堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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鬼の娘

あそこまでの過激思想を見せられたから今更驚きもしないが、軽巡の中では龍田が最も人間を嫌っていたようで、相変わらず目線は怖いが阿武隈や由良、神通、長良、それに龍田と天龍で護衛艦隊を組むことに成功し資源輸送の手筈は整った。

軽巡だけで出撃させるのは心配ではあるが何気に万能ともいえる艦種であるし、そもそも安全確保済みの商船の航路を使うためそこまで心配はいらないだろう。

 

「というわけだ。この航路は付近の鎮守府が定期的に掃除している。恐らく脅威はないだろうが本土につき次第各自補給ののち、こちらに戻ってきてくれ。輸送艦さえ沈まなければいい。極力戦闘を避けて最大船速で移動するように。」

 

することがないためブリーフィングをしたが資源輸送の護衛など日常業務の一環。本来であればこちらが指示を出すまでもなくローテーションが組まれているはずなのだが、やはりこの鎮守府はほとんどの機能を失っているようだ。

軽巡たちを送り出し執務室に戻ろうとしたところ何者かの視線に気が付く。

 

「誰だ?」

 

そう言うと物陰が動き勢いよく何かが飛び出した。

顔は見れなかったが体格的に空母か戦艦だろう。ほかの鎮守府ではそれなりに好意的にとらえることが出来る行動もこの鎮守府では例外なくただの監視であり少しでも問題を起こそうものならすぐさま、もともとほとんどない信用を完全に失う。

建物の外周をぐるりと周り逃げた誰かを探してみるが結局見つからず仕方なく執務室に戻る。

 

 

あの男はこちらの視線に気が付いていたようだった。確かに私の体のサイズで尾行するのは難しいかもしれない。けれど一つ気が付いたことがある。あの男は異常に警戒心が強い。何かばれたくないことでもあるのかもしれない。

次は青葉さんに頼んで本格的な調査をしてもらおうかとも思いながら空母宿舎に戻る。

 

宿舎に戻ると、翔鶴姉はじめ加賀さんなどが心配そうな目でこちらを見ていた。

 

「尾行がばれそうになって急いで逃げたら転んだだけ。」

 

微笑みながらそういう。

 

「そう。ならいいの。」

 

加賀さんは無機質な声でそう答える。もとより彼女の性格はクールだ。しかしここにいる加賀さんは昔の提督に暴行や性的搾取などを受けさらに心を閉じていた。

 

「本当に大丈夫なの瑞鶴?」

 

翔鶴姉は私の腕を肩を触りながら全身に傷がないか注意深く見ている。

 

「ほんとに転んだだけだから。」

 

なるべく明るく。そうでもしないとここにいる空母たちはみんな心を閉じてしまう。すでに蒼龍さんや赤城さんは自室に引きこもりめったに姿を現さない。

 

「大丈夫だって。」

 

へらへらと笑って見せるが、そんな私の心もすり減り続けている。

私も傷つけられてここにたどり着いた艦娘の一人だ。気持ち悪い顔で私を舐め回した男も、傷心した私に同情するように見せかけて、同乗してあげている自分がかわいくて仕方ないと言った女ももうたくさんだ。

静かに暮らせていたこの鎮守府もまた新しい提督の着任で地獄に変わるのだろう。あの男は私に何を求めるのだろうか?

 

 

提督執務室に着くと書類ファイルにも関わらず10GB近いファイルが届いていた。

こんな僻地ではダウンロードに時間がかかるだろうと予想していたが意外にもインターネット環境はいいようですぐにファイルを開くことが出来た。

その膨大な資料と心理分析などのファイルをみて竹野はぼやく

 

「俺は心理カウンセラーではないんだが。」

 

今の仕事はとても司令官がすべき仕事の範疇を越えている。

戦術的な話でも戦略に関わる問題でもない。

ただ間違いなくこの鎮守府は今の海軍で恒常化している堕落の原因の一つである艦娘の兵器以外の側面が生んでしまった産物であることに間違いはない。

そうして自分を納得させ少なくとも次に発令される攻略作戦の時までにこの鎮守府の機能を取り戻そうと目標を立てる。

現状、竹野の指示を聞いてくれるのは二人。

その二人のお願いで軽巡や雷巡が気まぐれで動いてくれる。うまくいったとしても兵力として運用できるのは20数名が限界だろう。

それにいくら軽巡と雷巡の練度を高くしても当然戦艦などと同じ運用はできない。

相手に空母型でもいた日には完全なワンサイドゲームが展開されることになる。

 

