はいど〜も〜。毎度おなじみ、モノクマがひとりぼっちで前回の裁判をおさらいするコーナーだよ。いつもよりテンション低い?うん、ボクももうすっかり丸くなってさ。もうこのコーナーも何回としてきた気がするよね。え?3回目じゃん、と思うでしょ?オマエラにとっては3回目かも知れないけれど、ボクにとってはもう何回もやってることなんだよ。いやいや、実はこのコロシアイは何回も繰り返してるっていうオチなわけじゃないよ。要は
そんな話はどうでもいいんだよ!振り返っぞオラ!
舞台を希望ヶ峰学園本館に移したコロシアイ生活で、三度殺人が起きてしまう!被害者は“超高校級のコンシェルジュ”谷倉美加登サンと“超高校級の文豪”菊島太石クン!2人とも地下室を満たした大量の水に浮いた状態で発見されてしまいました!うぷぷぷぷ!あーかわいそかわいそ!ま、菊島クンの方は死因も分かってないんだけどね!ボクがモノクマファイルに書いてないからだけど!あーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!
さて、肝心の学級裁判だけど……正直言ってボクはがっかりしたよ!あいつら、何を最初の最初でつまづいてるんだよ!ボクが与えた動機の真の意味なんて、とっくに全員気づいてるもんだと思ってたよ!まさか片手で数える程度しか気付いてないとは思ってなかったよ!ま、ボクの手じゃ数えられないんだけどさ!
月浦クンと王村クンの証言から、地下室の洪水はどでかい水道管を破壊して引き起こされたものだと判明しました。そこまではいいけど、そこで使用された爆弾の出所はどこかという話から、ボクが与えた『裏切り者』と『望む凶器』という動機が持つ隠された意味の話に、それがほとんどでした。ボクから改めて言うことなんて何もないよ!だってボクが言いたいことは『裏切り者はだ〜れだ?』っていう質問に凝縮されてるからね!オマエラちゃんと汲めよ〜?ボクの意図!ボクはこういうときストレートには言わないからな!
そんな感じで学級裁判は、前半ほとんどを前提知識の共有だけで終わらせてしまいました。進んだことと言えば、菊島クンの遺体から発見された遺留物や機械室の自動ドアに残っていたログから、菊島クンを殺害した犯人は痕跡を残さないように周到に準備していたことが分かりました。
しかァし!そんな犯人にも唯一説明できない行動がありました!それは、いつでも秘密裏に殺害できるはずの菊島クンをそのまま放置し、敢えて朝に事件を起こしたという点です!そしてその事実から、尾田君は、大変な理論をブチ上げるのでした!
犯人の目的は、谷倉サンの方だったのだと!
ふう、さてさて。いったい何がどうなっていくのか……この学級裁判が終わるとき、みんなはその結末を受け入れることができるのでしょうか。果たしてこの裁判に、勝者は現れるのでしょうか……楽しみに見ていてよね!うっぷっぷ♪
「犯人が殺したかったのは菊島クンではなく、谷倉サンだったということです」
尾田君の発言は、私たちの思考を停止させて脳をひっくり返すものだった。なんでそこで谷倉さんの名前が出てくるの?犯人の目的は……谷倉さんの方?
「い、いや……そんなわけないだろう!谷倉が地下室に行ったのは偶然だったはずだ!あいつは巻き込まれただけだろう!」
「本当にそう思いますか?犯人は誰にも気付かれず、なんなら死体すら残さない方法で菊島クンを殺害する方法を持っていました。僕が犯人なら間違いなくその場で爆殺しますね。死体発見の扱いがどうなるかは知りませんが、少なくとも誰にも犯行は立証不可能です。死体を溶かすより確実だとは思いませんか?」
「自分からそれを言うのですか……」
「でもそれを言われると、確かにそうだと思っちゃうんだよなあ……」
「話によれば、地下室の洪水は谷倉サンが機械室の中に入って間もなく起きたそうじゃないですか。まるで、準備は整ったと言わんばかりです」
「フーム、なるほどネ!ところで
「いいえ?当然の推論かと思います」
既にみんなの視線は、長島さんが言う“コイツ”に向いている。正確には、“コイツ
「事件が起きた今朝、谷倉サンが自発的に地下室に行き、偶然にも監禁された菊島クンを発見して、進んでひとり機械室に入って行ったというのなら、ボクの推理の信憑性も多少は損なわれたでしょう。しかし、今までの議論を聞く限りそんなことは一度もありませんでした!谷倉サンは地下室に連れて行かれ、菊島クンを発見するよう仕向けられ、ひとりで機械室に入らざるを得なくなっていました!そうしたのは誰ですか!?すぐそばで谷倉サンの行動を操っていたのは誰ですか!?」
もはや質問にすらなっていない。これほど答えが明確な問いもない。
尾田君は証言台に身を乗り出して、極めて愉悦的な表情で2本の指を突き出した。
「あなたたちでしょう!陽面サン!月浦クン!」
「ひっ……!?」
「……」
「あなたたちが谷倉サンを地下へ誘った!菊島クンを囮にして、彼女の善意を利用し、死の罠へと追いやった!違いますか!?」
反論は聞こえてこない。陽面さんは尾田君の追及に怯えて声も出せない様子で、月浦君はただ黙って尾田君が話し終わるのを待っていた。その表情は、怯えるわけでも呆れるわけでもなく、ただ覚悟を決めたような、強い意志を感じるものだった。
そして、月浦君は口を開く。
