ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

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非日常編

 

 衝撃。胸の後ろから突き上げられるような強い衝撃だった。私の意識が肉体に飛び込んだかのような感覚とともに、私の意識だけが飛び起きた。瞳は天井を映している。体は横たわったままだ。

 天井の色と体を包み込む柔らかな布団の感覚、どちらも知らないものだった。ただ、それが誰かの個室のベッドで、私は今の今まで気を失っていたということだけは、すぐに理解できた。そしてここがどこなのかも、すぐに分かった。私が飛び起きたのに気付いたのか、力強く優しい声がかけられた。

 

 「おや、気がつかれましたか」

 「えっ……あ、庵野君……?」

 

 声のする方に目を向けると、頭の上に乗った重い感覚がべったりと頭の形をなぞるようにずれていって、目の前に落ちた。濡れタオルだ。庵野君がそれをどけてくれて、たらいの中に浸してきつく絞る。

 

 「地下室で倒れられたと聞きまして驚きました。芭串君と長島さんが連れてきてくださったのを、手前が引き継いで看病しているのです」

 

 その説明で、私は自分の身に起きたことと、地下で何があったかを思い出した。思い出してしまった。あの光景と、あの事実を。息が詰まるような気がした。呼吸が荒くなって顔が熱くなる。それでも、落ち着かなくちゃいけないと自分で分かるくらいには冷静になれていた。意識的に呼吸を深くして、私は心臓を落ち着ける。

 

 「大丈夫ですか?無理もありません。虎ノ森君の事件のときから、甲斐さんはいつも凄惨な現場に遭遇してしまっています。これ以上は心が壊れてしまいかねない」

 「……みんなは……?捜査は、どうなったの?」

 「今がまさに捜査時間です。ご安心なさい。甲斐さんが休まれることを責める方などいませんし、手前よりよほど優秀な方々ばかりです。甲斐さんは、今は体を休めてください。学級裁判になれば嫌が応にも心と体を酷使することになるのです」

 「そんな……私ばっかり、寝てなんて……!」

 

 起き上がろうとするけれど、体は鉛のように重たくて言うことをきかない。心の疲労が体にまで影響してるんだ。確かにこのままだと心と体のどちらかが先に音を上げてしまうかも知れない。いや、もう既に限界なんだろう。気を失ってしまうくらいなんだから。

 もし私が庵野君や他のみんなの立場だったら、同じことを言うだろう。こんな状態の人に捜査なんてさせられない。だけど、私は私がそんな風になっていることを許せなかった。認められなかった。私は守られる側じゃない、守る側なんだ。そう声高に主張したかった。

 だけど、庵野君はそれを許してくれなかった。

 

 「どうか、無理をなさらないでください」

 

 起き上がろうとした私の肩を掴んで、庵野君は私をベッドの上に寝かせた。私が疲れてるっていうだけじゃなくて、庵野君の力がものすごく強いんだ。庵野君が人に対してこんなに力を行使することなんてなかったから、力強さを感じて私はなんとなく恐ろしくなってしまった。

 

 「甲斐さんが倒れていようと気を失っていようと、モノクマは容赦なく学級裁判の場に引きずり出すことでしょう。そのときは間違いなくやってくるのです。もしそれが原因で、今度は甲斐さんが命を落とすようなことになってしまっては、手前どもはいよいよ混乱してしまいます。今は休んでください。お願いします」

 「庵野君……でも……」

 「甲斐さんの『愛』がいかに深いかは、手前をはじめ皆さん分かっていることです。それにご安心ください。事件を解決するのに必要な手掛かりは、きっと皆さんが全て見つけてくれます」

 

 もちろんだ。私はみんなを疑っているわけじゃない。私は、みんなのために無理をしようとしているんじゃない。私のために私自身の体を犠牲にしようとしているんだ。それがひどい自己矛盾であることは、落ち着いて考えられるようになった頭で理解できた。

 庵野君はそういうと、重くて柔らかい布団を私にかけてくれた。普段庵野君が使っているものだから、体がすっぽり収まってもまだ余裕があるサイズだ。

 

 「申し訳ありませんが、甲斐さんのモノカラーのパスコードが分からなかったので手前の部屋しか入れませんでした。臭いなどは我慢願います。必要なら新しいものをお持ちしますが」

 「ううん……ありがとう。ゆっくりしてるよ」

 「そうですか。なによりです。それでは、束の間の休息かとは思いますが、ゆっくりお休みください。手前も捜査に参加してきます」

 

 穏やかな笑顔を見せて、庵野君は部屋を出て行った。布団からは庵野君の匂いがして、なんだか庵野君に覆い被さられているみたいだ。もし庵野君に抱きしめられたとしたら、きっとこんな風に優しく、温かく、力強くされるんだろう。

 と、そこまで考えた自分がなんだか変態みたいに思えたので、布団をひっくり返した。そんなときばっかりは体が軽い。

 

 「あ〜、もう。じっとなんかしてられないよ!庵野君には悪いけど、こっそり捜査にまじっちゃえ」

 

 とは言っても体は重い。私はベッドの上で少し準備運動してから、立ち上がってストレッチをした。体中の筋肉が温まってくるとなんとなく体力も回復してきて、動けそうな気になってくる。まだ外には庵野君がいるだろうから、少しの間はこの部屋で体を温めることに専念しよう。学級裁判になったとき、私だけ何も知らないなんてイヤだから。

 


 

 「不安だなあ」

 「大丈夫だよ宿楽さん。今までだってなんとかやってきたじゃないか」

 「そりゃ湖藤さんは頭いいからいいけど、私なんて今まで二回とも生きた心地がしなかったよ。おまけにそんな湖藤さんの推理を左右する捜査の手伝いをするなんてんだから、緊張もするわ」

 「まあまあ肩の力を抜いて」

 

 水がすっかり引いた地下室で、私は湖藤さんの車椅子のハンドルを握ってため息を吐いた。奉ちゃんが気を失って寝ているから、湖藤さんの車椅子を押して捜査の手伝いをする役割は私に回ってきた。奉ちゃん以外にこれの扱いを心得てる人が私しかいないからだ。湖藤さんはひとりでも動かせると言ってるけれど、手伝いっていうのは車椅子を押すだけじゃない。

 たとえば、谷倉さんと菊島さんの死体は水から引き揚げられて階段の踊り場に寝かされている。私たちならなんてことないその距離を、湖藤さんは易々とは移動できない。だから私が話を聞いてきて気になったことを調べて湖藤さんに報告することになった。さっそく責任重大だ。しっかり伝えることはもちろん、間違ったことを教えちゃいけない。私は気を引き締めて、階段を上った。

 

 「みなさんお疲れ様です。なんか分かりました?」

 「嫌みですか?そう簡単に分かったら苦労しません。今はモノクマファイルの内容を検証するのと、ここに書かれていない手掛かりを探しているんです。何か分かるとしたらその後です」

 「ご、ごめんなさい……」

 「気にするな宿楽。尾田は一言も二言も多く喋らずにいられないだけだ。要するに、まだ何も分からないというだけのことだ。いくつか見つかったものはあるが、それが何を意味するのかを考えるのは後回しだ」

 「そ、そうですよね……すみません、なんか先走っちゃって……」

 「謝ることはないさ!こんな状況じゃあいち早く何か知りたいと思うのは当然のことだからね!」

 

 上半身を下着だけにした谷倉さんを毛利さんが、帽子と外套を脱がせて青白い肌をはだけた菊島さんを尾田さんが調べていた。カルロスさんは見張り役だ。

 今朝、私たちに朝ご飯を作ってくれた谷倉さんがもう息をしてないという事実が、私にはまだ受け入れ難かった。血の気の引いた肌の色だって、少し具合が悪くて寝込んでるだけに見える。それくらい谷倉さんの死は実感が湧かなかった。

