堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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なんやかんやで話数が40になってしまいました。


shock and awe

協力関係の構築から2か月が経過した。

もちろん調査は進展した。ムーンは二サエルの側近として働いていただけあって凄まじい情報網で調査を進めた。

予想外だったのはラッコエのほうだ。オーマー・ラッコエはルールにうるさい憲兵隊員としての像を確立していた。しかし、彼女はMI6がわざわざ手間をかけて送り込んでいた諜報員。最初の一週間はお堅いキャラを演じていたがその化けの皮もはがれ、法律を当然のように破り捨て倫理も道理も何もない計算された蛮行で強引に調査を進めた。

かき乱されていることに情報部は気がついていたが、それが誰の仕組んだものか特定することはできていなかった。

内部の事情を知る曲者二人に加えてラッコエが強引にMI6を動員した結果、すべてを隠しながら防諜することはいくらニサエルと言えども不可能だったようだ。

だが、得られる情報はどうでもいい軍事機密だけ。

防衛連合軍が設立された時には計画は完成していたと考えるしかない。

だから防衛連合軍には竹野たちが求める機密など存在しない。

最も重要な機密は設立にCIAが関与しており、連邦政府が何かしらの目的のために設立したことだが、どうにも連邦政府は防衛連合軍に単なる暴力装置としての役割しか求めていない。

つまり、連邦政府は防衛連合軍のことをある程度は命令を聞く傭兵軍団とかとでも思っているのだろう。

結局、何も見つからないまま防衛連合軍に対する調査は終了した。

ムーンは最初から防衛連合軍を調べても何もないと知っていた様子だったが。

 

 

「それで?もう一度聞かせて下さい。」

 

防衛連合軍への調査からアメリカ連邦政府の調査へと切り替えてから二週間ほどが経ち執務室にムーンがまたしても音も許可もなく入室してきた。

そしてとんでもないことを言い出したのだ。

もはや竹野には聞き返すことしかできなかった。

 

「防衛連合海軍総司令部を強襲します。」

 

何を言っているんだ?情報戦での勝利が絶望的だからといって何もないとわかっている防衛連合軍に強襲を仕掛けて一体何の意味がある?

竹野は全く理解できなかった。

恐らく原因はムーンが可能な限り竹野に情報を渡さずに計画を進めるためだったのだろう。

しかし、作戦を立てる側としては情報がなければ作戦の立てようがない。

 

「だからそれがわかりません。あなた方が出した結論は謎の組織と防衛連合軍の関係はない。そうではないんですか?」

 

「手段を選んでいる場合でなくなりました。」

 

手段を選べない程追い込まれているということなのだろうか?

 

「一体何が起きたんです。」

 

「送り込んだ諜報員の大半と連絡が途絶えた上に、とんでもない規模のカウンターアタックが来ました。」

 

「被害は?」

 

「何とか対応しましたが、これでこちらからは手が出せなくなりました。申し訳ありませんが情報戦では完全に敗北しました。」

 

「そんな中で強襲などしても正当性の主張ができないと思いますが?」

 

「私を馬鹿だと思っているんですか?MI6がこちらについてくれている以上、未だにそれなりの勢力を持っている国家の大半をこちら側に引き入れることは容易い。そうなれば国連軍も恐らく同調してくるでしょう。後は防衛連合軍の勢力ですが、村上傑の名前を使いましょう。」

 

「あまりそれには賛成できません。私の名前を出せば、防衛連合軍内部の意見もそうでしょうが、何よりも国連軍の協力を取り付けることが出来るとは思えません。それ以前に、せめて敵の脅威がどれほどのものかわからないと誰も説得できませんよ。それに、私は二サエルを拘束するのに十分な証拠を持っています。まずは二サエルを拘束するのが先決では?」

 

竹野が言っていることは至極真っ当な意見だった。

だがそんなことムーンも百も承知している。

目的がわからない戦闘に協力するものはいない。

ましてクーデターをするのであれば単純に選挙で勝つよりも多くの指示が必要となるにも関わらず、支持を集める根拠をムーンたちは持っていない。

それよりもまずは二サエルを拘束して尋問すべきだと考えるのも当然のことだ。

 

「それだけでは不十分です。二サエルを殺すには根から枯らすしかありません。」

 

「根?」

 

二サエルは派閥に所属しているわけではない。

ただ彼をこき下ろすネタがなかったために彼は司令長官であり続けているに過ぎない。

そんな根無し草の彼の根とはいったい何なのか?

