巨大なモニターに映った光景を見て、赤郷は目を丸くした。黒いもやのようなものが、自分たちのいる建物に向かっている。それは人だった。一様に武装し、中には武装車や軍用機のようなものも見えた。
「ありゃなんだ。どういうことだ」
「向こうの特殊部隊ですね。思ったよりも早い到着になりやがりそうです」
「こっちの援軍は」
「そんなの期待してたんですか?あなたのことだから覚悟くらいできてると思ってましたが」
「そうじゃねえよ。俺らがやられたら誰が
くいっ、と赤郷が顎で自分たちの隣に置かれた装置を示した。静かなモーター音を微かに漏らしながら、中ではときどき泡が立っている。神秘的な光が中にあるその姿をぼんやりと照らす。いまの赤郷と青宮にとっては、命に代えても守らなければならないものだ。だが、死んでしまえばこれが無防備になってしまう。
「守れねえですね。ぶっ殺されないようにしてください」
「学者先生は無茶言うぜ」
「俺は学者じゃねえですよ」
自分の体ほどもある巨大な銃を肩に預けて、赤郷がぼやく。その間も青宮は一瞬も指を止めずに複雑なコードを書いている。たちまち建物のセキュリティを乗っ取って厳戒態勢に突入する。基地で起きた戦闘の片付けをしていた部隊員たちは、警報が鳴るやすぐさま武器をとって臨戦体制に入る。
「ってことはつまり、初めからここにいる奴らは捨て駒かなんかだったってことか?」
「失っても問題ない程度の無能ってことですね。あるいは、我々に警告を与えるためのコストかと」
「何にしろ浮かばれねえな。胸糞の悪ィこった」
うずたかく積み上がった人の山。敵も味方も死んでしまえば同じだ。こちらに銃を向けることはないが、敵にも銃を向けてくれない。ただそこに存在するだけの肉塊になってしまう。彼らは何を思って死んでいったのだろう。何に向けて銃を構え、向かってくる自分たちの姿に何を感じ、何を思って死んでいったのだろう。そこに思いを馳せるのは一種の現実逃避だろうか。あるいは弔いのつもりか。
人の死を前にすると、赤郷はどうにも自分が詩人になったような気がして、そんな自分を客観的に観察しては小っ恥ずかしくなるのだった。
「お互い様ですよ。さ、早いとこ前線に出てください。俺たちはあんたたちを信じるしかないんだ」
「それこそお互い様だ。きっちり仕事してくっから、こっちのことは任せたぜ」
「ええ。止めますよ。
そんな
大地の揺れる音が聞こえる。時は近いらしい。
内通者——少し前は裏切り者の存在も仄めかされていたっけ。結局あれはモノクマがぼくたちを疑心暗鬼に陥れるための言葉の綾みたいなものだったけど、今回は本当にそのままの意味だろう。ぼくらの中に潜んでモノクマと裏で通じている者。
候補は何人かいる……と言っても、今の人数では絶対にあり得ないという人を除けば数人しかいない。絶対に内通者であり得ないのは、自分自身だけだ。甲斐さんや宿楽さんが内通者ではないだろうとは思うけれど、100%の自信を持って言えることなんて、コロシアイ生活にはない。そもそもその内通者はいつから内通者だったのか。初めにみんなで体育館に集まったあのときには、すでにモノクマの息がかかっていたのか。それともこのコロシアイの途中でヘドハンでもされたのか。その前はまた別の誰かが内通者だった可能性もある。
「うんうん」
これは疑っているんじゃない。可能性を論っているだけだ。だからぼくは、頭に浮かんでは消えていく全ての可能性を、同じくらいにしか信用していないし、同じくらいには疑っている。どこまでも合理的で論理的な思考、それこそが内通者を最も無力化する手段だ。
