堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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決別と出会い

第四回緊急作戦会議

 

二サエルの裏切りから二週間。戦線は崩壊していたがそれはまだ局地的だった。未だに敵の大規模攻勢はなく、決定的な敗北はなかった。

幸いと言うべきなのか不気味な準備期間なのか、真偽は分からないが、この二週間で間違いなくインフラが攻撃を受け、補給線の一部が寸断されていた。

にもかかわらず....

 

「竹野少佐。どう責任を取るおつもりですか?」

 

未だに責任の所在について話し合いが行われている。

ラッセル司令長官を始めとしてほとんどの高級士官たちが村上を責め立てた。

竹野という偽名をなぜいまだに認めてくれているのかわからないが。

 

「責任ですか。」

 

謝罪をして済むならば安い頭なんぞ何度でも下げてやる。だが責任を認めれば村上は軍を去らねばならなくなるか、あるいは塀の中で生活することになるだろう。

もしそうなれば敵の望み通り、文明の崩壊は免れない。

村上と同様に有能な指揮官はほかにも居た。中越もそうだ。

だがここまで腐りきった防衛連合軍に付き合ってくれる有能な人間はもう他にいなかった。

残った有能な指揮官たちは着実な戦果を無言で上げ続けもう司令部に何の期待もしていなかった。

二サエルは確かに異常だった。だがそれでも裏切るまでは的確な指示を出していた。

ラッセルによって馴れ合いだけとなった司令部にまともな人間なら期待しないだろう。

 

「そうです。あなたが私たちのことを信用せずに独断で動いた責任です。」

 

「ならば私をこの会議から追い出せばいいではないですか。責任だとなんだと言って私をとっとと更迭してしまえば私の耳障りな進言など無視できます。」

 

それができないことぐらい村上は知っている。村上を敵視する士官も多いが同様に村上の受けた仕打ちを把握している士官も当然のことながら残っている。

その士官たちは村上を救うことを諦め組織に絶望しながらもまだ防衛連合軍という組織になのか、あるいは軍隊という組織そのものになのかどうかは分からないが未練を残しているのだろう。

そんな者たちに村上が光を与えればラッセルの無言の支持者たちはたちまち反旗を翻すだろう。

その状況を知っているラッセルは村上を無視できないのだ。

唇を固く結び苛立ちをあらわにする。

久々に素直に感情を表出させる人間を見た気がする。

 

「実力以上に評価される素人はこれだから。いいですか?あなたは広告塔にすぎません。国連軍は人員獲得のために元々軍人ではなかった人間をあたかも戦場で輝く英雄のように宣伝した。その誇大広告はその広告塔自体までも騙すほど効果的なものだった。しかし、あなたには実力も何もない。マーク少将や、中越大将の力がなければあなたの活躍などあり得なかった。そのうえ今となってはただの戦犯だ。戦意高揚のプロパガンダにも使えない。今や子供ですらあなたが戦犯だとわかっている。にもかかわらずあなたは面倒な陰謀論者を抱え込んでまるで宗教のように軍内で暴れまわっている。その村上教は競争をあきらめた終わったやつらを中心に支持を集めて面倒ごとの種となっている。終わった奴らも私たちの戦力です。彼らを利用するためにあなたには意思なき窓口係になってもらいたい。今のまま駄々をこねるようであれば迷惑以外の何物でもありません。」

 

言わせておけば好き勝手に言ってくれる。

だが否定するだけ無駄だ。こいつは小物だがソロモン海での出来事を知らないはずがない。

詰めが甘かったのは確かだがただの広告塔で能力のない指揮官とまで言われるいわれはない。

 

「私は南鳥島に帰れと言われるまで一士官として必要なら意見を述べるだけです。」

 

村上は立ち上がり会議室を後にする。これ以上ここにいても進展はない。

村上がいない方がまだまともに議論が進むだろう。

ただ、まともに議論が進んだところで何か変わるとは思わないが。

 

廊下で退屈そうにしていると中越がゆっくりと近づいてきた。

 

