堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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書類上の収束

情報部の特殊部隊員の一人が倉庫の警備システムを破壊して扉のロックを解除する。

解除されても扉は自重で固く閉ざされていたがさすがに彼女らの名前に関して、数万馬力まで出るとはいかないがとんでもない力を出せる艦娘の前にはダンベルにすらなりえなかった。

扉が開くと中には報告の通り、通信車があった。

フォボスは先ほど警備システムを破壊した隊員に耳打ちして通信車の展開を進める。

その様子をぼんやりと眺めながら彼れらに与えれた目的について考えを巡らせてみる。

たとえ特殊部隊といっても騒動が始まってからまだ半日も経過していない。つまり二サエルがこの事態を予測していたことはもはや疑いようがない。

彼なら避けられる面倒ごとを無視するほうがよっぽど手間がかかるということを理解している。

にもかかわらず彼は今回あえてその面倒ごとを利用した。

彼は本当に味方であるのか?そんな疑問が再燃する。おそらく今回の事態でヨーロッパでの防衛連合軍の行動は大きく制限される。せっかくまともな形で再建した憲兵隊は崩壊し、数々の設備が破壊されるだろう。どれだけ練度があろうと、どれだけ高い装備を持っていても結局、社会や世論の支持がなければ軍隊など無力なものだ。

広大な領土を誇った英国も数々に抵抗運動で弱体化し、ハプスブルク最後の帝国も妥協を繰り返したが結局は崩壊を免れなかった。

AaronMankindがどんな声明を出すのかわからないが、民間人を殺害したと大々的に宣伝するのが目に見えている。

防衛連合軍への非難はさらに強まり新たな人材確保すら困難になるだろう。

 

「展開完了しました。」

 

さっきの隊員がそう言う。

 

「よし。各地の指揮官に連絡をするぞ。」

 

ラッコエはそう言って通信車の中には入って行く。

おそらくそれは最善の策ではない。だが、最善策を待つよりも、次善の策を今実行するのは緊急時としては望ましい。

それがたとえ強化されてしまった無垢な市民を殺害する命令であったとしても。

そう、今の世界には間違いを許容することなどできないのだから。

道を誤ればそれだけでも死に、選択したわけでもないのに戦場に送られる。

悪いのは誰だ?

 

「どうしたの?」

 

飛龍がこちらをのぞき込んでくる。

 

「君はここで死んだカルトの傭兵たちや、これから殺される、選択したわけでもなくただこの時代に生まれてしまったから死んでいく市民たち。この戦争はいったいなんだと思う?」

 

彼女は困った顔をする。

だが竹野は飛龍にはその答えを求めてはいなかった。

のぞき込んでいた飛龍を軽口押しのけ、立ち上がる。

 

「いずれ終わる戦後をどう生きるのか。考えておいて損はないぞ。」

 

竹野はそう言って通信車の方に歩いて行く。

 

 

その背中を見ながら飛龍は考える。

戦後。考えたことすらなかった。時には訓練で死にかけ、時には自分に課せられた過剰なノルマをこなして、精神をすり減らして従いたくもない上官の指示に従った。

そこに余裕などなく、当然未来のことを考える暇などなかった。

彼が上官になってからもそれは変わらなかった。

彼のところには面倒ごとが山ほど降ってくる。それを平気な顔して処理していくそんな彼に抱いた印象は、彼の輝かしい指揮とはかけ離れた闇だった。

その闇と共鳴してしまった。だから本来に組むべき上官にあんなことをしたのだろう。

それを村上は理解していたのだろうか?

なんにせよ彼は飛龍に余裕を与えた。少なくとも、自分の献身の意味や、戦争の理由を考えられる程度には。

 

 

通信車には予想外の人物がいた。

通信車の中にはアーサー・マクドネルがいたのだ。竹野には状況を理解できずにいると、ラッコエと情報部は全く逆の行動を開始した。

情報部はアーサーを保護する一方でラッコエは銃を彼に突き付けた。

ラッコエを拘束しようとする隊員をフォボスが止め、その場の空気は凍り付いた。

フォボスはアーサーを自分の後ろに回し、ラッコエに

 

「銃を降ろしたほうがいい。情報を持った人間が降伏しているにも関わらず殺そうとするなら別の目的を疑われても仕方がない。」

 

アーサーがどれだけ抵抗したところですでに勝ち目はない。それに状況から察するに彼はカルトとの内通者だとでも思われているのだろう。カルトと合流しようと思っていたがそれより早く制圧されてしまったという事か?

