ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

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(非)日常編3

 

 「むにゃ……」

 「風海ちゃーーーん!!寝ちゃダメ!!寝たら校則違反になっちゃうから!!」

 「こんなポップに命の危機が訪れるなんて」

 

 絶叫する甲斐さんに肩を叩かれて、宿楽さんは動物みたいな声を出した。電子サングラスに表示された眠たそうな顔文字そっくりな、口から気持ちよさそうによだれを垂らした寝入り顔は、寸前までモノクマの魔の手が及んでいたことなど全く想像つかせない様相だった。

 

 「っぶね……わ、わたしいきてる……?」

 「びっくりしたあ……油断しないでよね。っていうか風海ちゃんが言い出したことなんだよ?」

 「まあまあ、仕方ないよ。お腹もいっぱいになって、難しいことを考えてると人は眠たくなっちゃうものなんだから。シエスタシエスタ」

 「するなら部屋でして——いや、モノクマが変な校則決めるのが悪いんだ。変えさせよう。モノクマ!」

 「もうそんな感じで呼び出せるんだ」

 「どったの奉チャン?」

 「うわ出た。そして私の呼び方真似してる」

 「あなたに下の名前で呼ばれたくない。校則に文句があるから直して!」

 「え〜?今までボク、いろんな人からいろんな扱いを受けてきたよ。可愛がられたりもしたし、逆に嫌われて邪険にされたりもしたよ。校則を追加しろとか特例を認めろって言う人もいたなあ。みんないなくなっちゃったけどね!でも校則を変えろってのは初めて言われたなあ」

 「初めてでもなんでも、うたた寝もできないなんてあんまりだよ!風海ちゃんじゃなくたって、うっかり破っちゃうかも知れないじゃん!」

 「奉ちゃん奉ちゃん、私そんなに居眠りばっかこいてない」

 

 甲斐さんの呼びかけに応じて、モノクマはシアターホールの一席からひょっこり現れた。そして困ったようにもじもじしながら、甲斐さんと宿楽さんの話を受け流している。これはどうやら言っても無駄な感じっぽいね。

 

 「校則にルールがあるなら別の校則で補うんだね。合衆国憲法とおんなじです」

 「知らないよ合衆国憲法のルール」

 「居眠りぐらいいいだろって?バーロー!オマエラが過ごしてるこの時は一分一秒、一マイクロ秒が貴重なんだぞ!ありえない奇跡なんだぞ!居眠りなんかぶっこいて無駄に過ごしていい軽いもんじゃないんだよ!ボカァそういう熱い気持ちをもってオマエラが学園生活を謳歌できるようにだね——」

 「その手垢のついたお説教の方が時間の無駄だよ!だいたいあんたに説教される筋合いなんてない!」

 「そーだそーだ奉ちゃん!言ったれ言ったれ!」

 「言ってるよ!風海ちゃんのために!」

 

 またモノクマに煽られて話を別の方へ別の方へと誘導されて……今は、ようやくシアターホールで見つけた新しい謎のことを話していたのに。考えている途中で宿楽さんが寝そうになったところから話が逸れに逸れて、なんだろ今の話。

 

 「まあでも、校則をきちんと理解してるのは偉いね。甲斐サンはさすがです」

 「褒められても嬉しくもなんともないよ」

 「世の中の決め事には何かしら意味があるからね!一見無駄で無用に見えても、実は大切な教えが含まれていることもあるのです!よ〜く確認しておくといいことがあるかもね!」

 「あっ!こら!まだ話は——!」

 「さようなら〜!」

 

 モノクマは一方的に話を打ち切って、そのままシアターホールから出て行ってしまった。

 

 「仕方ないよ甲斐さん。校則はモノクマさえも従わなくちゃいけない大事なルールだ。恣意的に変えられちゃ何が起きるか分からない。自分の命を守るためにも、あまり深入りしない方がいいよ。それより、目の前の謎を解いた方がいい」

 「うん、私もそう思う。ごめんね奉ちゃん。私のために」

 「2人がそう言うなら……」

 

 義憤で実際に行動を起こせるのは甲斐さんのいいところだけど、危なっかしいところでもある。少し前までの落ち込んでいた彼女ならそうそう危険なことはしなかっただろうに、今はどこか吹っ切れて勇み足になってしまいそうだ。もしものとき、ぼくは彼女の後ろをついていけない。宿楽さんみたいな人が近くにいてくれるのが、甲斐さんにとっても良いことなんだろう。

 ぼくたちが今何をしていたかというと、新しい謎を探して新しく開放されたシアターホールを探索していたところ、舞台裏にしまってあった書き割りの裏に、何やら意味深な図や記号が描かれているのを発見し、それを解読しようとしていたところだ。その途中で、宿楽さんは疲れて居眠りしかけたということだ。

 

 「順番なんて分からないよ。番号が振ってあるわけでもないのに」

 「でもこれ、明らかに何かの手順を示してるよ。どこかにヒントがあるはずだ」

 「宿楽さん、脱出者的にはどう思う?」

 「脱出者的にはねえ……この手の順番は普通に数字で書かれてることが多いよ。訳わかんない法則なんだったら、もっと露骨なヒントがあるはず。だから……どこかに数字が書いてあると思うんだけど……書き割りなんだったら表側とか?」

