堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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兵士と目。

「で、どうするのよ?」

 

空母たちは困り果てていた。飛龍もいい加減非を認めたようでおとなしくなっている。

 

「あの程度の攻撃で気を失う提督が悪いんじゃないかな?」

 

「黙りなさい二航戦。」

 

飛龍の必死の言い訳を加賀はばさりと切り捨てる。飛龍はまた下を向く。

案外艦娘同士では素直で、かわいげがある。

ただ、どう転んでも艦娘の本気の打撃はいくら訓練された成人男性でも耐えることができないと教育する必要があるようだが。

しかしどうしたものか。バレないように腕時計をのぞいてみるとしばらくしたら輸送船が到着するのだろ。いち早くここを抜け出したいが瑞鶴がここにはいる。突然動けば今度こそ息の根を止められかねない。

すでに飛龍の攻撃から完全に回復した脳で考える。考えなくともわかるのだが。変な誤解を招かないためには素直に自白した方がいい。

 

「飛龍。今私がここで目を開けて立ち上がったらお前は俺を殺すか?」

 

「起きてたの?」

 

飛龍が怪訝そうな声でそう聞く。

 

「下手に動けば殺さるかもしれないという恐怖があったからな。」

 

竹野は目を開け寝かされていたベットから立ち上がる。ベットから...。どこだここ?空母宿舎だと思っていたがどうやら違うようでかなり物々しい空間だった。

 

「余計なことをするなら殺す。それは変わらない。」

 

と飛龍が言うが頭にその言葉は入ってこない。

 

「どこだここ?」

 

竹野と飛龍たちがいたのは鉄格子に囲まれ窓一つない部屋。

 

「懲罰房だけど?」

 

瑞鶴が普通に答える。大丈夫なのか?

 

「規模的にはあってもおかしくないのか...?」

 

竹野が昔教育した艦娘たちにも当然ながら問題はあった。しかし艦娘のほとんどは精神的に幼く、牢屋にぶち込んでまで教育する必要性はなかった。

それでも鎮守府によっては憲兵隊が懲罰房に艦娘を連れて行くのが日常の場所もあったらしいが。

 

「出口はどこだ?輸送艦がじきに到着する。」

 

飛龍の目つきが鋭くなり

 

「私は騙されない。偉そうに余裕ぶって。私なんかいつでも解体できるから?だからそうやって慈悲を“与えてやる”とでも言いたいの?」

 

加賀が飛龍を制止するがそれを振り切り飛龍は胸倉につかみかかってくる。

 

「軽巡をたぶらかして、私たちに変な期待を抱かせて。何が面白いの?優しくするやつも戦果のために私たちを使い捨てる奴も結局同じ。自己満足のためでしょうが!」

 

胸倉につかみかかってくる飛龍の力はわめきながらも弱々しくなっていく。

 

「だったらどうする?私が自己満足のために軍に所属して自己満足のために人類を救う。自己満足のために艦娘をこの戦いの呪縛からとく。そう言ったらどうするんだ。身勝手な被害者ずらもいい加減辞めたらどうだ。私はお前の仲間を沈めたやつとは別の人間だ。いつか私はお前をこの海のどこかで死なせる時が来るかもしれない。けどな、空母三隻を失ってまでまで得るべき戦果であるかどうか、お前の昔の上司と違って考える。誰であれ部下の死に意味をもたせられなければ私はおとなしく死ぬさ。」

 

竹野が言えることではない。彼も分かっていた。彼は被害者ずらをして海軍をさり、部下を大勢殺した。彼にとってこの発言は飛龍に対する説教以上の意味を持っていた。

だが当然それには誰も気が付かない。

 

「...。」

 

飛龍は何も言えなかった。彼女はつかんでいた襟を離す。提督は襟を直してから懲罰房から去って行った。

 

「何も。言い返せなかった。」

 

飛龍は荒れた息を吐きながらそうつぶやく。加賀は飛龍の背中をさすりながら。

 

「気にする必要はないわ。あんな傲慢な男の事なんて。」

 

「そうじゃない。そうじゃないの。」

 

理論は無茶苦茶で言い返そうと思えばできた。

でも、戦争を、死の応酬が続く戦場を、あの提督はわかっていた。死への恐怖も知っていた。

新米の提督?そんなわけがない。

私達艦娘と実在した艦艇に因果関係はない。あったとしてもそれはオカルトの領域だ。存在しないの山口提督の記憶。

その記憶の中の山口提督と彼は違う。でもあの時代を生きていた人間と同じ目をしていた。吹き飛ばした時もそうだ。

彼の目には恐怖ではなく不満と安らかさがあった。自分を酷使した提督にも自分のことをケアしようとした提督にもない目を、あの提督はしていたのだ。

 

竹野は帽子をかぶりなおし時計を見て小走りで港に向かう。

すでに水平線に輸送艦が見えている。

輸送艦は深海棲艦出現前のものであり艦娘たちとは比べ物にならないほど大きく、言い換えれば超巨大な的である。

その分積載量も多く一年分の資材を一気に輸送できるほどの能力があった。

少し沖合で輸送船は止まり小さなボートで船員が向かってくる。

 

「お疲れ様です。ここの鎮守府への輸送は久しぶりで揚陸用のクレーンの点検を先に行います。」

 

船員はつなぎを着た数人を連れて潮風でさび付いたクレーンに上って行った。それを眺めていると護衛についていた艦娘が接近してきた。

 

「帰りの護衛はいらないだってよ。」

 

天龍が報告してくる。

 

「わかった。解散ののち艤装解除。ゆっくり休め。明日は朝から訓練を再開する。」

 