「馬鹿馬鹿しい。僕たちが地下室に向かったのは、アンタたちが地上ばかり捜索してたからだ。効率よく探そうと思ったら自然と地下室に足が向くだろ。偶然だ」
「そ、そうだよ!はぐもちぐもそんなことしないよ!みかどちゃんがいなくなって……は、はぐは……!すごく悲しいし、寂しいんだよ……!」
「どうですかね。ま、両方とも積極的に事件に関わっているのか、片方が片方に利用されているのか、そこまでは分かりませんが」
「いやあ、この2人に限って相手を利用するなんてことがあるか?」
「ないと言い切れますか?命が懸かったこの状況で、ただの印象で結論を変えてしまっていいのですか?」
「んぐむ」
「それを言ったらお前の主張だって、はぐと僕が谷倉と班を組んだっていうことだけにしか論拠がないじゃないか。他に犯行を立証できるものがあるわけでもないのに」
「さあどうでしょうね?それは僕が決めることではありません。憎たらしいことに、ここでは多数決こそ全てです。あなたの話のおかしな点について、改めて確認したら民意はどう動くでしょうか」
「お、おかしな点?」
あくまで月浦君は冷静だ。湖藤君と尾田君の陰に隠れがちだけど、彼だって狭山さんに従うフリをして陽面さんを救い出す手立てを探したり、裁判中も積極的に発言はしてきていた。もし本当に月浦君か陽面さんがこの事件に犯人として関わっていたら……それを突き崩すのは簡単なことじゃないだろう。少なくとも、私たちにとっては。
「覚えてますか?谷倉サンが機械室に入って間も無く、地下室で洪水が起きました。そのとき、月浦クンと陽面サンは物品倉庫に移動して難を逃れました。そして停電の中、機械室のドアを開こうとモノカラーの照合をしつつ、階段へ避難したそうです」
「ええ、聞いたわ。特におかしなところはないと思うけれど」
「いやいやいや、2つもあるじゃないですか。明らかにおかしなところが」
「ふ、ふたつもですか?手前にはなにも……」
尾田君は指を2本立てて、私たちに説明する。月浦君の証言に含まれる、明確な矛盾について。
「1つ。機械室の自動ドアは開いてから閉じるまでそれほど時間はありません。計ってみましたが、人が開けて中に入ってから、水道管が破壊され水が流入し、室内を満たすまでの時間はありませんでした。つまり、もし月浦クンの話し通りだとしたら、機械室の中にいる谷倉サンが溺死しているはずがありません」
「……あ」
「ど、どうしたの理刈さん?」
「いえ……なんで私はそこまで気が回らなかったのかって、自己嫌悪しているだけ。気にしないで……」
「あ、そう……」
「1つ。月浦クンと陽面サンが階段への避難を開始したのは建物全体が停電してからです。当然、電気制御の自動ドアは使い物になりません。ですが、事件が発生したと思しき時間ごろに月浦クンが照合した記録が残っています。停止しているはずの機械にどうして記録が残っているんでしょうか」
「ち、ちぐぅ……ど、どうしよう?りゅーへいさん、完全にはぐたちのこと疑ってるよ……」
「……大丈夫だよ、はぐ。はぐがクロだなんて結論には、僕が絶対にさせない」
「う、うん……!」
私は尾田君に騙されてるんだろうか。それともそれは納得して然るべきことなんだろうか。嗜虐的に笑う尾田君の表情を見ると、怯える陽面さんの隣でその尾田君に立ち向かう月浦君を見ると、どちらが正しくてどちらが悪意ある嘘つきなのかが分からなくなってくる。こんなことの連続なんだ、学級裁判は。
「アンタが言いたいことは分かった。確かに僕の話は疑わしく聞こえるだろう。だけど、それはただ疑わしいだけだ。それが直接的に僕がクロであるという根拠にならない限りは、ただ揚げ足をとっているに過ぎないし、妄想と吐き捨てられるべきものだ。分かっているのか?その妄想の結果は僕たち全員に及ぶんだ。慎重に考えろ」
「今の僕の発言を妄想だと言うのなら、君の発言は言い訳ですかね?発言内容に言及せず、個人攻撃で信憑性を落とそうとするのは追い詰められた人間がすることです」
「アンタ、性格悪いな。なんではぐと僕の方が、前科があるアンタより疑いの目を向けられてるのか納得いかないくらいだ」
「それはそれは。結構なことです」
「だから、そろそろいいだろう。はっきりさせようじゃないか」
その声色には、何らかの覚悟が宿っていた。すっかり二人の対決構図になってしまった裁判場で、私たちは息を呑んだ。この後の発言は、この裁判の結末に大きく関わるものになるはずだ。
「結局のところ、アンタははぐと僕のことを何だと思っているんだ?」
「ふむ……そうですねえ。
「……ん?」
「そうか。やっぱりアンタは性格が悪い。だがそれでいい。
「はあ、そうですか。君も相当なものですよ」
月浦君の質問が飛ぶ。それを受けた尾田君は、少し考える素振りを見せて答えた。クロ、という言葉の前になにか付いていた。何か、とても余計な、それでいて無視できない一言が。
「よ、よくて……って、なに?」
「はい?分かりませんか?予想し得る最善の場合、という意味です」
「辞書的な意味じゃなくて!よくてクロって、悪かったらなんなの!?クロ以上に悪いことなんてあるの!?」
「あるでしょう。シロの場合ですよ。つまり、月浦クンがクロとしてこの事件に関わっている方が僕たちとしては楽なんですよ」
「な、なんで……?」
「僕がクロなら僕を殺せばそれで話が済むだろ。だが、僕はクロじゃない。僕を殺すことはアンタたちのほとんども道連れになることを意味する。それは最悪の結末だろ」