 

 舞台の上に書き割りを並べて、絵の繋がりで並べ替えられないかを確かめてみる。だけど書き割りは色んな場面を演出するために、全てに共通するものは特に描かれていない。これのどこかに共通点を見つけなければいけないんだけど、さて……。

 

 「ん〜?もしかしてだけど、ここかな?」

 

 ぼや〜っと全体を眺めていても数字は見えてこない。微細な色相の変化や筆致の違いに注目してみるけれど、それらしい手がかりは得られない。それなのに、宿楽さんは少し眺めただけで、一枚の書き割りに近づいて、隅の方を指でなぞった。

 

 「これ、数字の4っぽくない?」

 

 まだら模様が描かれた背景のほんの一部、サイケデリックな色の模様に囲まれて、細長く引き伸ばされて歪んだ数字の4らしい形が描かれていた。細部に注目しすぎて広い視点を持つことを忘れていた。

 

 「ほんとだ!え、こんな感じで数字が紛れてんの?」

 「たぶん。こういうのを探せば書き割りを並べる順番がわかると思う」

 「アラビア数字とも限らないよ。ローマ数字や漢数字で紛れてる可能性もある」

 「とにかく探してみよう!方法さえ分かれば私も手伝える!」

 

 この手の謎解きはぼくの領分だと思ってたのに、宿楽さんがその隣をあっさり追い抜いていくのを目の当たりにすると、なんだか少しだけ悔しい気持ちになった。取り返してやろうと思っても、ぼくと宿楽さんじゃ機動力に差がありすぎる。ぼくが1枚見る間に、宿楽さんと甲斐さんが残りの全部を見てしまえた。

 その後、書き割りを並べ直すのにもぼくは力になれない。ちょっと支えておくくらいのことしかできない。こりゃ近いうちにお役御免かな。

 

 「また不謹慎なこと考えてるでしょ」

 「あ、バレた?」

 「不謹慎なのは100歩譲っていいとして、湖藤さんの不謹慎な自虐って笑えないからなあ」

 「笑ってくれていいんだよ」

 「自分で言って笑うのと私たちが笑うのとじゃ意味が変わってくるんだよ」

 

 なあんだ。あんまりみんなに笑ってもらえないのは、伝わってないからじゃなくて遠慮させちゃってるからなんだ。ぼくはこの体も個性だと思ってるから、そんなに気を遣ってくれなくてもいいんだけどな。そんなことを口にしたら、また甲斐さんに怒られちゃうだろうな。

 甲斐さんと宿楽さんの活躍によって、書き割りはようやく正しい順番で一列に並べられた。その後ろに書かれた図表は、隣り合う図表と繋がってひとつの大きな意味を成した

 

 「なんだろ、これ」

 「果物だよね?それから……矢印と数字だ」

 「果物……そういえば、2つ目の謎にも果物が描いてあったよ!あれと関係あるかも!」

 「おっ、さすが脱出者。既にある謎との組み合わせで意味が変わる系は鉄板だよね」

 「鉄板なんだ。だとするとどういう意味になるのかな」

 「分からん!」

 「分からないんだあ」

 「そもそも2つ目の謎の意味も分かってないんだから。1つ目も3つ目もだけど」

 「3つ目のやつは湖藤君と尾田君は分かってる感じじゃなかった?」

 「うん。でも教えてあげない」

 「なんでさ!」

 「謎って自分で解いてこそだと思わない?」

 「確かに!」

 「20文字以内で説得されちゃった」

 

 まあ、宿楽さんが本当に“超高校級の脱出者”と呼ばれる謎解きのプロなんだったら、いつかその答えにも辿り着くだろう。それが本当に意味するところはまだぼくにも分からないけど、滅多なことにならなければそれでいい。それにしても、謎の答えも含めて考えると、やっぱりこの謎はモノクマが用意しているものだと考えていい。じゃあ、この正体は……。

 

 「取りあえず写真に撮っとこ。解くのは後でもできるし」

 「はあ、ちょっと疲れちゃった。思ったよりも動くことになっちゃったし」

 「お昼ご飯にしない?ちょっと早いけど、いいでしょ」

 「それじゃあ、二人ともちゃんと書き割りを片付けないとだね。がんばって」

 「ぐえ〜〜〜!片付けのこと考えてなかった!」

 

 書き割りの図表を宿楽さんが写真に収め、並べたものを舞台裏の倉庫に甲斐さんと宿楽さんが頑張って戻した。ぼくはというと、通り道になるカーテンを持って開けておく係をしておいた。隣で見てるだけじゃ甲斐さんに怒られ——もとい、退屈だからね。

 


 

 ふむ、食糧庫のないからどこに置いてあるのかと思えば、こんなところに。モノクマは一体何を考えて敢えてこんな場所に……。

 

 「——ッ!何をしている!」

 

