あなたを 超高校級の宣教師 として
希望ヶ峰学園への入学が決定したことを
お知らせ致します。
8月吉日
学校法人 希望ヶ峰学園学園長
いまも夢かと思えてしまう。まさか手前のような者が、かの希望ヶ峰学園に招かれるとは。
「素晴らしいことです。フランチェスコ・庵野。敬虔なるあなたの行いを、神は見ておられました」
「ありがとうございます」
荘厳な光が差し込む教会の中、パイプオルガンの神聖な音が私と神父様に降り注ぐ。目を閉じて祈りを捧げれば、今にも神の御言葉が聞こえてきそうな、厳粛な世界だ。跪いて祈る手前の肩に、神父様がそっと手を置かれる。
「私には、希望ヶ峰学園の中のことは分かりません。しかし、卒業すれば成功が約束されると言われる、日本一の学府です。あなたはあなたの為すべきことを為し、その名に恥じることのない学園生活を全うなさい」
「はい」
「あなたの“才能”は素晴らしい。ですが、往々にして人は誉れを受けると増長するものです。常に己を見直し、“才能”溢れる人々が集まる希望ヶ峰学園でも、愛することを忘れず生徒の模範となるよう努めなさい」
「はい」
神父様から下される言葉が、手前の胸の底に染み込んでいく。“超高校級の宣教師”の肩書きを拝したとはいえ、手前は未だ一介の迷える羊。神父様の元を離れ、自分ひとりで神の意志に基づき行動することができるのだろうか。不安とは言わない。自分を律することは当然のことだ。しかし、満足のいく時間を過ごすことができるか、それだけが気懸かりだ。
「安心なさい。健全なる魂は健全なる肉体に宿る。健全なる肉体は健全な信仰を元に成る。健全な信仰は健全な暮らしに根付く。健全な暮らしは健全な愛が支える。あなたが常に自己を見つめ続け、人を愛し、日々感謝し暮らしていくのであれば、必ずやその魂は清くあるでしょう」
「ありがとうございます。神父様の言葉を胸に、希望ヶ峰学園でも神の意志に従い過ごします」
「汝、愛とともにあらんことを」
最後に祈りの言葉を捧げて、神父様は私に伝えるべき言葉を終えた。祈りを受けた手前は、そのまま後ろに下がり、もう一度祈ってから神父様に背を向けた。入口へと続く道の両脇に、小さき弟らが花を持って並ぶ。希望ヶ峰学園に旅立つ手前への餞に、聖なる歌を浴びせかける。身が清められるようだ。
この教会には、親元を離れて神の教えに従い清貧の中で生きる者が多くいる。手前もそのひとりだ。もはや血の繋がった親よりも、ここにいる家族と過ごした時間の方が長い。そして手前は、その教会を旅立ち、再びひとりで新天地へと赴く。あの頃のように何も知らない幼子ではなく、認められたひとりの宣教師として。
きっとこれも、神の思し召しだろう。これは神の施しであり、同時に試練でもある。それが天上の意思ならば、手前はそれに従うまでである。
飛行機は雲を突き抜けて、遮るもののない太陽の光の中へ飛び出した。窓から差し込む眩しいほどのこの光が何よりも好きだ。かつて太陽の沈まない国と言われた祖国は、彼の時代、この光を絶えず浴び続けていた。サングラスをずらしてその光を直に目で受ける。
「
カルロス・マルティン・フェルナンド 様
あなたを 超高校級のマタドール として
希望ヶ峰学園への入学が決定したことを
お知らせ致します。
8月吉日
学校法人 希望ヶ峰学園学園長
スターというものは、いつ何時でもスターでなくてはならない。それは、こうしてビジネスクラスで寛いでいる瞬間でもだ。いつどんなときに、オレの
それでも、空港でオレの姿を見た子がいるだろう。そしてこの飛行機のチケットをなんとか手に入れて、オレに声をかけるチャンスを伺っていることだろう。可哀想だけど、オレの方から声をかけてあげることはできないのさ。なぜならそれは、他の
「スターはつらいぜ……」
だからもし、勇気を振り絞って声をかけてきてくれた
「カ、カルロスさん!私、カルロスさんを空港で見かけていてもたってもいられなくって!ご迷惑でしょうけど……あなたのためにポルボロンを作ったんです!受け取ってください!」(裏声)
「ありがとう、
「そうですか……すみません。私、自分勝手でしたよね。席に戻ります」(裏声)
「ちょっと待って。そのポルボロン、ひとつ貸してくれないか?」
「えっ?どうしたんですかカルロスさん。ポルボロンの包みをほどいて……受け取れないんじゃ──」(裏声)
「目を閉じて」
「へっ──あむっ」(裏声)
「受け取ることはできないけれど、キミの想いにこれくらいの返事はしてあげられるさ」
「……ッ!ポ、ポルボロン………!ポルボロン……!ポルボロン……!」(裏声)
“こう”、ね!!
