ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

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(非)日常編3

 

 「うーん……」

 

 やっぱりこんなことしてても意味ないのかなあ。言い出しっぺの自分がこんなこと思うのも、付き合ってくれてる甲斐さんと湖藤さんに悪い。でもなんの手がかりも得られないと、私の木綿豆腐メンタルはポロポロと崩れて落ちてそぼろになっちゃう。

 ちらと様子を伺うと、2人ともずっと直向きに本を読んでいる。やっぱり“超高校級”なんて呼ばれるだけあって立派だなあ。

 

 「ね、ねえ2人とも。ちょっと休憩しない?疲れたでしょ」

 「うん?ああ、いつの間にこんなに時間が経ってたんだ」

 「ホントだ。気付かなかった」

 

 どうやら私に声をかけられるまでガッツリ本に集中してたっぽい。私なんか何回も時計を見てはなかなか進まない針にやきもきしてたのに。あんまり早く止めても悪いと思って、いいぐらいの時間になるのを待ってたくらいだ。

 私は、新しく開放された図書館に来ていた。朝の探索の時は大したものは見つけられなかったけど、ここには何かが隠されている気がする。“超高校級の脱出者”の勘がそう告げてる!なんてね。謎のヒントを本の中に隠すのは常套手段だから、そんな気がするだけだけど。

 でも私ひとりだと、1000冊を超える図書館の蔵書全部を調べるのはとてもじゃないけど無理だ。そこで、朝ごはんのときに2人を誘ったのだった。モノクマが急拵えで設置した昇降機を使って湖藤さんの上下移動は格段に楽になり、甲斐さんからコツも教えてもらったおかけで、私ひとりでもできるようになったくらいだ。やっぱり“超高校級”は人に教えるのも上手い。

 

 「どう?2人とも、なにか手掛かりは見つかった?」

 「うんにゃ。私はさっぱり。やっぱ私なんかの勘はあてにならないか」

 「そんなことないよ。まだ調べ始めたばっかりなんだから、頑張れば何か見つかるかも知れないよ」

 「ポジティブ〜」

 

 誘った相手にそう言われると、誘った側としてはそれ以上何も言えない。どうしよう。このままじゃ2人を1日無駄に振り回して終わっちゃう。

 

 「なんも見つかんなかったらどうしよう……」

 「ダメ元なんだから気にすることないよ。モノクマがそこまで軽率に手掛かりを残してるとは思えないし」

 「ダメ元……そ、そっすよね……。私みたいなもんの思いつきなんて、元々がダメなもんなんだから、ラッキーパンチがかすれば儲けものってもんですよね……」

 「湖藤君、ダメ元なんて言ったら宿楽さん傷つくでしょ」

 「ぼくが悪いかなあ?自信がないっていうか、宿楽さん卑屈すぎない?」

 「そんなことないよ。ただのパンピーが超高校級のみんなと何日も過ごしてその凄さを目の当たりにしてきたら、誰だってこうなるよ……」

 「宿楽さんだって超高校級でしょ?そんなに自分を卑下しなくてもいいのに」

 「いやいやいやいや!甲斐さんは介護士ってモロに人の役に立つ才能じゃん!湖藤さんだって古物商ってなんのことか最初は分からなかったけど、頭良いし鋭いし、めちゃくちゃ人の役に立ってるじゃん!ちんけな謎解きオタクはやることがなくてもう……」

 「こりゃ重症だね」

 「湖藤君、面白がってるよね」

 

 ここ数日、悲しい事件もあったし、心臓ばっくばくで一歩間違えたら突然の死!な学級裁判も経験した。私は、いつ自分が壊れてしまうか不安で仕方なかった。だけどそこで見たのは、超高校級と言われる人たちのとんでもない精神力とガッツだ。

 私は何から考えればいいのか分からなくて、取りあえず自分にできることをって何の役にも立たないことしかできなかった。でも甲斐さんは一生懸命色んな場所を回って手掛かりを集めてたし、湖藤さんは少ない手掛かりと証拠からめちゃくちゃ推理して、尾田さんも菊島さんも自分の意見をぶつけ合って議論を活性化させてたし……とにかく、それぞれがそれぞれの能力をフルに発揮して活路を開くっていう激アツな例のヤツをやってた。私はせいぜいそのおこぼれに預かる名も無きモブCってところだ。要するに、何もできなかった。

 それだけでも自分のことが嫌になりそうなのに、甲斐さんと湖藤さんはこうして私のことを無能扱いせず思いつきに付き合ってくれてる。痛い!みんなの優しさが痛い!だってそうでしょ!?同じ超高校級の高校生であるはずの理刈さんだって陽面さんだって少なからず落ち込んでるのに、どうしてそんな前向きになれるの!?メンタル高野豆腐(乾燥時)かよ!

 

 「宿楽さん?」

 「ふぇっつ!?」

 「疲れた?ちょっと休憩したら?」

 「い、いいえ!お気になさらず!私、突出した才能なんてない代わりに根性で数を稼ぎますから!役に立つかは分からないけど、せめて足を引っ張らない程度には仕事しますんで……」

 「う〜ん、参ったな。宿楽さん、本気で自分のことをそんな風に思ってるの?」

 「へ?と言うと?」

 

 なんとか2人の邪魔にならないようにしようとしたのに、甲斐さんは私に心配そうな目を向けてくれる。こんな私をそんな目で見ないで……優しさが苦しい……!

 

 「宿楽さんの才能がどれくらいすごいのかは、正直いまいち分かってないけど……でも、希望ヶ峰学園が超高校級として入学させてる以上、すごい才能なのは間違いないよ。ね、湖藤君」

 「そうだね。過去の入学者を見ても、一見なんの才能か分からないものはあっても、必ず何かしらの実績や結果は残してるよ」

 「だいたい宿楽さんは才能なんか関係なしに素敵な人だよ。超高校級の人なんて、みんな我が強かったりクセが強かったりするのに、そこに溶け込んでみんなを賑やかしてくれてるじゃん」

 「そ、そんな……」

 「今日だって宿楽さんが誘ってくれたから、私たちもこうやって脱出の手掛かりを探してるんだよ。宿楽さんにはそういう、人のことを動かす力があるんだよ」

 「そうかなあ……そうだといいけど……」

 

 ううむ。なにやら甲斐さんはやたらと私のことを褒めてくれる。自分ではあんまり自覚ないけど、確かにここに来てからは少しでも超高校級の皆さんに馴染めるように、積極的に声をかけていったりした部分はある。おかげで一般人って弾かれることもなく、なんとか仲良くやらせてもらってる。でも別にそれは才能とかじゃなくて、単なる処世術っていうか、生き残る術っていうか。

 

 「だから、宿楽さんはもっと自信持っていいの!いや、持つべきなの!みんな宿楽さんに期待してるんだからね!」

 「き、期待って?」

 「そりゃ超高校級の脱出者っていう才能だからね。たとえゲーム好きが高じての肩書きだったとしても、少なからず力を貸してくれることを期待してるよ」

 「うひ〜〜〜!責任重大じゃん!」

 「責任じゃなくて期待だってば」

 「まあ才能なんてものはそう深く考え過ぎない方がいいよ。ここじゃあそれはアイデンティティにはなるけど、特別視されるほどのものじゃないからね」

 

