堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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神託か?執行力か?

三週間前 東京 アメリカ大使館

 

村上は大臣の車に同乗して大使館の前に来ていた。

 

「相変わらずこういう時、あなたの仕事は驚くほどお早いですね。」

 

村上は官僚ではないからこそ言える小言を言ってみる。

 

「草案を提出しなくても職を失うことはありません。けれど、君が持ってきた話は言ってみれば爆弾と同じです。手早く他人に擦り付けないと私の政治生命が危ぶまれます。」

 

「国民が聞けば激怒しますよ。」

 

村上は苦笑する。

 

「草案など放っておいても官僚が仕上げてくる。この国の政治家に必要なのはどんな非難にも、国民の悲痛な声にも聞いても動じない精神力ですよ。」

 

「あなたは下手に老害にならず、老獪になっている分たちが悪い。」

 

「そんな私を利用する君も同じ穴の狢ですよ。」

 

悪い顔をして微笑む大臣を置いて一人で車を降りると大使館のゲートに向かって歩いて行く。

 

「誰が来ているのやら。」

 

警備をしている兵士たちは格好だけは正規軍のそれだったが、いい加減村上にもわかるようになってきた。彼らは裏で仕事をするのが得意な奴らだ。

目を合わせずにこちらを観察するのがうますぎる。

だからと言ってこちらから仕掛ける意味も必要もない。

案内に従って応接室に入り出てきた紅茶に手をつける。

久々に味わって飲んだ紅茶の味は格別....でもなんでもなかった。

どちらかといえばまずい方の味だった。

顔をしかめていると笑顔で応接室に男が入ってくる。

 

「初めまして。私はポール情報官です。CIAの日本支部責任者です。」

 

ニコニコと笑顔を浮かべながら手を差し出してくる自称日本支部責任者に対して村上も笑顔を向けて握手をする。

歳は40代ぐらいだろうか?整っているわけでも不細工なわけでもなくただ地味で印象に残らない顔と雰囲気をまとっていた。

 

「それでご用件とは何でしょうか?」

 

流暢な日本語で話を始めるポールに村上は笑顔を向けたまま言い放つ。

 

「その前に自己紹介をしてくださりませんか?」

 

応接室はあふれんばかりの笑顔に包まれながら沈黙する。

ムーンにあらかじめ日本を担当している責任者を調べさせておいた。

たしかに名前はポールで顔写真もなかったため目の前の男が偽物である保証はない。だがここで指摘しなければ目の前の男の協力を引き出すのは極めて困難になるだろう。

そしてポールは突然表情筋から力を抜きトーンを下げて言う。

 

「もしお前が私の正体に疑問すら抱かないようであれば私は貴重な時間を無駄にしていたところだったよ。」

 

「それで?あなたは何者なんです?」

 

村上の問いには答えるつもりなどないようで、村上の言葉を無視して話を強引に進め始めた。

 

「俺はお前を利用すべきかどうか決めかねている。信用できるかどうかも怪しいうえに能力も不確かだ。」

 

「それはお互い様ですよ。CIAだからと言って無条件で能力と信用が保証されるわけではない。」

 

ポールはこちらの言い分を完全に無視して切り返す。

 

「主導権がどちらにあるのかは明確だ。ムーンを引き入れられたのはお前が彼女の必要とする力を持っていたからだ。だが俺にはお前が提供する小規模な軍事力など必要ない。要件を聞くかどうかは俺が決める。お前にはどんな魅力があるんだ?俺の興味を惹いてみろ。」

 

ポールは乱暴にそう言い放ち、ネクタイを強引にほどくと机に叩き付けて、ラップトップパソコンを取り出しこちらに興味なさそうに作業を始める。

 

「あなたはCIA長官、セドリック・フォン・ブラウン。そうですね?」

 

ブラウンと呼ばれた男は少しも動揺することなく作業を続け片手間に答えた。

 

「ある程度頭が回る人間であれば状況から判断できることだ。それだけか?」

 

ブラウンの薄い反応を村上の方も特に気にする様子もなく勝手に話を進める。

 

「この映像を見ていただけますか?」

 

そう言って村上はタブレットを取り出す。

 

「お待たせしました。」

 

そう画面の中の人間に声を掛けると返事が返ってくる。

 

『CIA長官殿に顔をみられるとまずいのだが。言っても無駄か?』

 

あの汚職官僚がそう文句を言う。

ブラウンは少しだけ意外そうな顔をして官僚を見る。

 

「厚生労働省職業安定局労働市場分析官の西村陽一。それで?」

 

ブラウンは一瞬で官僚の本名と役職を言い当ててまたパソコンの画面に視線を戻す。

 

『まさか幹部全員の名前を覚えているとでも?』

 

西村が驚きながらそう聞くとブラウンは答える。

 

「そんなわけないだろ。二サエルならやりかねんが俺にはそんなことできない。まさかそこまで暴れておいてCIAにマークされていないとでも思っていたのか?」

 

『どこまで知っている?』

 

「答える必要がない。まあ、大概のことはばれていると思ったほうがいい。」

 

『....』

 

西村は微妙な顔をして黙り込む。

 

「それで?彼とお前を仲間にするメリットの間にどんな関係性があるんだ?」

 

確かに西村は強力な手札となりうる人物。だがそれだけだ。

CIAにも同様の手札がある。それにすでにマークしている人物であれば村上を挟むことなくCIAが直接彼を脅すなりすればいいだけの話だ。

 

