堕ちた提督   作:Yasoshima kakeru

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運と意志

今日は遠くで砲撃の音が聞こえる。恐ろしい。

少し前まで平穏な生活を送れていたのに。

どうして。怖い。憎い。新しい提督さえいなければ。提督がここに来てからいくらかの艦娘は彼をそれなりに評価し始めている。

彼女らの素直さもまた憎い。人の腐臭にだけは人一番敏感な私には彼が何かしらの闇、そう、言えない過去を持っているとわかってしまうからだ。

 

「扶桑お姉さま。起きてください。今日はいい天気ですよ。」

 

そう言って山城が私に肩を貸す。その肩を借りてボロボロになった体を起こして椅子に座る。

 

「お姉さま。先日物資が揚陸されたようで今日はいつもと違う朝食ですよ。」

 

いつもの朝食は海魚を雑に焼き、穀物などはめったに出ない。だが今日は珍しく白米もあるようだった。でも私はきれいに精米されたコメよりも粗くとも平和なあの焼き魚の方がましに思えた。

私たちは死ぬ運命だ。どうして死ぬことを知らない安全圏の人間に指図をされなければいけないのか。

そんなことばかり思ってしまう

 

「やっぱり駄目ね。」

 

「大丈夫ですよ。」

 

山城は微笑んでいる。ただ安らかな微笑みの陰に恐怖がにじんでいる事を見逃せるほど人の笑顔を素直に見ることなど扶桑にはできなかった。

 

 

竹野はドックに来ていた。建造はする必要がないが修理施設の稼働状態を確かめなければいけなかったからだ。

最初に見て回った時からドックの状態が悪いことに気が付いた竹野は輸送船に建築資材をいくらか積み込むように要請していた。

 

「いつから整備してないんだ?」

 

「俺が知るわけないだろ。」

 

軽巡の訓練が終わり、なんやかんやで天龍がドックまでついてきていた。

 

「ドックに入ったのはいつが最後だ?」

 

「俺は、ここに来る前。俺が来た時からもうこのドックは壊れてた。龍田ならもっと昔からいるからなんか知ってるかもしれねえ。」

 

「呼んだかしら?天龍ちゃん。」

 

相変わらず登場がいちいち怖い。

 

「龍田。ドックがいつから使われてないかわかるか?」

 

「さあ?大破のままでいる子たちもおおいわねぇ。その子たちに聞いてみたらどうかしら。」

 

大破のまま放置、記録上はなかったがやはり当然のようにそんな状態の艦娘がいるようだ。

 

「明石にここの修理を頼めないか?」

 

「彼女も大破してまともに動けないわよ。」

 

希望はへし折られる。だがどうして工作艦が大破しているのだろうか。

 

「そうか。でもひとまず明石を呼んできてくれないか。意見を聞きたい。」

 

 

天龍達が明石を連れてくるまでの間竹野はドック内をうろついてみるが当然妙案など浮かばない。

人心掌握と強引に言い切れば心理カウンセリングのような今までの行動は竹野の専門分野と言えるかもしれない。

だが、ドックの修理などどうやっても竹野の専門ではない。

そもそも鎮守府の外観は人類が作ったものだが機能を整備しているのは妖精たちであり人類がどうにかできる技術レベルをはるかに超えている。

妖精がどこにいるかもわからないこの鎮守府では何とか外観だけでもきれいにして妖精たちに戻ってきてもらうしかない。

 

「連れてきたぞ。」

 

天龍が明石を背負って戻ってきた。

 

「ありがとう。明石、わざわざすまないね。」

 

「いえいえ。」

 

明石は今までの艦娘と比べると初対面でかなり警戒を解いている様子だった。

竹野の感じていた空気感の変化は勘違いではなかったと少し安心する。

 

「それでどうすればいいと思う?」

 

「妖精たちは気分屋ですから、この場所が彼らにとって魅力的になればいいんです。」

 

「魅力的?」

 

「そうです。彼らは艦娘をサポートすることに魅力を感じている。だからここにこれば艦娘を手助けできると実感させてやればいいんです。」

 

艦娘の手助けに魅力を感じる。そんなこと初めて聞いた。昔は開発は開発の専門家たちが行い建造も修理も専門の部署があった。

だから竹野は妖精たちとのかかわりがほとんどなかった。

 

「なるほど。具体的にはどうすればいい?」

 

「このみすぼらしい場所を修理して湯でも張って損傷した艦娘をつけておけばいいんですよ。」

 

それでどうにかなるようには思えないのだが竹野がそんなを言っても始まらない。

明石は大真面目な顔をしてそう言っているのだここはおとなしく彼女の助言に従うべきだろう。

 

 

