ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

36 / 61
学級裁判編2

 

 いやっほーーーーう!!画面の前のオマエラ!!ボクだよ!モノクマだよ!つーわけで今日も張り切って『ダンガンロンパメサイア』やっていきましょうよってことでね!今回はなんと前回までの裁判のおさらいをしていくよ!え?お決まりのパターンだって?それの何がいけないんだよ!!おぉう!?

 

 前回までのあらすじ!やっぱり起きてしまった4度目のコロシアイ!!今回の犠牲者はなんと3人!?まさかのトリプルキルか〜〜〜!?犯人殺意高過ぎィ!!ってなわけでね、しかもそれぞれ全然違うタイミングで死体発見アナウンスが鳴ったってもんだからさあ大変!被害者は“超高校級のマスコット”陽面はぐサン!“超高校級のプロデューサー”月浦ちぐクン!そして“超高校級の法律家”理刈法子サン!ぶっちゃけ3人とも死相が濃かったからいつ死んでもおかしくなかったよね!うっぷのっぷ〜〜〜!!

 陽面サンはパーティーホールのでっかいシャンデリアに押し潰されてぐっちゃぐちゃのべっちょべちょになって死んじゃってました!実際シャンデリアに潰されてもそうはならんやろって感じだけどまあこのお話は現実じゃないんで大目に見てくださいよ。めくじら立てないでさ。それにしても、いつもニコニコ無邪気に笑ってる子が無惨に殺されてるところって心にクるよねぇ……クゥ〜ッ!て。子供だってこう言っちゃうよね。

 月浦クンは陽面サンの上に落ちてきてたシャンデリアの下に潜り込む体勢で、首を掻っ切られて死んでました!陽面サンのすぐそばで死んでたのに死に様が全然違うのもポイントだね。いったい何がどうなってそうなったのか。まあでも、殺されてもしょうがないようなことしてたし?遅かれ早かれって感じだったよね。死ぬまで何人の人間を巻き込んだんだって話。自業自得とはこのことよ〜〜〜!!

 最後に理刈サンは、パーティーホールの控え室でお腹にでっかい槍がぶっ刺さった状態で死んでました!この槍はボクにしか使えないのに、どうしてこんなところでこんな風に!?いったい何がどうなってるんだ〜〜〜!!?その謎の答えは後で!

 

 最後に裁判前半のおさらいをするよ!

 まず話題になったのは、そもそも今回の事件にクロはいるのかってこと!明らかに他殺の人もいれば自殺かも知れない人もいることで、裁判は初っ端から向かうべき方向性の存在から疑うことになってしまいました!あーだのこーだの色んな人が色んなことを言っていましたが、最終的には尾田クンの巧みな策略によって、ボクは生存者の中にクロが存在するとの発言をしてしまったのです!ぬう〜〜〜!!マジ許すまじ!!

 クロの存在が明らかになったことで、議論は普通の裁判と同じように進行していきます。それでも3人もの人が死んでいることや、死体発見アナウンスがバラバラに聞こえてきたことから、誰がどの順番で発見されたのか、そして誰がどの順番で死んだのかを議論することになったのです!明らかに他殺の陽面さんと、その近くで死んでる月浦クンの状態、理刈サンの真の死因などなど……あの手この手で真相を手繰り寄せていく生き残りの面々たち!そしてついに、ある結論に辿り着くのです!

 そう!陽面サンを殺したのは誰なのか!それは月浦クンか理刈サンのどちらかだという話になったのです!

 

 そんなわけで、続きをどぞ〜。うっぷっぷのぷ〜〜〜♪

 


 

 「陽面さんを殺害したのは、月浦君か理刈さんってこと……?」

 

 私の声が、裁判場を小さく震わせて薄れて消えた。シャンデリアに潰されて死んでいた陽面さんは、月浦君とクロと風海ちゃんに発見された。クロが発見者にカウントされているということは、陽面さんの事件と今回の事件のクロは関係ないってことだ。となると、陽面さんを殺害した人がクロになってないっていうことは、その犯人はもうここにいないということになる。つまり、死亡した月浦君と理刈さんのどちらかということになる。

 

 「あの二人のどっちかが陽面を殺したって……どっちもいまいち想像がつかないんだけど」

 「モノクマが言ったルールに則れば、そういうことになっちゃうね。どんなに信じがたいものでも——なんて言葉があるよね」

 「どちらかがクロと言われたら……月月(ユエユエ)陽陽(ヤンヤン)のこと大好きだったアル。だから殺すことなんてないヨ」

 「ってことは……」

 「ええ。消去法になってしまいますが、仮定としても何らかの決断をしなければ話が進みません。より蓋然性の高い選択肢を言うのなら、陽面さんを殺したのは理刈さんです」

 「り、理刈さんが……!?」

 

 心が驚くのに対して、私の頭はやけに冷静だった。確かに、あの二人のどちらかが陽面さんを殺したというのなら、それは月浦君じゃない方、つまり理刈さんなんだろう。人一倍決まりに厳しくて、清く正しく生きることを良しとする理刈さんが、まさか殺人に手を染めることなんて考えられなかった。だけど、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、月浦君が陽面さんを殺すことを考える方が想像できなかった。だって彼は、ただ陽面さんの秘密が知られたかもしれないという疑いだけで、3人もの人を死に追いやったんだ。他の誰を殺すことがあっても、陽面さんを殺すことだけはあり得なかった。

 