 さすがは超高校級、言うことが違う。超高校級の才能なんて持ってたら、私なんかは鼻が高くてしょうがない。希望ヶ峰学園の入学通知を受け取っただけで学校で自慢しまくったのに、本当に私の中にみんなに匹敵するような才能があるっていうなら……それは、きっとすごく幸せなことなんだろう。

 

 「いやあでもやっぱりみんなと肩を並べるっていうのはちょっと、気後れしちゃうっていうか。みんなの懐の深さのおかげっていうか」

 「う〜ん、強情だなあ」

 「強情ですいません」

 「少しずつ慣れていけばいいよ。対等とか、肩を並べるとか、そういうことを考えてる間は対等になれないものだからね」

 「なんかすごい深そうなこと言われた」

 

 いきなり変われないと言われるけれど、やっぱりみんなに気を遣わせてるなら変わりたい。気を遣われないためには、気を遣われないように気を付けなくちゃいけなくて、要するに気の置けない仲になればいいってことか。ふむふむ。できるかなあ。

 

 「取りあえず、肩の力を抜くところからやってみる。ふへぇ……」

 「足の力まで抜いちゃダメだから!」

 

 思いっきり脱力したら、肩だけじゃなくて全部の筋肉がだらんとしちゃった。慌てて甲斐さんが支えてくれたけど、さすがに人1人をいきなり抱えるのは難しかったらしく、私は図書館の床にへにゃりと寝そべった。決して私が重いから支えきれなかったとか、そういうことではない。

 

 「間違えちゃった。ごめんごめん……あり?」

 

 みっともないとこ見せちゃった。すぐに立ち上がろうとしたとき、視界の端っこに何か映った。図書室の床に座ったことなんてないから、そこはたぶんまだ誰も見たことがない場所だったんだろう。図書室の椅子の裏に、明らかに意味ありげな数式が書かれていた。

 

 「これ、なんだろ」

 「え。椅子でしょ?」

 「違う違う。裏になんか書いてある」

 「本当?甲斐さん、ひっくり返せる?」

 「うん。ちょっと待ってね」

 

 その場から私が退いて、甲斐さんが椅子をひっくり返して裏に書かれた式を露わにする。なんだこれ。

 

 「シン?たす?コン?なんじゃこりゃ」

 「三角比だね」

 「さんかく……?けい?」

 「宿楽さん、数学の授業聞いてないでしょ」

 「いや〜ちょっと数学とはちょっといま距離置いてるんで」

 「ちゃんと勉強しなくちゃダメだよ」

 「へい。で、こらいったいなんなんで」

 

 側に寄ってきた湖藤さんが、この訳の分からない数式の正体を速攻で見破る。すげ〜と思ってたけど、なんか甲斐さんも同じような顔をしてた。え、もしかして知らないの私だけ?沖縄に情報届いてる?

 

 「まあ要するに、三角形の特性を利用するための記号だよ。答えは1だよ」

 「あ〜、逆に答えシンプルなパターンね。はいはい」

 「今度一緒に勉強しようね。1年生でやる範囲だから、これ」

 「こんな訳分かんない形してんのに?英語だよ?」

 「英語じゃないよ?」

 

 それにしても、なんでこんなわけの分かんないものが、図書室の椅子の裏に書いてあるんだろう。誰かがカンニングのために用意した?いや、椅子の下じゃカンニングのしようがないよ。だとすれば……なんかのヒント?メッセージ?1個だけじゃ意味が分からない。それなら……。

 

 「ねえ。もしかしたら他の椅子にも、同じように数式が書いてあるかも知れない。確かめてみよ」

 「いいけど……なんでそう思うの?」

 「なんでって聞かれるとちょっと困るけど……勘、かな」

 

 また私の勘で2人を振り回すことになっちゃう。でも、この直感を信じた先に何かがあるかも知れない。そう考えたら、遠慮なんてしてられない。

 

 「いいんじゃないかな。早速、宿楽さんの超高校級の脱出者としての才能が力を発揮し始めたのかも知れないよ」

 「そっか。じゃあ確かめるだけ確かめてみようか」

 「ありがとう!私が90割やっちゃうから!」

 「うん……頼むね!」

 

 なんだ今の変な間は。

 


 

 私と甲斐さんで、図書館にある椅子という椅子をひっくり返して回った。もはやここにある椅子でひっくり返ってないのは湖藤さんの車椅子だけだ。私が見つけたのと同じように、数式(なんだと思うたぶん)が書かれてる椅子がいくつかあった。私には訳分かんないから、甲斐さんと湖藤さんに解いてもらった。湖藤さんの提案で、図書室の見取り図を作って、数式が書いてある椅子の場所に丸を付けて答えを書き込んでいく。

 

 「これは1、これも1だね。こっちは……0か」

 「0と1ばっか。なんだろうこれ」

 「何か意味ありげな……これで全部?」

 「うん」

 

 数式が書いてある椅子は全部で16脚。8個ずつ答えが0と1に分かれてる。あと16脚のうち2つだけ、2つの数式が書かれてるものがある。どういうことだろ?う〜ん……。

 

 「0と1……数学に絡めて考えるなら2進数みたいだけど」

 「あのモノクマがそんな小難しいこと考えさせるかな?そうだったとしても意味が分からないよ」

 「0が8個と1が8個……2進数だとしてできる数は6435通り……」

 「椅子の裏……そこに意味があるのかな……」

 

 湖藤さんと甲斐さんが私の作った見取り図を見て考え込んでる。確かに色々考えられそうだけど、なんかこう、私の直感はそうは言ってない。もっとシンプルな、誰でも分かるような答え……そう、謎解きのような……!

 

 「あ」

 

 謎解き、そう頭の中にイメージした瞬間、私の中をどぎつい閃きが貫いた。8個ずつの組に分かれた点。そのうち2つは同じ場所にある。これはまるで……点結びだ。赤いペンで0の印を結んでいく。2つある場所から始まって、線が交差しないように、一筆書きで縁をなぞっていく。1は1の点同士で同じように、区別しやすいように黒のペンで。そうすると……!

 

 「できた!」

 「おっ」

 「これって……矢印?」

 

 見取り図の上には、赤と黒の大きな矢印が現れた。図書室の壁沿いにある本棚の一箇所を指すような、部屋全体を使った巨大な矢印だ。これはきっと偶然なんかじゃない。

 

 「この矢印が指す先には!何かがある!」

 「探してみよう」

 

 矢印の指す先は、そうと知らなければ何の変哲もない本棚だ。だけどそこをよく調べると、意味ありげなブックエンドが2つある。本を支えるための道具のその間、1冊の本も挟まっていないその場所には、代わりとばかりに小さな1枚の紙が挟まっていた。こんなの知らなきゃ見つけようがない。

 

 「なんかの紙めっけ!」

 「こっちにもあったよ。なんだろうこれ」

 「本格的に謎解きゲームみたいになってきたね」

 

 私が調べたところと甲斐さんが調べたところから、1枚ずつ同じくらいの大きさの紙がでてきた。なんかこれくらいのサイズの紙、どこかで見たことあるような……。取りあえず、2枚を湖藤さんにも見えるように机に並べてみる。

 私が見つけた方には、ブドウやバナナやメロンやミカンや……とにかくたくさん果物のイラストが散りばめられてた。なんじゃこら。

 そして甲斐さんが見つけた方には、いかにも謎めいた文章が書いてある。

 

 『答えを求める者よ。手を伸ばせ。答えは高きところにある。

  真実を求める者よ。顔を上げよ。真実は最も高きところに。』

 

 「謎解きっぽ〜〜〜い」

 

 いかにも謎解き然とした文章だ。答えとか真実とか、いったい何を指してるのか分からない。けど明らかに何かを意図して配置された図書館の椅子の数式と、その先に見つかった謎の文章。これが何も意味してないならモノクマの悪ふざけが過ぎる。こんだけ大掛かりなことしてんだから何か報酬(リワード)あれ!