 

「絶対に耳を貸してはいけませんよ。」

 

ラッコエはそう言う。だがその言い方には含みがあった。

 

「もしかしてだが。ラッコエ中隊長、アーサー・マクドネルと何かしらの関わりがあったのでは?」

 

それにはラッコエではなく、アーサーが答える。

 

「着任当初から面倒を見ていた。ある時までな。」

 

「あなたの施した教育には感謝しますがそれ以上はありません。私の上司であったほかの数人と何ら変わりはない。組織を裏切るのなら殺してでも止める。それはあなたが教えた事ですよ?」

 

「君は期待通り優秀な憲兵になった。だが....まあいい。」

 

彼は含みのある物言いをして黙り、両手を前に突き出す。

 

「君の仕事だろ?」

 

ラッコエは前に出て彼に手錠をかける。

彼はおとなしくラッコエの指示に従い、通信車内の狭い通路を歩く。

しかし、彼は竹野の前で止まり、

 

「あなたは確か?」

 

と少し警戒したような顔をする。

 

「私は新人の士官ですから恐らく面識はないと思いますが?」

 

そう言うと納得したのか、

 

「なるほど。そうですか。昔、教育係を務めた経験から少しアドバイスをしましょう。上司の不正を調べるときはまずその上司の袖を見なさい。」

 

そう言いだした。一体何が言いたいのか?

 

「靴だとかはみんな気にするんです。けれど袖だけは違う。いつもワイシャツがきちんと数センチ出ているような几帳面な上司であるならそれは同様に几帳面で丁寧に不正をしている。アプローチの方法を考える必要がある。」

 

「上司が不正している前提ですか?」

 

「不正する奴が幹部になり、不正ばかりして能力が実態とあっていないから不正のうまい奴に騙されて評価を間違える。それでまた能力のない上司の出来上がりだ。愉快な組織だろ?」

 

アーサーは本当に楽しそうにしゃべる。

 

「そうだ。私にはこれは必要ない物だ。君に譲ろう。」

 

そう言ってアーサーは手錠がかけられているにも関わらず器用に本を取り出す。

題名はポケットポルトガル語。

 

「いざというときはブラジルにでも逃げようと思っていたんだがね。案外仕事が速いようで困ったよ。」

 

彼はそう言うと、ラッコエを突き飛ばし前に転がりながらラッコエの拳銃を奪い車から飛び出す。しかし、指揮官は発砲の命令を出さず、あくまで生け捕りにすることを優先させた。

だがそれが失敗だった。アーサー全く後を残さずに消えたのだ。

複数の艦娘に追われていたはずだったが彼は難なく逃げてしまった。

捜索は早期に打ち切られた。パリは交通の要として依然機能しているが、すでにその監視の目は腐っていた。

見失ってから一時間も経てばもはやどこにいるのか捜索するなど無理な話だった。

 

「作戦は失敗しました。」

 

そう指揮官が誰かに連絡している。情報部局長かあるいは二サエルだろうか?

何か手掛かりはないかとポケットポルトガル語を調べてみたがただの中古の本で出版はまさかの20世紀だ。

もの好きなのか何なのか?

とにかく彼は煙のように消えてしまった。

そんなこんなで右往左往しているうちに通信衛星の再配置によって情報網は復旧し、米軍の大規模な介入によって事態は沈静化していった。

 

 

