ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

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第五章 豚は天を望めない、されど果実を希う
(非)日常編1


 

 ——私たちをこんなところに閉じ込めてコロシアイなんてさせてるのはモノクマだ!全部全部、あいつが悪いんだよ!——

 

 悪いのはモノクマだ。そう言い切ったあの横顔は、恐怖と絶望に侵されながらも、決して希望を失わない強い意思を湛えていた。明日の平和さえ不安定なこの極限の世界で、未来を諦めることもせず、過去を忘れ去ってしまうこともせず、今のただ業務的に生きることもしない。それがどれだけ難しいことかは、まだ死んでいない皆んなを見れば分かる。

 自分の中に強い芯を持っている人はモノクマの絶望に流されず必死に抗いつつも、一歩を踏み出せないままの状況にフラストレーションが溜まってきている。それはいつか暴発して、自分自身か横に並ぶ誰かを傷つける。芯を持てずにモノクマに翻弄される人は、なんとか心の拠り所を探してそれに没頭したり溺れたりすることでかろうじて自分を保っている。いつか限界が訪れたとき、その人たちには何も残らないんだろう。

 

 「希望……うん、希望だ」

 

 私たちにいま必要なのは、強烈な希望。絶望なんか跳ね除ける圧倒的な輝き。明日もきっと頑張れると前向きになれる奇跡的な導き。隣にいる誰かに安心して背中を任せられる絶対的な信頼。それを与えられる誰かだ。それはきっと、あのときああいうことが言える人なんだろう。

 私に何ができるか。みんなのためにできることなんて、私にはない。願わくば、私のしようとしてることがみんなの足を引っ張らないようにと祈る。もしできるなら、烏滸がましい願いかも知れないけれど、私のしていることがみんなの助けになったら、どれだけ幸せなことだろう。

 

 何もできない私に残された一縷の希望——果たしてそれは、()()()の希望になるのだろうか。

 


 

 机の引き出しを全てひっくり返しても、ゴミ箱の中を引き摺り出しても、タンスの中もトイレの中もシャワールームもキャンバスの裏も、ありとあらゆる場所を探した。やはりない。どこにもない。処分した形跡すらないということは、芭串は理刈の遺書を持ち去ってそのまま持っていたということだろうか。

 その心理は分からないでもないが、決定的な証拠を裁判場に持ち込むリスクを冒すとは、つくづく愚かな選択をしたものだ。あまり期待はしていなかったが、芭串はモノクマに処刑されて跡形もなく消えてしまった。おそらくただ芭串を処刑するというだけでなく、所持品ごと処分したかったのだろう。

 事件の真相を疑っているわけではない。理刈が追い込まれていたことも、月浦と陽面が殺される理由も納得できる。芭串が、つい魔が差して殺人を犯したこともまあ分かる。問題は、()()()()()()()()()()()()()()()が解決しないまま、モノクマが事件の全容解明を宣言したことだ。

 

 「……」

 

 理刈が睡眠薬を飲んで自殺を図った。そしてモノクマに処刑された。辻褄が合っているように思えるが、そうすると芭串の証言は不自然だった。遺書を見つけたとは言え、芭串は現場を見て理刈が自殺したことをすんなり受け入れている。いかに考えなしの男とはいえ、あの状況で何の疑いもなく自殺を受け入れはしないだろう。つまり、芭串が最初に理刈の死体を発見したとき、理刈の腹に槍は刺さっていなかった。いや、もしかしたら床に寝てすらいなかったかも知れない。

 だとすればさらに矛盾が生じる。芭串にモノクマの槍を用意することはできないし、そんなことをする意味もない。そこから薬品庫にダミーの薬を取りに行く時間もない。ならあの控室の状況は何か。まだいるのだ。あの事件に介入した者が。それはモノクマにしか扱えない槍を扱うことができて、何より()()()()()()()()()()()()()()。これはコロシアイ——学級裁判の前提を揺るがす特権だ。そんなものが与えられているのは他でもない、モノクマだ。しかしそんなリスクをモノクマが負う必要はない。自分の手足となる者がひとりいればいい。

 これまで何度も感じてきた違和感。あのとき、なぜモノクマはあんなことを言ったのか。なぜ知っていたのか。なぜ間違えたのか。その答えは明白だ。

 

 まだ生き残っている8人の中に……いや、自分を除けば7人か——その中に、モノクマと通じている者がいる。

 

 考えていなかったわけではない。モノクマを操っている黒幕が何人いるかは分からないが、直接監視することができる人物は欲しい。人間が複数集まれば何をしでかすか分からない。その結束を歪め、反発心を潰し、考える力を奪うためには、直接働きかける者が必要だ。

 

 「どうせ彼が気付いていないわけがないし……敢えて黙っているのはやはり警戒しているからか」

 

 さて、どうやって炙り出していこうか。

 


 

 学級裁判が終わったあと、私たちは疲れ切った体を引きずるようにふらふらと自分の部屋に戻った。私も、湖藤君を部屋に戻した後で自分の部屋に戻った。そのままベッドに倒れ込んで、自分でも気付かないうちに眠っていた。