それにしても内通者は自分の存在に尾田くんが気付いたことに、今朝まで気付かなかったんだろうか。少なからず探りを入れられていたはずだ。それとも、内通者の存在自体が尾田くんのブラフ?モノクマへの牽制のつもりか、あるいは尾田くん自身が内通者なのか……。そういえば。
「まだ教えてもらってなかったなあ」
「え?なにが?」
「あれ。声に出てた?」
「ずっと出てたよ。なんかひとりでうんうん言ってて気持ち悪かった」
「そんな明け透けに言わなくたっていいのに」
「また考え事でもしてたの?」
「ちょっと、内通者のことについてね」
4度目の学級裁判を終えて、新しく解放されたモノクマ自慢の空中庭園にぼくたちはいた。ひととおりの探索を終え、ここには脱出の手がかりやモノクマに対抗する手段はないという結論になった。ここよりさらに上に続く階段があった——もちろんシャッターで塞がっていたけれど——から、まだモノクマは最終決戦を始めるつもりはないらしい。最終決戦なんてものをモノクマがするつもりがあるのか、それすらも定かではない。でもこれまでの言葉の端々には、モノクマがぼくたちといつかケリをつけようとしている意図が感じられた。まるで決められた物語をなぞるように、モノクマは自由なように見えてレールの上を走っている。そんな印象を受けた。
「尾田くんはぼくたち全員の前で、内通者の存在について明言した。もちろん、内通者自身は自分の存在が明るみになったことをモノクマに伝えるはずだ。そうでなくてもモノクマは見ているだろうけどね。なのに、モノクマサイドからは何の音沙汰もない」
「触れられたくないから触れてないんじゃないの?」
「そうえいば、尾田さんはモノクマに案内されているときにその話をしませんでしたね。彼ならあのタイミングでカマかけの一つや二つしそうでしたが」
「それに意味があればやったかもね。どうせこっちの情報は筒抜けなんだ。頭の中で考えてることならまだしも、声に出したり文字に書いたりした瞬間にモノクマにバレてしまう。慎重にもなるさ。ぼくには、モノクマが何のリアクションもしないことの方が不思議だな」
「意外と焦ってどうしたらいいか分からなくなってるのかも」
もしかしたら内通者の存在がバレることは、モノクマにとって予想外のことだったのかも。そう思ってしまうくらい、ぼくの中のモノクマ像とリアクションが違う。まるで、中の人が変わってしまったみたいだ。
「内通者がいるとしたら、湖藤さんは誰だと思う?」
「そんなこときくものじゃないよ。もしぼくが当てちゃったらどうするの」
「すごい自信」
「そうでなくたって疑心暗鬼のタネなのに、余計な波風を立てさせるのはよくないよ」
「尾田君みたいに、内通者のことなんか言うのが一番波風立たせてるよ」
「まあ、そこはバランスを見てって感じじゃない?それに、尾田君自身が内通者っていう可能性もあるんだし」
「……普通に考えから外してた。本当じゃん……!全員同じだけ可能性があるならそうじゃん……!」
目を丸くした顔文字が宿楽さんのサングラスの表面に表示される。本当に目は口ほどに物を言う人だ。敢えて自分にとって不利な発言をすることで、自分がその発言で不利になることを誤魔化す。子どもでも扱える初歩的なテクニックだけど、それだけにこれを疑いだすと何も信じられなくなる。人は考えすぎると物事を正確に捉えることすら難しくなってくる。つまり、相手を混乱させるには有効なテクニックってことだ。
そもそも尾田君は、ずっとぼくたちに嘘を吐いている。別に吐く必要もない嘘だと思うのは、ぼくが当事者じゃないからかな。それとも、ここを無事に出た後も同じことをし続けるつもりだからかな。うーん、これは止めるのが人として正しいのかも知れない。