 それに比べて、菊島さんが死んでいることは、なんとなく受け入れやすかった。というより、覚悟ができてたんだと思う。朝食の場に出て来ないことが、この場所でどういう意味を持つか。なんとなく予想はしていたし、これが初めてのことじゃない分、心の準備的なものができてたんだと思う。

 

 「ま、事件解決に意欲を見せてくれるだけまだマシですね。気絶して置物になるどころか貴重な人員を割かせる厄介者よりは百倍いいです」

 「それって奉ちゃんのこと?」

 「他に気絶した人がいますか」

 「あれか?リューヘイは気になる女の子のことを悪く言ってしまうという思春期のあるあるなのか?」

 「別にそれで構いませんから、捜査の邪魔はしないでください」

 

 ドライだなあ。普通こういうときは分かりやすく焦ったり顔を赤らめて否定したりするのがお約束なのに、尾田さんは眉一つ動かさない。それとも、特に意識せずそういうことが言える真顔攻めっていうヤツ?それはそれで……こういうのをやめろって話か。

 私はそこから余計なことは言わず、毛利さんと尾田さんの検死が終わるまで、カルロスさんに話を聞くことにした。湖藤さんに検死結果をきくついでに、菊島さんの昨晩の目撃情報を集めてくるようにも言われた。

 

 「喜んで良いよフウちゃん!オレは実に重大な証拠を見つけた!」

 「なんですか」

 「タイシのジャケットからこんなものが出て来たんだ」

 

 床に並べられたものを示して、カルロスさんは分厚くてもじゃもじゃの胸を張りに張った。むっちい。

 

 「空き瓶!ボロボロのハンカチ!以上!」

 「……これってあれじゃないですか?菊島さんがその、シコるときに使うやつ」

 「シコるってなんだい?知らない日本語だな」

 「え〜〜〜っと、いらねーこと言っちゃったな。いやだから、菊島さんが持ってて普通のものじゃないですか?」

 「もちろん。しかしだね、タイシは昨日の晩から行方不明になっていた。いつ殺害されたのかは、事件の全容を把握するのに重要だとは思わないか?」

 「まあ、それは」

 「朝からこれを使うヤツはいないだろう。つまりタイシがこれを持っているということは、昨日の夜から事件に巻き込まれていたことを意味する!」

 「……そうかなあ」

 

 なんだか論理が無理矢理ぎみに感じる。瓶もハンカチも、菊島さんが常に携帯してるはずのものだから、あってもおかしくないと思う。カルロスさんの考え過ぎなんじゃないか。

 これって私の感想ですよね?と頭の中の屁理屈屋が私に囁いてきた。それが何を意味するかはさておいて、事実としてこれは遺留品だ。そこから何を読み取るかは、私じゃなくて湖藤さんがすることだ。だから、取りあえず私はそれを覚えておくことにした。

 そしてカルロスさんの話を聞いている間に、検死にも一区切りついたみたいだ。

 

 「宿楽。分かったことを共有するからこっちに来い」

 「あ、はい」

 「そもそもあなた、モノクマファイルを確認したんですか?」

 「あっ、そういえば……」

 

 尾田さんに言われてようやく、私はまだモノクマファイルを見ていないことに気付いた。モノカラーを点けて、モノクマから配られたファイルを開く。

 

 

 ──────────

 

【モノクマファイル③-1)

 被害者:谷倉美加登

 死因 :溺死

 死体発見場所:B1階

 死亡推定時刻: 9時20分から30分の間

 その他:手の平に火傷あり。

 

【モノクマファイル③-2)

 被害者:菊島太石

 死因 : -

 死体発見場所:B1階

 死亡推定時刻: -

 その他:後頭部に殴打痕あり。肺の中に水あり。

 

 ──────────

 

 

 「な、なにこれ?菊島さんのファイル……」

 「面倒ですねえ。もう1回通ってるんですよ、そんなところは」

 「菊島のファイルは谷倉に比べて……いや、狭山や益玉たちのものより遥かに情報が少ない。というより、敢えて伏せているような印象だな」

 「なんでですか?」

 「……やっぱりアホですね、あなた」

 「やっぱりってなにさ!」

 「その意味を理解するためにこうして検死をしているんだ。ともかく、情報共有だけでもさせてくれ」

 「は、はい」

 

 悔しい、という感情すら湧くこともないくらい尾田さんの言う事は尤もだった。もう二度も事件と裁判を経て、私は何も成長していなかった。さすがに最初にモノクマファイルを確認しておくくらいのことはやっとけよ、と私も思った。自分で言うのもなんだけど。

 焦る私を見かねたのか、毛利さんが手招きしてくれた。今は反省より捜査だ。

 

 「モノクマファイルを見ながら説明するぞ。書いてあるとおり、どうやら死因は溺死のようだ。肺の中は確認できないが、寝かせたことで水が逆流してきていた。おそらく胃や肺からだろう」

 「ううっ……」

 「手の平の火傷は、かなり広範囲に重度のものになっている。熱湯に手を突っ込んでもこうはならないだろう。まるで手の平で何かが炸裂したようだ」

 「さ、炸裂……!?」

 「谷倉が料理中に怪我をすることは考えられない。今朝の段階でも特に異常はなかった。つまり、これは地下室に降りてから負ったものということになる」

 

 毛利さんは淡々と説明する。言う通り、谷倉さんの口元は濁った水で汚れていて、お腹は張っていた。おそらく大量の水を飲んでしまったせいだろう。そして右手の火傷は、火傷なんて表現で済むようなものじゃなかった。まさに何かが炸裂したかのような、皮膚が爛れて一部が黒く焦げている、ひどい有様だった。いったい何がどうなったらこんなことになってしまうんだろう。

 

 「谷倉に関してはこれくらいだ。他に外傷があるわけでもないし、手の平の火傷以外におかしなところはない」

 「そういえば、谷倉さんと菊島さんの発見に結構時間差あったよね」

 「ああ、そうだな。谷倉が先に流れてきてここに引き揚げ、それから菊島が流れてきた」

 「重さの違いでしょう。菊島君は大きな服を重ね着していましたから、相当重くなっていたはずです」

 「ああ……。その菊島さんの検死はどんな感じ?」

 「死因、死亡推定時刻ともに不明です。肺の中に水が入っているので溺死の可能性はありますが、気になるのはここです」

 

 割とすんなり、尾田さんは情報提供を始めてくれた。素直、なわけは絶対になくて、私との会話はするだけ無駄っていうことだろう。目が死んでるもん。

 尾田さんが指したのは、菊島さんの頭だった。後頭部、うなじの少し上のあたり。髪の毛で紛れて見にくいけど、他の箇所よりも色がどす黒くなってる。殴打痕だ。

 

 「これは死亡前につけられたものですね。傷口そのものはそこまで特異なものではありませんが、木くずが混じっているのが気になります」

 「木くず?」

 「おそらく殴打されたときに付着したものでしょう。木製のバットか、角材か、そんなところですかね」

 「どっちもホームセンターで簡単に手に入るな!つまり犯人は、それでタイシを襲ったんだな?」

 「まあ当然そういう推論になりますよね。ただし問題はそこじゃありません」

 「じゃあどこ?」

 「同じ事を何度も言わせないでください」

 

 私の質問は突っぱねられてしまった。それを考えるために捜査してるんだってことか。成長しないなあ、私も。

 

 「あ、そ、そうだ!毛利さん、尾田さん。最後に菊島さんを見たのっていつ?湖藤さんにいちおう足取りを聞いてくるよう言われてて」

 「さあ、知りませんよ。夕食の場にいたことは覚えていますが、別に彼を特別見ていたわけではありませんから」

 「私も知らないな。昨日の夜に見かけてから、それっきりだ」

 「そっか……。あ、ありがとうございます!しっかり湖藤さんに伝えとくね!」

 