 次に目を覚ましたとき、ただでさえ狂う時間感覚は完全に失われていた。ただ、喉の渇きとゴロゴロ鳴るお腹で、相当な時間が経ったらしいことが分かった。雑に横になったせいで体は休まり切ってなくて、重い体を起こして食堂に向かった。目覚めはやけにすっきりしていた。

 

 「あっ……奉ちゃん。おはよう?」

 「風海ちゃん。おはよう?」

 

 時計の針は11時を過ぎていた。それがお昼の11時なのか、夜中の11時なのか、それも曖昧だ。私も風海ちゃんもなんとなく挨拶に疑問符を付けた。言ってから考えて、どっちの11時でもおはようはおかしいね、と笑った。

 

 「なんか、すっきりした顔してるね」

 「うん。昨日まで色々考えてたんだけど……なんか、こんなこと言ったら不謹慎かもしれないけど、今回の事件で、ようやく分かったんだ。私たちはみんな、いつでも芭串君みたいになり得るんだって。今までだって、私たちより先に誰かが行動してただけで、いつまでもこう着状態が続いてたら、どうなってたか分からないんだって」

 「怖い話しようとしてる?」

 「違うよ。最後に絶望で終わる物語じゃないよ」

 「じゃあなに」

 「だから、別に芭串君とか、虎ノ森君や岩鈴さんや月浦君が特別なわけじゃないんだって。みんな同じなんだって。みんな同じ、モノクマの被害者なんだって……思えるようになったんだ」

 「被害者、か……」

 「うん。だってみんな、もしこんなところに閉じ込められたりしてなかったら、誰かを殺したり陥れたりしようなんて考えもしないはずだもん。全部全部、モノクマが悪いんだ」

 

 きっとそうだ。私だってここに来るまで、自分が死ぬかもしれないとか、誰かが殺されるかもしれないとか、誰が殺人犯かなんて考えたこともなかった。そんな状況を作ったモノクマが悪い。モノクマだけが悪い。だから私たちは、もうお互い疑心暗鬼になったりする必要はないんだ。私たちの中に、今なお殺人を犯してみんなを出し抜こうなんて考えてる人がいるはずがない。それができないってことは、もう4回も証明された。私たちは、一緒にモノクマを倒すために戦う、仲間なんだ。

 

 「やっぱり、ここにいましたか。ちょうどよかった」

 「あっ、尾田さん。おはよう」

 「あなたは夜におはようと言うんですか。変な人ですね」

 

 夜だったみたい。尾田君の嫌味なんかで知りたくなかった。

 

 「お腹減ったから食堂来ようと思って歩いてたら、劉劉(リュウリュウ)がみんな連れて歩いてたからついてきたヨ」

 「ぼくは部屋に呼びにきてくれたよ。わざわざ尾田君がそんなことするなんて珍しいね」

 「手前はもう寝るところだったのですが、何やら重要そうなお話だということなので、王村さんも連れて参りました」

 「んだよもう……おいらァ眠てェんだ」

 「十中八九、よくない話だろうがな」

 「ええ。すぐに済みます。これ以上ややこしいことにはさせたくありませんので」

 

 何かと思ったら、尾田君が私と風海ちゃん以外の全員を連れて食堂に来た。ただでさえ単独行動が多い尾田君が、人数が減ったとはいえみんなに声をかけて回ったというのは意外過ぎて目を丸くした。毛利さんの言うとおり、私も全く良い予感はしてない。椅子にも座らずに私たちを眺める尾田君に、私は体を強張らせて身構える。

 

 「何と言う話ではありません。全員が知っておくべきで、なおかつボクとして意思表示をしっかりしておく必要があると思ったので、全員に集まってもらっただけです」

 「大したことねェ話なら明日でいいんじゃねェか?今日は裁判までやってヘトヘトだぜ」

 「あなたは裁判でも何もしてないでしょう。ほとんど僕と湖藤クンだけで解き明かしたようなものです」

 「そんなことないよ。甲斐さんもがんばってくれたよね」

 「えっ、わ、私は別に何も……」

 「御託はいいからはよ話すヨロシ!ワタシはお腹ペコペコヨ!」

 「では単刀直入に言います」

 

 もう一度、尾田君は私たちを見た。その視線は、なんだか私たちひとりひとりの心の底まで覗き込むような、深い疑念にまみれた視線だった。彼の口の動きがいつもより遅く感じられた。でも声だけはいつもと変わらない速度で私の耳に届く。

 

 「この中に、モノクマの内通者がいます」

 

 ——私たちは、一緒にモノクマを倒すために戦う、仲間なんだ。——

 

 誰かの言葉が脳裏を掠める。眩しいほどに前向きで、弱った心を励ますほど力強くて、吹けば飛んでしまうほど軽々しくて、何の根拠もない薄っぺらな、どこかの誰かの空虚な言葉。

 


 

 私は頭を思いっきり叩かれたような衝撃を感じた。本当に叩かれたわけでもないのに頭の奥に鈍痛が広がる。周りの人たちがどんな顔をしているか気にする余裕もない。私は、自分の心を支えるので精一杯だった。

 

 「な、内通者あ?それって……えっと、モノクマのスパイ……ってこと?」

 「呼び方はなんでも構いません。きちんと説明すれば、僕たちと同じようにモノクマに拉致監禁されているというふりをしながら、モノクマと協力してコロシアイに加担している人が潜んでいる、ということです」