 

 「これはまた……モノクマが仕掛けたんだろうけど、どういうことなんだろうね」

 「謎解きなら、宿楽さんが得意なんじゃないの?」

 「いや〜、どうだろう。モノクマのことだからまともな答え用意してるかどうかも怪しいじゃん」

 「ただ意味深なだけで振り回したりね。ありそう」

 

 もしこれが本当にまともな謎解きなら、ちゃんとした答えが用意されてるってことが前提だ。モノクマの場合はその前提をちゃんと守ってるかどうかが怪しい。本当に脱出の手掛かりなんだとしたら、こんなところに無造作に置いておく方がおかしいし。いちおう考えてはみるつもりだけど、あんまり期待しないでおこう。

 


 

 学園内のあちこちに設置された監視カメラで、僕たちの動向は全て把握される。こそこそ隠れるようなマネをすれば逆に目立つだけだ。プライバシーも何もあったものじゃない。ただ、無数にある監視カメラと言えど必ず死角は生まれる。たとえば……監視カメラを設置できないこの場所なら、モノクマは僕たちが何をしているのか知ることはできないんじゃないか。

 

 「……」

 

 地下階、大浴場。ここには監視カメラがない。さすがのモノクマも風呂場まで監視する趣味はないようですね。しかしその手前の脱衣所にはカメラがあった。僕がこうして服を着たまま、風呂に入るつもりでなく浴室に入ったのは見られているでしょう。ここからは他の場所に行くこともできない。実質的に監視されているような状態、というわけです。

 

 「ふむ」

 

 裏を返せば、というか裏返しにしなくてもそのままですが、大浴場でならモノクマの目を欺ける可能性は残っています。ここにあるものを使えば、モノクマに見られることなく物の受け渡しや会話が──、いや、会話は無理ですね。僕たちの首元は常にモノクマに握られていますから。

 全く以て忌々しい。これを外すことができれば、外せないまでも調べることができれば、まだ突破口が見えてきそうなものを。今のところ便利なウェアラブル端末というだけに過ぎませんが、益玉クンに毒を注入する際はこれが働きました。余計なことをすれば何が起こるか分からない、あるいはなんでもすることができる、ということです。せめてサンプルの1つでもあれば。

 

 「コラーーーッ!!」

 

 いきなり浴室中に響く間抜けな声。モノクマでした。監視カメラはなくても、モノクマ本体はやって来られるというわけですか。なぜ怒っているのやら。

 

 「なにやってんだ!そういうことはボクの目が黒いうちは許さないぞう!」

 「そういうことってなんですか」

 「なにってそりゃあ……尾田クンだって年頃の男の子なんだから、カメラとかなんとか……あ、音だけでイケちゃうタイプ?」

 「そんなことを言いに来たわけではないでしょう。なんですか」

 「ノリの悪いやつ……」

 

 このノリに付き合ってやってたらいつまでも話が進みませんので。

 

 「いやいや。尾田クンがどこにもいないから、なにやらまた怪しげ〜なことをしてるんじゃないかと思って様子を見に来たりしたり」

 「様子を見るってなんですか。一丁前に監督者気取りですか」

 「だってわざわざカメラに映らない大浴場に来ちゃってさ。何か考えてないと思う方が危機感薄いよね〜!」

 

 やはり気付いていたようだ。むしろ敢えてそういう場所を用意して、浅はかな人たちを誘導している可能性すらありますね。ここまでは予想の範囲です。モノクマを引きずり出したのは僕にもそれなりの目的があるからです。

 

 「カメラがないのにどうして僕が大浴場にいると?」

 「うぷぷ……キミならだいたい分かってるんじゃないの?ボクに聞いて確認したい?」

 「なるほど。つまりモノカラーと……それ以外にも何かありますね」

 「ぎょっ!?」

 

 モノクマの言う通り、大方予想は付いていました。僕たち全員に付けられたモノカラー。これが単に僕たちを脅すためだけに付けられたものなら、カギシステムや指紋認証などのハイテク技術を詰め込む必要はありません。おそらく発信機のようなものがついているのでしょう。カメラの死角はこれで補うと。

 

 「ですがモノカラーでは個人の特定まではできないようですね」

 「え?なんでそう思うの?」

 「あなたがそう言ったからです」

 「ボ、ボクそんなことまで言ったかなあ?」

 「ああ。本当にそうなんですね。すいません、カマをかけました」

 「ゴルァ!!」

 

 モノクマはいい加減な態度でこちら側を振り回しますが、ウソは言いません。それがモノクマの矜恃なのか、ゲームマスターとしてのルールに則っているのか。いずれにせよ、こいつの言葉にウソがないという事実だけでも相当こちらに都合が良いです。普通は相手の言ったことがまず真実が嘘かを判別しなくてはいけませんから。

 つまり、モノカラーの発信機能を使ってカメラの死角を補っている。しかし個人の特定まではできないので、特に不審な反応はこうしてモノクマが出向いて確認する必要があると。加えて、モノカラーと監視カメラ以外にも、僕たちの動向を見張るための何かがあるようですね。

 モノクマはコロシアイゲームを統率する立場ですし、自分への抵抗をいち早く潰すためにも監視は必要でしょう。しかしこれは明らかに個人で可能な範疇を超えています。かといって、希望ヶ峰学園にこんなテロリズムのようなことを仕掛ける集団がいるとは思えませんし……。まあ、当面それはどうでもいいです。

 

 「ところでモノクマ」

 「なにもう。オマエと話すの緊張するからもうイヤ」

 「遺体はどこに隠しているんです?」

 「おろ。そんなこと気になる?」

 「ええ。大いに気になりますね。虎ノ森クンはあなたがポータブルサイズにしてしまいましたが、益玉クンと三沢サンの遺体はどこかに保存してあるはずです。ずっと裁判場にいたあなたがどうやって保健室を掃除して遺体を運んだのか分かりませんが、あなたのことです。使えるものはなんでも使うつもりなんでしょう」

 「う〜ん、イヤなものの考え方してるね!でもその通りだよ!でも教えねーよ!キミが長生きしてたらいつかまた会えるかもね!」

 

 ということは、やはりどこかに保存してはあるということですね。そしてその場所も、今回開放された2階と同じように開放されると。こうもあっさりと口を割るということは、それ自体はそこまで重要なことではないということですか。

 

 「彼らのモノカラーを調べさせてほしいのですが」

 「は?なんで?」

 「死んだらモノカラーも必要ないでしょう。ひとつくらい分けてくれてもいいではありませんか」

 「いいわけねーよ!あれ1個作るのに0が何個並ぶと思ってんだコノヤロー!特にオマエみたいな何するか分かんねーヤツにはぜってー渡さねー!モノカラーを調べたきゃ自分のを調べな!それでどうなっても知んねーよ!分かったか!」