「一番傷の少ない娘を選定するか。」

 

そうして資料を読み始めた竹野だったが一時間もすれば全く読む気が失せた。

量が多くて音を上げるような男ではないがあまりにも呆れてものが言えなくなった。

性的行為を強要されたもの、損害の責任を負わされ、日常的に暴力を振るわれたもの戦果を挙げなかったため大破状態で半年以上放置されたものなど様々だった。

客観的な報告書ならまだいいが、告発された提督たちの供述調書は読むに堪えなかった。

言い訳を並べる奴に、軍規違反にも関わらず、艦娘は所有物であるから問題ないなど意味のないお気持ち表明をする奴。そいつらはまだましだ。

開き直って聞いてもいないのに誰の何が気持ちよかっただとか誰が上手かったかなどを恥ずかしげもなくしゃべる奴らもいた。

本当に意味が分からない。気分が悪くなった竹野は執務室を出る。気配がしたので疲れた目で扉の裏を見ると瑞鶴がぎょっとした目でこちらを見ている。

完全に目が合い逃げるに逃げれない瑞鶴は口をパクパクとさせている。

 

「何をしていたかは聞かないし聞く必要もない。どうせ監視か何かだろう。俺がいない間に執務室をあさってもらっても構わん。代わりと言っては何だが一つ頼まれてくれないか。」

 

瑞鶴は固まったまま動かない。竹野は資料を思い出す。

そして重要なことを思い出した。瑞鶴は報告によれば男性恐怖症を発症しているらしい。

そして異動になった先の鎮守府は女性提督の管理する場所だったが、彼女は海軍内でちやほやされていただけで能力の伴わない提督だと憲兵隊から手痛い評価を受けており、彼女にさらなる不信感を植え付けることになった。

竹野は男性であり提督。

瑞鶴が怯えるのも無理はない。彼女に性向を強要した男と同じ肩書。

瑞鶴からしてみれば周囲には自分を守ってくれる姉も仲間もいないし助けも呼べない。彼女の中には最悪な未来が映り体の硬直は増していく。

ただ疲れて目を細めていただけの竹野のその目は、彼女にとっては視姦されているように見えていた。

彼女の中でそんな想像が広がる一方で、竹野は若干のめんどくささを覚えていた。なぜこうなるまで放置したのか本当に疑問だった。

が、二サエルと面会してわかったことだが彼は何らかの理由がないと行動しない。彼がそうせざるを得ないとしてここを作ったのだから仕方ないと頭では納得しているのだがやはり面倒なものは面倒だ。

 

「まあいいさ。」

 

竹野はポケットから茶封筒を取り出し瑞鶴に渡す。

 

「空母宿舎のみんなで見てくれ。」

 

しかし瑞鶴は手を出そうとしなかった。完全に彼女はパニックだった。女性スタッフか天龍でもいてくれればよかったのだが仕方ない。残念なことに竹野には男性恐怖症に関する知見はなく有効な対策をその場では思いつけなかった。

仕方なく彼は、かたまった瑞鶴をおいて空母宿舎に向かい扉をたたく。

 

「なんの用ですか?」

 

扉が少しだけ開き、その隙間から加賀が警戒した様子でこちらを見る。

東京であった昔の部下の方もかなり怖かったがもっと恐ろしく心が冷えるような目と声だった。

 

「瑞鶴が提督執務室前で固まっているから回収してほしい。それと君たちに指令書だ。」

 

竹野は加賀にさっきの茶封筒を手渡す。

加賀はひったくるようにそれを受け取り部屋に入って行く。しばらくすると翔鶴が部屋を飛び出してきて扉が竹野の顔を強打する。

鼻を押さえる竹野を完全に無視して加賀と翔鶴が鎮守府本館に走っていく。その後ろに鼻を押さえながら竹野が続く。

だが、途中で竹野は瑞鶴本人と接触するのはまずいと思い出し手帳を一枚引きちぎり謝罪と今後の連絡は翔鶴を挟んで伝えるとの旨を書き空母宿舎に戻る。

扉をたたくと出てきたのは飛龍だった。

彼女は...。

考える間もなく腹部に重い打撃を受け竹野は吹き飛ばされる。

誇張なしに彼の体は5mは吹き飛ばされていた。

龍田の時と違い扉が開いた時点で距離はほぼゼロ。不意打ちを回避するのは不可能だった。

赤城や蒼龍が出てくると思っていた。自分に手を出す恐れのある飛龍を赤城たちが放っておくはずがないと思ていたがどうやら間違いだった。

ぼやける視界の中で何とか飛龍の動きを捉えようとするが焦点が完全におかしくなりいつまでたっても視界が晴れない。

 