ふう。それにしても、このオレに目を付けるとは、ジャポンの希望ヶ峰学園っていうところもなかなか見る目があるじゃないか。
希望ヶ峰学園がどんなところか知らないが、ずいぶんと有名な学校だそうじゃないか。だったら、利用させてもらうとしよう。このカルロス・マルティン・フェルナンドの名前と、
荷物をある程度片付けて、明日の出発に備えた。時間に余裕はあるけれど、気持ちが揺らがないうちに家を出ないと。いつでも帰って来られるとはいえ、希望ヶ峰学園とここは近くない。出発するときは、ちゃんとお別れを言わなくちゃ。
今日は地元のみんなが私の壮行会を開いてくれている。旅立つ私を笑顔で送り出してくれるみんなに、私も笑顔で応えなくちゃ。よし、と自分に気合を入れてリビングのドアを開けた。
「つゆ姉ちゃん!希望ヶ峰学園入学おめでとー!」
ぱん、ぱん、ぱん、とクラッカーが鳴った。飛び出したテープと紙吹雪がはらはら落ちて来て、視界に垂れ下がる。一拍あいて、拍手喝采が起きた。音に驚いた私は、ぽかんと口を開けていた。
「おめでとーーー!!」
「すごいぞ露子ちゃん!!よっ!陣高の希望の星!」
「つゆこおねーちゃんおめでとー!」
家族と親戚のみんな、それと近所の子供たちは来るって話を聞いてた。だけど、中学の友達や高校の先生、ボランティアクラブの人たちまで来てるなんて思わなかった。みんなが笑顔で、私のために集まってくれて、私の希望ヶ峰学園入学をお祝いしてくれた。頭の中で整理が付いてくると、今度は感情が激しく込み上げてきた。
「うっ……!」
「あっ!つゆこが泣いた!」
「びっくりした?つゆっちが希望ヶ峰行くっていうから、みんな連れてきたんだ!」
「みんな……!あ、ありがとう……!うれしいよ……!」
「露子ちゃんはいい子だからねえ。いつ希望ヶ峰学園にスカウトされてもおかしくないと私は思ってたよ」
「電話で聞いたとき一番びっくりしてたくせによく言いますよ」
「あはっ……あははっ……!」
笑顔でって決めてたのに、こんなのズルいよ……!私がこんなにみんなに想われてたなんて、今更気付いた。これじゃあますます、希望ヶ峰学園で頑張らなくちゃ。
「なんだかこっちまで鼻が高いな」
「でもな露子ちゃあん!希望ヶ峰学園はすごいけどなあ!それで満足しちゃいかんぞぅ!入学してから何をするかってのが大事でぇ!油断してたらすぐに───」
「はいはい。お父さんはあっちで飲んでて」
「うふふ……ありがとうございます、叔父さん。頑張りますね……」
「でもこれで、もしかしたら資格取れるようになるかも知れないわね」
「そうね。希望ヶ峰学園できちんと成果を残して、卒業したら……!本当になれるかも知れない……!」
希望ヶ峰学園にスカウトされたとはいえ、今の私はただの高校生。だけど、学園を卒業したという経歴があれば、認められるかも知れない。そうしたら、絶対になってみせるわ……!
本物の、サンタクロースに!