「ええ……?」
「なんか今回、最初からずっと何言ってんすか状態なんだけど、私だけ?」
「たぶん、ほとんどの人がそうよ」
思わず口を挟んでしまって、私は尾田君と月浦君の両方から怒られる羽目になってしまった。結局、月浦君はクロなのかどうなのか、尾田君は何を言いたいのか、月浦君は認めてるのかどうなのか、こんがらがってきた。
「2人とも、一旦整理してくれないと多数決ができないよ」
「……まったく、面倒なシステムです。僕が説明してもいいですか?」
「ああ、構わない。間違いがあれば後でまとめて訂正してやるよ」
「こいつらマジでなんなんだよ、キモいな」
私をはじめ、尾田君と湖藤君と月浦君以外のみんなは首を傾げて大きなクエスチョンマークになっていた。いったい2人がずっと何を話していたのか、尾田君が至極面倒臭そうに話し始めた。
「まず前提として、僕は月浦クンのことを100%疑っています。ただしそれはクロとしてではありません。この事件に、単なる被害者ではない形で関わっているという点に関してです」
「だ、だからそれはクロってことになるんじゃねえのかよ!」
「でも決定的な証拠がまだないよ。月浦くんが自白したわけでもないし」
「先ほど、ほぼ自白と取れそうな発言があったように思いますが……」
「仮に自白があったとして、なぜそれを信頼してしまうんですか?僕には信じがたいことですが、クロの条件を満たしているのが陽面サンだった場合、月浦クンは自らがクロのように振る舞うことで彼女を生き存えさせる手段を執る可能性すらあります」
「は?バカか?はぐには僕が必要なんだ。僕がはぐを残して勝手に死ぬなんてあり得ない。自己犠牲なんていう身勝手で無責任な自己陶酔に浸るなんてこと、はぐが頼んだってするわけないだろ」
「ちぐが死んじゃったらやだよー!」
「緊張感ないなあ」
「湖藤クンの言うように、決定的な証拠がない点も気になるところです。が、それ以上に、仮に月浦クンが陽面サンを生き存えさせようとしていたとしても、これまで話してきた不審な点の説明にならないところが問題です。
単に陽面サンにクロの権利を譲るだけなら、夜中に菊島クンを殺害することでも可能でした。溺死という間接的かつ手を下した人物が不明確な手段を用いる意味もありません。そんなことをする必然性がありません」
「ひ、必然性……?」
「なぜ溺死という手段を選んだのか。なぜ被害者は菊島クンと谷倉サンでなければならなかったのか。なぜあからさまに怪しい態度を執るのか。これらに一切の説明がされてないことが、僕が“よくてクロ”と言った理由です」
「ま、まだおいらにゃあ全然分からねえんだけど……」
「ただ単に裁判を撹乱するだけの目的ならそれでも構いません。ただ、それだけにしては何らかの通底する意図を感じるんです。無意味にリスクを増やすだけの行為は、意味不明を通り越して愚の骨頂です。つまり、彼がその行動を執った理由に、僕たちはまだたどり着いていない。その可能性のひとつが……彼はクロではない、クロとしての条件を満たしていないということです」
「はあっ!?何言ってんだお前ずっと!?お前が言ったんだろ!あいつが水を流し込んで菊島と谷倉を殺したって!」
「あなたこそ何言ってるんですか?話聞いてましたか?月浦クンは菊島クンを殴って気絶させて機械室に軟禁し、朝には谷倉サンを地下に誘導、機械室に入るよう仕向け、水が中に流入するよう機械室のドアを開放した。いつ彼はクロになり得るんですか?」
「……???」
月浦君がクロじゃない?ついさっき、尾田君は月浦君と陽面さんを追及してなかったっけ?次々と変わる展開に私たちのほとんどはついていけてない。芭串君が必死に尾田君に噛み付くけれど、簡単にあしらわれてしまう。月浦君の行動を振り返ってみる。言われてみれば、彼は菊島君に直接危害を加えてはいるものの、2人を直接的に死に至らしめる行為は何もしていない。機械室のドアを開けたのだって、水が入るから危険なだけで、ドアを開けることそのものは加害行為じゃない。
「気持ち悪いのは、彼はクロとして申し分ない動きをしていますが、彼が手を下したという決定打がありません。しかし、クロでないとすれば隠すべきことを隠していません。ですから、限りなくクロに近いシロ……黒幕とでも言いましょうか」
「く、黒幕!?」
「月浦が……黒幕だと……!?」
「いちおう誤解のないように言っておきますが、コロシアイ自体の黒幕ではありませんよ。この事件における、という意味です」
「び、びっくりさせないでくれよ!いや、それでもさっぱり何言ってるか分からない!2人を殺したのはちぐじゃないのか!?だったらちぐがクロじゃないとおかしいじゃないか!」
「わけわかんねーことばっか言うなアル!」
非難轟々、そんな感じだ。だけどそれは私たちが尾田君の言うことを否定できることを意味しない。むしろ、それを否定する根拠を全く持っていない、かと言ってそれが真実でも偽りでも、素直に受け入れることができないほどの悪意に満ちている、そんな板挟みになっていることの証だった。だからこそ私たちは、尾田君に反発することでしか、自分たちの立ち位置を見つけられなかった。それはきっと、人としては正しいことなんだと思う。感情によって、合理的じゃない選択ができる、それはとても人間的で、この裁判場では極めて危険なことだと分かっているのに。