 

「CIAですよ。彼はCIAの協力者であり続けています。」

 

「私はそこら辺の裏事情は知りませんがCIAに防衛連合軍の最高人事ができるほどの影響力があると思えませんが?」

 

「CIAがねじ込めたのはせいぜい情報部オセアニア方面統括管理官が限界でした。でもそれは二サエルには十分すぎるポジションでした。勢力を拡大しつつあったAaronMankindを叩き潰し、その手柄をMI5に譲りその借りを使って今度はオーストラリアから破格の値段で石炭と鉄鉱石を買いたたきそれを日本にあるアメリカの軍需企業の工場に流したわけです。」

 

「あの価格崩壊はあいつのせいなのか?」

 

竹野は知らなかったが、ヨーロッパにいたラッコエが反応するあたりとんでもない価格崩壊が起きていたのだろう。

 

「ですが、おかげで防衛連合軍の充足率は回復しました。そうなると無視できない存在になるわけです。順当に行けば情報部トップがいいところでしたが、少しだけ賢い権力欲まみれの元帥が二サエルを表の顔にして自分が権力を握ろうとしました。ですが当然うまくいくはずもありません。」

 

「二サエルに挑むことが無謀だということはよくわかった。」

 

ムーンは目を細めて

 

「そんな化け物と対峙してもらうために私はここにいるんですよ?」

 

しかし、竹野が言えることではないことは重々承知だがムーンだけでは頼りなく思える。

 

「私たちはできて援護射撃程度です。情報戦での勝ち目など最初からないとわかっていましたから。」

 

「匿ってくれと言うことは嘘で、本当は私の持っている兵力を利用したくて私に近づいた。あなたの目的はそれで間違いないですかね?」

 

ムーンの表情筋の一つも動かさずに

 

「その通りです。あなたのような少しだけ戦果を挙げたことのある一般人にへりくだってお願いするのはあなたが間違いなく兵力を持っているからです。おだてれば乗ってくると思っていた私が早計だった。ただそれだけの話。こうやって手の内を見せるのも、あなたのしょうもない自尊心と信条を知った今、“お願い”すればあなたは協力してくれると見切っての事です。」

 

不快だ。だがそれだけで拒絶するほど竹野は子供ではないし、拒絶した後一人で問題を解決できるほど大人でもなかった。

ムーンは微笑んで

 

「少し言いすぎました。あなたが私の能力に不信感を抱いていたようでしたので私がどういう人間がわかるような返答をしたまでです。」

 

どうにもその柔らかい物言いと喋る内容があっていない。どうせ本心ではこちらの事を簡単に扇動される虫けら程度にしか思っていないのだろう。

 

「わかりました。続きを。」

 

そんな甘い人間でないと主張しようかと思った竹野は結局そうはしなかった。

自分は虫けらではないと必死になって主張する方がよほど虫けらに見えるからだ。

 

「はい。あなたの名前を使うことは承諾したということで構いませんね。」

 

「つまらない信条とバッサリ切られることが目に見えるため反論はしません。」

 

ムーンは頷いて話を続ける。

 

「CIAが彼の支持基盤と言いました。詳しく言うならば元CIAの防衛連合軍の情報部員が彼の支持基盤です。支持基盤と言うよりも信者と言った方がいいかもしれません。無駄に能力が高いのが非常に厄介ですが。」

 

「頭だけは切れる人間を暴力でたたき出すわけですね。」

 

「その通りです。警戒すべきは私と同じように戦闘訓練も受けている潜入要員達です。天体の名がついている二サエルの側近は全員がタフだと思ってください。」

 

「艦娘の力でねじ伏せれない程ですか?」

 

「何度も言わせないでください。ねじ伏せることが出来る部隊を集めるためにここまで来たんです。憲兵隊にはあらかじめ抵抗しないように手を回しておきます。彼らは司令長官という席に座っている人間が嫌いなわけですから恐らく二サエルと内通することはないでしょう。」

 

