ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

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学級裁判編2

 

 はいどーもー!毎度お馴染み、モノクマの前回までの学級裁判!のコーナーですよ!

 え?今回が初めてだって?ああそっか、まだ1回目だったね。ごめんごめん。でも1回目じゃない人もいるんじゃないのかな。だから間違っても仕方ないのです。人は間違えてしまう生物なのです。人は愚かなものなのです。特にオマエ!画面の前のオマエ!

 

 メタいディスばっかしてたらブラウザバックされてしまいそうだから、早速本題にいきましょうね。コロシアイ学園生活最初の事件は、なななんといきなり被害者が二人も出てしまう殺意マシマシ悪意濃いめ害意カラメのハイカロリー事件でした!しかもその被害者は、誰よりもコロシアイを回避しようと頑張っていた“超高校級の語り部”益玉韻兎クン!そして時に優しく時に厳しく和やかな雰囲気作りに一役買っていた気分屋な“超高校級のサンタクロース”三沢露子サン!どちらも殺される理由なんてない人だっただけに、これはショックだね〜〜〜!甲斐さんなんて見つけた瞬間ぶっ倒れるくらいだから!ゲ〜ラゲラリ!

 そんでもって学級裁判は始まったわけですが、これがま〜〜〜見事なぐずぐずっぷり!まとまりはね〜わ手掛かりは足りね〜わシロ同士でさえ協力できてね〜わひどいもんですわ!でもま、最初の裁判だからこんなもんかな。いきなり二人も殺されて緊張しちゃってんのかもね。

 まあまとまりはないなりに、菊島クンや湖藤クンが中心になって事件の概要をさらったりクロが生存していない可能性を潰したり、いちおう前には進んでる感じかな。ナメクジよりものろまな歩みだけどもね。そんなスローモーションより退屈な裁判の中で、急に議論の中心に挙げられたのは王村伊蔵クン!いつも飲んだくれてふらふらしてるチビ太郎スマイルがこんなところで注目を浴びてしまって、とんでもないことになってるね!しかもどうやら三沢さんと事件のあった夜に会ってるらしいし……これはものすごく怪しいですなあ。こりゃ犯人特定まで急展開起きちゃう!?決まっちゃう!?うぷぷぷぷ!どんな裁判でも終わり際になると嫌が応にもドキドキワクワクしてきちゃうものなんだよ!さあ、今回の裁判はどんな結末を迎えるのか!それは果たして正解か、不正解なのか!それを見届けるのはオマエだよ!画面の前のオマエ!見届けてくれよな!

 


 

学級裁判 再開

 

 もしかしたら王村さんはとんでもない秘密を隠していて、命を懸けても守ろうとするかとちょっとだけ思った。でもそれは杞憂だったみたいだ。

 

 「おいらあ昨日……さっき甲斐が言った通り、冷蔵庫のぬか漬けをつまみ食いしてたよ。晩酌のアテに」

 「ちょっと!あなた昨日あれだけ言ったのにまたお酒飲んでたの!?甲斐さんに申し訳ないと思ってないわけ!?」

 「え?え?なに?」

 「昨日、甲斐さんがお酒を飲んで倒れた後、理刈さんが王村さんを叱ったんだ。それで、しばらくお酒は控えるようにってキツく言われてたんだ」

 「でも飲んだんだ?」

 「甲斐には申し訳ねえと思ってたけど、おいらぁこんなところに閉じ込められて、楽しみがそれくらいしかねぇんだ。夜中なら人はいねぇかと思って食堂で飲んでたんだよ」

 「マジもんの酒クズじゃねえか……!(アタシ)んとこの工場にも飲み過ぎて肝臓ぶっ壊したヤツがいたけど、それと同じだわ……!」

 

 王村さんは語り始めた。昨日の夜、何をしていたか。今のところは本当にひどい話しか出て来てないけど、ここから事件の手掛かりが見つかるのだろうか。お医者さんに聞かせる話じゃない?

 

 「で、夜も遅くなってアテがなくなってきたとき、いきなり食堂の扉が開いて三沢が入ってきたんだ」

 


 

 「あら?王村さん……」

 「ん?おお〜、みさわぁ!こんなぁ〜夜中にどした〜?」

 「ああ……あらあらあらあら。なんだかお顔が赤いですよ。何をしていたの?」

 「いやちょっとなぁ〜、アテがなぁ、なくなってきってんだよ……まぁこっち来ねぇ。こんな美人に酌してもらいやぁアテなんかいらねぇやな」

 「そう。()()()()()()()()()

 

 そう言って三沢のヤツ、にこにこしながら近付いてきたんだ。そんでおいらを立たせて、酒を注いだ猪口を持たせてから言ったんだ。

 

 「そんなにお好きなら、そのお酒、こぼしちゃいけませんね」

 「おう!あたぼうよ!」

 「頼もしいわね。じゃあ頑張ってね。()()()()

 「へ?」

 

 何のことか分からなくて、ぽかぽかの頭で考える暇もなく三沢は腰に手をやったんだ。そんで次の瞬間……!

 

 「いでえええっ!!?」

 

 ケツを引っぱたかれたんだ。

 

 「うふふふ!本当にちょうど良かったわ王村さん。私、なんだか今日は罰したい気分だったの!」

 「いだだっ!!だっ!!ちょ、ちょっ……待って!!ごめんごめんごめんごめん!!」

 「益玉君が大変なときに!甲斐さんがあんなことになって!理刈さんにもしっかり怒られて!みんなに迷惑かけて!まァだ懲りてないのかしら!!こんなに罰し甲斐のある人は初めてよォ!!」

 「おぎゃーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 


 

 「──てぇなことがありまして」

 

 気恥ずかしそうに頭を掻きながら王村さんが語ったのは、なんとも言い難い内容だった。私だけじゃない。みんなが白い目を向けている。

 

 「しょうもねえ……」

 「情けねえ……」

 「みっともねえ……」

 「ないない言うない!あーそうですよ!おいらぁ酒で甲斐がぶっ倒れて理刈にしこたま叱られたその日に性懲りもなく晩酌してぬか漬け盗み食いした挙げ句に三沢にケツしばかれておめおめと部屋帰って屁ぇこいて寝たしょうもなくて情けなくてみっともねえチビすけですよ!」