 

 つまり、やろうと思えばやれるというわけですね。しかし、予想通りといえばそうですが、そう易々とモノカラーを譲ってもらえはしませんか。そうですか。モノクマの反応的に、調べられてマズいことがあるというよりは、モノカラーを利用されると困ることがあるという感じですか。そういうことなら、それほどリスクを冒してまで手に入れるものでもありませんね。

 

 「仕方ありませんね。残念です」

 「うぷぷ♬なんでもかんでも思い通りになると思っちゃあいけないよ。オマエだって所詮ただの高校生なんだからね。いくら手下がいたって──」

 「……!」

 

 しまった。モノクマの言葉に思わず反応してしまった。モノクマがそれを知っていることぐらい想像がついたはずだ。それなのに、自分が明かしてないはずのことを口にされると、脳が勝手に反応してしまう。

 

 「おっと。これはまだ言っちゃいけなかった?うぷぷぷぷ!どうせ誰も助けになんか来ないんだから、そんなに気にすることないのに!」

 「助けなんか初めから期待していません。ここからは自力で出ます。もちろん、あなたにはたっぷりお返しして差し上げますよ」

 「あらあら。珍しく熱くなっちゃって。やっぱり、()()()()()のこと言われると尾田クンも緊張しちゃうのかな?」

 「そうですね。それを知っている人間は全員始末するつもりなので。ボクはそのためにこの学園に来たのですから」

 「おーこわ!始末されるのはどっちだろうね!うぷうぷうぷぷ!」

 

 勝ち誇ったような顔でモノクマは去って行った。ヤツがボクたちの情報を握っているのは、希望ヶ峰学園を占拠した力を持つことからも明らかだ。ボクが他の全員に隠していることくらい当然お見通しだろう。敢えてそれを明かさないのは、ボクとの取引材料にするためか?そんな驕りはいずれ後悔させてやりますが。

 

 「あっ!!こんなところにいたアル!!劉劉(リュウリュウ)!」

 

 突如として大浴場に響いた、耳を劈くようなバカデカい声。それが長島サンのものだと気付くのが一歩遅れた。耳がキンキンして声色が上手く聞き取れなくなってしまったのか。どれだけ声がデカいんですか。

 

 「ぐっ……!な、なんですか……?」

 「そんなうるさそうにしてる場合じゃないアル!大変ヨ!」

 「また死体でも出ましたか」

 「逆ヨ逆!出られないアル!」

 「はあ?」

 

意味が分からず思わず聞き返す。死体が出られない?死体は死体なんですか?だいたいなんでボクを探してるんですか?聞きたいことは次から次へと浮かんできますが、長島サンは一も二も無くボクの腕を掴んで引きずり出すばかりで、何も説明してくれません。本当に、アホに付き合うのは疲れる。

 

 「宣宣(シェンシェン)が閉じ込められちゃったアル!」

 


 

 食堂には、全員が集合していた。厳密には、庵野くんと尾田くんを除く生存者の全員だ。庵野くんはいま、彼の個室に閉じ込められてしまっているらしい。ぼくはそれを人伝に聞いただけだから真偽は分からないけど、たぶん本当なんだろう。尾田くんは長島さんが捜しに行っている。

 食堂は、まさに緊張状態だった。

 

 「離せ!クソッ!こいつ……どこにこんな力があるんだよ!」

 「フッフッフ。拙僧、これでも山奥で修行生活を送っていた身。こと身体能力にかけては自信がありますよ」

 「い、岩鈴さん……!」

 

 食堂の入口付近にかたまるぼくたちと対峙するように、狭山さんは食堂の向かい側に立つ。その側には、陽面さんや月浦くん、毛利さん、理刈さんもいる。そして狭山さんは、岩鈴さんの手首を掴んで彼女を押さえつけていた。女子の中では特に腕力が強いと思っていた岩鈴さんが取り押さえられている姿は、正直想像していなかった。

 

 「しかし拙僧は暴力が嫌いです。腕に物を言わせてきた者の辿る道は決まっています。即ち、須く系譜(コン)絶あるのみ。ここは平和的かつ理性的に解決しようではありませんか」

 「ふざけんじゃないよ!アンタら自分が何を言ってるか分かってんのか!」

 「もちろんだ。お前こそふざけたことを言うな」

 「なんなんですか。なんの騒ぎですか」

 

 誰も岩鈴さんの助けに入れない。この事態がどこへ向かって行くのか、誰にも分からない。そんな張り詰めた空気を、尾田くんの呆れ声が緩ませた。長島さんがどこかから見つけて連れてきてくれたらしい。彼にこの状況を打破する力があるかは分からない。でも、いまの狭山さんを止めるにはこちらの味方が少しでも多い方がいい。

 

 「これはこれは尾田さん!いえ、大したことではありません。ちょうどいいので、尾田さんもお聴きになってください!」

 「なにが始まるんです?」

 「わ、分からない……。岩鈴さんがいきなり怒りだして、狭山さんに掴みかかったんだけど……気付いたらこんなことになってて……」

 「じゃあ岩鈴サンが悪いじゃないですか」

 「どうやらそう簡單(かんたん)な話でもないらしい。取りあえず(わけ)を聞こうじゃあないか」

 

 尾田くんの問いかけに、甲斐さんと菊島くんが答える。ぼくたちはまだ、何が起きたのか分かっていない。ただ、狭山さんが何かを始めようとしていることだけは分かった。そして、それがおそらく良くないことだというのも、直感的に理解していた。

 

 「手短に申します。拙僧をはじめ、ここにいる5名は、このコロシアイ生活から抜けさせていただきます」

 「……はあ?」

 

 それは、コロシアイ脱退宣言だった。いや、正確には違うか。脱退なんて、そんなことができるならぼくたちの全員がしたいところだ。岩鈴さんだって怒る理由がない。だからきっと、狭山さんが言うそれは脱退なんかじゃなくて……さしずめ、棄権宣言といったところか。

 

 「本日を以て拙僧らは、『狐々乃一心教会』として皆様とは別個にこの学園内で生活いたします。拙僧らは卒業に関する権利の一切を放棄します。すなわち、コロシアイにこれ以上関与することはありません」

 「な、なに……?どういうこった?」

 「外の世界に執着するから外に出たいなどと思うのです。外の世界を捨てきれないから外の世界の評価が気になるのです。外の世界を諦められないから外などというものを信じてしまうのです。そしてその心が在る限り、必ずモノクマに利用されてしまいます。ならば如何するか。全て放棄してしまえばいいのです。一切合切を捨て、諦め、忘れ、今ここにある世界を享受するのです。それこそが、拙僧たちが互いの尊厳を守り、平和に豊かに暮らしていける唯一の方法です」

 「そ、それはつまり……?」

 「ここでの暮らしを受け入れるのです。一生に亘り」

 「ふざけんなあ!」

 

 高らかな狭山さんの演説。それは、ここでの暮らしを受け入れて、脱出を一切諦めるというものだった。もしそれが狭山さん個人の考えだったら、それを受け入れる道もあったかも知れない。でも狭山さんは、後ろにいるみんなも同じ思いだと言う。『狐々乃一心教会』って言ったっけ。その考えのもとに集まった集合体……つまり、宗教的コミュニティを作ったということだ。