 「理刈……あの野郎、あんだけ早まんなっつったのに」

 「う、う〜〜〜ん。私なんかがみんなの議論に横槍を入れるのもアレだけど、さすがに理刈さんより月浦さんの方が人を殺すことを厭わないイメージがあるんだけど……」

 「今は印象の話なんかしていません。どちらの方があり得るか、という話です」

 「い、いや待てよ!だったら、理刈が陽面を殺したって根拠はあんのかよ!それだって二択の一つってだけだろ!あいつは法律法律ルールルールってあんだけうるさかったんだぞ!」

 「法律は殺人にペナルティを与えていますが、そのペナルティもまた殺人を含みます。むしろ月浦君は実質的に3人の人間を、自らの悪意を自認した上で故意に殺害しています。これは十分に死刑が選択肢に入る重罪です」

 「だけど、月浦くんと理刈さんのどっちが陽面さんを殺害した人か、それを仮定する上で多少なりとも印象や証拠による偏りがあるはずだよ。その偏りの正体を明らかにしておくのは大切なはずだ」

 「偏りの正体……?」

 

 湖藤君が言う。仮定とはいえ、どうして理刈さんが犯人だと想定したのか。なんとなく、には必ず正体がある。湖藤君はそう言った。

 

 「月浦君は陽面さんを守るために3人を殺害しました。それほど入れ込んでいる人間が逆にその相手を殺すというのは、一般的に考えて蓋然性が低そうです」

 「うん。要するに印象だね。可愛さ余って憎さ百倍なんて言葉もあるよ」

 「うざったいんで結論から言ってもらっていいですか?あなたのことですから、議題に挙げたということは、何かしらの結論を持っているんでしょう?」

 「あはは、よく分かってるね」

 

 不機嫌そうに言う尾田君に促されて、湖藤君が笑いながら話す。

 

 「みんな、理刈さんの死体に違和感を持たなかった?さっきまでの議論と少し違う話をするけれど、ぼくは理刈さんが単純に自殺したとは思えない。自殺はしたんだろうけど、お腹に刺さってる槍が彼女の死因だとは考えない」

 「な、なんだァ?いきなり何の話だ?」

 「要するに、ぼくは理刈さんの死体を入念に調べるべきだと思ったんだよ。その時に気付いた。理刈さんの服の袖に付着した、蛍光色の塗料にね」

 「蛍光色の塗料?」

 「捜査のときは部屋の照明が付いてたから目立たなかったけど、確かに付いてたよ」

 

 私には分からなかったけど、きっと湖藤君が車椅子を降りて理刈さんの死体を丁寧に調べたときに見つけたんだろう。確かにそのとき、湖藤君は色々と発見があったらしい様子だった。そして、蛍光色の塗料と聞いてピンときた人がいた。その人は鋭い目をカッと見開いて、湖藤君の発言に食いついた。

 

 「まさか……!そういうことか、そうなのか!?湖藤!」

 「ど、どうしましたか毛利さん?」

 

 毛利さんは証言台から身を乗り出して、興奮した様子だった。どうやらこの裁判場で通じ合ってるのは、毛利さんと湖藤君だけのようだ。

 

 「私も捜査中に、蛍光塗料を見た。理刈のいた場所からは離れていたんだが……」

 「あなたは陽面さんと月浦君の死体検分を担当していたはずでは?」

 「ああ。私が蛍光塗料を見たのは、まさにそのときだ。陽面の死体の下に、蛍光塗料で印が付けられていたんだ」

 「あっ、それなら私も見た」

 「私も私も!」

 

 それを聞いて、私の頭の中にも、そのときの光景が戻ってきた。シャンデリアに潰されてぺちゃんこになった陽面さんの体の下、血で染まった床に蛍光塗料の×印が浮かび上がっているのを。それは明らかに床の模様とは違くて、周りが血だらけだったこともあって明るい部屋でも目立っていた。もし部屋の照明が点いてなかったら、もっと目立っていただろう。

 

 「ど、どういうことでェ?なんで理刈の袖と陽面の死体の下に蛍光塗料がついてんだ?」

 「そりゃ当然……理刈がその印を描いた、からか?」

 「そうだと思うよ」

 「なんで理刈さんがそんな印を描く必要があるの」

 「理刈さんが陽面さんを殺害したからだよ」

 「???」

 

 一部の人はまだ理解できてないようだけど、ほとんどの人たちはそれが何を意味するのか分かっていた。理刈さんが床に蛍光塗料で印を描いた。その真上で陽面さんがシャンデリアに潰されて殺されていた。つまりその印は——。

 

 「そこにシャンデリアが落ちてくるという印、被害者を誘導するための目印ということでしょうね」

 「ひえ……」

 

 シャンデリアが落ちてきたのは、理刈さんが意図したことだった。その場所やタイミングまで計算して、冷静に殺人を計画していた。印ひとつでそんなことまで表してしまう。私はそれがなんだか怖かった。あのひとつの印に、理刈さんの殺意と計画が込められているような気がして、脳裏に過ぎるその光景が全く違って見える。

 

 「……ひとつ、確認してもよろしいでしょうか」

 「なんだい、庵野くん」

 「その目印が、理刈さんの付けたものだということまでは分かりました。しかしそうなると、理刈さんはあのシャンデリアを意図して落としたことになります」

 「もちろんです」

 「であれば、あのシャンデリアをどうやって落としたのか、教えてください。この中では一番背が高い手前でも、その先端にすら手が届きませんでした。天井に張られた吊り具にも破損等は全くありません。いったい、どういうことなのでしょうか」

 「た、確かに!あんなおっきくて重たいシャンデリアをどうやって落としたんだ!それが説明できなきゃこの論は破綻だ!」

 「なんで風海ちゃんが興奮してんの?」

 