 「屁は知らんですな」

 「こういう大人にはなりたくないね」

 

 なるほど。だから地下倉庫で会ったとき、王村さんの歩き方がおかしかったのか。お尻が痛くて上手く歩けなかったんだ。そりゃあ恥ずかしくて言えない。

 それにしても散々な言われようだったし、散々な言いようだった。全部王村さんの自業自得だから可哀想とは思わないけど、最年長がこうも袋叩きにされるのを見るのはなんだか忍びない。早いところ話を進めてあげたほうが王村さんのためにもなる。

 

 「じゃ、じゃあ王村さんは、昨日の晩に三沢さんと会ってるってことだよね?」

 「あ、あぁ……あいつが殺されて、疑われるかと思って言えなかったんだよ……。でも!おいらぁ殺しなんてしてねぇ!信じてくれ!」

 「それはこれからの態度次第ですね。取りあえず、知ってることを洗いざらい吐いてもらいますよ。その後、三沢さんはどうしてましたか」

 「なんか……厨房の方行って赤ぇもん持って出て来ましたです」

 

 もうそれ以上王村さんを責める人はいなかった。責めてもしょうがないと思ったのか、話を進めた方がいいと思ったのか。どっちにしても同じことだ。王村さんはますます小さく見えてきて、証言をする姿も痛々しい悲愴を帯びている。

 

 「赤いもの……となると、アレのことかな」

 

 証拠提示

 A.【真っ赤なタオル)

 B.【床の血)

 C.【燃えかす)

 


 

 「現場に落ちてた、赤いタオルのこと?」

 「タオルなのか?ああ……そういや何かを包んでたような気がするな。ありゃなんだ?」

 「氷枕でございますね」

 

 王村さんの証言を受け取って次に繋げたのは、谷倉さんだった。惨めな王村さんとは対照的に、指先まで洗練された所作で裁判場のみんなに自分の考えを説明する。相変わらず堂々としてる。

 

 「益玉様の看病をされる前に、氷枕の代わりに凍らせたペットボトルを作っておられました。おそらく三沢様は、それを取りに来られたのでしょう。タオルは地下倉庫にあったものをよく使われていましたから、間違いないかと思います」

 「王村さん。先ほど三沢さんに愛の折檻を受けられたのは何時頃のことでいらっしゃいますか?」

 「あ、愛?え〜っと……確か、11時半よりちょい前だったと思うぜ。部屋に帰ったら日付が変わってたくらいだったからな」

 「となると、モノクマファイルの死亡推定時刻にも合いますね」

 「な、なにが……?」

 「手前の口からは……少々」

 

 谷倉さんの話を聞いて、庵野君が王村さんに確認した。王村さんが三沢さんに会った時間と、三沢さんの死亡推定時刻はほぼ同じだった。ということは、王村さんに会ってからほどなくして……三沢さんは亡くなったっていうことだ。つまり──。

 

 「三沢さんは、自分を殺害する凶器を持って保健室に向かったということだ」

 

 その先を預かったのは湖藤君だった。それは、気付いていても口にすることが憚られる、残酷な事実だ。きっと三沢さんは、手にしたそれで襲われることなんて考えてもなかったと思う。

 

 「自分を殺害する凶器って……!なんだよそれ……!」

 「死亡推定時刻から考えて、三沢さんが王村さんと会って保健室に戻っていく頃、たぶん益玉君はもう殺害されていた。そして三沢さんは、そのあと保健室に戻って……犯人と鉢合わせた」

 「それでとっさに殺害されたということですね。口封じでしょうか」

 「く、口封じ!おっそろしいことを考えますね!しかし納得はできます」

 「でも露露(ルールー)が自分で凶器を持っていったっていうのはどういうことカ?タオルが鈍器になるわけないネ」

 「いいや。凶器はそのタオルの中……凍らせたペットボトルだよ」

 

 王村さんの証言から、三沢さんを殺害した凶器の正体が分かった。人の頭を殴って殺害できるほどに硬くて扱いやすく、しかも壊れない……いや、もしかしたら壊れていたのかも知れない。でも問題はない。なぜなら、その凶器が壊れても三沢さんの頭に残るのは氷の欠片だから。

 

 「一定程度の質量がある氷は十分凶器になり得ます。頭を殴って砕けたところで、氷の破片は時間の経過で水になり、素人が少し調べた程度で違和感を覚えることはまず不可能でしょう」

 「処分も簡単だからね。厨房の蛇口にでも放置しておけば、朝には溶けて流れていってしまう。空のペットボトルなら細かく刻んでゴミに混ぜれば分からない」

 「成る程。殺傷力もあり隱滅(いんめつ)もし易い、加えて凶器と聞いて想像し難い。それなりの腕力は要するが、實用性(じつようせい)に富んだ理想的な凶器だ」

 「ひえ〜……菊島さんの思考がサイコパス診断の模範解答だよ……」

 「本来ならイントのために用意したペットボトルを、犯人に利用されて殺されてしまったのか。ツユコちゃん、なんて可哀想なんだ……!」

 

 裁判場を包む空気は一気に重くなる。三沢さんが持って来たペットボトルを凶器にしたということは、犯人にとって三沢さんがやってくることは予想外のことだったのかも知れない。もしかしたらほんの少し、三沢さんが保健室に戻るのが遅ければ、彼女は死なずに済んだかも知れない。

 そもそも三沢さんが益玉君の看病をすることになったのは、私が倒れて急遽代わりを引き受けてくれたからだ。本来、昨日の晩に保健室にいるはずだったのは私の方だ。私が倒れさえしなければ……三沢さんは殺されずに済んだかも知れない──殺されずに済んだはずだ──殺されなかった。私のせいで、三沢さんは──。

 

 「甲斐さん」

 

 思考が質量を持ったような感覚。自分ひとりじゃ支えきれないほど重くなった頭がぐらぐらと揺れていた。証言台の縁を手が白くなるほど握って、私は汗を掻いていた。湖藤君に名前を呼ばれるまで、私は自分がどうなっているか全く気付いていなかった。

 

 「そんなことはないんだよ。これは、きみのせいじゃない」

 

 いつになく真剣な声色だった。床をすり抜けて沈んでいきそうになる私を、湖藤君のその言葉が地上につなぎ止めてくれているような、私の全体重を預けてしまうような、そんな声だった。浅く短くなっていた呼吸に気付く。正常な呼吸に戻そうと体が無意識に咳き込んだ。

