英米による強制執行から2か月。防衛連合軍の各部署ごとに国連軍や米軍と統廃合を繰り返しどこかで綿密な打ち合わせが行われたいたのではないかと疑うほどの速度で組織の再編が進んでいた。
「それで?組織の名前は公募で決定するのか?」
「現時点ではその予定です。」
中越の質問に山本が答える。
「どうして私が二サエルとラッセルの尻拭いをさせられているのかねぇ。」
「信頼できる人間の中で最も能力が高いからでしょうね。」
「村上はもう信用に値しないと?」
「そんなことはないでしょう。彼は戦術研究課に配属されたそうですよ。」
「なら、情報部の竹野という男についてどう説明する?」
「それは....。」
「彼について調べてもらいたい。」
山本は微妙そうな顔をして
「私はただの秘書ですよ。情報部の人間を調べるなんて無謀なことはしません。」
「でも四年前まで村上の事をCIAから守っていたのは君じゃないのか?それとも防諜と諜報は違うと?」
「確かに私が裏でいくつかの件をさばきましたがその程度ですよ。」
「そうか。再開しよう。報告の続きを。」
「はい。ヨーロッパでの撤退戦では損害を許容範囲に抑え第4次防衛ラインまでの撤退を完了しました。これでフランス、オランダ、ベルギーのほぼすべてが敵の手に堕ちました。代わりに現在は山岳地帯で強固な防衛線を構築しています。」
「イタリア半島からの撤退も予定されていたな?」
「イタリアの保持は海岸線の長さからして現実的ではないという判断ですね。それが何か?」
「いや。イタリアの文化財はどうなってしまうのかと思ってな。」
「気持ちは分かりますが、文化財のためだけに犠牲を強いることはできませんよ。」
「もうこれ以上の損失は勘弁してほしいな。」
その言葉には気力がなく、中越の表情は大規模な攻勢計画の直前にはとても見えなかった。
「ええ。同感です。」
中越は目の前のブラックコーヒーを一気に流し込むと姿勢を正して言う。
「NewDeal作戦の準備状況は?」
「あなたが推した、飛龍案をアムンゼンが修正したものが認可されたようです。現在投入予定の部隊の再教育を待っています。」
「ようやく認可されたか。それで、第5次再編計画に問題は?」
「情報部所属になっている艦隊が報告を拒んでいますがそれ以外は問題ありません。」
「胡散臭い野郎の胡散臭い部隊か。」
「あなたにとって村上は部下以上のものだったのでは?」
「彼は官僚で私は軍人。いつかは決別する運命だった。彼は賢い男だ。私の信頼を得ることが最善だと判断していただけだよ。」
中越は少し悲しそうな顔をしてコーヒーを啜る。
「そう言うものですか。」
「軍人と役人は本来仲良くできないものさ。」
中越はそう言って大量の資料を憎たらしそうにまとめて立ち上がる。
「軍人の仕事をしてくるよ。後は任せたよ。」
そう言って部屋を出ていく。
「了解です。」
「ん。」
とだるそうな返事をして彼は基地に向かった。
旧防衛連合軍横須賀基地
「だから!何度言えばわかるんですか?私の部隊ならばこれだけの敵を相手にしても問題ありません!」
「落ち着いてください飛龍。君の大隊長としての腕は認めます。ですが、一騎当千の部隊に戦局の重要なポイントを任せるのはあまりにもリスクが大きすぎる。」
アムンゼンは怒鳴る飛龍をなだめながら海図を眺める。
「私の上官は中越司令です。たとえ階級が上であったとしてもあなたが私に命令をすることはできませんよ。」
「君は戦果を急ぎすぎています。どうしてそんなに慌てるんです?」
「貴方には関係ないことです。」
飛龍はそう冷たく返すがアムンゼンは飛龍がなぜこうも頑なになっているのかを知っている。
それに、関係ないなんてことはなく、飛龍が慌てる理由と自分は関係大有りだと言うことも知っていた。
「いいや。関係大有りです。君も私も同じ男に尊厳を引き裂かれた。違いますか?」
「だったらあなたはどうして慌てないんです?心をへし折られて向上心がなくなったとでも?関係があるからと言ってそんな人間を相手にする時間はありませんよ。」
「だから....!」
「いい加減にしなさいよ。」
アムンゼンの言葉は不知火によって途中で遮られた。