 ずっと疑問に思っていたことを、庵野君が提示した。手も届かない大きくて重たいものを、自分の意図するタイミングで落とすなんてこと、どうやったってできる気がしない。その上、明るい部屋で目立たない蛍光塗料で印を付けた場所に陽面さんを誘導までして。

 その答えを、湖藤君と尾田君はもう持っていた。この2人は、いったいどこまで先へ行ってるんだろう。

 

 「答えならもう出ています。どうせ仕組んだ理刈さんはもう死んでいますから、反応を窺う意味もないですね。ボクはアホに合わせて説明するのが面倒なので湖藤君どうぞ」

 「ええ……うん、いいけど」

 「どっちもいやそう!そんなに物分かり悪いかよオレら!」

 「この時点でまだ見当もついていない時点で悪いとしか言いようがないでしょう」

 「絶対そこまで言われる筋合いねェ!!」

 

 いきなり振られた湖藤君は、少し困った様子でそれを引き継いだ。尾田君は私たちに合わせて説明するのが面倒だと言っていたけど、湖藤君は湖藤君で私たちのペースなんか度外視して簡単に説明することだけを考えてるから、それもそれで私たちは大変だった。

 

 「あれはね、明かりを消せば落ちるんだよ」

 「は?え、落ちるって、照明が?」

 「違う違う。物理物理」

 「物理で落ちるって、なんで電気消したら落ちるんだよ!どういう仕組みだ!?」

 「それじゃあ、まずはあのシャンデリアを支えてる構造からおさらいしようか」

 


 

 「あのシャンデリアは、パーティーホールの中央に設置されていた。どういう風に吊るされていたか、覚えてる?」

 「確か、特殊な金具で吊り下げられていたな。シャンデリアから伸びたチェーンの先に、金属の球が付いていた。それが天井にあるこれも金属製の輪を通っていた」

 「球は輪っかよりも大きかったので、そこにハマってシャンデリアは吊るされていたのですね。輪っかは天井の四方向から伸びた線で固定されていました。なんとも妙なデザインだとは思いますが」

 「そう。普通ならシャンデリアを直接天井につなげればいい。わざわざ特別な金具を使わなくても、そうすれば安定させられるんだ。なのに、モノクマは敢えてそんなデザインにした。なぜだと思う?」

 「……まあ、誰でも落とせるようにするため、だろうな」

 

 毛利さんと庵野君が、湖藤君に促されてホールのシャンデリアの様子を思い出す。私はそこまでじっくり見てなかったから、言われてようやく思い出せた。あくまで二人とも冷静だけど、その表情には困惑が滲んでいる。それが不自然なことはなんとなく分かるけど、それがシャンデリアを落とすためにそうなっていたなんて、ましてやそれに気付くなんてことはなかった。

 

 「とはいえ、ノーヒントでそれに気付ける人は少ない。モノクマの意図としては、そのシャンデリアを凶器として誰かにコロシアイをして欲しかったんだろうから、何らかのヒントがあったはずなんだ」

 「ヒント……?シャンデリアを落とすための……?んなもんどこに?」

 「あっ……!」

 

 ぱっ、と明かりが点くように、私の頭の中で考えが閃いた。シャンデリアに関するヒントが与えられていたんだとしたら、それはあのときだ。初めてパーティーホールに入ったとき、モノクマが言っていた注意事項。

 

 「パーティーホールの明かりは、常に点けておかないといけない……モノクマが言ってた。もしかして、それが?」

 「そう。モノクマがわざわざ注意するからどういうことかと思ってたけど、まさかそのままシャンデリアを凶器に変えてしまうなんてね。興味本位で試さなくて本当によかったよ」

 「興味本位で試そうとすなよ!おめェたまにめちゃくちゃサイコだぞ!」

 「ちょい待ちヨ!答えが出た感じにしてるけど、ワタシは全然納得してないアル!だって、なんで電気を消したらシャンデリアが落ちてくるかちっとも説明してくれてないヨ!」

 

 罰が悪そうに笑う湖藤君に、長島さんが待ったをかけた。そうだ。確かにモノクマの注意事項はいつだって意味深で、校則といいその忠告といい、破ったときに大変なことが起きることは想像がつくけれど、それがシャンデリアが落ちることだって断定する根拠にはならない。

 きっと、私は不安げな顔をしてたんだと思う。だから、湖藤君と目が合ったとき。

 

 「大丈夫だよ。説明してあげるから」

 

 そんなことを言われたんだろう。

 

 「まず、シャンデリアを落とすには電気を消しさえすればいい。それだけで、あのシャンデリアは落ちてくる。その前提を改めて確認するよ」

 「何度聞いても信じがてェなァ」

 「実はごく簡単な話なんだよ。あのシャンデリアを吊るしていた金属球と輪っかに仕掛けがあるのさ」

 「というと?」

 「シャンデリアは金属球が輪っかにハマることで吊り下げられていた。だけど、シャンデリアの電気を消すと、その球は小さくなって、輪の中を通り抜けちゃうのさ。すると、シャンデリアは支えを失って落ちてくる、こういうわけだよ」

 「待て待て待て待て!どういう魔法だよ!?その球ってのは輪っかにハマってたんだろ?なんで落ちるんだよ!」

 「それはね、電気が点いてる間は、その球は大きくなってるからだよ」

 「ハァ〜〜〜ン!?風船でもないのに金属の球がおっきくなったりちっさくなったりするワケないネ!タマはおっきくならないアル!」

 「()ってなに?」

 

