は天龍の裸を見ても何もしなかった。意味が分からない。合理性に欠ける。

私は当然解体されると思っていた。だが彼は私のことを無視して資源の輸送について悩み、奔走している。そんなことをして何になるのか?

護岸の上を歩きながらぼそぼそとつぶやく。

 

「海を取り返す。もとから人間のものでもないのに傲慢。」

 

「そうかもしれない。海は誰のものでもない人間の引いた線で決まった領海も排他的経済水域もほかの生物にとっては何の意味もない。同じように深海棲艦のものでもない。人間は海を支配したがっているがそんなの無理だ。」

 

どうしてか提督がそこにいた。

 

「なぜ私のところに?」

 

「さっき天龍と話したんだが、少しでもあの勘違いを申し訳ないと思っているなら資源輸送の護衛を頼みたいとおもってな。」

 

私の求める分かりやすい関係だ。私は彼には協力するべきだし、彼は私に協力を要請するに足る理由がある。

 

「あなたは提督で私たちの所有者でしょう。命令をされれば私たちは聞くわよ。」

 

竹野は渋い顔をして

 

「君のその言葉と先日の行動は矛盾しているように思うが?」

 

「私は別にいいのよ。でも天龍ちゃんはここの鎮守府には珍しい純粋な娘だから。」

 

「そうか。それと一つ訂正だ。命令はできるが君たちは厳密には誰の所有物でもない。」

 

「私たちを生んだのは人間よ。提督たちの命令で建造されたのよ。」

 

その建造をやってのけているのは妖精たちであり人間の手がおよぶ範囲ではない。難しい問題だ。軍の中でもいまだ意見が分かれている問題でもある。

 

「人間がどうやって生まれてくると思う。」

 

龍田は嫌そうな顔をする。

 

「少なくとも気が付けば生まれているなんてことはない。人間の子供は保護の対象だが親の所有物じゃない。親の意思がなければ生まれてこなかったにも関わらずな。」

 

それを聞くと龍田は不思議そうな顔をして

 

「ならば私たちがあなたの命令に従わなければいけない根拠は何なのかしら。」

 

「君たちは軍人で私は君たちに仕事を強要することも出来るかに思える。だがな、実際はそうじゃない。私には君を自由に操る権限などない。しかし、君が私の指示を無視して被害を出せば軍法会議で裁かれる。そこで君は除籍処分を受けるかもしれない。だから君は自分を守るために私の命令に従わなければいけない。しかし、私が君の上司であるから肉体関係を強要したとしても、それはただの軍規違反だ。そうなれば裁かれるのは私の方だ。上下関係は社会的かつ経済的圧力によって維持されている。だから昔の君の上司が行っていたことはわかりやすい関係でも何でもない。ただそれっぽい御託を並べただけのいびつな関係だ。そこには何の拘束力もない。憲兵隊が機能してればの話だがな。」

 

「そうはいっても上司には私の人事を決める権限がある。私を解体するのも異動させるのも自由。犯すのも殺すのも自由。そうじゃない?」

 

私たちの命は必要性に駆られて生み出されただけの命。人類の脅威に住まうしかない寄生虫。散々言われた。どれも妙な説得力があった。人類は戦争さえなければ私たちを必要としなかった。それは間違いない。

 

「残念ながら君たちは普通の軍人以上に縛られているのは確かに事実だ。軍が君たちを見捨てれば君たちは生きていけないだろう。だからと言って痛みを持っている艦娘の命も尊厳も、もてあそぶべきじゃない。」

 

艦娘には国籍も人権もない。彼女らを守っているのは軍規と憲兵隊だけ。

 

「なら貴方はこの戦争が終わって私たちが要らなくなった時、味方してくれるのかしら?」

 

軽々しく「もちろんだ。」とでもいうのだろう。龍田はそう考えたが竹野の言葉は違った。

 

「少し話がおかしい方向に向かっている気がするな。君たちが権利を望むのなら可能な限り協力する。だが君たちが既存の人類の社会を破壊して人類から権利を奪い取ろうとするなら敵対せざるを得ない。そうならないためにもこの戦争の行きつく先が見えたら私は行動するよ。」

 

「そう。」

 

人類が私にはわからない。

私たちがいなければ深海棲艦にとって食われる勢力なのになぜか私たちに対しての当たり前のように暴力を振るい私たちを奴隷のように酷使する。

一方の私たちは少なくとも危険に見合う対価を何も受け取っていない。だから彼らに従う理由などありはしない。龍田がそう考えているとそれを見透かしたように

 

「君はこう思っているんだろう?私達が人類を滅ぼしてこの星の盟主になり替わり人類を奴隷化できるのではと。」

 

と竹野は言う。なぜ司令官に従うかという話の根幹には人類と艦娘の戦力差があるのだと、なんだか誘導されているようで不快だ。誘導するならわかり切ったこんな疑問に何故誘導するのか?

 

「人類と艦娘が戦えば艦娘が勝つでしょう?」

 

竹野は予想していたと言った顔をしていた。

 

「君たちのその素直さが人類に勝てない理由だ。単純な戦力、個々の戦闘能力。それでみれば確かに艦娘のほうが強い。でもな、人類は凶悪な残虐性と狂気的な戦術を使って最終的に艦娘を皆殺しにできる。それこそたった一人の艦娘を殺すため町を一つ吹き飛ばしてでも戦闘を続けるだろう。」

 

龍田はばかげていると反論しようとした。でもそんな気も失せた。この鎮守府が人類のほうが精神的に優位であると証明しているようなものだったからだ。

ここにいる艦娘は世界各地で様々な上司に精神的、物理的苦痛を与えられても誰一人として上官を殺した者はいない。

過去に上官を殺した艦娘はたった一人。彼女は解体されることなくどこかに連れていかれ消息を絶ったらしい。

 

「でも安心しろ。今の人類は文明を作って理性を持って野生を捨て去ろうと努力してる。君たちが人類の文明を破壊しない限り問題はない。それに内地の艦娘は本当の意味で人類と共存する形を模索している。それは、わかりやすい関係ではないがな。」

 

龍田はこうも本音というよりも暴露と言った方がいいのかもしれないがバッサリと話す司令官には初めて会った。

この司令官が善人であるかはどうでもよくなった。自分が牙を向けない限り彼が自分たちに牙を向けることはあり得ない。

たとえ牙を向けたとしてもそう簡単に彼を弱らせることなどできない。そう思った。

 

「資源輸送の護衛に行けばいいのね。了解。」

 

「よろしく頼むぞ。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。