ダンガンロンパメサイア   作:じゃん@論破

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終幕は安息にてただ静かに眠れ

 「君は入学しなさい」

 

 僕の顔をじっと見て、そいつは言った。答えを聞くより先に手元の書類に目を落とし、決定の判を捺す。そんな紙切れ一枚で、すべて自分の思い通りになると思ってるんなら、滑稽だ。

 

 

──入学通知書──

 

月浦(ツキウラ) ちぐ 様

 

 あなたを 超高校級のプロデューサー として

希望ヶ峰学園への入学が決定したことを

お知らせ致します。         

                    8月吉日

          学校法人 希望ヶ峰学園学園長

 

 

 「希望ヶ峰学園のカリキュラムをこなせば、君はプロデューサーとして更に成長して戻ってくる。そうすれば、将来性のあるタレントやこの業界の重鎮を担当してもらうことになるだろう。まさに、希望に満ちた未来が待っているというわけだ」

 

 このタヌキ親父は、そんな薄っぺらい言葉で僕が納得するとでも思っているのだろうか。いつから僕がこいつに雇われていると、いつまで僕が従順な社員であると錯覚しているんだ。僕はこの会社で()()()()()()()だけだ。たまたま働く場所がこいつの下だっただけだ。信頼関係のひとつも築こうとせず、都合良く扱える歯車とでも思っているのか。とんだ間抜けだ。

 

 「はぐはどうするんですか」

 「彼女の“才能”は既に業界全体が認めている。希望ヶ峰学園は素晴らしい場所だが、彼女のいるべき場所ではない。そうした選択も、人生では大事なことだ」

 「……はぁ、そうですか」

 

 くだらない。そんな美辞麗句は、相手を選んで出すものだ。建前なんか僕は聞いちゃいない。自然に出てきたため息をきっかけに、僕は胸ポケットの膨らみを掴み、目の前に叩きつけた。

 

 「ん?なにかねこれは」

 「退所届です。僕と、はぐの」

 「……はあ?」

 

 意味がわからない、という顔だ。やっぱり、こうなることなんか夢にも思ってなかったわけだ。浅い。こんなやつにはぐを任せておけるわけがない。いや、そもそも僕以外にはぐを任せることなんてあり得ない。

 

 「あんたの目的は二つだ。一つは、希望ヶ峰学園から入学者を送り出した団体に支払われる補填金。それはいい。あんたが金にがめついことは最初から知ってる。もう一つ、僕とはぐを引き離すことだ。はぐに今よりもっと稼がせるためには、僕が邪魔だから。だけどそんなこと絶対に許さない。それはぐのためにならない。はぐはそんなに安くない。はぐがする仕事の選択は僕がする。だから、もうはぐにこの事務所は必要ない」

 「な、な、何を馬鹿なことを……!陽面君の意見もきかずに決められるか!」

 「だったら直接聞いてみろ。人を働かせてるのか働いてもらってるのかの違いも分からないなら、な」

 「つ、月浦ァ……!俺にそんな態度をとって、陽面がこの世界で生きていけると思ってんのか!」

 

 もう付き合いきれない。こいつが今まで現場でデカい顔をできたのは、はぐという強力なカードを持っていたからだ。こんな弱小事務所の社長がいくら喚いたところで、この世界にさざ波一つ立てられやしない。

 

 「はぐは僕が守る。命に代えても」

 

 

───月浦ちぐは、陽面はぐを守るために入学した───

 


 

 はぐが部屋に入ったとき、社長さんは椅子にどっかり座ってた。座ってたっていうより、高いところから椅子の上に落ちてきたみたい。いつもはビシッと決まってる髪もなんだかボサボサだし、汗もかいてる。

 

 「社長さん?大丈夫?」

 「……陽面」

 

 ぼんやりはぐのことを見つめるその目は、いつもの自信たっぷりな社長さんらしくない、初めて見る目だった。そして、はぐを呼んで、質問した。

 

 「君の気持ちを聞かせてくれ」

 「はい?」

 「月浦がいなくなる代わりに、君が芸能界で今まで以上に活躍し歌手や女優業もこなして一大スターになることと、月浦と一緒にいられるが、今後一切仕事がなくなること。もしそうなったら、君はどちらを選ぶのかね」

 「ちぐと一緒にいる方がいいですねー」

 「……」

 