 なるほど。こういう展開のためですね。納得しました。

 背後から聞こえてきた毛利さんの声に、なるべく相手を刺激しないようゆっくりと振り向き、極めて穏やかに見えるように努めた微笑みを向ける。

 

 「お前が薬品庫にいったい何の用だというんだ、庵野。しかもそこは強い薬の陳列棚だ。馬鹿なことを考えるものじゃないぞ」

 「落ち着いてください、毛利さん。手前は別に何か怪しいことをしにきたのではありません」

 「なら、その手に持っているものはなんだ」

 

 毛利さんが指差した、自分の右手を見て、手前は素直に回答します。

 

 「プロテインです」

 「……ん?」

 「タンパク質の粉末です」

 「言葉の意味はわかる。なぜそんなものを持っているんだ」

 「なぜと言われても……飲むためですが」

 「用法もわかっている!なぜ薬品庫にプロテインを持ってきていると聞いている!」

 「いえ、これはここに陳列されていたものです」

 「なぜだ!」

 「それは……モノクマの気まぐれといったところでしょうか」

 「気まぐれにもほどがある!」

 

 それを手前に言われても、と言いかけましたが、敢えて言いませんでした。モノクマが理解不能なことは仕方のないことです。

 

 「手前は日々トレーニングを欠かさず行っていまして、トレーニング後のプロテインが切れたので取りにきただけです。お騒がせしました」

 「それでその体か……聖職者らしからぬ体だとは思ったが」

 「深き『愛』を己の体に宿すには、強靭な肉体が欠かせませんので。やわな体では『愛』を受け止めきれません」

 「お前のとこの教義で言う『愛』とはいったい……?いや、別に興味はない。すまんが、私は神を信じない」

 「いえ、手前こそ失礼。神に代わる信ずるものがあるのは結構なことです」

 

 ただプロテインを取りにきただけで、危うく毛利さんと一触即発の雰囲気になるところでした。こんな地下の目立たない場所では、冷静さも失われかねないというものです。

 

 「ところで、つかぬことを伺いますが、毛利さんはいったいこんなところに何の御用で?」

 「いや……少し、手持ち無沙汰でな。倉庫に手頃なもふ——ブランケットでもないかと」

 「顔色が優れないようですね?寝れていますか?」

 「……正直、このところあまりな」

 「手前で良ければお話を聞きます。いかがです?まさに聖職者たる行いだとは思いませんか?」

 「確かに。お前の筋肉を見ているより、多少はお前の教義に触れられそうだ」

 

 薬品庫にあった適当な丸椅子を持ってきて、毛利さんをそこに座らせ、手前も同様に丸椅子に腰掛けました。カウンセリングはまだ認められたものはありませんが、少なくとも目の前で困っている方を放り出すよりは真っ当な行いでしょう。

 

 「整理してお話いただく必要はありません。毛利さんが思うままにお話ください」

 「そうか……こうして面と向かって話そうと思うと、なかなか難しいものだな……」

 「寝られていない原因はお分かりですか?」

 「……あまり分かっていない。実家で私の帰りを待っているペットと戯れられないことがストレスになっているのだと思う。だが、それ以上に……狭山のことを後悔しているんだと思う」

 「ほう」

 

 ペットと戯れられていないのは、確かに大きなストレスでしょう。毛利さんの才能を考えても、そのペットたちはきっと毛利さんにとって単なるペット以上に心の支えになっていたことでしょう。しかし、おそらく目の下にできたクマの原因は、後者なのでしょう。

 

 「奴が岩鈴に殺される直前まで……私は狭山と一緒にいた。奴は陽面や理刈を洗脳し、月浦も抱き込もうとしたが、私に対してだけは洗脳する素振りも見せなかった。ここに来たときから私は奴の毛繕いを頻繁にしていたから、親しくしていたつもりだ。洗脳の必要もないと思われていたのか、奴なりに私に気を遣っていたのか、その真意はもう分からない。

 いや、そんなことじゃない。そんなことは重要じゃない。私は後悔しているんだ。奴を止められなかったことを……奴が暴走していくのを目の当たりにしておきながら、何もできなかった。いつか誰かが危険な目に遭うことを予感しておきながら、狭山を止めるべきだと分かっていながら、止められなかった。その理由が分からない。だから……後悔している。なぜ私はあのとき、狭山を止められなかったのか……」

 「なるほど。確かに、手前を部屋に閉じ込めたあたりから、彼女の行動は常軌を逸し始めていましたね。手前はてっきり、毛利さんも狭山さんに少なからずマインドコントロールをされていたものかと思っていました。その可能性はありませんか?」

 「……分からない。自分で分かるものなのか?」

 「いいえ。狭山さんほどの方が、かけられている人が自覚して脱却できるような、中途半端なものはしないでしょう。己を客観的かつ批判的に見つめることこそが脱却の第一歩です」