 その主張に、岩鈴さんが吠えた。

 

 「こんな狭くて息苦しいとこで一生生きてくつもりか!?んなバカなこと誰が納得できるってんだ!」

 「別に皆様に強いているわけではありません。拙僧らが一方的に宣言しているに過ぎません。ですが我らが教会は寛容です。共に暮らしていくというのなら広く招きますよ。さあ、如何ですか皆さん」

 「いかがですかって……」

 「だ、だったらなんで庵野さんを閉じ込めたの!庵野さんは別に反対してたわけじゃないでしょ!」

 

 宿楽さんが異を唱える。狭山さんたちの主張は分かった。それもコロシアイを避けるための一つの方法だろう。だけど、それと庵野くんを部屋に閉じ込めたことは繋がらない。だけどまあ……だいたいの想像はつく。この狭い世界の中で狭山さんは、自分の安全を絶対のものにしたいんだろう。そうなったときの懸念材料は、岩鈴さんのように教義に反対する人じゃない。庵野くんのような人だ。つまり。

 

 「庵野殿は考えを異にする者ですので幽閉しました。この世界に必要なのは拙僧の考えのみです。彼の考えは危険です」

 「ど、どういうこと?」

 「要するに異教徒弾圧の一種でしょう。殺してしまうわけにはいかないので、閉じ込めたというわけです。くだらないですね」

 「そう思いますか、尾田殿」

 「ええ。あなた方がどんなことを考えて実行しようが僕には関係ありません。せいぜい迷惑がかからないようにやってください。ただ……あなたの言うような“停滞”をモノクマが許すわけがないということは分かっておいてください」

 「あっ……ちょ、ちょっと……!」

 

 それだけ言うと、尾田くんはさっさと食堂を出て行ってしまった。彼がリスクを見過ごしておくわけもないし、本当にこの一件は彼にとって瑣末なものなんだろう。確かにコロシアイをしないという点でぼくたちと方向性は同じだけど、向かう場所は全く別だ。

 

 「ふむ。まあいいでしょう。理想は皆様全員に拙僧の考えを理解してもらうことでしたが、まずは不穏分子を封印することに専念しましょう」

 「ふ、封印……?」

 「岩鈴さん。あなたは少々暴力に訴える傾向があるようです。この世界において暴力は何よりも御法度です。従って、その考えが改まるまで、『禁房処(きんぼうのしょ)』に致します」

 「き、きんぼう?庵野みたいに閉じ込めるつもりか?」

 「察しが良いですね。その通りです。では皆さん!ごきげんよう!」

 

 岩鈴さんを取り押さえたまま、狭山さんは高笑いしながら食堂を出て行こうとする。ぼくは動くつもりはなかったけど、甲斐さんにハンドルを掴まれて道を空けさせられてしまった。狭山さんはぼくたちを一瞥し、他のみんなは脇目も振らずその後に続いた。まるで本当の宗教団体みたいだ。

 狭山さんたちが出て行った後で、ぼくたちは唖然としたまま、食堂に立ちすくんでいた。まさかこんなことになるなんて思わなかった。益玉くんや虎ノ森くんの凄惨な最期を見て心が荒んでしまうことまでは予想できたけど、まさか狭山さんがそれに付け込んで宗教を興すなんて。

 

 「ど、どうしよう……?」

 「放っとけよ!好きにさせときゃいいんだあんなヤツら!バカバカしい!」

 「でもあの手合いは放っておくと後々大変なことになるアル。叩くなら早いうちがいいヨ!」

 「叩くって……ぼ、暴力はいけません!なんとか話し合いで……!」

 「話し合いでなんとかなる相手ではなかろうな。少なくとも一生をここで暮らそうなど、真面(まとも)ではない。茹卵が生卵に戻らないように、イカレた認知を戻すことは不可能だ」

 「なんてこった……いったいどうすれば……!」

 「で、でもよう……」

 

 残されたぼくたちは、まさに混乱の中にいた。一方的に宣言されたコロシアイ離脱をモノクマが見過ごすとは思えない。無理矢理にでもコロシアイを起こそうとするだろう。秘密裏に活動するならまだしも、あんなに堂々と宣言されては、モノクマだってすぐ行動を起こすはずだ。そうなったときに一番割を食うのは、ぼくたちだ。狭山さんたちのような結束もなく、モノクマの策略に翻弄され、最悪コロシアイに発展してしまう。

 そんな戦々恐々とするぼくたちの中から、王村さんが弱々しい声を出した。

 

 「コロシアイをしねえってのは……いいことなんじゃねえのか?モノクマがなんかしてきてもよう、あいつらの仲間に入っときゃあ、少なくとも互いにコロシアイしようなんてこたあなくなるだろ?じゃあ……気を付ける相手が減るから……」

 「何言ってんだ!あんなもんいざとなったら裏切るに決まってんだろ!信用できっかよ!」

 

 ダメだ。話が入り乱れてる。いまぼくたちが考えるべきは、狭山さんの仲間になるかどうか、そこが安全かどうかじゃない。狭山さんの暴走を止める方法だ。彼女が仲間を作ってコロシアイをしないよう結束するのはいい。それはぼくたちが目指すところと同じだ。でも、みんなの不安な気持ちに付け込んで排他的な集団を作り、自分を中心として社会を作るのは止めなきゃいけない。明確な上下関係はいずれ争いを生む原因になる。そのとき最も危険なのは、トップに立つ狭山さんだ。

 

 「みんな」

 

 ぼくは、慎重に言葉を選ぶ。下手な発言は残ったみんなを余計にバラバラにするだけだ。まずは、ここの繋がりをまとめておかなくちゃ。

 

 「狭山さんを止めよう。彼女はいま暴走してる。彼女の考え方はともかく、庵野くんや岩鈴さんを閉じ込めるのはやり過ぎだ。そんな横暴は止めさせなくちゃいけない」

 

 冷静に、明白な事実と明確な目的だけを告げた。彼女の思想がどうとか、彼女に付き従うみんながどうとか、そんなことは後回しだ。

 

 「そ、そうだよ……!このままじゃみんなバラバラになっちゃうよ!」

 「ああそうさ!きっとココノちゃんたちは焦ってしまって冷静になれてないだけさ!話し合えば分かってくれる……そうだよな?」

 「そこは断言してほしいなあ、カルロスくん」

 

 なるべく深刻にならないように、カルロスくんの不安げな様子を敢えて取り立てる。少しだけみんなの中に流れる空気が緩んだみたいだ。ひとまずここのみんなが分断されるのだけは避けられたようで、ぼくはほっと胸をなで下ろす。

 

 だけど、事態はぼくたちが思うより早くから進んでいたらしい。突然、学園中にチャイムが響き渡った。

 

 「オマエラ!ボクから大事なお知らせがあります!今すぐ体育館に集合してください!」

 「……!」

 

 その放送を聞いてから、ぼくは狭山さんがもっと早い段階から水面下で行動していたことを理解した。いくらモノクマでもこんなに早く手を打てるはずがない。きっと狭山さんが人を集めて籠絡し始めた頃から、機を伺っていたんだろう。最低限の手札で最大限にぼくたちの結束を破壊するタイミングを。

 

 「オマエラさあ、なんか面白いことやってるみたいだね」

 