「AaronMankindはCIAによって作られた。違いますか?」

 

その言葉を聞いてブラウンが動揺の色を示す....わけがなかった。

 

「随分と脈絡のないことを言うんだな。AaronMankindはCIAと敵対している。それがどうして俺たちが作ったものだと?」

 

冷静に、そして興味なさそうにそう聞く。

 

「たしかにAaronMankindは体制に反抗し防衛連合軍に損害を与えている。だがそれは致命的ではない。彼らは民衆の不満をまとめ上げてガス抜きをしているようなものです。重大な損害が出た先日の攻撃も結局は後ろに二サエルがいた。あなた、あるいは二サエルは、カルトが出てくることを予見していた。だから先手を打った。反体制派の暴走をコントロールするために工作員を潜入させよりも組織自体を自分たちが作ったほうが手っ取り早い。」

 

「確かに幹部を全員こちら側の人間で固めればまずCIAの関与がばれることはないだろう。だがそれは妄想に過ぎないな。」

 

「では、どうして彼がAaronMankindとCIAのセーフハウスを行き来していたのでしょうか?」

 

村上は手札を切る。

 

『ほら、お前の上司だぞ。』

 

ブラウンは声が聞こえた画面の方を見る。

 

「そう言う事か。」

 

ここに来てようやくブラウンは作業をやめてこちらの方を向く。

 

「言わなくても分かっていると思いますが、彼女はスコラーヴェ・ジャコ・アナスタシア。AaronMankindの第1階位神官です。そしてあなたの部下だ。」

 

「記憶にないな。」

 

ここでもしブラウンが黙り込むのであれば打つ手はない。

潜入している工作員はCIAの名簿から消される。二人がつながっている証拠など存在しない。

彼らの頭の中をのぞいて。

 

「貴方は私を試すためにここまで来た。わざわざあなたの貴重な時間を割いてまでもここに来たにもかかわらず何の収穫もなく帰るつもりですか?」

 

「俺がお前の力を必要だとでも思っているとでも?」

 

「そうでなければあなたの行動を説明できない。」

 

「俺がお前のためだけに日本まで来たとでも思っているのか?何かのついでだとは考えなかったのか?」

 

ブラウンはなかなか認めないがここらで終わらせに行く。

 

「私はあなたが否定すればするほど強固に持論を支持します。あなたが何を言おうと無駄です。私の妄想が事実であろうがあるまいが私は以後あなたの邪魔をし続けますよ。」

 

ブラウンと同じ土俵で戦っても勝ち目などない。ならば場外乱闘でも何でもしてやればいい。

致命傷を負わせることできなくとも耳元で飛び回るコバエ程度になれればそれで十分だ。

 

「協力を断っても問題は生じないが、細々とした厄介なことを押し付けられる。最低限の実力を見せながら魅力ではなく負の要素で俺を動かすということか。」

 

ブラウンはこの応接室に到着した段階で、すでにどうするのか決めていた。

 

「いいだろう。君が望むなら隠されてきた真実を教えてやろう。」

 

「望まなければ?」

 

「隠されてきた真実があると知っていながら私の管理下にないお前を生かしておく理由はなくなる。」

 

「殺されないほうの選択肢でお願いします。」

 

「まず何から話そうか。そうだな、君の妄想の真偽を教えようか。間違ってはいない、だが正確には正解でもない。AaronMankindが成長を始めた段階で背教者を粛清すると言って幹部を大勢殺害して組織ごと乗っ取った。より、リアルなカルトを作るために教祖だけは利用させてもらっている。残念ながらCIAのカリキュラムと言えども、頭のおかしいカルト教祖を作ることはできない。奴らは根本的に頭がおかしいが謎のカリスマで人を魅了する。」

 

「そしてニサエルは教団を使ってすべての発端となった何らかの組織と通じていた幹部を殺害した。そして、その後、彼はその組織に寝返った。どうしてでしょうか?」

 

「お前もある程度わかっていると思うが、考えられることはいくつかある。彼が多くの内通者を組織にとって不利益をもたらしかねない存在だと判断した。あるいは交渉のためだけに虐殺を実行した。」

 

「ですが本当にそれだけなのでしょうか?」

 

ブラウンは一つため息をついたかと思うと封筒を取り出し机の上に置く。

そして一言。

 

「一から説明する必要があるな。Project Noah.これがすべての始まりだ。」

 

とだけ言った。

ノアの箱舟はよく知られた物語だ。神が穢れた人間に失望して善人たるノアに避難のための方舟を作らせて世界を一度洗い流したという話だ。

悪いとらえ方をするのであれば、神が自分の作品が気に食わないと言う極めて身勝手な理由で世界を破滅させ、自分にとって都合のいい人間以外を強制排除したという話だ。

 

「それは地球を方舟に例えて世界政府の設立を目指す計画だったり....しませんよね。」

 

「残念ながらそんな素晴らしい計画ではない。Project Noahは地球からアメリカ政府が選んだ人間以外を消し去るための計画だった。」

 

淡々と、何でもないかの様に、白状した。

それは、村上が考えうる限り最悪の想定だった。




あけましておめでとうございます
長期間お休みをいただきました。
不定期で定期投降が止まる可能性がありますがお気になさらず。
執筆が滞っているだけです。まあ、それが問題なんですが....。
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