 おかしなこと聞くなー、社長さんは。そんなの決まってるじゃん。ちぐと一緒じゃないと、はぐは何にもできないんだもん。ちぐくらい、はぐのことを考えてくれる人なんて他にいないし。もし今のお仕事ができなくなったとしても、ちぐと一緒なら、きっとなんとかなる、よね。

 

 「君は本当に、裏表のない人間なんだな……。羨ましいよ」

 「はぐにとっては社長さんだって羨ましいですよ?局のお偉いさんとか業界の大御所さんとお友達なんですもんねー」

 「……ついでに屈託もないな」

 

 

──入学通知書──

 

陽面(ヒオモテ) はぐ 様

 

 あなたを 超高校級のマスコット として

希望ヶ峰学園への入学が決定したことを

お知らせ致します。         

                    8月吉日

          学校法人 希望ヶ峰学園学園長

 

 

 「あ、そーだ。社長。寂しいですけど、今日でさよならです。今までありがとうございました!それじゃ!」

 「ひ、陽面君……!もう一度考え直してくれないか……?今度は……!」

 「ごめんなさ〜い。ちぐが待ってるから、もう行かなきゃ。社長さんお元気で!風邪引かないでね〜!」

 

 社長さんは、最後に何か言いたかったみたい。だけどちぐから、耳を貸しちゃいけないって言われてるし。何を言われてもちぐと一緒じゃないと、はぐはイヤだ。それに、もうこの事務所はいらないらしい。はぐは、希望ヶ峰学園っていうところでもっともっと色んな人と関わって、たくさんお勉強して、ちぐと一緒に幸せになるんだっ。

 

 「ち〜ぐっ♬終わったよ〜」

 「おかえり、はぐ。社長はなんて?」

 「ちぐと離ればなれになるのと一緒にいるの、どっちがいいかって。なんでそんなこと聞いたんだろうね?」

 「さあね。オジサンの考えることは分からないよ」

 「あーあ。なんかおなか減った。ちぐ、今はぐが食べたいもの分かる?」

 「カスタードの鯛焼きだろ」

 「どっひゃー!?なんでいつも分かるのー!?」

 「はぐのことはなんでも分かるよ。当たり前じゃないか」

 「えへへっ♬じゃ、食べに行こっか!」

 「一個だけだよ」

 「はーい!」

 

 希望ヶ峰学園から届いた入学通知を大事に抱えて、はぐとちぐは事務所を出た。これからは、新しい生活が待ってるんだ!新しい学園、新しい世界、新しい友達!それに学校でもちぐと一緒!えへへっ、楽しみだなあ!

 

 

───陽面はぐは、月浦ちぐと一緒にいるために入学した───

 


 

──入学通知書──

 

理刈 法子(リカル ホウコ) 様

 

 あなたを 超高校級の法律家 として

希望ヶ峰学園への入学が決定したことを

お知らせ致します。         

                    8月吉日

          学校法人 希望ヶ峰学園学園長

 

 

 「おめでとう。我が校の代表として、栄えある希望ヶ峰学園の生徒として、今後益々のご活躍を期待しています」

 「ありがとうございます」

 

 練習どおりの校長の言葉。練習どおりの所作に、練習どおりの演奏。私は希望ヶ峰学園からの入学通知を粛々と受け取ると、そのままホールから退場した。

 厳粛な雰囲気で行われた式の後、私は教室でナガオカさんに感謝されていた。私にとってはもう過ぎた話だけど、彼女にとってはきっと、これからもずっと抱え続ける問題なんだろう。私はただ、その感謝の言葉を受け入れていた。

 

 「理刈さん、本当におめでとう。私、理刈さんならきっと希望ヶ峰学園に行けるって思ってたよ」

 「大袈裟よ……“超高校級”って言ったって、まだまだただの高校生なんだから」

 「それでも、人類の希望として認められたってことでしょ。なんだか、関係ないのに私まで嬉しくなるね」

 「私も、そう思ってくれるのは嬉しい」

 「あのとき理刈さんが私に声をかけてくれて、助けてくれたこと、本当に嬉しかった。理刈さんがいなかったら、私……どうなってたか分からないよ」

 

 私とナガオカさんはただのクラスメイトだった。それ以上でもそれ以下でもない、ありふれた関係だった。だけど彼女がストーカー被害に悩まされてるっていう話を聞いて、何か手助けができないかって声をかけた。それが、私とナガオカさんが初めてまともに交わした会話だった。