 体育館に集められた私たちは、狭山さんたちに囲まれて身動きが取れなくなっている庵野君と岩鈴さんを見た。庵野君は大人しく、岩鈴さんはなんとか拘束を外そうともがいている。2人が何で縛られてるのかはよく分からない。だけど2人とも後ろに手を回していて、親指に何かを嵌められている。たったあれだけで、庵野君も岩鈴さんも無力化してしまうなんて。そしてそれを実行する狭山さんが、とても恐ろしく感じられた。

 

 「お気になさらず。あなたの邪魔はしませんので、路傍の石ころ共とでも思っていただければ」

 「立って歩いて飯食って喋る石ころがあるか!コロシアイをしないって宣言するだけならまだしも、ここでの暮らしを受け入れるゥ?ボクに刃向かうことさえしないなんて、とんだ興醒めだよ!ボクはもっとオマエラのなにくそ根性を期待してたのに!」

 「イマドキそんなのは流行らないのですよ。我々、サトリ世代なので」

 「オマエはサボり世代だろ!」

 「上手いこと仰いますね!」

 

 本当に脱出を諦めたのか、狭山さんはモノクマと軽妙なトークを繰り広げる。ここでの暮らしを受け入れた狭山さんたちにとって、モノクマはコロシアイを強いる存在でも恐れるべき存在でもない。この建物を管理する大家さんくらいに思ってるんだろうか。ずいぶん親しみを感じる距離感だ。

 

 「僕ら全員を呼び出したということは、また動機か何かですか?やるなら早くしてください。どうせそれでコロシアイを起こすのはどうしようもないアホだけなので」

 「もう尾田クンのその憎まれ口ですら有難く感じるよ……まあオマエラお察しのとおり、今回呼び出したのは他でもない、新しい動機を配るためだよ!」

 

 動機。私たちをコロシアイへと導くモノクマの罠。前回は生存投票で最下位の人に毒を打つというものだった。お互いが誰に生きて欲しくて誰なら死んでも構わないと思っているかを浮き彫りにして、なおかつ最下位の人には死のペナルティを与える、残酷な動機だった。

 

 「ま、ボクの前置きなんかより、実際に見てもらった方が早いよね!というわけで、オマエラ、前にちゅうも〜く!」

 

 モノクマが(どういう仕組みか)指を鳴らすと、体育館の舞台の上からスクリーンがするすると下りてきた。背後で音がして、振り返るとプロジェクターが天井からせり出して来ていた。見た方が早いって、何かの映像を見せられるってこと?それが今回の動機?モノクマからは何の説明もないまま、プロジェクターのじんわりとした映像は次第にその輪郭を鮮明にしていく。

 青い背景に、3つの窓がある。それぞれの窓の下には、美術館の作品説明のように小さな枠があった。そこに書かれていたのは……もうここにはいない彼らの名前だ。それを認識した瞬間、なぜかすごく緊張した。一体何を見せられるのか分からないけど、少なくともろくでもないものであることは間違いないと思ったからだ。モノクマがにやりと笑った気がした。

 益玉君の窓がスクリーンいっぱいに広がった。

 


 

 『“超高校級の語り部”益玉 韻兎クンへ。大切な家族より』

 

 そんなメッセージがモノクマの声で再生される。真っ暗な画面の中から浮かび上がった光景に、私たちは心臓を握られたような恐怖を覚えた。

 映し出されたのは一組の夫婦だった。女性の方はどことなく益玉君に似ているような気がする。少しだけ寂しそうな嬉しさをたたえた、柔和な笑みを浮かべている。男性の方は口を固く結んでいる。緊張してるみたいだ。ちょっとだけ恥ずかしそうに目が泳いでいる。まるでビデオメッセージのような、微笑ましい光景だ。()()()()()()()()

 だけど私たちの視線は、その2人の後ろに釘付けになっていた。そこには大勢の人がいた。大人も子どもも、男性も女性も、太っている人も痩せている人も、色々な人々がいた。唯一共通しているのは、その全員がモノクマの顔をしていることだった。着ぐるみの頭だけを残したような、体に対して頭部が異常に大きい不気味なシルエットをしていた。そんな人が10人も20人も並んで、夫婦の背後を埋め尽くしていた。夫婦はそれに気付いているのか分からない。ただ、真っ直ぐ画面のこちら側だけを見つめていた。

 

 『韻兎。元気ですか?』

 

 女性の方が言った。

 

 『希望ヶ峰学園での生活にはもう慣れた?韻兎は人がたくさんいるところが苦手だから、体を壊してないか心配です。お友達はできた?家を出る前に、好きな作家の先生が同級生だって嬉しそうに話していましたね。その人とはもうお話ししましたか?聞きたいことがたくさんあります。お母さんばっかり喋っちゃいそうだから、お父さんも何か言ってあげて』

 『たまには電話でもしろよ。お母さん心配してるからな。しんどいことがあったら大人を頼るんだぞ』

 

 胸が締め付けられるようだった。同時に、猛烈な不安に苛まれた。これは紛れもなく、益玉君の両親から彼に宛てたビデオメッセージだ。ごく自然な、親が子どもを心配する、それだけの内容だ。だというのに、後ろに立つモノクマの被り物をした人たちと、これをモノクマが見せているという事実で、このメッセージは本来のものと全く違う意味を持ってしまっている。

 

 『この前、希望ヶ峰学園からお知らせが来ました。授業参観があるみたいでずね。お、おカっ、おがあざンタち、たチ、ッ、たたたのシシシシシシッ──』

 

 突然、映像と音声が乱れた。画面全体にノイズが走り、色彩を失って、砂嵐の中に消えていく。画面の上から下へ、あるいは下から上へ流れていくコマ送りの景色が、変わっていく。温かくて微笑ましかった映像が塗り潰されていく。

 ノイズが収まった後に映ったのは、同じ場所だった。同じ人だった。違うのは、彼らが着ている服と表情だ。益玉君のお母さんもお父さんも、後ろに立つモノクマ頭たちさえも、上から下まで黒一色に染まった服を着ていた。お母さんはその場で崩れ落ち、お父さんも顔を伏せて小さく震えている。これは……これじゃあまるで……。

 

 「いんと……!いんとおぉ……!!」

 

 まるで、お葬式みたいだ。喉を裂かんばかりに泣き叫ぶお母さんの声を残して、映像はそのままブラックアウトした。そして、またモノクマの声が流れてくる。

 

 『さあ!いったい外の世界で何が起きたのでしょうか!そしてキミの大切な人たちはこの後、いったいどうなってしまったのでしょうか!全ての答えはぁ……卒業の後で!』

 


 

 誰も、何も、言えなかった。今の映像はなんなのか。いったい何があったのか。どうして二人とも喪服を着ていたのか、モノクマ頭たちは本当にあの場にいたのか、この映像の後に何が起きたのか……分かることはひとつ。それを知りたければ、外に出るしかないということだけだ。

 

 「さ、次いってみよー!」

 

 モノクマの言葉とともに、はじめの画面に戻ったスクリーンは2つめの映像を流し始める。映像のタイトルは、『“超高校級のサンタクロース”三沢 露子サンへ。楽比町町内会一同より』。映し出されたのは、どこかの宴会場だった。真ん中に大きな低いテーブルがあって、たくさんのご馳走が並んでいる。部屋には手作りの飾り付けが施されていた。年代も性別も様々な老若男女がテーブルを囲み、画面のこちら側へにこやかに手を振っている。その後ろ、宴会場の壁伝いに、またモノクマ頭たちが整列している。