 「狭山は既に死んでいる。それなのに、私はまだ脱却できていないのだろうか?奴の支配から……」

 「どうでしょう。狭山さんが本当に毛利さんを操ろうとしていたのか。その結果、あなたがどう変わったのか。手前にはそれを知る術がありません」

 「そうか……」

 「ですが、ひとつ伺います。毛利さんは、次に誰か……たとえば手前が、誰かの心を操って支配をしようとしたら、どうしますか?」

 「……それは、止めるだろうな。今度こそ」

 「そうでしょう。その意味で、狭山さんは確実に毛利さんを変えました。それが善の変化か、悪の変化か、それを決めるのは毛利さんです」

 

 いけませんね。手前のカウンセリングは考えることを毛利さんに委ねすぎています。もちろん、最終的には毛利さんがご自分を救うように導くのですから、考えてもらうことも必要なのですが、手前が伝えられるのは気休めのような温かい言葉ばかりです。このままでは、毛利さんはますます夜眠れなくなってしまいそうです。これだけのヒントで解決するような方は初めから悩んだりしないのです。

 毛利さんは椅子から立ち上がり、普段の凍りついたような無表情から少しだけ熱を帯びたような表情に変わって、手前の手を握った。

 

 「庵野。ありがとう。少しだけ……と言ってはなんだが、考えが整理されたような気がする。疑問の答えはまだ出ないが、くよくよ悩む必要はないと分かった。お前の言う通り、前を向かなければな」

 「お、おお……そうですか。それは結構なことです」

 

 殊の外、毛利さんは手前の拙いカウンセリングを好意的に解釈いただいたようです。なんというか、ほっとしました。

 

 「ああ、眠りたいのならこのモノクマ特製睡眠薬などオススメですが、どうでしょう」

 「化学的なアドバイスもするんだな。そんなオセロのコマみたいな薬は飲む気がしないから結構だ」

 


 

 「う〜い、おい理刈。お酌しろお酌。どうせ暇してんだろ?」

 「暇じゃないわ。私は忙しいの」

 「忙しいって何を急ぐ必要があるんでェ。そんなでけェ本なんか抱えてよう」

 「王村さんには関係ないわ。それに、お酒を飲むのは勝手だけど、20歳未満にお酌をさせるのはパワハラに該当する可能性があるわよ」

 「頼んでるだけだろォ!?ったく流行りもんみてェになんでもかんでもハラスメントハラスメントつってよォ……」

 

 静かに勉強できる場所を探して本館の中央ホールまで本を運んできたっていうのに、なぜかそんなところで王村さんがお酒を飲んでいた。もう彼にお酒を止めさせるのは諦めたけれど、周りに迷惑だけはかけないでほしいわ。

 分厚い参考書をテーブルにどっかと置いて、目次を開いた。こういうのは私の専門じゃないからどこまで調べればいいのか分からないけれど……でも、ヒントがあるだけまだマシだわ。

 

 「ん〜?おめェ、法律家だよな?」

 「そうよ。ただの法律家。何の資格も持ってない、ロースクールにすら通ってない、ただの法律オタクよ」

 「いやそこまで言うつもりはねェけどよ……おいらァちょっと飲み過ぎか?法律家のおめェが法律の本持ってんのは分かんだけど、心理学とか物理学とか薬学とか……おめェ本を間違えてんぞ」

 「間違えてないわ。これで合ってる」

 「人間百科事典にでもなるつもりかよ?」

 「うるさいわね。勉強してるんだから黙っててちょうだい。王村さんには関係ないって言ったでしょ」

 「気になるなァ」

 

 どれもこれも数百ページじゃきかない分厚い本ばかりだけど、知識はあればあるだけいい。私は法律以外のことは何も知らないんだから、これくらい勉強しないと何もできない。

 

 「いやしかしすげェ量だ……おめェひとりでよく運んだもんだ……おっと」

 「あっ!ちょっと!邪魔しないで!」

 「あン?」

 

 ばささ、と音がしてテーブルの隅に置いておいた本が落ちた。王村さんが周りでちょろちょろするからだわ。本当に、年長者ならもっと落ち着きがあっていいと思うの。まるで子供だわ。お酒ばっか飲んで人の邪魔ばかりする嫌な子供。

 落ちた本を私はすぐに拾いあげて、貼り付けた付箋がずれてないか確認して閉じた。それは積み上げた本の一番下に戻して、また勉強の続きに戻る。

 

 「……なァ、理刈。おめェ滅多なこと考えるもんじゃねェぞ」

 「なによ、滅多なことって」

 「いま落ちた本。生前整理の本だったろ。さすがにおいらでもそれくらい分かるぞ」

 「……だったらなによ。法律家なんだから、それくらいの勉強するでしょ」

 「じゃあなんで遺書のページに付箋してんだよ」

 

 ……。やっぱり、王村さんは邪魔だわ。偶然とはいえ、こんな形で疑われるなんて。

 