米軍がパトロールする基地内の端で、竹野と飛龍は見たくもない物を見ていた。

それは、大きな穴だった。

その穴は、丁寧に処理がなされ、多くの軍関係者に見守られ埋葬された憲兵たちの墓から少し離れたところにある、艦娘を放り込んでおくための穴だった。

その穴に、まるでごみの搬入をするように艦娘の亡骸が放り込まれていく。

人間の力では艦娘の皮膚を貫くことはできない。

だから、彼らは人間の遺体より、無残な姿になってしまっていた。刺し傷一つで死ねる人間とは違い、艦娘は丈夫だった。

けれど人間の残虐なやり方に彼女らは抗えなかった。

頭から薬品をかけられ、意識がある中、体が解ける苦痛与えらるが、それでも死ねずに口内に銃口を押し込まれ殺される。

内部からの攻撃に弱いのは深海棲艦と同じだった。

それだけで不運は終わらない。本部に攻めてきた彼らと違い、各鎮守府を襲撃したのはただの一般人。

どうすれば生物が死ぬのか理解していない人間達は不必要な痛みをただひたすらに与え続けた。

それでも彼らにおとがめはなかった。

裁きようがないのだ。あえて裁くなら器物損壊を理由に罰金ぐらいは請求できるかもしれないがそれもしなかった。もし防衛連合軍がそんなことをすれば抗議のデモという公開処刑の儀式でまた彼女らは殺される。

 

「暴力こそ至高。残虐性こそ我らの武器。スローガン通り、人間らしいやり方だ。」

 

これがあのカルトの望んだ結果であるのならいっそ彼らが深海棲艦と戦えばいい。彼らの残虐性が武器となるか試してみればいい。

結局は無抵抗な艦娘を殺すことしかできないとようやく気が付くだろう。同時に命も失うだろうが。

塩酸を打ち込み海を汚染し核兵器まで使ったが結局深海棲艦の勢いを止めたのは艦娘だった。アジアが制圧されヨーロッパにすべての戦力が回れば国連軍も太刀打ちできなくなる。

深海棲艦の戦力の約七割がアジア太平洋側に存在していると指摘する学者は多くいる。

その残虐さで守り切った世界に何が残るのか?

殺人、窃盗、何でもありの終末世界しか残らないだろう。

 

「ここまでされるまでどうして抵抗しなかったの?」

 

飛龍はそう聞くが竹野にだってわからない。

死への恐怖に勝る何かが彼女らを抑制したのか?

だがそれは一体何なんだ?不自然だ。あまりに艦娘と言う存在の都合が良すぎる。

 

「飛龍。日本に戻ったら一度心理分析を受けてくれないか?」

 

「どういうこと?」

 

「お前は身を守るため上官を殴った。同様にうちの鎮守府にいる艦娘は上官。いや、人間に反抗の意思を見せた。君はもしかしたらほかの艦娘たちと何かが違うのかもしれない。」

 

「でも、この子たちも状況がもう少しましだったら抵抗していたかもしれないわよ?」

 

竹野は首を振る。

憲兵隊が過去数年で確認した艦娘の死因などを調べたが戦死の次に、不明が多かった。そして次点に上官による過度な指導。と書かれていた。表記をぼかしているからどうなのかわからないが、抵抗した艦娘の方が少数であるのは分かり切っていた。

 

「何もできずに死んだ艦娘の方が多い。少なくともアジア方面軍ではそうだった。」

 

「わかった。じゃあ受けてみる。けど、私が危険な思想を持っているとか言って解体されそうになったらどうするの?」

 

飛龍はそう言うが、

 

「今更だな。私は君に殴られて意識を飛ばされてるんだ。そう言われても大して驚かん。」

 

と竹野が言うと飛龍は不機嫌そうな顔をして

 

「はいはい。そうですね。わるぅございました。」

 

と口を膨らませる。

随分と物腰が柔らかくなったものだ。

二人が黙ると、基地のあちこちでアメリカ訛りの英語が聞こえてくる。ヨーロッパ中に米軍の空挺師団が降下し、秩序が取り戻されつつある。

防衛連合軍と国連軍の対立に中立だった米軍が、カルトの決起から24時間も経たずに派遣を決定したのはどうせ二サエルの仕業だろう。

 

「じゃあ。帰るか。」

 

そう言って、荒れ果てた基地を竹野たちは後にする。

帰りの輸送機には来た時と比べればかなり人数が減っていた。

いままで全く気が付かなかったがこの研修に同行していた新人提督のどれほどが本当に新人の提督だったのだろうか?