尾田君は、すらりと手を平にして月浦君を示した。
「そろそ自分の口から語ったらいかがです?人にばかり喋らせないでください」
「アンタが勝手にぺらぺら喋ってただけだろ。まったく……わざわざ場をかき回してから渡してくれるなんて、涙が出るほど親切な奴だよ」
「誰が話してもこうはなったと思いますがね。君ははっきり真実を述べるべきです。紛れもなく、君と君の愛するもののために」
それまでは穏やかに睨みつけていた月浦君の目が、最後の尾田君の一言に対してだけは厳しくなった。だけど月浦君はそれ以上何も言わず、ふうと一息ついてから、不安げに見守る陽面さんの方を向いた。
「ち、ちぐ……?」
「はぐ、ここからは僕が全部話す。だけど心配しなくていい。はぐは死なないし、僕がはぐの前からいなくなるなんてことはない」
「……う、うん。でも……はぐは、ちぐがいなくなるのも嫌だけど、みんながちぐのことを嫌いになるのも嫌だよ……だから、本当のことを話して?お願い」
「もちろんだ」
陽面さんと言葉を交わして、月浦君は証言台に手をついた。覚悟を決めた目で、私たちひとりひとりの顔をじっくりと観察していた。いったい、何を見ているんだろう。何を語るつもりなんだろう。彼は、何を知っているんだろう。
「さすが、と言っておこう。尾田が言った通り、この事件は僕が起こした。だけど僕はクロじゃない。それだけははっきりと言える」
「ど、どゆこと?事件を起こしたのにクロじゃないって……?」
「結局最後には、僕も誰がクロかを明確にさせなきゃいけない。だから、ここにいるほとんどの奴は敵じゃない。だからアンタたちにも分かるよう、順を追って説明してやる」
「尊大な奴だ」
「モノクマの動機の真意については、発表があった日の夜になって理解した。あっちの2人はもっと早く気付いてたようだし、答えに行ったタイミングは他に気付いた奴がいてもおかしくなかった頃だったから、凶器を手に入れられた時は驚いた。先んじて封じられている可能性もあったから、半分はダメもとだったんだけど……」
「万が一にでも正答者が公表される可能性を考慮しなかったんですか?」
「さあな。あのときの僕はそれどころじゃなかった。仮に考えていても構わないと思っただろうな」
「そんなに強い動機があったんだね」
さらっと言ってるけど、私はついさっき湖藤君の話を聞くまで、モノクマの動機に隠された真意になんて気付く気配すらなかった。まるで考えれば誰でも分かる、みたいに言われると不安になる。もしかして分かってなかったの、私だけだったのかな、なんて。みんなの顔色を見る限り、そうでもなさそうだったけど。
「なんでも好きな凶器を手に入れられることになって、僕はモノクマに注文した。『地下を水没させるくらい大量の水がほしい』と」
「……んん?み、水?水を望んだのか!?爆弾じゃなく!?」
「当たり前だろ。水死じゃなきゃ僕の計画は完遂できないんだ」
「け、計画……?なんだそりゃ?」
「それを今から話すんだ。理解できてない奴が口を挟んで邪魔するな」
「う〜ん、犯人の告白とは思えない不遜な態度アル。こりゃ本当にクロじゃないかも知れないヨ」
「ということは……あの爆弾は、水道管を破壊するためだけに用意されたということか!?」
「ああ、そうだ。直接人を傷つけてはいけない、という条件付きで、僕は水の代わりに爆弾を渡された。これで地下にある水道管を破壊すれば望む凶器が手に入ると言われてな」
「ったりめーだこのヤロー!地下を埋め尽くす水って何リットルになると思ってんだ!そりゃ用意できないこともないけど、そんだけ大量の水をオマエがどう扱うってんだよ!だからボクが気を利かせて代替案を出してやったんだろ!ま、その代わり月浦クンの計画にも一枚噛ませてもらったけどね」
「な、なんですって!?」
モノクマによれば、月浦君が望んだ大量を水そのものは渡せなかったから代わりに爆弾を渡して、埋め合わせとして月浦君の元々の計画に少しアドバイスをしたらしい。そんなことが許されるのか、と理刈さんが悲鳴を上げた。そんな非難は無視されて、月浦君が続きを話す。
「計画を修正した僕は、昨日の夜、菊島が薬品庫で薬を調達してるところを後ろから殴って気絶させた。そして菊島を連れ込むついでに、準備していた椅子とロープを機械室に運んで縛り付けた。水道管に爆弾を付け、翌朝爆発するようにセットして、部屋に帰った」
「おおよそ話した通りだね。どうして夜のうちに菊島くんを殺害しなかったの?」
「殺したら僕がクロになるだろ。それじゃあ意味がない」
「はあ?」
「今朝、計画通り、アンタたちは菊島を探すために班に分かれて捜索を開始した。普段から谷倉が一番最後まで食堂に残ってたのは知ってたから、僕はわざとはぐを座らせたままにしてあいつと班になるようにタイミングを見ていた。ああ、はぐには何も話してないから、はぐが何をしてもそれは偶然だ。まあ、はぐについてわからないことなんて僕には何もないけどな。
地下の捜索を初めてすぐ、谷倉は機械室に菊島がいることに気付いた。そして爆弾の起動タイミングを見てあいつ1人を機械室の中に入れて、僕ははぐと一緒に部屋の外で待機した」
「そして……洪水が起きたのですね」
「ああ。水が流れ込むように、僕は機械室の扉を開けた。あとはアンタらも知っての通りだ」