「飛龍さん、この男に何を言っても無駄ですよ。自分の少しばかりの才能で調子に乗っていたところを本物の才能に殴打されて腹を曲げているだけのつまらない人間です。でもあなたは違う。」
「なんてことを言うんです....。」
アムンゼンは小さく文句を言い、飛龍の辛辣な言葉に身構える。
けれど飛龍から辛らつな言葉が飛んでくることはなく彼女も小さく
「あの男がちらつく考え方が気に食わない。けれどそれは優秀な指揮官の考え方でもある。だからもっとムカつく。」
とだけ言って指揮所を出ていく。
アムンゼンは不知火は互いの顔を合わせて驚きの顔を隠せなかった。
「意外ですね。」
「意外だな。」
「飛龍さん....何があったんでしょうか。」
「村上、いや、竹野と決別したことが原因であることは確かだろうな。」
「貴方と同じくそれが良い影響をもたらしているのならいいんですが。」
「竹野が何をたくらんでいるのか知る必要がありそうだが....。」
「恐らく調べても無駄ですよ。噂では彼は部隊の艦娘に拷問を含めた訓練を受けさせているそうです。あなたや私のような人間が興味だけで知ることが出来るほど甘くない。」
「分かっているがどうして飛龍だけなんだ?」
「彼女が手に負えなくなったからでしょうか?」
「竹野の手に負えない艦娘を中越司令が半ば放牧のような状態にしておくと思うか?」
「中越司令が何かしら事情を知っているとでも?」
「そうは言わないが中越司令の行動には不可解な点が多い。」
「私の行動が不可解だと?」
他人の陰口を叩いてるときほど案外本人が近くにいるものだ。
「司令....。何でもないです。」
「おいおい。それはいくら何でも無理があると思わんかね。飛龍の事だろ?」
「ええ。まあ。」
「なぜ彼女だけが、村上、いや、竹野の手を離れたのか。私もよくわからん。確かに彼は私にほかの人間より多くの情報を与えた。だがそれはエピローグどのようにで振舞えばいいかと言った情報だけだ。」
「エピローグですか?」
「どうやるのかは知らんが彼にはこの戦争の終着点がある程度見えているんだろうな。」
「それであなたはエピローグでどうふるまうんですか?」
「詳しくは言えないが別に私の地位や権力が必要な行動ではないな。」
「飛龍はどうすれば?」
「好きにやらせてやれ。君は数か月前と比べれば随分大人になった。君はそろそろ保護者にならなければいけない。竹野は私に彼女を任せたが、ついでに押し付けてきた司令長官の職があまりにも重たすぎた。」
「貴方を司令長官にしたのは竹野なのですか?」
「そう考えると一番仮説に破綻がない。この話はここらで終わりにしよう。不知火、飛龍を呼んできてくれ。アムンゼン、他の指揮官を全員呼び出せ。New Deal作戦について説明を始める。」
同基地 戦術研究棟大型会議室
「司令長官の中越だ。今日は人類のこれからを決めることになる極めて重要な作戦が正式に認可されたことを報告したいと思う。すでに聞いていると思うがヨーロッパではすでに撤退が進み物資供給の総量も低下の一途をたどっている。にもかかわらず、旧防衛連合軍は戦力の温存を決定し批判を受けた。これ以上、失敗は許されない。」
中越がリモコンを操作して前面のスクリーンに作戦概要が表示された。
「我々はベーリング海の島々に同時上陸を行う。今まで深海棲艦は北極圏に近い海域での行動を避けていた。だが衛星による解析や、米軍の島嶼駐屯軍の交戦記録などから敵がベーリング海の島々を狙っていることは明らかだ。司令部はこの敵の動きを日本海への展開のための準備であると判断した。残念ながら旧国連軍にも我々にもカムチャッカ半島全域をカバーする地上戦力はない。そこで敵の飛び石を潰す。ろくな耐寒装備がない深海棲艦側が北極圏で長距離行軍するのは無理があるが、幸いなことにこちらには艦娘以外のものは量産する工業力がある。敵の進軍速度を圧倒して各個殲滅を試みる。そのままアラスカに進軍してアラスカの沿岸地域を確保する。中東とのパイプラインの寸断や中東が占拠される事態に対応するための保険としてアラスカの油田を日本が利用できるようにする。作戦目標はこんなところだ。」
「初の反抗作戦にしては少し弱いと思うのだがどうだね?」