 

 「はぁ……はぁ……!」

 「お、おい……甲斐は大丈夫なのか?」

 「……!」

 

 岩鈴さんが心配してくれる。だけど、大丈夫とか大丈夫じゃないとか、今はそんなことを言ってる場合じゃない。湖藤君はああ言ってくれてるけど、やっぱり、私はまだそれだけじゃ自分を許せない。だから、今はこの裁判に集中する。益玉君と三沢さんを殺した犯人を見つけないと……私はここに生きてる資格がない。

 

 「ごめん。続けよう……議論を」

 「殊勝だねぇ」

 「えっと……それじゃあ、三沢さんがどのように殺害されたのか、どんな凶器を使ったのかは一応結論が出たわ。だけどまだ犯人を特定するのに十分とは言えない。何か他に手掛かりはあるかしら?」

 「みんな、自分の知っていることを話してくれ。なんでもいいんだ」

 

 

 議論開始

 「凶器以外に、何か手掛かりを持っている人はいるかしら?」

 「現場には赤いタオルが落ちていた以外に、特筆すべき証拠はありませんでしたね」

 「手前どもは益玉さんと三沢さんのお部屋を捜査しましたが、そちらにもこれといったものは……」

 「そもそも手掛かりなど残っているのか?凶器だって処分されてしまっているし、犯人だってバレないようにやったんだろう。他の証拠は完全に処分されたと思うが」

 

 「そいつは違うよ!」

 


 

 「甘いよ毛利!手掛かりならまだある!(アタシ)はそれを知っている!」

 

 議論の流れをぶち壊すように、岩鈴さんが大きな声をあげた。犯人に繋がる手掛かりを何か知っているみたいだ。

 

 「犯人が証拠品を処分するとしたら、やっぱ燃やしてなくしちまうだろ!そう思って(アタシ)は焼却炉を確認しに行ったんだ!そしたら、なんかの燃えかすが残っていやがった!昨日はそんなもんなかったのにだ!犯人が何かを燃やしたに決まってる!」

 「燃えかす……単純にゴミを処分した際に残ったものでは?」

 「あの焼却炉は、燃えるゴミなら焼却から炉内清掃まで自動でやってくれるはずよ。燃えかすが残ってるってことは、燃えないゴミを誰かが入れたということね」

 「昨日は(アタシ)がゴミ当番だったんだ!燃えるゴミは全部分別してやったぞ!アンタらがろくに分別もしないで出すからな!」

 「だって面倒じゃないですか」

 「何の燃えかすかは分からなかったのかい?」

 「俺もその燃え滓は見たが、黑々(くろぐろ)とした塊になっていた。燒卻爐(しょうきゃくろ)の底では手も(とど)かない。判別は不可能だな」

 

 岩鈴さんと菊島君が、ゴミ捨て場で見た焼却炉の燃えかすについて話す。確かに証拠隠滅するのに、焼却炉は有効な手段に思えた。自動で燃やしてくれるし、今回みたいに燃えかすが残っても何なのかが分からない。だけど、岩鈴さんにとってはそうではないらしい。

 

 「(アタシ)は仕事柄、色々と燃やすことが多くてね。はっきりとは分からないけど、おおよそなんなのかは見当が付くぜ」

 「信用していいのか?お前みたいなガサツ女の言う当てずっぽうみたいなものに、はぐの命を懸ける価値があるのか?」

 「誰の言葉が当てずっぽうだ!」

 「ガサツはいいんだ?」

 「それで岩鈴様、その見当というのは?」

 

 岩鈴さんは、真っ黒な塊から何を燃やしたかがだいたい分かるという。本当にそうかはちょっと不安だけど、分からないままでは議論が進まない。一旦話だけでも聞いて、信じていいかどうかは後で判断すればいいかな。

 

 「ありゃあ服だな」

 「服?」

 「あの焼却炉の火力はなかなかのもんだったからな。ただの燃えないゴミ──たとえば金属とかデカめのゴム製品とかだったら元の形がほぼそのまま残るはずだ。プラスチックだったらドロドロに溶けて黒い塊になることはない。ほどよく燃えてほどよく残るもんつったら、化繊の混ざった布製品しかないだろ」

 「おお……意外と根拠っぽいもんがあるんだなぁ。てっきり本当に当てずっぽうかと思ってたぜおいらぁ」

 「アンタ(アタシ)にもケツしばかれてえのか!」

 

 みんながうっすら思ったことを、王村さんがみんなの代わりに言葉にした。その代わりに後で王村さんのお尻がひどいことになることも決定してしまった。でも、そうまで自信を持って言いきってくれるなら、岩鈴さんの予想はある程度信じてもよさそうな気になってくる。なにより、今はそれ以外に手掛かりらしい手掛かりがないんだから、焼却炉に残った燃えかすから議論を進めていくしかない。

 

 「それにしても、なんで服の燃えかすなんかが残ってたんだろね?」

 「はいはい!ワタシ分かるヨ!きっと犯人は返り血浴びたから燃やしたアル!兎兎(トゥートゥー)はいっぱい血出してたからネ!」

 「なるほどな!ってことは、犯人は今血まみれのヤツだってことだな!どいつだ!」

 「いやさすがに洗ってると思うけど……あれ?でも、そっか」

 

 長島さんの言う通り、犯人はたぶん返り血を浴びてるはずだ。服にも体にも益玉君から出た血が付く。それをそのままにしておくわけがない。服は焼却炉で燃やして……体についた血はシャワーか何かで……。自分でそこまで考えて、すぐにそれができないことに気付いた。

 

 「夜時間は水が出ないのか」

 「お二人の死亡推定時刻が真夜中頃、甲斐様がお二人を発見してすぐモノクマ様のアナウンスで呼び出されたとして、皆様が集合されたのは朝7時を少し過ぎた頃。洗い流すには時間が足りませんね」

 「ってことはやっぱ体に血が付いてるヤツが犯人だな!全員いますぐ服を脱げ!」

 「脱ぐわけがないだろう。少し落ち着け」

 「拙僧はご覧の通り一糸纏わぬ身です故、一抜けということで!」

 「いいや。そうはいかないよ。犯人はちゃんと体の血を洗い落としてるはずだからね」

 