 「今はまだ話したくないわ。私は……王村さんのことを100%信用してるわけじゃないから」

 「なんでェそりゃ。おいらァそこまで頼りねェ大人か?」

 「頼りないわよ。自覚ないの?王村さんを頼るくらいだったら自分でなんとかするわ。というかなんとかできるわ」

 「さすがにひどくね!?おいらだってやれることくらいあんぞ!」

 「でも、王村さんが考えてるようなことにはならないわ。私はただ、もしものときに備えておきたいだけ」

 「もしも?」

 「自分がいつ被害者になるか分からない……月浦さんみたいな人が現れた以上、ますますその危険は高まっているわ。だから、いざというときのために自分の身の回りの整理はしておきたいってだけ。いつか誰かがモノクマに打ち勝ってここから脱出できたとき……その人に苦労かけたくないもの」

 

 話したくない、と言いつつ、これじゃあほぼ話してるようなものだわ。私は、自分の命を無駄に捨てるようなことはしたくない。最後の瞬間に自分の人生には意味があったんだと胸を張りたい。だから、逃げるような自殺なんてしないわ。だけど、私の意思なんて関係なく、その瞬間は突然訪れるかもしれない。自分では予想がつかない。だから、念には念を入れておきたい。半分、職業病みたいなものね。

 

 「馬鹿野郎!考えるんだったら自分が出た時のこと考えるもんだろ!若ェもんが死ぬ前提でものを考えるんじゃねェ!」

 「そんな前提おいてないわよ。いらなくなったら破っちゃえばいいんだし。最後の瞬間に後悔だけはしたくないの。それだけよ。そもそもそれは校則で禁止されてるのよ」

 「……な〜んか怪しいんだよなァ。おめェ、ここに来てからずっと空回りしてて、吹っ切れたら吹っ切れたで妙なことし出すしよ」

 「じろじろ見ないで。セクハラで訴えるわよ」

 「へーんだ!どこに訴えるってんだ!ここにゃァ警察も裁判所もねェぞ!」

 「ダメクマ!このセクハラオヤジをなんとかして!」

 「よ、呼ばれて飛び出てじゃんじゃかじゃーーーん!ダメクマ登場だよ〜!」

 「おげェッ!?」

 

 個人的な用事でも呼び出しにすぐ応じるのはいいことだわ。ダメクマは飛び出ると同時に王村さんの下半身にタックルをかまして、王村さんは手に持ったグラスのお酒を被って悶絶した。具体的に何があったかは知りたくもない。

 

 「ス、スマート家電みたいに出てきやがって……!」

 「ダメだよ王村クン。理刈サンの邪魔したら」

 「なんだとぉ……おめェいつから理刈の手下になりやがったんでェ。モノクマの手下だろ」

 「別に手下ってわけじゃ……。でも、理刈サンは責任感がある人だから、滅多なことなんてしないんだよ。ね、理刈サン」

 「あなたが私の何を知っているっていうのよ。分かったような口をきかないで」

 「しょん……」

 「ダメじゃねェか」

 

 王村さんをなんとかしてもらうためにダメクマを呼んだのに、うるさいのが2人に増えたら意味ないじゃない。キッとダメクマを睨みつけると、私の意図を察したのか、ダメクマは王村サンの袖を引っ張った。

 

 「な、なんでェなんでェ!」

 「あっち行ってお酒でも飲んでてよ。理刈サンは大事な勉強をしてるんだ」

 「おめェだって理刈のこと何も分かってねェんだろ!」

 「少なくとも、理刈サンはこの状況を打開しようと行動してる。ボクは、それが邪魔されるようなことがあっちゃいけないと思うんだ」

 「……ずいぶん理刈のことを買ってるじゃねェか。っていうか、おめェはモノクマ側だろ?理刈がコロシアイをなんとかしようとしてるんなら、むしろおめェは邪魔する立場じゃねェのか」

 「ボクは別に……いや、そう、いうわけじゃ……」

 「なんでェ、歯切れの悪ィヤツだな」

 

 前から気になってはいたけれど特に考えることのなかったこと。それは、ダメクマはモノクマとどういう関係性だ。あるときから突然、モノクマが自分の手下と紹介して現れたダメクマ。だけどモノクマには蹴られたり踏みつけられたり投げ飛ばされたり、とにかく扱いが雑だ。ダメクマもモノクマに従うというよりは、従わされているような、そんな雰囲気だ。

 そもそも初めのうち、ダメクマはモノクマの中に紛れてようとしていた。モノクマにバレないように私たちに接触しようと試みていたということは、モノクマの仲間ではないということ?ならいったい?

 

 「……」

 

 私には分からない。何も。これから何をすべきなのかも、何が正解なのかも。ただ、自分が正しいと信じることをするしか選択肢がない。私はただの法律家、決められたルールの中でしか答えを導けない。一切の常識が通用しないこの空間で、到底許されないルールが支配するこの空間で、私にできることなんて、このくらいだ。

 


 

 「きゃっ!」

 

 ガラスが割れる。こぼれた熱い茶が服にかかりそうになるのを、月浦が自分の腕で防ぐ。おかげで陽面は濡れなかったが、月浦は腕から湯気を出したままテーブルに広がった茶を拭き取った。反応速度も大したもんだが、それ以上に陽面のためなら自分の身を顧みないその態度が、こいつのヤバさを何よりも物語っている。

 