 ともかく、ここで得た情報は確実に湖藤さんに伝えなくちゃ。もしここに湖藤さんがいたら、得意の超能力でみんなの表情や仕草から情報を得たりするんだろうけど、私にはそんなの全然分かんない。だから、せめて私分かることは全部教えてあげなくちゃ。

 手掛かりがパンパンに詰まった頭から何も溢さないように、私は慎重に階段を降りて湖藤さんの元に戻った。

 

 

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【モノクマファイル③-1)

 被害者:谷倉美加登

 死因 :溺死

 死体発見場所:B1階

 死亡推定時刻: 9時20分から30分の間

 その他:手の平に火傷あり。

 

【モノクマファイル③-2)

 被害者:菊島太石

 死因 : -

 死体発見場所:B1階

 死亡推定時刻: -

 その他:後頭部に殴打痕あり。肺の中に水あり。

 

【菊島の検死結果)

  後頭部に殴打痕があり、付近の髪に木くずが付着している。

 ポケットからは空の薬瓶と損傷の激しいハンカチが出て来た。

 


 

 ゆっくり、音を立てないよう慎重にドアノブを回す。おそるおそる外の様子を伺うと、廊下には誰の姿もなかった。個室のドアが二箇所開放されているのは、おそらく谷倉さんの個室と菊島君の個室だろう。捜査のために、モノクマが鍵を開けたんだ。あれのどちらかに庵野君がいるんだろうか。だとしたら入っていけないなあ。

 

 「……うんっ」

 

 とはいえ、ここでぐずぐずしていても時間が過ぎるだけだ。たとえ庵野君に連れ戻されるとしても、少しでも捜査を手伝っておかないと、私の存在意義がなくなってしまう。私は意を決して部屋を出た。

 さすがに地下室にまで降りて行く体力は残ってないから、個室の捜査を手伝うくらいにしておこう。ちょうど近いところにあったから、まずは谷倉さんの個室に入ることにした。いちおう、庵野君がいないか様子を伺ってみる。

 

 「あっ、まつりちゃん」

 

 庵野君はいなかった。いたのはベッドの上に腰掛ける陽面さんと、部屋中を隈無く捜査している月浦君だった。こっそり覗いていたつもりだったのに、陽面さんに一瞬で見つかってしまった。

 

 「なんだ。寝てるんじゃなかったのか」

 「う、うん……だけど、なんか居ても立ってもいられなくて。地下室まで行く体力はないから、せめて個室だけでも捜査の手伝いをしようかなって……」

 「……ここでお前にやれることなんてない。戻って寝てろ」

 「じゃ、邪魔はしないから!」

 「ちぐ、いじわるしちゃダメだよ。まつりちゃんだってみんなの役に立ちたいんだから」

 

 月浦君は少しだけ私を警戒してたけど、特に危険視する必要もないと判断したのか、その後は目も向けてくれない。なんとかして捜査を手伝わせてもらおうとお願いするも、取り付く島もない。だけどそんな態度も、陽面さんが一言言えば一変してしまった。

 

 「……少しでも邪魔だと思ったら出て行ってもらうからな」

 「月浦君……!ありがとう!」

 「いいか、勘違いするなよ。僕が許したんじゃない。はぐが許したんだ。お前に手伝わせることをはぐが許したんだ。僕は他の誰のためでもない、はぐのために捜査をしてるんだ。いいな」

 「うんうん。ありがとありがと」

 「聞いてるのか!」

 

 相変わらず月浦君は陽面さんに甘い。甘いというか、絶対服従と言っていいくらいだ。もし陽面さんがいなければ、私はすぐ庵野君を呼ばれてベッドに逆戻りだった。だから、たとえ陽面さんがその辺の椅子に腰掛けてちっとも動いてなくても、いてくれてよかったと思えた。

 私はさっそく、谷倉さんの個室の捜査に加わった。と言っても、今朝まで普通に生活していた谷倉さんの個室にそれほど手掛かりが残されているとは思えない。いちおう気になるところは調べてみるけれど、それよりも陽面さんと月浦君の話をこそ聞くべきだ。

 

 「ねえ月浦君。その……辛いことを思い出させるようだけど、谷倉さんのことを聞いても……いいかな」

 「別に辛くなんてない。ここにいる限り、いつ隣の他人が死んでもおかしくないんだ」

 「そ、そう。じゃあ、詳しく聞いてもいい?」

 

 月浦君は少し手を止めた。話す内容を整理しているんだろうか。そしてすぐにまた捜査を始めて、相変わらず私には目もくれないまま話し始めた。

 

 「今朝、全員で班になって菊島を捜すことになった後、はぐが谷倉を誘ったんだ」

 「そうなの?」

 「うん!はぐ、みかどちゃんのこと好きだから、一緒に行こって言ったの!」

 「というか、アンタたちが勝手にどんどん行くから、僕たちの組む相手が谷倉しかいなくなったんだよ」

 「な、なんかごめん……」

 「で、地上階は他のヤツらが探すだろうからって、地下に行くことを谷倉が提案したんだ。僕は、はぐをそんな暗くてじめじめした場所に行かせるのは反対だと言ったんだ。なのに、はぐが賛成するから仕方なく……」

 「だってみかどちゃんが行こうって言ったんだよ!はぐよりずっと頭が良くて、ちぐよりずっとにこにこしながら!そりゃあみかどちゃんの言うこときくでしょ!」

 「ぐっ……」

 

 陽面さんの基準はよく分からないけど、とにかく3人はまとまって地下室に行ったということだ。

 

 「そのときはまだ、地下室におかしなところはなかった。物品倉庫とか薬品庫とか、あいつがいそうなところは一通り調べたけど見つからなくて、残ったのは一番奥にある機械室だけになった」

 「機械室……」

 「はぐが認証機にモノカラーをかざしてドアを開けたら、その中に菊島がいた。椅子に腰掛けた状態で、意識がないみたいで……その時点では生きてるのか死んでるのか、判断がつかなかった」

 「声をかけなかったの?」

 「どう考えても怪しいだろ!そんな密室空間に、行方不明になってるヤツが縛られてたんだぞ!どこかに犯人が潜んでたか何らかの罠が仕掛けてあったか、もしくは菊島自身が心配して駆け寄ったヤツを襲おうと考えてたのか……いずれにしろ、とてもはぐを中に入れられる状況じゃなかった」

 「陽面さんがっていうか、みんなそうだよね」

 「だから、谷倉だけで様子を見ることになったんだ」

 「え?な、なんで……?」

 「当たり前だろ。はぐは部屋に入れない。はぐが外に残るなら、もしものときのために僕も部屋の外に残る。誰かを呼びに行くのにも時間がかかるし、もし菊島が生きてるなら一刻も早く救出しないといけない」

 「月浦君にもそういう気持ちあるんだね」

 「別に心配してたわけじゃない。無駄に学級裁判なんか起きたらはぐの命が危険に晒されるだけだろ」

 「あっそう……」

 

 ともかく、今朝の時点で菊島君は地下の機械室に監禁されていたところまでは分かった。そして、その機械室に谷倉さんだけが入って行った……当然、機械室の中には谷倉さんと菊島君だけが残されることになる。過程は分からないけれどその結末を知っているだけに、なんだかすごく嫌な予感がしていた。

 

 「けど、救出はできなかった。谷倉が入ってすぐ、地下室で洪水が起きたんだ」

 「こ、洪水?」

 「どこから来たのかも分からない、大量の水が一気に押し寄せてきた。とっさにはぐと一緒に倉庫に避難して、棚に上って溺れることは避けた。でももう、谷倉なんか気にしてる場合じゃなくなって、とにかくはぐを階段まで避難させようと、すぐに行動したんだ」