「会議はいいんですか?」

 

「一番最初に抜けておいて何をいう。」

 

中越は笑う。

 

「それで。あなたはどう考えますか?」

 

「この状況を打開する作戦などない。わかっているだろう。今しなければいけないことは」

 

中越の言葉を村上はさえぎる。

 

「いえ。それ以上は結構です。」

 

中越が何を言おうとしているのか聞かなくてもわかった。

熟練の指揮官ならいま出すべき結論は一つしかない。

けれど、それは中越が背負うべき責任ではない。彼は手を汚すべきではない。

 

「またそうやってすべての責任を背負う気か?」

 

「あなたが証言しなければソロモンで不名誉を背負うことになったのは私だけでした。今回は黙っていてください。」

 

「私はそれでも君を守る。必要な人材だからだ。君がそれを拒絶しようとも私の考えは変わらない。」

 

村上は冷たい声で中越を突き放す。

 

「私はもうあなたに守ってもらうほど弱くありません。飛龍を頼みます。」

 

少し驚いた顔をしている中越に近づいて、彼の手の中に紙を押し込む。

 

「これは?」

 

「人事の知り合いに掛け合って飛龍に異動の辞令を出させました。」

 

「どういうことだ?私は会議室でほんの少しだけ見た程度だが飛龍は君のことを慕っている。あの手がつけられないじゃじゃ馬の手綱をまた中途半端なところで手を離す気か?」

 

「飛龍はラッセルの挑発に乗りませんでした。元々賢い子です。精神的にも成長している。もう扱いきれないじゃじゃ馬ではありません。理不尽な命令をする指揮官ならまだしも、あなたなら飛龍を十分以上に扱える。私は感情に流されてこんな辞令を出させたわけじゃありません。ただ、私と一緒に地獄を突き進むのは彼女の使命ではななかっただけの話です。」

 

中越は少し考えるそぶりを見せて

 

「わかった。」

 

と答える。

 

「私は彼女を殴りつけることになるでしょう。けれど、もう彼女に間違った道を歩かせないでください。」

 

中越はそれを聞いてから渡された紙を開く。

 

「どういうことだ?」

 

そこに書かれていたのは中越にとって予想外の内容だった。

 

「いずれわかります。」

 

「わからなければどうするんだ?」

 

村上は愚問だといった様子で不気味に笑い

 

「なるようにしかなりません。」

 

とだけ言った。そして

 

「もう一つ頼みが。ラッセルはじきに自分が不十分だと気が付く。その時私は人の道を外れる。その時は積極的に私を批判してください。けれど、決して私の事を止めようとしないでください。注文が多くて申し訳ないですが、その紙は完璧に処分してください。」

 

中越は苦笑いをする。

 

「私たちの友情の終着点だな。マークと一緒に地獄で待ってろ。なるように生きていつか地獄で会おうじゃないか。」

 

村上は背を向けて

 

「さようなら中越中将。」

 

と中越の方に顔を向けることもなく立ち去る。中越も自分は大将だなどという野暮な指摘はせずに村上を見送る。

ポケットからたばことライターを取り出し最後にもう一度紙に書かれた言葉を見て喫煙室に入った。

その紙が燃えるのを見ながらたばこの火をふかす。

村上が何を考えているのか少しだけ考えてすぐにやめる。

ぼんやりと揺れる火をただ眺めて彼はいつもの仕事に戻っていった。

 

 

第五回緊急作戦会議

 

「何かないのか?そろそろ結論を出さないと敵の攻撃が再開されるぞ。」

 

ラッセルの目には焦燥が浮かんでいた。

二サエルの裏切りから三週間、大スンダ諸島の攻勢からニか月以上が過ぎて敵の再編がすでに完了しいているのが明白だったからだ。

にもかかわらず今まで慌てていなかったのは彼の尊大な自尊心が思考を邪魔したからだろう。

だがそれも終わった。希望的観測の余地などなかった。

 

「まずはこの敵部隊を叩く。誰か、艦隊を動かしてくれ!」

 