悪びれる様子もなく、かと言って自慢するようなこともなく、月浦君は淡々と述べた。まるでその日のスケジュールを確認するように、そこには何の感情もない。ただ事実を事実として、ありのままを話しているだけ。それが2人もの人を殺害する計画とは思えないくらい、簡単に口にする。
そして月浦君の話は終わった。唐突で、まだ私の頭の中では、どうして谷倉さんと菊島君が亡くなったのか、その答えが分からないままだった。私の想像力が足りないのか。話を聞き逃していたのか。どうしても納得できないことがある。
「ねえ……月浦君、本当に今ので話は終わり?」
「ああ、そうだよ。疑うのか?」
「疑うに決まってんだろ!テメエ何したか分かってんのか!谷倉と菊島を殺したんだぞテメエは!」
「だから僕は殺してないって言ってるだろ。僕をクロとしたらはぐが死ぬ。そんなことは許さないぞ」
「今の話でどこをどう解釈したらお前がクロではないという結論になる?どう考えてもお前が水道管を破壊して機械室に水を入れ、2人を閉じ込めて溺れさせたんじゃないか」
「……いや、おかしいよ」
何度も、頭の中で繰り返す。月浦君の話を。今朝、地下室で起きた悲劇を。その度に、どうしても分からないところだけ、気持ちの悪い空白が生まれる。月浦君が機械室の中に大量の水を流し込んだ。そしてしばらくして、機械室の扉が開いて谷倉さんと菊島君の死体が流れてくる。2人はその間に機械室の中で溺れてしまった……やっぱり、おかしい。
「今の話だけだと、谷倉さんと菊島君が溺れるなんてこと……少なくともあんな短い時間じゃあり得ないよ」
「な、なんで?」
「私たちが地下室に着いたとき、水は私の腰くらいまでの高さしかなかったんだよ?この高さで溺れるのなんて、王村さんくらいだよ」
「バ、バカにすんねェ!おいらだってそれくらいの高さじゃ……あ、死ぬわコレ」
「なんなんだよ」
「長い時間閉じ込められてたわけでもないのに、2人がこの高さの水で溺れるなんて……私には納得できない!」
「な、何を言って……人は数センチの水さえあれば溺れると言われてるわ。腰まであれば十分溺れる量よ」
「そうアルそうアル!それにあの時は停電もしてたアル!パニックになって転んでそのまま溺れてもおかしくないヨ!」
「菊島君は月浦君が椅子に縛り付けてたし、谷倉さんも何かが起きるって用心してたはずだよ。驚いたかもしれないけれど、水と停電だけでそこまで取り乱すとは思えない。体力だって余力があったはずだよ」
私の指摘は、あまり受け入れられそうになかった。確かに、腰までの高さの水があれば溺れることはできるかも知れない。だけど、それは自分から水に浸かりにいくような状況でないとあり得ない。椅子があるならなおさらだ。
みんなから反対され、くじけそうになる。でも、そんな中で私の言葉を掬い上げてくれたのは、他でもない、月浦君だった。
「甲斐の言うとおりだ。2人が機械室に閉じ込められてから、アンタたちに発見されるまでせいぜいが10分程度。機械室の扉が閉じていたなら、中は凪だったことにもなる。いくらなんでもそんな短い時間にその程度の水で人が溺れるはずがない。僕をクロだと言うのなら、それを説明してみろ。あのとき、離れた部屋の外から、アンタたちの目の前で、腰までしかない水で溺れさせた方法を」
彼は、私の意見を汲んでくれたはずだ。私と月浦君は、みんなに向けて同じ話をしてるはずだ。それなのに、彼は決して私の味方ではなかった。どちらかと言えば敵だ。この裁判場で彼は、クロでもなく、被害者でもなく、無関係の傍観者でもない。事件を引き起こす工作をしていながら最後の引金を自分の手で引かず、それでいて起きた事件を私たちに解決させようとしている。
全く意味が分からない。どうして何もかもを見透かしてしまうのか分からない湖藤君とも、何を考えているのか分からない尾田君とも違う。私たちの行動を支配しているような、気が付けば何もかもが彼の術中にあるような、そんな得体の知れなさを感じる。
「バッキャロー!んなもん分かりきってらァ!」
「……いちおう、聞いておくわ」
「あーだこーだ言って、結局月浦が犯人なんだろ!なんかのトリックを使って部屋の外から2人を溺れさせやがったんだ!」
「そのトリックって?」
「それは分からん!」
「はい、ありがとうございます。お酒飲んでてください」
「でもトリックを使ったのは間違いないはずだよ。力ずくで押さえつけるなんてことはできないし、あの部屋には力学的な装置の痕跡はなかった」
「じゃあ何をどうやったってんだよ!」
「密室……水……地下……停電……」
「月浦君は菊島君をわざわざ機械室に運び込みました。おそらく、あの部屋であることに意味があるのではないでしょうか」
「あの部屋に……?」
私は、一度だけ機械室に行ったことがある。と言っても、いちおうどんな場所があるか、本館の中を探検していた途中で寄っただけだから、詳しく調べることはしなかった。四角い無機質なコンクリート打ちの部屋と、入口は記録機能付きの自動ドア、そして様々なインフラ設備……。
「事件当時のあの部屋の状況を考えてみよう。そうしたら、何か分かることがあるかも知れない」
「考えると言っても、想像することしかできないぞ」
「想像だって構わないさ!人は考えることができる。だからこそ希望を持って前に進むことができるんだ!」
「えっと……当時は入口のドアが閉まってて、腰の高さまで水が流れ込んで来てて……」