 「じゃ、じゃあそのとき谷倉さんと菊島君は……?」

 「さあな。そんなこと考える余裕もなかった。水だけじゃなく、あのとき停電もしてたからな」

 「あっ、て、停電……!そっか……!」

 「その様子だと、地上階も停電してたみたいだな。すぐに復旧したようだけど、何か知ってるのか」

 「うん、非常用具庫の発電機で復旧させたんだ。カルロス君が頑張ってくれたんだよ」

 「そっか!じゃあ後でお礼言わないとだね!」

 「……ああ、そうだな」

 

 話を聞いても、地下室で何が起きたのかは分からないままだった。どうして陽面さんたちと谷倉さんが別れていたのかは分かったけど、あの水がいったいどこから来たものなのかは分からずじまいだ。流れてきたって、まさか大浴場やプールの水を持って来たわけでもないだろうに。

 でも、突然の洪水の上に電気まで消えたら、さすがに月浦君だってパニックにもなる。もし私だったら、そのとき冷静に避難することを選べた自信がない。なんとか谷倉さんを助けようとして……結局自分も死んじゃってたかも知れない。月浦君の判断は、決して間違ってなんかいない。

 

 「一度だけ、階段に戻る前にドアを開こうと試した。けどダメだった。水のせいか停電のせいか、何の反応もなかった。谷倉たちにも何度か呼びかけたけど、返事はなかった」

 「そっか……」

 「僕たちが話せるのはこのくらいだ。後の手掛かりは地下室でも調べるんだな」

 「この部屋では何か見つかった?」

 「何も。そもそも谷倉は今朝まで普通に過ごしてたんだ。事件に関係ある素振りなんてなかったんだから、もっと手掛かりのありそうな場所は他にあるだろ」

 

 だったら月浦君もそっちを調べればいいのに、と言いかけて、陽面さんの存在を思い出してやめた。昨日の夜まで、陽面さんは谷倉さんから料理を教わっていた。その人を亡くしたショックを和らげるために、心を落ち着かせることを優先してるんだと気付いた。

 私はこれ以上陽面さんの前で事件について話すことが忍びなく感じて、捜査もそこそこに部屋を飛び出した。次は菊島君の部屋を調べてみよう。

 

 

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【月浦ちぐの証言)

 菊島は機械室の奥にある椅子に縛り付けられており、谷倉がひとりで救出しに入った。

 その後、洪水に伴う停電により入口の電子ロックがかかり、機械室は封鎖された。

 月浦と陽面はすぐに階段に避難し、甲斐たちが到着するまでそこにいた。

 

【本館の停電)

 希望ヶ峰学園本館で発生した大規模な停電。

 おそらく、地下の機械室が水没したことによるもの。

 

【緊急用電源)

 1階の非常用具庫内に設置されていた発電設備。

 全館が停電していてもブレーカーをあげれば電力を賄う程度の発電ができる。

 


 

 谷倉さんと菊島さんの検死結果をしっかり頭に叩き込んだ私は、それがこぼれ落ちる前に階段を転げ落ちて、下で待っていた湖藤さんに聞いたことの全てを伝えた。湖藤さんは私の話を頷きながら聞いてくれて、話し終わったのを確かめると大きく頷いて、しばし考え込んだ。

 そして、すぐにあどけない笑顔を私に向けてくれた。

 

 「ありがとう、宿楽さん。よく分かったよ」

 「だ、大丈夫ですかね?こんなんで」

 「十分だよ。気になったことがあれば尾田くんたちに聞けばいいし、何より主観を交えず聞いたことをそのまま教えてくれるだけでもすごくありがたいことだ」

 「でへへ。そんなに褒められると照れちゃうなあ……」

 「うん。それじゃあ地下室を捜査しようか。甲斐さんが休んでる分、よろしくね」

 「はい!」

 

 きっと湖藤さんは、私の報告がめちゃくちゃだったとしても同じような笑顔で褒めてくれただろう。でもそんなことを考えると自分が嫌な気持ちになるだけだから、今は調子の乗っておくことにした。

 そしてその勢いのまま、湖藤さんの車椅子のハンドルを握った。奉ちゃんは二人の死体を見て気を失ってしまい、庵野さんが部屋まで運んで行った。だから今は、私が奉ちゃんの代わりに湖藤さんの捜査をサポートしないといけない。普段、こういうときに奉ちゃんが何をしていたかあんまり思い出せないけど、とにかく色んなところに湖藤さんを連れて行けばいいわけだ。そこで指示に従っていれば、取りあえずは及第点だろう。

 

 「まずは、機械室に行ってみようか」

 「機械室?」

 

 それは、地下室の一番奥にある部屋だ。自動ドアで仕切られた四角い部屋で、中に何があるのかもよく分からない狭い部屋だ。なんでそんなところが気になるんだろう。

 

 「たぶんだけど、谷倉さんと菊島くんはあそこから流れてきたんじゃないかな」

 「え、なんで分かるの?」

 「谷倉さんと菊島くんの死体発見アナウンスに時間差があったでしょ。死体はどちらも皆の目の前に流れてきたらしいから、この時間差はそのまま死体が流れてきた時間差だ。流れてきた方向には機械室があるし、谷倉さんに比べて菊島くんは水を吸う服が多くて重くなりやすい。だから流れる速さも大きく変わるし、始点が遠いほどその差は開いていく。だから機械室から流れてきたんじゃないかと思うんだ」

 「へえ〜〜〜」

 

 なるほど分からん。確かに谷倉さんと菊島さんの死体発見にはかなりの時間差があった。直接見てもないのに、アナウンスの時間差と聞いた話だけでそこまで推理できるなんて、やっぱり湖藤さんは私とは頭のデキが違う。全部を理解する必要はない。私はただ、湖藤さんの言う通りに車椅子を押せばいいだけだ。

 機械室のドアは開放されていて、モノカラーを照合させなくてもそのまま中に入ることができるようになっていた。部屋の隅に壊れた木製の椅子が転がっていて、腰くらいの高さまで壁に水の跡が残っていた。ごうごうと唸る機械音の中に、明らかに異常が起きているって感じの音が混じっている。狭い部屋はその不安になる音が反響して、いるだけで気が狂いそうになる。それでも湖藤さんは平然としている。

 

 「ううっ……な、なんだここ……」

 「宿楽さん、大丈夫?無理しなくていいからね」

 「湖藤さんは全然平気そうだね。耳栓でもしてんの?」

 「見るべきものを見て聞くべきもの聞く練習をしていれば、聞かなくていいものを聞かないコツも分かるんだよ。目を閉じるみたいに、耳を閉じるってことさ」

 「すげえ!」

 「おかげで毎晩快眠さ。今度やり方を教えてあげるよ」

 

 冷静に考えればそんなことできるわけない。からかわれてるんだろうか。でも湖藤さんが言うなら本当にできる気がしてくる。何より快眠できるっていうのは、夜中に冷蔵庫や時計の音が気になって寝られなくなる私にはめちゃくちゃ耳よりの情報だった。

 

 「あなたたち、こんなところをよく捜査できるわね……耳栓いる?」

 「あ、理刈さん。ほしいほしい」

 「ぼくは大丈夫。ありがとう」

 「なんで大丈夫なの……?」

 

 耳を塞いでいるせいで身動きが取れなくなった私に、理刈さんが耳栓を持って来てくれた。機械の異音はかなり軽減されて、それなのにお互いの話し声はよく聞こえる。すごい。

 