 激しく反論——というか疑問をぶつける長島さんたちに、さすがの湖藤君も困り気味だ。説明できないからじゃなくて、あまりにその事実を受け入れ難く思っている人に、どうやって言えば分かってもらえるか考えてるって感じだ。

 私も、まだいまいちその事実を信じることはできない。でも実際にシャンデリアは落ちてるし、あの金属球が意図的にあんなデザインにされてるのであれば、何か仕掛けがあるんだろうことは十分考えられた。

 

 「みんな、中学校の理科でやらなかった?物体は熱を与えると膨張するっていう性質があるんだよ」

 「……そんなんやったっけなァ。中学生なんてもう10年前だから覚えてねェや」

 「ワタシ、中学校なんてろくに行く暇なかったアル。それだったらお金稼ぎに行ってたヨ」

 「特殊な例が多いなあ」

 「なんとなく覚えている。確か、金属の棒を熱して伸ばしたり縮めたりする実験をしたような」

 「うん。このシャンデリアはその性質を利用して宙吊りにされてた。つまり、シャンデリアの先に付いてる金属球は、電気が付いてる間はその熱で膨張して、天井の輪っかにハマってたんだよ」

 「電気の熱……?」

 「豆電球なんかが顕著だけど、光ってるものって熱を持ってるでしょ。だからモノクマは、パーティーホールの電気を消さないように忠告してたんだ。電気を消しちゃうと、金属球を温めていた熱源がなくなる。すると、熱を失った球は収縮して、輪っかを通り抜ける大きさまで縮む。そしてシャンデリアは支えを失って、下に落ちるって訳さ」

 

 たったそれだけ、とても簡単なことだった。子供にだって分かる。あのシャンデリアは、自分を支える熱を自分で発してた。誰かがその元を断てば、たちまち落下してくる。モノクマに忠告されてなければ、誰かがうっかり電気を消してシャンデリアを落としていただろう。それくらい、何気ないきっかけでそのトラップは発動するようになってたんだ。

 そして湖藤君は続ける。この仕掛けを利用して陽面さんは殺害された。つまり、彼女を殺害した理刈さんは、この仕掛けに気付いてたんだ。気付いた上で、誰にも言わず、利用した。

 

 「ホールの電気を消せば中は真っ暗だ。だから蛍光塗料で目印を書いたんだろうね。明るいうちはあまり目立たず、電気を消してトラップを発動する準備ができればよく目立つ。そこへ、何らかの方法で陽面さんを誘導して、シャンデリアを落とした」

 「手前の勝手な想像ですが、いくら無邪気な陽面さんでも、そんな怪しいところへ自分から行きますかね?ましてや、月浦君も一緒だったはずですのに」

 「あいつにはなんか秘密があったらしいからな。それを利用したか。はたまた月浦の用心深い性格を逆手に取ったか……なんにしろ、蛍光塗料の証拠とシャンデリアの事実がある以上、理刈が陽面を殺したってのは曲げようがなさそうだな」

 「じゃあ……理刈さんはそこまでしてなんで自殺なんかしたんだろ……」

 

 ぽつ、と風海ちゃんがつぶやいて、みんなの視線を集めた。確かに、シャンデリアの仕掛けはこうして暴かれてしまったけど、もしいま理刈さんが生きていたとしても、誰も彼女が犯人だと言える根拠は持っていないはずだ。こんなこと考えちゃダメだけど、彼女が生きていたら、この裁判に勝つ方法はまだ残されていた。

 それなのに、彼女は自殺した。一体なぜなのか、その答えは、もう誰にも分からない。

 

 「おい待てよ……!本当にあいつが自殺したと思ってんのかァ……?」

 

 私たちの結論に、彼は口を挟む。それは、決して血迷ったわけでも、お酒に酔ってるわけでもない。ほぼ決まりかけている今の結論に、ただ食らいつかなければいけない。そんな気迫を感じる。

 王村さんが、私たちを睨んでいた。

 

 「なんですか。酔っ払いは黙っててください」

 「うるせェ!酔っ払いでもなんでもなァ!理刈が自殺なんて無責任なマネしたなんて認めるわけにァいかねェんだよ!」

 「どうしたんですか王村さん」

 「おいらにゃァなァ……おいらにゃァ、理刈の尊厳を守る責任ってもんがあんだよ!」

 

 どうして突然怒り出したのか分からない。だけど、その声と眼差しは真剣だった。だからこそ、冷ややかな目で見る他の人たちと違って、湖藤君だけは王村さんに真っ向から向き合っていた。

 

 「あいつァドが付くほど生真面目でなァ!堅物で偏屈で融通がきかなくて頭でっかちだったけどなァ!自殺なんて無責任なこたァしねェんだよ!モノクマと戦ってるおいらたちをほっぽり出して、自分だけおさらばするような軽薄な奴じゃねェんだよ!」

 「自殺したっていうのは、あの不可解な状況から導き出した結論だ。ぼくだって、彼女が無責任で軽薄な人だとは思わないよ。それに、自殺する人にはそんなことを考える余裕さえない。それが最善で唯一の方法だと心から信じてる。覚悟のない自殺なんてないんだよ。ぼくはそう思うな」

 「訳わかんねェ状況ってのァなんのことを言ってんだ!?ホールで陽面と月浦が死んでたことか!?腹に槍がブッ刺さってたことか!?あるはずのねェ睡眠薬がばら撒かれてたことか!?明らかに自殺じゃねェ根拠しかおいらにゃ見つけられねェよ!」