 「なんと……!?そ、それは確かなのですか……!?どうしてそんな……!いったい誰が……!?」

 「待て。尾田よ、内通者がいるというのは確かか?その根拠はなんだ」

 

 ざわつきかける私たちを、毛利さんの言葉が抑える。そうだ。尾田君の言葉はいつだって真実を暴く。だから今の言葉も無条件に受け入れそうになっていたけど、まずはそう思う根拠が必要だ。いい加減なことを言う人じゃないけど、彼は自分の目的のためなら平気で人を騙す人だ。慎重にならなくちゃいけない。

 

 「もちろん根拠はいくつかあります。分かりやすいもので言えば、モノクマがその存在を隠蔽しているということです」

 「なんだと?」

 「理刈サンの死の状況に疑問を持たなかったんですか?芭串クンは理刈サンの死に様を見て、自殺だと受け入れたんです。遺書があったとしても、僕らが見たような状況で自殺だと思いますか?」

 「ふーん、お腹にあんなでっかい槍がブッ刺さってて自殺とは思わないネ。ワタシだったら遺書の方を疑うアル」

 「現場に遺書がなかったということは、芭串クンが持ち去ったと考えるのが自然でしょう。芭串クンにとっては理刈サンが自殺ということを隠したかった方が、事件が入り組んで都合が良いですから。ということは逆に、芭串クンが発見した現場は遺書があると自殺だと判断できる現場だったのです」

 「……あの現場がそうだとは思えないね」

 

 なんだか、学級裁判の続きみたいになってきてしまった。そう言えば、裁判の途中で理刈さんの遺書の話があったけど、それがどこに行ったのかまでは議論してなかった気がする。芭串君が持ち去ってしまったのなら、彼が処刑されるのと同時に遺書も失われてしまっただろう。

 

 「つまりです。芭串クンが最初に見た現場と、僕たちが見た現場は異なるということです。前者は理刈サンが自殺したままの現場、後者は何者かの手が加えられた現場です」

 「そ、その……何者かってのがァ、内通者ってことか?」

 「ええ。理刈サンを床に倒して、モノクマにしか扱えない槍を腹に突き立て、薬品庫からダミーの薬を持ってきて——これはモノクマからの指示で予め用意していたかも知れませんね——理刈サンの自殺を隠蔽しようとした人物は確実にいます」

 「お、おいらァてっきり芭串がやったもんだと思ってたけど……ちげェのか?」

 「突発的な犯行をしたに過ぎない彼にそこまでのことができるとは思いません。何より、槍を用意できません」

 「……いや、待て尾田。お前の推理はおかしいぞ。そうだとすると、その内通者は芭串が現場に入った後に現場を訪れたんだろう?だとすると、陽面や月浦の死体も発見しているはずだ。なぜそのときにアナウンスが鳴っていないんだ?」

 「そんなもの、内通者だからに決まっているでしょう。内通者に対して死体発見アナウンスのカウントを有効にしていたら、偽装工作中に誰かが現場に来てしまいかねない。それを防ぐため、内通者が内通者として行動するときは、死体発見アナウンスのカウントから除外しているんです」

 「な、なにそれ……!?そんなの……ルールが違うよ!」

 

 死体発見アナウンスから除外されるなんて、そんな特権的な地位を持ってるなんて、内通者が自由に動けすぎる。そんなことをされたら、まさについ今朝までやってた裁判の推理の根幹が揺らぐ。死体発見アナウンスの信頼性が崩壊する。

 そんな人が、私たちの中にいる。尾田君の話す推理を聞いて、疑ってかかろうと思っていた気持ちはすっかり削がれて、すでに誰が内通者かを考え始めてしまっていた。

 

 「だ、だれが内通者なんでェ!ちくしょうめ!ずっとおいらたちを騙してやがったんだな!」

 「おい。やめろ王村。そうやって互いを疑いあってはモノクマの思う壺だ」

 「でしょうね。内通者はその存在を知られようと知られまいと強力なカードです。むやみにモノクマの策略に乗ってやる必要はありません」

 「ま、奉ちゃん……ど、どうしよう……?」

 「ううぅ……」

 

 頭だけじゃなくお腹も痛くなってきた。なんでこうなっちゃうの。もうみんなで疑いあってる場合じゃないって、団結しようって決めたそばから邪魔が入る。内通者の存在なんて知らなければ、私たちはみんな結束できた。モノクマをたったひとりの敵として手を取り合えたはずだ。それなのに、よりにもよって内通者なんて……。

 なんで……!なんでなの……!?いい加減にしてよ……!

