堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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今回の話はまあまあ重いです。
艦これ界隈で色々とありましたので今はちょっと鬱な話は見たくないという人はブラウザを閉じることをお勧めします。


計画通りのエラー

村上は強引な方法で作戦を推し進め各地から部隊を撤退させていた。

いったいどんな方法を使ったのか知らないが国連軍にも協力を取り付けていた。

部隊の大移動は各地で確認されていたが報道規制によってその事実は隠された。

情報部、CIA、MI6などが状況に介入してすべての問題は闇に葬られた。

ジャーナリストを数百単位で始末する暴挙も報道されなければ起きていないも同じだ。

だが勘のいい士官は気がついたことだろう。しかし勘のいい士官のほとんどは同時に賢くもあった。

必要もないのに身投げなどしない。

だが村上は知っていた。賢い士官の中にも自分が飛び込む釜の中の温度を予想できないものがいることを。

昔は彼もそうだった。死地だろうが、無謀な勇気を引っさげて差し出す必要もない命を差し出すのだ。

少将になって新たに与えられた執務室の窓から村上は港のほうを見る。

 

「エラーをうまく利用する。そうして生み出されるのが英雄....なのだろうな。」

 

そうボソッと呟いた。

 

 

オーストラリア パース

 

オーストラリア防衛の最重要拠点であるパース海軍基地は朝から慌ただしかった。

原因はほかでもない。

司令部からの移動命令だった。よくできた作戦計画を添えて説得力を増した命令だった。実際に作戦を実行してもそれなりの成果は得られるかもしれない。

しかしアムンゼン基地司令は司令部がこの作戦を実行するつもりがないことを知っていた。

つい先日、英国政府がオーストラリアに避難していたイギリス政府関係者や一部の金持ちをカナダにも移送した。

司令部はオーストラリアに住む8000万の人々を見捨てたのだ。

不思議と怒りは沸いてこない。きっと自分が司令部にいてもこれしか手がないことがわかっていたからだろう。

 

「やな役回りだな。」

 

ため息交じりにそうぼやくとそばで控えていた不知火がそちらもまためんどくさそうに発言する。

 

「私にどうしろと?」

 

若干の怒気を含んだ声だがアムンゼンは特に気にすることなく不知火に絡んでいく。

 

「不知火ちゃーん!こっちに落ち度がないのにやりたくない作戦やらされたらどう思う?」

 

「それでもやるのが軍人です。それが嫌なら出世してください。」

 

不知火は雑にあしらったが長い付き合いでこの男が司令として優秀なことは知っている。

オーストラリア東岸からの撤退戦でこの男はタスマニア島をうまく用いて予想されていた損害の半分程度で撤退を成功させた。

国連軍が影響力を増す中でもうまく立ち回りそれなりの連携を維持していた。

総兵力45万近いこの基地を三十代の若さで任されるだけのことはある。

不知火がアムンゼンに初めて会ったのは3年前。初日からなれなれしく、だらしがなかった。

 

「司令長官がラッセルになったらしいから出世は無理だね。」

 

「ラッセル長官に直訴してみれば?この作戦ではだめです。って。」

 

「この作戦はラッセルのじゃない。あんな奴にこんな作戦を立てる能力はない。」

 

不知火は作戦資料を見る。よくできた作戦でやりたくないと言い出す理由がわからなかった。

 

「ならこの作戦のどこが問題なんですか?」

 

「本当にこの作戦を実行するならば何も文句はない。でもこの作戦はこっちを納得させるためのものでしかない。」

 

「では作戦の真意はなんです?」

 

「オセアニアの放棄。ぐらいかな?」

 

一瞬不知火は固まったがすぐにいつもの様子に戻る。

 

「何を馬鹿な。」

 

「最近通商破壊が激化して鉄の輸出が激減したらしい。対応しちゃいるが敵は衛星を使ってこっちの輸送船を正確に狙ってくる。いつ襲われるかわからない鈍足で巨大な輸送船を守りながら日本や大陸に向かうのはむつかしい。この基地もやがて物資輸送が滞ってジリ貧になっていく。そんな風に全体が毒で破壊される前に壊死しかかった腕でも足でも切り落とすってことだ。」

 

「避難はどうするんです?」

 

「避難などできやしないから避難させないということなんだろう。命からがら逃げてきたハワイやニュージーランド、太平洋の島々の人々はここで死ぬことになる。」

 

資産家や研究者は避難させる気だろうが、受け入れ先の政府が必要としていない難民は深海棲艦に惨殺される未来しかない。

 