 「理刈さんもここの捜査をするつもりなの?」

 「ええ、そうよ。ここの記録は重要な手掛かりになるわ。モノクマにデータを提出させないと。モノクマ!」

 

 なんとなく天井に向かって、理刈さんがモノクマを呼ぶ。だけど、いつもだったら呼んでもないのに出て来るモノクマが、このときは出て来る気配さえしなかった。理刈さんがもう一度大きな声で呼ぶと、大きな機械の隙間から、遠慮がちに白黒の塊が現れた。モノクマとよく似てたけど、おでこに×マークがついてる。ダメクマだ。

 

 「ど、ど〜も……」

 「なんであなたが出て来るのよ。私はモノクマを呼んだの」

 「モ、モノクマは忙しいから、僕に代わりにいけって」

 「なにそれ」

 「地下は洪水、本館全体は停電、殺人も起きて、施設管理者として大忙しなのかも知れないね。やって欲しいことができるならダメクマでもいいよ」

 「何の御用でしょうか」

 「この自動ドアの照合記録をモノカラーに転送してちょうだい。できるわよね」

 「で、できますできます!」

 

 モノクマと同じ格好をしてるからみんな敵視してるけど、こんなに腰が低くて弱々しい姿を見ると、だんだん可哀想というか、あんまり邪険にするのも心苦しくなってくる。動きがモノクマよりも覚束なくてたどたどしいから、尚更だ。でもこいつらに感情移入するのは良くないから、ぐっと自分の気持ちを押し殺した。

 モノカラーが音を立てた。自動ドアの照合記録が送られてきたみたいだ。理刈さんと湖藤さんはすぐにそれを開いて確認する。

 

 

『自動ドアのログ』

 23 : 47 菊島太石

  9 : 11 陽面はぐ

  9 : 13 谷倉美加登

  9 : 19 月浦ちぐ

 

 

 「なるほどね。やっぱり菊島くんは昨日の夜からここにいたんだ」

 「やっぱりって、分かってたの?」

 「ただの予想だよ。間違ってなくてよかった」

 

 湖藤さんに限って、ただの予想なんてするわけがない。何かしらの根拠があって理屈立てたはずなんだけど、いつのタイミングでそれを考えたのかが全然分からない。

 

 「というか、菊島さんがモノカラーを照合させてるっていうことは、菊島さんは自分からこの部屋に入ったっていうこと?」

 「そうじゃないの?」

 「でも……そこに明らかに変な物が転がってるんですけど」

 

 私は、部屋の隅でぐちゃぐちゃになった木製の椅子を指さした。よく見ると水を吸ったロープも一緒にある。椅子とロープなんて、どう考えても誰でもどこでも監禁セットじゃん。

 

 「月浦くんと陽面さんに詳しい話が聞ければいいけど、二人はいま個室の捜査に行っているはずだから……推理するしかないね。まあ考えるまでもなく菊島くんはここで監禁されてたんだろうけど」

 「……どうして断言できるのよ」

 「個室以外での故意の就寝は校則違反だよ。今朝の段階で陽面さん、谷倉さん、月浦くんが断続的に照合してるっていうことは、おそらくこれが事件発生のタイミングだ。地下が水で満ちている中で、こんな奥まったところに人が集まるのは、中に誰かいるか何かがあると考えた方が自然でしょ。つまり、夜中のうちから菊島くんがここに監禁されていたと考えられる」

 

 一聞いたら十、いや百返ってくる。理刈さんはきっと話してる内容を理解して納得してるんだと思う。私は一気に話されるとワケが分からなくなるから、途中で理解しようとするのをやめた。とにかく菊島さんは昨日の晩にここに来て、今朝死体で発見された。それだけは確かな事実だ。

 

 「今ここで湖藤さんと議論するには時間が足りないわ。そういう考え方をしているって分かっただけで結構。私も異論はないし」

 「そっか。よかった」

 「私はもう少しここの捜査をするわ。それと、物品倉庫も。水でほとんど流されているからあまり手掛かりは期待できないけれど……。むしろ、モノクマが開いた排水口の方が見つかる可能性は高いわ」

 「ならどうしてこっちの捜査を?」

 「誰もここを捜査しようとしないからよ。もし何か見落としていて、それが重要な証拠だったら命取りになるでしょ」

 「そうだね。ありがとう、理刈さん」

 「別に……私は真実を明らかにしたいだけよ。ただでさえ人手が減ってるんだから」

 

 そう言う理刈さんの目は冷たかった。最初の事件のとき、理不尽に殺害された益玉さんや三沢さんのために怒ったり激しく動揺したりしていた彼女は、なんだか変わってしまったように見える。法律家である理刈さんには、この法律も倫理も意味をなさない異常な空間が耐えられないんだと思う。だから心を殺して、冷静に振る舞おうとしてる。そんな風に思える。私は理刈さんが可哀想だった。

 

 「それじゃあ宿楽さん。ぼくたちは排水口のあたりを捜査しに行こう。ここは理刈さんに任せるね」

 「ええ。気を付けてね。床が濡れてるから滑らないように」

 「ありがとう。理刈さんも気を付けてね」

 

 私は湖藤さんの車椅子のハンドルを握った。ぐっと押し込むときに足を滑らせて危うく湖藤さんごとひっくり返るところだった。

 

 

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 【自動ドアのログ)

 事件前日以降のログは以下の通り。

 23 : 47 菊島太石

  9 : 11 陽面はぐ

  9 : 13 谷倉美加登

  9 : 19 月浦ちぐ

 

【機械室の自動ドア)

 機械室に入るには、モノカラーによるロック解除が必要。出るときには開扉ボタンを押す。

 モノカラーによるロック解除は時間と人物のログが残る。

 ドアは電気で動いており、放っておくと数秒で閉まる仕組み。

 


 

 廊下に出るときは、まず庵野君がいないかを確かめてから、なるべく少ない動きで、谷倉さんの部屋から菊島君の部屋までを最短距離で移動する。強制的にベッドに戻されないために必死だった。

 菊島君の部屋もドアが開放されていて、中に長島さんと芭串君がいるのが見えた。谷倉さんは今朝まで普通に生活していたのに対し、菊島君は昨日の夜以降の動向が分からない。もしかしたら夜中のうちに事件に巻き込まれていたかも知れないし、こっちの方は手掛かりが期待できそうだ。

 

 「あれっ、奉奉(フェンフェン)?どうしたカ?」

 「あの、私も捜査を手伝おうと思って」

 「ああっ!?甲斐!?」

 

 長島さんが私に気付いて名前を呼ぶと、芭串君が激しく振り向いた。そのまま首を軸に一回転しちゃいそうな勢いだ。私が目を丸くしてる間に、芭串君はずんずん私の方に近寄ってきた。なんか怒ってる感じだ。

 

 「テメエなに起きてんだよ!庵野が看てるんじゃなかったのか!?寝てろよ!」

 「えっ」

 「このあと学級裁判もあるんだろ!?ぶっ倒れんぞマジで!もっと自分のこと大事にしろよ女だろ!?」

 

 はちゃめちゃに怒られた。勝手に起きたことと、庵野君の目をかいくぐって捜査をしてることも、無茶してることも。言い方は荒っぽいしすごく怖いけど、私のことを心配してくれてるんだっていうのは分かる。芭串君ってそういうところあるから。

 

 「で、でもみんなが捜査を頑張ってるときに私だけ寝てるなんてできないし……」

 「そりゃそうかも知んねえけどよ!でもお前、益玉と三沢のときも、狭山のときも、死体見てたんだろ?辛えだろ、そんなの……さっきまで気絶してたんだし、悪いこと言わねえから休んどけって」