「あと停電もしてたはずだよ!真っ暗で何も見えなかった!」
「密室で、谷倉と菊島が2人きりだったんだよな」
「暗い密室で男女が2人きり……何も起きないはずがなく……!」
「余裕か!」
「私たちが行くまでには復旧してたはずだけど───」
目が潰れるかと思った。頭の中で何かが弾けて閃く。その衝撃で頭が揺れる。脳が焼ける。目が疼く。一瞬とも呼べないほど短い時間、目の前にちらついた真理の糸の残像を追って、私は思想世界へ潜っていく。深く、深く、その先に何があるかなんて警戒心は置き去りに、ただ本能的な思索に身を任せて、掴みかけた答えの影を捕まえる。
「……?甲斐さん?」
「───には、アレが───たら谷倉さんは───で───てしまう。じゃあ───クロは───だから───」
脳内に浮かんだ言葉を空気に刻む。確かな存在感を得ると、その言葉の持つ力が増すような気がした。私が私に囁いた言葉は、大きな力と意味を持って私の
「……ッ!」
私たちが捕まるロープの端、ただひとり、私たちの中に交れず、力なくぶら下がるその顔が見えた。見えてしまった。それは、私たちが指摘すべき人物ではあって……決して、糾弾すべき人物ではなかった。
「分かったんだね。この事件のクロが」
「えっ!?マ、マジで!?」
「う、ううん……」
「違うの?」
「……言いたくない」
「い、言いたくないぃ?」
それは、別に犯人を示すヒントでもなんでもない。ただの私の本音だった。私の心の叫びでしかなかった。
「言いたくないってなんだよ!犯人分かったんなら言えよ!」
「だ、だって……こんなの、おかしいよ!この人は犯人じゃない!犯人だなんて言えるわけがない!こんなこと……!」
「それなら、なぜそんなにも焦っているんですか?あなたはその人が犯人だと思ったからこそ、言おうとしないのでしょう?」
「尾田も分かってんのかよ!」
「分かってはいますが確信がありません。9割くらいですかね」
「ほぼ間違いないじゃないの!言いなさい!」
「嫌です。余計なことを言って間違った人物を指名してしまったら命取りです。裁判の結論なんですから、慎重に慎重を重ねても足りないくらいです」
どうやら尾田君も、私と同じ結論にたどり着いているようだ。それなら、たぶん湖藤君もとっくにたどり着いてるんだろう。湖藤君もたぶん、尾田君と同じで、確信が持てないんだろう。だけど、私は確信している。間違いなく、この裁判で犯人だとされてしまう人はあの人だと、はっきりと言える。
「奉ちゃん……?」
「甲斐。分かっていることがあるのなら言ってくれ。たとえそれが信じがたい事実だったとしても、目を背け続けていられるわけじゃない。乗り越えなければならないものなら、私たちも共に行く」
「どうせ月浦なんだろ!言っちまえよ!」
風海ちゃんが心配してくれる。毛利さんが背中を押してくれる。芭串君が無責任に励ましてくれる。冷たい視線も、暖かい視線も、不安な視線も、全て私に向いている。私はまた、こんなことを繰り返すことになってしまう。自分が生き残るために、誰かを犠牲にする。その人に残酷な運命を押し付ける。それだけでも苦しいのに、こんな結末は……私には受け入れられない。
「ううっ……!」
「ま、まつりちゃん!がんばって!はぐとちぐも一緒だよ!」
「ひとりで重荷を背負うことはないわ。この場に立っている以上、私たちは運命共同体、その責任だって分割されるはずよ」
「心細いならオレの胸に飛び込んできてくれていいんだよ!さあ!」
「お前はただハグしたいだけアル!スケベ!」
「全部吐き出しちまえば楽になるぜ!おいらたちが受け止めてやっからよ!」
「何も不安になることはありません。間違っていても、誰もあなたを責めたりなどしません」
みんなが私を応援してくれる。みんなが私の言葉を待ち望んでいる。みんなの気持ちが伝わる。そして、だからこそ分かる。みんなが……まさか自分が犯人になるなんて、これっぽっちも考えてないと。分かってしまう。
「うっ……!うううっ……!」
本当にこれを言ってしまっていいのか分からない。だけど、もう言うしかない。私の指は勝手に人を示す形になっていた。何もかもが輪郭を失ってぼやけた世界の中で、私は嗚咽を漏らしながら、頭をあげた。まだ、言う決心がつかない。だから、真相の外縁をなぞるようなことしか言えない。
「た、谷倉さんと……菊島君は……溺れた。それは、押さえつけられたんでも……水位が高かったんでもない……!きっと、身動きが……取れなくなったんだ」
「身動きが取れない……?どういうことだ」
犯人の名前を言ってしまえば楽になったかも知れない。だけどそれを口にするのにかかるエネルギーは、今の私には大き過ぎた。
「部屋に閉じ込められた谷倉さんはきっと……菊島君を助けた後、脱出しようとしたはずだよ」
「そりゃそうだわな」
「あの部屋から出るには、自動ドアを開けなくちゃいけない。部屋の中から開けるのに使うのはモノカラーじゃない……」
「ああ。タッチパネルだね」
「そう。谷倉さんはきっと、あのタッチパネルでドアを開けようとしたはずだ。だけど……それが犯人───いや、月浦君の罠だったんだ」
「というと?」
「あのタッチパネルは手のひら全体をパネルにつけて起動するものだった。腰まで浸かるほどの水、当然谷倉さんの体は濡れていた。そんな状況で、電子機器に手のひらをつけたら───!」