「深海棲艦に人間のような加虐趣味がないことだけが救いだな。」

 

「珍しく嘆くだけですね。」

 

アムンゼンは執務机に突っ伏して腕を伸ばす。

 

「やりようがないからな。抵抗すれば被害が増える。手勢数百だけ率いて最後の抵抗するぐらいなら許してもらえるかもしれないがな。」

 

文句を言っても更迭されるのがおちだろう。

そうなるくらいならばれない程度に小さな抵抗をさせてもらおう。

 

「このリストに載っている人間を避難させてくれ。」

 

「人の価値をあなたが決めるの?」

 

「そんな大それたことじゃない。生きる価値がある人間を決めるんじゃなくてこんなとこで死ぬべきじゃない人間を決めてるんだ。」

 

「同じことだと思いますよ。」

 

不知火の指摘が耳に痛い。

 

「皆いかれてるんだよ。俺も所詮はその一人。いかれてることはわかってるけどな、死ぬべきじゃない人間と言っているほうが気楽なんだよ。」

 

「合理的。ですけどらしくないですね。」

 

「どうしてほしいんだよ。」

 

アムンゼンは乾いた声で笑う。

 

「私は訓練がありますので少し空けます。」

 

そう言うと、不知火は秘書艦のデスクから立ち上がり無表情にアムンゼンの机の上に報告書をおいて執務室を出ていく。

それなりの付き合いだから分かるが彼女は不機嫌だった。

理由はわかっている。彼女も自分と同じなのだ。賢いからこそ撤退しかないことを知っているが、一方で武人として満足できる戦いを望んでいるのだ。

 

「少し話してみるか。」

 

アムンゼンは作戦計画の中に見覚えのある名前を見たのだ。

村上傑少将とは面識こそなかったがよく知っている。

国連軍随一の戦術家で、輝かしい戦果を上げていた。その戦術は行き当たりばったりのものではなく緻密に計算された戦い方で彼の戦術から多くを学んだ。

彼なら何か面白い案を出してくれるかもしれない。

 

「もしもし。私は防衛連合軍パース海軍基地司令のミレット・アムンゼン大佐です。村上少将でしょうか?」

 

『はじめまして?ですか?』

 

「ええ。もっとも私は昔からあなたのことを知っていましたが。」

 

『それで。ご用件は?』

 

「はい。私たちに出された指令についてですが、あの作戦は偽物ですよね。」

 

村上はそれを聞いても少しも慌てることなく答える。

 

『突拍子もないことを言いますね。』

 

「あなたも知っているでしょう?この基地は放棄される。違いますか?」

 

『仮にそうだとして、あなたが抵抗して何になるんです。』

 

アムンゼンは違和感に気がついた。

声には抑揚がなく、かつてのように善良で熱い男は電話越しにはいないのかもしれないという考えが頭を支配していく。

 

「武人として守るべき人々に何も伝えずにこの基地を去ることはできません。」

 

『武人?それはあなたがそう思い込みたいからそう名乗っているだけでしょう。あなたはそんなよくわからない概念である以前に防衛連合軍という組織に属する一パーツに過ぎない。命令を拒絶したければそれ相応の権力が必要です。あなたにはそれがない。』

 

「しかし昔のあなたも同じだったはずです。」

 

『昔の私は勇敢と無謀をはき違え、危険な綱渡りがたまたまうまくいったために能力があると勘違いしてしまった。そのひずみが限界を迎えたのがソロモン海での惨劇です。』

 

 

「昔のあなたならこんな作戦に同調したりしないでしょう!」

 

『最大多数の保護のためインドネシアだろうが、ノルウェーだろうが、見捨てなければならないこともある。それが現実です。被害を小さくするのが私たちの仕事だ。君はそんな私を変わってしまったと嘆くのかもしれないが本質は何も変わらない。』

 

「いまなんと?まさかオセアニアだけではないのですか?」

 

『私にはそれを答える必要がない。』

 

「上層部の独断で生き残る人間を決定するするつもりですか?」

 

『それを言うなら君がここに電話をかけたことも全く同じ行為ですよ?どうせなるべく多くの人々を助けられないかとでも聞くつもりだったんでしょう?一体どうやって助ける人間を決めるんです?あなたによくしてくれた人間だけを助けるのですか?倫理の話をひとまず無視して答えても、そんな都合のいい作戦はない。』

 

「....あなたなんでしょうか。」

 

『作戦を考えたのが誰なのか聞いているのであれば、その通りです。』

 