 その後は、益玉君の映像と同じだった。温かいビデオメッセージが流れた後に映像が突然乱れ、収まったときには全く異なる映像になっていた。色取り取りの飾り付けは白黒の鯨幕に。ご馳走は慎ましいお膳に。賑やかで活気のあった笑顔は、苦しみと沈痛な涙の表情に。

 最後に再生されたのは、『“超高校級のゴルファー”虎ノ森 遼クンへ。虎ノ森遼オフィシャルファンクラブより』だ。どこかのホールに集まった、おそらく虎ノ森君のファンの人たちがうちわやタオルを振り回し、歓声をあげている映像だった。モノクマ頭たちは全ての通路と出入口に並んでいる。ホール中に響いていた割れんばかりの黄色い声は、激しいノイズの後、無秩序な号泣へと変わった。

 

 「分かったかな?」

 

 モノクマはそう締めくくった。いったい何を分かれと言うのだろう。私たちは、これを見てどうすればいいのだろう。何をしろというのだろう。外の世界で何が起きたか分からないけど、ここにいる限り私たちには何もできない。この映像が本物かどうか確かめるには、外に出る以外の方法はない。

 だけど、見せられたのは益玉君たちの映像だ。これは私たち宛じゃ──私、たち宛て──?

 

 「今のような映像が、あるんですね」

 

 冷静に、尾田君が尋ねた。益玉君と、三沢さんと、虎ノ森君宛ての映像。()()()()()()()()()()()()()()()()を見せた意味。彼はそれをいち早く理解していた。

 

 「そのとーーーり!たった今、オマエラのモノカラーに、オマエラのそれぞれから送られた今みたいなビデオメッセージを送りつけてやりました!うぷぷぷぷ!オマエラにとって大切な人は誰か、そして一体どうなったのか、その結末はオマエラ自身の目で確かめな!」

 

 それが、今回の動機というわけだ。誰かが死ぬような動機でも、私たちの間に疑心暗鬼を生むような動機でもない。ただ、私たちの外に出たいという気持ちを煽るだけのシンプルな──それだけに強力な動機だ。外に出るには、コロシアイをするしかないんだから。

 

 「くだらないですね」

 

 動機の内容が分かっただけで私は軽く絶望していた。ただ外の世界を見せるんじゃなくて、大切な人たちの不気味な映像だ。外に出たいという気持ちは今までになく煽られると感じた。それなのに、彼はそう吐き捨てた。

 

 「これは強制ですか?絶対に観なければならないものなんですか?」

 「うん?いいや、別にボクから観るように強いることはないよ。ただ、オマエラがその気になればいつでもどこでも何度でも観られるようにしてあげただけ。要はモノカラーに新機能搭載!プロジェクションマッピング技術を利用したどこでもシアター機能!ってこと!うーん、ボクってやっぱり気の利くナイスなクマ?」

 「であれば、コロシアイを誘発すると分かっている動画をわざわざ観ることはありません。無視すればいいだけです」

 「その通りです尾田殿!さすが良いことを仰る!コロシアイの種になるものは一切排除します!皆さんもいいですね。決して拙僧の許可なく映像を観ないこと!」

 「そ、そうだ!観なきゃいいんだろ……!こんなもん……!」

 

 みんなの言う通りだ。そう。こんなもの、観なければいい。観なければ、モノクマは何もしていないのと一緒だ。観なければ、外に出たいなんて気持ちが煽られることもない。観なければ……私の大切な人に何が起きたか、知ることもない。誰が……どうなっているか……知らないまま、ここで過ごす。

 そんなことができるのか?この先ずっと、頭の片隅で私の家族や友達、ホームでお世話してる人たち……誰がビデオに出てるかは分からないけど、それは私の大切な人たちらしい。その人たちが……どうなってしまっているのか……。

 

 「観るなと言われれば観たくなるのが人の性だ。別に観る必要はないが……観ても構わんのだろう?」

 「はあ。わざわざ次にコロシアイが起きたときに容疑者となる根拠を持つ必要はないと思いますが」

 「まるでまたコロシアイが起きることを予見しているようだな、尾田」

 「あなたが観れば、確信になり得ます」

 「ふふふ……なに、興味本位だ。俺は他人に興味はあるが、他人を大切に思った経験があまりないからな。誰が映っているのか、単純に興味がある」

 「カスみたいな理由ですね。別にいいですけど」

 

 こんなときでも菊島君はマイペースに、動画を観る宣言なんかしてる。菊島君以外にも、口では観ないと言っていても部屋でひとりになったとき、この誘惑に負けてしまう人がいるかも知れない。そう思うことが既に、私が他の人に対して疑心暗鬼になってしまっていることの表れだ。

 

 「それじゃあオマエラ!そういうことで!」

 

 モノクマは笑って去って行った。あとは放っておけば、私たちが勝手に疑心暗鬼に陥るということだろうか。残された私たちは、私のようにどうしていいか分からず固まる人たち、尾田君や菊島君のように全く動じない人たち、そしてモノクマの動機などどうでもいいとばかりに庵野君と岩鈴さんの拘束に躍起になっている狭山さんたち『狐々乃一心教会』。疑心暗鬼に陥る以前に、既に私たちはもうバラバラだ。

 

 「それでは皆さん、参りましょう。我々は外の世界のことなど今更どうとも思っていません。命あっての物種、誰しも自分の命が最も大切ですからね。他人のために命を擲つ物好きな者もおりますまい」

 「それは……益玉君のことを覚えてて言ってるの……?」

 「……おっとこれは失礼。それでは」

 

 からからと軽薄に笑いながら、狭山さんはみんなを引き連れて体育館から出て行ってしまった。そしてマイペースに行動する尾田君たちもさっさと出て行ってしまい、私はまたここに取り残された。以前、この場で自分を犠牲にしてみんなの分裂を回避しようとした彼はもういない。もし益玉君がこの場にいたら、どうしただろうか。何をしてくれただろうか。何ができただろうか。私は、どうすればいいのだろうか。

 


 

 モノクマ様が新しい動機を配布されて一日、私たちは表面上、何も変化はないように振る舞っていました。しかし無視できない変化がそこにはありました。人間の姿に戻られた狭山様によって岩鈴様と庵野様はご自身のお部屋に閉じ込められてしまい、また何名かの方は狭山様が興された宗教に加入したことで、私たちと同じ空間にいながら異なる生活を送っていらっしゃいました。全員が食堂に揃っていた夕飯の時間も、狭山様たちはご自身のお部屋で過ごされ、私たちとは極力お顔を合わせないようにされていました。

 

 「万が一コロシアイが起こるというとき、拙僧たちがその選択肢に入ることがあっては適いませんので」

 

 笑ってこそいらっしゃいましたが、そこには露骨な敵意と拒絶の意思がありました。狭山様にとって、ご自身と道を違える人はもはや敵なのでしょう。このままでは本当にまたコロシアイが起きてしまうかも知れない。私はいつの間にか、そんな考えに囚われるようになってしまいました。