「……ッ!まさか……感電……!?」
理刈さんがはっと口を抑える。突然閉所に閉じ込められた谷倉さんは、そんな状況にもかかわらず菊島君の縄を解き、冷たい水に足を取られながら、停電で目の前も見えない中、脱出しようとしていた。強く死を感じて絶望してもおかしくない状況で、谷倉さんは希望を捨てずに戦っていた。
その希望さえも利用されているなんて、きっと最期の瞬間まで思いもしなかっただろう。
「感電して全身が痺れた谷倉さんは……そのまま、動けなくなって倒れ込む。菊島君はきっと支えを失って……一緒に感電して……そのまま……!」
「そ、そんなことあるの?感電ったって、ちょっと痺れて手が痛いくらいとか……そんなもんじゃないの?」
「洪水時、電柱に触れて感電し溺れたという事例もあります。谷倉さんの手の様子を見れば、ドライヤー程度の電力では済まないことは明白です」
「な、なんと……そのまま溺れてしまうか、大量の水による低体温症になるか、感電してしまうか……いずれにせよ、あの部屋に入ってしまった時点で助からないのですね……」
「なるほど。だからモノクマは、水が抜けるまでワタシたちに入るなって言ったのネ。また誰かが感電して溺れたら面倒アル」
「どうなんでえ月浦!この野郎!なんとか言ってみろ!」
一つの事実が導かれると、みんなは次々と状況を理解していく。分かっていけばいくほど、
「ふうん、やるね。何人か警戒してる奴はいたけど、あんたはもうちょっと気を配っておくべきかも知れない。今回は助けられたよ」
「た、助けられた……?」
「ああ。僕にはクロが分からない。けど、あんたには分かってるんだろ?」
「は、犯人が分からない!?なんでだよ!?この事件を裏で操ってたのはチグなんだろ!?」
「だからと言って全てを知ってるとは限らない。何が起きるかを僕は知っていた。だが誰が起こすかはその瞬間まで分からない。そして僕はその場所にいない。それだけのことだ」
「そ、その瞬間……?何のことだ?」
「……地下が水没したとき」
少なくとも、月浦君に言わせるべきではない。そう感じた私は、彼の言葉の続きを奪った。
「館内は停電した。建物中が暗闇になって、自動ドアも動かなかった。当然そんな状況じゃあ、感電なんかするはずがない」
「……あっ」
「嘘……嘘、よね……?」
「谷倉さんが感電したのは、地下に電気が通っていたから。停電していた地下に、電気を通わせたから。2人の体の自由を奪った電気を……そ、そこに与えた人がいたから……!」
「お、おいおい……おいおいおいおい!」
「だからっ……こ、この事件が……!電気を通わせたことが、2人の死を招いたんだとしたら……!は、はん、にんは……!」
恐れていた瞬間は足音も立てず目の前に現れた。自分で導いた答えなのにそれを信じたくないと頭がガンガン痛む。それでも、言わなくちゃいけない。言わないと、もっとたくさんの人が死ぬ。みんなの命を救うために……事件の全てを操っていた月浦君を救うために、何も知らない
「……カルロス君。あなたしかいないんだ───」
「…………は?」
それを口にした瞬間の彼の顔を直視できなかった。私の言葉が意味することから、私の言葉が招く現実から、どうしても目を背けたくて。私は自分のつま先ばかり見ていた。
「な、何を言っているんだ、マツリちゃん?どうしてオレが……」
「カルロス君は……停電になったとき、一番に非常用具庫に行ったよね」
「あ、ああ。行ったさ。発電機がそこにあったからね」
「カルロス君は……そこで、一生懸命、発電機を回してくれたよね」
「当然だ。暗闇のままじゃ何が起きるか分からない。みんな不便してるだろうからね!紳士として当たり前のことだ!」
「そう……そして、君は本館全体に電気を通した。汗を流して……力を込めて……みんなのために、電気を復旧させてくれた」
「そうだ!そうすることが正しいと思ったからだ!みんながオレにそれを期待してくれていたからだ!」
「……そうして復旧させた電気が……谷倉さんと菊島君を痺れさせて、溺れさせてしまったんだよ」
どうしてこんなことになってしまったんだろう。どうして私は、カルロス君を責めているんだろう。彼は何も悪くないのに。ただみんなのために、率先して、彼にできることを真面目にやってくれただけなのに。
「い、いや待ってよ!なんでカルロスさんがクロになるの!そんなの絶対におかしいよ!」
「そうよ!彼は停電に適切に対処しただけで、地下室の状況なんか知りようもなかったのよ!殺意だって認められない!過失すら認められないわ!」
「私だってそう思うよ!どうしてカルロス君がクロだなんて言われなくちゃいけないの!?彼は何も悪くない!私たちのために動いてくれただけなのに!それなのに……!」
めちゃくちゃなことを言ってると自分でも思う。カルロス君がクロでいいはずがない。クロと言うべきは月浦君の方だ。
「そもそも谷倉と菊島が感電したなんて根拠があんのか!?普通に溺れて死んだだけだったら、カルロスが電気を復旧させたからってそれは関係ねェだろ!」
「証拠は……あるんだろうな」
「……ある、よ」
それを提示すべきは私じゃないはずなのに。なんでか、自分が話さなくちゃいけないような気がした。
「谷倉さんの手のひら……強い火傷の痕があったんだってね。きっと、タッチパネルを触って感電したときの火傷だよ。料理上手な谷倉さんが、台所で火傷するはずないもの……」