 

 「理刈さんが色々アドバイスしてくれたり手伝ってくれたりしたおかげで解決したんだよ」

 「ナガオカさんが勇気を持って、毅然と対応したからよ。私は大したことしてないわ」

 「でも裁判のとき、弁護士さんより喋ってたよね?」

 「……それは忘れてちょうだい」

 

 傍聴席以外で法廷に入るのが初めてだったから、つい興奮しちゃって喋りすぎただけなのに……。法廷画家が面白がって私の絵ばっかり描くものだから、すっかり私はちょっとした有名人になってしまった。そんなつもりじゃなかったのに。被害者のナガオカさんの顔まで広まらなかったのが唯一の救いだわ。

 

 「遠いところに転校しちゃうけど、また困ったことがあったらいつでも連絡してちょうだいね。私にできることはなんでもするつもりよ」

 「理刈さんこそ、希望ヶ峰学園で友達作れるように頑張ってね。私調べたんだけど、“超高校級”の人たちってなんかちょっとアレな人が多いみたいだから、理刈さん生真面目だし、ケンカしちゃダメだよ?」

 「しないわよ……」

 「あははっ!」

 

 屈託なく笑うナガオカさんは、あの頃とはすっかり変わった。ナガオカさんの笑顔を見ていると、まだ未熟で非力な私でも悩んでる人を救うことができるって実感できる。ナガオカさんは私に助けられたって言ってるけど、私だってナガオカさんに励まされてる。ナガオカさんはそれに気付いてないみたいだけれど。

 

 「それじゃあまたね、理刈さん。立派な……弁護士?検察?裁判官かな?」

 「まあ決め切れてないわ。法曹って言っておけば間違いないわよ」

 「じゃあ改めて……立派な法曹になって戻って来てね!」

 「ええ。ありがとう、ナガオカさん」

 

 

───理刈法子は、最高の環境で成長するため入学した───

 


 

 「〽ぁさけがのめ〜るさけがのめ〜るさけがのめぇ〜るぞぉ〜〜っと♬へへへっ……」

 

 墨汁みてぇに真っ暗になった空の真ん中に、まんまるお月さんがひとつ。夏も終わりだってのにまだ暑い。うちからかっぱらってきた徳利を傾けて、月見酒を一献……!

 

 「おい王村ァ!!屋上で酒飲むなって何回言わせんだテメェは!!」

 

 ひとりで静かに酒を飲みてぇのに、すぐに見つかっちまった。先生はすごい勢いでおいらから酒を取り上げて耳を引っ張りやがる。

 

 「いででいでぇっておい、先生よぉ。わあったわあった悪うござんしたよぅ」

 「よーし、今日はこのまま校長室だ」

 「は?なんだい、いよいよ酒の飲み過ぎで退学かい?」

 「ああそうだな。この学校からは出て行ってもらう」

 

 なんだそりゃぁ。せっかくの酔いが醒めちまうじゃねぇか。そりゃ高校で酒を飲むのは悪いたぁ思うけど、おいらぁ酒蔵の倅だぜ?ちょっとくらいいいじゃねぇか。

 これからは酒造りだけじゃなく色んなことも知らなきゃいけねぇってテメェから親父に無理言って定時制の高校に入れてもらっといて退学なんて、さすがにシャレにならねぇ。死ぬまで蔵に閉じ込められて道行くカップルに泣きながら叫ぶ余生なんておいらぁ嫌だぜ。

 とはいえ、おいらじゃぁ先生を振り切ることもできねぇし、耳も痛ぇし、ここは大人しく校長室に行っておこう。

 

 「校長、失礼します」

 

 先生は短く言って校長室のドアを開けた。この部屋には初めて入る。応接家具と校旗、絵とトロフィーが飾られた棚、校長先生の机があるくらいだ。酒は……ねぇか。

 

 「王村君はそこに座りなさい」

 「はぁ……校長先生、おいらぁクビですか?」

 「クビ?とんでもない。これぞまさに栄転だよ」

 「えいてん?」

 

 さすが校長先生は難しい言葉を使うなぁ。頭ン中でひらがなのまんまその言葉がぐるぐる回る。けどそんな言葉は、校長先生が差し出した手紙を読んだら忘れちまった。

 

 

──入学通知書──

 

王村 伊蔵(キミムラ イゾウ) 様

 