「違います!実質的な撤退指示を出した人間は誰なんです!」

 

『権力と当人の能力とを吟味すれば数人に絞ることができると思いますよ。要件が済んだのならもう切りますよ。くれぐれも変な気を起こさないことだ。いつでも君の首ぐらい飛ばせる。物理的な意味も含めてだ。』

 

通話が切れたことを電話が主張するがしばらく受話器を戻すことができなかった。

いったい何があったというのか。

 

「提督!どうしたのですか?」

 

タイミング悪く執務室には入ってきた榛名が駆け寄ってくる。

ハイライトの消えた目でずっと壁を見ている提督が異常に思えたのだろう。

 

「ありがとう。少し落ち着いた。」

 

榛名が淹れたコーヒーをブラックで流し込みようやくまともな思考回路が戻ってきた。

自分がどうするべきなのかを考える。

何をどうあがいても映画のように全員が助かり、大手を振ってシドニーを凱旋することは不可能だ。であるならば上層部の決定に従って撤退するべきか?

恐らくそれも正解ではない。どう対応しても正解とはならない。

ならば少しぐらい自由にやらせてもらおう。

 

「突然のお電話申し訳ございません。防衛連合軍パース海軍基地司令ミレット・アムンゼン大佐です。初めまして中越大将。」

 

 

 

ブリテン島 ブリストル難民指定区

 

「ビクトリアお姉さん。はい、これお礼。あんまりおいしくはなかったけどね。」

 

ヴィクトリアスは腰を曲げて目の前の小さな女の子に目線を合わせる。

少女、いやまだ幼女と言うべきだろう。

そんな子供にフィッシュアンドチップスは早すぎたのかもしれない。

 

「私の名前はヴィクトリアスよ。はい。これは紅茶。苦いかもしれないけどあったまるわ。それと任務で少しここを離れなきゃいけなくなったの。その間はお母さんを支えてあげるのよ。」

 

そう言って少女の髪をワッシャワッシャとなでる。

少女の母は右足と左目を失った状態でこの難民キャンプに来た。

船団護衛中に遭遇した未登録の輸送船にこの少女は乗っていたのだ。

顔と肌、訛りから見てアイルランド人だろう。

祖国は深海棲艦の占領下にあり、父親も恐らく動員され戦死したのだろう。

 

「うんわかった!」

 

少女ははにかんで笑う。

ヴィクトリアスは少女が見えなくなってから小走りで基地に向かう。

彼女が所属している部隊は本来ならばもう出撃していなければならなかった。しかし、提督は少し頼りないが優しい人で作戦前に一声かけておきたいというヴィクトリアスの要望に応え出発を半日遅らせてくれた。

 

「遅いな。ヴィクトリアス。」

 

「ごめんねArk。」

 

若干ご機嫌斜めなアークロイヤルをなだめつつ艤装を装着していく。

その時だった。砲撃音が聞こえてきたのだ。

沿岸部が砲撃されているのはもう日常茶飯事だったがそれなりに海から離れたこの鎮守府にまで砲撃音が聞こえるのは珍しい。

 

『国連軍第189装甲師団から協力要請が来た。遠征用の予備弾薬はおいてすみやかに出撃してくれ。』

 

ドックの天井に設置された古びたスピーカーから提督の指示が飛ぶ。

 

「了解。Victorious出撃!」

 

「Ark Royal続いて出撃する。」

 

ヴィクトリアスはドックを出たその瞬間に茫然と水面に立ち尽くした。

今まで戦場で取り乱したことはなかった。

 

「何だこれは....」

 

アークロイヤルは案外冷静で直掩の戦闘機を速やかに上げる。その戦闘機からもたらされる情報は信じがたいものだったが。

 

「軽く百万はいそうだな。」

 

飛来する攻撃機もゆうに1万機を超えているだろう。

 

「Victorious直掩を上げろ。お前なら自分に攻撃を仕掛けてくる攻撃機だけを落とすぐらいできるだろ?」

 

「さすがにこの数だと防ぎきれるかわからないけど。」

 

アークもヴィクトリアスも軍人としての意地を見せ自分を鼓舞して前進を始める。

 

「おい提督指示をくれ。」

 

『....ガ....ジジッ....』

 

しかし無線に返事はなかった。

 

「まさか!」

 

ヴィクトリアスが気が付いた時には遅すぎた。

敵は頭を真っ先に切り落とした。

高高度から誘導爆弾を落として鎮守府施設を直接攻撃したのだ。

 