あなたを 超高校級のサンタクロース として
希望ヶ峰学園への入学が決定したことを
お知らせ致します。
8月吉日
学校法人 希望ヶ峰学園学園長
その日、拙僧はハガ師匠に呼び出されていました。お堂の中でハガ師匠は座布団に腰を下ろし、拙僧は堅い板張りの上で正座していました。弟弟子が淹れた渋いお茶をあおってから、ハガ師匠は拙僧に封筒を差し出されました。
「これは?」
「希望ヶ峰学園からの入学通知だ」
「希望ヶ峰学園……へえ、師匠、高校生になるんですか」
「そんなわけあるか。お前に来とるんじゃ」
「拙僧に?しかし、拙僧は既に高校に通っておりますが」
「ここは“才能”溢れる高校生をスカウトして運営している、まあ、おかしな学校だ」
そういえばそんな話がありましたね。将来有望な“超高校級”の生徒を集めた学校があると。その入学通知ということは、拙僧はこれからそこに通うことになるのですか。
あなたを 超高校級のシャーマン として
希望ヶ峰学園への入学が決定したことを
お知らせ致します。
8月吉日
学校法人 希望ヶ峰学園学園長
「なるほど、つまりは転校ですね」
「うむ。お前にとっても悪い話ではないから、これも経験のひとつとして行くべきだとは思う。だが、なあ……」
「何かご心配事でも?」
「希望ヶ峰学園はここから些か遠い。これまでのように学校と修行を両立させるのが難しくなる」
なるほど。この封筒の送り元の住所は、ここから電車をいくつも乗り継いで行かないといけない場所でした。頭の中に日本地図を思い浮かべて、その遠さをなんとなくイメージします。
「さすがにこれは通えませんね」
「そうだ。お前が優秀なのはこの紙が証明しているが、修行を止めるわけには……」
「何を仰る師匠!拙僧は生まれた時から師匠の修行に耐えて来て、師匠をお慕いしています!場所が変わろうと修行をやめるわけがないでしょう!」
師匠の心配も尤もですが、こんなことは願って訪れるチャンスではありません。拙僧はずっと師匠の修行に耐えて来て、もう1週間の修行のローテーションだって頭に入っています。拙僧のこの熱意を必死に説き、なんとか師匠に分かってもらえました。
「では、3日後に出発としよう。荷物をまとめておきなさい」
「はい。師匠、今までお世話になりました。失礼いたします」
恭しく礼をして、拙僧はお堂を後にしました。そして、兄弟子殿らが待つ修行場へ行く。と見せかけて道を外れ、藪の中に分け入っていきました。辺りに人がいないことを確認して、希望ヶ峰学園からの手紙をもう一度読みました。
「……い、
いよっしゃああああああああああっ!!!」
希望ヶ峰学園!!人里!!否!都会!!大都会!!拙僧の人生大逆転勝利キタァーーーッ!!
「美味しいご飯がお腹いっぱい食べられて愉快な娯楽が山ほどあって人がたくさんいる華の大都会!!ポチャポチャお風呂にあったかい布団で眠れるコン世の楽園!!修行なんか
なっはっはっは!!こりゃ笑いが止まりませんなーーー!!いい感じィィーーー!!
「炒飯両、拉麺餃子セット一个!」
「あいヨー!」
店中に聞こえるマイクの声に合わせて、厨房から元気よく返事。次々入るオーダー通りにどんどん焼いてどんどん運ぶ。鉄鍋をガンガン叩く音、お皿がカチャカチャ鳴る音、お客さんの声とスタッフの声が飛び交う、ここはまさに戦場と言っても過言じゃないネ。
「萌ちゃんこれカウンター7番!おあとテーブル11番!」
「
盛り付け終わったお皿がフリスビーみたいに飛び出したら、ワタシがキャッチして持ってく。ちょっと偏っても気にしないネ。戦場ではそんなこと気にしちゃダメネ。そんなやつは死んじゃうヨ。
お昼ご飯の時間が過ぎてもお店はまだまだ大繁盛。スーツのお客さんが大学生やおばちゃんと入れ替わって、もう少ししたらちょっと落ち着いてきた。でもワタシたちはまだ休憩じゃないヨ。夜の分の仕込みしとかないと、後で泣くのは自分たちネ。
「萌ちゃん、こんなときでもお店助けてくれてありがとうね。明日から希望ヶ峰学園なんだろ?準備はできてるのかい?」
「
あなたを 超高校級のスナイパー として
希望ヶ峰学園への入学が決定したことを
お知らせ致します。
8月吉日
学校法人 希望ヶ峰学園学園長
「年頃の女の子なんだから色々必要じゃないの?うちの子も色々必要だって言ってたけど、余り物でよかったら持って来てあげるわよ」
「
「萌ちゃんはうちの看板娘だったのになあ。俺の腕じゃあ、萌ちゃんがいてようやくまともに客が集まるってのに」
「そんなことないヨ!ワタシ英英の餃子も拉麺も大好きネ!」
「おっ!そんじゃあ今日のまかないは、萌ちゃんのためにうちの秘蔵の食材出してやろうかな!」