 あなたを 超高校級の蔵人 として

希望ヶ峰学園への入学が決定したことを

お知らせ致します。         

                    8月吉日

          学校法人 希望ヶ峰学園学園長

 

 

 「なんだいこりゃ?」

 「希望ヶ峰学園への入学通知だ。あの希望ヶ峰学園が、君を欲しがっているんだよ」

 「へぇ。そんなところがあんのかぃ。ん?入学通知?おいらぁそこ行くんか?」

 「ああそうだ。入学手続きは既に進めている。君には希望ヶ峰学園に転入してもらう。勝手に決めてしまって申し訳ないね」

 「ふぅ〜ん……校長先生。ひとつだけ、いいか?」

 「なにかね?」

 「これってすげぇことだよな?めでてぇことだよな?」

 「ああ、そうだね」

 「ってことは……お祝いしなきゃだなぁ」

 

 つまり……!

 

 「祝い酒飲まねぇとだなぁ!!へへへっ、酒だ酒ぇ!」

 「おい!」

 「まあいいじゃないか、今日くらい。王村君、私もいいかね?」

 「おっ!校長もイケるねぇ!先生もどうだい?」

 「……一杯だけだぞ」

 

 〽ぁさけがのめ〜るさけがのめ〜るさけがのめ〜るぞぉ〜〜〜ぃ

  ぁさけがのめるのめるぞ〜〜ぉさけがのめ〜るぞぉ〜〜〜〜♬っと!へっへっへ!

 

 

───王村伊蔵は、酒の勢いで入学した───

 


 

 暗い部屋。転がる空のペットボトル。脱ぎ捨てた服。黒い影。パソコンの光。破けた封筒。手紙。

 

 「おかしいですねえ」

 

 自分を見下ろす影に向かって言った。影は微動だにせずその場に立ち続け、次の自分の言葉を待っているようでした。それとも何も考えていないのでしょうか。

 

 「希望ヶ峰学園と言えど、どうして僕のことをここまで調べられるんです?」

 「さて……私はスカウトマンですので、そこまでは」

 「まあ、いいです。母さんにバレていないなら。それに、どうやらただの敵というわけでもないようですし」

 「もちろんです。私たちは、君の“才能”を評価しています」

 

 淡白に応じているように見えて、緊張しているのがビシバシ伝わってきます。僕のようなヒョロガリの何をそんなに怯えているのやら。分かっていませんね。少なくとも今、この状況で僕はこのスカウトマンとやらの言う事を聞くしかない。有利なのは向こうだ。それなのに、まるでこちらが優位に立っているような雰囲気だ。まあ、そうなるように仕向けたのは僕なんですが。

 

 「希望ヶ峰学園に行くこと自体は構いません。どうせ今の学校にももう何ヶ月も行ってないですし」

 「では入学ということで、よろしいですね」

 「ただ、条件があります」

 

 本来なら、僕は条件を出せるような立場ではありません。ただでさえ希望ヶ峰学園は特別な権力を与えられた学園です。ただの高校生が偉そうに交渉できる団体ではないのですが、どうもこのスカウトマン相手なら、それくらいの駆け引きはできそうです。

 僕はその辺にあったボールペンで、入学通知に朱書きを加えた。

 

 

──入学通知書──

 

尾田 劉平(オダ リュウヘイ) 様

 

 あなたを 超高校級の■■ として

希望ヶ峰学園への入学が決定したことを

お知らせ致します。         

                    8月吉日

          学校法人 希望ヶ峰学園学園長

 

 

 「こうしてください。僕の言ってること、分かります?」

 「……“才能”を秘匿したいと申し出る生徒は前例があります。事情も理解していますし、こちらとしても当然承諾するつもりです。」

 「あの、バカですかあなた?」

 

 つい言ってしまった。高圧的になれる立場でもないし、そんなつもりもなかったのに、あまりに考えが浅いことを言われてしまったので。

 

 「希望ヶ峰学園に入学する以上、“才能”があるのは最低条件なのでしょう?それで“才能”を秘匿?“超高校級の???”とでもするつもりですか?そんなもの、何か裏がありますよって言ってるようなものでしょう。違う“才能”を偽らせろと言ってるんです」