そんなことを考えようかとも思ったが席に深く腰掛けるとそんな気力も自然と消えた。目を閉じて重力だけに身を任せ眠りに落ちていった。

 

 

「それで。被害は?」

 

二サエルは山本に聞く。

 

「まだ確実ではありませんが、憲兵隊所属の130名、司令部施設にいた幹部24名、そのほかに支援の工兵などが28名。制圧に参加した現地の警官が数名なくなったと聞いてます。」

 

「思ったよりも死者が出ましたね。」

 

「予想外の事態にしてはかなりうまく対応した方だと思いますが?それとも本当にカルト殲滅のために意図的に放火したとでも?」

 

山本が聞くと二サエルは苦い笑いを浮かべ

 

「そんなしょうもないことに人命を使うほど私は浪費家ではありませんよ。」

 

二サエルは人命を資源としてしか見ていないというような趣旨の発言を平気な顔でして見せる。

 

「それならいいじゃないですか。予想していなかった事態にうまく対応するカリスマ指揮官とでも記事を書かせましょうか?」

 

受話器に手をかける山本を二サエルは制止して

 

「君もよくないですよ。そんな両極端なことをするのは。予想はしていた。けれどそれはこちらから仕掛けたことではない。別の誰かが仕組んでいたことですよ。」

 

「別の誰か?見当はついているんですか?」

 

「それを調べるため、ある男を捕えようとしたら逃げられた。だから困っているんです。」

 

「本当に?」

 

二サエルは笑って

 

「君は鈍いのか鋭いのかよくわかりませんね。まあ、半分以上目的は達成できました。逃げたのなら追えばいいだけの話ですからね。」

 

と言う。

まあ、どうせ二サエルが何も困っていないことなど山本にはわかっていたが、ずっとそばにいる山本でさえ二サエルが今回の騒動でどんな目的を達成したのかさっぱりだった。




さて、私のくそ雑魚な構成力では書ききれなかった設定をここに置いておきます。

この小説の中で書かれている国連軍はいわゆる朝鮮戦争に派遣されたような国連軍と言う名前を持った事実上の国連軍ではない組織ではなく、国連憲章によって定められた正式な国連軍です。
当然安全保障理事会の承認を得て組織された世界連合軍であり。アメリカ軍も中国軍もロシア軍も参加するオールスター軍にな....りはしませんでした。
承認はされたけどアメリカの支援は限定的で中国もロシアも大規模な派兵は実施しませんでした。
理由ですが、まずアメリカから。簡単に言えばアメリカは世界を守るために行動している暇ではなかったからです第七艦隊を喪失し、予備役から復帰させ再編成した最後の要となる艦隊を国連指揮下で、危険な海域に突入させたくはなかったわけです。
まあ、本編でも明らかになっているように結局アメリカは全艦艇を喪失するんですが。

次に中国。近年急速に軍拡を進めているイケイケな、中国ですが残念ながらこの作品ではとんでもなく弱体化しています。原因はいろいろあります。一人っ子政策の影響がついに出て急激な高齢化社会の到来に経済は停滞、社会主義市場経済の理論の破綻に政府の財源悪化、そのせいで統治能力の低下した共産党に機会をうかがっていた中華民国政府が相次いで政治工作を実施、結果的に中国には民主化の風が吹き始め、他国の支援などしている場合ではなくなった。と、結局まとめればアメリカと同様にフィリピンや日本が防波堤として機能している間は介入する必要なしとして支援をしませんでした。

最後にロシア....。
現実でやらかしてるのでさすがに見せ場を作るわけには行きませんでした。
ので、とられて困るのはウラジオストク程度しかないわけで、軍事大国として関与していけるはずだったんですが....うん。

という感じで世界の名だたる軍事大国は国連軍に参加せず英仏独伊印を中心に国連軍は組織されましたが艦娘登場まではただいたずらに死者を増やしただけでした。

ちなみに、軍隊を持たないくせに軍事力ランキングの五位の島国は方針が決まらずになかなか派兵しませんでした。結局派兵を決定したのは本格的に本土攻撃の可能性が高まった時期ですがそのころには自衛隊の古いコンセプトの兵器では太刀打ちできいことが容易に予測できたので自衛隊として深海棲艦と戦った数はかなり少なく、損失も同様に軽微でした。

そしてこの回の時点では国連軍は欧州連合軍と言った方がふさわしいものです。
一方の防衛連合軍は日中印、およびASEAN諸国が中心になっています。中国は依然として支援には消極的ですが。
また米国は中立を保ち兵器の輸出は、金さえ払えば行うという方針です。
(まあ、この組織が国連軍から分離独立するように仕掛けたのはアメリカなので実際は中立もくそもないんですが。ただそんなこと、二サエルぐらいしか知っていないので問題はありません。)
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