「人を疑うことは心地よいです。人を疑えば疑うほど、翻って自らのことは真っ当に映るものです。ですから、常に自己を顧みることが大切なのです。人に向けるべきは猜疑ではありません。『愛』ですよ。隣人を愛しなさい」
「尾田さんに愛を向けろっていってもなあ……奉ちゃんじゃないんだし」
「なんで私が出てくるの。私、尾田君に愛情なんてないよ」
「うんうん。そうだね、ないね」
「あると思ってる人の言い方だよねそれ」
「あった方が宿楽さんにとっては面白いんだよね」
「そらね」
なんと言うか、宿楽さんも大概たくましい人だ。こんな状況で自分の趣味を大っぴらに話して、その上で楽しむ余裕も見せるなんて。庵野くんもいつもの調子を崩さないし、みんな結構神経が図太いんだなあ。むしろ甲斐さんみたいに人の感情の機微に敏感で共感しやすい、危うい人の方が珍しいみたいだ。
「内通者のことは手前も気掛かりではありますが、それよりもモノクマにどう対抗するかが大切です。内通者を暴くことは直接モノクマを倒すことにはつながりません」
「確かに。モノクマに何か弱点とかないのかな?」
「弱点……弱いで言えば、ダメクマとか?」
「そんな可哀想な思い出し方」
「なにかとモノクマにいじめられてるし、なんとなく私たちにも強気にはなりきれない部分があるっていうか」
「というより、モノクマと同じ格好をしてるってだけで、言ってることはわりとモノクマと正反対じゃない?」
「確かに、コロシアイを止めようとしたり私たちの身を心配してたり、明らかにモノクマとは立場が違うような感じ。なんでだろ?」
「手前どもを混乱させるためではないでしょうか?見た目では判別がつきにくいですし、最後には裏切るかも知れませんよ」
「モノクマとダメクマに対しては愛とかないんだね」
「あれに無償の愛を与えよというのは無理があります。有償の愛ならその限りではありませんが」
「運営なの?」
正直、ダメクマの存在はモノクマが用意したものだとは思えない。出てくるタイミングが中途半端だったし、ダメクマはモノクマと鉢合わせたときにひどく狼狽していた。まるで、モノクマに隠れて何かをしようとしていたような。ぼくらの中に内通者がいるんだとしたら、ダメクマはモノクマサイドに潜り込んだ第三者という感じ。
それに加えて、ここが本当に希望ヶ峰学園なら、外の世界ではここを不法占拠するモノクマに対して何らかのアクションを起こしているはずだ。にもかかわらず、二つ目の動機のときにはぼくたちの親族はモノクマのお面をつけている人たちのことを何とも思っていない風な様子だった。あれが合成か判別はできなかったけど、もし合成じゃないとしたら……。
「もしかしたら、ぼくたちが思ってるより、外は大変なことになってるかもね」
「えっ」
「一向に助けが来ないことだけでも、外の世界ではぼくたちの救出が絶望的だというのに十分な根拠になるよ」
「そんなあ。なんでそんな気を削ぐようなこと言うの」
「ごめんごめん。でも、何の心の準備もしないまま絶望に立ち向かうより、少しだけでもその可能性を念頭に置いておいた方がダメージも少ないと思わない?」
「そりゃそうだけど……」
「それに、外から助けが来るのを待つよりも、ぼくたちがここから出る努力をする方がよっぽど見込みのあることだと思うよ」
「どうして?」
「モノクマがそれを望んでいるからさ」
きょとん、とした3人の顔が面白くて、ぼくは敢えて何も言わずににこにこしてみんなの顔を見る。
「いや説明してよ!?にこにこしてないで!」
「モノクマが手前どもの脱出を望んでいると?」