「ラッセル司令長官。敵部隊の兵力は2000万。その上、部隊の構成すらわからない。打つ手なんかあるはずがない。」

 

「なら、あなたの作戦は何です!竹野提督!」

 

ラッセルは声を荒げる。そんなことをしてもどうにもならないのに。

 

「損害を受け入れることしか私たちにはできません。」

 

士官たちは全員黙り込む。だがラッセルだけは立ち上がる。

 

「そんなことできない!」

 

村上は静かに目を閉じてラッセルのむずがゆい理想論を聞く。

崩壊目前の国家の指導者のようにうわ言のように攻守一転の一手が存在していると信じて疑わない妄想だとも言えた。

 

「ならその一手が存在すると信じていつまでも言っていることですね。」

 

ラッセルの道化の仮面に一瞬の不安が生じたことを村上は見逃さなかった。

そのまま会議は何も進まぬまま終わり村上はまたも一番最初に会議室を後にする。

だがいつものように情報部や仮のデスクに向かうことはなく移設された司令長官室に向かった。

物陰から扉を見ながらラッセルを待つ。

彼は会議が終わってから一時間ほどして部下数人を連れて戻って来た。

 

「司令長官。少しよろしいですか?」

 

ラッセルは動揺していたが妄信的な部下たちはそのことに気がつくことはない様子だった。

 

「わかった。はずしてくれ。」

 

ラッセルは長官室に入るとブラインドを下ろし扉にカギまでかけてようやく席につく。

それでもふてぶてしい態度を変えることがないことだけは評価に値する。

 

「私がどうしてここに来たのか分かりますか?」

 

「私の助言が君にとって不愉快でそれを認められないあなたは抗議のためにここまで来た。違いますか?」

 

本当にくだらない。そんなわけがないことぐらい自分でもわかっているだろう。

 

「いちいち否定する気にもなりませんね。私が言いたいことは余計なことをしてくれるなということだけです。あなたは強引に司令長官の席を奪った。だがあなたが対処できないことが山ほど起こり打つ手がなくなった。これからも同じことが起きるでしょう。名声も何もかもくれてやります。だから私の傀儡になって下さい。」

 

「口の聞き方に気を付けろ!」

 

もちろん村上がそんな制止を聞きはしない。

 

「あなたは傀儡の司令長官となればいい。汚れ仕事は私がする。」

 

村上はラッセルの目をまっすぐと見る。

彼の目は村上を直視することができずに視線をそらす。

 

「責任すらとらなくていい。ただ司令長官の席に座り私から言われた通り書類にサインして、でかい態度でふんぞり返っていればいい。自分の力不足ぐらいあなたが一番わかっているはずだ。」

 

「私が責められることは本当にないのか?」

 

ラッセルの態度は一変して擦り寄ってくる。

 

「今防衛連合軍内に内紛の兆しがあると気付かれるわけにはいかない。こうなってしまった以上、各国政府との交渉での顔になってもらうしかない。出来ればあなたの首を今すぐに飛ばしたいですがそう言うわけにもいきません。だから責任などとらせません。」

 

「わかりました。ではまず何をすればいいでしょうか?」

 

「村上傑を再度軍務に復帰させてください。」

 

ラッセルは首を傾げる

 

「それはあなたでは?」

 

村上はその疑問に答えることはない。

村上という名前で大々的に動けば批判にさらされるだろうし、動きにくくなることは間違いない。わざわざ偽名を使ってまでも軍務に復帰したにもかかわらず、そのすべてを無駄にする行為と言っていい。

だがそれでいい。そうすることが彼の使命だったからだ。

 

「私は竹野です。私のしている仕事は村上が引き継ぎまずので私があなたに会うのはこれが最後です。」

 

ラッセルはそれ以上追求することはなかった。

必要ない質問は自分の身を滅ぼす。そのことをよく知っていた。

 

「そういうことにしておきます。」




書くことがない。強いて言うなら三連休が二回もあってどうして投稿ペースが上がらないのでしょうか?
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