その証拠を提示すると、裁判場は静まり返った。誰か早く、私の言葉を否定してほしい。新しい証拠でも言わなかった事実でもなんでもいい。この状況をひっくり返してほしい。
そうでないと私は、何の罪もない友達をひとり、犠牲にしなくちゃいけなくなる。
「実際のところ、どうなるんですか?」
こういうときに口を開くのは、いつも尾田君だ。彼の視線は円形に並ぶ私たちじゃなく、玉座に座るモノクマに向けられていた。
「彼が通電させたことによって2人は体が痺れ、溺れ死にました。彼の行為は直接2人を殺傷するものではありませんが、あの状況で電気は十分凶器になり得ます。しかしながらそれは月浦クンにも同じことが言えます。直接的に危害を加える行為ではないにしろ、出口のない場所に閉じ込めた上でなら水も十分凶器です。カルロスクンがクロとなるのなら、月浦クンも同じ要件を満たしているのではないですか?」
「えっ……?」
尾田君の言葉は、私が求めた言葉とは全く似て非なるものだった。それは、カルロス君の罪を解消する言葉なんかでは決してない。ただ単に、月浦君を道連れにさせるだけの言葉だ。それだと、カルロス君は救われない。
モノクマは腕を組んで頭を捻り考える。
「う〜ん、これは非常にむつかし〜問題です。尾田クンの言う通り、月浦クンがしたこともカルロスクンがしたことも、加害性があると言えばそうですし、ないと言えばそうです。感電して麻痺したことによる溺死となると、電気による殺人か水による殺人かの判断は大変困難です。手を叩いたときに左右どっちの手から音がしたか、という問題くらい難問です。
かと言って尾田クンの意見を汲んで2人をクロにすると、それはそれで問題があります。それはつまり、ボクが約束を破ってしまうことです。ボクは月浦クンに凶器を与えるとき、彼の計画をより緻密にするためにアドバイスをしました。それによって月浦クンがクロになってしまうことは、ゲームマスターとしての在り方に関わります。もともとクロになる意思があったのなら問題ないんです。月浦クンの意思に反してクロにしてしまうことが問題なんです」
そうじゃない。私が言いたいのは、そんなことじゃない。どうして尾田君もモノクマも、カルロス君の罪は前提なんだ。いま話すべきは月浦君のことじゃない。
「だからボクはここで、明確な基準を1つ与えることにしました!今回のように複数人の連携によって1つの殺人装置が構築された場合、誰がクロとなるかの基準です!オマエラ、きちんと覚えておけよ!これから先、注意しなくちゃいけないからね!」
「き、基準……?」
「それすなわち、『行為の加害性の強さ』です!2人で刀を持って頭から股間まで入刀〜!この場合はより短く刀を持っていた方がクロ!そっちの方が力がこもるからね!2人同時にハンマーで頭をプレ〜ス!この場合はより重いハンマーで、より速く振っていた方がクロ!そっちの方が与えるダメージが大きいからね!そんな感じで、どっちの加害ショ〜的な感じでサクッと決めちゃいたいと思います!」
「な、なんだそれ……?」
「では今回の場合は?」
「今回は、月浦クンが全ての計画を練り、準備を進め、シチュエーションを作り上げました!あのまま放置していたら2人はじわじわと弱り、溺死していたでしょう!ただ、相手が弱るのを待って溺死させるというのはかなり時間がかかるし不確実な方法で、しかも状況を考えれば誰かの助けが入ることは期待されました!要するに、月浦クンの行為だけでは不完全なんですね!
一方、カルロスクン!彼は月浦クンの計画なんか一切知らず、ただ停電に対処して電気を復旧させただけです!しかしその行為は、谷倉サンと菊島クンが溺死するまでの時間を短くし、月浦クンの行為をより完全なものにすることになってしまいました!そしてなにより……谷倉サンと菊島クンが停電したとき、そこに水がなかったとしても、2人は助からなかったでしょう!強い感電による全身麻痺、菊島クンはそれに加えて頭部のダメージもありましたからね!
したがってこの場合、より『行為の加害性が強い』のはカルロスクンだと判断できます!お分かり?」
「そうですか……残念です」
モノクマの話は、私には半分以上理解できなかった。だけど、何よりも重要なことだけははっきり分かった。この事件のクロは、カルロス君になってしまう。ただそれだけで、私には十分だった。十分すぎるほど、絶望的だった。
「結論が出ました」
「うぷぷぷぷ!そのようですね!それではオマエラ!お手元のスイッチで、クロと疑わしい人に投票してください!投票の結果、クロとなるのは誰か!果たしてそれは、正解か、不正解なのか〜〜〜?」
迷いのない押下音がした。きっと尾田君だ。戸惑いながらも、次々とみんなスイッチを押していく。これ以上、私たちにできることはない。全てを諦めて、自分の命を守る選択しかできない。こんなとき、自分の命を捨ててでも彼を助けられたら。ありもしない希望を浮かべてしまうくらいに、私は強く───強く絶望していた。
「不本意ですが、僕たちはあなたを排除しなくてはならないようです。悪く思わないでください」
「……なんてことだ───」
全ての投票が終わる。私たちは、月浦君に完全敗北を喫した。
頑張りました。いろんなことを。
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