「嘆いてる暇はない。私が指揮を継ぐ。全艦速やかに出撃、深海棲艦は陸上も進めるが陸上は国連軍のテリトリーだ。ある程度は時間を稼いでくれる。私たちはエイボン川を北上して敵本隊を損害覚悟で押しとどめる。」

 

『国連軍第198装甲師団師団長のパージルだ。この際伝統なんてどうだっていいクリフトン吊り橋を土台の崖ごと吹き飛ばせ。もともと狭い川だ。それで川からの侵攻経路はつぶせる。運河にでも入られたらたまったもんじゃない。』

 

「了解です。聞いた通りだがこっちで指示を付け加える。運河の入り口を守る部隊も必要だ。隊を二つに分ける。いつも通りで。私はクリフトン吊り橋の破壊に向かう。ヴィクトリアス、運河の守りを頼めるか?」

 

「わかった。でもそれでいいの?」

 

「どちらにせよ死ぬのは変わらん。」

 

アークロイヤルはどうやら開き直ったようだ。

 

『パージルだ。あらかじめ伝えておかねばならないことがある。私達は配置転換と装備の点検のため通常時の3分の1程度の兵力しかいない。時間はそんなに稼げない。そちらの援軍はいつ来る?こんな大規模な侵攻なんだまさか見殺しってことはないだろう?』

 

「残念ですがこちらの指揮官はすでに死亡しています。援軍の要請は難しいかと。」

 

『そうか。こっちは手がいっぱいで飛行隊の一つも回してくれないそうだ。』

 

ヴィクトリアスは黙り込んだ。ここまでやられて気がつかないのなら馬鹿だ。

自分たちが見捨てられたことぐらいわかった。移動命令が出たのはこのためだ。

 

『Victorious集中しろ。余計なことは考えるな。私とSwordfishで何とかしてやる。』

 

アークロイヤルの声が聞こえる。

悩んでもどうにもならない。

 

「ごめんArk。ネルソン指揮頼める?私もあっちに加勢する。」

 

「まかしておけ。私はビックセブンだぞ。」

 

その姿と艤装には自信が溢れ本当に頼もしいのだが、どうしてこんなに不安なのだろうか。

 

「うん。まあお願い。Ark死ぬ未来が決まってるならどっちにいても同じでしょ。」

 

『まあいい。来るのなら急げ、待ってやらないぞ。』

 

ヴィクトリアスは機関をぶん回して大急ぎでアークロイヤルに追いつく。

彼女に近づけば近づくほど攻撃は激化していく。

機関性能が低下して落伍した艦娘の顔には恐怖が浮かんでいた。しかし立ち止まることはできない。

 

「Ark!やっと追いついた。」

 

そう声をかけると一瞬こちらを見て

 

「よく来たな。実に燃える戦場だ。」

 

口ではそう言ったがその顔は険しかった。

すでに敵部隊の先行隊とこちらの戦艦部隊は混戦に入っていた。川幅は十五メートルあるかないかぐらいでお世辞にも戦いやすい戦場ではなかった。けれどそれは相手とて同じこと。

 

「Fire!薙ぎ払ってやる!」

 

ウォースパイトが強引に敵を薙ぎ払いながら前進していく。

近づく小型艦は吹き飛ばし、隙を見せた敵戦艦の口に直接砲撃を叩き込む。返り血で真っ赤に染まった艤装には次第に傷が増えていく。当然ウォースパイトの体もどんどん傷ついていく。

 

「まだ、まだ沈まない!」

 

そこには気弱な淑女はいなかった。

 

「ここから出て行きなさい!」

 

ウォースパイトは次々に深海棲艦の死体を積み上げていく。

もちろんほかの戦艦も奮闘していた。

だが敵の物量はあまりにも圧倒的過ぎた。

技量や戦術ではどうしようもない差があった。

艦娘一体が敵を100体倒せたとしても足りないだろう。

 

「補給はまだ?」

 

ウォースパイトが叫ぶと混戦の中で占守が弾薬箱を彼女のもとに届ける。

強引に弾薬を装填する。装填が完了するまでの間は王笏で敵を殴りつける。

それでも足りなければ副砲で弾幕を張って敵を押し戻す。

主砲の装填完了までの時間は稼げたが、短期間での連続射撃で主砲は大きなダメージを受けていた。旋回装置が故障して仰角と俯角しか動かせなかった。

艤装のほとんどがまともに動かないにもかかわらず体をひねり射角を合わせて、射撃を繰り返す。

だが、そこまでだった。

気がつくと前線を張っていた戦艦たちでいまだに立っていたのは彼女だけだった。

すでに息絶えているもの、声も出せずにうつろな目で死と生の狭間を徘徊しているもの、意識はあっても戦意を喪失したもの。

前進するために無理をした結果だった。

 