「望んでるのは脱出じゃなくて、その手前にあるぼくたちとモノクマの決戦だよ。これまでのモノクマの発言や、裁判場での立ち居振る舞いからして、モノクマは学級裁判を通じてぼくたちが少しずつ事件や推理に慣れていくことを喜んでいる節がある。おまけに、あからさまに何か大きな謎の存在を仄めかしている。まるで、ぼくたちに解いてみろとでも言うように」
「そんなのあった?」
「あったあった。そろそろ、もっと露骨になってくるんじゃないかな?気付いてる人が少ないから」
「……」
ここが希望ヶ峰学園だと言ったり、明らかな超テクノロジーを惜しげも無く無駄遣いしたり、意味深な動機の数々を見せつけたり……この学園の中にある設備だってそうだ。ぼくたちに何かを訴えかけてくるようなんだ。なにか、ぼくたちが忘れてしまっている古い出来事の記憶を。
「モノクマを倒すためにはどうすればいいと思う」
まさか私がこんなことをするなんて、自分でも思っていなかった。私は、図書室で本を読んでいた尾田を見つけて、居ても立ってもいられなくなって、頭を下げた。頭を下げている間は見えなかったが、尾田が深いため息を吐いた声が聞こえた。たぶん、心底面倒そうな、見下げるような視線で私の後頭部でも見ているのだろう。ひとまず本は置いてくれた。話を聞く気があるようだ。
「なんでそれを僕に訊くんですか」
「もうこれ以上コロシアイを繰り返すわけにはいかない。モノクマが次の手を打ってくる前に、何か手を考えなければいけない」
「それは僕に訊く理由になりません。湖藤クンか甲斐サンでも頼ったらどうですか?」
「甲斐にできないことを私が代わりにやっているんだ」
「意味が分かりません。質問にも答えられない人とは話したくないんですが」
分かっているくせに。私になんか分からない多くのことを、おそらくこの男はとっくに理解している。もしかしたらモノクマについてもっと詳しいことを知っているかもしれない。内通者の正体だって既に掴んでいるかもしれない。だから私は、その情報を少しでも多く引き出すか、尾田が自分から話してもいいと思えるように説得しなくてはいけない。
「私にはそれしかできないんだ」
「?」
「分かっていると思うが、甲斐はお前のことが嫌いだ」
「ええ。自分でも笑えるくらいに水と油です」
「一方、モノクマと戦う上でお前の力……お前の頭脳は大きな戦力になる。欠かすことはできない」
「あなたに褒められても大して嬉しいと思いませんが、まあ事実は事実として受け止めましょう。少なくともあなたよりは役に立つでしょうね」
「甲斐もそのことは分かっているはずだ。だが、あいつがお前とまともに話すことができるとは思えない。お前もお前で甲斐と素直に協力なんてしないだろう」
「そんなことはありませんよ。喜んで協力します」
「そうなのか?」
「まずは彼女が自分の不出来さをきちんと認めて、今までの生意気かつ身の程知らずな行いや僕に対する暴言を謝罪のうえ撤回、今後は口答えをせず素直に僕の言うことに真摯に耳を傾けることを約束すると言うのなら、僕も鬼じゃありませんから」
「今のを甲斐が聞いたら鬼のごとく怒りそうだ」
そういうところだぞ、と言いそうになったのをぐっと堪えた。しかしこれで改めて——と言うべきか嫌と言うほどと言うべきか——甲斐と尾田が協力することは絶望的だと言うことが再確認できた。仮に甲斐が大幅に譲歩して今の言い分を飲んだとしても、そんな上辺だけの協力関係がいずれ破綻することは目に見えている。私は誰よりも近くでそれを見てきた。
「モノクマと戦わなければいけないというのに、肝心要のお前たちがそんな状態では結束も何もない」
「ちょっと待ってください。肝心要、というのは?僕が要というのはさっきのあなたの評価を聞けば納得はできますが、甲斐サンがなんの要になっているというのですか」