 

 「尾田君……!なんで……そんなこと言うの……!」

 「はい?」

 「ふざけないでよ!なんで内通者のことなんか言うの!私たちは一致団結してモノクマに立ち向かわなくちゃいけないんだよ!?私言ったじゃん!みんなモノクマの被害者なんだって!それなのに、なんで邪魔するようなこと言うの!?なんで私たちを疑い合わせるようなこと言うの!?空気読んでよ!バッカじゃないの!?」

 「……」

 

 私の怒鳴り声が食堂にじんわり広がった。それきり、みんなの声は聞こえなくなった。はっとして見渡すと、尾田君と目が合った。これ以上ないほど冷ややかな、軽蔑するような、落胆するような目だった。

 

 「はあ……だから感情でしか話せない人は嫌いなんです。話になりません」

 

 そう言って、尾田君は踵を返した。

 

 「言うべきことは言いました。どう受け止めるかはあなた方次第です。そして、今後の身の振り方には気をつけた方が良いでしょう」

 

 私たちの方には目もくれず、尾田君はそのまま食堂を出て行ってしまった。言いたことだけ言って、何のフォローもせずに出て行った。繋がりかけていた私たちの絆をずたずたに引き裂いて、悪びれもせず——それどころか私に捨て台詞まで吐いて——出て行った。

 

 「なんなの……?もう、いやだよ……!せっかくみんなが一つになれそうだったのに。ね、風海ちゃん」

 「う、うん……まあ、そうだね」

 「イヤイヤ、今のは奉奉(フェンフェン)が悪いヨ」

 「え?」

 

 みんな共感してくれると思ってた私に、意外な言葉が飛んできた。私が、悪い?

 

 「内通者が本当にいるか分からないけど、いたっていなくたってそんなこと言うのは劉劉(リュウリュウ)にとってリスクしかないアル。本当にいたら狙われるし、いなかったらただ疑心暗鬼になるだけネ」

 「……だ、だったらなんでそんなこと言うの?わざわざそんなことするなんて……尾田君が私たちを疑心暗鬼にさせたいだけなんじゃないの?」

 「言うメリットの方が大きいから……少なくとも劉劉(リュウリュウ)がそう判断したってことネ」

 「言うメリット?」

 

 どうして長島さんは尾田君の味方をするんだろう。どう考えたって私たちがお互いを信じられないこと以上に悪いことなんてない。そうなることに何のメリットがあるって言うの?そんなの、尾田君が勝手に思ってるだけじゃないの?尾田君にとってメリットがあるっていうだけじゃないの?そんなのじゃ納得なんて——。

 

 「内通者にワタシたちの結束を邪魔させないよう牽制する……言っちゃえばそれだけアル」

 「……結束?」

 「そうヨ。隣にいる人を無条件に信じるなんて危険ネ。どんなに信頼がおける人でも、いつ心変わりして裏切るか分からないアル。それは今までのことで奉奉(フェンフェン)もよくわかってるはずヨ」

 「それは……そうかも、知れないけど……」

 「でも、隣にいる人が裏切るかも知れないって思いながらでも、手を組むことはできるヨ。疑って疑って疑った後にちょっとだけ歩み寄るのは、信じるよりも難しくて固い結束になるネ。自分の身を守ることもできるしネ」

 「ずいぶんと尾田の考えを理解しているんだな、長島」

 「経験則アル。ワタシはみんなより経験豊富なおねーさんだからネ」

 「なんの経験だァ?」

 

 そんなの、詭弁だ。尾田君に都合の良い解釈を無理にしてるだけだ。そう思った。思おうとした。でも、長島さんの声には無視できない重みがあって、説得力があって、本当にそうなのかも知れないって思わせる力があった。

 疑うことが信じるよりも固い結束を産むなんて、矛盾してるような……でも納得できるような。

 

 「ぼくも長島さんに賛成だな。今さら尾田くんが、敢えてぼくたちの仲を乱す意味はないよ。内通者がいるかも知れないって思ってるだけでも内通者の行動はかなり牽制できる。それでも特権的な位置にいることは変わらないけど……」

 

 湖藤君まで、そんなことを言う。毛利さんも王村さんも風海ちゃんも庵野君も……みんなおおむねその意見に賛同してる。私たちの中には内通者がいる。尾田君はそのことに警鐘を鳴らしてくれた。結果的に疑心暗鬼になってしまったとしても、何も知らずにいるよりよっぽど良い。

 さっきまで湧き上がってきていた勇気はすっかり萎れて、なんだか一人ぼっちになってしまったような気になってきた。みんなが尾田君に騙されてるの?私が意地になってるだけなの?私は誰を信じればいいの?私は……私を信じていいの?

 


 

 次の日の朝、と言ってもいつ寝たのか分からないから今が朝なのかどうかもなんだかよく分からない。気が付いたときには、自分の部屋のベッドに仰向けに倒れていた。服も着替えず、シャワーも浴びないまま。昨日のことをぼんやり思い出して、寝起きから最悪な気分になる。

 内通者……その存在が私たちの疑心暗鬼を加速させる。そんなことなら、内通者が存在することなんて知らなければよかった。そう思ってるのは、どうやら私だけだったみたいだ。みんな少なからず困惑していたけれど、おおむね尾田君の指摘を歓迎していた。知らないまま騙され続けるより、知った上で疑い合った方がマシだって。

 

 「……」

 

 せっかく前向きになりかけていた心がまた下を向き始める。それを自覚していても、前を向かせることも上を向かせることもできない。せいぜい、これ以上マイナス思考にならないよう自分で自分の気を休めるくらいのことしかできない。私ってこんな暗い性格だったんだ、と自己嫌悪に陥る。