 「うん。王村さんの言うことは正しいよ。あの状況をひと目見て、理刈さんが自殺だと言うことはできない。だけど、彼女は何らかの校則違反を犯したことも明白だ。そうでなければ、あの槍があそこにあるはずがない。彼女があの場で犯せる校則違反は、居眠りか自殺のどちらかだ。睡眠薬が故意にばら撒かれていたことをブラフと捉えるなら、彼女は自殺したと考えられるんだ」

 「なんだそりゃ!おいらにゃさっぱり分からねェよ!だったらこいつァどうだ!?あいつは“超高校級の法律家”だ!死人に口なしなんてことよォく分かってんだよ!そんなら遺書のひとつでも書いてるはずだろ!おいらァこの耳で聞いたぜ!もしあいつが自殺なんかしなきゃならなくなったら、少なくとも遺言は残すってなァ!自殺だってんなら、それがねェことをどう説明するんだよ!」

 「……遺書——遺言書の類なら彼女は遺したはずだよ」

 

 途中で湖藤君は言い換えた。それがどう違うのか、私には分からない。でもたぶんきっと、理刈さんが遺すなら遺書じゃなくて遺言書なんだろうと思った。王村さんが言うとおり、控室に理刈さんの遺言書みたいなものは見当たらなかった。でも、湖藤君はそれがあったはずだという。そんな根拠がどこにあったんだろう。

 

 「理刈さんの体を調べたときに、右手の親指の先に赤いインクが付いてたんだ。何の変哲もない、ただの赤いインクさ。それが指に付いてることの意味を王村さんはどう考える?」

 「イ、インクだァ……?そんなもん……」

 「指先の中でも、親指には特別な意味があります。要するに、拇印ですね」

 「ボッ……!?」

 「おいそこ。自重しろ」

 「はい……」

 「理刈さんが親指にインクを付けて拇印を捺したんだとしたら、それはきっと彼女が自分のものだと証明したい文書だったんだ。状況から考えても、遺言書というのが一番しっくり来る」

 

 王村さんの口からは答えが出そうになかったからか、尾田君が横から口を挟んできた。拇印、という言葉で王村さんは全て理解したみたいだ。お酒を飲んでふざけてるときのちゃらんぽらんな顔は消え失せて、まだ酔いが残っていそうな赤ら顔で真剣に考える。“超高校級の法律家”である理刈さんが、文書に拇印を捺すことの意味を。

 

 「じゃ、じゃあ……なんで、それが見つからねェんだよ」

 「理刈さんが自殺したことを隠蔽しようとした()()が持ち去ったんだと思うよ」

 「な、なんだそれは?理刈が自殺したことを隠す?何の意味が?」

 「さあね。でも自殺禁止の校則に違反したことを隠すために、睡眠薬を部屋にばら撒いたのを見る限り、そうしたミスリードを狙いたがってる人がいるはずだよ」

 「そ、そいつは誰なんだよ!クロじゃねえのか!?」

 「どうだろうね。理刈さんが自殺だと分からないのはクロにとっても好都合だ。事件が複雑化するからね。だけどモノクマにだって、隠蔽することによるメリットはあるはずだよ」

 「ボ、ボクが現場に手を加えたっていうのか!ボクは監督者としてオマエラには平等な立場でいるんだよ!そんなにボクのことが信じられないのか!」

 「信じられるわけねーアル。胸に手を当てて100回反省するヨロシ」

 「ぐべぇっ!長島サンの火の玉ストレートがボクの柔肌をぶち抜き燃やす!!」

 「うっさ」

 

 赤い顔を青くして俯く王村さん。その異様な雰囲気に眉を顰める尾田君。転げるモノクマを呆れ顔で見る長島さんと風海ちゃん。

 だいぶ議論が煮詰まってきた。今までの話にこれ以上反論がないのなら、この結論は確定してしまっていいだろう。

 

 「つまり、陽面さんを殺害したのは理刈さんで、その理刈さんは自殺した。ってことでいいのかな?」

 「うぅ……ちくしょう」

 「なあ王村。なぜお前がそこまで理刈の自殺に反論するんだ?理刈が自殺するとしたら遺言書を残すと言ったのを聞いたと言ったが、いつそんな話をしたんだ?お前と理刈は、いったいどういう関係なんだ」

 

 なんとなくみんなが気になってたことを、毛利さんが尋ねた。理刈さんと王村さんの関係って、今まであんまり気にしたことがなかった。王村さんはいつもお酒に酔っていて、理刈さんはそれをあんまり良く思ってない。それくらいの間柄だと思ってた。

 

 「……別に、特別なことなんかねェよ」

 

 決まりが悪そうに、王村さんは言った。

 

 「おいらァただ、ちィとだけ責任感じちまってんだ」

 「責任?理刈が自殺したことのか?」

 「理刈の自殺を止められなかったことをだよ。何日か前に、おいらァあいつがなんか悩んでるらしいとこを見たし、話もした。今思うと、あのときもう理刈は自殺を覚悟してやがったんだ。おいらだって、あいつが思い悩んでることには気付いてた。だから……おいらァあのとき、あいつを止めるべきだったんだ」

 「……意外ですね」

 「んあ?」

 「無駄に歳を重ねているだけの人だと思っていましたが、理刈さんが自殺を覚悟していたのを察知していたんですか?その上で、ありもしない責任感から湖藤君に無謀な反駁を挑んだと?」

 「悪ィかよ!おいらにだってハナクソくれェの意地があらァ!」

 