 「……ありがとう。でも、裁判のときに私だけ何にも知らなくて、みんなの足を引っ張りたくないから。もし裁判の途中で倒れても、辛いものを見て心が壊れそうになっても、絶対にみんなのことを邪魔しないから。だからお願い。ここにいさせて」

 「な、なんなんだよお前……」

 「佬佬(ラオラオ)、どうして奉奉(フェンフェン)のことそんなに止めるカ?やりたいって言ってるならやらせてあげたらいいネ」

 「いやでもお前さあ」

 「だって奉奉(フェンフェン)が無理して倒れたって、ワタシたちなーんも困らないヨ。その辺に転がして裁判続ければいいネ。もし奉奉(フェンフェン)が犯人だったらそれでもう勝ち確アル!」

 

 長島さんは私に味方してくれてると思いきや、全然そんなことはなかった。芭串君が荒っぽく私を心配してくれてるなら、長島さんは完全に私に興味がなかったんだ。本人がいる前で、その人が犯人だった場合のことまで嬉々として言っちゃうのが、なんというか、裏表がないと言うか。

 

 「お前なあ、そういうこと本人の前で言うか?っていうか、そんなん放っておけるわけねえだろ!」

 「ははーん、佬佬(ラオラオ)は人のために死ぬタイプの人間ネ?それじゃ長生きできないヨ。世の中、自分より弱いヤツは蹴落として、自分より強いヤツは利用して、自分の隣にいるヤツは盾にするくらいじゃないと生き残れないアル。つまり、人の心配してる場合じゃないってことヨ」

 「シ、シビアな考え方してるんだね……」

 「みんなよりちょっぴり経験豊富なだけアル。さ、奉奉(フェンフェン)は好きなだけ捜査をするアル。自分の体は自分で管理するのが一番ヨ。奉奉(フェンフェン)がいいと思うならいいんだヨ」

 「……知らねえからな。オレは言ったぞ」

 「うん、ありがとう」

 

 捜査することは許された。許されたけど、なんかこう、釈然としない。私の意見が尊重されたというよりは、放ったらかしにされた気分だ。私はみんなのためと思って無茶してるのに。だけど長島さんの言うことがその通りなのかな。自分の体のことは自分でなんとかする。私が今する無茶のツケは未来の私が払う。その覚悟ができるかどうかってことだ。そんなものはとっくにできてる。

 私は、まず菊島君の机を調べた。乱雑な筆跡が残る原稿用紙やボロボロの万年筆、中身が空の茶褐色瓶など、だいたい菊島君が持っていそうなものばかりだ。饐えた匂いがするゴミ箱は見て見ぬフリをした。ここは芭串君に調べてもらおう。

 引き出しを開けてみると、分厚いノートがたくさん出て来た。どれもページに大量の付箋が貼り付けられていて分厚くなっている。全部で19冊もある。そして何より目を引くのが、表紙に書かれた私たちの名前だ。

 

 「なんだろう、これ」

 「付箋?めちゃくちゃ分厚いヨ」

 

 表紙をめくって開かなくても、分厚すぎて勝手に開く。付箋いっぱいに文字が書き込まれていて、原稿用紙に比べると菊島君がこれにかけた熱量がいかに強いかが、文字から伝わってくる。細かすぎてぱっと見じゃ何が書かれてるか分からなくて、よく目を凝らしてみる。

 こんなことが書いてあった。

 

 

 ──────

 

 “超高校級の介護士”。年齢はおそらく16歳。背は高くも低くもなく、肉付きや髪型、胸などに特徴はない。顔も凡庸。ただし精神面で注目すべき執着性あり。本人に自覚があるかは不明だが、真人間を演じていることは確か。

 常に湖藤と行動を共にしている。介護士として車椅子に乗っている人間は、要介護者として見過ごしておけないようだ。それが博愛の精神ではなく、自己肯定の渇望から行っていることに、おそらく本人は気付いている。いくらかの打算も含まれているだろう。常に二人一組で行動すれば襲撃された際に目撃者や証拠が残りやすい。あるいは湖藤の信頼を獲得し、裁判で有利に立ち回るつもりか。いずれにせよ、甲斐か湖藤が事件に深く関わる場合には注意が必要。

 

 ──────

 

 

 「……な、なにこれ」

 

 激しい悪寒がした。菊島君が一生懸命これを書いているところを想像すると、手術台の上で解剖されて筋肉の一繊維までじっくり観察されているような気分になってくる。彼はいつもこんな風に私を見ていたのか。本当に菊島君が書いたものなのかとも思う。だけど、とんでもなく失礼な書きぶりが、間違いなく菊島君が書いたものであることを物語っていた。

 

 「わーお。こりゃすげえ。オレら全員分書いてあるぜ」

 「ムカーッ!何アルかこの失礼な書き方!許さん!ぶっ飛ばしてやるアル!!」

 「死んだよこいつは」

 「そうだったネ。死体蹴りはさすがに気が引けるアル。しょうがないから後でヤケ食いでもするヨ」

 

 私はとっさに本を閉じた。こんなの、他人に読ませられない。恥ずかしいとか恥ずかしくないとかじゃない。これは、絶対に人に見られちゃいけないものだ。心臓がそう警告していた。

 

 「それにしても気持ち悪いアル。毎日こんなことしてたアルか」

 「小説家ってのぁ何考えてっか分かんねえ生き物だなあ。こうやって他人のことじろじろ観察してんのか?」

 「みんながみんなそういうわけじゃないと思うよ……」

 「これじゃあ太太(タイタイ)を殺しそうな人が誰かなんて調べようがないヨ。もっと少なかったら手掛かりになったかも知れないのに、ただキモいだけアル」

 「言いすぎじゃないかな?」

 

 ちょっと落ち着いてきて冷静に考えると、確かに菊島君が私たちのことを観察してこうしてメモに残していたことを考えると、いい気分はしない。何が起きるか分からないコロシアイ生活を生き抜くための、菊島君なりの生存戦略だったのかも知れない。そもそもこんなものは、本来私たちの目に触れるようなものじゃないはずだ。だからこれがあることで菊島君を気持ち悪がるのはお門違いのような気がする。

 

 「結局、部屋には手掛かりなしか。あいつ、マジで部屋にいるとき寝てるかこれ書いてるかしかしてねえのかよ」

 「あとシャブきめてマスもかいてたアル」

 「口悪いな!女の前でそういうこと言うんじゃねえよ!ってかお前も女だろ!」

 「はしたなかったカ?日本語難しヨ」

 「ウソ吐け!」

 

 長島さんがニヤリと笑って、軽く握った拳を振る。最悪だ。菊島君は自分のことっていうのもあって多少なり恥じらいがあったけど、長島さんは面白がってるようにしか見えない。芭串君じゃないけど、あんまりそういうこと言わない方がいい。後でやんわり注意しておこう。

 そして菊島君の部屋の捜査は、そんな最悪なジョークで幕を閉じた。物々しいノートは見つかったけど、これは菊島君の日常であって事件とは関係ないと判断された。なんか、物凄く時間を無駄にしたような気がした。

 


 

 機械室で入室管理記録を受け取った私と湖藤さんは、次の捜査場所として、室内プールに向かった。地下が水で満たされていたときに、排水するためにモノクマが向かった場所だ。何らかの証拠品が水に流されてしまっていたら、プールの排水口で漉されて残ってるかも知れないと考えた。もちろん私じゃなくて、湖藤さんが。

 

 「あっ、更衣室」

 

 プールの前まで来て、私は最大の壁にぶち当たった。更衣室は当然男女で別れていて、私は女で湖藤さんは男だ。同じ部屋には入れない。つまりそこは湖藤さんの車椅子を押せない。

 

 「どうしよう」

 「大丈夫だよ。自分でも転がせられるから」

 「えっ……じゃ、じゃあ私とか奉ちゃんって要らなくない?」

 「そんなことないよ!二人がいてくれるから僕は観察に集中できるんじゃない。機械室からここに来るまでの間にも、次の捜査場所を吟味してたんだから」

 「そ、そうなの!?」

 

 それが嘘でも本当でも、同じことだ。湖藤さんが私に気を遣ってることは、サイコメトラーじゃなくたって分かる。湖藤さんレベルだったら、最初に捜査場所の吟味なんて済ませてるんだろう。やっぱり私、あんまり役に立ててないのかも……?