 深いため息を吐いたのを合図にしたように、ドアを叩く音がした。

 

 「奉ちゃーん?起きてるー?」

 

 風海ちゃんの声だ。朝だから呼びにきたんだろう。たまに疲れが溜まって私が寝坊したときは、風海ちゃんが私の部屋にくることもある。最近は特に頻繁になってきた。私はのそのそ起き上がってドアを開けた。

 

 「わっ、すごい顔」

 「昨日あのまんま寝ちゃったから」

 「モノクマがみんなを呼べってうるさいんだ。たぶん、また新しいフロアの開放だよ」

 「んん……顔洗ったら行く」

 

 学級裁判が終わった次の日の朝、モノクマはこの希望ヶ峰学園のフロアを1つ新しく私たちに開放する。はじめは分館の2階、次はこの本館、その次は分館の3階。3階にはまだ上に行く階段があったから、今回は4階だろう。いったいいつまでこれが繰り返されるんだろう。うんざりする。

 風海ちゃんにはすぐ行くことを伝えて、洗面所に行って簡単に身支度を整えた。シャワーも浴びたかったけど髪を乾かす時間がないから簡単に濡れタオルで全身を拭いて、服を着替えて寝癖を直した。なんだかだんだん身だしなみが雑になってきた気がする。閉鎖空間にいるストレスだろうか。

 

 「よしっ」

 

 まあこんなもんでしょう、くらいの納得感で私は部屋を出た。待たせるとモノクマがどんな嫌がらせをしてくるか分からないし、尾田君にどんな嫌味を言われるか分からない。あの人の方が内通者よりよっぽどモノクマと気が合いそうだ。

 食堂にはすでに私以外の全員が集合していて、私のことを特に温かくも冷たくもない目で迎えた。昨日あんなに揉めたのに……揉めたからこそだろうか。

 

 「おっ!やっと来たねねぼすけさん!まったく、夜遅くまで起きてるから朝が弱くなるんだよ!たっぷり8時間30分睡眠が一番効率良いんだから!寝る前にはバッテリーをちゃんと確認しておいてね!」

 「何の話?」

 「手前たちを全員集めたということは、新たなエリアの開放なんですね?」

 「その通り!うぷぷ!庵野クンも分かってきたようだね!それじゃあみんな!4階階段前に集合!便利な呪文で一気に行っちゃおう!」

 「ダンジョンならそうかも知れないけどね」

 


 

 「よいしょ〜!」

 「なんだか一瞬だった気がするなァ」

 

 私たちは3階の階段前に集まった。シャッターで塞がれていた上への階段は開放されていた。もちろん湖藤君のための昇降機もついている。前に見たときはついてなかったはずだから、わざわざ後から取り付けたみたいだ。そんなに簡単なことじゃないはずなのに、ゲームみたいにポンと付けてしまうモノクマの力はどうなってるんだろう。

 

 「毎回毎回ちょっと期待してるのに、どうしてキミはこうもしぶといかなあ。面倒くさい奴だよまったく」

 「え?それぼくに言ってる?ひどいなあ。好きで歩けないわけじゃないのに」

 「さあねー?湖藤クンがそう思うならそうなんじゃない?オマエの中ではな!」

 「誰がどう聞いてもそうとしか思えないだろう。湖藤、手伝うぞ」

 「あ、いいよ毛利さん。私がやるから」

 「いつもごめんね、甲斐さん」

 

 昇降機に湖藤君を車椅子ごと乗せて、ボタンを押して動かす。ゆっくり動く湖藤君に合わせてなんとなくみんなゆっくり階段を昇るなか、尾田君と長島さんだけはさっさと行ってしまう。尾田君は自分のことしか考えてないからで、長島さんは意味のない気遣いはしないからだ。同じことをしてても違う印象を持つくらい、私は二人のことをよく知っている。

 なんだかんだで、もうずいぶん長いことみんなと一緒に暮らしている。他愛無い会話に花を咲かせ、命を懸けた修羅場を何度もくぐり抜けてきて、取るに足らないじゃれあいもして、時には本気で相手を攻撃したこともある。

 

 「ありがとう、甲斐さん」

 

 けれど最後には、いつもこんな風に屈託のない笑顔が迎えてくれる。湖藤君がいたからってわけじゃないけど、湖藤君がいると私の心が安らいでいくのが分かる。癒されるってこういうことなのかな。何と言うか、私はここにいていいんだって安心できる。非情に友達を見捨てたことを肯定してもらえるような、そんな感覚がする。

 

 「遅いですよ」

 

 どうやら私たちが上がってくるまでモノクマが5階の開放を待っていたらしい。尾田君と長島さんはちょっとの時間だけだけど待ちぼうけを食らっていた。

 階段を上がった先にはガラスの扉が立ち塞がっていてその向こうはなんだかやけに明るかった。目に刺さるような眩しい光じゃなくて、日差しのような温かみを感じる光だった。全員集まったことを確認して、モノクマが扉を開く。しっかり湖藤君が通るのに十分な幅までガラス扉が広がると、その向こうに新しいエリアが広がっていた。

 


 

 「むあ〜〜〜」

 