 それでも、料理や掃除、片付けなどの仕事をしていると、そうした不安から一時的に逃れることができました。私にできることはこれくらいですが、こんな状況でもできることがあるということは幸せなことなのかも知れません。ですから、つい私は夜遅くまで厨房の掃除などをしていて、夜時間が訪れる直前になってモノクマ様に追い出されることになってしまいました。

 

 「こんなことでおしおきなんかになったらダメだよ!ちゃんと自分の部屋に戻って寝なさい!」

 「も、申し訳ありません……」

 

 お昼、私たちに動機を与えて笑っていたモノクマ様と同じとは思えない気遣いに、私はそれしか言えませんでした。もう少し気の利いたお返事のひとつでもして差し上げればよかったかも知れません。夜は大浴場なども閉まってしまうので、私は仕方なく部屋に戻ることにしました。

 夜時間を過ぎた廊下は人気が無く、照明が少なくなって薄暗いです。翌日の仕込みなどをしてこのくらいの時間に部屋に戻るのはよくあることですが、なんだか今日はいつもより不気味な雰囲気を感じます。まるで、誰かが物陰から見ているような……。

 

 「……!」

 

 視線を感じてそっと背後を振り向く。そこにはもちろん誰もいません。私が怯えているからでしょうか。なぜか空気が張り詰めているような気がしてきました。少し、疲れているような気がします。早く部屋に戻って眠ろうと正面に向き直り──。

 

 「……あっ!」

 

 つい、声が出てしまいました。廊下の向こう側から私を見つめる、彼と目が合ってしまった。さっきまでそこにいなかったはずの彼が、暗がりの中から私に近付いてきました。そして──。

 

 「何をしている」

 

 こちらが聞きたいことを先に聞かれてしまいました。こんな夜更けに、それもひとりでいるなんて、月浦様にしてはとても珍しいことでした。いつもならお隣に陽面様がいらっしゃるのに。

 

 「わ、私は……部屋に戻るところでして……」

 「……ふんっ。夜中に出歩いて狭山に目を付けられたら面倒だぞ」

 「はあ……ご迷惑おかけします。あの、月浦様は何を?」

 「僕は見回りだ。狭山の命令で」

 「狭山様の……ご命令?」

 

 月浦様から陽面様以外にお声かけなさるなど、考えてみれば大変珍しいことでした。普段はお二人で会話をしているところばかり見ていたので、私と一対一でお話しされるのはとても新鮮でした。

 夜中に起きていらっしゃることも、お一人でいることも、よくお話になることも、普段の月浦様からは考えられないご様子です。狭山様のご命令で見回りをされているというのが関係しているのでしょうか。確か月浦様は陽面様とご一緒に『一心教会』に加わっていらっしゃったような

 

 「狭山のように徒党を組んでいるヤツらが他にいないか、狭山にとって脅威になる存在がいないかを調べるように言われた。密かに行動するには夜中が一番だから、この時間の見回りが一番効果があるんだ」

 「なるほど。仰ることは分かりましたが……どうして月浦様が?」

 「さあ。狭山の考えは分からない。あんなに世俗的で独善的で刹那的で……そのくせ狡猾で臆病な人間はみたことがない。社会で生きていける人間じゃない」

 「前置きはともかく狭山様が臆病というのはあまり想像できませんが」

 「あいつはシャーマンのくせに現世に執着し過ぎてる。死ぬことの恐怖を克服しようとか、生きることに向かい合おうとか、そんな宗教家が言いそうな高尚なことは、僕たちにだって言わない。ただただ快楽的に生き存えることだけを考えてる。そういうヤツだ」

 「はあ……」

 

 お話を伺っている限り、月浦様はどうにも狭山様のお考えに共感されているようには感じられませんでした。コロシアイをしない、結束するべき、その点については私も異論はございません。が、その先にあるご自身の安全と愉悦を第一にしている点については、賛同致しかねます。月浦様は、どちらかと言えば私の方に近いお考えをお持ちのように拝見しますが。

 

 「差し出がましいことを申しますが……それならばなぜ月浦様は狭山様の御命令に従っていらっしゃるのです?」

 「……はぐを人質に取られている」

 「人質?」

 「あいつの才能はオカルトなんかじゃない。人を不安にさせて、弱った心を弄び、口八丁手八丁で人心掌握とマインドコントロールをする。そういう才能だ。まんまとはぐが捕まった。僕が一緒にいながら……なんてことだ」

 「つまり、陽面様のために仕方なく狭山様の言うことをお聞きになっていると」

 「今だけだ。一刻も早くはぐの目を覚まさなきゃならない。どうにかしてあいつの寝首を掻いて……」

 「ね、寝首って……早まってはいけません月浦様!」

 「ものの例えに決まってるだろ……。僕があいつを殺したら、はぐと一緒にいられなくなるだろ」

 

 ご自身の命の危険より、そちらが先に出て来るのですか。以前から気にはなっておりましたが、月浦様の陽面様に向けられる感情は、些か過剰と申しますか……過保護すぎるような気がします。いったい、ここに来られる前、お二人の間に何があったのでしょうか。不躾とは存じましたが、夜更けのせいで思考が掻き乱されていたのか、私はその質問をぶつけてみました。

 

 「あの、失礼を承知でお尋ねしますが、月浦様と陽面様は……どういったご関係なのでしょうか?単なるアイドルとプロデューサーにしてはその……懇ろすぎると申しますか」

 「……難しいな。言葉で説明するのは」

 「そ、そんなに複雑な経緯が?」

 「いや、はぐを言葉で説明しようとするなんて烏滸がましいと思って」

 「左様ですか」

 

 他者の理解を必要としないのは結構なことです。私はもうそれ以上お二人の関係について知ろうとするのは止めました。理解できる気がしないので。

 

 「僕はもう行く。お前も、部屋に閉じ込められたくなかったらあまり夜中に出歩くな」

 「はあ……ありがとうございます。あの、最後にひとつ伺っても?」

 「なんだ」

 

 辺りを気にしつつ、月浦様はその場を離れようとしました。こんな夜遅くに私たち以外にどなたがいらっしゃるのでしょう、と思いましたが、月浦様の様子を見ているとなんとなく物陰に気配を感じてしまいそうになりました。最後に私は、ずっと気になっていたことをお尋ねしました。

 

 「どうして、私にそこまでお話になるのでしょうか」

 

 普段、月浦様が陽面様以外の方とここまでお話になることはありませんでした。ですので、今このしばらく、月浦様が色々なことを私にお話し下さるのがとても不思議でした。月浦様は、再度周囲を警戒した後、先ほどまでよりもずいぶんと小声でお話になりました。

 

 「まだ狭山たちは少数派だ。結束の脆さが露呈すれば組織の寿命は縮む。別にあんたじゃなくても話したさ」

 「……左様でございますか。では、私はいかがすればよろしいのでしょうか」

 「何もしなくていい。ただ、あいつらの考えに染まらないのがいるっていうこと自体が、あいつらには脅威なんだ」

 

 そう言い終わると、月浦様は暗い廊下を歩いて行ってしまいました。月浦様は、本当に狭山様の教団を破壊するおつもりのようです。それがどんな結果を引き起こすのか……あるいは失敗に終わってしまうのか、予想のできない未来がすぐそこまで迫っていると思うと、なんだか空恐ろしく感じられました。




狭山の人間のすがたをアップロードするのをすっかり忘れていたので、二章第一話に追加しました。せっかく描いたのにもったいないことですよね。さーせん。

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