 「違う“才能”ですか……たとえば?」

 「そうですね。僕の能力で違和感のないものなら……密偵、とかですかね」

 「……では、“超高校級の密偵”として入学が可能か、確認してみます」

 「もちろん母にも秘密です。僕はあくまで“密偵”として、自らの意思で揚々と希望ヶ峰学園に赴いた。いいですね」

 

 希望ヶ峰学園がどうして僕の素性を知っていたのか、それは今後調べる必要がありますね。確かに僕はその“才能”で呼ばれて然るべきことをしていますが、それは絶対に公になってはいけない秘密です。僕をスカウトしている以上、希望ヶ峰学園とはある種共犯者のような関係になりますが……共犯者は得てして裏切られるものです。どうやって僕のことを調べたのかを突き止め、然るべき処置をしなければいけませんね。僕と母さんの、平穏な生活のために……。

 

 

───尾田劉平は、秘密を知った者を始末するため入学した───

 


 

 画面の前にいた。たくさんの数字や文字が飛び交い、グラフは常に動き続け、ウインドウが開いては閉じられていく。何がどう変化しているのか、事態は好転しているのか悪化しているのか、そもそも進んでいるのか停滞しているのか、何一つ分からない。

 

 「正気を疑いますね。なぜそこまでしようと思うんですか?」

 

 正気でないのはお互い様だ。彼らがここまで希望にこだわる理由も、つい先日までここを支配していたもう一方の彼らの思想も、自分にとっては到底理解し難い。だから自分の想いも理解してもらうつもりなどない。ただ、互いにできることを尽くすだけだ。全ては、彼らのために。

 

 「俺は猛烈に感動してるぞ!!そんな若ぇ身空でこんな突入作戦に参加して生き残ったうえ、しかもさらにあいつらを助けに行くだなんてよ!!できることなら代わってやりてえ!!けどそれは違えんだよな!お前だからこそ!意味があるんだもんな!立派だぜ!!」

 「うるさいです」

 

 赤郷さんは相変わらず暑苦しく叫ぶ。この行動が立派だなんて思わない。青宮さんの言うとおり、正気を疑われる行為だ。でも、それでも、そこまでしてでも、こんなコロシアイは止めなければいけない。たとえどんな手を使っても、何を犠牲にしても、どれだけかかろうとも。絶対に。

 

 「準備は既にできています。自分のタイミングでいいですよ。いつでも言ってください。ただし、今から2時間後には問答無用でブチ込みますので、悪しからず」

 

 自分のタイミングとは。

 

 「それと、君が注文してきやがったファッキンプログラムですが、まだ未完成です。俺も全力を尽くしますが、そう簡単にできるとは思わないでください。そもそもこんなファッキンプログラムが必要になるような状況にならないようにしてください」

 

 当然だ。でも、何が起きるか分からない。コロシアイとはそういうものだ。だからこそ、()()はしっかりかけておくべきだ。何が起きるか分からないのだから、何が起きても対処できるよう、入念な準備をしなければ。

 覚悟はもうできている。後は全てここの人たちに任せて、自分は早く彼らを助けに行こう。そして最後に、赤郷さんと青宮さんに、感謝を伝える。たとえ、この狂った世界に生きる狂った人間だとしても、彼らがいなければここまで来られなかった。

 

 「なんだよ、ヘンなやつだな!感謝すんのはこっちだぜ!俺は“尖兵”!誰かの為に道を切り拓くのが俺の役割だ!お前がいてくれたから、ここでこうしてんだ!」

 「感謝とかはいいです。結局、君に重荷を背負わせることになってしまいました。まあ、俺もやれるだけのことはやりました。君もやれるだけのことをやってくれやがることを期待しています」

 

 感謝の倍返しに、ぶっきらぼうな激励。それぞれ、それぞれらしい。思い残したことはたくさんある。だけど、いま自分の目の前にあるものを見過ごして後悔しながら何年も生きていくより、よっぽどいい。少なくとも、意味のなかった自分の人生に、ひとつ確かな意味を見出せる。それだけの価値が、そこにはあった。

 

 「ありがとうございました。さようなら」

 

 最期の言葉は、思うより軽やかに飛び出した。




登場人物の紹介を兼ねたバックグラウンドの描写は今回で最後です。次回は総勢20名の登場人物たちが一堂に会します。その先を書いている途中ですが、さすがにこれだけ多いと全員集合場面ではいっそ開き直って発言が偏りますね。現実も得てしてそんな感じなんでまあいいでしょう。
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