 上を向いた風海ちゃんの口から、そんな声が漏れる。高い。どこまでも高い。少なくとも今まで私たちが暮らしていた学園の中のどこよりも天井が高く伸びていた。天井を見上げる私たちの視界を遮るように、いくつかの丸が空中に浮いている。いや、あれは浮いているんじゃなくて、天井から吊るされてるんだ。つい最近、似たようなものが落ちてきたのを知ってるからか、みんなその下をなんとなく避けているようだった。

 上を見れば果てしなく、横を見れば情報量が多すぎて何がなんだか分からなかった。直線ばかりで構成された道は碁盤の目のように広がり、いくつもの区画を作っていた。区画のひとつひとつは色んな種類の木々が並ぶ大きさで、それだけでちょっとした林みたいになっている。

 真っ直ぐ伸びた道の先には、やたらと古めかしい日本家屋が建っていた。誰かが住んでいてもおかしくないような雰囲気だ。それが学園の1フロアにあるというのだから、こんなに不気味なことはない。

 

 「うぷぷぷぷっ、驚いた?これこそボク自慢の空中庭園!どこまでも広がる無限の空間にこれでもかと植物を植えちゃいました!よく見る花や花粉ムンムンの木、毒性植物に食虫植物、世にも珍しい世界に一つだけの花だってあるよ!」

 「無限の空間なのか!?どうなってんだ!?」

 「無限なわけないよ。ここは希望ヶ峰学園の中なんだよ。確かに広いけど……」

 「この広さだって十分意味が分からないだろう。希望ヶ峰学園はこんな空間の存在を許すほどキテレツな造りはしていなかったはずだぞ」

 「3年もあったら色々変わるんだよ」

 「変わりすぎだよ!?理事長はご乱心!?」

 「毒性植物もあると言いましたね。つまりそれは……」

 「別に摘んでもいいけど、だったら地下の薬品庫から取ってきた方がいいと思うよ。素人が簡単に扱える毒なんてたかが知れてるんだからさ」

 「そりゃそうヨ。摘んでもいいならフルーツもぎもぎしてもいいカ?」

 「うん、いいよ。完全無農薬栽培だからそのまま食べられます!お肉なんか食べなくてもここにあるものだけで生きていけるかもね!」

 「肉は食いてェなァ」

 

 長島さんは何を考えてるんだろう。こんなところにある果物なんてわざわざ食べたいと思わないけどな。

 

 「いちおう忠告しておくけど、このフロアは柱や壁が少ない分、とっても広いからね。迷っても出口は一個しかないから気をつけてよ。ま、もしかしたらフロアの奥で何か見つかるかも知れないけどね」

 「奥っていうか、あそこになにか見えてるんだけど」

 「気になるなら行ってみたら?このフロアについてボクからは以上です!それじゃあがんばってね〜!」

 「頑張ってって何を……?」

 

 意味深なことばかり言って、モノクマは林の向こうに消えて行った。無限なんていう言葉を真に受けるわけじゃないけど、その表現に説得力を感じるくらいには、この空中庭園は広かった。空中というのに4階は低いような気がするけれど。

 

 「よーし!探検行こう!」

 「危機感というものがないのかお前は。モノクマがまともな植物園を用意してるはずがないだろう」

 「こういうところ来ると、取り敢えず全種類を見て回りたくなっちゃうよね。水族館とか動物園とかも。一筆書きで行けるルート探そうとしちゃうよね」

 「そのあるあるはちょっと分かるけども」

 「庭園自体は広いので、あの奥にある建物を調べる班と庭園を調べる班に分かれるのはいかがでしょう」

 「構いませんよ。僕は庭園を調べます。建物の中は何があるか分からないので、何があっても構わないという人が行けばいいと思います」

 「すぐそういうこと言う。そんなんじゃ誰も行きたがらないよ」

 「お、おいらも酔い覚ましに外にいようかな……屋敷の部屋とか壁が回転したら酔っちまうし」

 「なにそれ?」

 

 話し合いの結果、4人ずつの2班に分かれることになった。私と湖藤君と庵野君と風海ちゃん、尾田君と王村さんと長島さんと毛利さん。ちょうど男女半分ずつだ。尾田君がさっさと外の探索に行ってしまったから、私たちはお屋敷の中を探索することになった。

 お屋敷は土間があって床が一段高くなっていた。このままじゃ湖藤君が入れない。そもそも板張りの床に車椅子は傷がつくから上がれない。当たり前みたいに庵野君が湖藤君を車椅子ごと持ち上げたから慌てて降ろさせた。仕方なく、私と湖藤君はお屋敷の裏に回り込んで外から建物を調べることに。風海ちゃんと庵野君は中を調べてもらうことにした。

 

 「古く見せてるけど、新しい建物だね」

 「そうなの?」

 「ここは室内だし植物を育てるために室温や湿度が一定に保たれてる分、普通の建物よりは劣化の具合がマシだと思うけど、それにしたってこれは新しいよ。たとえるなら……未開封で保存してた1年前のパック牛乳と新品のパック牛乳ぐらい違うかな」