護岸から天龍達を見下ろす形で指示を出し視線を再びクレーンに戻す。すると作業員の一人がこちらに駆け寄ってきて言う

 

「潮風のダメージがひどくて使えそうにありません。船のクレーンで揚陸しますので人員を貸してもらってよろしいでしょうか?」

 

こちらが困った顔をすると。

 

「やっぱり大変ですか?」

 

そう聞いてくる。

 

「もう、二度ほど殺されそうになりましたよ。」

 

冗談ぽく言ってみるがどちらも本当に命の危険を感じた。

 

「わかりました。私達だけで何とかしてみます。」

 

「だめそうなら護衛についてた軽巡たちに声をかけてみますが、あんまり期待しないでくださいね。」

 

その夕方軽巡たちに探照灯で揚陸作業を支援するように指示するとその光に飛龍が申し訳なさそうに飛び込んでいき揚陸作業を手伝い始めた。

瑞鶴は少し離れたところでわなわなしていたが加賀や翔鶴など空母の参加により揚陸作業は朝までには終わりそうなペースになっていた。

それを横目で見ながら明日の練習時間を書き直す。

さすがに徹夜で揚陸の手伝いをさせた軽巡をそのまま訓練に参加させるわけにはいかないからだ。

そうして順番は駆逐、重巡、戦艦、空母、軽巡に決まった。海防艦も数名いるようだが駆逐と同じ時間に設定した。

潜水艦は通商破壊作戦の指示も出ていないため後回しだ。空母や軽巡に仕事をさせておいて自分が寝るのはさすがに忍びなかったが彼は明日の早朝から仕事が大量にあるため、時間の変更をアナウンスしてそのまま床についた。

 

 

竹野が起きた4時頃には揚陸作業は終了していたようで数名の作業員がクレーンを叩いたり眺めたりしている。損傷の状態をチェックしているのだろう。

補給基地としての役割を果たすためいつか修復したいが戦果の一つも上げずに形だけ整備するわけにはいかない。

だが竹野は少し不安だった。訓練をアナウンスしたのはいいが軽巡と空母以外が来てくれるのか心配だった。

彼女たちは戦いたくないのでは?そんな考えが頭をよぎる。そもそもなぜ彼女らは戦いを強要されているのか考えたことは何度もある。

だが一度も結論は出てこなかった。戦闘本能としか説明できなかった。狩りでもないのに命を懸けて戦う。竹野は頭を振りその考えを飛ばす。どれだけ考えても結局人間だけでは今起きている事態に対処できないし、彼女らもこの戦いが終わるまで人間の束縛から逃げられはしないのだから。

本土の精神科医からのメールだとか途中で読むのをやめた報告書や供述調書を読み時間は六時を回ろうとしていた。

 

「そういえば。誰が総員起こしをかけるんだ?」

 

着任からいろいろとあって完全に忘れていたが総員起こしがこの鎮守府に来てから一度もかけられていないことに気が付いた。

秘書艦が担当することになっているがそもそも秘書艦がいないのだから当然と言えば当然なのだが。

自分でかけようかと考えたがひとまず今日は、やめておくことにした。駆逐に通達した時間は8時。それまでに時間もある。

そういえば食堂に行ったことがなかったと気が付いて竹野は食堂に向かうことにした。鎮守府本館から食堂のある棟は少し離れていたがその間に誰かと会うことはなかった。恐らく重巡クラスの艦娘が、遠くを走っているのは見えたが。やはり避けられているのかもしれない。

じわじわと心に来る攻撃だ。

 

食堂は簡素なものだった。内地ではないこの場所では新鮮な食材は入手が難しい。

それは仕方がないことで今回揚陸した資材もやはり長期保存がきく代わりに味に関しての評価が微妙なものばかりだ。

それでも食料は一年分はなく三か月もすれば無くなってしまうだろう。週一で遠征に出てもらえるようになればもう少し状況は改善できるのだが。

食と娯楽は部隊の士気に大きくかかわる。必要そうなものを一通り見て回りメモを取る。司令官の仕事ではないが、鎮守府の整備などをのんびり考えるのもいいものだ。

 

「よう提督。何してんだ?」

 

天龍が話しかけてくる。彼女の傷は浅く特に意味もなく話しかけてくれる程度には回復していた。

 

「兵站は重要だからな。少し視察がてら見に来たとこだ。」

 

「でもここ使ってないぞ?」

 

「ならどうやって。」

 

「イムヤとかが魚を取ってきて外で焼いて食べてる。後は畑でなんか育てたりしてたはずだぞ。」

 

なかなか無茶苦茶な鎮守府だ。

 

「自給自足も悪くはないが軍隊として活動するうえで兵站確保にあまり時間をかけるのはよろしくないな。」

 

「それもそうだけど、前の提督が何もくれなかったから仕方なくやってるんだよ!」

 

またも、憲兵隊の報告に乗っていない新事実だ。本当に無茶苦茶やっていたのだなと実感しつつはたしてその程度の食事だけで艦娘として能力を発揮できるのか疑問だ。

 

「天龍。今から訓練をすると言われて全力が発揮できそうか?」

 

「昨日から寝てないからそれは無理だな。」

 

「睡眠の問題ではなくてエネルギーが足りるかだ。」

 

天龍は悩んでから言う。

 

「やっぱりわかんねえよ。」

 

「そうか、ありがとう。手間をかけた。」

 

竹野は天龍と別れて訓練所に向かうことにした。




このスペースはどう使うべきなんでしょうか。
あまりメタな話をするのもあれだし。何かしらネタがあるとき以外何も書かなくていいのかなぁ?
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