 暴走気味になる裁判場は、また湖藤君の発言で秩序を取り戻した。まるで湖藤君には、最初から全ての結論が分かってるみたいだ。みんなが混乱するときも、議論が白熱するときも、不安で真実が見えないときも、いつも落ち着いていて優しく微笑んでくれる。そして、周到に用意していた証拠でみんなを一度に納得させてしまう。

 

 「食堂には大量のペットボトルが捨てられてた。長島さんが見つけてくれたんだ」

 「見つけたヨ!ワタシのお手柄ネ!」

 「中を検めたのははぐだ。そこの中国人は何もしてない」

 「私があらためました!」

 「分かった分かった。で、ペットボトルがどうしたんだよ?」

 「あれにはミネラルウォーターが入ってたはずだ。犯人は、水道の代わりにあれを使って体を洗ったんだよ」

 

 食堂で私と別れた後、湖藤君はずっと食堂にいた。何をしていたかと思えば、長島さんが見つけたペットボトルの山の中身を確認していたらしい。聞けば、犯人に繋がる手掛かりが紛れてないかを確認していたという。つまり、湖藤君はあのペットボトルを見つけた段階で、あれが犯人が使ったものだって分かってたってことだ。事件に関係することは分かったけど、私はそんなことちっとも思い至らなかったのに。

 

 「じゃ、じゃあそこに犯人の手掛かりが……?」

 「いや……見つからなかった。あんまり期待はしてなかったけど、ちょっとだけがっかりしたかな」

 「無駄にはぐを働かせたのに成果なしなんて、普通は許されないんだからな」

 「感謝しておくよ」

 

 結局そこから犯人への手掛かりは見つからなかったらしい。そう簡単に手掛かりが見つかったら苦労しないけれど、あのペットボトルの山に望みをかけていた今の私たちにとって、その結果はひどく残念なものだった。犯人の存在が形を得てきたかと思いきや、もう少しで手が届きそうなところで急に道が途切れてしまったような感じだ。湖藤君に期待していただけに、私は心がざわつくのを感じた。

 証拠品は燃やされてしまった。残っているものからは手掛かりが得られない。事件があった時刻の証言もアリバイもない。犯人を見つけるための、一切の手段が閉ざされてしまったような気がした。とても……とてもまずい。

 

 「もう、手掛かりはないのかな……?」

 「……手掛かりかどうかは分かんないけど……焼却炉でもう一個気になることはあったよ」

 「まだ何かあるの?もったいぶらないで、言って頂戴」

 

 さっき、燃えかすの正体を言い当てたときとは打って変わって、岩鈴さんは少し自信なさげに言った。裁判場が膠着してきて苛立った様子の理刈さんが促すと、岩鈴さんは頭をかきながら証言した。

 

 「焼却炉ってシャッターが閉まってただろ。犯人は焼却炉を使うためにシャッターを開けたんだけど」

 「ああ!シャッターを開けるカードキーを持ってたヤツが犯人ってことか!どいつだ!」

 「結論出すのが早いんだよアンタは!黙って聞きな!」

 

 短絡的というかなんというか、芭串君は新しい情報が明らかになる度に結論を急ぐ。あんまり考えるのが苦手なのか、裁判自体に飽きちゃってるのか。飽きてる場合じゃないと思うけど。そんな芭串君を一喝してから、岩鈴さんは改めて話す。

 

 「焼却炉のシャッターはカードキーがあれば普通に開けられる。けど、さっき確認したとき、シャッターは強引にこじ開けられた痕跡があったんだよ」

 「強引に?確か鍵が掛かっていたはずですが……強引に開けられるようなものでしたでしょうか」

 「例えば、梃子の原理を使えばそう難しいことではない。ある程度の强度(きょうど)がある道具なら、様々に手に入れられそうだな」

 「ってことは、逆にカードキーを持ってた岩鈴さんは犯人じゃないってことか!」

 「いいや。(アタシ)は昨日ゴミを燃やしてすぐカードは尾田の部屋に投げ込んじまった」

 「部屋に帰ってきたらカードキーがあったので意味が分からなかったですよ。直接渡せばいいでしょうに」

 「探すのが面倒だったんだよ。アンタ普段どこにいるか分かんないから」

 

 そう言えば、ゴミ捨て場で菊島君とそんな話をしたような気がする。あのシャッターは、道具を使わなくても力がある人なら、道具を使えばほとんどの人にこじ開けられるくらい、ロックが甘かったみたいだ。

 

 「えっと、岩鈴さんの話をまとめるとつまり……犯人は証拠品を燃やすために焼却炉に行って、シャッターをこじ開けて証拠品を燃やしたってことになるよね?」

 「そうだな。道具なしで開けられそうなヤツっつったら……カルロスか庵野か?」

 「おいおい……むちゃくちゃな推理しないでくれよ!オレがイントを殺す?どうしてそんなバカなこと!」

 「岩鈴も開けられそうなもんだけどな」

 「まあ、その気になれば……って何言ってんだい!やるわけないだろ!」

 

 やっぱり、ここで行き詰まる。色んな手掛かりが出てきて、色んな推理がされる。新しい情報も知らなかった証拠もほとんど出尽くした。それなのに、いざ犯人が誰かという話になると途端にそれらの手掛かりが力を失う。どれもこれも、犯人を明らかにする決定的な根拠にはならない。誰にでもできるんだ。みんなそれぞれが、自分じゃないことしか分からない。このままだと、何の確実性もないまま投票が始まってしまう。

 

 議論開始

 「犯人はシャッターをこじ開けられるヤツなんだろ。つまりカルロスか庵野か岩鈴の誰かだ!」

 「オレがイントを殺すわけないだろう!」

 「(アタシ)だってそんなバカなことしてたまるかい!下らないこと言ってっとぶっ飛ばすぞ!」

 「庵野くんは、何か言いたいことはある?」

 「神は全てをご覧になっています。愛ある者が愛なき者に滅ぼされることはありません」

 「ダメだこりゃ」

 「その三人じゃなくても道具を使えば開けられたなら、こんな議論は無意味だ」

 「ですが、他に手掛かりがないのではどうすることも……」

 

 「分かりました」

 


 