ドックもとい大浴場の修復作業は次の日から始まった。

訓練が終わった艦娘たちはドックの修理に向かい、どんどん交代していく形で作業を進めた。

明石が楽しそうに現場指揮を執っていたのでその間、竹野は訓練所で戦闘を教え、鎮守府本館で座学を教え、かなり忙しい日々を送っていた。

鎮守府の状態はかなり改善されており、艦娘たちからの竹野の評価はひとまずクズではないというのが共通認識になり始めていた。

いまだ竹野の掲げた目標には程遠いが艦娘たちの技能も向上しており順調かに思えた。

しかしドックの修理が終盤に差し掛かったころとんでもないトラブルが発生した。

竹野は訓練中に大きな爆発音を聞きドックの方向から煙が出ているのを発見した。

何事かと急いでそこに向かったがそこは悲惨だった。扶桑が交代で誰もいなくなっていたタイミングを計りドックを攻撃したのだ。

大破のまま放置され動くことも困難な彼女はろくに動かない体で射撃したため自分も吹き飛ばされたようで、瀕死の状態で発見された。

普通ならすぐに入渠させるが残念なことにできかけていたドックは扶桑の手で吹き飛ばされてしまった。

完全に竹野のミスだった。警戒すべき艦娘は未だに複数いたが少し状況が落ち着いていたせいで彼は油断をしていた。

まさか大破した艦娘が執念でドックを破壊しようと試みるとは思っていなかった。それに実弾の入った武器庫は固く施錠しており誰も実弾を使えないと思っていた。

だが違った。扶桑は自分が大破したとき持っていた弾薬を、一斉射分隠し持っていたのだ。

前任がそんなことに気が付くはずもなくそのまま扶桑は放置されていた。

ドッグを修理するということは大破している艦にとっていいものだとばかり思っていた。だが違ったのだろう。

扶桑は出撃などしたくなかった。艦娘が轟沈したことを隠し通すことは難しい。問題がありここに飛ばされてきた提督からしてみれば轟沈は内地に戻るためにも避けたいことだった。

だから大破した艦娘が出撃することはなかった。もし自分が修理されてしまえば出撃を命令されると思ったのだろう。しかし、その行動には不可思議な点も多く竹野には理解できない行動だった。

しかし、理解することが出来なければこの鎮守府をまとめることなどできない。

ここにいる艦娘は例外なく闇を抱えている。こうなることを予測できるようにならなければいつまでたっても改善の兆しはない。

 

 

「姉さま。」

 

山城が呼びかける声が聞こえる。私はまだ生きているのだろうか?あのまま死ねたらずっと安らかだったかもしれないのに。

 

「山城。ごめんなさい。」

 

私は恨まれるだろう。せっかく立ち直ろうとしていた娘たちから道を奪ったのだから。いいや。もしかした私を踏み台に彼女たちは前線に戻れるかもしれない。

そうであってほしい。私は解体されるのだろうか?憲兵はいつここに来るのだろうか?

 

「姉さま。どうして。」

 

山城が私の腹の上に顔をうずめて泣いていた。

 

「あなたのせいじゃないのよ。全部私が悪いんだから。」

 

もう感覚のない手を山城の頭に置く。

 

「あなたはあの提督とうまくやれるわ。」

 

扶桑は目を閉じる。今なら安らかに逝けそうだった。だがそれは許されなかった。

 

「身勝手な行動の責任はとってもらいます。」

 

加賀が現れほかの空母数名に体を持ち上げられ運び出されてしまった。責任を取る。何をしなければいけないのだろうか。そう思っているとそこらから持ってきただろうドラム缶に放り込まれる。

 

「ひゃ!冷たい。」

 

ドラム缶には水が張ってあり傷に染みる。何がしたいのだろうか。

 

 

「明石。ホントにこれで大丈夫なのか?」

 

「扶桑さんが完全に生きる意思をなくしていなければ。」

 

さっきまでの絶対大丈夫だと豪語していたがその自信はどこかへ行ったようだ。

まあいい。しかしただのドラム缶に魅力を感じるのだろうか。

そんなことを思っていると水面から何かが浮かんでくるのが見えた。

妖精の何も考えていなさそうな顔だった。竹野は安堵する。少し遅れて明石も気がついたようで

 

「提督!妖精さんです」

 

その言葉に対して竹野は頷いてその場を離れる。憲兵隊を呼んで今すぐにも全ての宿舎を捜索すべきなのかもしれない。

もちろん彼女らが捜索に同意してくれるとは思えなかったが。

 

「加賀。一つ頼めるか?」

 

今回は冷たくあしらわれることはなく

 

「何でしょう。」

 

と竹野に聞き返してくる。

 

「各宿舎を調べて危険物を没収してくれないか?」

 

「私達から武器を奪うんですか?」

 

加賀はそんなことを言っている。しかし竹野からしてみれば弾丸などなくても艦娘たちは自分を殺せるだろうと言いたくなる。

 

「もし君たちが丸腰だったとして、私が一人でここの艦娘全員を憲兵が来るまでの十数時間しのげるとでも?」

 

加賀はこちらを睨み。

 

「わざわざ訓練以外で働かされた上に、それを何度もやりなおすのは不本意ね。」

 

どうやら捜索に同意してくれたようだ。

 

「よろしく頼むぞ。」

 

 

扶桑の回復は早く山城と扶桑は執務室に入るなり土下座をはじめなかなか顔を上げなかった。

根本的に話が解決したようには思えなかったが明石の言うように妖精たちは竹野にはわからない何かを知っている。

彼らが扶桑の心情の変化をつかんだのだろう。それならば敢えて竹野が浅い説法をする必要などない。

問題は扶桑をほかの艦娘がどう思うかだがそれは全く問題ではなかった。立場が異なればここの艦娘たちは同じことをしていた可能性が十分にあったからだ。

 

「別に構わない。ただ無許可で所持している弾薬はすぐに返還するように。」

 

とくに竹野がいうこともなかった。彼は扶桑に謝罪しようかとも思ったがやめた。へんに謝罪したほうが偽善的で信用にかけるだろう。




執筆にあたりpixiv百科事典とか呼んでるんですがあれ面白いですね。

最後の数行を削除しました。伏線として張っていましたが使用する機会がなくなったので削除しました。
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