「……情けない話だ。少なくとも私はあいつの2つも年上なのに、私たちの精神的支柱になっているのはあいつだ」
「もう5つ上の飲んだくれがいるんだから気にすることもないでしょう。で?精神的支柱?彼女がですか?」
「今なら、狭山が言っていたことが理解できる。私たちはともにモノクマの敵であるが、だからと言って結束できるかと言えばそう簡単な話ではない。そのためには、強烈なシンボルが必要だったんだ。狭山はそれになろうとしていた。だが……」
「彼女は少し焦りすぎです。モノクマが殺人を唆してくる状況だったとはいえ、強引な手を使うならもっと上手なケアが必要でした。それに、消極的な戦いはジリ貧になるしかありません」
「やつはやり方と理想を間違えた。それに、お前や甲斐、月浦のように取り込まずに協力すべき者まで無理に取り込もうとしてしまった。全てを肯定するわけではないが、学ぶべき点はあったと思う」
「なるほど。次にあなたが拠り所に選んだのが甲斐サンというわけですか。僕が言うのもなんですが、狡猾な人ですね」
「そんなつもりはない。ただ、私が言うよりよっぽど多くの者が付いてくるのが甲斐だと思っただけだ」
私は人を評価できるような立場の人間ではない。だが、なんとなく誰が誰のことを好いていて、誰がみんなから嫌われているか、それくらいのことは分かる。その点で言えば、私たちのリーダーとなるべき人間は甲斐しかいない。
尾田と王村は論外だ。長島は引き受けるだろうが自分のメリットを中心に考えるだろう。宿楽には荷が重いだろうし、庵野は頼もしくはあるが人の上に立つタイプの人間ではない。湖藤は能力も高くリーダーとなれる素質も十分にあるだろう。だが、敢えて自分から人を遠ざけようとする節がある。私たちとは感覚もずれているし。
だから、消去法というわけではないが、甲斐は誰よりも感情的だ。それは、殺された者たちに、殺してしまった者たちへの共感と哀悼、モノクマへの怒りから分かる。決して感情に任せた理屈がない人間というわけではない。尾田や湖藤ほどではないが、甲斐だって推理ができる。その上、ふたりにはない、他者への思いやりができる人間だ。
「ずいぶん甲斐サンのことを買っているようですが、そこまで言うならあなた自身はどうなんですか。わざわざ甲斐サンを表に立たせることもないでしょう。狭山サンはそれで失敗したんです」
「狭山の件は、私が奴を唆したことはない。むしろ私は奴を止めるべきだったと後悔しているくらいだ」
「ま、死人に口無しと言いますし」
「お前……狭山に関してはお前だって後ろめたいことがあるはずだろうに、よくそんな態度でいられるな。説教するつもりはないが……やはり、私たちとは違う神経で生きているのだろうな」
「僕は後悔をしないので、後ろめたさなんてありません。それより、あなたは」
「私は人を導けるような人間じゃない。狭山の横暴を止められなかった私が、いまさらどんな顔であいつらのリーダーなどすればいいんだ」
きっと、私が何を言おうと狭山を止めることはできなかっただろう。私なんかに言いくるめられるなら他の誰かが狭山を止めている。それでも、考え直すように言ったり、多少なりとも態度を緩和させるくらいのことはできたはずだ。それもしなかったのは私の罪だ。
「なるほど。それで自分から、頼まれてもいないのに、勝手に、仲介役など買って出ているわけですか」
「甲斐にはこれから話をする。その前に、お前の協力を取り付けておきたいんだ」
「僕にとってメリットがないのでお断りします」
「モノクマとの戦いに備えて味方を増やしておくのはメリットだろう」
「あなたが、甲斐サンが、湖藤クンが、他の誰かが内通者でないという証明ができない以上は不可能です。少なくとも僕からすれば、他の誰かの中に内通者がいるんです」