 更衣室の中は、特に変わった様子はない。強いて言えば、中は全く浸水した形跡がないってことだ。でもこれは、モノクマが更衣室を避けてプールにつながるパイプを壁の中に敷いたからで、不審点というよりはモノクマの必死の抵抗だ。せめてここだけは守ろうとしたんだ。それに大した意味はないと思うけど。

 

 「お待たせ、宿楽さん。ドアを開けるのに手間取っちゃって」

 

 私が更衣室を抜けてプールサイドに出て少ししてから、湖藤さんが出て来た。そもそもここは湖藤さんが来る想定で造られてない。ドアは押し戸だし、小さい段差が多いし。

 

 「うわあ、プールって広いね。僕、屋内プールって初めて来たよ。泳げないからね」

 「はあ。でも本とかテレビで見たことくらいはあるんじゃないの?」

 「写真や映像だと、実際の空気感は分からないからね。塩素水の匂いとか、プールサイドの凹凸の感覚とか、自分の声が響いて聞こえる音とかさ」

 「そっか」

 

 当たり前に感じてた、プールっぽい雰囲気の正体は、いま湖藤さんが言ったようなものの組み合わせなんだと私は気付いた。確かに、こればっかりは直接来ないと分からない。

 

 「さて、排水口を調べようか。モノクマ……は忙しいんだったね。ダメクマ!いる?」

 「は、はいはい!お呼びですか!」

 「すっかり小間使いみたいになっちゃって」

 

 湖藤さんがどこへともなく呼びかけると、更衣室からダメクマが現れた。さっき機械室にいたところから飛んできたのだろうか。

 

 「排水口を調べたいんだ。どこにあるか教えてくれる?」

 「排水口?どうして?」

 「証拠品が流されてたら、排水口に集まって来てると思ってさ」

 「はあ〜、そうなんだあ。でも、排水口には何にもないよ」

 「え?なんで?」

 「流れが詰まるからって、モノクマがフィルターごと片付けるように言ってきてさ。あっちに丸めてあるよ」

 「なあんだ。だったらプールまで来なくてもダメクマに運んで貰えばよかった」

 「か、勘弁してよ……」

 「でも、おかげで屋内プールに来られたよ。それじゃあ、調べてみようか」

 

 ダメクマは指さした先には、巨大なもじゃもじゃの塊があった。これがフィルター?ゴミや汚れがパイプの中に入って詰まるのを防ぐために敷かれてた網目状のシートだけど、ダメクマが雑に片付けたせいでこんがらがってしまってる。こりゃあ骨が折れるぞ。と思ったら、ダメクマが爪でそれを細切れにした。

 

 「どうだい。調べやすくなっただらう」

 「すごっ!やった!」

 「ふふん!こんなこと、モノクマはしてくれないよね!」

 「うん。そうだね。後で片付けが大変だろうからさ」

 「……あ゛ッ!!」

 「気付いてなかったんだ……まあ、私たちには関係ないけど」

 

 細切れになったフィルターはパラパラと崩れ落ちて、軽いプラスチックの繊維と引っかかったゴミを仕分けやすくなった。プールサイドの隙間に入り込んだこれを片付けるのは大変だろうなあ、と思うけど、ダメクマが勝手にやったことだから私たちには関係ない。私たちはありがたく、やりやすい環境で捜査させてもらうことにした。

 とはいえ、プールなんてほとんどの人が使ってないから、ゴミらしいものはほとんど引っかかってない。地下室から流れてきた埃や泥が絡まってるくらいだ。だけど、その中で明らかにおかしなものを見つけた。

 

 「湖藤さん、これなんだろ?」

 「うん?なにかの……破片みたいだね。プラスチック?」

 「プラスチックだね。こっちにも。あ、これもそうだ。めちゃくちゃある」

 

 大きいものから小さいものまで、四角くなってるものも鋭く尖ってるものも、様々なプラスチックの破片が落ちていた。曲がってるものや大きな板みたいなものがあるから、たぶん元は箱の形だったんじゃないかな。だとしても、これが何かは分からない。

 

 「なんだろうね。破片っていうことは、組み合わせたら元に戻るんじゃないかな」

 「どっさり取れた!でも、これ復元してる時間はないよ」

 「そっかあ……う〜ん……こういうのを任せられるのと言ったら……」

 

 湖藤さんが考える仕草をして、落ち込むダメクマを見た。隙間に入り込んだフィルターの繊維を爪でほじくり出そうと四苦八苦してる。あの状態のダメクマにさらにタスクを課すんだ。なかなか湖藤さんもSだね。嫌いじゃないけど。むしろ湖藤さんみたいに人畜無害っぽい人がSの方がギャップがあって……やべ、奉ちゃんに怒られる。

 

 

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【プラスチック片)

 地下室の排水口近くに散らばっていたプラスチックの破片。

 粉々になってしまっているが、元は何らかの道具だったようだ。

 


 

 湖藤さんにプラスチック片の復元を頼まれたダメクマは、悲鳴をあげて逃げようとした。私がそれを捕まえて、事件解決のために必要だからとなんとか説得して、時間がかかってもいいから復元させることを約束させた。なんか、私が汚れ仕事してるみたいになってない?大丈夫?

 

 「大丈夫大丈夫。それより、時間が来る前にあっちを捜査しちゃおう」

 

 プールから地下室に戻り、湖藤さんは少し私を急かした。珍しいこともあるものだと思ったら、捜査時間が残りどれくらいあるか分からないから、できるうちに調べてしまいたいのだと。

 

 「そんなに調べたいってことは、何かあるって確信してるの?」

 「確信……うん、まあそんなところかな。宿楽さんは、地下室を埋めてたあの大量の水はどこから来たと思う?」

 「え?う〜ん……そう言えばどこだろ。水道を出しっ放しにしたって流れていくだけだろうし」

 「その答えを調べに行くんだよ」

 

 湖藤さんが指示する通りに車椅子を押す。地下室の奥の奥、誰も立ち入ろうとしない、ごちゃごちゃした機械や装置が密集して、機械の熱と蒸気がこもって臭くなった空気と混じって最悪になった場所だ。でも、今は洪水の影響か、ほとんどの機械は静かに眠っている。

 その中に、はちゃめちゃに目立つ巨大なパイプがあった。それが目立つのは、単にデカいとか派手な色に塗られてるとかそんなことじゃない。床下から天井につながっているにもかかわらず、途中で大きな穴を開けて、そこからちょろちょろと水を垂らしているからだ。まるで破裂したかのように、穴の周りは鋼鉄のパイプがひしゃげている。

 

 「やっぱり、あったね」

 「やっぱりって?」

 「ぼく、地下に来たことないもん。でもまあ、この手のものはあるだろうと思ってたよ」

 「……全然分かんないんだけど、とにかく湖藤さんがすごいってことは分かったわ」

 「あはは、ありがとう」

 

 私は何回か地下には来てたけど、こんなところにこんな巨大なパイプがあることなんて知らなかった。こんな風に壊れてるのも、全然気付かなかった。地下室にも来たことのない湖藤さんが、なんでこんなものの存在を予測できたのか、改めてその想像力と考察力に舌を巻く。

 そんな私たちの元に、機械の隙間からちょろと現れた背の低い影があった。王村さんだ。

 