 真実は近付いているのか遠ざかっているのか、同じところを回っているのかふらふらと彷徨っているのか、誰もいま自分たちがいる場所が分からないままずるずると続く裁判が、みんなの心をすり減らしていく。手札も全て使い果たした今の私たちにとって、尾田君のつぶやきはひどく明瞭に聞こえた。

 お互いを糾弾していた声が止む。裁判場の空気がしんと静まり返る。この状況を変えてくれる言葉を期待するその裏で、何を言い出すか分からない不安が渦巻いている。みんなが尾田君を見た。

 

 「どうやらこれ以上ねばっても仕方ないようですね。不本意ですが、僕からも証拠を提出します」

 「不本意って……証拠があったのなら最初から出せばいいだろう」

 「僕は僕なりの考えで行動しているので、こうすることが最善だと判断した上で提出するのです。取りあえず出せばいいというのは思考の放棄に他なりません」

 「……取りあえず、隠していたわけではないのね。いいわ、教えて頂戴」

 

 要するに、尾田君は自分が持っている証拠を提出するタイミングを伺っていたっていうことなのかな?裁判が始まってすぐ出すのと、ほとんどの手掛かりが出尽くしてから出すのと、何が違うのかはよく分からない。ただ、現状犯人を絞り込む根拠がほとんどない中では、その証拠への期待が嫌が応にも高まってしまうのを感じた。

 

 「まず前提としてですが、保健室の床に散らばった血痕の中に、不自然に途切れているものがありました。おそらく血が飛び散ったときに、犯人の足にかかったのでしょう」

 「拙僧が見つけました!拙僧が!」

 

 そう言えばそんなのがあった。足跡が残ってるわけでも、そこから足の大きさが分かるわけでもないから、今まで話に上がった情報より証拠能力は低いような気がする。

 

 「でも、尾田君は別に重要じゃないって言ってなかったっけ……?」

 「本当にあなたはアホですね。そんなことは一言も言ってません。当然にあって然るべき証拠なので見つけたことは何ら大袈裟に喜ぶものではないと言ったのです」

 「つまり、そりゃあるだろ、ってことか?」

 「せっかく拙僧が疲労(コン)憊の末に見つけたのに、ひどくないですか!?」

 

 そんなこと言ってたっけ?なんだか記憶が曖昧だ。それにまたアホって言われた。今のでますます嫌われたような気になる。

 ところで、当然にあるはずの証拠が尾田君のとっておきの証拠ってこと?当然にあるはずの証拠を、どうして今まで言わずにいたんだろう。

 

 「足と言っても素足で行動していたわけはないでしょうから、当然ながら血は靴に付着しますね。犯人はその靴をどうしたと思いますか?」

 「そりゃあ燃やしただろ。焼却炉に燃えかすが残ってたんならそうしたはずだ」

 「岩鈴さん、それについてはどうお考えでしょう」

 「ん〜〜〜……靴の種類にもよるな。ここにいるヤツらの靴はだいたい、ゴムと化繊でできたヤツか、革や木のヤツだろ?燃えかすの残り方からして靴っぽくはないし、革と木は燃えちまうからなあ」

 「つまり、靴を燃やしたとは考えにくいわけです。燃え残ると考えて躊躇ったのか、他の理由があったのかは分かりませんが……」

 「燃やしてないのなら、まだ犯人はその靴を履いているはずね」

 「でも血が付いた靴を履いてる人なんていないよ?」

 「当たり前です。犯人は血が付いた靴をそのままにしておくわけがない。なんとか洗い流そうとしたでしょう」

 「ああ、ミネラルウォーターね」

 

 血が付いた靴なんて見つかったら、一発で犯人だって分かっちゃう。だからなんとかして犯人は隠滅しようとしたはずだけど、燃やしてないなら血を落とすしかない。裸足でいるわけにもいかないだろうし。そこまでは当然の話として納得できる。そんなところから犯人に繋がる手掛かりが見つかるのだろうか。

 

 「ただし、表面的に洗い流したとしても、血に含まれる成分まで洗い落とすのは困難です。ただでさえ染みていますからね。ですから犯人の靴にはまだ、血液の成分が残っていると思われます」

 

 そういうものなのだろうか。ボランティアで行く保険施設で、患者さんや入居者さんが血を出すことは何度かあった。だけど服に染み込んだものを洗い流すような機会はなかったし、別に隠そうという気もなかったからそんな知識は手に入らなかった。逆に尾田君はどこでどうやってそんな知識を得たんだろう。

 尾田君はそんな調子で、犯人の靴には血の成分が残ってること、現場に残っていた証拠からそれはほぼ間違いないことを話していた。だけど、疲れ切ったみんなにはその説明も待ちきれなくなったようだ。

 

 「長々と話して、結局キミは何が言いたいのかよく分からないな。もっと手短に説明してくれないか?」

 「そうですよ!拙僧の集中力はもう0です!」

 「……はあ。まあいいです。分かりました。僕が合わせます」

 

 いかにも、尾田君がみんなにせっつかれて折れたんじゃなく、みんながあまりにも堪え性がないから仕方なくレベルを低く合わせてあげた、と言いたげだ。というかそう言ってた。

 

 「では、単刀直入に言いましょう。僕にははじめから、犯人が誰か分かっています」

 「はあっ!!?」

 「それは……本当ですか?ですがそれならなぜ……?」

 「裁判が始まってすぐ言わなかったか、でしょう。当然そういう疑問を持つでしょう。あなた方は愚かしいですから」

 「なんか不必要にバカにされてる気がする」

 「されてるだろ!なんだ愚かしいって!」

 「バカだと言う意味です」

 「意味は分かってんだよ!どういうつもりで言ってんだって聞いてんだ!!」

 「んだんだうるさいですね」

 「おあああっ……!やっべ血管切れるゥ……!!」

 

 紙やすりで神経を逆撫でするような尾田君のいちいち人を貶める言い回しで、芭串君が戦闘民族として一個上のステージに行きそうなほど怒った。他のみんなも尾田君が言ってることの意味も、なぜ今まで言わなかったかの意味も分からず、ただ芭串君を心配そうに見ていた。

 

 「考えてごらんなさい。誰が犯人か分からない、犯人がいるのかも分からない、どう話し合えばいいか分からない、そもそも学級裁判がどういうものか全く知らない。そんな状況で、あっさりと犯人を言い当てたところで、みなさんは信じますか?よりにもよって、この僕が」