 尾田君じゃないけど、私もちょっと意外だった。王村さんがそんな理由で積極的に発言するなんて。ここまでの話について来るのすら精一杯だと思ってたのに。でもきっと、湖藤君は王村さんのそんな想いを受け取ったんだろう。だから、たった一言で済む反論を真剣に聞いてたんだろう。

 悔しそうに、だけどどこか脱力したように王村さんはため息を吐く。

 

 「情けねェよなァ……理刈に小言を言われてるときァこんなこと考えなかったのに、今さらになって、なんでおいらはこんなにいい加減なんだって思うぜ。ろくすっぽおめェらの役に立つ訳でもねェ。ただ酒飲んでふらふらして迷惑かけて……目の前で死にたがってる奴に気休めの一つも言ってやれねェ……。なんであいつらが死んで、おいらが生きてんだろうなァ」

 「王村さん……」

 「おいらにゃ何もできねェ。そのくせ、ただ殺されてねェってだけでここにいる。なんなんだろうなァ、おいらは」

 

 今にも泣き出しそうな、湿っぽい声で王村さんはぽつぽつと呟く。手に持ったお酒を口に運ぶことはしない。ただ項垂れて愚痴を垂れている。正直、そんな話は裁判に一切関係ない。本人が言うとおり、私たちの役に立つどころか邪魔にさえなってる。

 それでも、そんな様を見て私は王村さんに声をかけずにいられなかった。そんなに落ち込んでる人を放って置けなかった。

 

 「王村さんだって、誰かのためにできることがあるよ!」

 「……あるかよ、そんなこと」

 「あるよ!王村さんは気付いてないだけだよ!」

 「なら教えてくれよ。おいらはなんのためにここに生きてんだ?おいらがいつお前らの役に立った?」

 「そ、それは……違うよ」

 「あん?」

 「生きることと役に立つことは、別のことじゃないよ。王村さんがそこに生きてる。死なずにいてくれる。それだけで、私たちにとっては嬉しいことなんだよ!」

 「へへっ、無理しなくていいぜ。生きてるだけで一等賞なんてのはガキを調子つかすための方便だ。おいらにゃ通じねェよ」

 「いえ、案外その人の言うことも全く的外れというわけでもありませんよ」

 

 苦し紛れの私の言葉を、尾田君が拾い上げた。冷笑気味に自分を卑下する王村さんだけど、尾田君が横から入ってきたことで、少しだけ顔色を変えた。尾田君が意味のないことを言う人じゃないってことは、みんなわかってる。だから、ここで口を挟んできたっていうことは、実際に王村さんが彼にとって役に立つ存在だということを言おうとしてるんだ。

 

 「コロシアイは人目を忍んで行われるものです。あなたが酔っ払って予測不能な動きをするだけで、誰かを殺そうとしている人にとってはリスクです。もちろん、あなた自身が狙われるリスクはありますが、人数が減ることはクロにとっても不利益です。つまり、何の役にも立たないあなたが酔っ払ってふらふらしているだけで、一定のコロシアイ抑制効果があるんです。あなたにはそれ以上のことは期待していません」

 「……ほめられてる?」

 「尾田君なりの精一杯でね」

 「好きに捉えてください」

 

 一回聞いただけじゃ、尾田君が何を言いたいのかよく分からなかった。最後に、王村さんには何も期待してないとか言うし。でも尾田君はやたら視線を明後日の方に飛ばして戻そうとしない。照れ臭いのかな。今のが精一杯の褒め言葉なんだとしたら、尾田君のひねくれ具合も大変なものだ。

 

 「尾田君のように色々なことは言えませんが、手前も王村さんが生きていることには意味があると思います。全てのことには意味があるのです」

 「役に立つも立たないもないネ。人だって動物なんだから食って寝て殖えて生きて死ぬだけヨ」

 「王村さんだって役に立つことができるよ!年長さんなんだから、私たちの支えになってくれるよきっと!たぶん!」

 「……なんだよ、もう」

 

 続けて、庵野君と長島さんと風海ちゃんが王村さんを励ます。私は王村さんにはすっかり呆れていたから上手く言うことはできなかったけど、私だって王村さんがいなくなってもいいなんて思ってない。言葉にはできなかったけど。

 みんなに励まされて、王村さんは恥ずかしそうに頭巾を目深に被って、少しだけ顔を赤くした。

 

 「そこまで言われちまったらめそめそしてらんねェじゃねェか……なんだよ、おめェらおいらのこと必要としてたのかよ……」

 「必要とまでは言ってなかったぞ?」

 「話聞いてるのか聞いてないのか分からん奴だな」

 「どうでもいいんですよ。そんな話。軌道修正しますよ」

 

 なんだかよく分かんないけど、王村さんの気が晴れたんならいいや。

 

 「話を元に戻します。理刈さんは陽面さんを殺害した上で自殺しました。すなわち、この場に存在するクロが殺害したのは月浦君ということになります」

 「なんだかややこしい話になってたけど……理刈さんと月浦さんの死亡順とかってどうでもいいの?」

 「どちらが先に死亡したとしても、クロが殺害した人物は変わりません。おそらく理刈さんの方が先ですし」

 「なぜそんなことが言えるのですか?」

 「理刈さんの死体の近くにある椅子には、動かした跡がありました。最後に死んだのが理刈さんなら、その椅子を動かす人物がいません。すなわち、あれは理刈さんの死後にクロが控室を訪れた証拠になるということです」

 「なんでクロが椅子を動かす必要があるの?」

 「月浦君を殺害する凶器を手に入れるためでしょう」

 「月浦君を殺害した凶器……」

 