「それは……そうだが……」
それは私だって同じだ。甲斐が内通者でない根拠などない。ただ、今までの甲斐を見ていて、これまでのモノクマに対する態度を見ていて、コロシアイに対する向き合い方を見ていて、内通者になんてとても見えない。それは演技などではないはずだ。そう感じる。感じるだけだ。そんなことで尾田を説得できないことは百も承知だ。
「まあ、協力が必要だという話は理解しました。僕も概ね同じ意見です。
「……くっ」
長いこと喋っていたが、結局成果は何も得られなかった。私にこの男くらいの頭脳があれば。甲斐のような訴求力や人の心に寄り添う力があれば。自分の意見を臆せず口にできる力があれば。
ないものねだりに意味はない。落としかけた肩をぐっと上げて、私は図書室を後にした。必ず尾田と甲斐を協力させてやる。私たちの勝利には、それが必要なんだ。
〜〜〜〜〜〜
ここは手前の部屋のはずなのですが、なぜか手前以外の方がいらっしゃいます。招いた覚えはないのですが。
「おっ、これはちょっと重いアル。う〜ん!持ち上げられないヨ」
「長島さん。危ないからあまり色々いじらない方が」
「うほーっ!これは面白いネ!ガショーンガショーン!」
突然部屋に押しかけてきたかと思えば、長島さんは手前のトレーニングマシンをあれこれ楽しそうにいじり回しています。高いものもあるのであまり不用意に触ってほしくはないのですが……。
「一体どうしたというのですか。長島さんが手前に御用なんて珍しい。トレーニングマシンが気になっていじりにきたというわけでもないでしょう」
「トレーニングマシンがきになったからいじりに来たヨ。いじらせろアル」
「そんなバカな」
「冗談アル。カッカッカッ!焦らなくてもちゃんと返してあげるヨ。ほいっ」
「ダンベルを投げないでください!床が傷つく!」
「こんなのとっさにキャッチできるの、
「帰ってもらっていいですか」
「こんな美少女つかまえて帰れとは何事カ!」
つかまえた覚えもありませんし、長島さんは魅力的な方だとは思いますが美少女かと言われると……個人の趣味嗜好なのでなんとも言えませんが。
「手前に何か御用ですか?」
「用がなかったら男の部屋になんか上がり込まないアル!ワタシはそんな軽い女じゃないアル!むしろ重いヨ!重たーい過去あるヨ!」
「それはそれは。で、用というのは」
「そろそろワタシは本気になるべきときだと思うネ。モノクマとの戦いもそうだけど……ワタシたち同士の戦いもネ」
「はあ」
モノクマと戦うという話は分かりますが、私たち同士?それはつまり、モノクマに対する手前ども、その間での戦いということでしょうか。いったい、何の話でしょう。
「ワタシは基本的に人を信頼なんてしないアル」
「導入がすでに不安ですね。なぜそんな悲しいことをおっしゃるのです」
「信頼してたら裏切られたときに悲しくなるヨ。だから裏切られる前提で人と接するようにすれば、もし裏切られてもなんともないし、裏切られなければラッキーアル。そうやってワタシは生き抜いてきたヨ。そうしないと生き抜いて来られなかったヨ」
「お辛い人生を送ってきたんですね」
「でもおかげで手に職つけられたヨ!“超高校級のスナイパー”なんてカッコイイし、この才能でお金だって稼げるアル!」
「スポーツライフルの才能とうかがった覚えがありますが」
「そんなのタテマエに決まってるヨ。日本人はホンネとタテマエの使い分けが上手なんでしょ?」
「建前というかウソなのでは……?」
「こまけーこたいいんだヨ!えっと、何の話だったカ?そう、ワタシは人を信頼はしないけど、同じ方向を向くことはできるヨ!