「AaronMankindに報告が入る可能性は?」

 

「AaronMankindとは別の組織に情報が流れてそこから親玉の組織に連絡がいくことはあるかもしれませんがそれを気にしていては何もできません。時間が勝負です。少数で機動的に敵が対応する前にすべてを焼き尽くせばいいという考えです。」

 

本当に武力に物言わせた過激なやり方だが既成事実化して大々的に報道する用意を整えているあたり竹野だけではできない作戦だと認めざるを得なかった。

 

「計画の実施は2週間後。艦娘たちに特殊訓練を実施してください。私は本土にわたって準備を進めます。この二週間の間、全ての艦娘をほかの鎮守府とは接触させずに通信設備は故障だとか適当な理由を付けてあなたが監視できる範囲で使用させてください。」

 

「うちの艦娘が裏切り者だと?」

 

竹野が不満そうな顔をすると

 

「そうではなく。計画が露見したとき誰が漏らしたのかはっきりするでしょう?私から見ればあなたかオーマーのどちらかが漏らしたことになり、あなたから見れば私かオーマーどちらかが漏らしたことになる。千数百の艦娘の裏切りの可能性を簡単につぶせる。やらない方が怪しいですよ。」

 

ひどく合理的だが冷たいやり方だ。

 

「わかった。」

 

「お願いしますよ。」

 

その数時間後、MI6が手配したステルスヘリでムーンとオーマーは本土に向かった。

 

 

「よかったの?」

 

蒼龍が聞く。

 

「さあな?結局奴ら、最後までどこで二サエルの裏切りを知ったのか言わなかった。本土に着けば対艦娘の特殊部隊に囲まれて逮捕なんてこともあるかもな。」

 

「冗談に思えない。」

 

蒼龍が言うが竹野は真顔で

 

「冗談を言ってないからな。」

 

と答えた。

 

「正直私も状況を把握できてない。あの二人は私なんかが足元にも及ばないレベルだった。監視してる風を装ったけど結局提督に報告できることは何もない。もしかしたら堂々とこっちの動きを逐一報告されてたかもね。」

 

「そうじゃないと祈るしかない。」

 

竹野はいつものように勘で計画に乗ったかのように装っていたが実はそうではなかった。

蒼龍が出してきたメールの記録について実は裏で調べていた。

竹野には中国人の友人はいなかったが、外務省に友人がいた。

中国は内戦寸前の状態であり日本の支援で内戦の推移が変わってくる。

派閥の対立は激しくなっているが派閥のトップも中国共産党の幹部であることに変わりはない。

そんなルートでメールが本物か調べさせた。

もちろんその会社に実態があるのかも調べさせた。ペーパーカンパニーに証拠があると言われても怪しすぎる。

結果はメールは本物、その会社は確かに独自の回線を全世界に張っていた。

二サエルの裏切りは確定だが裏切りに気が付いた竹野を始末するためにムーンが動いている可能性は高い。

もちろんそうであっても大丈夫なように小細工を仕掛けておいた。

九十九里浜のワーグナーに大規模な演習を申し込んでおいたのだ。

当然苦しい言い訳になるだろうが二サエルもおおごとにして陰謀論にかき乱されるのは嫌だろう。

上陸して即逮捕という事態は避けられるはずだ。

全ての会話を録音して信用できる元国連軍のジャーナリストに渡した。

あえてその通話は暗号化せずに情報部に盗聴させた。それ、だとか、あれ、だとか抽象的な言葉ばかり使った会話である以上、事情を知っている人間しか意味を理解できないように配慮もしておいた。

昔嫌っていた、料亭にボースレコーダーを仕掛けて同僚を蹴落とした上司を思い出す。

こうはなるまいと当時は思ったものだ。

まさかこんな形であの女と同じことをするとは思いもしなかった。

昔を懐かしみながらも防衛連合海軍総司令部ビルの図面を見る。

いかに効率よく制圧するか?

何分で情報部の特殊部隊が到着するのか?

そんな昔では考えられないような物騒なことを考えていた。




衝撃と畏怖(shock and awe)
Yahoo知恵袋に「ブッシュjrが考えそうな頭の悪い作戦名である意味納得」とか書かれていてさすがに笑いました。
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