 「おっ!その声は湖藤と宿楽だな!よく来たよく来た。おめェらもサボりに来たのか?」

 「王村さん……うっ、くさっ!こんなときにまでお酒飲んでるんですか!」

 「ったくやってらんねえよなあ。谷倉が死んじまってツマミを作ってくれるヤツがいなくなっちまった。捜査だなんだっつうけど、おいらァもううんざりだ。こんなことの繰り返しはよ」

 「それで、お酒に逃げてサボってたと」

 「おいらァおめェらみてェに前向きに捜査やれるヤツが羨ましいぜ!今まではなんとなったけど、次もどうにかなるなんて保証はねェんだぜ!?一歩何かを間違えたら死んじまう……そんな極限状態で、酒にでも逃げねェとやってられェよ……」

 「逃げることは悪いことじゃないですよ。立ち向かえない、立ち向かうべきでないと思ったのなら、逃げるのも手です。でも、王村さんがしてるそれは逃げですらなく、ただ目隠しして引き金を引かれる瞬間を待つ死刑囚と同じなんじゃないですか?」

 「ぶはっ!!?」

 「わっ!きたなっ!」

 

 湖藤さんの火の玉より熱く槍より鋭い正論のストレートが王村さんの鳩尾を抉った。盛大にお酒を噴き出した王村さんは、真っ赤な顔を涙でぐずぐずに濡らして、床に跪いた。

 

 「ちくしょう……!!言い返せねェ……!!」

 「ちょっとこの一般成人男性、悲しすぎません?」

 「まあ、ぼくたちもお酒を覚えたらちょっとは気持ちが分かるかも知れないね。でも王村さん、今回はサボってたつもりかも知れませんけど、ここはとても大切な場所ですよ。むしろお手柄になるかも知れません」

 「へ?な、なんだそりゃ……?」

 

 抉れたパイプの穴、ちょろちょろと流れる水、機械の隙間を見ながら、湖藤さんがずっと変わらない穏やかな微笑みで告げる。さっきの辛辣な正論も、温かい励ましの言葉も、湖藤さんは全部同じ顔で言う。きっとどれも本心で、多少なりとも打算が含まれてるんだろう。

 

 「ここは事件の真相を探るのに、避けては通れない場所です。何か手掛かりを見つけていたら、サボっていたどころか大活躍できるかもってことです」

 「ホ、ホントか!?な、何かって……!?」

 「なんでもいいですよ。証拠品を見つけたとか、現場から気付いたことを共有するとか」

 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待てよ……!?そ、それなら1つ……あるぞ!思ったこと!」

 「聞かせてください」

 

 ついさっきまでお酒に溺れて学級裁判への恐怖を紛らわしていた、はっきり言ってみっともない姿だった王村さんが、なぜか湖藤さんに食らいつくように捜査協力している。王村さんが単純な性格だとか、お酒に酔ってるだとか、そういうのを飛び越えたところで、湖藤さんの誘導があったような気がする。そういうこともできるんだ。

 

 「このパイプ!ダメクマが言ってたんだけどよ!こいつァ地下の浄化槽からおいらたちが普段使ってる水道に水を運ぶためのものらしいんだ!だから今日はしばらくこの後断水だってよ!」

 「停電の次は断水か……犯人はインフラを壊して私たちを追い詰めるつもりですかね?」

 「さ、さァ……それは分からねェけど、とにかくこのパイプはめちゃくちゃ重要なもんで、モノクマも簡単には壊せないようにしてるらしい!けど、それがぶっ壊れてる!この通りな!つまり犯人は、モノクマがガチンコで作ったものをぶっ壊したってことだ!そんなこと、おいらたちにできると思うか!?」

 「まあ、不可能とは言わないまでも、簡単なことじゃないでしょうね。モノクマの技術力はぼくたちの知る範囲を大きく超えています」

 「そうだ!ってことはだぞ?こいつを壊せるのはモノクマしかいねェってこった!でもモノクマ自身が壊す理由なんてねェ!つまり、これを壊したヤツはあれを使ったんだ!」

 「あれ?」

 

 王村さんが指を立てて私と湖藤さんを見る。どうやら手応えを感じて興奮しているようだ。

 

 「動機だよ!なんでも好きな凶器を一個くれるってヤツがあっただろ!これを壊した犯人は、あの質問に答えて何かとんでもねェ凶器を手に入れた!そんでもって、洪水を引き起こしたんだ!」

 「……なるほど。確かに、それはそう考えられますね」

 「だろ?だろ?な!これで事件解決できそうか!?なんとかなりそうか!?」

 

 意外なことに、王村さんが苦し紛れに出した考えを、湖藤さんは真面目に考えていた。それくらい、湖藤さんは既に考えていそうなものだと思ったけど、そうでもなかったみたい。もちろん、私はちっとも考えてなかった。

 そして、しばらく考えていた湖藤さんは、口を開いた。殊の外、神妙な顔つきだった。

 

 「王村さんの言うとおり、何らかの手段でこのパイプを壊そうと思ったとき、モノクマの力を借りることは考えられます」

 「っしゃ!キタ!」

 「ですが、そうなると新しく1つ……いや、新しくではないんですけど、考えなくてはいけないことが増えます」

 「え?」

 「犯人は質問に正解できた。つまりそれは……モノクマの言う『裏切り者』が、疑心暗鬼を誘発する架空の存在ではなく、実在することを意味します」

 

 

獲得コトダマ一覧

【ポンプ室の水道管)

 浄化槽から上水道に水を引く巨大な水道管。

 捜査開始時点で粉々に破壊されており、中から溢れた水が地下室を満たしていた。

 

【モノクマの動機)

 モノクマから与えられた3つめの動機。

 『裏切り者は誰だ』という問いに正解した先着一名に、なんでも好きな凶器を与えるというもの。

 


 

 『うへぇ〜〜〜!!ギリギリ!!ギリギリで間に合ったよ!!何がって、学級裁判の準備だよ!!今回は事件の影響が広範囲に亘ってるから、オマエラの捜査も時間がいつもよりかかったよね!だから長めに時間をとってあげてたんだけど、それでもギリギリだったよ!まったく、こんなことなら事件が起きる前にストップかければよかった!ま、でもボクはそんなときに使える便利なコマとしてダメクマを用意してたから、現場の監督はそいつに任せて、ボクはゆっくり裁判の準備を整えることができたんだけどね!人生何が起こるか分からないから、常にバックアップやバッファは用意しておくんだよ!ただし!人生自体のバックアップは取れません!ここでオマエラはゲームオーバーしてしまうのか!それとも続行か!セーブ不可!ロード不可!そんなヒリついたデスゲームももう3回目!本館にも裁判場はあるんだよ!オマエラ!本館ホールの赤い扉の前に集合!以上モノクマからお知らせでした!』

 

 地下室中にそんな声が響き渡る。なんだかいつもより長かったような気がするけど、直前まで準備してハイになってたのかな。

 

 「……奉ちゃん、大丈夫かな」

 

 ぽつ、と呟いた言葉は、きっと湖藤さんにしか聞こえてなかった。だけど湖藤さんは、私の言葉に返事することはなかった。それは私たちの目で確かめるしかないことだし、もうすぐ分かることだ。

 私は、学級裁判への不安より、奉ちゃんの安否の方が気懸かりだった。命を懸けた闘いの前にしては、我ながら呑気なことだと思った。




一回書いたものが過失により吹っ飛んでしまったので、同じ話を2回書く羽目になってしまいました。そんでもってなぜか文字数が増えてしまいました。なんでだろう。
みなさん、大事なデータはちゃんとバックアップはとっておきましょうね。前日の夜に急いで完成させることになっちゃうので。

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