 現場の様子を頭の中に思い描く。シャンデリアの下、月浦君の体の横に落ちていた、あの血まみれのカッターナイフ。月浦君は首を切られて殺されていた。どう考えてもあのカッターナイフが凶器だ。

 

 「あのカッターナイフ、どこから出てきたんだろう?」

 「控室の机じゃないか?あそこには一通りの文房具が揃っていただろう。椅子に動かした跡が残っていたのも、犯人が理刈の死後にそこからカッターナイフを取り出すときについたものだろう」

 「それであいつの首を掻っ切ったわけだな……どこのどいつがそんなことを」

 「……あれ?」

 

 理刈さんが自殺した後、クロはパーティーホールから控室に入り、机からカッターナイフを取り出して、月浦君を殺害した。今までの話を踏まえると、きっとそうなんだろう。だけど、でも、そうだとすると……おかしなことがひとつある。いや、おかしくはないんだ。きっと。

 だって、それはクロが犯したミスだから。

 

 「ちょっと……待って。クロが机からカッターナイフを持ち出したのが、理刈さんが自殺した後なんだったらさ……それって」

 「どったの奉ちゃん?」

 「それって……クロは一度、見てるってことだよね?理刈さんの死体を」

 「もちろんそうなるネ。部屋の真ん中で死んでる法法(ファーファー)を見ないなんて、陽陽(ヤンヤン)を見ないより難しいアル」

 「じゃあさ」

 

 じゃあ、それはもうほぼ答えだ。だって、そうじゃないとおかしい。

 

 「それじゃあ……は、犯人は……?」

 

 その事実だけで犯人はかなり絞り込める。いや、もっと言えば、ほとんど確定的に指名できる。だって、その条件に合う人は、私たちの中にひとりしかいないから。

 

 「甲斐さん?大丈夫?」

 「……うん。大丈夫。ちゃんと、言うよ」

 

 きっと私は、追い詰められた顔をしてる。どうして私がクロを追い詰めなくちゃいけないんだって、自分を追い込んでる。できることなら私はクロなんて知らないままでいたい。私たちの中の誰かが仲間を殺したなんて事実を、自分の口で言いたくなんかない。

 でも、それは甘えだ。そして言い訳だ。私は言わなくちゃいけない。気付いてしまったのなら、責任が生まれる。みんなの命を守るために、誰かの命を切り捨てる責任が。

 

 「月浦君を殺した人は……この事件のクロは……!あなたしかいない……!」

 

 心臓がはち切れんばかりに脈打つ。この指名が間違いだったとしたら、私たちの命はない。そんな確証があった。だからどうか……間違っているならきちんと反論してほしい。私の考えは間違っていたと、論破してほしい。

 その顔を指す指が震えているのを感じた。だけど、照準はずらさない。私たちの中に潜んだクロの名前を、はっきりと口にした。

 

 

 

 

 

 「芭串ロイ君……!あなたがクロだよ……!」

 「——ッ!?」

 


 

 「な、なん……何言ってんだよ……!?」

 「芭串さんが……クロ……!?」

 「根拠が、あるのですね?」

 

 予想に反して芭串君は驚いて声が出ない様子で、強気に反論しては来なかった。それが却って私の不安を掻き立てる。

 

 「こら奉奉(フェンフェン)佬佬(ラオラオ)がクロだって言うならちゃんと理由まで言えアル!なんでそう思うカ!」

 「う、うん……えっと、風海ちゃん」

 「へっ!?わ、私!?」

 「理刈さんの死体を発見したときのことを教えて。なるべく細かく」

 「ええ〜……奉ちゃんまで尾田さんみたいなことを……ちょ、ちょっと待ってよ。ちゃんと思い出すから」

 

 長島さんに促されて、私はまず風海ちゃんに証言をお願いした。もう一度、風海ちゃんの記憶と私の考えを突き合わせる。

 

 「えっと、月浦さんの死体を発見した後、みんなを呼びに行こうとしたんだけど、庵野さんが控室の方に向かっていったんだよ」

 「少し扉が開いていたのが気になりまして……今にして思えば、理刈さんに呼ばれていたのかも知れません。あのままひとりにしておくのはあまりにかわいそうですから……」

 「今は事実だけを聞いています。あなたの感想はどうでもよろしい」

 「んでね、えっと……庵野さんが控室に入って、たぶんそこで理刈さんの死体を見つけたんだよね。で、芭串さんがその後に入って、私も続けて入って……そしたら理刈さんの死体があって……アナウンスが鳴った」

 「……うん。やっぱり、間違いないよ」

 

 自分の口から出た声色があまりに残念そうで、悲しそうで、私は私に驚いた。こうするべきなのに、こうしなくちゃいけないのに、私は全ての真相を明らかにしていくことが辛くて仕方ない。

 

 「今の証言を元にすれば、理刈さんの死体は、庵野君、芭串君、風海ちゃんの3人がこの順番で発見してる。だけど、椅子に動かした跡があるということは、その前にクロが理刈さんの死体を発見してるはずなんだよ」

 「んん?いやでも……さっき、クロが発見者になるかならねェかって話をしてたよな?その辺はどうなんだ?」

 「さっきのは直接殺害したクロが発見者に含まれるかっていう話だよ。理刈さんは自殺だから、誰が見ても問題なく発見者にカウントされるはずだよ」

 「つまり、本当の発見順は、クロ、庵野君、芭串君、風海ちゃんの順番のはずなんだ。だけど、風海ちゃんが発見するまでアナウンスは流れなかった。ここから言えることは……!」