 「大丈夫かい、はぐ?」

 「うん。びっくりしたあ……いきなり割れるなんて、はぐ、もしかして魔法使いになっちゃったかも」

 「冷たいグラスに熱いお茶を注いだら割れちゃうんだ。気をつけないといけないよ」

 「どうして?」

 「はぐは寒い時どうする?」

 「ちぐにぎゅーってしてあったかくする!」

 

 なんだそりゃ。しょうもね。

 

 「そうだね」

 

 そうなのかよ。

 

 「グラスも一緒で、冷たいときはぎゅっと小さくなるんだよ。じゃあ、僕とはぐがくっついてるときにいきなり暑くなったらどうなると思う?」

 「びっくりして飛び上がると思う!あと服もバタバタして涼しくしたくなると思う!」

 

 普通に脱げよ。

 

 「だよね。寒いとこにいきなり熱いものが入るとびっくりするし、逆のことをしたくなるんだ。グラスもそうで、びっくりして割れちゃうんだよ」

 「そうなんだ……なんだか、かわいそうになってきちゃった」

 「はぐは優しいね。それに、僕の話をちゃんと最後まで聞けて偉いよ」

 

 月浦は絶対に陽面を否定しない。否定しないどころか、グラスを割ったことを棚に上げて誉めやがった。甘いどころの話じゃねえ。こいつらずっとこうなのか?今まで気にしてなかっただけで、ずっとこんな調子でいたのか?

 

 「なに見てるんだよ」

 「ロイさんも一緒におやつ食べる〜?」

 「そこの意思は統一されてねえのか。別に見たくて見てたわけじゃねえよ。お前らがオレの目の前でいちゃいちゃしてるだけだろ」

 「誰がいちゃいちゃだ!はぐの前でそんなふしだらな言葉を使うな!」

 「そんなにふしだらかね?」

 「ふしだらってなーに?」

 「棒鱈みたいなものだよ」

 「ふーん。食べてみたいなあ」

 

 雑すぎんだろ。

 

 「なあ、前から気になってたんだけど、月浦にとって陽面ってなんなんだ?あんなことまでしといて……ってか逆にあれから吹っ切れたみたいにベタベタしてっけど、付き合ってるわけじゃねえんだろ?」

 「お前みたいな奴に話すことなんてない。余計な詮索をしたり不確かなことを言いふらすのは自分のためにならないぞ」

 「シャレにならねえんだよなあ、脅しが。マジでなんでもやりかねねえからなこいつ……」

 「ちぐははぐのためだったらなんでもしてくれるんだよ!すごいでしょ!」

 「陽面はどうなんだよ?月浦のことどう思ってんだよ?」

 「んにゃ?ちぐのことは大好きだよ!ロイさんも、ちぐほどじゃないけどキレイな絵を描いてくれるから好きだよ!」

 「……そりゃどーも」

 

 この無邪気さと月浦の行動を肯定するイカれ具合が同時に成立してるってのが、オレには全く理解できねえ。どっちかって言うと月浦の方がまだ共感できる。自分が守ってやらなきゃって思う存在がいると、多少の無茶は気にならなくなるんだよな。こいつらはそのリミッターがどっちもぶっ壊れてるんだと思うが。

 そういえば、裁判のときに月浦がなんか言ってたな。谷倉は陽面の秘密を知った可能性があるから消されたって。月浦は、誰にも知られたくない陽面の秘密を知って消されずにいるんだよな。その秘密ってのが、こいつらをおかしくしてる原因なんだろうか。オレは死んでる場合じゃねえから探るような真似はしねえが、何がきっかけで月浦に目をつけられるか分からねえ。迂闊なことはしねえに限るな。

 

 「おい」

 「あ?なんだよ」

 

 ぼんやり陽面を眺めてたら、月浦に声をかけられた。やっべ。

 

 「人が罪を犯す条件を知ってるか」

 「は?なんだよ急に」

 「動機・機会・正当化の3つだ」

 「それがなんだよ」

 「僕ははぐのためになることならなんだってする。それが僕の生きる動機だ。はぐのための行為は僕の中で全て正当化される。そして、機会なんていつだっていくらでも作れる。わかるな?」

 「……改めて言われるまでもねえ。余計なことはしねえよ」

 

 回りくどい脅しなんかしやがって。この前の件から、月浦はいつ何をしてもおかしくないってのはオレたちの共通認識だ。モノクマ以外にも、ともすればモノクマ以上に厄介な存在が隣にいるこっちの身にもなってみろってんだ。

 ったく。こんなとこでウダウダしてる場合じゃねえってのに。

 


 

 多目的ホールにはモノクマがいた。呼び出されたんだから、いるのは当然だ。なぜか複数のモノクマでダメクマをいじめてることを除けば、当たり前の光景だ。

 

 「うわーん!や、やめてよー!」

 「なんなんですか。動機を配るという話でしょう。さっさとしてください」

 「ダメクマちゃんかわいそう……こらー!やめなさーい!」

 「わーい逃げろー!」

 