 「お腹壊しそうな喩え。っていうことは、これはモノクマがわざわざ新しく建てたものってこと?」

 「ただの空中庭園だと味気ないから急遽追加したのか、何か他の意味があるのか……突貫にしては丁寧な仕事だから、どうも急いでる感じじゃないみたいだけど」

 「そんなことまで分かるの?」

 「そりゃあ、ぼくは“超高校級の古物商”だからね。むしろこれが本職だよ」

 「あ、そっか。忘れてた」

 「ひどいなあ」

 「だっていつも超能力者みたいなことしてるし、なんかそれっぽいことも言うから」

 「超能力は本当だよ。ぼくはサイコメトラーさ」

 「そういうところだよ」

 

 建物の裏は漆喰の壁に囲われていて中の様子が分からない。屋根から推測できるお屋敷の大きさもさることながら、庭にあたる部分の広さもなかなかだ。壁は空中庭園の端っこまで続いていて、反対側に回り込むことはできない。仕方ないからお屋敷の正面を通って反対側を覗いてみるけど、やっぱり同じ光景が続いているだけだった。

 

 「分かることはなさそうだね」

 「うん……ただのオブジェ以上の意味はなさそうだ」

 「中の二人は大丈夫かな?」

 「行ってみよっか」

 

 またお屋敷の正面に回り込んで、私だけがお屋敷の中に入っていく。湖藤君は車椅子でも移動できる土間を行き来して、屋敷の中をじろじろ観察することにしたみたい。

 お屋敷の中は畳敷で襖もないお粗末なもので、唯一空間を仕切っている木製の引き戸以外は特筆することもない。風海ちゃんも庵野君も見える範囲にはいなかったから、たぶんその引き戸の奥に行ったんだろう。私は建てつけの悪いその戸を開けた。

 

 「あれ、奉ちゃん。外はもういいの?」

 

 戸を開けたら、すぐに風海ちゃんが私に気付いた。壁際に積まれている円座のひとつをお尻の下に敷いて、日陰になっている軒下であぐらをかいていた。庵野君はだだっ広い庭に降りて熱心に調査をしていた。壁に隔たれて見えなかったそこは、庭という雰囲気じゃなかった。四方を囲うはずの壁のひとつがすっかりなくなって、反対側に白黒の的が並んでいる。日本刀の切れ味を示す動画でよく見る巻き藁がピラミッド状に積み重ねられていて、ボコボコに叩かれた形跡がある案山子も何体かあった。

 

 「ここ、なんなの?」

 「武道場だよ。あれは弓道、あっちは剣道、畳の部屋は柔道かな。ちゃんと道具も揃ってたよ。危ないからって庵野さんが畳をひっぺがしてその下にしまっちゃったけどね」

 「解決方法がパワープレイすぎるよ……」

 「でも在処を知ってるのは庵野さんだけだし、畳を全部剥がすなんて他にできる人いないから、いいと思うよ」

 

 あの穏やかな顔で畳をセロテープみたいに剥がす庵野君を想像したら、なんか面白かった。確かに、今いる男子でそんなことができる人はいないだろうし、女子なら毛利さんや長島さんは畳を剥がすことはできても、あの広い中のどこにあるか分からないんじゃ、探し当てるまで続ける体力はないだろう。

 

 「筋肉は全てを解決するってこういうことなんだね」

 「違うと思うけどなあ」

 「おや、甲斐さん。湖藤君はおひとりで大丈夫なのですか?」

 「土間にいるって。外からじゃ中の様子が分からなかったから、私も見ておこうと思って」

 「それは良いことですね。ですが、ここは見た通りの場所です。何か隠してあるというわけではありません。おそらくはモノクマが単に凶器を与える口実として設置したのでしょう。先ほど凶器になりそうなものを畳の下に隠したところです」

 「ああ、うん。風海ちゃんから聞いたよ。そのやり方ならきっと大丈夫だね」

 「筋肉は全てを解決するというのはこういうことです」

 「じゃあもうそうなのかな」

 

 ふたりで打ち合わせした?

 


 

 「うん、うめえアル。なかなかイケるヨ」

 「普通に食べている!?よせそんな得体の知れないもの!吐き出せ!ペッしろ!ペッ!」

 「なにしてんだか」

 

 ふざけるならついて来なくていいのに、後ろでぎゃあぎゃあ騒がれるのは耳障りでしかない。勝手に長島が毒味をしてくれたが、どうやらここの果物は普通に食べられるらしい。まさかここで食糧庫にある分をまかなっているわけもないので、栽培していることに意味があるのだろうか。

 それにしてはこの辺りは雑木が多い。果物の成っている木も整然と並んでいるのではなく、まるで何かを隠そうとしているかのように、どこへ進んでも真っ直ぐ進めないように配置されている。モノクマはこの庭園に何かを隠している?ここはモノクマにとってどういう場所なんだ?