「ドケッテ....イッテルノ。」

 

そんなボロボロの彼女の前に戦艦水鬼が立ちはだかった。

戦艦水鬼だけではない。その後ろには強力な深海棲艦が大量に並んでいた。

それでもひるむことなく、ウォースパイトはすぐさま副砲で応戦するが当然効くはずがない。

 

「やるじゃない....」

 

「バカ二シテルノカ?」

 

「バカにするも何も、お前は馬鹿だ。」

 

アークロイヤルはSwordfishを深海水鬼に向けて射出する。時代遅れの複葉機が何かできるわけもなくすぐに撃墜される。

しかし、深海水鬼が一瞬隙を見せたその時

 

「All-out salvo!!!」

 

ウォースパイトの砲門全てが火を噴いたのだ。

戦艦水鬼は一瞬慌てるが自分に被害がないことを確かめて嘲笑する。

 

「バカハオマエタチダ。」

 

「やっぱり馬鹿だな。」

 

戦艦水鬼は倒れてきたクリフトン吊り橋に押しつぶされる。その程度では死にはしないがシェフィールドが下敷きになって動けなくなっている戦艦水鬼の口に魚雷をねじ込む。

 

「フガッ!ンゴッ!」

 

何かわめいているがそんなの無視だ。

設定した時間どおりに魚雷は起爆され頭を粉々に吹き飛ばした。後ろにいた深海棲艦もがれきの下で徐々に力を奪われていくだろう。

数十トンはあるであろう瓦礫をすべて吹き飛ばして立ち上がることができるほど深海棲艦は手のつけようのない化け物ではない。

 

「やっぱり馬鹿だな。」

 

アークロイヤルがそう笑ったがウォースパイトは苦しそうな声で

 

「思ってたよりは、馬鹿じゃなかった...みたい...ね。」

 

と言った。

振り返ると腹部に大穴を開けたウォースパイトが王笏を杖にして必死に立ち上がろうとしていた。

戦艦水鬼は自分に被害がないことを確認して嘲笑しながらも確実にとどめをさしていたのだ。皮膚全体でのダメージ分散がほとんど機能しないほど痛めつけられていたウォースパイトが戦艦水鬼のゼロ距離射撃をまともに食らって耐えられるはずがなかった。

 

「大丈夫よ。高速修復材を使えば。」

 

ヴィクトリアスは言葉の途中で途中でハッとした。

鎮守府施設は破壊されたのだ。修復などできるはずがない。

 

「ありがとう。でも私は満足。これで時間は稼げるでしょ?もう行って。沈むとこなんて見られたくない。」

 

最期の最期まで不運な不沈艦として漂流した戦艦HMS Warspiteのようにはなりたくないのだろうか。

いや、きっとそうではないだろう。彼女は同じように最期まで抗って見せたのだ。ただでは終わらないと鮮烈な最期を飾ったのだ。

離れていくアークロイヤルとヴィクトリアスを静かに見送りついに彼女は再び、水面に膝をついた。水深は30cmもないようで、腿を不快な泥の感触がなでる。

しかし、不思議と痛みは感じない。

水面に全身血まみれの姿が映るが、それが自分の血なのか返り血なのかさえわからない。

お世辞にもきれいな水とは言えなかったがそれで十分だ。ウォースパイトは自分の顔を洗い、返り血を落とす。

 

「これが、戦場で倒れるということなのね。」

 

深海棲艦は橋の残骸に行く手を阻まれ彼女の周りだけは静寂に包まれて、周囲にはほかの艦娘も静かに横たわっていた。

自分が守れなかった者たちだ。それでも守れた者たちは確かにいたのだ。

彼女は最後に少しだけ微笑んだ。

戦場には似つかわしくない静かで安らかな最期だった。

 

 

「Arkこれからどうするの?」

 

「一度運河まで退いて最後の防衛ラインを構築する。可能な限り戦ってテンプル・ミーズ駅までのルートを死守する。私たちが生きている限り、敵に運河を使用させるな!」

 

アークロイヤルは無線を使って全体に指揮を飛ばす。彼女は本当にたくましかった。

 

「わかった。」

 

ヴィクトリアスもまるで買い物を頼まれたかのような軽いノリで彼女との心中を承諾した。




ウォースパイトが嫁艦の皆様....許して。
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