「話が進めば進むほど見えなくなってきますね。もう少し削ぎ落としてお話いただいても?」
「しょーがねーやつアル」
「申し訳ない」
話している間も長島さんは、部屋の中をうろうろ歩き回ったり、トレーニングマシンをいじったり、ベッドの上をぴょんぴょん跳ね回ったり。落ち着きがないというよりも、一箇所に留まっていられないという心理的な不安定沙を感じる。それも、彼女の生い立ちに関係があるのでしょう。なんとも悲しい話です。大いなる『愛』の庇護下におきたいと思いますが、今は彼女の話を聞かなければ。全然出て行ってくれない。
「モノクマと戦う前に、攻略しないといけないやつがいるって話ヨ」
「攻略……というと?」
「たとえば、
「それは確かに。心当たりがあるのですか?」
「むっふっふ、それは言えないヨ」
「はあ。分からないのですね」
「うっせーアル!口答えするな!」
「口答えはしてません」
「ともかく内通者は正体を暴くか排除しないといけないアル。でも問題はそれだけじゃないアル」
「他にも何かあるのですか?」
「
「月浦君は亡くなっていますが……彼のように、独自の価値観で行動する方ということですか」
「そういうことアル」
確かに、長島さんの心配も尤もだ。月浦君の暴走を止められなかったのは、彼が陽面さんのためならなんでもする人間だと分かっていながら、どこかその異常性を軽んじていたためだ。まさかあんなことまでするほど理性の箍が外れていた……外れてはいないか、理性をしっかりと働かせた上で彼はああだった。だからこそ余計に始末が悪い。
そして、いま生き残っている中に、彼と同等かそれ以上に質が悪い思想に染まりきっている誰かがいないとも限らない。そうなれば……面倒なことになる。
「どうでしょう。尾田君などはまさにそんな印象を受けます。今でこそ学級裁判での手前どもの勝利に貢献してくれていますが、狭山さんのご遺体を溶かしてしまったことはさすがに常軌を逸しています」
「
「と言いますと」
「むっふっふ……
「……彼が自分の“才能”を偽っていると?」
まさか、素直にそう思った。
「根拠がおありで?」
「根拠なんかなくたって意見を持つのは自由アル!強いて言えば、今まで培ってきたワタシの経験と直観ネ!」
「はあ。ですが、きっかけくらいあるのでは?」
「う〜ん、ワタシは密偵とかよく知らないからなんとなくのことしか言えないアル。でも、
「長島さんの運動神経はかなりのものですから、それより機敏に動けと言うのは酷かと」
「どっちにしても、
手前はいったい何を聞かされているのでしょう。驚きの内容だったので大人しく聞いていましたが、よく考えたらいきなり部屋に押しかけられた上でこんな話をされて、ゴールがどこにあるかも分からない。長島さんは、手前に何をさせたいのだろう。
「だとすれば、実際の彼の“才能”は……?それに、なぜ本当の“才能”を隠す必要が?」
「そんなもんワタシの知ったこっちゃねーアル。隠し事をしてるってのが問題だから、実際のところはどーでもヨロシ」
「やっぱり」
「どうアル?だんだん
「まあ……他の方と比べれば」
「こんなままじゃ結局ワタシたちはモノクマと戦うどころの話じゃねーアル!だから、少なくともまずは
なんだかとてもよくない流れのような気がする。
「だから
「そうなのですか?あまりイメージがありませんが」
「この前、後ろから
「それは長島さんが悪いと思います。手前でも逃げます」
「乙女のちょっとしたイタズラ心くらい大目に見て欲しいネ」
乙女というより子供のようなイタズラ心ですが……ですが確かに、長島さんのシビアな物の考え方は尾田君にとっては警戒の対象になり得るでしょう。モノクマという共通の敵がいるうちはまだしも、長島さんも尾田君も、自分が生き残るためなら他者を利用することに躊躇いを持たないタイプの方ですから。
今まさに、手前は彼女に利用されようとしているところですし。要するに、危険な尾田君に近づくリスクを自分で負いたくないから、モノクマを仮想敵として自分に協力させようということですね。敢えてそれを指摘しても今この場では詮なきことです。
「まあ、お話は分かりました。手前に尾田君を攻略することができるかは分かりませんが、可能なことはしようと思います」
「よろしく頼むヨ。上手にできたらお礼してあげるアル」
「お礼?」
「萌ちゃん特製肉まんをご馳走したげるヨ!変なものは入れないから安心して食べてネ!」
そういうことを言われると余計に心配になるのですが。
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