「そんなことして、マネージャーに怒られても知らないよ」
「いいんだよそんなこた。よっしゃ萌ちゃん!俺からの餞別だ!なんでも好きなもの言いな!」
「
バイトしてるお店のみんな、ワタシに優しくしてくれるネ。ワタシもみんなのこと大好きだけど、悲しいけどお別れネ。だって、ここでバイトしてるより、希望ヶ峰学園に行った方が、いっぱいいっぱいい〜〜〜っぱいお金稼げるヨ。入学するだけで、ワタシの家族みんな3ヶ月はお腹いっぱい食べられるくらいのお金が貰えるネ。それに、在学中も卒業してからも、希望ヶ峰学園の生徒っていうだけでたくさんボーナス付くネ。
「ワタシ、みんなのこと忘れないヨ。希望ヶ峰学園でいっぱいお金稼いで、卒業したらまたここに戻ってくるネ」
「なーに言ってんの!希望ヶ峰学園卒業したんなら、うちよりもっと稼ぎのいい仕事たくさんあるわよ!むしろたくさん稼いで、うちでたくさん食べて頂戴!」
「うん、じゃあそうするヨ!」
カプセルの中にいた。いつの間にか目を閉じて眠っていたらしい。青白い照明の中で、下着姿になった自分に気付く。寝慣れない場所のはずなのに、なぜか体は軽く頭の中がスッキリしている。アラームのような機械音がしたかと思うと、空気が漏れ出す音とともに、天井が開いた。
「気分はどうですか」
覗き込んできたのは、波のようにうねる髪の男性だった。眼鏡の奥の瞳は暗く、気遣うような言葉もどこか無愛想だ。カプセルがゆっくり起き上がって、その男性と向かい合う形になる。ほぼ垂直になったカプセルから、自然と足が前に出て歩み出た。
「どこも異状はなさそうですね。著しい疲労があったくらいで、赤郷さんと一緒に行動してほぼ無傷とは、“超高校級の幸運”ですか、君は」
手に持った書類をめくりながら、その男がつむじからつま先までじろじろ見つめる。まるでヘビのように、視線が体にまとわりつく感じだ。居心地の悪さを感じていると、部屋のドアが開いてまた男が入ってきた。
人を目で舐め回しているこの男とは対象的に、健康的に日焼けした肌を惜しげもなく晒し、首から赤いタオルをかけた快活な男だった。一緒にこの施設に突撃して生き残った、あの特攻隊長だった。どうやら彼は、同じようにカプセルの中で回復した後、シャワーを浴びてきたらしい。
「おう!出て来やがったか!さすがは“超高校級”だ!こんくらいでいつまでも寝てられねえやな!」
「声がデカいです。なぜ上裸なんですか」
「服が見つからねえんだよ。どこだ」
「知りませんよ。バカのひとつ覚えみたいに、なんでもかんでも俺に聞けばなんとかなると思わないでください。バカ郷さん」
「なんだよ。自分はそいつに興味津々で現場離れてるくせによ、アホ宮め」
二人は互いには通じているのだろう罵倒を交わした。そこには、相手を罵る以上の意味が含まれているようだった。ヘビのような男は振り返ってから、手元の書類に目を落とした。
「さて、二人に良いニュースと悪いニュース、そしてクソ・ザ・ファックなニュースがあります。では良いニュースから」
「選ばせる時の言い方だろそれ!」
「この支部は我々が制圧しました。作戦成功、ご苦労様です」
「当然だ。伊達に“超高校級の尖兵”やってねえよ」
「
失敗、男の言葉が頭の中で反響する。この計画に参加する前に、作戦全体の動きは聞いていた。あちら側が失敗したということは、
「最後にクソ・ザ・ファックニュースです。コロシアイは止められません」
「……はあっ!?」
ヘビのような男は、こともなげにそう言った。コロシアイは止められない、それが何を意味しているのか理解するのを脳が躊躇する。それは今回の作戦の目的の全てだ。この突入作戦と、失敗した回収作戦は、どちらもコロシアイを止めるために必要なものだったはずだ。
「厳密には、止められる可能性は残されています。システムにかかったプロテクトを解除すれば、コロシアイは止められます」
「だったらそうしろよ!お前“超高校級のエンジニア”だろ!」
「
戦場に身を投じて、死ぬような思いをして、得られたものは残酷な現実だけだった。そんなものがこの世界なのか?この世界はそんなにも理不尽で、残酷なのか?この想いはそんなにも、遂げがたいものなのか?
「報告は以上です。ま、期待するのは自由です。可能性が存在するのであれば、ベストは尽くします。ただ、理解しておいてください。彼らの命を救うことは、絶望的だと」
希望のために戦うその男は、冷たく言い放った。
ハーメルンは特殊タグが充実しているので、今回はあれこれ試してみました。アホな時にはとことんアホにできるので楽しいですね。
特殊タグ使いで言えば、同じ創作論破の『エクストラダンガンロンパ』が顕著ですね。めんどくさいけど勉強していかないといけないですね。