 尾田君の冷たい言葉ではなく、陽面さんの優しい言葉に反応して、モノクマたちはバラバラと逃げ出した。なんだろうこのコント。ボロボロになったダメクマが起きあがろうとすると、ホールの舞台から荘厳な音楽とともに、羽衣を着たモノクマが現れた。

 

 「ダメなダメクマを助けてくれてありがとうございました。お礼にあなたたちにはこちらを差し上げましょう」

 「わあ!玉手箱だー!すごいすごい!」

 

 紫色のヒモで留められた黒の艶やかな箱を、モノクマが差し出した。忙しい人のための浦島太郎みたいな展開に、私たちはハテナマークを頭に生やすこともなく、ただただ冷たい目で陽面さんとのやり取りを眺めていた。

 

 「はい!陽面さんご協力ありがとー!というわけでオマエラ!動機の時間だよ!」

 「マジで時間の無駄だなおい」

 「だってオマエラ放っといたら全然コロシアイしないんだもん!月浦クンの存在が結構掻き回すかなと思ったら、陽面サンとずっとべったりしてて他の奴らは警戒して関わろうとしないし!そんなん見てて誰が面白いんだバカ!このバカ!」

 「筋合いがなさすぎてウケるアル」

 「というわけで、ボクはまたしても動機を用意してオマエラのモチベをあげることにしました。でも考えてみ?ボクだけに考えさせてないでオマエラもちょっとこっちの身になって考えてみ?もう4回目だよ動機。4回っつったらアレだよ。頑張らないと出てこない数だよ。ぱっと質問されて3つくらいまでは景気良く答えられても、4個目からってなかなか出にくかったりするじゃん。だから頑張らないといけないんだよ。オマエラはボクにそういう頑張りを強いてるんだよ。反省して?」

 「なにをネチネチと中身の薄いことを。そんなに嫌なら動機なんか用意しなけりゃいいだろ」

 「そういうわけにはいかないんだよ!強制的に犠牲者を出しても、大切な人たちの姿を見せても、好きな凶器を与えてもコロシアイしない消極的なオマエラがどうすればコロシアイをするか、必死なんだからな!でもボクはようやくその答えを見つけたのだ!どうだ!」

 「どうだと言われても……」

 

 えん、と胸を張ったモノクマに、私たちは冷たい視線を投げつける。勝手に拉致監禁して自分の都合ばかり押し付けてきて。モノクマがこれから何をしたところで、私たちは絶対に屈するわけにはいかない。そう固く決心している。

 ただ、その決心が悉く打ち砕かれてきたのも事実だ。モノクマの動機は、必ず私たちの中の誰かを確実に揺さぶりかけてくる。どんな動機が与えられるのか。それは誰に刺さるものなのか。どうすれば、顔の見えない誰かの凶行を止められるのか。モノクマとの戦いに、私たちは負けっぱなしだ。

 

 「結局、オマエラは全員名前のない怪ぶ——間違えた、エゴイストなわけだよ」

 「そこは間違えないでしょ……!?」

 「人のために犠牲になることを拒み。外に残してきた大切な人を切り捨て。凶器を手にするリスクを嫌う。自分の身が何よりも可愛くて、自分のことが何よりも優先で、自分の命を何よりも重視する。オマエラにとって世界は自分ひとりだけのもので、自分以外の誰かなんて路傍の石に過ぎないわけだ」

 「殺しも殺されもしなかっただけでしょうに、めちゃくちゃな言われようですね」

 「というわけで、ボクはきちんと用意しました!オマエラがどうあっても見過ごせない動機を!とくとご覧あれ!」

 「——ッ!はぐ!ごめん!」

 「へっ!?きゃあっ!」

 「ウワーーーッ!?」

 

 直感したのか、それともモノクマの視線の僅かな動きを察知したのか、月浦君は陽面さんの側に飛び寄って、手に持った玉手箱をはたき落とした。すぐにそれを蹴って距離を取り、陽面さんを玉手箱から引き離す。それとほぼ同時に玉手箱はもうもうと煙を吐き出し、ホール中を覆った。一気に白く変わった視界の奥で、ダメクマの悲鳴が聞こえる。

 

 「ゲホッ!ゲホッ!な、なんだあ……!?」

 

 煙だと思ったらただのミストだった。肌に触れた水の粒がベタついて気持ち悪いし、吸い込むとむせる。けどその分、すぐに視界は晴れた。

 

 「……???」

 

 視界は晴れたけど、晴れない疑問が増えた。私たちには一切の変化がなくて、変化があったのはダメクマだけだった。

 もともとボロボロだった肌生地がよりボロボロになって、どことなく色がくすんでいるような気がする。ところどころつぎはぎがされていて、たるんだ肌生地を引きずってヨボヨボ這い回っていた。何やってんだろ。

 

 「うう〜なんでこんな目に」

 「どんな目?」

 「どうだオマエラ!これがオマエラの姿だよ!」

 「全然意味が分からないんだけど……」

 「浦島太郎ってこと?」

 「はあ?」

 

 ガスマスクを放り捨ててモノクマが声高に叫ぶ。私たちが浦島太郎って……言葉の意味は分かるけど、文脈がないからモノクマが何を言いたいのかが分からない。

 