 「庵野か芭串のどちらかは、すでに理刈を発見していた……つまり、どちらかがクロということか!」

 

 毛利さんが私の言いたいことを簡単に言ってくれた。そういうことだ。湖藤君の補足も、尾田君の横槍もない。つまり、過不足ないってことだ。芭串君がクロなら、二人は今は私の味方だ。二人が黙っているってことが、何よりも心強い応援だ。

 

 「だ、だったら庵野だってクロかも知れねえじゃねえかよ!なんでオレになるんだよ!テキトーに言ってんじゃねえだろうな!」

 「ふむ。そうなると手前にとってもクロは芭串君しかいなくなってしまうのですが……」

 「お互い様だ黙ってろ!」

 「うん。死体発見アナウンスだけだとそこまでしか絞れない。だから、私は見つけたよ。庵野君と芭串君のどっちがクロなのか、それを示す動かぬ証拠を」

 「う、動かぬ証拠……だと……!?」

 

 みるみる青くなっていく芭串君の顔。滝のような汗が流れ、体は証言台を離れて声が大きくなる。不安の表れなのか、自分の行いが暴かれて焦っているのか、今の私には見分けがつかない。だけど、これだけは分かる。ここで退いたら、私たちの命はないってことだ。

 

 「月浦君は、シャンデリアの下で殺されてた。カッターナイフで首を掻き切られてね」

 「そ、それがなんだってんだよ!んなもん見りゃ分かるわ!」

 「つまり、月浦君は自分からシャンデリアの下に潜り込んだんだ。犯人は、シャンデリアの隙間に手を入れて殺害した。それができるのは……二人のうちだと芭串君にしかできないんだよ」

 「はあっ!?」

 「庵野君はシャンデリアの隙間に手を入れられないんだ。手が大きすぎてね」

 「……なっ……!?」

 

 捜査時間中、確かに私たちはそれを確認している。芭串君もだ。陽面さんと月浦君の検分をするためにシャンデリアを動かすとき、庵野君が手を入れられなくて芭串君も手伝った。その事実を否定することはできない。だからこそ、私は確信を得た。この事件のクロは……彼なんだと。

 芭串君は息苦しそうに口を開閉させて、それから裁判場いっぱいに目を泳がせた。どこかに突破口はないか。私の論の矛盾は。疑問を感じてる人は。自分の味方は。縋るような目だった。でも、そんなものはどこにもない。

 

 「……決まりのようですね。ボクも異論はありません」

 「い、異論はないって……!ちょ、ちょっと待ってくれよ!オレは……!オ、オレはただ……!そんなつもりはなくて……!」

 「なんだ?何か知っているのか」

 「だ、だから……!そうじゃねえんだって!オレは……こんな……!イ、イヤだ……!」

 「な、何が言いてェんだよ!しっかりしろ!」

 「こりゃもうダメネ。死ぬことにビビりきっちゃってるヨ」

 

 強気に反論してくるかと思っていた芭串君は、一度もそんなことはなくて、ただ狼狽えて意味のないうわ言を繰り返すばかりだった。そうさせたのは私だ。私が彼を追い込んだ。そう言われてるようで、そんな芭串君の姿を見ることも、声を聞くことも、私はできなかった。

 

 「はぁ〜、やっと結論?出た感じ?いいよ!それじゃ、投票タイムに移りましょうか!」

 「うっ……!?ま、待てよ!まだ……!」

 「もう待てません!ボクはもうおしおきしたくてたまらんのですよ!消化不良のままじゃお腹壊しちゃうよ!」

 「……?」

 「それではオマエラ!お手元のスイッチで、犯人と疑わしい人物に投票してください!投票の結果、クロとなるのは誰か!その答えは果たして、正解なのか、不正解なのか〜〜〜!?」

 

 玉座で笑うモノクマに縋りつこうとする芭串君は、しかし証言台の柵に阻まれてそれもできない。ただ私たちに背を向けて懇願するような格好になるだけだ。いつもの彼の姿を知っているだけに、あんなに弱々しい姿は見ていられなかった。

 表示されたパネルから、彼の名前を選択する。この瞬間はいつも心が痛む。まるでこのボタンが、死刑執行のボタンのようだ。きっとみんなは否定してくれるだろう。だけど、私にはこの一票が、まるで最初の動機の一票のように感じられた。自分の命をかけて、この人を処刑してくれとモノクマに差し出すような気がしていた。

 

 「ほらほら!早く投票しなよ芭串クン!無投票は無条件でおしおきだよ!ワンチャンにかけてみたら?」

 「ううっ……!うぐっ……!」

 

 怯える彼を、モノクマは心底楽しそうに煽る。すでに投票は、芭串君の一票を待つだけになっていた。

 芭串君が震える指で選択した。その瞬間、天井からスクリーンがするすると降りてきて、派手な映像が投影された。分かりきった結末を前にした私たちは、ただ時間が過ぎるのを待っていた。




暑過ぎ。どうなってんの地球。

あなたのお気に入りのキャラクターを教えてください

  • 益玉韻兎
  • 湖藤厘
  • 宿楽風海
  • 虎ノ森遼
  • 甲斐奉
  • 谷倉美加登
  • 岩鈴華
  • 菊島太石
  • 毛利万梨香
  • 芭串ロイ
  • 庵野宣道
  • カルロス・マルティン・フェルナンド
  • 三沢露子
  • 狭山狐々乃
  • 長島萌
  • 月浦ちぐ
  • 陽面はぐ
  • 理刈法子
  • 王村伊蔵
  • 尾田劉平
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。