 「それはどういう気持ちで言ってるの?」

 「客観的事実に基づくものです。自分がどう見られているかくらい分かりますよ」

 

 どうやら尾田君は自分がみんなからちょっと怖い人だと思われてることをかなり自覚しているみたいだ。人をバカにしたような態度を取るかと思ったら、自己肯定感も低いらしい。難儀な性格をしてると思う。

 

 「だからある程度議論が煮詰まるのを待っていたんです。証拠も出尽くした、各々の主張も弁解も証言も出尽くした、全ての情報が開示された状態でこそ、僕の主張は意味を持つわけです」

 「それは……俺たちがお前の主張に飛びつきたくなるのを待っていた、とも聞こえるが?」

 「構いませんよ。それは事実です。ですが先に言っておきます。これから僕が主張したことについて、後から新事実を持ち出してくるのはやめてください。言いたいことがあるなら、今のうちにどうぞ」

 

 そんなもの、手を挙げる人がいるわけない。おそらく今から尾田君は犯人が誰かを指名するのだろう。指名された人は、たとえ本当に犯人であっても、それに対して反論する。だけど尾田君は、そこで今まで明らかにしてなかった事実を言うのは認めないと言う。

 ここで手を挙げて反論したり、改めて自分の無実を主張したりしても……そんなの余計に怪しく見えるだけだ。だからと言って黙っていれば、尾田君に犯人と指名されてしまうかもしれない。尾田君は、冷静に丁寧に、そしてじわじわと、気付かれない内に、犯人を追い詰めている。いや、犯人自身に追い詰めさせている。彼はまだ何も言ってない。犯人であれば感じるであろう不安や焦りに付け込んで、冷静な判断力を奪おうとしている。

 

 「言いたいことはないようですね。では、話させてもらいますよ」

 

 その口が動く。

 

 「犯人の靴には血の成文が付着していることは先ほど言いました。そして皆さん、ルミノール反応というもんは御存知ですか?」

 「エタノール?」

 「耳に酒が詰まってますね」

 「警察の科学捜査に用いられる手法です。色々難しいことはどうせ理解できないでしょうから割愛しますが」

 「いちいち言わなくていいわよ」

 「要するに血液に反応して光る薬品を用いて、細かい血痕や拭き取られたり洗い流された血痕を見つけるために利用されるものです」

 「それが……一体どうしたのでしょうか?」

 

 てっきり犯人の名前を呼ぶのかと思ったら、尾田君はまた難しいことを言いだした。ルミノール反応って、聞いたことあるようなないような……でも血痕を見つけるためのものって言われて、さらによく分からなくなってきた。王村さんみたいな間違い方はしないけれど。

 

 「皆さん、ここに来るエレベーターに乗る前に、液体を踏みましたね?」

 「……あっ!あれか!」

 

 私はとっさに、自分の足下を見た。もちろん、あのとき踏んだ液体はとっくに乾いて見えなくなってる。だけどなぜか、靴の裏にその液体を感じるような、じんわりした嫌な存在感を覚えた。

 

 「何か分からなくて気持ち悪かったよ〜!結局あれなんなの!?」

 「あれは僕が用意しておいた、ルミノール反応用の薬品です。もちろん僕も踏みました」

 「ああ……だからわざわざ僕にも踏ませたんだね」

 「そうです。すなわち今ここには、ルミノール反応用の薬品だけが付着した靴と、血と薬品の両方が付着した靴があることになります。どの靴に反応するかは……電気を消して特殊な光を当てれば分かるでしょう」

 

 緊張が高まる。胸が鳴る。犯人の姿がすぐ目の前まで近付いてくる。あと一歩、あと一手、あと一言で、犯人の正体が分かる。益玉君と三沢さんを殺害した犯人が。全員が息を呑む。尾田君がポケットから細長い照明を取り出した。あれが、彼の言う特殊な光なのだろうか。そしてモノクマを見て言う。

 

 「モノクマ、照明を落としてください。そうすれば……この裁判は決着します」

 「うぷぷ♬な〜んか面白そうなことになってきたね!いいよ!それでは、照明オ──」

 「待てッ!!!」

 

 怒号が飛んだ。私たち全員を縛るような、威圧的な声だ。皆その声のする方に向くこともできず、尾田君と一緒にモノクマを見たまま止まっていた。私も同じだ。だけどその声の主が誰かは分かった。そして、その中に潜んだ焦燥と悲痛、恐怖さえも感じ取れた。ゆっくりと、尾田君は視線を移す。

 証言台の手すりを手が白くなるほど強く握っていた。指の骨が浮き出た武骨さで、細くても男の人の手だと分かる。引き締まった健康的な体がカタカタと震えていた。俯いていて表情は分からない。だけど身に着けたシャツにはべったりと汗が黒く染みていた。

 


 

 「おや……なぜ止めたのですか?虎ノ森君」

 

 無慈悲にも、尾田君がその名を呼んだ。みんなに知らしめるように。みんなを促すように。彼を追い詰めるように。

 

 「や、薬品だとか……反応がどうとか……!そんなわけの分からないもので犯人が分かるだと……!?そんなものに命を懸けられるのか!?何かの間違いで冤罪が起きたらどうする!!お前だけの問題じゃ済まないんだぞ!!」

 「だから先に尋ねました。何か異論があるならお先にどうぞ、と」

 「何をするかも分からないのに異論も反論もあるか!!そんなやり方は卑怯だ!!そもそもお前の言うことを信じられるわけないだろ!!お前こそコロシアイを企んでそうじゃないか!!今だって電気を消している間に、また誰かを殺そうとしてるんだろ!!」

 「学級裁判中の暴力行為は禁止だよ!裁判中に人が死ぬなんてこと、考えたくもないくらいややこしいからね!」

 「仮に僕の言葉がウソだったとして、電気を消すことに何の不都合があるんですか?僕が誰かを殺そうとしているとして、こんな衆人環視の下、犯人も分かり切った状況でやるとでも?僕はアホなんですか?」

 「だっ……!だから……!」

 

 滝のように流れる汗。カチカチと鳴り止まない歯。焦点の定まらない指。虎ノ森君の見せるあらゆる要素が、彼が尋常じゃない緊張の中にいることを表していた。この状況で、この環境で、この流れで、見苦しいほどにそれを露わにすることがどういうことか、既に私たち全員が理解している。