 「オマエラがこの希望ヶ峰学園にやってきてから……いつの間にか長い時間が経ってしまいましたね……。初々しいオマエラが学園の門を潜った日が数日前のことのように思い出されるよ……!」

 「え……数日前って……?いや、まだ2週間か……あ、あれ?1ヶ月、はまだ経ってない……くらいでしょ?」

 「そう、約2週間……3年と2週間ですね!」

 「……は?さ、さんねん……?」

 「……。は、ははは、なるほど。3年。3年か。3年も経ったらそりゃァ……そりゃおいらもうアラサーじゃねェかよ!!おいおいおい!!アラサーが高校の敷地入ったらそりゃもう事案だぞおい!!」

 「うるさい!!あとそこじゃないから!!」

 

 さらりとモノクマは言った。私たちがこの建物で過ごした正確な時間を。ここで3年もの時間が過ぎていたということを。そんな、にわかには信じがたいことを。だって……3年なんて。

 

 「きみのことだから、根拠があるんでしょう?」

 「うん?」

 「ここは外と隔絶された空間。ぼくたちは一日の内の時間感覚は正しく保てているけれど、変化に乏しい環境は長期的な時間感覚を破壊する。現にさっき、理刈さんは半月以上の間隔で日数が正しく捉えられてなかった。そんなぼくたちに、3年の時間が過ぎていると言ったところで、なんの実感も湧かないよ。そもそも、高校生にとっての3年は、体に大きな変化が表れやすい期間だ。だけどぼくたちは、今のところ自分の体に違和感を覚えてはいない」

 

 理論的に、冷静に、湖藤君はモノクマを問い詰める。3年も経過しているという事実に対する反論をする。確かに、3年なんて時間の証拠は何もない。モノクマが言ってるだけだ。3年も経ってれば背だって少しくらい伸びてるだろうし、成長してる部分があるはずだ。

 でもだからこそ、湖藤君は初めに言った。私たちがどれだけ否定しようとも、絶対に覆しようのない証拠、それをモノクマが用意していると。私は、覚悟を決めて——。

 

 「そんなものはない」

 「……え?」

 「オマエラが学園の門をくぐってから3年以上の時間が経過している、これは紛れもない事実だとボクが断言するよ。だけど、それを示す証拠はないよ。だって時間は何もしなくたって平等(ざんこく)に過ぎるものだからね。あらゆるものは移ろい、変わり、生まれて、消えるんだ。それが時間というものさ。お分かり?」

 「未来の日付の新聞なりなんなりあるでしょうに。横着したんじゃないですか?」

 「失敬な!ボクは横着なんてしないよ!それに、証拠なんて必要ないでしょ?」

 「なんでカ!」

 「だって、“外の世界では3年の時間が過ぎている”——その事実だけでオマエラにとっては十分、絶望的なんじゃない?ボクが2つ目にあげた動機のこと、もう忘れちゃった?」

 「……あっ」

 

 モノクマの2つ目の動機……私たちの身近な人たちが映った、意味不明で不気味な動画。モノクマのお面を被った人に囲まれて、涙を流す家族の姿……。全く意味が分からなかったけど、私たちが希望ヶ峰学園に来てから3年も過ぎてて、こんなところに閉じ込められているという状況が前提にあるなら……。

 

 「私たちは……もう……!?」

 「そんなはずないよ!」

 

 私の言葉を断ち切ったのはダメクマの悲痛な叫びだった。続く言葉を完全に打ち切られて、私たちは視線だけをダメクマに投げる。

 

 「そんなことを考えちゃダメだ……!キミたちはモノクマを倒して、ここから出るんだ。みんな揃って!それだけを考えなくちゃいけないんだ!希望の未来を信じるんだ!絶望の記憶なんかいらないんだ!」

 「記憶……そ、そうだ!3年もの時間が経過しているなら、その間の記憶はどうなっているんだ!?私たちはついこの前、学園の門をくぐって、そして気が付いたら分館にいた……!」

 「モノクマのことです。なんでも出鱈目な手段があるのでしょう?」

 「うぷぷ!さーねー!」

 

 3年なんて時間が気付かないうちに過ぎていたなんて、にわかには信じられない。だけどそれが本当だとすると、モノクマがかつて見せた動画に説得力が備わる。でもそれが証拠になるのだろうか。だってどちらもモノクマが用意したものだ。私たちを騙すための適当な事実をでっちあげているだけの可能性だってある。

 そうだ。全部モノクマの嘘なんだ。3年も過ぎているなんて……そんなの、あり得ない。そんな証拠は、どこにもない。

 

 その日、ベッドに入って眠りに落ちるまで、私の頭は延々それだけを考え続けていた。




日常編を書いてるときは日常編の書き方が分からなくなって
非日常編を書いてるときは非日常編の書き方が分からなくなって
裁判編を書いてるときは裁判編の書き方が分からなくなって
おしおき編を書いてるときはおしおき編の書き方が分からなくなる

なんやねんオラァ

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