 

 「お、おいおい尾田。あんまりどんどん先に進むない。はぐれたら危ねェぞ」

 「僕は別にあなた方に付いて来られなくても構いません。なんなら3−1で行動してもいいですよ」

 「あのなァ、別に説教ってわけじゃねェし、この状況でおいらが頼りにならねェなんてこたァよォくわかってるつもりだ。それでも言わせてもらうぞ。おめェはとにかく人から信じられようって気が感じられねェ!そんだけキレる頭持っててもったいねェぞ!」

 「ご忠告痛み入ります」

 「ぜってェ思ってねェだろ!!」

 

 なぜ人から信じられないといけないのか。僕はいつも正しいことを言っている。少なくともやること、言うことには意味がある。なんとなく、無意味に、気の向くままになんて非合理的なことは一切していない。狭山の死体を溶かしたことに生理的嫌悪を感じる人がいることも分かる。独善的だと後ろ指を刺されることも理解できる。ただ、倫理に悖るからと言って、独り善がりだからと言って、何がいけないというのだろう。

 僕が意図したことは確かに果たされたし、それは僕にとって——ひいては彼らにとっても有益な結果を残している。そう、結果を出しているのだ。疑いようのない事実がある。敢えて隠しているのも事実だが……それでも、彼らは気付いてか気付かずか、その利益を享受している。僕を非難する一方で、僕がもたらす恩恵に預かっている。

 

 「僕に言わせてみれば。あなた方のように自分がいかに幸せかを理解せず弱者を攻撃する人の方がタチが悪いですがね。まあ、それが分かってないから幸せなんでしょうし、なおのことタチが悪い」

 「ん?なんだ?どういうことだ?」

 「言いたいことがあるなら命を懸けろ、ってことです。特にここでは自分の心臓をベットして初めて得られるものがあるんです」

 「なにを今更なこと言ってるカ。だからワタシは劉劉(リュウリュウ)を頼ってるヨ」

 「うおっ!?いつの間に!?」

 「結局たらふく食べやがった……。警戒心というものがないのかお前には——いや、ないわけないんだが……」

 「食べ物に毒が入ってるかどうかなんて散々警戒してきたから見分けられるヨ。そんなことより、また劉劉(リュウリュウ)がなんか見つけたカ?」

 「いえ、別に」

 「な〜んだ、つまんないネ」

 「おめェ、尾田のことを頼ってるってどういうことだよ。確かにこいつは頼りになるけど、だからって手放しに信頼していいやつかってェと……」

 「だってワタシの代わりに命懸けて色んなこと調べてくれてるヨ?頼らなきゃ損ネ」

 「あなたもずいぶんな強者(あくにん)ですね」

 「劉劉(リュウリュウ)ほどじゃないヨ」

 

 なるほど、これはもっとタチが悪い。この空間の本質に気付いていながら、敢えて平和ボケした連中に紛れて僕のような情報源に寄生するという……強かと言えば聞こえはいいですが、寄生される側からしたら癪ですね。かと言って誤情報を流して混乱を招いても僕にメリットはない。まあ、少なくとも僕の邪魔をしないならタダ乗りは見逃してやりますが——たとえなんであれ、この僕から奪うというのなら、それなりの代価はいつか支払ってもらわないと。

 

 「ムフフ……劉劉(リュウリュウ)、強い女は嫌いカ?ワタシは手強いヨ」

 「別にあなたに勝とうが負けようが、最終的にモノクマが倒せるならなんでもいいですよ」

 「長島はいったいどうしちまったんだ?こんな挑発的なやつだったか?」

 「挑発的というか、強かな面があったのは確かだが……まあ、私は長島も尾田も、モノクマと戦うのに不可欠な人材だとは思っている。ヒビの入りそうな均衡でも、ないよりはマシだ。今はこのままでいい」

 「おいらたちゃ別にいいんだけどよォ、こりゃまた甲斐がぶっ倒れちまうぜ」

 「確かに……あいつはなんでも抱え込みやすい気質だからな。どうしたものか」

 

 ふと聞こえたその名前に、僕は自分の機嫌が一気に悪くなったのを客観的に感じ取った。なぜか。やたらと僕に突っかかってくる口うるさいやつだ。突っかかってくること自体は共感できるからいい。なら何が嫌なんだ?

 やたらと正論と感情論を振りかざすくせに自分の意見がない空っぽなやつだ。それはそういう手合いが嫌いなだけで、甲斐という個人が嫌いな理由にはならない。

 何かにつけて落ち込んでネガティブなことを言って空気を悪くするやつだ。いやいやいや、僕以上に空気を悪くするやつなんていない。それくらいのことは僕にだって分かる。

 じゃあ、僕はあいつの何がこんなに嫌なんだ?嫌というより……腹立たしい。なぜあいつを見ているとムカムカしてくるんだ?そんなことを感じている場合ではないというのに。

 

 「分かりやすく尾田がいらついているな」

 「別にいらついてません」

 「いらついてるやつの言い方だなァ。声がトゲトゲしてるぜ」

 「劉劉(リュウリュウ)奉奉(フェンフェン)のことが嫌なんだヨ。嫌よ嫌よもナントカのうち……って日本語もあるアル」

 「ベタなからかい方ですね。思ってればいいんじゃないですか?」

 「からかい甲斐がないやつアル」

 

 こいつら、本当に分かっているのか?危機感がなさすぎる。この中に内通者がいてもおかしくないんだぞ。




1ヶ月ぶりだったので更新を忘れていました。楽しみにされていた貴い方々、それ以外のタンパク質の皆さん、すみません。
まあ1ヶ月に比すれば1時間なんて誤差よな。

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