「ちょっと待て。伝言を伝えようとしただけだ。」

 

完全にまずい発言をした。加賀にすでに指令書は渡していたし竹野の思い付きで追加した伝言だと説明する余裕はなく首をつかまれ体が宙に浮く。

 

「伝言?さっき渡してたじゃない。」

 

「別の伝言だ。」

 

飛龍の手によって着実に血中酸素量が下がり頭が回らず言い訳っぽさは増していく。

さらには思い出したくないことを思い出してしまった。

飛龍は過去に提督を職務復帰が不可能なレベルに暴行したことがあるのだ。その提督は轟沈を年間1000以上出しており問題視はされていた。

飛龍の進言を無視して赤城、加賀、蒼龍が轟沈する敗北を記し、帰還した飛龍によってその提督は半殺しになるまで追い込まれた。

その提督が軍法会議にかけられたこともあり解体は免れたが引き取り手がなくこの鎮守府に飛ばされた。

戦果重視の無理な進軍を行う鎮守府で生き残ってきた飛龍の練度は高く危険な艦娘だと竹野が判断した一人だった。

 

「私がこの部屋にいないと思った?目的は蒼龍?それとも赤城さん?何をしようとしたのよ。」

 

またも打撃が飛んでくる。今度は口の中に血の味が広がる。抵抗の意思は消えていないが体に一切の力が入らない。

本当に意識が飛びそうになった時、飛龍の手は首から離れる。

しかし、すでに全身に力は入らず膝から崩れ落ちる。

首はうなだれ、遠くに加賀と瑞鶴、翔鶴らしき三人が見える。

彼女らに助けを求めて助けてくれるのだろうか。

そんな疑問が浮かぶ中、飛龍はまた拳を振り上げる。

いい加減内臓の一つや二ついかれてもおかしくない。憲兵隊を呼んでおけばよかったかと後悔するがここは内地の鎮守府ではない。助けを求めても着くころには私は死んでいるだろう。

また加賀達の方を見ると何が起きているかに気が付いた加賀が急いで飛龍に飛びつき押さえつける。

 

「やめて!はなして!」

 

飛龍がわめき空母宿舎から雲龍や天城が慌てて出てくる。加賀に加勢して暴れる飛龍を押さえつける。

しかし、その騒動の間に竹野も力尽きて気を失った。

 

 

 面倒なことになった。

 

加賀はそう思った。飛龍が提督とばったり会ってしまったことが問題だった。

天城や雲龍が出ていればこうはならなかっただろう。

気を失った上官とわめく飛龍。瑞鶴が男がいる部屋でも平気そうにしていること以外何もいいことが起きていない。

瑞鶴が特に怯えていないのは恐らく提督がピクリとも動かないからだろう。最初は憲兵隊が来たら空母の誰かを襲おうとしたとでも言えばいいと思ったが、飛龍の言い分は間違いでこいつは本当に伝言を伝えに来ただけだった。

なるべく瑞鶴との接触を避けるように心がけるとの意思と報告役として翔鶴を挟むようにとの指示。

飛龍の抵抗が収まり静かになってから指令書も呼んでみたが資源到着後、訓練所をだれがどう使うかの時間設定だとか近辺哨戒の順番などを記したただの指令書であり夜伽の番だとかそんなふざけた指令書ではなかった。

急いで青葉にこいつの素性を調べさせたがどうも嫌な予感がする。司令部の人間がこいつの人となりを知っている可能性がある。

 

「まずいことになりましたね。」

 

「突然倒れたとかいえばいいじゃない?」

 

五航戦のあほが何か言っているが聞き流す。

 

「この人はもしかしたら司令部から勅令を受けて着任した提督かもしれません。つまり今までのような左遷人事ではないかもしれない。」

 

「左遷された提督ではないということはかなりまずくありませんか?」

 

天城の言う通りだ。憲兵に何を言ってもこちらの嘘だと思われてしまうかもしれないのだ。

空母たちが困り果てている中竹野はすでに意識を取り戻していた。

しかし意識があると言い出せる状況ではない。

誰だかわからないが脈を測ってくれたりこちらの体を気遣ってくれている。根はやさしい子たちなのかもしれない。

悪くとらえると自分が死ぬともっと面倒になるから仕方なしに看病しているのかもしれない。いい風にとらえたいが今の状況から考えるに恐らくは後者だろう。

結局言い出せないまま時間が過ぎていった。

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