 

 「はあ……そうですか。そこまでイヤなんでしたら、電気を消すのはやめておきましょう。もはや必要なくなりましたので」

 「はっ……!?はあっ……!?」

 「そうでしょう?電気を消せば犯人が分かるはずだったんです。これ以上ないほどはっきりと。ですが、電気を消すより先に、犯人が自ら名乗り出てくれたんです。もう電気を消したところで同じことです」

 「な、なにを……!?言ってるんだ……!何をバカなことを……!」

 「……と、虎ノ森君」

 

 私は、願いを込めて名前を呼んだ。

 願わくば、これで終わりにしてほしい。もうこんな、互いを疑い合い、互いを糾弾し合い、互いを陥れるようなことはしたくない。もう終わりにしてほしいと、願った。

 願わくば、これは間違いであってほしい。本当に私たちの中に、あの二人を殺害した人がいるなんて信じたくない。そんなことが現実であってほしくないと、願った。

 願わくば、これが正しいと照明してほしい。この答えが間違っているのなら、私たちが迎える結末は……絶望だ。私の、私たちに忍び寄る絶望を振り払ってほしいと、願った。

 

 「君が……益玉君と三沢さんを殺したの……?」

 「……ぼ、僕が……!殺したかって……?人を、二人も……!殺したかと、きいたか……?」

 

 憎しみを込めるように、怒りに震えるように、狂いそうなほど苦しそうに、虎ノ森君がうなる。歯を食いしばり、目を見開き、拳を握り、背中を丸めて。彼はきっと、そうして抑え込んでいたんだ。そうしないと、溢れ出てきてしまうから。

 

 「バカなことを言うなああああッ!!!」

 

 絶望的な狂気──、彼の内側にたまったあらゆる悪辣な感情の塊、それが一気に噴き出した。

 

 「誰にきいてるのか分かってるのか!!?()だぞ!!虎ノ森遼だ!!この僕が!!ゴルフ界のニューエイジが!!期待のホープが!!殺人なんてスキャンダルを犯すわけがないだろうが!!冗談でもふざけたことを言うな!!」

 「だったら、どうして電気を消すのを止めたの?犯人じゃないなら、止める理由はないはずだよ」

 「バカか!!これは学級裁判だぞ!!何もかも疑わなくちゃいけない!!誰も信じてはいけない!!何が起きてもおかしくない!!一瞬の油断で命を落とすかも知れないんだぞ!!電気を消すなんて大それた真似をさせるわけがないだろ!!」

 「だとしても、犯人特定の決定的な証拠になるはずだった。他の誰も止めてないんだよ」

 「こいつらがバカだから分からないだけさ!!僕だけが危険に気付き僕だけが声を上げた!!ただそれだけのことだ!!」

 

 虎ノ森君は吠える。かつてテレビで観たような冷静さや爽やかさはない。昨日までの、スマートだけどどこか壁があるタレントのようなオーラは消え失せた。粗暴で荒々しくて、熱に浮かされたように自分を見失っている。泥臭くて見苦しくて、怯えているようにも見えた。

 

 「そもそも証拠がないだろ!!電気を消すのを止めたから犯人!?そんなものはお前の推測でしかないじゃないか!!だいたい靴が光ったらなんだって言うんだ!?本当にそれは血だって言えるのか!?尾田が僕たちをハメようとしてるとなぜ考えないんだ!!」

 「では──」

 「じゃあ虎ノ森君」

 

 私は、尾田君の言葉を遮った。きっと、彼が言いたいことと私がこれから言うことは同じだ。だから、ここからは私が代わる。これ以上は尾田君に喋らせてはいけない。そう感じた。そうしないと、虎ノ森君が壊れてしまいそうだったから。彼の中の彼が崩れていくのを、もう見ていたくなかった。

 

 「君の部屋を調べさせてもらってもいいかな」

 「……な、なに……?」

 「今までの議論で分かったんだ。犯人の部屋には、焼却炉で燃やせなかったり細かくして捨てられなかった証拠品が残ってるはずなんだ。焼却炉のシャッターをこじ開けるのに使った長い道具──たとえば、ゴルフクラブみたいなものが」

 「……ああ?」

 「もしそれで何も出て来なかったら、今までの推理は間違いだったってことになる。そのときは、謝るよ。許してもらえるか分からないけど、誠心誠意、謝る。なんだってするよ」

 「いま、なんでもするって」

 「やめとけ」

 

 誰かが茶々を挟んだらしいけど、私には聞こえていなかった。私はただ、興奮して真っ赤になっていた虎ノ森君の顔が、みるみるうちに青ざめていくのを見ていた。虎ノ森君はもう、反論も弁解も否定もできず、ただ小さく唇を震わせているだけだった。

 私は、全てを終わらせることにした。こんな辛いことは、もうやめにしたいと思った。

 

 「虎ノ森君。最後にこの事件の全部を振り返って、もう一度聞くよ。それが正しくても正しくなくても……君には、本当のことを答えてほしい」

 

 

 クライマックス推理

 Act.1

  この事件の被害者は2人。モノトキシンの毒で衰弱していた益玉君と、その益玉君を看病するために保健室にいた三沢さんだ。犯人がいつ2人の殺害を企てていたのかは分からないけど、おそらく三沢さんが殺害されたのはまったくの偶然だったんだと思う。

  事件が起きる夜、みんなのためにモノトキシンの毒を引き受けてくれた益玉君のために、みんなで益玉君を交代で看病することになった。その日看病をするはずだったのは私だった。だけど、看病の準備を始める前に、私は間違って冷蔵庫に冷やしてあった王村さんのお酒を飲んでしまった。そうして倒れた私の代わりに益玉君の看病を買って出てくれたのが、三沢さんだった。

 

 Act.2

  みんなが部屋に戻って寝静まったころ、三沢さんは益玉君の看病のために保健室へ向かうことにした。三沢さんは看病の準備のために、氷枕にするために水を入れたペットボトルを凍らせていたから、まずそれを取りに厨房に向かったんだ。そこで三沢さんは、食堂で晩酌をしていた王村さんに出会った。私が倒れるきっかけを作った王村さんは、後ろめたさからこっそりお酒を飲んでたんだけど、それを見つかってしまい、三沢さんからキツいおしおきを受けた。