アメリカの軍服を着た男が立ちあがり言う。
「アメリカ空軍代表のポール・スチュアートだ。初の大規模作戦は象徴的な側面を持つ。プロパガンダの意味を持たせるのであればハワイの奪還が最も良いとは思わんか?」
恐らくこの男はハワイの奪還が現実的ではないことを知っている。にもかかわらずどうしてこんな提案をしてくるのか?中越にはそれがわからなかった。
「ハワイを短期間奪還することが出来たとしてそこに駐屯する兵のための兵站をどう確保するつもりです?」
「空輸で充分な量を輸送できる。アメリカにはその力がある。」
中越がこのアメリカ人を黙らせるために“無理だから”と知ってしまえば彼の負けだ。
アメリカはできると言っているのに旧防衛連合軍はできないと言っているという最悪な構造が出来上がる。
目的はわからないが上で話がまとまったからと言ってそのやり方にただ同意して政府に忠誠を誓うほどアメリカ人の自我は弱くない。
「そうですか。ではそのプロパガンダがもたらす効果に、空輸でかかるコストとアラスカの資源程価値がありますか?」
「プロパガンダの効果は二度の大戦で我が国が証明している。我々の国の国民を鼓舞すれば一国で深海棲艦を蹴散らすことだってできる。」
「では未だに東海岸の主要地域を取り戻せていないのをどう説明するおつもりですか?」
「それは....。」
「アメリカの工業力は確かに凄まじい。ですがそれは国際組織と協力しない理由にはならない。私達が日本のためだけに見える今回の作戦を行うのは日本列島単体が世界のGDPの17%を持っているからです。軍隊にはプロパガンダが必要ですがプロパガンダが軍隊の目的ではない。それをあなたはよくわかっているはずだ。」
「まあいい。今回の作戦で我々が行うことはせいぜい後方支援程度だ。だが私がこのような提案をしたということを忘れるなよ。」
そう言うと男は腰を下ろす。
それを確認して中越は計画を再び話始めた。
「アムンゼン、あとは頼む。」
「わかりました。第一艦隊第一攻撃群司令のアムンゼンです。作戦の説明を担当します。まずこちらが用意した兵力に関しては先ほど配布した資料の通り艦娘250万、戦闘機470機、攻撃機250機、戦闘艦25隻、支援艦68隻、旧国連軍第105師団、第23空挺師団、第5海兵師団。アラスカ沿岸部への攻撃に際して米軍第十一空挺師団と第237自走砲大隊が参加します。」
「不十分だな。」
意外なことにもその兵力を見て少ないという感想が出た。
アムンゼンも中越も計画を進められる最小限の戦力だけしか用意できなかった。
しかし、数だけを見れば強大に見える戦力だ。
「少ないと?」
「敵が展開している守備兵力は500万、ミッドウェー島付近にはさらに数千万の兵力が展開されている。恐らく日本海へ侵攻するための兵力だろう。いくら寒冷地帯で敵の進軍速度が遅くとも攻撃されているとなれば話は別だ。ついでに言うのであれば敵に指揮官がいる以上寒いことを理由に進行速度が遅くなると仮定するのは都合の良すぎる解釈だと言わざるを得ない。そうした仮定の下立案された今回の計画は陳腐だと評価するのが適切だ。」
「ワーグナー大佐でしたね。私達はミッドウェー島付近の敵艦隊を認識していないわけではありません。ですが大抵の場所は敵の大部隊の救援が二日以内に到着しますがベーリング海は違います。早くとも5日かかります。その間に敵を殲滅すれば問題はない。」
「もし殲滅できなければ貴重な戦力を失うことになるぞ。」
「この程度の作戦すら、こなせないのであればどんな作戦であっても成功させられない。つまりそれは人類の全面敗北を意味します。だからこの作戦の成否は重い。我々がじわじわと死んでいくのか、それともまだ抵抗するチャンスが残されているのか。そんな綱渡りの始まりにすぎません。NewDear作戦から始まる第一攻勢計画のすべての作戦が危険な綱渡りです。我々にもう安住の地は残されていない。絶滅を受け入れるか、リスクを受け入れるか。二つに一つです。」
「そのリスクを受け入れるだけの価値が君の作戦、いや飛龍中佐の計画にあることを祈るよ。」
ワーグナーは険しい顔で半ば投げやりにそう言って席についた。
投稿頻度が死んでいます。すみません。