  その後、三沢さんは冷凍庫から凍ったペットボトルを取り出して、倉庫から持って来ていた赤いタオルと一緒に、保健室に向かったんだ。そのときの保健室で何が起きているか、きっと想像もしていなかったと思う。

 

 Act.3

  三沢さんが看病の準備に取りかかっているとき、犯人はすでに動き出していた。きっとみんなが部屋に戻ったころを見計らって、こっそり行動したんだと思う。犯人は誰にも目撃されないように身を隠しながら、保健室に向かった。毒で弱った益玉君が眠っている、保健室に。

  きっと益玉君は、犯人の思惑に気付いてなかったと思う。まさかあんな状態になった彼を殺そうとする人がいるなんて、思いもしないはずだ。だけど、犯人は殺した。凶器なんて使わず、自分の手で、益玉君を殴り殺した。傷とアザだらけの彼の体が、その証拠だ。そのときに益玉君は大量の血を流し、犯人はたくさんの返り血を浴びた上に、床に散らばった血を踏んでしまった。それが後で、自分を追い詰める証拠になったんだ。

 

 Act.4

  益玉君を殺した犯人は、本当ならすぐにその場を離れるつもりだったのかもしれない。でもそこで、予想外のことが起きた。益玉君を看病するために準備を整えていた三沢さんが保健室にやってきたんだ。きっと三沢さんは驚いたと思う。看病するはずの益玉君は血まみれで亡くなっていて、そのすぐ側に犯人がいたんだから。

  もしこのとき、三沢さんが助けを求めていたら、状況は違ったかも知れない。だけど彼女は助けを求めることもできず、自分が持って来た凍ったペットボトルを犯人に奪われ……それで後頭部を殴られて殺害された。犯人にしてみれば想定外の殺人だった。だから、益玉君と三沢さんを殺害した凶器が異なっていたんだ。

 

 Act.5

  2人を殺害した後、犯人は急いで証拠隠滅に取りかかった。まずは一度自分の部屋に戻り、返り血がかかった服を脱いで体についた血を落とした。夜時間は水が出ないから、倉庫にあったミネラルウォーターを代わりに使ったんだ。

  そして血の付いた服を処分するため、犯人は地下の焼却炉に向かった。本当なら焼却炉のシャッターは鍵を使わないと開かないけれど、犯人はそれを強引にこじ開けたんだ。細長くて頑丈な道具……きっと、ゴルフクラブを梃子のように使ってね。そして犯人は、焼却炉で服を処分した。服に混ざった化学繊維が燃え残ってしまうことに、犯人はこのとき気付いていなかったんだと思う。そうでなかったら、もっと他の方法を考えたはずだ。

  そしてミネラルウォーターのボトルは食堂のゴミ箱に、凶器として使った凍ったペットボトルは、中の水を溶かして捨てた後、同じように食堂に捨てたはずだ。

 

 

 ひとつひとつの証拠から、君を直接犯人だと言うことはできない。だけど、犯人が明らかになる方法があるのにそれを止めるなんて、犯人以外がやる理由はないんだよ。だから……もし君が犯人なんだったら、この推理を素直に認めてほしい。

 お願いだよ、虎ノ森君──────。

 


 

 全てを話した。明らかになっていることも、まだ曖昧な推理も、私の気持ちも。もしこれが間違っていて、虎ノ森君が犯人でないなら……きっと私はみんなに恨まれながら死んでいくだろう。そんな不吉なことが頭を過ぎってしまうくらい、今の推理には手応えがあった。今まで人をこんなに責め立てたことなんてない私が、初めて人の悪事を暴いた。これは……なんてつらく、苦しいことなんだろう。

 

 「ち……がう……!!……ぼ、ぼくは……!!ぼくは……!!」

 

 さっぱりと整っていた虎ノ森君の顔は、青白くやつれたように見える。帽子が潰れて髪の毛が毟られるほど頭を掻いている。よだれがこぼれるのも気にしていられないほど呼吸が浅い。目は私を見ていない。誰も見ていない。ただ、何もない裁判場の中心に向いていた。

 

 「ぼくは、ただ……!!あいつが……!!あの顔を……やめさせようと……!!」

 「何を言ってるか分かりませんね。これ以上は無意味です」

 「……結論が出たなら、やることがあるんじゃないのか。モノクマ」

 

 尾田君がつぶやき、月浦君が促す。全てを傍観していただけのモノクマは、にっと笑って手を挙げた。

 

 「はい!結論が出たようですね!それではこれより、投票タイムに移ります!」

 

 モノクマがそう言うと同時に、私たちのモノカラーが勝手に起動した。目の前にディスプレイが表示され、私たちの顔と名前が書かれたパネルが表示される。今ここに立っている18人と、もうここにはいない2人の分が。

 

 「……ぼくはあいつが!!あんな顔をするから!!うぅ……知りたかっただけなんだ……!!」

 「さあオマエラ!お手元のパネルから、最もクロと疑わしい生徒に投票してください!投票の結果、クロとなるのは誰か!その答えは正解か、不正解なのか〜〜〜?」

 「なんでこんなことになるんだよッ!!!」

 「あ、そうそう。必ず誰かに投票してよね。こんなことでおしおきされたくないでしょ?」

 

 虎ノ森君の悲痛な叫びなんか聞こえてないみたいに、モノクマは粛々と投票の方法を説明する。要領を得ない虎ノ森君の叫びよりも、意味の分かるモノクマの説明の方が、私たちの耳には入ってきた。まるで虎ノ森君だけが、透明な壁を隔てた向こう側にいるみたいだ。

 なんて残酷なんだろう。私はもうすでに、虎ノ森君を仲間と思ってないみたいだ。私にとって虎ノ森君は、仲間を2人も殺害した、歴とした敵だった。

 

 投票のパネルを押した。なんの音もしない。なんの感触もない。私の心には、なんの揺らぎもなかった。




今回の事件は犯人を当てるのはほぼ不可能だったと思います。
ただ、キャラ見せの段階でかなりの人が1クロ予想をしていたので、そういう雰囲気はあったんじゃないですかね。別にそういう意図でキャラメイクしたわけじゃないのに、ふしぎですね〜〜〜

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  • 益玉韻兎
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